~ヘイムダル中央駅~
「えっ………」
駅で別れて歩き出すリィン達<Ⅶ組>の面々……聞き覚えのある声と、遠ざかっていく赤い制服の姿を見て、その姿を探すが、目当てとしていた人物は見つからなかった……清楚な聖アストライア女学院の制服に身を包んだ少女―――ソフィアは少し残念そうな表情を浮かべていた。そこに姿を見せたのは同じ女学院の制服を身に包んだ金色の長い髪を靡かせる少女であった。
「あら……どうしたの、ソフィア?誰か探していたのかしら?もしかして、貴方のお兄さん―――リィンさんかしら?」
「いえ……聞き覚えのある声がしたのと、知り合いに似た人がいたので気になっただけです。朝早くにこんな場所にいるわけはないと思うので、見間違いだと思いますけれど。」
「ふ~ん……否定はしないのね。貴方のお兄さんがカッコいいってことは。まぁ、確かにそれは認めるけれど。」
「も、もう……知りません。まったく、姫様は……(お姉様もよく耐えられましたね……)」
悪戯っぽい笑みを浮かべる少女に対し、頬を赤らめながらもブツブツ言いながら答えるソフィア。これにはバツが悪そうに笑みを浮かべ、少女が手を合わせた。
「ごめんなさい。お詫びに、貴方とエリゼに今度マリアージュ・クロスの新作をプレゼントしちゃうから。」
「って、大人向けの下着じゃないですか!そんなものをプレゼントされたら、お姉様に何と申し開きしていいか解らなくなるじゃないですか!!」
「こらこら、アルフィン。ソフィアをあまりからかってはいけませんよ。」
「あら、エルウィン。」
15歳と言えば子供から大人への転換期とはいえ、流石に気が早すぎるというか、そんなものをプレゼントされて一体何をしろとでも言うのか本当に困る、とでも言いたげなソフィアの反論を聞いたかのように現れたのは、長い金色のストレート質の髪先をリボンで束ねている少女。その顔の容姿はアルフィンと瓜二つであるが、スタイルはアルフィンと呼ばれた少女よりも幾分か上の風貌を持っている少女―――エルウィンが姿を見せた。
「それよりも、もっと良いものがあるではありませんか。ほら、“アレ”ですよ。」
「……ああ、“アレ”ですか。それは盲点でしたわね。流石、私の姉ですわ。」
「“アレ”というのは……」
「フフ………貴方の姉と私がアイデアを出して考えた“殿方(とある方)悩殺用ランジェリー”ですよ♪」
「どっちにしたって同じじゃないですか!!(と言いますか、お姉様も何やってるんですか!?)」
解りやすく言えば、アルフィンが火種に油を注ぎ、エルウィンがそれを更に煽って焚き付け、ソフィアを弄り倒すスタイル……というか、エリゼとエルウィンがそこまでの知己になっていることは想定の範囲内であったが、そんなことまでやっているということはさしものソフィアですら想定外であった。その光景に笑みを零す女性―――クレア大尉の姿であった。
「ふふっ……」
「あ……」
「ごめんなさい、呆れさせてしまったかしら?」
「いえいえ……間もなく離宮行きの特別列車が参ります。今日一日御供をさせていただくので、宜しくお願い致します。」
「こちらこそ。」
「よろしくお願いいたします。」
そう……ここにいるのは、皇位継承権第二位にして現皇帝の長女エルウィン・ライゼ・アルノール、次女のアルフィン・ライゼ・アルノール、そしてシュバルツァー公爵家の次女であるソフィア・シュバルツァーの三人だ。
「ところで、クレアさんには気になる殿方とかいらっしゃらないのでしょうか?そういう浮いた話は聞いたことがありませんので……」
「え?わ、私ですか?その、今は勤務中ですので……」
「そういえば、この前シルフィアさんからお聞きになったのですが、“とある男性”に対して気になるようなそぶりがあったと……確か、アスb」
「で、殿下!!」
「あはは………(すみません、クレア大尉……私にはどうすることも出来ません)」
この後、アルフィンの話を聞いたエルウィンに弄られる羽目となったクレアに対し、ソフィアはただ見守ることしかできなかったようで……終いには、
『女性たるもの、外側も内側もお洒落に磨きをかけていただかなければ、皇族の傍に身を置かれる者として示しがつきませんよ?ということで……サイズ、計っちゃいましょう。アルフィン、手伝って。』
『解りましたわ、エルウィン。』
『ちょ、ちょっと、お二方!お気を確かに……って、きゃあっ!!』
『………すみません。』
無理矢理理由をこじつけて、意中の殿方を悩殺するためのオーダーメイドの下着を作るための採寸を半ば強引にされる羽目となったクレア大尉であった。その話を人伝に聞いたレクターは爆笑し、オズボーンも静かに笑みを零したという。
~ノルティア本線 旅客列車~
線路を走る黒を基調とした列車―――ノルティア本線専用の旅客列車。A班の面々はその列車に乗っていた。その席順はというと、6(ユーシス、リィン、ガイウス リーゼロッテ、エマ、ステラ)と通路を挟んで2(アスベル、アリサ)という配分になった。そして、今回の実習地の事をそこの出身であるガイウスが説明することとなった。
「さて、今回の実習地―――“ノルド高原”について説明しよう。“ノルド高原”はエレボニアの北東方面に広がる高原地帯だ。ルーレ市の北部にあるアイゼンガルド連峰を越えた先にある。」
「結構大きな山脈だから、列車だと幾つものトンネルを抜けることになりそうね。」
「ああ。ここにくるまでに何度も通ったからな。」
アイゼンガルド連峰は山脈というよりは大山岳地帯と言っても差し支えない一帯。その麓にも位置する“ザクセン鉄鉱山”から産出される膨大な量の鉄鉱石はその山脈の恩恵を受けていると言っても過言ではない。その埋蔵量は判明している分だけでも“数百年”という試算が出ているほどだ。資源面で恩恵が大きいということはその分のデメリット―――交通面での大きな障害となる。現実、山岳地帯を抜けるとなれば大きく迂回するかトンネルを使って最短距離を抜けるようにするしかない。
「そこを越えると、一転して遥かなる北の山々に囲まれた広大な高地が広がっている。帝国軍の拠点を除けば住んでいるのは俺の実家である『ノルドの民』の集落のみ。人よりも羊の方が多いぐらいだ。」
「それと、馬の数も多かったな。まぁ、ノルドの馬は帝国にしてみればなじみが深いみたいだけれど。」
「ああ。すぐれた体躯と持久力……それと、主人に従順で賢いものが多い。その質の高さはエレボニアの“黄金の軍馬”のモチーフにもなったと言われているほどだな。」
人よりも飼っている動物の方が多い……遊牧民的な生活を送っている。軍事大国とも言われるエレボニアの隣とはとても思えないほどの場所であるのは確かだ。それと、ノルド高原では帝国人向けの馬の生産もそこで暮らす人の生業としている。とりわけノルド産の馬はそれなりに良い値段がつくことが多いそうだ。現在では貴族が狩りの際に駆る程度や、導力車では入り込めない場所への移動手段として使われるぐらい。あと、士官学院の馬術部の馬が全てノルド産の馬であるのは、創立の祖であるドライケルス帝所以なのだろう。
「あ、そういえばアスベルは行ったことがあるのよね。」
「話を聞く限りは絵本のような場所ですが……実際には、どのような場所なんですか?」
「実際に行くわけだから、それは自分の目で確かめるといいだろうな。いかに自分が“小さい”のかを実感させられる場所とも言える。俺の剣の師匠や、父さんと良く足を運んでいたからな。」
広大な自然……雄大なる大地……そこに立つことで、自分の立ち位置を見極められる。ルドガーも、士官学院に入るまではこの地に住居を構えていたので、そういった場所に敢えて身を置くことで自らの大きさを見つめなおし続け、強さを磨き続けてきたのだろう。
「折角だから、時間があれば修行でもするか?師父特製のスペシャルメニューは豊富に取り揃えてあるから。」
「あはは……機会があれば、お願いするよ。」
「フッ……そういうところを渡り歩いたからこそ、先日見せたような強さを得たということか。他の“剣聖”と呼ばれる人間も、お前のように強いのだろうな。」
「流石、アスベルといったところか。」
「二年前もそうだったけれど、流石だよね。」
「一体、どこまで強くなる気なんだか……」
「はは………正直、私達が追い付けるかどうか……」
「無理そうな気もしますけれど……」
無理じゃないと思う。ある意味命スレスレの経験をすれば、嫌でも戦闘経験は積まれていく。かの“四人組”……というか、現在はメンバーが増えているがクロスベルにいる彼等も、ひいてはリベールにいるであろうあの三人も、そう言った経験があってこそ、今の強さを手にしたのだ。
というか、“あの皇子”の考えからすると、とび抜けた強さを持っているアスベルとルドガーのレベルに追い付けるように他のⅦ組の面々も頑張ってもらう必要がある。最低でも人の身で“あの兵器”を破壊できるぐらいにはなってもらわなければならない。“騎神”相手となると……最低でも“アスベルの父親”か“ラウラの父親”レベルの話になってしまうが。いや、最低でそこまで必要か?……まぁ、それはこの際置いておく。
「高原の南端には帝国軍の拠点である『ゼンダー門』がある。今回の旅で、列車で行けるのはそこまでになるな。」
「到着予定は今日の午後4時だから……移動で一日が潰れるということか。」
「今は8時過ぎだから……この分だと、ルーレには昼頃に着いて、そこから貨物列車で4時間ぐらいになるわね。」
「やれやれ、思った以上の長旅だな。」
「まぁ、のんびりいきましょうか。……って、リーゼロッテちゃんとステラさんは気が付けば眠ってますね。」
「って、アスベルもちゃっかり眠ってるし。」
「今回は長旅になるからな。それぐらいは大目に見るとしよう。」
今日は移動だけということで気が抜けたのか、三人はその列車の終着駅であるルーレ駅に到着するまでぐっすりと眠っていた。
というわけで、登場しました。アルフィン+オリビエに何かを足したような性格です。何かって?……私が知りたい(何
彼女とエリゼが考えた代物は、既に活用済。誰がって?……そりゃ、発案者の片割れが。
マリアージュ・クロスネタから発展させた結果がコレです。相手が皇族故に強く出れないのはご愛嬌です。エレボニア帝国の未来は明るい(意味深)
ここでの意味は次の章の時に解ります……直接的な表現はしませんけれど(遠い目)
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第50話 規格外という意味