張讓「どうだ、奴らは捕らえたか」
趙忠「抜かりはない。彼奴らめ我らの批判状を帝に送りおって」
夏惲「まったくです。これが帝の手に渡っていたと思うと寒気がしますよ」
郭勝「しかし、これで長年邪魔だった清流派を一掃できるのですから、悪いことでもありますまい」
段珪「さよう、これを利用して我らを脅かす曹嵩も排除できるのですからなあ」
趙中が握り潰している手紙は清流派が密かに帝に送った手紙だった。その手紙には十常侍の専横、民は餓えに苦しみ怨嗟の声が日に日に高まっていると書かれていた。これが帝の手に渡れば自分達は責任を取らされるところだったが、十常侍の1人である趙中がその手紙の奪取に成功した為、清流派と長年目障りだった曹家を潰す口実が出来たと十常侍達は内心喜んでいた。
栗嵩「しかし、曹嵩には麒麟児と呼ばれている息子がいますので、注意が必要かと」
畢嵐「な~にいかに麒麟児といえど所詮は子供、兵を差し向け殺せばいい話ですぞ」
孫璋「そういえば曹嵩にも護衛の兵がついてるおるな、曹嵩を捕らえるにはまず周りの蟻を踏み潰しましょう」
高望「200の兵をすでに曹嵩に、500を曹仁とやらに送らせておる。首が届くのも時間の問題だ」
張恭「500は多くはないか?所詮は子供であろう」
張讓「用心に越したことはないわい、曹嵩と曹仁さえいなくなれば、ワシらにたてつくものはいなくなるだろう。そち達もぬかるなよ」
趙忠「帝の勅命もすでに我らの手にある。逆らったところで待つのは死だけじゃ」
張讓「後は帝のご機嫌伺いでもやって時間を潰すとするかの」
十常侍「漢帝国は我らのために!」
十常侍達の暗躍の影には帝からわが父とまで言われる張譲の存在が大きい。
大陸を初めて統一した秦の癌とも言われた大宦官・趙高のように帝から絶大な信服を寄せられている為に、自分達を諌める者、従わぬ者、気に喰わぬ者を次々闇に葬っている。そしてとうとうその矛先は目の上のコブである曹家に向けて放たれた。
間者「曹仁様、十常侍が動き出し、この屋敷に宋典がおよそ500の兵を差し向けました。我々で兵達を撹乱させますので、早めに逃げてください」
一刀「とうとうか……わかった。くれぐれもこんなところで死ぬなよ」
間者「御意」
一刀「親衛隊すぐに動け!一刻の猶予もない、前より打ち合わせしていた通りに素早く行動せよ!」
親衛隊『ははぁ!』
張譲らによる曹家襲撃の報はすぐさま密偵によって一刀の下へもたらされ、間者は敵兵の霍乱、親衛隊はかねてより指示されていた通りに動きと指示を飛ばす。
そんな慌しい空気を感じ取ったのか、華琳が事情を聞きに一刀の下までやってきた
華琳「兄さん!屋敷の兵が全員行動してますが、この状況はどうしたんですか!?」
春蘭「華琳様~歩くの速いですよ~」
秋蘭「姉者少し黙っていてくれ、それで一刀様これはどういうことですか」
美羽「かずにぃさまどうしたのじゃ?慌しくて勉強に集中できないぞ……何かあったのかえ」
騒ぎの原因を聞きだそうとしている華琳から少し遅れて春蘭・秋蘭・美羽も姿を現す。
いつも通り能天気な春蘭を除いて、秋蘭と美羽も事の大きさに薄々感づいたのか、その表情は険しかった。
そんな4人に向けて、一刀は苦渋の決断を下す
一刀「みんな揃ったか。いいか!時間が無いから一度しか言わないよく聞け!華琳・春蘭・秋蘭は陳留に、美羽は南陽にすぐに逃げよ!親衛隊が逃げる準備を済ましているはずだ、それに従いすぐにいけ!」
春蘭「逃げろとはどういうことですか一刀様!」
秋蘭「どうしたのですか!一刀様!」
一刀「華琳!美羽!十常侍が動いた・・・これであとはわかるな?」
いきなり逃げろと告げられて夏侯姉妹は困惑する。それと対照的に、一刀が言い放った十常侍という言葉を聞いてことの経緯を察した
華琳「まさか・・・」
美羽「権力拡大に邪魔な曹家、かずにぃ様と曹嵩かーさまを殺すつもりかえ・・・?」
一刀「その通りだ、勉強の成果がでてるな美羽!偉いぞ」
今までわがままなだけだった美羽に勉強の成果が出ている事が知れて、緊迫した場面なのに思わずほっこりしてしまう。そんな一刀は華琳の一言で正気に戻る
華琳「そんなことより兄さんはどうするの!?私達と逃げるんじゃ・・・ない・・の?」
一刀「俺はここに残り宋典率いる500の兵を迎え撃つ、その間に華琳達は逃げるんだ」
華琳「ダメよ兄さん!そんなことさせないわ!そんなことするなら私もここに残る!」
普段は一刀の言う事は絶対で、どんな事も素直に聞く華琳だが、今回はどうしても一刀と一緒に逃げる、一緒に逃げないなら自分もここに残ると言って聞かない。
一方の一刀も普段は華琳の頼みはどんな事で聞き入れてしまうのだが、今回ばかりは華琳の願いは聞き入れられない。お互い主張を譲らないが、時間は待ってくれない
一刀「だめだ!華琳になにかあればそれこそ曹家は終ってしまう!奴らの狙いは母上と名声が高まった俺だけだ!華琳は十常侍どもに狙われないようにしておいたから、はやく『いやよ!』にげ・・・華琳?」
一刀が喋っている途中で華琳が言葉を遮る。遮った華琳の目にからは涙が溢れていた
華琳「いやよ・・・母さんと兄さんを無くしたら・・・私はどうやって生きていけばいいの!?兄さんがいなかったら私は・・・それに抱きしめてくれる約束がまだしてもらってないわよ!」
春蘭・秋蘭「華琳様」
幼少から仕える華琳が見せる初めての涙にどうしたらいいかわからずに、その場で華琳の名前を呟くだけで何も出来ずにいた。
そんな涙を浮かべ俯いたままの華琳に一刀は優しく話しかける
一刀「まったく、兄離れができない妹だな。華琳、君はこれから曹家を率いていく立場なんだ。元々次期当主は俺ではなく華琳なんだ、だから俺は当主を守らなければならないんだ」
華琳「グッス・・にい・・さん」
ほんとに華琳は可愛い妹だよ。だからここで死なすわけにはいかない……
しがみついたまま離れようとしない華琳は優しく引き離し、その身を護衛である春蘭に預ける
一刀「春蘭・秋蘭!もう時間がない!華琳を担いででも縛ってでもいい!はやくつれていけ!」
春蘭・秋蘭「・・・・」
一刀「はやくしろ!」
春蘭・秋蘭「一刀様・・・死なないでください!」
一刀「あぁ、俺は死なないから安心しろって」
一刀の言いつけを守り、華琳を抱きかかえ護衛の親衛隊と走り出す夏侯姉妹。
あら~華琳まだあばれてら~縄渡したほうがよかったかな
華琳「春蘭!離しなさい!命令よ!私もにいさんと残って戦うの!」
春蘭「だめです・・・その命令は・・・きけません。。。」
秋蘭「姉者泣いてはだめだ。。一刀様は戻るといってくれたのだ!私達が信じないでどうする!」
春蘭「そうだな、いまは早くここから逃げましょう華琳様!」
華琳「いやだ・・・わたしを残していかないで・・・一緒に来てよ・・・にいさーーーーーーーーーーーん」
走り出した春蘭、秋蘭も泣きたいのをぐっと堪え、一刀から託された曹家の宝を護る為に親衛隊の下へ走り出す。一刀が生きて戻ってくると信じて……
一刀「ほら美羽もはやく逃げるんだ」
美羽「さよならはいわないのじゃ・・・絶対生きて会いにきてたもうかずにぃ様!それまで南陽の街を守り抜いてみせるのじゃ!」
一刀「美羽の街見せてもらうの楽しみにしてるからね!3班美羽をつれて脱出しろ!」
3班「御意!」
これでこの場に残ったのは俺だけだな。
後はみんなが洛陽を出るまでに時間を稼ぐだけだ
親衛隊「曹仁様、兵が現れました。ご準備を」
一刀「あぁ、曹・・・いや北郷一刀大切な者たちを守るためいざ参る!」
・・・ッシ グサ
オラァ! グハ
一刀「やれやれ、斬ってもきりがないなこれは~もっと目立たないように過ごすべきだったかなっと!」
華琳達が逃げる時間を稼ぐ為にわずかな親衛隊と共に十常侍が放った兵を相手に奮戦を続けていた。
そんな一刀の奮戦を間近で見せ付けられた敵兵はあまりの凄さに怯んでしまう
親衛隊「曹仁様!ご無事ですか!」
一刀「俺が十常侍の雑兵にやられるかって~それより華琳達と美羽は逃げられたか?」
親衛隊A「曹仁様が前もって準備していたので、無事洛陽を抜け陳留・南陽に向かわせることができました!追っ手が向かないように、情報を撹乱しておきましたので問題ないと思います!」
一刀「華琳達は平気か・・・母上はどうなっている?親衛隊がついているから大丈夫だと思うが」
華琳と美羽を逃がしきり、安堵の表情を浮かべる一刀の下に母親・曹嵩の護衛をしていた親衛隊の1人が慌てて駆け寄ってくる
親衛隊B「曹仁様!曹仁様はいずこですか!」
一刀「俺はここだ!お前は母上につけていた兵達ではないか。母上はどうした!?」
親衛隊B「それが・・・曹嵩様に向けた兵数は曹仁様の想定してた通りでしたが、その兵士を率いる十常侍の韓悝が勅命をもっておりました。それに曹嵩様は従い、帝に直談判すると韓悝と一緒に・・・さらに曹嵩様に向けていた兵士200がこちらに向かっております」
一刀「っな!宮中に一人で乗り込んだのか!」
注意するようにいっておいたのに・・・母さんは勅命じゃ逆らえないのが祟ったか……くそ!いまここで俺が向かえば最悪の状況になりえる……俺はどうすればいい
親衛隊E「曹仁様。あなた様はこんなところで死んではいけません。あなた様はこの世に必要なお方です!ここはお逃げください!曹嵩様は私達が救い出してみせます!こんなときのために、影武者たる私がおります・・・ご決断を!」
親衛隊F「そうですよ曹仁様!あなた様に鍛えられた私達を信じてください!」
親衛隊G「それに、曹操様を泣かせたままにしておくと後が怖いですよ?」
一刀「お前達・・・無駄に死ぬな!俺が去った後は各自陳留まで逃げ延びよ!」
自分を逃がす為に死ぬ覚悟を固めた親衛隊の覚悟を無駄にしない為にも……一刀は悔しさを堪え、再起を図るために戦線から離脱する。
残された親衛隊からは悲壮感じゃなく、満足に満ちた表情が浮かんでいた
親衛隊H「大将も退却、曹嵩様は捕らえられ、増援が向かってきてるか・・・窮地だが燃えてきたあ!」
親衛隊E「曹仁様にはああ言ったが、下手に宮中に攻め込むと陳留にいる曹操様に害が及ぶかもしれん。ここは兵を食い止め、陳留に撤退しよう!1隊は私と共にここで食い止める!もう1隊は陳留に撤退している曹操様の保護に向かえ!」
親衛隊A・B「お前達のこと忘れないぞ・・・我らは曹操様の護衛に向かう!」
親衛隊E「さて残った人達には貧乏くじを引かせてしまいましたね」
親衛隊H「なにいってやがる、ここで気張らなければ男じゃねえ!俺達を大切にしてくださった曹仁様達を守るんだ」
親衛隊I「たとえここで死のうと本望よ」
親衛隊J「まったくみなさんバカばっかりですねーそれじゃあいきますか!」
親衛隊E「聞けえ!わが名は曹仁 字は子孝!中原に轟く麒麟児をやすやすと討てると思うな!十常侍ども!我らが怒りを思い知れ!全員かかれー!」
殿で残った兵200は奮戦したが全員討ち死になり曹仁子孝の死も大陸全土に伝わった。
絶対的権力者、十常侍相手に1歩も退かず暴れた曹仁の影武者率いる親衛隊達を洛陽の民は悲しみ
死体をこっそり洛陽郊外に埋めてその死を悲しんだという
6話投稿させていただきました
話の展開で一刀君をしばらく表舞台から消すためにこの話にしました
シリアスになっていればいいのですが。。。
初作品なので手探り状態なので拙い部分は見逃してくださいー
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毎回コメント残してくださってる方、新規の方々ありがとうございます!
十常侍編完結です