真・恋姫†無双~物語は俺が書く~
第6幕「旋律[メロディー]は君の中に(前篇)」
今、華琳たちは自分の陣地の視察に赴いていた。
理由は人の流れや客層、雰囲気を実際に見て確かめる事であった。しかし…。
「全く、一刀の奴。遅れた私が悪いとはいえ、先に行くならせめて見つかりやすい場所にいなさいよ!」
「いえ、華琳さまは悪くなどございません」
「待つ事の出来ぬ北郷に責があるかと」
そう、今ここにいるのは華琳、春蘭、秋蘭だけだった。季衣は今朝早くにに山賊のアジトが分かったという報告が入り、我、自らと討伐へと乗り出した。みんな出てしまうと非常時の判断ができる者がいなくなるという理由で桂花は一人城でお留守番。そして、
この物語の主人公…北郷 一刀はと言うと、待ち切れずに一人先に出て行ってしまった。本当は、一刀の次に早かった桂花に『大通りにいるから』と伝言を頼んでいたがそれを素直に伝える桂花では無かった。桂花は華琳たちに『北郷なら「女の身支度などに付き合ってられるか!」っと言って先に行きました』と伝えており、その為に春蘭は憤怒していたが華琳、秋蘭はそれが嘘だと解っている為適当に流して出立した。
しかし、一刀の居場所を聞かなかったのは痛手であった。町の状況に詳しいのは一刀であり、その辺にいるだろうと踏んでいたのだが一向に見つかる気配が無く、しょうがないから自分たちのみで視察を行おうかと思った矢先に前の方に人だかりが出来ている事に気づく。華琳は不思議そうに秋蘭に尋ねた。
「秋蘭、あれは?」
「はっ。近くの者の話では何やら、旅芸人とおかしな格好をしている者が演奏で勝負をしているとか」
「ふーん」
華琳にとっては今は関係が無く、興味も無い為に無視して行こうかと踵を返そうとした時だった。
―――Wake up[目覚める] 解き放て 未知の力 僕を呼ぶ声 不思議な♪ ―――
聞きなれない音と旋律、そして歌が耳に入る。だが、華琳だけは何処かで似たような旋律を聞いたような気がした。
―――闇の中で聴こえてくる メロディ[旋律]を追いかけ 迷い込む 時の中へ♪ ―――
それもごく最近…そして、思いだしたと同時に人だかりの中へと走り出して、春蘭達も主の奇行に驚きながらも後を追った。
春蘭達が主を見つけたのは、人だかりの最前列…旅芸人の前であった。華琳は額を手で押さえて、何かと葛藤しているようであった為に声をかけずに待っていたが、ふとっと視線を上げると秋蘭は全て察した。
―――たぶんそれこそが宿命[さだめ] 逃げられない 逃げちゃいけない 始まるDestiny’s Play[運命の演奏]~♪ ―――
視線を上げた先には探し人である、出会った時の服装の一刀がこの前商人から買った楽器…バイオリンを演奏しながら唄を熱唱していた。それも気持ち良さそうに…、周りを見れば人が足を止めて、聞き入っており対戦者であろう旅芸人の3人娘も目を瞑り聞いていた。
―――1人1人奏でる音が 違うように定めもそう 僕はただ 僕だけの未来への地図を描いてゆく♪ ―――
あの空気を読めない春蘭までもだ。そして、歌も最骨頂に達していた。
―――闇の中で 呼ぶ声 Wake up(目覚める) Destiny’s Play(運命の演奏)~♪―――
―――迷い込むよ 謎の中へ Wake up Destiny’s Play~♪―――
歌と演奏が終わり、一刀が一礼を行うと割れんばかりの拍手喝采と御捻りが飛んでくる。しかし、飛んでくるのはそれだけでは無かった。
「うぅ~、行き成り乱入してきた男に負けた上に売上[御捻り]まで持って行かれるなんて~」
「しょうがないわ、ちぃ姉さん。演奏から歌の技術までもこちらと比較にならないほど上手いもの」
「うん…。でも、悔しいよ~」
旅芸人の眼鏡をかけた少女がサイドテールの少女を宥め、おっとり口調の胸の大きい少女が唸る。そして、その旅芸人達に一刀は近づき掻き集めた御捻りを突き出す。
「何よ…?同情ならお断りよ」
「んなわけないだろ?」
旅芸人もプライドがあるのか、一刀が差し出した金をつっ返そうとするがその手を掴んで無理やり掌に乗せる。それでも納得しないので一刀は得意の屁理屈を言う。
「正直言えば、持って帰りたいが……立場上それは出来ないのだ」
「立場上?官軍か何かの人?」
おっとり口調の少女が確信をついてきた。割と鋭いようだ、っと内心考えながら頷く。
「まぁ、そんなものだよ。てか、こんなことして民から御捻りを貰った事が上司(華琳)にばれたら…、明日の朝日どころか今日の月すら見れない。確実にな」
「そんなに厳しいの?」
「厳しいというか、上の者(軍師)がこんなことして私の顔に泥を塗る気か!?って言われる。だから、これを貰う事が出来ない。かと言って、お金をその辺に捨てれば乱闘騒ぎ勃発するし…それなら対戦相手である君らに貰ってほしい。この理由でダメなら……そうだな、近い未来に大陸一になりそうな君たちへの投資、もしくは勝手に乱入したお詫びって事で。それにな」
片目を瞑り悪戯っぽい笑みをすると、旅芸人達はドキッとした。
「男というのは女の前では格好つけたい生物なんだよ。旅の途中で倒れられては世界の財宝を失うも同然だしね」
後ろでブツっと額に青筋が立った音が聞こえたのはきっと一刀の気のせいだろう。この一刀、人の心を知り尽くしている為にこう言えば受け取ってくれるという事を知っていた。女性に対して追加効果がある事はいざ知らずに。旅芸人達は更に真っ赤になるが、まだ納得しないのか食いかかる。
「な、ならこのお金でなにか奢らせて!なにか欲しい物は無いの?」
すると、一刀は口の端を歪める。待ってましたと言わんばかりに……要するに何時もの悪乗りである。
「欲しい物?……愛…かな?……待って、今のなし。前言撤回するから首に『絶』を当てないで」
一刀自身、気配で華琳たちの事は分かっていたし、近づいている事も知っていたがさすがに『絶』を首に当てられるとは思ってもみなかった。寧ろ、どうして当てられているのか、それすら理解はしていないが、直感で今の発言と察知し前言撤回をした。おかげで寿命は縮んだものの首から冷たい感触は消えた。代わりに腕に重みと軟らかさを感じて振り向くと、華琳が一刀の腕掴み引きずろうとしていた。そのまま、華琳は旅芸人を見つめ愛想笑いを浮かべながらとんでもない事を言い放った。
「悪いのだけれど、“これ”は“私の物”なの。躾がなってないせいで、ご迷惑をかけたわね?謝罪するわ」
「物!?人でなければ、もはや生き物ですら無い!?」
「お前には打ってつけだな、うはははっ!……はぁ、いいなぁ(ボソッ)」
「北郷、拾われた身なのだから諦めろ」
そう言い残すとそのまま、ズルズルと引きずられながら一刀はその場を後にした。その時の一刀は。
「僕、釣られちゃった。てへぇ」
〈キモいです、マイスター。カリンさん、マスターの口を塞いでもらえますか?その辺の漬物石でも詰めてもらえば万万歳なのですが…〉
「裂ける!そして何かが擦り減るって!?」
「うるさい!!あと、自分の脚で歩きなさい、その脚は飾りなの!?」
「足なんてただの飾りだ!!!…ちょ、悪かった!謝るから脚を刎ねようとしないで!?俺、飛べないから!!?」
少しだけ市に笑顔が取り戻された光景であった。
―――少し離れた場所―――
「おいっ、あいつは…!」
「あ、あの時の針の男なんだな!?」
「あ、あ、兄貴!?今の内に逃げちまおうぜ!?」
のっぽの男がこの騒ぎの中心人物に気づいたのは、ついさっきの事であった。そこにチビとデブのおっさんも一緒に気づいた。そう、こいつらは一刀がこの世界に来て初めてぶっ飛ばした盗賊たちであり、華琳の太平要術の古書を盗んだ本人たちであった。
最初は旅芸人達の美貌と歌に惹かれ、聞き入っていたが乱入者が現れ『俺の心の旋律を聴けー!』とか言い出し、旅芸人達も調子に乗ってしまいそこで歌の対決が始まってしまった。最初は怒鳴りこもうとしたが、それよりも速く身体が拒絶反応を起こし動きを止め、隠れこんでしまった。如何してか?それが分かったのは華琳が現れた時だった。
曹操の姿を見て古書の事を思い出し、古書を盗んでその最近の出来事を思い出す。そして思い出してしまった…、あのキチガイを!!すると身体の震えが最大限どころか臨界点突破し、触れていた木の壁を伝い店が大きく揺れる。そして、気づかれる前にとんずらしようとしたが出来なかった。
「…ふっふっ。あなた達は面白い物をお持ちのようだ」
盗賊達の後ろには、青みがかった黒髪に四角いフレームの眼鏡。端整な顔立ちをしている道士の服を着た青年…于吉が暗い笑みを浮かべ立っていた。
彼等がもう少し冷静で、道士の服に気づいていれば少しでも人として長生き出来たのだろうが、この世界は彼らを見放していた。
盗賊とばれて騒がれる前に、目の前の于吉をばらそうと皆で突出するが…。
「ふぅー。身の程を弁えなさい…木偶の分際が…!“縛”」
3人の動きが止まる。文字道理、“見えない何かに縛られている”ように空中に静止した。その摩訶不思議な状況に怯え、中には失禁さえ禁じえない物もいた。それを嘲笑うかの如く于吉はリーダー格であるのっぽのおっさんの前に暗い笑みを浮かべながら近づいて行った。
「…そんなに怯えないでください。私は“あなた”と取引をしようと思っただけですよ…」
「と、り、ひ、き、だと…?」
「はい…」
于吉はそのままおっさんを横切り、一刀からは見えない角度に隠れ、一刀を睨みつける。その顔は先の顔よりも邪悪に充ち溢れていた。
「北郷 一刀…!私は貴方を許さない、私から大切な物…左慈の心を独占している、貴方だけは…絶対に!?」
「なに、キモい事を抜かしてやがる!?」
「かはっ!?い、痛い。けど、この幸せを感じさせる痛みは…マイ左慈(ハニ)ー!?」
シリアスをぶち壊した于吉を、蹴り飛ばしたのは同じような格好をした白髪に近い栗色の髪をした相方である左慈であった。左慈はイラついた声で于吉に、仕事をこなすよう催促した。
「えぇ、解っていますとも。今度こそ北郷を“完全に消滅”させる為に…ね?」
今度は北郷では無く、先ほどまで一緒にいた旅芸人を見てニヤつく。
「その為にも、あなた達にも踊っていただきますよ?……帳三姉妹殿?クックックッ…」
「かかさまーあの人気持ち悪いよ~」
「しっ!見てはいけません!?」
「……帰りましょうか、左慈?」
「仕事を……こなしたらな!」
「(こんな奴らと何を取引しろと!!?)」
通りすがりの子供に変態呼ばわりされ、少々ヘコタレ気味の于吉に一緒(変態)とされた事に、イライラ度が上限を振り切りそうな左慈を見て自分たちの身を案じる盗賊たちであった。
―――華琳一行―――
「(朔、なんか背筋がゾクゾクとするのだが?)」
〈(気のせいですよ…そう思っていなさい。今のあなたでは勝ち目がありません)〉
朔と氣の波長を合わせ、華琳たちに悟られぬようにポーカーフェイスを気取りながら念話を行う。
最初はただ単に、ストリートライブをしていた旅芸人の歌を聴いていたが昔、及川 佑と共にストリートライブ紛いの事をしていた時の血が疼き事の次第に及んでしまった。しかし、勝負をしている際に何か変な視線を感じ、『このまま歌って隙を作ってみれば、炙り出せるかな?』っと思ったが失敗。それどことか気配が遠ざかり、同時に現れた不快な視線と邪な気配。すぐさま振り向こうとした一刀を止めたのは、相棒の朔であった。『今のあなたでは結果が目に見えています…死という結果が』っと無機質な声で言われ、反論も何も言えなくなった。
暫くして、不快な視線と邪な気配が消えたので一刀はこの事を保留にした。そして、顔を上げるとそこには我らが主である華琳の顔が間近にあった。余りの近さに驚き、後ずさりしようとするがまだ腕を絡められていた為に出来なかった。
「人の顔を見て驚くなんて、失礼するわね…。それより、聞いていたの?」
「いや、すまん。聞いていなかった…」
余り、顔が近い為に一刀は赤面するが華琳も内心焦っている為に、その事に気づいていない。
「もう一度、言ってあげるわ。狭い街ではないし、時間も誰かさんのせいであまりないわ。手分けしてみていきましょうか……」
「では、わたしは華琳様と……」
「一刀は私と来なさい…目を離したら何仕出かすか分かったものじゃないし」
春蘭の提案を、華麗にスルーした華琳は有無を言わさずに一刀を引きずる。その気になれば振り払えるがその必要が無い為に何もせずに、成り行きを見守る。秋蘭もいつもの主の行動ではない為に、少々驚きはあるがそれを微笑ましく見守り、自分は街の左側を。姉には右側を回るように言って視察に向かう。その際に春蘭が一刀に羨ましそうに愚痴を言ってきた。
「北郷…どうやったら貴様の様に華琳さまにかまってもらえるんだ?」
不敵に笑い一刀は春蘭の頭をポンポンと叩き、とんでもない事を言い出す。
「簡単な事だ、春蘭よ、いいか?」
「応」
「馬鹿に…道化になる事さ」
「馬鹿にしているのか!?」
「しているんじゃない!馬鹿になるんだ!!そうすれば好きな人の笑顔は自分の物に…華琳?ちょ、引っ張んないで。今いいところ」
春蘭に熱弁している一刀を再び引きずり、人の流れの中へと消えて行った。残された二人も視察へと向かった。
一刀は華琳に言われた通りに、街の視察を行っていた。大通りは黙っていても意見が集まるので、裏通りの視察を行っている訳だが正直一刀にはだるいだけであった。普段から警備隊として街を見回っている為に、大抵の事は分かる。それより、今は片腕に付いている重り…華琳の事が気になっていた。
一刀も正史にいた頃は、女の事もある程度は付き合いもあったが所詮は友達止まりで、一刀自身もそれ以上の進展を望んだ事は無かった。それに多少対人恐怖症みたいなとこもあった為に上辺だけの付き合いだった。しかし、今は百人中百人は絶対に美しいと答える美貌の持ち主に腕を組まれ、歩いているのだからさすがの一刀も平常心を保ったままいるのは辛かった。
そして、当の本人はと言うと表面上はしっかりと仕事を行なっていたが、内心は先ほどの旅芸人と一刀のやり取りの事を思い出して苛立っていた。
「(全く!何よ、鼻の下伸ばして…。みっともない。私にはあんな口説き文句なんか言わないくせに…。悪ふざけであんな事を言っているのは、分かっているけどそれでも)」
支離滅裂な考えが渦巻いている時に、一刀の腕を引いている手が動かなくなる。
「一刀、どうしたの?」
「華琳、あれを見てくれ。珍しい、余り見た事が無い」
一刀が珍しい物を見た顔をしていたので、華琳も指差された方を見る。そこには籠売りを行っている、菫色のボサボサの髪を二房にまとめてホットパンツに、スパナやドライバーなどの工具を備え付けたベルト。そして黒いマント、それだけならまだ良かった。しかし、華琳が目を奪われたのは彼女の“胸”であった。
「はい、よってらっしゃい見てらっしゃーい!」
――ぽよーん。
彼女が動く度に、揺れる春蘭達すら比べ物にならない胸の大きさ。そして、華琳の中で一刀に対する“何か”がギシリっと軋む音が聞こえた。それでも自我で何とかそれを抑え込み、出来る限り落ち着いた声で一刀に何がと尋ねる。
「なにって、そりゃ決まっているだろ」
面白そうに答える一刀に本気で、殺意を覚えそうになる。華琳を馬鹿にしているのか、それとも素なのか?しかし、実際はどちらでも無かった。
「華琳は珍しくないのか…絡繰」
「確かにあそこまで大きな物は見た事無いけど、肝心なのは相性と感度……へっ?」
「………なんの話をしているのだ?」
噛み合わない話に、気づき一端状況を整理する為にもう一度籠売りの少女の方を見る。すると、一刀の言う通り彼女の横にはよく分からない、箱状の物が置いてあった。どうやら一刀はあれの事を言っていたようだ。勝手な勘違いをした事に恥ずかしくなった華琳は、近くで見ましょう、っと一刀の腕を引っ張って行った。その一刀は、新しい玩具を見つけたような子供の目になっていた事に、華琳は気づいていなかった。
近づいた一刀の行動は速かった。少女にどんなものか訪ねて使い方を教わっていた。華琳は子供を見守るかの様に目を細め、一部始終を見ていた。
―――ガシュッ!バッ!
いきなり一刀が絡繰を鷲掴みして大きく振りかぶった。
「必殺~!!俺の必殺技、パート3!!!……と見せかけて、ストレートど真ん中!!!」
そのまま、絡繰を空高く投げた。突然の奇怪な行動に少女おろか華琳すら動けなかったが、暫くしてその絡繰は爆発した。
「…はっ!?ウチの全自動カゴ編み装置が……!?」
「ここで爆発させるよりマシだろうが!!」
「何がどうなってんのよ…」
一刀曰く、あの木箱は少女が作成した『全自動カゴ編み装置(底と枠の部分は手動)』というらしく、竹を細く切った材料を入れハンドルを回すと籠の側面が出来る仕掛けであった。そこまでは楽しんでいたが問題を急にハンドルが重くなった事だった。常人ならなんとも思わない事だろうが、正史にいた頃から危険(スパルタ爺さん)と隣り合わせで生きてきた一刀には『緊急回避行動〔LEVEL.MAX〕』が培われていた。今回は、それが働いて事の次第に及んだ。
本来なら正当防衛といえ、作った本人に怒られてもしょうがないのだが、当の本人はと言うとあまり気にしているように見えない。というより何かバツ悪そうに華琳たちには見えた。
「実はあれは試作品なんよ。普通に作ると、竹のしなりにこう強度が追い付かんでなぁ……こうやって、爆発してしまうんよ」
「…華琳、俺は悪くないよな?」
「今回は多めに見ましょう」
この関西弁で話す少女に責があり、そんな物騒な物の実演をさせた事にあまり良い顔は出来ない華琳。ついでに言えばここにある籠は、村のみんなが作ったらしい。
「なぁ、お兄さん」
「やだ」
「まだ、何も言っとらんよ!?」
「籠を買えって言うんだろ?使う予定ないし」
「そんな、ウチの絡繰を壊しておいてそらないわ~」
一刀を危険な目に遭わせておいて、カゴ売りつけようとするその根性が気に入り、一刀に買ってやるように指示出そうとするがそれよりも速くぶっきら棒に一刀が値段を訊く。
「買ってくれんの!?」
「そこまで言われて買わない訳にはいかないだろ」
「お兄さんはお人好しやな~、さっきは迷子の子供と親捜しもしていたのに」
一刀は少女から籠を買うと、足早に立ち去ろうとする。しかし、華琳はその後について行き迷子の事を尋ねた。
「別に…華琳たちが遅いから城の外で待っていたら、泣いてる餓鬼がいて……華琳たちも、しばらくかかりそうだから一緒に親捜しをしていたんだよ。それで親捜した後に歌勝負していた訳。目立っていたから、すぐに見つかったろ?」
勿論、後者は今考えた言い訳であるがそれよりも華琳は関心していた。彼が女に優しい訳ではなく、表面上に表さないだけで優しいのだという事に。
その時、一刀に手を不意に掴まれ吃驚した。華琳の手を掴んだまま、走り出す。
「ちょっと、如何したの!?」
「あぁ!美味しんだけど、たまにしかやって無い飯屋が開店している!これを逃したら何時食べれるか判ったもんじゃない!」
本当に、どうでもいい事で必死になる一刀の行動に思わず苦笑するが、ある事に気がついた。
「(そういえば、一刀に……他人に手を引かれるなんて何年振りだろうか?)」
華琳にとって、最後に自分の手を引いてくれたのは多分、母の曹嵩[そうすう]だったと思う。それからは自分で己が道を往く華琳の手を引く者などいなかった。今までは…、手を引いて貰う事に安心感と恥辱感に襲われ、身悶えていたが直ぐに目的地に付き席に座らされる。すると、店の奥から若い女性が現れ一刀が一礼した。
「お久しぶりです、光里[ひかり]さん。取敢えず、美味しい物ください。あぁ、華琳。この人は野上愛[のがみあい]さん。ここの店長…と言っても従業員は1人だけど…。…華琳さん、ご機嫌斜め?」
「あらあら、久ですね~一刀さん。炒飯でいいかしら?」
「え、えぇ、構いません」
一刀も華琳に同意を求めようとして、振り向くが何故か凄い視線で睨まれる。……北郷 一刀、17歳。女心が解らない者であった。勘違いしてこの店の、料理うまいんだぞ?と言うがふ~ん、で流されてしまい気まずい空気がこの場を支配した。そして、一刀はある事に気づいた。
「あのさ、華琳?」
「何かしら?」
反応はして貰えるが、声が冷たい。しかし、そこは敢えてスルーして本題に入る。
「春蘭達と合流場所……決めてないよな?」
「……あっ」
目指せ!後篇
久々の更新…。気がつけば長かった為に2つに分けました。つか、一つでやるとネタに走りすぎだろ?と思ったこともあります。
さて、次回は魏の三羽鴉の二人…春蘭と沙和、そして「俺か?通りすがりの萌の伝道師だ!覚えておけ」。とう、ご期待。
PS・誤字脱字の報告、お願いします。
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この作品の北郷 一刀は性格が全く異なりますのであしからず。
仲間には優しいですが敵と判断すると最低です。
主に落とし穴に嵌めたり、縄で逆さ吊りにしたりと…。しかも、いつ仕掛けたのかも解らないほど鮮やかに。
強さは武将達と渡り合えるくらい。
しかし、武力が全てはない。
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