何はともあれ、アスベル、ルドガー、リィン、アリサ、フィーの五人で学院へと向かうことになったのだが……流石に赤い制服が五人もいると否応にも目立つ。だが、流石に入学式に遅刻するわけにもいかないので、先を急ぐことにした。
その道中……丁度、貴族クラスの第一学生寮と平民クラスの第二学生寮、そして本校舎への分岐となる十字路で、五人は思いがけない人物……とりわけリィンにしてみればある意味“縁”に近い出会いであった。
「それではお嬢様。御武運をお祈り……おや?」
「どうかしたか、爺。」
「お嬢様、どうやら学生生活は有意義なものになりそうですぞ。」
「言っている意味が解らないのだが??」
お年を召している執事と思しき人物……だが、その立ち振る舞いには隙がない。一方、その彼の言葉に首をかしげている青き髪をポニーテールにまとめている一人の女子。だが、その姿と声を知っているリィンとアスベルがその二人に気付いた。
「え……貴方は!?」
「クラウスさん……って、ことは。」
アルゼイド家の執事であり、アルゼイド流の師範代でもあるクラウスの姿……その女子も後ろにいる五人に気付いて振り向くと、リィンとアスベルはおろか、彼女と面識のあるルドガー、アリサ、フィーも彼女に驚きを隠せない。
「え……そ、そなたらは……」
「あはは。久しぶりね、ラウラ。」
「おひさ。」
「久しぶりだな。(……身内ばっかりだな)」
「久しぶり、ラウラ(それ以上いけない)」
「えと……久しぶりだな、ラウラ。同じ学校だし、これからよろしくな。」
ラウラ・S・アルゼイド……元帝国領、現王国領のレグラム自治州出身で、父親は王国では“剣聖”と並ぶ実力を持つ“光の剣匠”の異名を持つヴィクター・S・アルゼイド。アリサを皮切りにフィー、ルドガー、アスベルが次々と再会の挨拶を交わすと、リィンも戸惑いがちに挨拶の言葉を述べた。すると、ラウラはリィンに対して
「リィン…!!」
「うわっと……って、ラウラさん!?」
感激のあまり、リィンを抱きしめていた。そのリィンはというと……硬直したように身動きが取れなくなっていた。まぁ、スタイルのいい美女に抱きつかれたらそうなるのも無理ない話だ。
「久しぶりだな……リィン」
「あの、ラウラさん。当たってるんですが。」
「……気にするな。」
あ、ラウラの顔が真っ赤だ。これには周囲の人間にしてみればニヤニヤものである。意外なところで初心なものだから、微笑ましい。ただ、抱きつかれているリィンは……超がつくほどの朴念仁である。アスベルとルドガーはこの時、『これ、声の妖精補正入ってるんじゃないのか?』と思ったほどだ。
「にしても、相変わらずの言葉遣いだな……今後は同じクラスだから、敬称はつけてほしくない。」
「……ああ。よろしくな、ラウラ。」
「うむ。」
良い光景を朝から拝めることには申し分ないのだが……とはいえ、このままだと遅刻しかねないので
「ラウラ。気持ちは解るけど、いくぞ。遅刻だなんて勘弁したいからな。」
「あ、ああ……」
「う、うむ……」
「皆様方。御武運をお祈りいたします。」
「あ、ご丁寧にどうも。」
何はともあれラウラを加えた六人で学院の正門に到着する。すると、それを待ち侘びていたかのように放たれた歓迎の声。
「ご入学おめでとうございまーす!」
「入学おめでとう。」
平民の制服に生徒会の腕章を付けた女子生徒と作業用の服を身にまとった男子生徒が六人の前に姿を見せた。すると、その女子生徒はその中の一人……アスベルの姿に驚いていた。
「って、フォストレイト卿!?」
「何言ってるんですかねぇ、トワさんや!!」
「はうわっ!?」
彼女……トワ・ハーシェルから思わず出た呼び名に対して、ルドガーに荷物を投げ渡し、トワにツッコミのデコピンをかますアスベル…額を抑えて蹲るトワ…その一連の流れに周囲の人間は唖然としていた。
「え、えっと……リィン君、ルドガー君、アリサさん、ラウラさん、フィーさんの五人だね。申請した荷物なんだけれど、いったん預からせてもらうよ。それと……」
「おーい、アスベル。俺に渡した荷物を渡してもいいのか?」
「任せた。ちょっと、この人(トワ会長)借りていくわ。」
「私、物じゃないんだけど!?」
「こっちも忙しいからね。早めに戻ってきてくれると助かるよ。」
「ジョルジュ君~!?」
荷物の事はある程度任せて、アスベルとトワは人気のない場所……北東方向にある建物……旧校舎の方へと移動することにした。そして、トワを解放すると開口一番
「…………これもあの人の命令か?」
「ううん、私が志願したの。帝国での情報を集めるには、しっかりした身分の方がいいでしょ?」
「理に適っているんだが…また無理してないよな?」
「ギクッ」
「おい」
トワ・ハーシェル……この学院では生徒会長、裏の顔は星杯騎士団『守護騎士』第四位“那由多”であり、この学院で言うとトップクラスの人物。そして、第三位の位階を持つアスベルとは先輩後輩の関係である……この学院では立場逆転現象が起きているのだが。
「とりあえず、この学院ではその呼び名禁止。他の連中と同列に。公じゃない時は、こっちは呼び捨てで呼ばせてもらうけれど」
「世の中、不公平だよ。」
「何を今更」
年功序列というものは、時として不便なこともある。それを不公平と言うのはどうにもしっくりこない。ともあれ、
「ちゃんと休める時に休もうな?」
「え、あ、はい。」
努力家なのは結構な事であるのだが、それで自らの体調を崩すのは本末転倒と言うか、『星杯騎士』として示しがつかないと思う。とりわけ、守護騎士と言うことに関しては。
一方、その光景(アスベルがトワにデコピンかました場面)を遠目で見ていた男子生徒がいた。その感想は……
『トールズ士官学院……思っていたよりも、ただならぬ場所か。流石獅子心皇帝縁の学院だ。』
その透き通った瞳に移した光景は、どこかしら歪んでいたのは言うまでもない。
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第3話 ミュラー「身内を集めすぎだ。」オリヴァルト皇子「そこはほら、ノリで頑張った結果さ。」 ……タイトルになってない?気にするな。