アスベルとルドガーの二人を乗せた飛行船はヘイムダルの空港に到着、そこから導力トラムを経由してヘイムダル駅へと到着した。二人は手持ちの荷物を持って東部方面……クロスベル・バリアハート方面行きの列車に乗り込むと、その車両の座席に見覚えのある一人の少年がいることに気付いた。
「お、リィン。久しぶりだな。」
「アスベル!?それと、確かルドガーさんでしたっけ。」
「ああ。会うのは約半年ぐらいぶりになるか。相席してもいいか?」
「ええ。」
リィン・シュバルツァー……北の温泉郷であるユミルにあるシュバルツァー“侯爵”家の長男。養子であるが、その慎み深い性格と礼儀正しさ(+朴念仁)から社交界での人気が高い。元々は男爵の爵位であったシュバルツァー家はリベールでの一件の裏側で起きた事件により、テオ・シュバルツァー男爵本人は図らずとも侯爵の爵位を賜ることとなった。その影響でリィンにも<五大名門>という肩書が加わるのだが、それに加えて八葉一刀流の奧伝(本人曰く)を習得しており、アスベルはユン・カーファイ師父に次ぐ師匠的存在である。
「リィン、相当強くなったようだな。」
「それほどでもないですよ。見たところ、ルドガーは俺よりももっと強そうだし。というか、アスベルはまた強くなってないか?」
「何を言う。お前だって『百日事変』や『影の国』を生き残ってるんだ。もっと胸を張っていいと思うけれど。」
ここにいる三人はリベールに関わる事件を経験しており、そういった意味では手練れを士官候補生として士官学院に入ること自体『常識外れ』もいいところである。尤も、そういった事件を経験すること自体が『常識外れ』なのだが、それを言ってしまったら終わりのような気がするのでこれ以上は口を慎むことにする。会話はトールズ士官学院のことに自然と流れていく。
「そういえば、二人が着ている制服も赤いな。」
「貴族クラスは白基調、平民クラスは緑基調……そのどちらでもない赤基調の制服。」
「ま、何かしらあるんだろう。俺ら以外にもいるかもしれないな。」
まぁ、アスベルとルドガーに関してはそこら辺の“事情”を知っているのだが、ここで言っても面白くないし、何よりも様式美というのは大切なことだ。そんな他愛もない話を続けている間にも、列車は目的地のトールズ士官学院がある近郊都市……トリスタへと到着したのは、ヘイムダル駅を出て30分後であった。
三人が駅の外に出ると、舞う薄紅色の花びら…見上げると、ライノの花が咲き誇っていた。それに感心しているリィンとは対照的にアスベルとルドガーはトリスタの街並みに驚きを隠せなかった。
「へぇ~……こんなに咲き誇ってるのか。里じゃあまだ雪があるっていうのに。」
「……なぁ。」
「言うな……俺だって、この状況に困惑してる。」
原作では小さな街程度だったのだが、中規模の都市……空の軌跡で例えると、ロレントからルーアンぐらいに発展した街並みになっていた。その例えでいいのかどうかは正直解らないし、それ以外に表現できるのかどうかは確信を持って言えなかった。この辺りは二人の傍にいるリィン(御曹司)の父親であり、領主であるテオ・シュバルツァー侯爵の意向なのかもしれないが。ともあれ、まずは学院を目指そうとして意識を切り替えようとした時に、
「キャッ!」
「ん?……って、すまな……い……」
背中に当たる感触と女子の声が聞こえ……アスベルが振り向くと、そこにいたのは長い金髪の女子……そして、アスベルにとっては、大切なパートナーの一人である少女であった。
「アリサ!?って、大丈夫か?」
「いたた……え……アスベル!?あ、うん、大丈夫よ。」
アスベルは手を差し出し、アリサはその手を取るとゆっくり起き上がらせた。その後荷物の方も気になったが、特に問題ないようだ。まさかの再会にアスベルとアリサは色々驚きを隠せなかった。
「……って、その制服からすると、アリサも士官学院に入るってことか。」
「まぁ、そうなるわね。それと、私の事は基本的に名前で呼んで……って、リィンにルドガー!?」
「久しぶりだな、アリサ。」
「久しぶり。なんならここで再会の抱擁でも問題ないのだが?」
「何を言ってるのよ、ルドガー!!」
「はぁ……人目があるだろうが。」
家族関係は比較的良好なのだが、アリサは何故士官学院に進学を決めたのだろうか?……まぁ、無理に聞き出すようなことはしたくないので、ここでは聞かないことにした。どちらにせよ、避けて通れない道であることは明白なのだから。
「じゃあ、折角だから一緒に行くか?どの道行き先は一緒だからな。」
「ええ、いいわよ……って、リィンにルドガー。何ニヤニヤしてるのよ?」
「いや、何というか…嬉しそうだなって。」
「ひゅーひゅー(棒)」
「ルドガー、お前なぁ……(疲れてるのか?それとも、開き直ってるのか?)」
リィンはともかくとして、ルドガーのティオ・プラトーばりの言葉に彼の心労の一端が感じ取れたアスベルはそれ以上何も言えなかった。あの二人相手の心労というのは、理解できるのは本人ばかりなりである。何はともあれ四人で学院に向かおうとした時、更なる人物がアリサの更に背後にいたことに気づき、アスベルが声をかける。
「……で、何でアリサの後ろに隠れてるんだ、フィー?」
「乙女のたしなみ。」
「え……ええっ!?いつの間に!?」
「細かいことは気にしない。リィンにルドガーだっけ?お久しぶり。」
「あ、ああ……あれ?フィーって確か……」
銀色のショートが印象的な少女の名はフィー・クラウゼル。猟兵団『西風の旅団』の中核的人物にして、西風の妖精(シルフィード)の異名を持つ。その彼女がここにいるのかという疑問を抱いたことに気付いたのか、フィーが先んじるように答える。
「ちょっと訳あってアリスに学校に行くよう勧められた。で、サラを紹介されて今に至る。」
「え……サラって、サラさんのことか?サラ・バレスタイン。」
「ん。」
「あの飲んだくれが教官って……大丈夫か?」
「一番いい教官を頼みたい。割と切実に。」
フィーが言ったアリスという人物……本名はアルティエス・クラウゼル。『西風の旅団』において副長的ポジションにおり、フィーの保護者的存在。その本当の正体はフィーとその猟兵団の団長である“猟兵王”しか知り得ないことである。
それと、サラ・バレスタイン……いや、ここでは説明を省こう。どの道、また会いそうな気がする。
「何はともあれ、一緒に行くか?」
「いいよ。」
「はぁ……知り合いだらけというのも、苦労しそうね。」
アリサはそう言ったが、この中ではリィンとルドガーが苦労をしょい込むことになりそうだと、アスベルは率直に思ったが口に出すことは避けた。
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第2話 見知った顔ばかりなり