そんなこんなで始まった第221期生入学式。滞りなく式は進み、かなりの年齢であるにもかかわらず、その風貌と強靭な肉体は未だに“現役”を物語っているヴァンダイク学院長からのメッセージが伝えられる。
「本学院が設立されたのはおよそ220年前のことである。創立者はかの“ドライケルス大帝”――――“獅子戦役”を終結させた帝国中興の祖である。―――即位から30年あまり。晩年の大帝は、帝都から程近いこの地に兵学や砲術を教える士官学院を開いた。近年、軍の機甲化と共に本学院の役割も大きく変わっており、軍以外の道に進む者も多くなったが、彼が遺した理念は220余り経った今もなお受け継がれている。入学者の君たちに、この言葉を贈ろう。」
『若者よ―――世の礎たれ』
「“世”と言う言葉が何を指し示すのか…また、“礎”ということはどういった資格を、何を持って示すことが出来るか。その答えは、人それぞれであろう。その言葉を胸に、これからの学院生活を有意義に送ってほしい。この言葉を以て祝辞を終える。諸君、入学おめでとう。」
ドライケルス帝の言葉……『世の礎たれ』。結局のところ、その答えをある程度知ってしまっているアスベルとルドガー。ふと、ルドガーが呟いた。流石に式の最中なので小声であるが。
「(……何というか、向こうとこっち側じゃ受ける印象が違うな。)」
「(無理ないだろ。学院長、あれでラッセル博士やマクダエル市長と同じぐらいの歳だって……どこのスーパーおじいちゃんだよ)」
「(ある意味突然変異みたいなものか)」
「(どこにも、そういうのはいるってことだな。)」
にこやかな表情なのだが、一分の隙も感じられない。そりゃ、あんな武器を軽々振り回せるわけだよ。あの人でこれなら、鉄血宰相なんてどんなオーラ放つって話だ。
……え?面識がないのかって質問が飛んできそうなので説明するが、アスベルは元々帝国での活動を最小限に留めてきた(手柄は全部カシウスにしてきた)ので、特に警戒されていない。ルドガーも帝国での活動には及び腰だった(オズボーンが結社をも取り込むのではないかと危惧していたため)ことから、第二柱や『怪盗紳士』のように積極的な介入は避けて来たし、リベールでの一件以前は『執行者』としての活動が多かったので帝国での行動を控えてきた。
入学式も終わり、入学生は各クラスに移動していく……ただ、赤の制服を着た生徒たちは別であるが。これには流石のアスベルらも戸惑っていた。すると、リィンの隣に座っていた男子生徒が声をかけてきた。
「ねぇ、僕らって……あれ、もしかしてアスベルさん!?」
「久しいな、エリオット。てっきり音楽方面に進むかと思ったんだが……親父さんの我侭か?」
「そんなところかな……かく言うアスベルも?」
「まぁ、そうなるな。」
エリオット・クレイグ……“紅毛のクレイグ”ことオーラフ・クレイグの息子である。アスベルと面識があるのは、彼の実家の近所にあった遊撃士協会(ブレイサーギルド)支部の関係で家族と面識があったからである。それはともかくとして、だ。
「行き先に関しては俺も解らない。送られてきた書類にはそのようなことなど書いていなかったからな。」
「確かに。」
「そうなんだよね……う~ん、どうしたらいいんだろ?」
そういう困惑の表情はエリオットのみならず、周りにいる赤の制服を着ている人間たちの共通であった。ただ、この後の展開をある程度知っているアスベルとルドガーは別であるが。すると、入学式でステージ横にいた教官たちの中の一人……とりわけ、面識のあるアスベル、ルドガー、リィン、アリサ、ラウラ、フィーの六人にとっては“久しぶり”であり、特にラウラにしてみれば縁が深い人間である。
「はいは~い、赤い制服の子たちはお姉さんに注目~」
(((お姉さん?)))
間違っては無いのだが、何か違和感しかない表現である。敢えて口に出せば嫌な予感がするので黙っていることにした。教官であろう彼女曰く、ちょっと“事情”があるらしくオリエンテーリングのために移動するとのことだ。それに対して色々思うことはあるのだが、渋々ながら付いていくこととなった。その行先は……知ってたことだけど、学院本校舎北東の建物……旧校舎として使われていた場所であった。
アスベルとルドガーの二人は入ろうとする前に、一度立ち止まった。右手崖上の気配……
(どうする?)
(別にいいだろ……彼女の方はともかく、もう片方に警戒されて身動きとりにくくなるような事態は避けたいからな。)
(それはご尤も。)
その意見で一致し、二人は振り向くことなく建物の中へと入っていった……そして、遠くからその光景を見つめていた一組の男女。緑の平民クラスの制服を着崩したラフなスタイルの男子生徒、もう片方は制服ではなくライダースーツに身を包んだ女性であった。
「あれが俺達の後輩ってわけか……中々、曲者揃いじゃねえか。」
「曲者という点では、君が言えた台詞ではないじゃないか。クロウ。」
「それはお前も同じじゃねえか!!」
「否定はしないよ。にしても、我が『師匠』がこの学院に入学したとはね……アリサ君やラウラ君といった逸材もさることながら、いろいろ楽しめそうだよ。」
「コイツ、開き直ってやがる……!!」
男子生徒―――クロウ・アームブラストの言葉をのらりくらりと躱しつつ、意味深な笑みを浮かべている女子生徒―――アンゼリカ・ログナーがそう呟いたことにクロウは悪態をついた。
「忘れたとは言わせねえぞ!お前のせいで多くの男子生徒が涙をのんだことをっ……!!」
「女の子一人ぐらい守れなければ、恥じゃないか。君も『師匠』を見習うべきだよ。」
「……誰なんだ?その師匠って?」
「好敵手にして尊敬すべき師……私が一方的に思っているだけの事さ。」
「はぁ??(コイツが尊敬するって……どんな奴なんだ?)」
誰に対しても物怖じせずに言いのけるアンゼリカが一方的尊敬と好敵手の感情を抱いている相手……その見当がつかず、クロウの頭上にハテナマークが見えそうな位に首を傾げた。すると、そこに一組の男女―――トワとジョルジュが姿を見せた。
「お疲れ、二人とも。」
「二人とも、準備は終わったかい?」
「ああ。滞りなくね……しかし、彼等に同情を禁じ得ないな。だが、これで一年間頑張って来たかいがあるというものだよ。」
「同情云々は同意するが、お前は好き勝手やって来ただけじゃないか!」
「……(フッ)」
「鼻で笑いやがったなぁ!?」
「もう、二人とも喧嘩はめっ!だよ。」
互いに喧嘩でも始まりそうなところに間髪入れずトワの言葉でその場は収まった。そして、クロウは呟いた。
「本年発足の“訳あり”の特別クラス……せいぜいお手並みを拝見させてもらおうかね。」
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第4話 類は友を呼ぶ(キャラ的な意味で)