story21 大洗に眠る戦車達
その後、如月達が倉庫前に来ると、既にメンバーが集まっていた。
倉庫前には如月達が見つけた三式と、秋山と鈴野、歴女チームが見つけたルノーB1bisがあり、その前には砲身と砲尾も持つ戦車砲と、何かの砲尾が置かれている。
「これは・・・・Ⅳ号の『7,5cm KwK 40』ですね。それと、あれは――――」
「『試製七糎半戦車砲(長)Ⅱ型』だな」
Ⅳ号の長砲身の隣に置かれている戦車砲の名前を口にする。
「四式が持つ戦車砲と同じですね」
「あぁ。だが、どこにあったんだ?」
如月は見つけた二階堂に聞く。
「四式が見つかった小屋の近くで遺棄されていたのを見つけたんだ。んで、近くにあったあれも持ってきた」
二階堂は試製七糎半戦車砲(長)Ⅱ型の近くに置いている大きめな機器を指差す。
「見た限りじゃ、戦車砲の薬室と砲尾に当たる部分ですね」
「だが、これだけじゃ何の戦車のパーツかまでは分からないな」
「確かにそうだな。少し調べたら、口径の直径は10,8cmはあったぞ」
「結構でかいですね」
「前回五式の近くで見つけた砲身の銃口の口径も同じぐらいだから、同じものか」
「でも、主砲だけじゃ意味が無いな。まぁ、コレがあるのなら、本体もあるはず」
「・・・・・・」
「しかし――――」
如月は周りを見るも、武部と坂本、一年チームの姿が居なかった。
「学園艦内部の倉庫を捜しに行った武部達の姿が見当たらんな」
「そうですね。どうしたんだろう」
と、早瀬が言った直後に猫の鳴き声の着信音がして、冷泉はポケットよりケータイを取り出す。
「・・・・遭難、したそうだ」
メールの内容を読み上げると、西住達は驚きの声を上げる。
「どういう事だ?」
「学園艦の内部を調べていた沙織と如月の所の一年と一年たちが迷ったそうだ」
「馬鹿に広いあそこに迷うとはな。ちょっとまずいかもな」
二階堂は腕を組むと静かに唸る。
「何か標識があるはずだ。それを見て伝えろと言え」
河島がそう言うと、冷泉はメールを返信する。
「はいこれ」
と、角谷会長は西住に丸めた紙を差し出す。
「え?」
「これ学園艦の地図ね。捜索隊行ってきて」
「えっ?」
「二階堂達も頼めるかな?特に中島は学園艦の内部の事をよく知っているし、何より船舶科に友人がいるしね」
「・・・・俺に命令とはな。まぁ、今の生徒会長はお前だ。仕方ねぇ」
面倒くさそうに二階堂は頭を掻く。
――――――――――――――――――――
それから如月は西住達と共に薄暗い船内の通路を歩いていく。
二階堂達は中島の情報と船舶科の友人を通しての目撃証言から別ルートを進んでいる。
「・・・・なんだか、お化け屋敷みたいですね」
ライトつきヘルメットを被っている秋山は少し不安げな声を出す。
確かに薄暗い場所であるので、そう言われてもおかしくはない雰囲気を醸し出している。
「・・・・・・」
ガランガラン!!
「きゃぁぁぁぁ!!」
「わぁぁぁぁぁ!!」
と、大きな音がして秋山と西住は悲鳴を上げて如月に抱き付く。
「大丈夫ですよ」
と、恐れ無しに五十鈴は進んでいく。
「・・・・五十鈴殿。本当に肝が据わっていますよね」
「う、うん」
「・・・・・・で、何時まで私に抱きついているつもりだ」
二人は如月を両側から抱き付いており、更に如月の胸を両側から押さえ付けられている状態になって無駄に大きな胸が更に強調されている。
「「あっ!?」」
如月が言うと二人はとっさに離れる。
「す、すいませんでした!!如月殿!!」
とっさに秋山はその場で土下座する。
「いや、別に怒ってはないが・・・・・・」
いきなり土下座されて戸惑うが、頬が少し引きつっている事に西住は気付き、苦笑いを浮かべる。
「ん?」
と、後ろを向くと、青ざめている冷泉の姿があった。
「・・・・お」
「お?」
「お化けは・・・・・・早起き以上に無理」
「・・・・苦手なものが多いな、お前は」
「・・・・・・」
――――――――――――――――――――
その頃武部達は薄暗い倉庫の中で座り込んでいた。
「おなか・・・・空いたね」
「う、うん」
「今晩は・・・・ここで過ごすのかな」
「・・・・・・」
梓の言葉で一年チームは泣き出すも、唯一丸山だけは立って明後日の方向をジーと見つめている。
「だ、大丈夫だよ!!」
「そうです!絶対如月さんと西住隊長が救出にやってきますから!」
励まそうと武部と坂本はとっさに声を掛ける。
――――――――――――――――――――
それから薄暗い通路を歩いて、いくつかの区画を探すも武部と一年チームは見つからない。
「第74予備倉庫近くだったら、この辺りのはずなんだけど」
懐中電灯を照らして案内表を見るも、今一よく分からない。
「二階堂達も見つからないそうだ。向こうは次の倉庫で最後らしいが」
如月は二階堂達からスマホに届いたメールを確認する。
「・・・・・・」
「っ!?」
すると突然大きな音が鳴り響き、冷泉は身震いする。
「おっ?カエサル殿だ」
それは秋山のケータイの着信音らしく、電話に出る。
『西を探せ、グデーリアン』
「西部戦線ですね。了解です!」
「・・・・誰だそれは」
「魂の名前を付けて貰ったんです」
そういえば歴女は互いを歴史上の人物の名前で呼んでいるな。
「西と言われましても」
まぁ船内だから方位は殆ど分からない。
「大丈夫です。コンパスを持っていますから!」
と、ポケットからコンパスと取り出すと蓋を開けて方位を見る。
「だがなんで西なんだ」
「卦、だそうです」
「えぇ?」
西住は少し戸惑う。
「当たるも八卦。当たらぬも八卦ですね」
「最後には神頼みか」
少し呆れ半分に呟く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それからして西を進んでいくと、倉庫があり、中には武部と坂本、一年チームが座り込んでいた。
「みぽりん!翔さん!」
「如月さん!!」
「救助隊だ!!」
「助かった!!」
と、一年チームは武部に抱きつくと、泣き出した。
「もう大丈夫だよ」
慰めるようにして声を掛ける。
「・・・・武部殿。モテモテです」
「本人が希望しているモテ方とは大きく違うがな」
「かもな」
「すいません、如月さん!手間を掛けてしまって!」
坂本は私の元に来ると、頭を下げる。
「別にいいさ。まぁ無事で何よりだ」
如月は坂本の頭に軽く手を置くと、坂本は少し頬が赤く染まる。。
「あっ」
と、西住はある物を見つけて、思わず声を出す。
私も西住の視線の先を見ると、薄暗い中に巨大な何かが見える。
(あれは・・・・)
それは知る人ぞ知るある意味有名な戦車・・・・・・『ポルシェティーガー』がパーツ状態でだったが、それがそこにあったのだ。
「・・・・・・」
更にその隣を見ると、同じぐらいの大きさを持ち、戦車砲が無い状態の戦車が並んでいた。
その後二階堂達が別の倉庫で戦車に搭載すると思われる同型のエンジンが二つ発見したと言ってきた。
どちらのエンジンとも『川崎BMW改造水冷V形12気筒ガソリン500hp』と表記されていたそうだ。
――――――――――――――――――――
その後武部達を連れて上へと出る。
「うーん!何か久しぶりに地上に出たって感じ!」
武部は両腕を上に上げて背伸びをする。
一年達は先に戻るように伝えていたので、ゾロゾロとグラウンドの倉庫へと向かっている。
「だが、これで一気に四両も見つけたか。二両は未完成の状態だが、中々良い傾向だな」
「そうですね」
「これで何とか行ければいいんだが」
と、考えながら周りを見ていると――――
「ん?」
ふと、ある建物が目に留まる。
校舎の横にある、一際目立つ大きな倉庫であった。
「あれ?あんな倉庫ってあったっけ?」
倉庫を見て武部は首を傾げる。
「気付かなかっただけだろうな。しかし、見るからに古い倉庫だな」
赤レンガ造りでかなり年が経っているようで黒ずみや泥が目立っている。
「そうですね。でも、倉庫にしてはやけにでかいような・・・・・・」
「・・・・・・」
それから如月達はその倉庫の前にやってくる。
「見れば見るほど、でかいな」
「そうですね」
西住が倉庫を見上げていると、扉に掛けられている大きな南京錠を見る。
(錆び具合からして、かなり古いものだな。と言うよりこんなでかい南京錠は始めて見たぞ)
腕を組んで見ていると、先ほど用件を言って呼んだ鈴野がこちらにやってくる。
「お待たせしました、如月さん」
「どうだった?」
「生徒会によりますと、鍵は学園長が持っているそうです」
「学園長が?」
「なんでも、この学校で戦車道が始まった辺りからこの倉庫はあったらしく、戦車道をやめてからずっと開かずのままらしいです」
「二十年以上も開いていない・・・・まさに開かずの間ってやつですね」
「それだけの時間じゃ言わないんじゃない?」
坂本の言葉に早瀬が突っ込む。
「それで、鍵は?」
「もう生徒会が学園長から貰い受けたようです。今の戦績をネタにして」
と、ジャラジャラと言わせていくつもの鍵が付いたリングを見せる。
「さすが生徒会だな」
「って言うか、その中から見つけないといけないの?」
ジャラジャラと言う鍵を見て早瀬は少し呆れる。
少なくとも百はありそう・・・・
「みたいね」
「うそーん」
坂本はガクッと肩を落とす。
それから総出で倉庫の南京錠の鍵を探す事三十分――――
「こいつか!」
如月は手にした鍵を南京錠に差して少し力を入れて回すと、鈍い音を立てて南京錠が開く。
「いやぁ・・・・・・意外ときつかったですね」
坂本は息切れして両膝に両手を付ける。
「だが、まだ終わりじゃないぞ」
「は、はい!」
坂本はすぐに如月の元に来ると、扉の片方を私と早瀬、鈴野、坂本が持つと、反対側を西住達が持つ。
「いくぞ」
「はい!」
『せーのっ!!』
タイミングを合わせて扉を引き、重い扉を引っ張る。
「お、重い!!」
「これ絶対錆びてるよ!!」
「・・・・・・!」
何とか奮闘し、扉を開け終える。
「よし、何とか開いたな」
「は、はい」
汗だくになって息切れしながらも、西住は如月の元にやってくる。
「これで中に何も無かったら無駄骨も良いところだ」
「そ、そうですね」
そうボヤキながらも私達は倉庫内に入る。
「ってクッサッ!?」
中に入った途端カビやホコリ、鉄錆びの臭いが襲ってきて、坂本は顔を青くしてとっさに手で鼻を摘まむ。
「これはさすがに・・・・キツイ」
鈴野も鼻を摘まんで少し嫌そうな表情を浮かべる。
「蜘蛛の巣の張り方が異常だな。どれだけ放置されていたかが分かる」
さすがに如月も臭いで少し顔が歪む。
「こんな所に戦車が本当にあるの!?って、イヤァァァァァァァ!?!?」
と、武部は足元に居る蜘蛛に驚き、声を上げながら後ろへと飛び退く。
「ほ、本当にあるんでしょうか?」
おどおどしながら西住が聞いてくる。
「無いとこちらがこま――――」
如月が足元を見ると・・・・・・焦げ茶色の例のあれがカサカサとこっちに向かって来る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
思わず声を上げて如月は顔を青くして跳び上がって前の方にある何かにしがみ付く。
「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
足を必死にじたばたさせてしがみ付く。
「何でこいつがここに居るんだ!?!?」
必死にそれにしがみ付いていると、ハッとして後ろを見る。
『・・・・・』
『・・・・・』
そこには呆然と立ち尽くしている西住達があった。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
・・・・・・気まずい沈黙の間が続く。
「・・・・・・」
如月はトマトの様に耳まで顔を真っ赤にすると、しがみ付いて居たそれをよじ登る。
「な、何だ。その顔は」
いつも通りにしようとするも、動揺は隠しきれていない。
「え、えぇと・・・・・・翔さんにも、そういう面があるんだなぁって」
「は、はぁ」
苦笑いを浮かべながら武部が言うと、西住も苦笑いして頷く。
「えぇと・・・・・・如月さんって、あれが苦手なんですか?焦げ茶の・・・二本の触覚を持つあれが」
坂本がそう言うと、如月はバッと汗を掻き身震いする。
「それを言うな。聞くだけで鳥肌が立つ」
「そ、そんなに苦手なんですね」
「むしろトラウマのレベルだ。あれが顔面に向かって飛んで来たり、上から落ちて来たりしてみろ。トラウマにならん方がおかしいだろ」
思い出すだけでも脳から身体全身が震える。
「うわぁ。そりゃ酷い」
「まぁ・・・・・・そうですね」
少し表情を青ざめて鈴野が言う。
「あれが苦手じゃないと言うやつの気がしれんだろ」
「ま、まぁ、ごもっともです」
武部は頷く。
「そ、それより、翔さんが乗っているそれって?」
「ん?」
あれに気を取られて気付かなかったが、よく考えてみれば何かに登っているな。
「何だこれは?やたらとでかいな」
立ち上がっても、まだ上がある。
「優花里さん。さっきのライトを」
「は、はい!」
秋山は背負っているリュックよりライト付きヘルメットを取り出して被ると、懐中電灯を西住に渡す。
それからライトの電源を付け、懐中電灯の電源を入れて光を照らすと・・・・・・
「で、でか!?」
武部はそれを見て驚くが、ライトに照らされた箇所だけでも、かなり大きいものだった。
よく見ればよじ登った箇所の横には小さな砲塔と砲身があり、同じ物が更に奥に配置されている。
「これって」
「ま、まさか」
「・・・・・・」
少なくとも、如月と西住、秋山は心当たりがあった。この馬鹿でかい物体の正体を――――
「は、ハッハハハハハハッ!!まさかこんな物が大洗にあったなんて!!」
坂本はそれを見て笑いをこぼす。
「鈴。ついに壊れたか」
ボソッと鈴野は呟く。
「って、さりげなくヒドッ!?って言うか私元から壊れてないし!!」
と、顔を赤くして鈴野に言い放つ。
「まぁ、鈴が壊れるのも、無理は無いか」
「すばるん。さりげなく酷い・・・・」
武部は思わず呟く。
「き、如月さん」
「・・・・分かっている」
戸惑いながらも西住が聞いてくるも、言う事は分かっている。
「こいつは恐らく私達にとっては・・・・・・切り札になる。まぁ、動けばの話だがな」
如月はライトに照らされているそれを見る。
「さっき二階堂達が見つけたエンジンの持ち主は・・・・恐らくこいつだろうな」
「・・・・・・」
如月達はその日、大洗にとっては最終兵器になりうる超重戦車を見つけた・・・・・・
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。