story20 戦車再捜索
『おつかれさまでした!!』
そうして戦車道の練習が終わって、如月達は戦車を倉庫に戻す。
「おつかれさまです!如月さん!」
「おつかれさま」
五式から降りて、早瀬が声を掛けたので返事をする。
「日に日に操縦技術に磨きが掛かってきているな、早瀬」
「えぇ!如月さんのご期待に沿えるように、日々努力しています!」
「そうか。そいつは頼もしい。それと鈴野と坂本も射撃の腕が更に上がったな。
鈴野は行進間射撃で十発中五発と半分ぐらい命中させ、坂本も固定されている副砲でも命中率が上がっている」
「私もご期待に沿えるように努力をしていますから」
「私もです!」
「そうか」
「西住。如月。次の試合に向けての戦術会議をするぞ」
と、河島と小山がやって来る。
「それと、交換したほうがいいパーツのリストも作ってもらいたいんだけど」
「は、はい」
「分かった」
「先輩!照準をもっと早くするにはどうしたらいいですか?」
と、バレー部の佐々木が西住に近付いてくる。
「どうしてもカーブがうまく曲がれないんですが!」
今度はバレー部の河西が私の所へやって来る。
「まぁ待て。順番が――――」
「副隊長。躍進射撃の時間短縮についてだが」
「ずっと乗っていると臀部が擦れて痛いのだが、どうしたらいいのだ?」
すると歴女チームのエルヴィンと左衛門座が如月の元にやって来る。
「如月先輩!戦車の中にエアコンはつけれないんですか?」
「男友達に戦車の話しをすると引いちゃうんですけど」
今度は一年チームの大野が私に聞いてくる。って、最後の私に聞いてどうする。
とにかく如月と西住の周りには人だかりが出来て色々と質問攻めをしてくる。
聖徳太子じゃないんだぞ。
「あ、あの!メカニカルな事でしたら私が多少分かりますので」
「私も手伝うわ」
「射撃関係なら私が」
と、助け舟に秋山と鈴野、坂本が入ってくる。
「操縦関係なら私が」
「私も操縦関係で」
次に冷泉と早瀬が名乗り出る。
「書類の整理でしたらわたくしでも出来ると思います」
「恋愛話なら私が!」
と、五十鈴と武部も名乗り出る。
――――――――――――――――――――
そうして役割分担が出来て、如月と西住は生徒会室に移動する。
「西住ちゃん。如月ちゃん。チームも大分纏まってきたんじゃない?」
「そうですね」
「あぁ」
いつもの様に干イモを食べながら角谷会長は喋る。
よく飽きんな。
「二人のお陰だよ。ありがとうね」
「い、いえ!私の方こそ」
戸惑いながらも、西住は言葉を続ける。
「最初はどうなるかと思いましたけど・・・・・・でも、ここに来て、今までとは違う戦車道を知る事が出来ました!」
笑みを浮かべて、言葉を綴る。
(ここまで変わるものだな。昔なら戦車道でここまで笑顔を見せた事は無かったのに)
西住の変化に少し喜びを感じて微笑みを浮かべる。
「それは結構だが、次も絶対に勝つぞ」
「勝てるかね~」
「チームは纏まってきて、みんなのやる気も上がっていると思います。でも――――」
「今後の事を考えると、今の戦車の数では厳しいな。いくら性能が良いのがそこそこ揃っていてもな」
それが一番抱えている問題だな。
これをどうにかしないと七両で試合を続けなければならない。
「・・・・・・」
河島は息を吐きながら顎に手を当てる。
「あの、お話中すいません」
と、後ろで小山と一緒に書類整理していた五十鈴が声を掛ける。
「先ほど古い戦車道の資料を見ていたら、少なくともまだ戦車があった痕跡があります」
「ふむ」
「まだ見つけきれていない戦車があると言う事か」
如月は顎に手を当てて考える。
「今後の事を考えると、戦力増強は必須だ。次の試合に間に合うように、明日は捜索に掛かりましょう」
「異論は無い」
河島は頷く。
「そういえば、有志で部活動の生徒に捜索をさせていたはずでは?」
「それがね~。何か中々見つからない見たいなんだよね~。見つかっても戦車の一部のパーツぐらい」
「一部のパーツか。そういえば、五式を見つけた際にも、一部だけを見つけたな」
五式を見つけた鉄屑の中に砲身と転輪を見つけた事を思い出す。
「今回見つかったのは転輪と履帯だけなんだよねぇ。少なくとも前回の分を合わせると、十分な数が揃っているんだけど」
「・・・・・・」
「転輪だけでは意味が無い。まだ捜索していない旧部室辺りと学園艦の底を集中的に捜索してもらうぞ」
「構わない。西住もそれでいいな」
「はい」
西住は頷く。
――――――――――――――――――――
次の日、西住は冷泉とバレーボール部と共に旧部室辺りの捜索に入り、二階堂達は以前四式を見つけた辺りの捜索に入り、武部は一年チームと坂本と共に学園艦の艦内の捜索に入る。
秋山は鈴野と共に歴女チームと共に林辺りで戦車の捜索に向かい、五十鈴は中島と生徒会と共に引き続き古い資料の見直しをしている。
「しかし、本当に見つかるのでしょうか。資料には残っていると言っても、古いんじゃ当てには」
「不確かでも、今は探すしかない」
如月は早瀬を連れて敷地内を捜索をしている。
「せめて一両だけでも見つかれば、いいんだがな」
と、呟くと――――
「あ、あの・・・・・・如月さん」
「・・・・・・?」
と、後ろから名前を呼ばれて如月はすぐに後ろを振り向くと、金色っぽい私並に長い髪をして猫耳の付いたカチューシャを着けて厚いメガネを掛けた女子生徒がいた。
「お前は?」
「お、同じクラスの・・・・・・猫田です」
そういえば濃いビジュアルの生徒が居た様な気が・・・・
「それで、何の用だ?」
「そ、その・・・・・・僕も・・・・戦車道を取れないかなって」
人差し指の先端を擦り付けて猫田が言う。
「戦車道を?」
「は、はい。操縦とか・・・・・・慣れているから、役に立てないかなぁって・・・・」
恥ずかしそうに指差しを擦り合わせる。
「そうだった。戦車だけじゃなくて、その乗員を集めないと意味がないですよね」
ポンと左手に握り締めた右手を軽く置く。
「あぁ。だが、乗員を集めるにしても、一人だけではな」
「あっ、それなら、今から仲間を集めます」
「仲間?」
「オンラインの戦車ゲームをしている仲間です」
と、スマホをスカートのポケットより取り出すと、いじり始める。
「・・・・・・」
その言葉に少し引っ掛かった。
「・・・・もしかして、『World of Panzer』の事か」
略して『WOP』と呼ぶ、無料オンライン戦車ゲームの事だ。戦車のモデルや描写、性能など細かな部分がリアルすぎて色々とシビアなゲームであるが、そのリアルさ故に、世界中の戦車マニアには人気が高く、今でもその人気は急上昇中。
「え?は、はい。そうです」
少し驚いた様子で返事をする。
「如月さん知っているんですか?」
当然そんな意外な事を知っていた如月に早瀬は疑問を持つ。
「あぁ。一年の頃、どうしようもないぐらい暇でしょうがなくてな。それの噂を聞いてやってみればコレがまた面白くてな。去年いっぱいまでやっていたな」
「へぇ、意外ですね。
あっ、私もやったことがあります」
「早瀬もか?」
「まぁ、難しくてボロクソに負けてばかりだったから、あんまりやった記憶はないんですけど」
「なんだそれ」
如月は呆れ半分にため息を付く。
「あ、あの、ちなみに如月さんのユーザーネームは何でしたか?」
「あぁ。確か・・・・『ファイブ』だったな」
「何で5?」
「他にマシなのが考えつかなかったからな」
「えぇ・・・・(それはそれで・・・・無いような)」
早瀬は内心で呆れ返る。
「え、えぇっ!?あのファイブさんですか!?」
早瀬が呆れていると、猫田は驚きの声を上げる。
「凄いです!一年前WOPで有名になったあのファイブさんとリアルで会えるなんて!!」
興奮気味で如月に近付く。
「え、えぇと、何か話しが見えない」
早瀬は首を傾げる。
「有名って、私はただ普通にやっていただけだがな。まぁ結構やり込んではいたが」
長くは一日近くやっていたな。
「それでも、普通では負け試合だった試合ですら逆転勝利させ、必殺必中な命中率を誇っていたって言う伝説があるんですから!凄い以外に何もありません!」
そういやそんな事があったような・・・・
「スレでもチートとかそんな強さだって有名でした。ファイブさんが使っていた戦車がⅢ突だったので、ユーザー間では『ハロネン』って呼称されていました」
「そんな名前で呼ばれていたとはな」
まるで歴女チームのようだ。
「でも、乗員が入ってきても、肝心の戦車がないと意味が」
話を戻すと、乗員が確保出来ても戦車が無ければ意味が無い。
「え?あの戦車は試合には出ないの?」
「なに?」
「あの戦車?」
まさかの言葉に思わず首を傾げる。
――――――――――――――――――――
その頃一年チームと共に学園艦の中を捜索している武部と坂本はと言うと――――
「なにここ?なに?」
「凄い。船の中っぽい!」
「いや、船の中だもん」
後ろで一年チームの宇津木と阪口、大野が喋っている。
「思えば、なんで船何だろう?」
「そういえば、なんでだろう?」
坂本は首を傾げる。
「えぇと、確か・・・・大きく羽ばたく人材を育てる為に、学園艦が作られたとか何とか」
武部は以前聞いた話の内容を思い出して言う。
「無策な教育政策の反動なんでしょうかね?」
「そうらしいね」
と、坂本は皮肉げに知ってそうに言う。
「何か知ってそうな言い方だね、りんりん?」
武部は疑問に思ったのか、坂本に聞く。
「まぁ、よくは覚えてないんですが、私の曽祖父が政治家だったんですよ。『当てのない教育政策をしてどうなる』とかなんとか言っていたような」
「ほ、本当なの?」
「小さい頃の事ですから、よくは覚えていません。それで曽祖父は当時の学園艦の創設の政策に関わっていたとか言っていたような」
坂本は唸りながら首を傾げる。
「す、すご!?」
当然武部は坂本の家系に驚く。
「でも、あんまり目立った事はしてないんですけどね」
「ハハハ・・・・」と笑うも、その声は少しばかり枯れていたようにも聞こえる。
下の階へと降りていると、船舶科の生徒が通り掛ると、「お疲れ様です」と頭を下げる。
「あ、あの!戦車をどこかで見かけませんでしたか!?」
武部はとっさに船舶科の生徒に問い掛ける。
「戦車かどうか分からないけど・・・・何かそれっぽいものがどこかにあったよね?どこだっけ?」
「うーん。確かもっと奥にあったんじゃないかな?」
船舶科の一人は奥へと指差す。
「ありがとうございます!」
坂本は頭を下げると船舶科の生徒も頭を下げて笑顔を見せてその場を離れる。
――――――――――――――――――
それから如月と早瀬は猫田に連れられて敷地内の駐車場の奥。
「・・・・探せばあるんだな。こんな所にも」
「今までの苦労は何だったのか」と呟いてため息を付く。
「こんな所に『三式中戦車チヌ』があったなんて。本当に何で今まで気付かなかったんだろう」
早瀬も「うーん」と唸りながら腕を組み、首を傾げる。
「しかし、五式と四式に続いて、三式もあるとはな」
「かつての本土決戦の為の日本戦車が勢ぞろいですね」
「あぁ。しかし――――」
如月は三式をマジマジと見る。
「懐かしいものだな。三式を見ていると」
「そういえば、如月さんが初めて乗った戦車も三式でしたね」
「あぁ」
如月は三式に近付くとよじ登り、砲塔のキューポラハッチを開けて車内に入り、内部状態を確認する。
「場所が場所だから、劣化が殆ど無いな」
「外見も特に目立った箇所はありません」
三式の周囲を回りながら早瀬は状態を確認する。
「とりあえず見つけたのは見つけましたから、連絡しておきますね」
早瀬はポケットよりケータイを取り出して生徒会に連絡を入れる。
――――――――――――――――――――
「あっ!ありましたよ!!」
その頃林の中で戦車の捜索していた鈴野と秋山、歴女チームはため池にて戦車を発見する。
「『ルノーB1 bis』。本当にあるとはねぇ」
腕を組んでため息に近い息を吐く。
「言っただろ?カエセルの八卦はよく当たるとな、『ニコルス』」
と、エルヴィンが肩に手を置くと、そう呼ぶ。
「え?なんですかそれ?」
疑問に思った秋山が聞いてくる。
「どうも私の魂の名前(ソウルネーム)みたいよ」
「はぁ」
「お前にも付けようじゃないか」
と、赤いマフラーをいつも首に巻いているカエセルが口を開く。
「良いんですか?」
「あぁ。そうだな・・・・・・『モントゴメリ』と言うのはどうだ?」
「え、えぇと・・・・それはちょっと」
少し秋山は戸惑う。
「なら・・・・『グデーリアン』ではどうだ」
エルヴィンが考え直して言うと、「おぉ!」と表情に喜色が現れる。
――――――――――――――――――――
「分かった。如月達と秋山達が新たに戦車を二両見つけたそうだ。三式中戦車チヌとルノーB1bisだ」
河島は早瀬より連絡を受け、それを五十鈴と小山、中島に伝えるとすぐに資料を見直す。
「三式は最大装甲50ミリ。75ミリ砲搭載の中戦車ですね」
「ルノーは最大装甲60ミリ。75ミリ砲と47ミリ砲搭載の重戦車です」
「中々癖のある戦車っすけど、そこそこの戦車であるのは間違いないっすね」
「まぁ無いよりマシか~」
角谷会長が呟きながら両手を後頭部で組むとそのままイスにもたれかかる。
「しかし、戦車道の歴史ってかなり古いんですね」
再び資料の見直しをしていると、五十鈴が一枚の資料を見ながら呟く。
「1920年から始まって、徐々に知名度を上げて行ったみたい」
「ここでも結構昔から戦車道をやっていたんっすね。あれ?」
と、中島は一枚の資料に目が留まる。
「どうかしましたか?」
五十鈴が中島に聞いてくる。
「・・・・戦車道って、昔は男性もやってたんすね」
「男の人も戦車道を?」
「戦車道の始まりからあったらしく、第二次世界大戦時が全盛期だったみたいっす」
「意外ですね。てっきり戦車道は乙女の嗜みとしての伝統と思っていたのに」
「当時は男の戦車道はどちらかと言うと戦争で用いる武道として認知されていたみたいっすね。
だから戦後から少しずつ男性の戦車道は衰退していっているっす」
「今じゃ殆ど男性が戦車道をやると言うのは全く聞きませんから」
「もう現在では形骸化しているって事っすね。そりゃ戦争の為の武道でしかないって言うと、衰退しても仕方無いっすね」
意外な歴史を知って三人は関心を抱きながら古い資料の見直しをする。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。