【 意外な活躍 の件 】
〖 益州 成都近辺 にて 〗
山の傾斜を降りて向かってくる『火牛』!
多くの兵達が弾き飛ばされ、刺し殺され、蹄で蹴られたり踏み潰されたりと、阿鼻叫喚の地獄絵図が、ここに広がっている!!
しかし、この『真・火牛の計』を阻む者も………同時に存在した。
迷吾「おおおりゃあああぁぁ────!!」
暴れ狂う『火牛』の角を持つ迷吾!
迷吾「ふぅ! ふぅ! ふっ────!!」
メキメキ……メキメキ………!
迷吾「ふっっざけんじゃねえぇ──────!!」
バキッ! バキッ! ブモォオオォォオオ!
牛の角をへし折り、『火牛』は痛烈な痛みで先程より凶暴化した!
迷吾「テメェは──とっとと、死んでろおぉぉぉ!!」
ガゴオォォーン!!
『正拳突き』を牛の額に食らわす!
グバアァ────!
ドドドオォォ───ン!
牛は───声を挙げる事なく倒れた。 かの『牛殺し』で高名な空手の大先生が御覧になれば、手放しで誉め讃えたと思われる……見事な突きであった…!
ーーー
阿貴「………考えたな! だが、弱点を付けば………フッ!」
剣を鞘に入れ、腰を低めにして『火牛』が来るのを待つ……阿貴!
『火牛』は怒り狂いつつ、阿貴に目掛けて襲いかかる!
ガッガッ! ドドドオォォ────!
ブホオォォオオオォ!
────シュッン!─────
飛鳥の如く、牛の進路方向に外れた部分へ避ける。 しかし、剣は既に抜き身になっており、血に濡れていた。
ドゴゴオオオォォ───!! ズザアァァァ───!!!
バタン! バタン! ブモォ! ゴアアァァ!!
『火牛』の左前足は、膝から斬られ……後ろに落ちていた。 このを事を『火牛』が知ったのは、地面に倒れ、激しい痛みに襲われた直後。
何故ならば……荒れ狂う『火牛』が、地面に倒れると、鳴き声が哀愁と怒りの
交えた鳴き声に変わったからだ。
阿貴「巨大な体躯の割りには細い足! 当たる直前で、相手の勢いを利用し斬れば、力を入れずとも簡単に切断できる!」
『火牛』を斬った後、すぐに血を払って体勢を直し、次の『火牛』へと向かって行った────!
ーーー
〖 益州軍陣地 山頂 にて 〗
焔耶「はっ! 骨があって面白いじゃないか! ワタシが相手を──!」
紫苑「まだまだ駄目よ? ここからが、お楽しみじゃない!」
焔耶「あぁ──大将軍の見せ場ですね? ですが…武に秀でるとは到底思えないあの男……。 なんで、あんなに……前線に立ちたがるのでしょう?」
紫苑「焔耶ちゃん……。 人は見掛けで判断すると…痛い目に会うわよ?」
焔耶「しかし! あの男は……余りにも鈍すぎます! ワ、ワタシの事は別にしても……桔梗様、紫苑様が、あれほど御心配されていたのに………!!」
紫苑「………仕方ないのよ。
前へ出るのを止めて欲しいと、私や桔梗が何度もお願いしたけど、聞き届けてもらえない。
あの方には………あの方しか分からない、重い責任と固い意思があるのでしょうから。
だけど………そう言う焔耶ちゃんだって、口では『怒ってますよ状態』だけど、本当は心配しているのでしょう?」
焔耶「ワタシは……大将軍の地位にある者が、軽々しく出て行くなと、憤然としているだけです! た、ただ、大将軍が……怪我をされると……心配する者が数多くなる! ………それだけ……なんですよ!?」
紫苑「あらあら………ふふふっ」
◆◇◆
【 滑る竹槍 の件 】
〖 西涼 西涼城付近 にて 〗
西涼兵「報告! 砦前方から砂塵確認! 敵騎兵隊、突撃してきます!」
詠「全軍!『竹槍』用意!!」
詠の号令に合わせ、西涼兵が準備した『竹槍』を準備! 砦から前方の地面まで張った『大布』へ『竹槍』を動かぬように手で押さえ………命令を待つ!
西涼兵「敵騎兵隊! 『凍結した地面』に近付きました!!」
詠「やれっ!!」
パッ! パッ! パッ!
詠の命令で布を華麗に滑り落ちる『竹槍』!
長さは平均三尺(約70センチ)になる枯れた竹。 少し長短はあるものの、実際に竹槍として使えそうなぐらい、鋭く尖らせている。
だが、このまま滑らせると、布に引っかかるため、少し先端を曲げて、布に掛からないよう加工してある。
シュ~~! シュ────ン!
布を軽快に滑り、速度を増した竹槍の群は………こちらに向かってくる匈奴兵の大軍に、無慈悲に突撃していった─────!
ーーーー
匈奴兵達が今進行している場所に、氷が薄く張っている。 別に普段から凍っているわけではなく、事前に西涼軍が水を撒いたためだ。
理由は二つあり、一つは……当然ながら匈奴兵の進行を遅らせるため。
そして、もう一つは……高低差と摩擦の減少で速度を上げ、勢いを増す竹槍達に、更に速度を上げて、殺傷能力を高めて貰う為である!!
布から飛び出した竹槍は、氷の上を滑って移動する。
シュッ────ン!! シュシュ───ン!!!
匈奴兵「た、竹槍がぁ!!──────突っ込んでくるぞ!!!」
匈奴兵「避けろっ! 避けるんだぁぁあ!」
こちらに向かっていた匈奴兵の軍勢に、竹槍が突っ込んで行く!!
シュ────ガコッン! ヒヒヒィ───ン!
匈奴兵「うわあぁぁああ────!!」
ボコッ! ガタンッ! ガッガッ!!
ある者は馬を殺され、ある者は自分が、またある者は両方…………それぞれ被害を被る結果となり、騒然と化す!!
ーーー
例えば…………
匈奴兵「止まれ、止まれえぇ!!!」
ある者は、馬に停止の指示を出す! ……当然、馬も従おうとするが、氷に足を取られ完全に止まる事が適わず。
ガッ! ズズッ、ズルズルズル─────ッ!!
匈奴兵「と、止まらねぇ─────ッ!?」
ドカッ! シュシュ─────!!
グサッ!! ヒッヒヒィ─────ン!!
匈奴兵「ば、ばかなぁ─────!!」
こうして……竹槍の餌食となる運命になる者……多数!
★☆☆
〖 西涼軍 陣営 にて 〗
それを見ていた詠が、弓兵を動かし矢を放つ! 矢は反董卓連合攻めで、颯馬の策で集めた物。 今も充分在庫が残っている!
詠「今よ! 一斉に射てぇぇ!!!」
シュンシュンッ! シュバッシュッバ!
ーーー
〖 匈奴兵側 布陣 〗
倒れ伏せている匈奴兵に容赦無く攻める西涼軍!
匈奴兵「グハッー!」
匈奴兵「ギャアァァ─────!?」
ーーー
劉宣「おのれぇ! 小細工などしおって! ………しかし、この地に竹が自生する事など少ない不毛の地! どのみち、攻撃など直に止むはず!!」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
確かに………攻撃は止んだ。 攻撃は、僅かに三回だけ。
でも、辺り一面には『竹槍』だらけで、馬の進行は支障を来たす。 歩兵で向かったとしても、地面が凍っているため、攻撃を敢行できるか分からない。
やむを得ず、匈奴軍勢を引き上げさせ、陣営で待っていた他の五胡達が騒ぎ立てる!!
鮮卑将「何を無駄に時を費やしていやがる?! 馬騰には恨みがあるんだ! この機会に報復できると聞いて、参加してやったのに────!!」
羌将「そうだ! 凍って滑るのが嫌なら、日が昇ってから攻めるしかない! だが、待てば野外に居る俺達が圧倒的に不利だ!
大体、これだけの人数が居るんだ、迂回して攻める手もあるんだぜ!?」
劉宣「……わ、分かっておる! だかな、アイツらの砦は、右は川で迂回は困難、左は柵と逆茂木が設置してあり、容易に通れん!!
貴様達が損害覚悟で迂回なり、柵を越えるなりするのは構わんが、わしらは動かないぞ!
匈奴兵は、馬あってこそ力を発揮する! 馬が嫌う水を渡る事、柵で阻まれて力を発揮出来ない場所など───御免蒙る(ごめんこうむる)!!」
鮮卑将「俺達だって、同じようなモンだろうが! だが、損害を与えられてもつまらん。 謝礼だけでも充分だしな…………。 無理をせずに休むか!」
羌将「雇い主が言うなら、仕方ない…………長丁場になるぞ! ゲル(遊牧民の家屋)を作れ! 身体や馬を休めろ! 少人数の隊で、匈奴兵の大活躍を見せて貰え!
…………後の為の勉強になろう!」
ーーーー
劉宣「(………アイツらが一番乗りすれば、我々の活躍が霞んでしまうではないか! それに、奴ら強欲だ! 手柄を立てれば立てたで、報酬の上乗せを要求するだろう! 誰が……そのような愚かな真似をするものか!!)」
劉宣は、辺りを見渡して……それぞれゲルを作り出し、思い思い休むのを見て歯噛みしていた。
◆◇◆
【 伊達勢と孫呉 の件 】
〖 江東 雪蓮居城 謁見の間 にて 〗
政宗「孫伯符………いや、雪蓮とお呼びしなければ失礼だったな! まっこと、我らの居た国とは違う不思議な風習だ………」
景綱「政宗……その話題、この場で申す事ではない! 『郷に入れば郷に従え』……我らの方が異邦人ゆえ、逆に指摘される立場になるからだ!」
冥琳「いや、貴女方は天城颯馬に連なる面々。 我らより高位になるため、その指摘は無いと言っても差し支え無いでしょう! それにしても、『天の御遣い』殿達は謙虚な者が多い事、私達も模範として学ばなければ………!」
蓮華「全くです! どこかの姉上にも、特に見習って貰いたいのですが!」
冥琳「蓮華様に賛同しますよ。 ………誰とは言いませんが、国主で親友でもある奴に、模倣でもいいから頼みたいのですが………」
雪蓮「………名前を隠しているつもりだけど、的確に私だってバレバレじゃない!? だけどねぇ! 私だって、真面目に仕事している時ぐらい…………」
祭「はて………儂の記憶にも、覚えが無いのじゃが……」
雪蓮「やぁねぇ~! もう忘れちゃたの? 最近、祭は物忘れ激し……」
祭「ほぅ~策殿は、政宗殿より贈呈品である『梅酒』を入らぬと見える。 策殿は、儂等に遠慮して取り分を開けてくれた故、儂等の飲み分が増えるな!」
雪蓮「きゃああぁぁぁ! ごめんなさい!ごめんなさい! 謝る、謝りますから、どぉ~か許してえぇぇ─────!!!」
★☆☆
雪蓮が一騒動を起こしそうな緊迫感を生じたため、冥琳が雪蓮を連れ出しお説教をしている。
その間、話だけしておこうと、景綱が颯馬の狙いの一つを説明していた。
『孫呉の手勢で、荊砦の焼き討ち』を実行して貰いたい…………と。
景綱「颯馬から言い含められたのが、この話だ。 勿論、私達も助勢する!」
祭「じゃが……官渡の荊砦を攻略するには、普通の火矢では無理じゃぞ? 華琳配下の将達も申していた通り、荊砦の荊の成長は著しい。 それに分厚い壁の為、火を点火しにくいそうじゃが………」
元綱「だけど……それが何とか出来たから、この策を考案したんじゃないかな? 何か、颯馬が頼んでいった物ってないの?」
穏「う~~ん、もしかして………『あるぞ!』……冥琳様~!」
冥琳「……遅れてすまんな。 駄々っ子みたいな君主を持つと、非常に疲れる………」
雪蓮「ぶぅ───! 充分大人だもん! 出るとこ出てるし!!」
冥琳「身体だけ成長して貰っても困る! 自分の受け持った仕事は、最後までやり遂げろ! 嫌になって脱走しようなど、下々に示しがつかん!!」
雪蓮は、両手で自分の口を左右に引っ張り、冥琳に嘲りの声を向けた!
雪蓮「いいぃ───だぁ!!」
冥琳「はぁ──! その態度が子供だと言っているんだ!!」
雪蓮「痛い痛い痛~い!! 耳引っ張らないでぇ!! 耳ぃ~!!!」
ーーー
政宗「ふっ!『義同断金』か。 私達も……そうありたいものだな、景綱?」
景綱「ふふっ、私は生涯……政宗の傍に居るつもりだ。 離れる気など毛頭無いぞ? 例え───颯馬と結ばれてもだ!」
景綱の爆弾発言に、血相を変えて詰め寄る二人!!
雪蓮「ちょっと! 貴女達────!?」
蓮華「ど、どういう事ですか! 是非、詳細を───!!」
成美「それはねぇ~!」
『────────?』
丁度、少し離れた場所で意気投合した成美と小蓮が、颯馬の事を喋っていた。
成美「───政宗はねぇ~颯馬を婿に欲しいんだって!」
小蓮「へぇ~モテモテのいい男ねぇ! シャオに相応しいかも!!」
『───────────!!』
政宗「い、いや、それよりも………颯馬の預けた策の話を………」
政宗は、必死に話を変えようとしたが、孫呉の筆頭軍師が阻む!!
冥琳「その通り! まずは策の事で集中するべきだ! 颯馬の話は、出発した行軍中でも聞けるだろう!!」
政宗「…………結局、語らせるのか………」
景綱「………やれやれ、『傾国の美女』ならぬ『傾国の軍師』か。 後にも先にも颯馬だけだ……そんな二つ名が付きそうな軍師は……」
ワザと話を出した張本人は、溜め息を吐く政宗の様子を、皮肉な笑いをしながら眺めていた。
◆◇◆
【 徐州防衛戦 にて 】
〖 徐州 下邳 にて 〗
桂花「華琳様ぁぁぁ───!!」
街の復興を見学していた華琳の下へ、桂花が息を切らせて走ってきた!
華琳「桂花! その道は、まだ整備されていないか『キャアァ──!! ドタンーッ!』……ら気を付けて! ………遅かったようね」
大分復興してきた下邳だが、道は後回しにしたため、デコボコ状態。 多くの人が働き動くので、整備が追いつかないのも理由である。
桂花「か、華琳様ぁ~!!」
華琳「────情けない声を出さないの。 私達の一挙手一投足は、将兵や民達の目が注目しているのよ?」
桂花「はっ、はい……。 申し訳ありません………」
愛しの華琳様の前で、盛大に転んだ桂花! 服や猫耳、顔に泥が飛び散り、惨い状況だ!
華琳「でも、桂花の可愛い顔が泥塗れでは品が無いわね。 少しジッとしていなさい! 確か……一刀から贈ってくれた『はんかち』がここに……」
桂花「か、一刀からですか!?」
華琳「そうよ? 女の嗜みだからって一刀が……ね。 『華琳に邪魔にならず、ちょっとした手助けが出来る俺みたいな物』って言っていたけど。 本当
に役立ったわね……ふふふっ!」
華琳が一刀から贈って貰った小さい布は、主の覇王としての情熱を示すのか……時折、一刀の関係で赤面する事が増えたのを知ったのか、『赤色のハンカチ』だった。 角に一輪の花が刺繍してある。
桂花「………………………」
華琳「ところで、桂花! 私に用があるのでしょう!?」
桂花「はっ!? そ、そうでした!! 華琳様! 急ぎ城にお戻り下さいませ! 敵の姿が……郊外の黄河の対岸で、見つかったそうです!」
華琳「そんな大事な話、早く言いなさい!! 直ぐに戻るわ!!!」
桂花「────はっ!!」
★☆☆
〖 徐州 下邳城 謁見の間 にて 〗
華琳「……どう? その後の情報は?」
朱里「はい……その後、斥候を放ち様子を窺ったところ、敵兵は凡そ四十万程、烏丸、匈奴の兵達も、混じっているように思われます……ふぅ~」
雛里「わ、我らの軍勢は、騎馬隊の編成が出来る程の騎兵は居らず、歩兵と弓兵を展開させるのが精一杯ですぅ!」
ーーー
一刀「真桜……『発石車』はどうなった? 何台か出来たかい?」
真桜「隊長ぅ~! ウチの腕舐めて貰ては困りまんがな? 久々の大舞台での出番! きっちりと五台用意してまっせ!!」
沙和「た、隊長、真桜ちゃ~ん! また、あの地下室に入って来なくちゃ行けないの!? 沙和、これ以上あの変な匂いを嗅ぐのは嫌なの!!」
一刀「だけど……アレがあれば、戦局を変える事が出来るんだ! 頼むよ!」
沙和「隊長の頼みなら………仕方ないの!」
ーーー
星「………華琳様、私も斥候と共に参ったのだが………」
華琳「どうしたの? 星にしてはハッキリしない口調ね?」
星「私の見間違いでなければ……敵の大将は『松永久秀』! それに『筒井順慶』の姿も………!!」
春蘭「何ぃ!! 青州兵達の仇である『筒井』がか!? 華琳様! どうか私に先陣を申し付けて下さい! アイツらの仇を討てる好機! 逃すわけにはまいりません!」
秋蘭「待ってくれ、姉者! 相手は、華琳様、私、麗羽、一刀を四人相手にして圧倒した化け物だ! 幾ら姉者が強くとも、勝てる要素が無さ過ぎる!!」
春蘭「しかし、星は勝ったではないか! なら、星と互角に戦える私が行けば、勝てるはずだ!!」
華琳「春蘭……貴女では勝てないわ………」
春蘭「ど、どうしてですか!? 私の武を信じられないと………!」
華琳「考えてもみなさい! 道雪殿に後塵を拝した貴女が、『筒井』に勝てると思って? それに、星の話では……二戦して何れも(いずれも)仲間の手助けがあったり、機転を利かせて逃れた話ばかり!
単独でやり合えば、ほぼ負ける事になる程の持ち主なのよ!」
春蘭「……………くっ!!」
桂花「………華琳様………その件で、私も晴れない疑問があります! もう少し、斥候で再調査させて下さい!」
星「私も、是非同行させて貰いたい。 些か腑に落ちぬ事があります故……」
華琳「いいわ、桂花と星にもう一度任せます! 全軍、出陣して黄河の沿岸部に布陣なさい! 大友隊、島津隊も同行を願う!
後、意見があれば、いつ何時誰でもいいから、私に申し出る事!
今度の戦は私達だけではなく、戦乱より立ち直った徐州の民達に、再度塗炭の苦しみを味あわすハメになりかねない! 是非とも敵を押し返し、徐州の民を守り抜くのだ!!!」
『ーーーーーはい!!!』
◆◇◆
【 何進の策 の件 】
〖 益州 成都近辺 にて 〗
粗方の火牛が倒された後、静かに霧が……流れ込んできた。
味方は、二人の活躍で半分程残った状態。
それでも、目の前の何進を倒すには充分だろう。 この山の上にも付近にも、多数の兵を置くような場所は無い! 普通、山頂周辺は狭く、大軍を置くには不利な場所。 この数万の軍勢で抑え込めば、易々と何進の首が取れる!
………そう思っていたのだが。
天然の煙幕は、何進達の味方をするように、その者達の視界を全部遮りつつ、厚い白い幕を辺り一面に閉ざした。
視界には見えぬが、鉄錆の匂いが充満し……人の呻き声、動物の鳴き声等が響き渡る。 ここが間違い無く、先程の自分達の居たところだと、教えてくれている。
迷吾「今度は霧か………この辺り霧が名物だとか聞いたが、本当に間近の物が見えねぇな!! 誰かに鼻を摘ままれても、全然分かんねぇぞ!?」
阿貴「…………だが、仕掛けてくるなら、丁度いい間───だ!?」
シュウゥ────────ン!
阿貴が喋る途中で、後ろを斬りつけた! だが………何も手応えは無い。
『おおぉ~! 危ない危ない! 儂を斬ろうとするのか?』
背後より………ノンビリとした声が聞こえた。
迷吾「卑怯だぞ!? 出てきて正々堂々勝負しろ!!」
『はっはっはっはっ! 儂等より多人数集めて………喧嘩を売りに来た者が、卑怯者呼ばわりされようとはな!』
次は、迷吾の横より聞こえてくる。
『仕方がない。 あまり、からかうと後が困る。 では……行くぞ!』
★☆☆
△迷吾視点△
あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!
奴が、何進のヤローが、俺の横で何か喋ったと思ったら……目の前にヌッと出て来たんだわ!
あの高そうな鎧、太り過ぎた身体、見覚えある髭面!
いつの間にか剣を構えて、こっちを睨んでやがった!
も、もちろん、俺も挑みかかろうと思ったさ!
ポンポン! ポンポン!
ところがよぉ………背後より、俺の肩を叩く奴が居るんだ。 この忙しい時に何しやがるって払うんだが、しつけぇぐらい叩くんだよ!
─────あんまり叩くから、どこの馬鹿だ!って思い振り返ると…………何進だったんだよ!!!
み、見間違えじゃねぇ!! 本当だ!!
………だって、コイツが後ろに居るのによぉ?
俺の目の前では、何進が……剣を構えて立っていやがるんだぜぇ………!?
最初に出てきた時、そのままで……………。
な………何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのか、わからなかったんだ………。
▲阿貴視点▲
………おかしい? 確かに気配はするのだが………。
『何進、此処に居るぞ!』
左側より声が聞こえたのに、気配が右側?
どういうわけだ!? 頭を軽く混乱させながらも、左側に防御を取った!
しかし、敵はあざ笑うが如く右側から攻撃を仕掛けて、私は直ぐに剣で防御して防ぐ! その後、剣で突こうとすると、霧の中に消えた………。
だいたいの種は分かったぞ!?
影武者が何人か潜んでいるなぁ? このような子供騙し! 私には通じなどせん!!
私は気配を頼りに、隠れている者に近付いて行く。
『ほぅ? 見破るか……。 では、コレなら……どうだ!?』
またしても、気配の感じない所から聞こえる! あそこには何も無かったのだぞ!?
………何進は、本当に仙術を操れるのか………。
私の背中から、冷たい汗が流れ落ちる…………!
そんな私の混乱を見定めたのか……霧の中より、立て板が突然現れた! 剣で両断しようとしたが、何か書いてある。
気配を確認し、動く様子が無いため、立て板に書いてある『文字』を読んだ!
《 『この中の言葉は、我が領内に置いて、《禁句》とされている言葉である!
お前が……この言葉を最後まで言えたら、儂は漢王朝大将軍何進の名において、全面降伏してやろう。
だか、最後まで言えない場合は……お前達が全面降伏してもらうぞ?
もし、言えないのなら戦いは継続しても結構。 しかし、状況はお前達の方が不利である事、忘れるではない…………』 》
私は驚いた! 百万近い軍勢がいるのに、それを敗走させたのか? いや、そんな馬鹿なと頭を横に振る。
されど……こういう時に悪い知らせが!
氐兵「しょ、将軍! 後陣で待機していました軍勢が、牛と人の軍勢に襲われ敗走! しかも、周りの軍勢も……弓矢に囲まれ身動きが取れません!」
色々と疑問が湧くが、声で位置を把握して向かえば、間違い無く我が兵の一人。 身近で世話をしてくれた信頼できる兵だった。
顔を傷だらけ、鎧にも幾つか矢が打ち込まれ、それでも私の為に知らせに来てくれたのか……!
私は、不利な賭事と思いながらも、それに乗った!
このままでは負けるのは間違いない。 しかし、私の命は別として……最後まで残ってくれた兵達だけでも救いたい!
この賭事で勝てば、その恩に報いる事ができよう! だが、負けてしまえば、我が身命と引き換えにしてでも………その一心だった!
阿貴「……………………………」
─────ざっと見た。 全部で『七つ』の『文字』が並ぶ。
どうして『禁句』になっているのか、些か疑問が浮かぶが……仕方ない!
阿貴「……垂れた」
──────! バッ!
ヒュ──ンヒュンヒュン! カッカッカッ!
殺気がしたので、即避けたが……今まで居たところに数本の矢が!?
馬鹿な───!? この霧の中で弓を射れると言うのか………?
阿貴「………まさか、私の言葉で反応したと言うのか。 流石に、それは無いだろう。 たかが言葉…………」ゾクッ!!
うっ! ほ、本当に言葉か? しかし、や、やらねば………
阿貴「と、年増、行かず後家……、皺、年甲斐も無い………」
ま、まわ、周りの空気が……い、一挙に低くなった。
な、なんだ………? 尻に氷柱でも、差し込まれたような気分だ──!
それでも………だ!!!
阿貴「年寄りの冷やみ─────!」
───更に重圧は高まり、霧の中に潜む強大な恐怖が、私を縛り上げ………気が付けば、身動きが何も出来ない状態になっていた!
だが………負けるものかぁ!!! 最後の一つ!
これは漢字一文字! 簡単に言えるはずだあぁぁぁ!
ゆ、勇気を持って叫んでやるぅぅぅ!!!
阿貴「ばぁb──────」
この瞬間………私の意識は……いつの間にか刈り取られていた。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
最後近くですから、策に力を入れようとあれこれやっているんですが、話がなかなか進まなくて申し訳ないです。
更新が遅くなっていますけど、なんとか完結まで行いますので。
また、次回も読んで下さい。
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義輝記の続編です。 宜しければ読んで下さい。