No.709412

義輝記 星霜の章 その八

いたさん

義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい。
文章が途中になっていたところがあり修正しました。 お詫び致します。

2014-08-17 14:23:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:895   閲覧ユーザー数:792

【 愚か者!? の件 】

 

〖 益州 成都近辺 にて 〗

 

羌兵が案内したのは、道を通り抜けた先にある開けた場所。 

 

三方緩やかな斜面が連なる、擂り鉢状のような所である。 ただ、平地部分はかなり広く、三万ぐらいの兵なら余裕に入れそうだ。

 

羌兵「あ、あそこです────!!」

 

迷吾「………ヤロー! 旨そうに飯食らってやがる!!」

 

阿貴「…………自由でいいなぁ………」

 

迷吾「………………ふんっ!」

 

配下の羌兵より案内されて向かう迷吾と阿貴、そして付き従う五万の騎兵。

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

残りの九十五万の騎兵は、信用の置ける副将達に任せてきた。

 

『連絡があれば寄越せ! 敵が攻めてくれば応戦せよ! 危なくなれば、我らに構わず国元へ帰れ!!』と、三つの命令を残して。

 

迷吾「………俺達は、左慈なる者の口車に乗った。 いや、実力で服従させられたからな。 この俺が……手も足も出せない奴とは……」

 

阿貴「『強き者こそ、皆を導く指導者也』が、我らの盟約であり決まり事。 責任は、受けてしまった王が取る! その王が死ねば盟約は白紙と帰し、残りの兵は自由だ!」

 

そう言って、自分達の私兵のみを連れて来たのだ!

 

中に連れて行って欲しいと懇願する者も居たが、迷吾は拳で、阿貴は言葉で説得?して、黙らせた!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

握り飯をムシャムシャ食べていた何進は、眼下の兵にようやく気付く。

 

何進「おぉ! そこに居るのは、音に聞こえた羌、氐の騎兵か! だが、ここから見れば芥子粒にしか見えぬ烏合の衆! 正に絶景かな、絶景かな!!」

 

何進が、何かを大声で語る! 他の兵には言葉が通じず分からなかったが、王達には意味が通じた。 漢王朝と何かとやり取りする為、必然的に覚えさせられたのだ!

 

迷吾「あぁ~ん? 俺らの誇り高き一族を塵屑呼ばわりだとっ!?」

 

阿貴「………………………」

 

何進「ふふふっ! この儂の挑発如きに乗るなど未熟な証拠よ! それにな、お主達は騎兵。 このような山間で戦うなぞ不慣れだろう? 勝敗なぞ既に決まっておる! 速やかに投降するがいい!!」

 

その言葉を聞いて、ニヤリと笑う二人の王。

 

迷吾「………未熟者はテメェだよぉ!! 俺達の居る所をどこだと思っていやがったんだぁ!? 益州と同じ山の中さぁ!!」

 

阿貴「お前達、漢民族が我らを迫害し続け、そんな辺境に住むしかなかったのだ! 今こそ、その報いを知るがいい!! 

 

──────兵達よ! 馬を降りて山頂の痴れ者を討てぇぇ!!!」

 

『オオオォォォ──────!!』

 

剣、槍を手に取り、馬を降りて徒歩で登り始めた! その動きは山岳戦に慣れた益州兵と同じ、いや、鍛錬不足の多い益州兵より、遥かに機敏な動きを見せて、何進を目標に掛け登っていった!!

 

 

◆◇◆

 

【 氷砦と……… の件 】

 

〖 西涼 西涼城付近 にて 〗

 

白菊「詠! 砦の準備は出来たかい?」

 

詠「土塁は四丈(約十㍍)まで積み重ね、近くの川の水をタップリと掛けてやったわよ! あと、砦付近も一面に同じように掛けるようにしたわ!」

 

翠「あたしには、さっぱり分からないけど……どう意味があるんだい?」

 

白菊「ふっ! 心配すんな、あたしにだって分かんねぇよ!」

 

一国の太守の意見と思えない発言に……頭を抱える詠。

 

詠「ちょっと! アンタには説明したでしょう? この後の展開とか!」

 

白菊「分かってるさ! 一晩待てば、美味しく出来上がるだったな!」ウンウン

 

詠「───────────!」ガクッ!

 

月「詠ちゃん! 蒲公英ちゃんと竹筒用意したけど───?」

 

詠「月ぇ~!! お願いだから月は、こんな奴みたいにならないでぇ!!」

 

月「えっ? えっ!?」チラッ……

 

白菊「ん~っ? どうしたんだい?」

 

腰を屈み込み、顔を近付ける白菊。 自然に胸が強調されて月の目線を釘付けにする。 思わず、自分の胸を触り……涙目になった顔を……詠に向け睨む!

 

月「………詠ちゃん! 私に白菊様みたいな胸になるな……と言いたいの?  自分だけ、私より大きいのを持って……自慢したいなんてぇ! 詠ちゃん…なんてぇ────大嫌いぃ!!!」──ダッ!

 

詠「えぇっ!? なんで、なんでそうなるのぉよぉ!! ゆ、月ぇ! 待って! お願いだから理由を聞かせてぇ─────!!!」ダダッ!

 

翠「…………なんだったんだ?」

 

白菊「ふむっ! 難しい年頃だな!」

 

蒲公英「あは、あはははははっ………」

 

★☆☆

 

翌朝、南匈奴左賢王『劉宣』率いる百万の騎馬兵が現れる。

 

毛皮を纏い、胡服を着用して耐寒性と機動力を高めた服装で、この戦に望む意気込みが知れる! だが、中には顔立ち、服装が明らかに違う者達が混じっている。

 

劉宣「今こそ、我らを顎で使う漢王朝を蹂躙し、南匈奴の独立を図るのだ!」

 

劉宣は、南匈奴だけの軍勢では足りないため、周辺の国々も巻き込んで百万の大軍を揃えた。 

 

『漢王朝を蹂躙できた暁には、過分の礼を贈る!』

 

そのような条件と数々の貢ぎ物で承諾を得て、ここ西涼に攻め込んだのだ。

 

劉宣「最初の先陣は、南匈奴の我らが切らせてもらう!! 行くぞ!!」

 

ドオォ────ン!

 

ドオォ────ン!

 

合図の太鼓が鳴りだし、五万の騎兵が押し寄せた!!

 

◇◆◇

 

【 託され〖策〗 の件 】

 

〖 洛陽 宮廷内 稟私室 にて 〗

 

「稟ちゃんー! 何をボンヤリしてるのですかー?」

 

椅子の上でウトウトしていた私は、ハッとして声を掛けた相手を見ました…………が、その場所には誰も居ない…………!? 

 

目の前に見えたのは、私が寝る予定だった寝台、朝日が射す暖かな窓際、そして昨日まで読んでいた『とある軍師の軍略書』が机の上…………にぃ?

 

えっ? な、無い! 確か………置いたままに─────!?

 

「もうぅ! 風にも見せてくれなきゃー怒っちゃいますよー!!」

 

????─────! バッ!

 

その喋り方を聞き、寝ぼけていた私の意識が急速に覚醒しました。 

 

前から聞こえたのは『腹話術』! ならば……後ろに控えている人物は!!

 

私は立ち上がって振り向き、叫びながら手の背でツッコミを入れました!!!

 

稟「何をやっってるんですか─────風!!!」

 

すると、私の手は……風の弾力の少ない胸に当たらず、何か柔らかいモノに?

 

宝譿「………おいおい、大人げなさすぎだぜ。 久々に自分が主人公気分を味わえれるからって、有頂天になっているのかい?」

 

稟「きゃあああぁぁぁ─────!!!」

 

わ、私の後ろに…………人並みの大きさになった『宝譿』がぁ!!!

 

宝譿?「ふふふっ、掴みは成功ですね~? よい~しょっと!!」カポッ!

 

宝譿が……自分の頭を外すと……中から風が…………!

 

稟「な、何を、貴女はやりたいのですかぁぁ!!」

 

風「……稟ちゃん。 それは風の台詞ですよー?」

 

宝譿の衣装?をアッサリと脱いで、私の顔を見つめる風。

 

風「……颯馬お兄さんより、何か……頼まれたんですね?」

 

稟「──────────!」

 

風「風は知ってるんですー! 颯馬お兄さんが出発する前夜、稟ちゃんに託した事があったのを。 この軍略書もそうでしたよねー? 稟ちゃんが震えながら受け取っていましたからねー」

 

稟「……………………」

 

風「稟ちゃん! ………どうして、颯馬お兄さんより託された策を、風に教えてくれなかったのですかぁ!! 風に相談して貰えば、稟ちゃんの負担だって減るんですよー!! 

 

それなのに、あの日以来……夜遅くまで部屋に明かりを灯し、そんなに目の下へ隈を作るまで頑張って──!! どうして、風を頼らないのですかー!!」

 

………あぁ~ぁ、ばれてしまいましたか。 でも、正直限界でしたし……。

 

稟「………愛紗殿や他の将兵に聞きましたよ。 貴女は真名を汚された事を私達に隠して平気に振る舞い、見事欺いてくれたそうではないですか?」

 

風「あ、あれは~!」

 

昨夜の寝不足からか……頭がボンヤリと……………。 

 

しかし……今……語って置かないと。

 

稟「私は……風の事を、何でも分かると……過信していたようです。 風の苦しみが分からないのに、友達面していた自分が………憎かったのですよ。 

 

颯馬殿は、二人で考えて欲しいと言われていたのに……駄目ですよね? 私情に走るなんて……軍師失格ですよ………」

 

風「り、稟ちゃん! 風は、風はぁ───!!」

 

眠い………安心したら………眠い…………

 

稟「本日は、非番ですので……一休みしますよ。 風……は………その軍略書を読んだ後に…………意見を聞かせて……下さいぃ~。 颯馬殿のぉ……朝敵包囲網を………完成すべき作戦をぉぉ……」ムニャムニャ

 

風「稟ちゃ────ん!!」

 

ーーーーー

ーーー

 

風「…………仕方ありませんねー。 風の復讐は……またの機会にして、早急に対策を講じなければいけませんー! 稟ちゃん……風の意見を聞くまで、風邪など引かないで下さいねー!」

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

 

………で、私はこの後、風に相談しましたよ? 

 

風邪……ですか? 

 

は、はいっ! ご心配……お掛けして申し訳ない! 

 

えぇ! 大丈夫です! 誰かが、あの後に布団を掛けてくれたようでしてね。 

 

ただ、夢うつつでしたが……『よいしょっ!よいしょ!』と、宝譿が一生懸命、布団を掛けてくれた気がするんですよ……人並みの大きさのね。

 

◆◇◆

 

【 迫る地獄からの使者 の件 】

 

〖 益州 成都近辺 にて 〗

 

何進「…………ならば、相手をしてやろう!」

 

何進が腕を上げると、三方の周りから黒い物がノッソリと現れた! 

 

羌兵「う、牛……だよな?」

 

氐兵「………あれが、犬にでも見えるのかよ?」

 

しかし………見慣れた牛の姿にしては、異様の一言! 

 

両角には、鋭利な小刀が結び付けられ、身体に赤い布が巻かれ、八卦図が描かれているではないか! しかも、尻尾に油を注いだ藁が固く結ばれている。

 

そんな牛が、目に見えるだけで五十頭!

 

今から、何が始まるか………固唾を飲んで立ち止まる羌、氐兵達!!

 

何進「我が相方『天の御遣い』より授かりし『真・火牛の計』!! 特と食らうがいいっ!!!」

 

何進が手を下ろすと、後ろで松明を持って待機していた兵が、牛の尻尾に点火し、下に進ませた!!

 

ブモオオォォォーーー!! ガッガッガッ!

 

ドドドドドドーーーーー! ブンッブンッ!!

 

火の熱さで大暴れする牛の大群は、下に向かい突撃し出す!!

 

羌兵「に、逃げろバアアァァァ─────!!」グサッ!!

 

氐兵「うわあぁ!『ドン!!』ギャアアアァァ──!!」

 

ある者は……小刀で刺されたまま連れて行かれたり、またある者は、牛の蹄にかけられ潰された………!! 

 

また、ある者は……ぶつかり角に掛けられて空に放り出された後、後続の火牛に同じくぶつかり、再度放り投げられた。 無論、命は無い!

 

迷吾「ちくしょうぅ───!! アイツの妖術を破ったんじゃねえのかぁ!」

 

阿貴「これは妖術じゃない! 普通の策だ!!」

 

迷吾「どちらにしても……俺達には傍迷惑なんじゃい!!!」

 

唯一の出口である狭き場所も、逃げ出す羌、氐兵と入りきれずに外で待っていた配下達の救援が重なり、通行不能になった!

 

★☆☆

 

〖 益州 成都近辺 街道沿い にて 〗

 

そして、奇しくも同時刻。

 

迷吾、阿貴の帰り待つ九十五万の将兵にも………災いが訪れた。

 

桔梗「ほぉ~? 敵地に止まっているのに、なんと間抜けな見張り方じゃ! ここまで大軍ならば、周辺に探索の目を放たねば……奇襲を掛けられて終いじゃ!! まぁ、理由など……直ぐに分かるがな!?」

 

桔梗は、配下に準備していた牛達を、三カ所に配置させる。

 

桔梗の居る場所は街道の上。 そこに牛を千頭用意してある! 計略を掛ける所を、三カ所と決めて準備をしておき、今回は二カ所が該当した結果だった。

 

桔梗「『塩壺』を準備! 牛を何時でも放てるように用意しておけ!」

 

益州兵「はっ!」

 

ーーーーーーーーーー

 

羌兵「今回は楽な戦いになりそうだな?」

 

氐兵「ははっ! 全くだ! これで大陸を制圧出来れば、俺達英雄の一人だぜ! 家族にも楽させてやれる!」

 

ーーーーーーーーーー

 

桔梗「今じゃ! 全員、『塩壺』を落とせ!!」

 

益州兵「『塩壺』投下!」

 

益州兵が、山の斜面より塩が入った壺を………転げ落とす!

 

ゴロゴロ! ゴロゴロ! 

 

壺は斜面を転がり羌、氐兵の陣営まで転がる!!

 

羌兵「なんだぁ! 壺が───?」

 

氐「避けろ!!」

 

────ゴン! ガチャン!! ガチャン!!

 

ザアァァ─────!!

 

落ちて割れた壺から………塩が零れ落ちた!

 

ーーー

 

桔梗「解き放てぇぇっー!!」

 

益州兵「はいっ!」

 

モオォォォー! ドドドドドドッ!!

 

三カ所より牛が放たれた! 

 

しかし、この牛には仕掛けは何もしていない。 『火牛』のような装束も無い、普通の牛。 ただ、追って……方向を定めただけである。 

 

ーーーーーーーー

 

氐兵「う、う、牛だぁ───っ!」 

 

羌兵「牛がこっちにくる『ドゴッ!』────ぐへぇっ!!」

 

氐兵「こ、この野郎が『ボゴッ!』ーーーーハガッ!」

 

ーーーーーーーー

 

桔梗「成る程………閣下が仰った通りか。 次の塩投擲、投げ入れろ!!」

 

益州兵「はいっ!!」 ブンッ!

 

今度は、塩の入った袋が投げられる。 そのままでは、些か軽いゆえ、拳で握れる石を袋に入れ、口を開けて投げる。

 

数十袋投げると、辺り一面、塩だらけになり羌、氐兵の陣営では悲鳴が響き渡る!! 塩が目に飛び込み、口に入ったりと大騒ぎ!!

 

ーーー

 

羌兵「し、塩!? う、旨いじゃないかぁ! これなら……漬け物が美味しくできる! どこの塩だ、これはぁ!?」

 

氐兵「保存食に最適だ! 帰りに土産で買ってくぞぉ!」

 

おおぉぉいぃ!! 台詞が違う!! やり直し!!!

 

ーーー

 

羌兵「ぐわぁ!! 目が、目がぁ~!!」

 

氐兵「く、口が塩辛い(棒)」

 

ーーー

 

………牛の勢いが更に盛んとなり……羌、氐兵の陣営の混乱が、よりむごく、より激しい状態と化した!!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

『 真・火牛の計 』

 

斉の田単が即墨で使用したと言われる『正当』な『火牛の計』。

 

概要としては、夜間、『小刀を両角にくくりつけ、尻尾に葦の葉を結び、油を注いで火を付けて、怒り狂わせた牛千頭』を先に行かせる。 少ししてから、兵五千を引き連れ、敵軍を壊滅させたという。

 

角に松明を付けて敵を困惑させたと軍記物にあるが、そんな事をすると、牛が恐怖で後込みして、使い物にならないとの事。

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

『 塩投求牛の計 』

 

元肉屋の何進が、天城颯馬と相談して決まった『火牛の計』の換骨奪胎版。

 

牛が塩を好み、益州が良質の岩塩産地である事に目を付けた何進は、それを策として提案。『火牛の計』を考えていた颯馬により、ダメージが少ない混乱策として採用される!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

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あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

何進の妖術っていうか策になります。 妖術?は次回になる予定です。

 

『真・火牛の計』は、ちょっとした問題提起みたいなモノです。

 

源義仲や北条早雲の火牛攻め………あの方法では、利用出来なかったとなりますので。 《 参考資料 『戦国時代の計略大全』 PHP新書 》

 

もう一つの策は、オリジナルですので、探してもありません。

 

また、よろしければ読んで下さい。

 

下の話は、前作で省いた春蘭と道雪の模擬戦です。 いいアイデアが浮かばなかったので、あのような結果になりました……すいません。

 

◆◇◆

 

【 春蘭対道雪の戦い の件 】

 

〖 徐州 下邳城 練兵場 にて 〗

 

春蘭の申し出は………紆余曲折の末に通り、対戦に漕ぎ着けた!!

 

周りには曹操軍の将、天の御遣い達が並ぶ。

 

星「………双方、準備は宜しいか?」

 

充分の広さを取り、双方の邪魔にならない位置で、監視役となる星。

 

春蘭「何時でもいい! 早く合図を出せ!! 私は『鬼』を倒し、この世の『羅刹』になるのだぁ!!!」

 

道雪「こちらも、大丈夫ですよ?」

 

春蘭は、『ガルルルルッ!』と擬音が付きそうな凄い目つきで、道雪を睨みつけ、道雪は道雪で………静かに車椅子『黒戸次』を動かす!

 

星「………ふっ! 熱くなるのは多いに結構。 しかし、我らは強敵が控えている! このようなところで……全力を戦う愚かさが分かるだろう! よって、勝敗は分かりやすい一撃の決まり手が見えた時! もしくは………」

 

 

『…………………………!』

 

 

星「…………どちらかの『ポロリ』が見えたとき!」

 

 

『……………………はっ?』

 

 

腑に落ちない……て言うか納得出来るかぁ!と、辺りの将達の視線が星に集中する。 しかし、星は微動だにせずに理由を説明した!

 

星「甘い、甘いな! 対戦となれば、衣服は斬られ乱れ飛ぶは常識! 二人とも肉感的には充分ありえますからな? もし、そうなれば、対戦どころではありますまい!?」

 

春蘭「そ、そんな事があってたまるかぁ!!」

 

道雪「………確かに……有り得ない事ではないですが……その場合、夏侯元譲殿はかなりの薄着。 私は、この通り何枚も重ね着をしているのですよ? その判定では、私が有利では?」

 

一刀「常識人に見える道雪殿が納得した……!? よくあるのか、そんな事が!!」

 

一刀は驚き異議を唱えるが、春蘭を除き……全員納得と頷く!

 

一刀「だからさぁ! その場合、普通に有効打を狙って………」

 

華琳「………春蘭、命じます! 道雪殿の衣服、切り裂いてしまいなさい!」

 

春蘭「はっ! 華琳様の御命令とあれば!!」

 

一刀「おおぉぉ────い! 命じるな!!!」

 

★☆☆

 

まぁ、そんなこんなで……始まった。

 

星「では………始めぇ!!」

 

ーーーーー

 

春蘭「いくぞぉ!! でぇあああぁぁ!!」

 

道雪「─────ふっ!!」

 

春蘭の七星餓狼が道雪に迫るが、黒戸次を瞬時に移動させて、その攻撃を避ける。 しかも、動かすのは位置だけでなく姿勢まで!!

 

春蘭が横に薙ぎ払えば、車輪を止めて、背もたれを地面に付けてかわす!

 

足元を狙えば、『雷斬り』で受け流す!

 

ーーー

 

春蘭「はぁー! はぁー! はぁー!!」

 

道雪「どうしました? 貴女の力は……この程度の力ですか?」

 

春蘭の攻撃を何回も避け、かわし、翻している道雪! 

 

結局………春蘭の方は息も絶え絶えだか、道雪は戦う前と同じ状態。

 

春蘭「ふ、ふんっ! 舐めて貰っては……困るわぁ!」

 

道雪「ですが………次は私の番ですよ…………」

 

春蘭より距離を取った道雪は、雷斬りを無造作に薙いだ!

 

春蘭「─────!」サッ!  ドォーン!

 

春蘭が避けた後ろで衝撃音が聞こえ、砂塵が舞い上がる!!

 

道雪「見えぬはずの闘氣の刃『闘刃』を避けましたか。 ですが、これならどうです?」

 

少し軽めに雷斬りを振り、同じように春蘭が避けた………が、背後で大きな衝撃音がしない! 不思議に思う春蘭に、遅れて軽い衝撃が走る!!

 

季衣「春蘭様あぁ─────!」

 

春蘭「ぐっ! な、何が起きたんだ!?」

 

片膝を付いた春蘭へ……道雪が説明する。

 

道雪「一度見破られた技を、再度放つ愚などしません。 貴女に二回目に放ったのは、軌道を曲げて後ろの膝裏を狙いました………」

 

そして、数回雷斬りを振ると…春蘭に軽い呻き声が聞こえ、残りの腕、足に闘刃を打ち込み、麻痺させる。

 

秋蘭「あ、姉者!!」

 

春蘭「ぐっ! 動けぇ! 動かないかぁ!!」ガタガタガタ

 

道雪「………残念ですけど……これで、終わりです! 我が闘刃は、使い手だけが抜く事ができますので、貴女が負けを認めれば……動かせるように致しましょう。 …………如何ですか?」

 

春蘭「だ、誰が負けを認めるか! こんな物など───!!」

 

春蘭が……幾ら動かそうと身体に力を入れるが、動ける様子は無い!

 

星「ふむ。 …………勝負、ありましたかな?」

 

★★☆

 

その時、曹操陣営で………一刀が叫ぶ!!

 

一刀「春蘭! 身体の中から刃を抜くように、想像するんだ!」

 

春蘭「か、一刀!?」

 

宗茂「ちょっと!? 助言なんて狡いですよ!」

 

驚く春蘭、対戦で助言を述べる事に苛立ち、文句を言おうとする宗茂! 

 

だが、横に居た高橋紹運が、それを止めた。

 

紹運「………いや、好きなようにやらせよう!」

 

宗茂「………えっ? どうしてです、姉上?」

 

紹運「見ていれば………分かる!」

 

宗茂にそう言い放つと、腕を組み直し尊敬する姉の戦い振りを再び見る。

 

ーーー

 

春蘭「くっ! ぐっ…………くおおおぉぉぉ────!!!」

 

春蘭に肉薄する道雪。 春蘭が咆哮を放つが変わるところは無い!

 

道雪「では………これで、終わりにしましょ──はっ!?」

 

カラカラカラカラカッ………!

 

最後の決定打を放つ予定で近付くと、春蘭の氣の高まりを感じ、立ち止まった! ────そして、春蘭に異変が起きた!!

 

春蘭「がああぁぁぁ─────っ!!!」

 

フシュン! フシュン! フシュン! フシュン!

 

春蘭の身体から輝く光が四つ、放たれた!!!

 

道雪の闘刃を………自力で抜いた瞬間である!!

 

しかし、強制的に抜いたため疲労は酷く、顔は青ざめ……身体はブルブルと震え今にも倒れそうなほど。 それでも、足に力を入れて立ち続ける。

 

ユラユラ ユラ~リ!……………ぐっ!

 

春蘭「私は………な! アイツらに誓ったのだ! 仇は必ず討つと!! このような無様なやられようでは、あの世で顔向けなど到底出来んのだ!」

 

道雪「………流石は、この世の羅刹と言うだけありますね?」

 

春蘭「が…………がは───っ!!」

 

やっと、立ち上がったと春蘭だが、闘刃を強制的に自分の身体から抜いたため、その反動は惨く、気を失い倒れそうになる!

 

道雪「これまで……ですね!」

 

カラカラ───! ポフッ!

 

黒戸次を瞬時に動かし、倒れそうな春蘭を抱きしめる。

 

星「勝負あり! 勝者……立花」

 

道雪「星殿………この勝負、引き分けです」

 

勝者である立花道雪から、物言いが行われなど前代未聞!

 

星「なんと言われる! どう見ても道雪殿の圧勝としか見えないが……?」

 

道雪「……あの技は、私の全力で放った物なんですよ。 それを助言を受けたと言えど、自力で外した。 あの後の技は……ありません。 だから、引き分けなのです!」

 

星「道雪殿程の武人が、申すのであれば…………この勝負、引き分け!!」

 

道雪の武人としての矜持の高さに感服した星は、納得して勝敗を定めたのであった!!

 

★★☆

 

季衣「しゅ、春蘭様~! しっかりして下さい!」

 

春蘭「…………………」

 

桃香「静かに、動かさないように運んで下さい~!」

 

曹兵「はっ!」

 

ーーー

 

秋蘭「華琳様! 今回の勝負、些かやり過ぎではないかと!!」

 

桂花「僭越ながら………私も思います! 確かに春蘭は武に特化し過ぎて、他の事が残念な状態になっている武人です! ですが……晋との戦も目前にして我が軍の武人筆頭が……倒される! こんな事、許される訳がありません!」

 

華琳「立花道雪殿…………」

 

道雪「…………はい」

 

華琳「曹孟徳……心から礼を述べさせていただく。 いい経験をさせて頂き感謝する!」

 

『え───────────っ』!!

 

季衣「華、華琳様! なんで、なんでですかぁ!? 春蘭様があんな酷い事になったのに、華琳様が礼を言われるですか!? ボクには、納得出来ません!」

 

流琉「……………華琳様、申し訳ありません。 私も季衣の意見に賛成です。どうか御説明をお願いします!!」

 

真桜「ウチも………納得いかへん!」

 

沙和「沙和もなのー!」

 

華琳「……いいでしょう、説明します! 孫呉へ司馬懿、いえ松永久秀の侵攻があったとき……貴女達に徐州攻略を命じたため、知らないのは仕方ないでしょう! 

 

……しかし、私は孫呉に残り、実際に対峙したの! 恐るべし『傀儡の将』の力を!!」

 

華琳は説明をする。 

 

天城颯馬を中心として、『天の御遣い達』数人掛かりで対峙したが、為す術がなかった事。 立花道雪並みの力を持つ者達が………。

 

颯馬の奇策と皆の力で倒したが、被害は莫大であった事!

 

ーーー

 

桃香「あ、愛紗ちゃんが死にそうになった……なんて………」

 

一刀「…………士仁、この世界にも居たんだ……」

 

星「私も参戦したが、相手は稀代の猛将『呂奉先』、『本多忠勝』を含む幾多の猛将を相手取り、一歩も退かないどころか、こちらを圧倒しそうになりましたぞ!?」

 

秋蘭「筒井順慶以上なのか───!?」

 

華琳「だから──今度戦う晋の軍勢に、『傀儡の将』が居るはず! 同じような過ちを繰り返さないように、道雪殿は教えてくれたのよ! 私達との力量の差を!!」

 

麗羽「それは言えますわ……。 この軍の将兵は、実際に晋の軍勢に対峙した経験が少ないですもの。 心構えが違うだけでも、かなりの被害が減らせるはずですわ! 

 

猪々子さん! 斗詩さん! 貴女達も……義弘様や紹運様方に相手をお願いなさい! このような事、そうはありません事よ!?」

 

猪々子「いいぃ~!? 久々の出番なのに、早くも死亡ふらぐが立った!?」

 

斗詩「え、え~と、立花宗茂様! お願いします!!」

 

宗茂「………………いいでしょう! 宜しくお願いします!!」

 

猪々子「あぁ~斗詩! 卑怯だぞぉ!!」

 

義弘「心配しなくてもいいわよ! 私も早くやりたくて、ウズウズしちゃてね? 順番なんて待って居られない!!」

 

猪々子「…………お、鬼島津!?」

 

義弘「その名で言うなぁぁぁ──────!!!」

 

ーーー

 

道雪「では………元譲殿の治療の手伝いに、参らせて頂きますので……」

 

華琳「それでは、お任せします! それと、良ければ私に………」

 

道雪「………私も、最後まで今の主に殉じる身。 そのような誘いは、全部お断りさせていただいております故。 では…………」

 

カラカラカラカラカラ……………

 

華琳「心技体……どこを見ても名将……ね。 残念だけど諦めましょう。 次の戦いも控えている事だし……………」

 

 


 
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