No.708361

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-08-13 11:58:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:530   閲覧ユーザー数:515

 

 

 story15 潜入捜査

 

 

 

 時間は遡って今日の朝一番の事――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 鈴野は背伸びをして周囲を見渡す。

 

 しかしそこはいつも見慣れた景色ではなく、別の場所であった。

 

 それに加えて、鈴野の服装も大洗の制服ではなく、別の制服を着ている。

 

(こうも簡単に忍び込めて、更に制服も簡単に手に入るなんて・・・。この学校のセキュリティーってどうなっているのかしら。

 まぁ、だからこそ想定外に楽なんだけど)

 

 そうして腰に付けている少し大きめのポーチを確認してから前を見ると、そこには大洗女子学園とは違う別の学校があった。

 

 それもそのはず。鈴野が居るのは・・・・・・全国大会の最初の対戦校となる『サンダース大学附属高校』の学園艦なのだから。

 何でもあの手この手を用いて学園艦に忍び込んでいるらしい。

 

(宣言したからには、それなりに情報を持って帰らないと・・・)

 

 気を引き締めると、普段どおりのようにサンダース附属に潜入する。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 しかし予想外にも簡単に学園の空気に馴染み、怪しまれる事なく廊下を歩けれた。

 

(アメリカらしいフレンドリーな学校だね。まぁ、そういうお陰でこちらとしても潜入しやすかったけど)

 

 怪しまれないようにしながら周囲を見渡す。

 

 

「はーい!」

 

『ハーイ!』

 

 すると、不意に聞き覚えのある声がして鈴野はその方向に顔を向けると、知り合いがそこに居た。

 

(秋山?なんであいつがここに・・・)

 

 そこには自分と同じサンダースの制服に身を包む秋山の姿があった。

 声を掛けようと考えたが、すぐにやめる。

 

(いや、ここで声を掛けると怪しまれるかもしれない。向こうは気付いてないけど、今は別行動としよう)

 

 そう考えながらも、しばらく廊下を歩く。

 

 

 

 

 しばらくして鈴野はサンダース附属の戦車格納庫へと到着する。

 

(さすがに全国一とあって、数が多いわね。しかも殆どがシャーマン系列の戦車とは)

 

 まぁ中にはシャーマン以外の戦車も混じっており、格納庫の中で一際目立つ戦車もあった。

 

(まさかあの『パーシング』もあったなんて。まさか一回戦で使われる事はないわよね・・・・)

 

 色々と考えながらも、保有戦車を調べる。

 

(・・・・あの手で聞き出せる範囲まで聞いてみよう)

 

 と、鈴野は腰に下げているポーチよりメモ帳を取り出し、胸ポケットに挿しているペンを右手に取り出す。

 

「あの、すみません」

 

「・・・・?何でしょうか?」 

 

 鈴野は通りかかったサンダース附属の女子生徒を呼び止める。

 ツナギ姿で、上着を腰に巻きつけているので上は黒いタンクトップと言う格好で、右手にはレンチを持って肩に担いでいた。金髪のミドルヘアーの根元をゴム紐で結んで頭に赤いバンダナを付けている。

 

「あなたは戦車道を取っている生徒ですか?」

 

「えぇ。私はその整備長よ」

 

 整備長となれば、そこそこ知っていることがあるはず。

 

「私は今戦車道を取っている生徒から全国大会の初戦への意気込みを取材しているんです」

 

「へぇ。そうなんだ?」

 

 すると整備長はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「是非、整備長としての意気込みを聞かせてください」

 

「分かったわ」

 

 あっさり承諾した・・・・。てっきり警戒するかと思ったのに・・・・

 

「そうねぇ・・・・。隊長達が全力で戦えるようにするのが私達整備員の役目。そんでもってかくかくしかじか―――――」

 

 

 

 

「それでさぁ。あーだこーだになったよぉ」

 

「は、はぁ」

 

 鈴野は整備長が歩くのに合わせながら話を聞く。

 

 最初こそ意気込みを語っていたのだが、どういうわけか中盤から日頃の鬱憤を晴らすかのように愚痴ばっかりをこぼしていた。しかも中盤から口調も変わってるし。

 

 周囲で他の戦車を整備している生徒が「あーあ。整備長の愚痴話を聞かされているよ」「整備長の愚痴話は長いからなぁ」と呟く。

 よくあるんだ・・・・

 

「特にアリサの野郎。この間の練習中にM4A1がエンストしてよ。それをこじ付けにして文句を言いつけて来たんだぜ?エンストは多少の件はこっちにあるかもしれないけどよ、こっちとら選手に思う存分試合をしてもらう為にやってんだ。簡単に整備不良で起こるもんじゃねぇんだよ」

 

「そ、そうですか・・・・」

 

 日頃どれだけストレスが溜まっているかが分かるような気が・・・・

 

 メモ帳に整備長の言った事をメモしているように見せて、実は保有戦車の書き留めと、整備長の発言の中にある重要な事をメモしている。

 

「それと、ここだけの話だけど、去年の全国大会でアリサの野郎自分の戦車に無線傍受機を載せて試合に臨んでいたんだぜ?」

 

「無線傍受機をですか?」

 

 少し気を引き締めて耳を傾ける。

 

「あぁ。それで敵の作戦を盗み聞きして二回戦まで勝ち進んだんだよ。だが、二回戦で負けたんだぜ?何でだと思う?」

 

「さぁ?」

 

「二回戦目の対戦校の隊長が勘が鋭かったみたいだったんだよ。無線傍受を逆手にとって、逆にはめられてフラッグ車を撃破されたんだったらしい」

 

「なるほど」

 

「それとここだけの話。その時フラッグ車を撃破したって言うけど、実際はカミカゼアタックを車体側面から喰らってそのまま横転させられて行動不能になったらしいぜ?」

 

 対戦相手も滅茶苦茶な戦術だなぁ・・・・

 

「まぁその時は無線傍受機の件は隊長にはバレなかったんだが、うちの隊長はそんなアンフェアな戦いを嫌っているんだ。もしバレていたらとことん説教を受けていただろうよ」

 

「にっしししっ!」と整備長は笑う。

 

 

「そ、それで、先ほど何をされていたのですか?」

 

 さすがにこれ以上愚痴を聞いているとかなり長くなりそうなので、それはまずいので話題を変える。

 

「おう!初戦に出す戦車の整備だよ!」

 

「初戦に出す戦車ですか?」

 

「あぁ。M4を6両、M4A1/76ミリ砲搭載、イージーエイト、ジャンボ、そしてファイアフライを1両ずつを使うようだ」

 

「初戦から豪華ですね」

 

「みたいだな。だけど、複数の種類での運用は整備する側には結構きついんだよな。シャーマンは整備しやすさで定評なんだが、どれも一つ一つ癖が違うし、何よりイージーエイトとジャンボ、ファイアフライはもっと違うから、面倒なんだよ」

 

「なるほど」

 

「まぁあそこにあるパーシングは準々決勝から使うって事らしい。それだけでも整備側は少し楽になるもんだ」

 

 整備長はパーシングを指差す。

 

「はぁ・・・(この整備長・・・結構口が柔らかいな・・・)」

 

 何も直接的な事を聞いていないのに、整備長は次々と機密を喋っている。

 いいのか?こんなのが整備長で・・・

 しかしパーシングが出ないだけでも、こっちとしてはハードルが下がったものだ。

 

「まぁフラッグ車は今行われているブリーフィングで決められるらしい」

 

「今ブリーフィングが行われているんですか?」

 

「あぁ。隊長を取材したいなら会議室に向かいな」

 

「そうですか。ありがとうございます。取材にご協力いただいて」

 

「いやぁ良いんだよ」

 

「では、私はこれで」

 

 鈴野が頭を下げて格納庫を出ようとした時―――――

 

 

 

「あぁそれとさぁ」

 

 不意に整備長が口を開き、一瞬鈴野はビクッと内心で焦る。

 

「あの愚痴は出来るなら公表しないでくれよ?後でアリサに何を言われるか分からねぇからな」

 

「は、はい。あくまで個人の取材なので、公表するわけではありませんから、大丈夫ですよ」

 

「そうか。そんじゃぁ、取材頑張れよ!」

 

「はい」

 

 鈴野は再度頭を下げて格納庫を出る。

 

 

 

 

(少し焦ったけど、ここだけでこんなに情報を得られるなんて思って無かったわ)

 

 先ほどの内容をメモに書きながら整備長が言っていた会議室に向かう。

 

(それにしても、秋山はどこに行ったの)

 

 最初に見てから秋山の姿を見ていない。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 しかし鈴野が到着した時には既に作戦会議は終了しており、何やら周りが騒がしい。

 

「・・・・・・」

 

 すると、目の前に金髪のウェーブが掛かった女子生徒が通り過ぎる。

 

「あ、あの!」

 

「・・・?」

 

 女子生徒は鈴野の声に反応して立ち止まってこっちを向く。

 

「今戦車道の隊長を探しているのですが?」

 

「あぁ。それは私の事よ」

 

「そうですか」

 

 偶然とは言えど、隊長一人と会える時に遭遇したのは、チャンス。

 

「ケイよ。あなたは?」

 

「私は今戦車道をしている生徒に全国大会の初戦への意気込みなどを取材しているんです」

 

「取材ねぇ」

 

「先ほど整備長の取材をして、隊長は今は会議室でブリーフィングをしていると聞いたので」

 

「そっか」

 

「それで、取材してもよろしいですか?」

 

「問題ナッシングよ!むしろ大歓迎!」

 

 隊長もフレンドリーだな・・・

 

「では、初戦への意気込みを聞かせてください」

 

「えぇ。相手は初参戦になる無名校だけど、どんな相手にもフェアな戦いをするのがサンダースの信条なの」

 

「なるほど」

 

「まぁそれでも、初戦から全力で行かせて貰うの」

 

「そういえば、整備長も言っていましたね。今回は結構豪華な組み合わせかと?」

 

「えぇ。フラッグ車もブリーフィングでM4A1にしたしね」

 

「なるほど(重大な情報を喋るなんて・・・。本当にこの学校は口が軽い。って、いいのかな)」

 

 鈴野は他の事をメモしながらも、フラッグ車も書き加える。

 

 

 その後サンダースの隊長は戦車の配置などを喋ってくれた。

 本当にこの学校大丈夫なのか?

 

 

 

「何所に行った!?」

 

「そっちを探せ!」

 

 と、周囲が騒がしくなる。

 

「・・・そういえば、何だか周囲が騒がしいですね」

 

「あぁ。何だか大洗からのお客さんが来てね。ちょっと探しているんだよね」

 

(バレたのか、秋山・・・)

 

 サンダース附属の生徒は血眼になって辺りを捜索して、私は少し息を呑む。

 

 

「取材へのご協力・・・感謝します」

 

「気にしないで。この取材は記事にするの?」

 

「あ、いえ。あくまで個人としての取材ですので、公表まではしません。まぁするとしたら試合が終わった後ぐらいですね」

 

「そっか。じゃぁ、記事に期待しているわよ!」

 

「出来ればですね。では、私はコレで」

 

「バーイ!」

 

 鈴野はサンダースの隊長に見送られながらも、怪しまれないようにその場を離れる。

 

 

 

 

(まずいわね。ここで秋山が捕まると厄介になる)

 

 鈴野はメモ帳とペンをポーチに仕舞うと、少し急いで歩いて秋山を探す。

 

(まぁ、もしもの時の為にそれの準備はしてきたけど、まさか使う事になるとはねぇ)

 

 そんな事を考えていると、周囲の騒がしさが増える。

 

「スパイはそっちに行ったぞ!」

 

「このまま袋のネズミだ!」

 

 と、サンダースの生徒は倉庫近くに向かう。

 

 

「・・・・・・」

 

 鈴野は生徒が行った倉庫の反対側へと走る。

 

「・・・秋山」

 

 倉庫の角の陰よりこっそり覗くと、そこには動揺しながらも身を隠す秋山が居た。

 

(見つけたは良いけど、このままじゃ捕まるのは時間の問題)

 

 先ほどサンダースの生徒が反対側に向かったので、すぐに見つかる。

 

 鈴野は口笛を吹くと、その音に気づいて秋山が鈴野を方を見る。

 

 鈴野はすぐに手招きをして、秋山は周囲を見ながら鈴野の元へと向かう。

 

「す、鈴野殿。どうしてここに?」

 

「あんたと同じ理由よ」

 

「では、鈴野殿も情報を入手する為に?」

 

「そうね」

 

 鈴野は周囲を見渡して状況を確認する。

 

(囲まれ出している。このままだと捕まるのは時間の問題・・・)

 

 サンダースの生徒が集まり出して、脱出が難しくなり出している。

 

「・・・・・・」

 

 すると、秋山がこっちにやって来た地面に、マンホールがあった。

 

「あれしかないわね」

 

「え?」

 

 ボソッと呟いた鈴野の言葉に、秋山は首を傾げる。

 

「いい?私の合図と共に飛び出すのよ」

 

「え?は、はい」

 

「言っておくけど、遅れたら容赦なく置いて行くわよ」

 

「そ、そんなぁ!?」

 

「だったら、必死になって付いて来なさい」

 

 と、鈴野はポーチより煙玉を三つ取り出して導火線にライターで火をつけると、タイミングを見計らって三つとも地面を滑らせるようにして放り投げ、サンダースの生徒の足元付近で大量の煙が噴出する。

 

「行くわよ!」

 

 マンホールの周囲に居たサンダースの生徒は驚き戸惑って騒ぎ、鈴野はすぐにもう一個の煙玉を取り出して導火線に火をつけて放り投げて更に煙を出すと、素早くポーチより爆竹を取り出すとすぐにライターで導火線に火をつけ、反対側へと放り投げ、秋山の手を握って飛び出し、煙の中に入る。

 

 鈴野は煙の中を走りながら素早くもう一つ爆竹を取り出してすぐに導火線に火を付けて放り投げると、大きな音と共に爆竹が破裂する。

 煙が一面を覆って大きな音の中、鈴野はマンホールの蓋を開けると、秋山を先に入れさせ、素早く中に入ってマンホールの蓋を閉める。

 

 

 煙が晴れた時には、煙を吐き終えた煙玉と爆竹の焼き焦げがある以外には何も変化は無かった。

 

 

 

 

「しかし・・・本当に助かりました、鈴野殿」

 

「お礼は別に良いわよ。当然の事をしたまでよ」

 

 下水道まで降りると、鈴野は秋山より懐中電灯を借りて前を照らしながら歩く。

 しかし臭いは強烈で、二人共表情を歪める。

 

「それにしても、あんたも無茶をするわね。何をして連中にバレたのよ」

 

「いやぁ・・・・作戦会議があると言って会議室に向かったんですよ。そこで重要な情報を聞き出せたんですが・・・それで怪しまれて身分証明を迫られ、偽名を出した所でばれちゃったんですよ」

 

「欲を出しすぎよ」

 

「すいません。それで、鈴野殿は?」

 

「格納庫で整備長から多くの情報を得たわ。その後サンダースの隊長と話をありつけたしね」

 

「す、凄いです」

 

 自分とは大違いの鈴野に驚く。

 

「そこまで無いわよ。でも、何だってこんな危険な真似を」

 

「それは・・・・・・西住殿の役に立ちたかったんです!」

 

「西住隊長の・・・・」

 

「はい!何かできる事が無いかと、考えた末の結論です」

 

「・・・・そう。考える事は同じって事ね」

 

「と、言う事は、鈴野殿も?」

 

「如月さんの為に情報集めをね。宣言したからには、それなりに持って帰らないと」

 

「鈴野殿・・・・」

 

 

 

「それより、次のコンビニの定期便までどのくらいあるの?」

 

「え?は、はい。30分から40分ぐらいです」

 

「それまで何とかやり過ごすしかない、か」

 

 ボソッと呟きながら、秋山を連れて下水道を進む。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「その後、転々と移動してやり過ごし、コンビニの定期船に忍び込んで無事にここに帰り着いた。と言うわけです」

 

 鈴野はサンダースでの出来事を秋山が撮った映像と共に如月達に説明する。

 

「そんな大変な事をしていたなんて・・・」

 

「ってか、いいの?こんな事して?」

 

「試合前の偵察行為は承認されていますので、大丈夫ですよ」

 

 秋山は手にしているメモ帳を西住に渡す。

 

「西住殿。鈴野殿の情報も加えた情報です。どうぞ次の試合の作戦立ての参考になさってください」

 

「・・・ありがとう!秋山さんと鈴野さんのお陰で参加車輌とフラッグ車も分かったから、頑張って戦術を立ててみるよ!」

 

「まぁ何より、怪我も無く無事に帰って来たことだな」

 

「とても心配しました」

 

「全くだな」

 

「・・・心配してくださって、恐縮です」

 

 目頭に涙が溜まり、ウルウルとさせる。

 

 

「と言うより、意外と大胆な事をするんだな、鈴野」

 

 物大人しく外見と性格からは想像できない行動力だった。

 

「如月さんの役に立てるならと思って」

 

 鈴野は柔らかに笑みを浮かべる。

 

「それはありがたいが、もし捕まったらどうするつもりだ」

 

「・・・捕まりませんよ。そう簡単には、ね」

 

 どこか自信がありげに言葉を漏らす。

 しかし、その言葉の裏には、何かありそうな気がした。

 

「というより、話しからすると、しののん映画のスパイみたい」

 

「確かにそうですわね」

 

「内容からすると、どうも慣れている感じがするが?」

 

「・・・・偶然ですよ。その時のとっさな判断、と言った所です」

 

 やはりどこか引っ掛かるような言い方だ。

 そういや鈴野は昔からどこか謎な部分が少なからずあったような・・・

 

 

 

「だが、お前はどうやってサンダースの学園艦に?」

 

「秋山と同じコンビニの定期便に忍び込んで。制服は特殊ルートで手に入れたもので、型が少し古いんですが、今の制服とデザインは殆ど変わってないので怪しまれずに済みました」

 

「それでも、よく怪しまれずにポンポンと聞けたね」

 

「むしろ相手から言ったんですが、まぁ私・・・地味で影が薄いから」

 

「え?」

 

 武部はぱちくりと瞬きする。

 

「皮肉にも、そんなコンプレックスが潜入捜査には最適なんですよ」

 

「・・・・・・」

 

 何この一気に冷める空気は・・・

 

 武部は少し慌てて「何かゴメン!!」と鈴野に頭を下げる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 その日の夜。

 

 

 大洗女子学園の敷地内にある林の中・・・

 

 

 

「・・・はぁ。こいつでどうだ・・・」

 

 と、長ランを脱いでさらしだけの二階堂はスパナを手にしてハッチを開けたエンジンルームから顔を出す。

 

「三枝。試しに掛けてみろ」

 

「はい!」

 

 と、三枝は砲塔のハッチを開けて中に入ると、しばらくして二階堂の目の前にあるエンジンが回り始める。

 

 

 しかししばらくしてもエンジンが掛かる様子は無い。

 

「やっぱりまともな設備がないと難しいっすかね?」

 

 砲塔天板に乗っている中島は顎に手を当てる。 

 

「いいや。これでいいんだ。これなら明日までに自走出来るまでにはなる」

 

「さっすが」

 

「しかし、間に合うのでしょうか?」

 

 砲塔内より顔に煤汚れが付いた青嶋が顔を出す。

 

「心配するな。俺はスクラップ同然だった九七式中戦車を自走出来るまでレストアした事があるんだ。エンジンを復活させるぐらい朝飯前だ」

 

 そう言ってまたエンジンルームに頭を入れてエンジンスパナを工具箱に戻すと、別の道具を手にして修理に入る。

 

「時々リーダーって凄いよね」

 

「いつもの事っすよ」

 

「・・・・・・」

 

 青嶋と中島が呟いている間に、高峯は砲身に跨って星が綺麗に見える夜空を見上げていた。

 

 

 


 
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