story14 情報屋
その後西住達と合流して、ヘリで学園艦に帰ってくる。
「・・・・・・」
学園艦の両舷にある広場の柵に両腕を置き、西住が海を眺めていた。
「どうした、西住」
「あっ、如月さん」
如月が声を掛けると、西住は後ろを振り返って私を見る。
「・・・・少し、考え事を」
「そうか」
如月は西住の隣に立って海を眺める。
「まほの言った事は気にするな。あぁ言うが、あいつの本心じゃない」
「・・・・・・」
「まぁ、お前が戦車道から背を向けた事に変わりは無いがな」
「・・・・・・」
「寒くないですか?」
と、後ろより秋山が歩いてくる。
「温かいお茶を買ってきましたので、どうぞ」
両手に持っている温かいお茶が入ったペットボトルを差し出す。
「ありがとう、秋山さん」
「すまんな」
如月と西住は秋山よりペットボトルを受け取り、キャップを開けて一口飲む。
「・・・・全国大会。出場できるだけでも私は嬉しいです」
秋山は如月の隣に来て、オレンジ色に染まる空を見上げる。
「他の学校の試合も見れますし。大事なのはベストを尽くす事です!」
確かに正論だな。
「それが、例え負けたとしても―――――」
「それじゃ困るんだよねー」
「え?」
と、後ろから生徒会の面々がやって来て、角谷会長がいつも通りな口調で言う。
「絶対に勝て!我々はどうしても勝たなければならないのだ!」
「そうなんです。だって負けてしまったら―――――」
すると小山ははっとしてとっさに口を手で押さえる。
「・・・・・・」
その様子に如月は目を細める。
「まぁとにかく。全ては西住ちゃんの肩に掛かってるからねー」
「は、はい」
「今度負けたら何やってもらおうかなー?考えておくねー」
そう言うと角谷会長は生徒会メンバーを引き連れてその場を離れる。
(生徒会。妙に引っ掛かるような発言ばかりだな)
「・・・・・・」
「だ、大丈夫ですよ!頑張りましょう!」
プレッシャーで俯く西住を秋山が励ます。
「初戦だから、サンダースはファイアフライを出てこないと思うけど・・・」
「むしろ初戦だからこそ、確実に勝つ為に出す可能性はある。何においても絶対は無い」
「はい・・・。でも、今の戦力だと正攻法じゃ勝てない。せめて、チーム編成が分かれば・・・」
「・・・・・・」
――――――――――――――――――――
その後西住と話し合ったが、情報が足りない事もあって、作戦の立てようが無かった。
(さて、どうしたものか・・・・)
マンションに向かう途中で顎に手を当てて色々と考えていると・・・
「いや~悩んでいるっすねー」
「・・・・?」
すると前の方より声がすると、電柱の陰より赤髪を後頭部で纏めた女性が出てくる。
「誰だ」
如月は女性を睨む。
「そう警戒しなくてもいいっすよ。別に恐喝とかしないっすから」
「見た目がそう見えるぞ」
前開きの白い長ランに白ズボン、鉢巻と、まるで特攻隊の様な格好は明らかに不良にしか見えない。
「ま、まぁ、そう言われても仕方無いっすね」
女性は苦笑いする。
「で、何か用があるのか」
「そうっすよ。あ、私の名前は中島空。通称『情報屋の中島』っす」
「情報屋?」
どうも胡散臭いな・・・・
「ある人物からとある情報を集めて欲しいって言われましてね。その情報を如月翔に渡すように、と」
「・・・・なぜ私の名を」
「知り合いからじゃないっすか?まぁ匿名だから依頼主のことは言えないけど」
「・・・・・・」
「集めるのは大変だったんすよ?何せ他校である『サンダース大附属』の情報を集めるなんて」
「なに?」
如月は一瞬耳を疑う。
「さすがに作戦内容までは無いっすけど、戦車構成までは分かったっすよ」
と、中島と言う名の女性はポケットよりSDメモリーを取り出して私に差し出す。
「なぜ、そんな情報を?」
「言ってなかったっすか?情報屋の中島だって?例え収穫が少なくても、確実に情報を手に入れるのが情報屋っす」
「・・・・・・」
如月はSDメモリーを受け取る。
「あと、少しすれば嬉しい事があるかもしれないっすよ?」
「・・・・・・」
「また近いうちに」
そうして中島は手を振ってその場を後にする。
「・・・・・・」
如月は手の中にあるSDメモリーを見る。
――――――――――――――――――――
「・・・・・・」
マンションの自室に戻ってからパソコンを立ち上げ、SDメモリーの中身を調べる。
(俄かに信じ難かいが・・・・事実か)
「うーん」と静かに唸り、モニターに表示されたのは、サンダース大学附属高校の戦車一覧であった。
しかも次の作戦で使う戦車の候補がマークされている。
(通常のM4にM4A1、更にファイアフライ。それにM4A3E2、M4A3E8の構成・・・)
ファイアフライが一番厄介だが、ジャンボにイージーエイトまで加わるとは・・・
(あくまで候補だが、このまま試合に出る可能性はあるな)
顎に手を当てて色々と考えていると、如月のスマホより黒電話の着信音が鳴って、スマホを手にする。
(鈴野からだと?)
電話番号は既に交換済みで、如月は電話に出る。
「もしもし」
『こんな遅く電話をしてすみません、如月さん』
「構わんさ。それより、何の用だ?」
『はい。次の試合での作戦は立ちましたか?』
「いいや。情報が不足して立てようが無い。まぁ少し情報が手に入ったが、それでもまだ不足気味だ」
『そうですか。でも、明日辺りには作戦が立てやすくなりますよ』
「・・・?どういう事だ?」
一瞬鈴野の言っている事が理解出来なかった。
それ以前に、何か騒音がする。
『いずれ分かりますよ。では、明日会いましょう』
すると鈴野の方から切った。
(どういう事だ・・・?)
目を一回瞬きするも、中島より受け取ったデータを見直しながらスマホの電話帳を開き、西住に電話を掛ける。
――――――――――――――――――――
「最初から強豪と当たるなんて」
その頃生徒会室では、小山が書類整理をしながら呟く。
「どんな相手だろうが・・・・何があっても我々は勝たなければならない。勝たなければ・・・」
右手を握り締めて河島は呟く。
「それはそうだけど」
「ま~その為に西住ちゃんと如月ちゃんを戦車道に勧誘したんだから。全てはあの二人に掛かってるからね~」
背もたれを倒したイスに横になって角谷会長はいつもどおりに言う。
「しかし―――――」
「おーすっ!!」
と、生徒会室のドアが大きな音共に勢いよく開くと、二階堂が入ってくる。
それには河島と小山は驚いて思わず席から立ち上がってしまうが、角谷会長は「お~」と二階堂を見る。
「に、二階堂先輩!?」
「久しぶりだな、河島!元気だったか!」
「は、は、はい!」
ビクッと河島はおどおどしながら声を上げて返事をする。
「そ、それより、どうして二階堂先輩がここに?」
「ん?俺がここに来ちゃいけないのか、小山?」
と、何か思惑がありそうにニヤリと笑みを浮かべる。
「い、いえ!!そう言う訳では!?」
何かを思い出したのか、小山は胸を隠し表情を青ざめながら後ずさりする。
「やぁやぁ、二階堂。相変わらず派手な登場だね~」
何事が無かったかのように角谷会長は二階堂に向けて手を振る。
「よぉ、杏。お前も相変わらずだな」
「カッカッカ」と笑いながら机の前に来る。
「それで、どんな用件かな~?」
「お前も分かっていてわざわざ聞くんだな」
「さぁ何の事かな~?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「お前がこの間出した用件だが―――――」
それを聞いて角谷の表情に少し真剣みが入り、小山と河島も息を呑む。
「・・・幼馴染の頼みだ。引き受けてやるよ!」
「ほ、本当ですか!?」
河島が声を上げる。
「いやぁ二階堂だったらやってくれると信じてたよ~」
「ハッハッ!!そうかそうか!!(裏で俺にあぁだこうだ言っておいて、こいつもあくどいなぁ)」
内心で文句を呟きながらも
「メンバーはもう揃ってる。いつでも良いぜ」
「メンバーって事は、やっぱり中島先輩や三枝先輩、青嶋先輩、高峯先輩も参加するんですね」
「おうよ!」
「でも、こういうのも何ですが・・・先輩達が乗る戦車は――――」
今の所二階堂達が乗れる戦車が無い状態で、探すとなると次の試合までには間に合わないかもしれない。
「それなら心配はねぇ。もう俺たちで見つけているからな!」
「えぇ!?」
「既に先輩達も見つけていたんですか!?」
「おうよ!」
「さっすが二階堂だね~」
「先代生徒会長をなめてもらっては困るぜ?」
と、ドヤ顔を決める。
――――――――――――――――――――
それから次の日。放課後の戦車道の練習に鈴野の姿は無かった。
更に秋山の姿も無かったが、練習は通常通りに行われた。
「秋山さんと鈴野さん。結局練習に来ませんでしたね」
「あぁ」
「うん・・・」
如月は西住達と共に秋山の家に向かっている途中だった。
「メールは帰って来たの?」
「全然。電話を掛けても圏外だし」
「私からも掛けてみたが、反応は無い」
「・・・・・・」
「しののんからは帰って来たんですか?」
「いいや。そっちと同じ状態だ」
「そうですか・・・」
「家の方には掛けたのですか?」
「あいつは一人暮らしだ。ケータイに出ないのなら、家に居るとは思えん」
「・・・・・・」
(しかし、一体何があったのだ?)
内心で二人の心配をしながら、西住達と共に秋山の実家に向かう。
――――――――――――――――――――
少し歩いてある理髪店に辿り着く。
「あれ?秋山さん家って床屋さんだったんだ」
「・・・・・・」
武部が意外そうに呟き、その間に如月達は店に入る。
「いらっしゃいませ」
店の中に入ると、男女二人がイスに座っていた。
この二人が秋山の両親なのだろう。
「すみません。優花里さん居ますか?」
「あんた達は?」
新聞を持っていたパンチパーマの男性が聞き返す。
「友達です!」
「友達・・・・・・。と、友達!?」
武部の言葉に男性は驚き慌てふためいて立ち上がる。
「お父さん落ち着いて」
「だ、だって!!優花里の友達だぞ!?」
「分かってますよ」と言って男性を宥める。
「優花里がいつもお世話になっています」
「お、お世話になっております!!」
女性が頭を下げると、男性はその場で土下座する。
「・・・・・・」
その光景に少し驚く。
「優花里。朝早く家を出てまだ学校から帰ってないんですよ」
「・・・・・・」
どちらにしても、秋山の行方は分からないままか。
その後秋山の部屋に案内されて、待つ事にした。
「素敵なご両親ですね」
「うん」
「・・・・・・」
如月は部屋を見回すも、本当に秋山のマニアっぷりが分かる部屋だった。
壁には転輪やポスター。テレビの後ろには砲弾。棚にはプラモデルなどが飾っている。
ふと、その棚に置いてある物に目が留まる。
それは秋山の家族写真であった。大洗女子学園の入学式の時の・・・
「・・・・・・」
如月は少しばかり悲愴感を覚えてしまう。
すると冷泉の目にもその写真が目に留まり、少し悲しそうな表情になる。
ガラガラ・・・
「よっと!」
すると部屋の窓が開き、そこから秋山が入ってきた。
「ゆかりん!?」
「秋山さん!?」
もちろん西住と武部は驚きを隠せない。
「あれ?みなさんどうしてここに?」
「連絡が無かったので、心配して」
「すみません。ケータイの電源切っていました」
「っつか!何で窓から入ってくるの!?」
「こんな格好だと父が心配するので」
まぁ、確かにコンビニの制服に身を包み、更に薄汚れているとなれば、心配するだろうな。
「よいしょっと」
すると今度は予想外にも鈴野が入ってきた・・・・・!?
「しののん!?」
「鈴野(さん)!?」
これには如月も驚きを隠せない。
「如月さん。それに西住隊長も」
鈴野は特に驚いた様子を見せずに、部屋に入ると敬礼する。
「二人共。今まで何をしていたんだ」
「それはですね・・・・これから説明します!」
と、秋山は胸ポケットよりとある物を取り出す。
「是非!二人に見ていただきたい物があります!」
部屋のテレビに映し出されたのは、『突撃!サンダース大学附属高校!!』と出てきて、学園艦が映る。
「こんな映像があるんだ」
「どこで手に入れたの?」
「ふふふ。実はですね―――――」
それから秋山が話した内容に驚きを隠せれずにはいられない内容であった。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。