story13 因縁浅からぬ者
聖グロとの練習試合が終わってから数日後・・・・
「うぅ・・・・!お尻痛かったよ!」
文句を言いながら武部はヘリから降りる。
「意外と揺れるものだな」
「ですねー」
後に続いて私と秋山、西住が続く。
生徒会が超野教官のご厚意で自衛隊のヘリコプターをチャーターして、如月達は埼玉のとある場所にやって来る。
「来たよー!さいたまスーパーアリーナ!」
と、ヘリから角谷会長が飛び降りると、河島もヘリから降りる。
銀色でガラス張りの大きな建物の入り口には、『第63回戦車道高校生大会』と書かれた看板が提げられている。
ここで全国大会の試合の組み合わせ抽選会を行う。
本来なら生徒会と西住と如月だけで赴いて良いのだが、武部と秋山は西住の付き添いで来ている。
ちなみに五十鈴と冷泉がいないのは、互いに事情があって来れないとの事だ(後者は明らかに個人事情だが・・・)
「や、やっぱり私じゃなくて如月さんの方が良いんじゃ・・・・」
ギクシャクした動きで角谷会長にすがりつく。
「だって、私・・・くじ運が悪くて」
「どこと当たってもいいよー。勝てば良いんだからさ~」
「それに、私の方がもっとくじ運が悪い」
どういうわけか如月はくじ運がなく、今まで当たりのくじに当たった事が無い。
もし引こうもんなら聖グロより上の強豪と当たる可能性が・・・・
「期待しているぞ、隊長殿」
少しからかうように西住の右肩に手を置く。
「そ、そんなぁ~」
西住は涙目で項垂れ、肩をガクッと下げる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
如月達がアリーナの中に入ると、大勢の他校の女子生徒が居た。
「うわぁ、すっごい人だかり!」
その人数に武部は驚く。
「今年はいつもより参加校が多いらしいですね」
「まぁ、多い少ないどっちにしても、我々には勝つ以外に何もないのだからな」
「・・・・・・」
勝つと言うのは当然の目標だが、どうも何かの意図がありそうな言い方だった。
武部と秋山が周囲を見ていると、西住はぼーとしていた。
「どうした、西住」
「あ、はい・・・・」
ハッとして如月の方を見る。
「・・・・また、ここに来たんだなぁって、思って」
「そうだったな。お前は去年まで―――――」
「まさかと思ったけど、ここであなたと会うなんてね」
と、西住に声を掛ける者が居た。
如月や武部、秋山が声がした方を見ると、そこには灰色の学生服を身に纏った女子生徒が立っていた。
「お、お姉ちゃん・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・久しぶりだな、翔」
女子生徒の視線は西住の次に如月に向けられる。
「あぁ。久しいな、まほ」
長く会っていない親友との再会は・・・正直喜べるものじゃないな・・・・
「大洗女子学園・・・・・・。そう、無名校に行ったのよね」
まほは手にしている参加校の名簿用紙に目を通す。
「腕に覚えの無い学校は参加しないのが、戦車道の暗黙のルール」
「どういう事?」
「強豪校が有利になるように作ったものだ。まぁ、腕に覚えがない、戦車道のイメージダウンをするような高校は来るなって言う事だ」
「・・・・・・」
「それに、この場にうちの副隊長のエリカだったら言うでしょうね。『無様な戦い方をまたして、西住流の名を汚さないように』って」
「・・・・!」
「・・・・・・」
「ちょっとおねーさん!!いくら姉妹だからって・・・・・・失礼だよ!!みぽりんは私達のチームの中で一番なんだから!」
と、武部が声を上げてまほに対抗する。
「何があったかは知らないけどさ!!・・・・・・もしそっちと当たったら、絶対に負けないんだから!!」
「あ、あの、武部さん」
「みぽりんも何か言い返しなさいよ!」
「・・・お姉ちゃんの居る・・・黒森峰女学院は・・・・・・去年の、準優勝校だから」
「へ?」
武部は目をぱちくりとさせる。
「それに、その前まで九連覇してて。それを止めてしまったのが・・・」
「・・・・・・」
やはりか、と内心で確信を得る。
「頑張りなさい」
そう言い残してまほはその場を立ち去る。
「・・・・・・」
その後抽選会が行われ、西住が引いた番号は『8番』。
それからして大洗女子学園の最初の対戦校は・・・『サンダース大学付属高校』となった。
――――――――――――――――――――
(初戦からいきなり強豪と当たるとはな・・・・)
内心でため息を付いて上を見上げる。
あの後アリーナの二階にある、天井がガラス張りの休憩所にやって来て休憩している。
(サンダース大学附属高校。戦車保有台数が全国一だって言っていたな。
初戦から準々決勝までは十両までと決められているが、こちらは六両しかない。数と錬度ではこちらが劣るか)
再度内心でため息を付き、窓から空を見上げる。
「・・・・・・」
すると休憩所に誰かがやって来る。
「私がここに居るとよく分かったな」
見らずとも、やって来た人物は分かる。
「お前は空が好きだからな。なら、ここに居るだろうと思ったのだ」
「そうか。覚えていたのだな、まほ」
「親友の事を忘れるわけがないだろ?」
「そうだな」
如月は声がした方を向くと、西住の姉のまほが立っていた。
まほは如月の隣に立つと、同じように壁にもたれかかる。
「こうして二人だけで話すのは久しぶりだな」
「あぁ。あの日以来だな」
それから普通に話を始める。
「去年は、残念だったな」
「・・・・・・」
「あの時の様子はテレビで見ていた」
「そうか・・・」
「あいつらしいと言えば、らしい行動だった」
「そう・・・だな。あの子は優しいからな」
「・・・・・・」
「・・・だが、あれは西住流の教えに反する行為でもある」
「・・・・・・」
「しかし・・・・酷い有り様だな」
「さりげなく傷つく事を言うのだな」
「思った事を正直に言っただけだ」
(変わらんな・・・まほも)
内心で呟き、苦笑いを浮かべる。
「・・・・みほから話は聞いている。大変だったようだな」
「あぁ。その後に色々とあったがな」
「・・・・すまないな。あの時見舞いにすら行けずに」
まほは少し申し訳なさそうに言葉を漏らす。
「構わんさ。まほだってあの時は忙しかったのだろ?それに、学園艦も病院がある大洗には寄港していなかっただろうし」
「その通りだ。それが見舞いに行けなかった理由だ。ただの言い訳にしか聞こえないがな」
「・・・・・・」
「・・・お前ほどのやつが、それほどまでの傷を負うとはな」
「身体の方はもっと酷いぞ?」
如月は白い手袋をしている左手を見せる。
「いや、見せる必要は無い。見たら頭に嫌でも残りそうだ」
「そうしてもらえれば、こちらとしても助かる。自慢できる物では無いからな」
少し安堵して左腕を下ろす。
「その怪我を負ったのは・・・・・・みほを・・・・庇ったからだそうだな」
「あぁ」
「・・・・・・」
「当然の事をしたまでだ。別に後悔はしていない」
「・・・お前らしいな」
「・・・・・・」
「お前は昔から何かとみほの事を守ろうとしていたな。姉としては妹を守ってもらうのは嬉しいが・・・・」
「理由が気になる、か?」
「あぁ」
「・・・・・・」
「・・・まぁ、気になっただけだ。別に聞こうとは思っていない」
「そうして貰えれば、助かる」
「しかし、本当に惜しい物だな。お前ほどのやつはそうそう居ない。是非黒森峰に来て欲しかった」
「私もそのつもりだったさ。こんな状態で無ければな」
「・・・・・・」
「・・・次に会うのは、試合か」
「そうだな。お前と戦える日を楽しみにしている」
「私もだ」
そうしてまほはその場を離れていく。
「・・・・・・」
少ししてから私は西住達のところの向かおうとした―――――
「随分と、うちの隊長と仲が良いんだね」
「・・・・・・」
聞き覚えのある声がして、右の方にある柱に向く。
すると柱の陰より一人の女子が出てくる。
少し日焼けした肌で、腰の位置まで伸びた黒髪のロングヘアーをポニーテールにしており、瞳の色は翠。背丈は私とほぼ同じで、着ている制服がまほと同じであって、黒森峰の生徒であるのが分かる。
「・・・お前は」
「忘れた?斑鳩家の次女・・・『斑鳩(いかるが)焔(ほむら)』の事を」
「・・・嫌でも、忘れる事など出来ん」
因縁浅からぬものだからな・・・
「ふん。しかしまぁ、よくあんな無名校に入ろうと思ったねぇ」
「好きで戦車道が無かった所に行くと思ったか」
「あぁ。そういやそんな身体になったからだっけ?しかもその原因が西住流の面汚しを守ったからだったかな」
ピシッ!と、如月の中で何かに亀裂が走る。
「・・・・口には気をつけろ。口は災いの元だと言うようにな」
「事実を述べただけの事よ。黒森峰は十連覇を逃し、更に西住流の名を汚し、黒森峰から逃げ出した元副隊長の事を」
「・・・・・・」
「そんな腰抜けが無名の弱小校の隊長とか、こんなにおかしい事はないわよ」
焔は静かに笑う。
「・・・・調子に乗るな、口先だけの下っ端が」
「・・・・あんたも調子に乗るな。『汚れた血』の分際で」
「っ!!」
怒りが込み上げてきて奥歯を噛み締める。
「相変わらず斑鳩家は、見下した態度ね」
と、別の柱の陰より一人の女子が出てくる。
天井の窓から差している光に反射する腰の位置まで伸びている銀髪を持ち、背丈は私よりほんの僅か高い。着ている制服は大洗の制服の緑の部分が紺色になった感じであった。大人びた雰囲気を持ち、男なら誰をも虜にしそうな容姿をしていた。
「誰かと思ったら・・・『早乙女(さおとめ)神楽(かぐら)』か。去年はよくもやってくれたわね」
「・・・・・・」
「そういや最近早乙女家の新当主や早乙女流の新師範になったんだっけ?」
「耳が早いのも相変わらずね」
「・・・・・・」
「それで、あんたはそこの汚れた血を助けようってわけ」
「っ・・・!」
「別にそういうわけではない。だが、お前の傲慢な態度には耐え難い所がある」
「・・・・・・」
「斑鳩の人間はこんなに礼儀知らずでプライドが無駄に高い連中なのだと改めて知ったよ」
「ふん。そういう早乙女家も盗み聞きをするようなものだって改めて知ったよ」
「お互い様だ。お前だってそこの者と黒森峰の隊長との会話を盗み聞きをしていたのだろ」
「・・・・・・」
事実である為に焔は何も言い返さない。
「・・・まぁ、精々戦車道のイメージダウンをしないようにすることね」
焔は神楽に何も言い返さずに、如月を一瞥してその場を離れる。
「・・・・・・」
後ろを振り返って神楽はその場を去ろうとして、私はその後ろ姿を見る。
「勘違いしない事ね。さっきも言った通りに、あなたを助けたわけではない」
「・・・・・・」
神楽は視線に気付いたのか、立ち止まって喋る。
「傲慢な斑鳩の態度に遺憾を覚えた。ただ、それだけの事」
「・・・・・・」
「頑張りなさい・・・・翔」
そうして神楽は再び歩き出してその場を立ち去る。
(分かっていた事だが、斑鳩と早乙女の者と対峙するか)
戦車道をやれば、いずれは二つの家の者と手合わせする事になるのは分かっていた。実力が分かっているからこそ、大洗にとっては脅威である。
「っ!」
しばらくすると、突然左目があった場所から激痛が走って左手で押さえる。
(くっ!こんな時に古傷が疼くとは・・・)
左手を退かすと、眼帯の中心のほとんどが赤く染まっている。
「・・・・・・」
赤く染まった眼帯を外して皮膚に付いた血を眼帯で拭き取り、近くのゴミ箱に捨ててポケットより新しい眼帯を取り出して付ける。
(油断は出来んな・・・)
ため息を付いて、西住達が居るエントランスに向かう。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。