No.704511

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-07-28 14:11:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:635   閲覧ユーザー数:612

 

 

 

 Story12 試合後

 

 

「・・・・・・」

 

 目の前で主砲が抉れたⅣ号と前面が黒焦げた八九式、側面が黒焦げ四本ののぼりが焼け焦げているⅢ突、一斉砲撃を受けて丸焦げな38t、側面が焦げたM3、履帯が外れて砲塔基部が焦げている五式が荷台に乗せられて運ばれていく様子を煙で汚れた私と西住達が見届ける。

 

 初めての他校との試合は・・・・・・黒星に終わった。

 

(ベストを尽くしたのだ。素人ばかりの構成で強豪を追い詰めただけでも、上出来だ)

 

 内心で悔しいとは思うのだが、錬度の低さと保有戦車の性能上こうなる事は想定はしていた。

 しかし、いくら御託を並べても、負けた事に変わりは無い。

 

「・・・・負けて・・・・しましましたね」

 

 坂本がボソッと呟く。

 

「いいところまでは行ったけど、やはり相手の方が一枚だったって事かな」

 

 煤汚れたレンズを拭きながら鈴野は呟く。

 

「・・・・・・」

 

「・・・やれるだけの事はやった。悔いはない」

 

「如月さん・・・」

 

 申し訳ない様子で西住がこちらを見る。

 

「お前はベストを尽くしたのだ。気にするな」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「あなたが、隊長さんですか?」

 

「え?あ、はい」

 

 と、如月達の元に聖グロの隊長であるダージリンと副隊長のセシアがやって来る。

 

「あなた・・・お名前は?」

 

「・・・・・・に、西住・・・みほです」

 

「!もしかして・・・西住流の?」

 

 西住の名前を聞いて表情に驚きの色が浮かぶ。

 

「・・・・・・」

 

「そう。わたくし、あなたのお姉さまと戦った事がありますけど、こんな妹さんが居たとは・・・」

 

「・・・・・・」

 

 と、ダージリンはくすっと笑みをこぼす。

 

「随分、お姉さまとは違うのね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「それで、五式に乗っていた車長はどなたかしら?」

 

 と、ダージリンの隣でさっきまで黙っていたセシアが口を開く。

 

「・・・・私だ」

 

 如月は一歩前に出て口を開く。

 

「あなたが・・・。お名前は?」

 

「・・・・副隊長・・・・『如月翔』だ」

 

「如月・・・・翔」

 

 ボソッと私の名をこぼす。

 

「しかし、あなたが初めてですわ。わたくしのエクセルシアーに傷を付けて、更に撃破したのは」

 

「・・・・・・」

 

「それにしても、誰かに似ているような・・・」

 

 如月の顔を見て、セシアは首を傾げる。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・では、わたくしはこれで」

 

 ダージリンが離れていくと、セシアは深く悩まずそのまま後についていく。

 

 

 

「いやー負けちゃったね、どんまい」

 

 と、如月達の元に角谷会長と河嶋、小山先輩が来る。

 

「約束通りやってもらおうか、あんこう踊り」

 

 その名を聞いて全員顔を引きつかせる。

 

「まぁまぁ、こういうのは連帯責任ってことで」

 

「えっ!?」

 

「会長・・・まさか!?」

 

 河島と小山は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「いやぁ、惜しい所まで行ったっすね」

 

「あぁ。やはり錬度と性能の差が大きかったな」

 

 ゾロゾロと観客が帰る中、二階堂達はアウトレットから出て町内の歩道を歩く。

 

「だが、西住流の家元と、五式の車長・・・・・・中々見所があるな」

 

 と、ニヤリと口角を上げる。

 

「そうですね。まぁ敵前逃亡した連中が居ましたけどね」

 

「しょうがないっすね。まぁこれで一つ勉強になったんじゃないっすか?」

 

「そうだと良いんだがな」

 

 

「それで、これからどうしますか?」

 

「うむ」

 

 二階堂は少し悩むも、すぐに答えを出す。

 

「少なくとも、背中を預けられる連中だって言うのは分かった。それに、面白くなりそうだ」

 

「では?我々も?」

 

「あぁ。杏の要求を受け入れるとするか」

 

「まぁ、断る理由が見つけても言えない条件っすからね」

 

「多少信じ難い内容が多いですけど、まぁリーダーがそう言うのなら、私たちは付いて行くだけです」

 

「そうっすね!」

 

「はい!」

 

「・・・・・・」コクコク

 

 

 

 

『~~~~♪』

 

 と、大洗町である意味有名なあんこう踊りの奇抜な音楽が流れ出す。

 

「おっ!あんこう祭りが始まったみたいっすね」

 

「そうだな。しかし、よくまぁあんな踊りを思いつくもんだな」

 

「その時のノリなんすかね?」

 

「さぁな。そんな事は俺達には―――――」

 

 

 

「ん?」

「おっ?」

「へ?」

「おぅ?」

「・・・・?」

 

 道路を通るトラックが牽引する荷車の上で、被り物に全身タイツと恥ずかしい格好であんこう踊りを踊る者たちが居たが―――――

 

 

 

 ―――――踊っているのは角谷や生徒会のメンバー二人に、AチームとFチームのメンバーだった。

 

 

 

 

 

「ふえぇぇぇ・・・・」

 

 西住は全身タイツの色に負けないぐらいに顔を真っ赤にして教えられた通りに踊りの振り付けをちょこちょこ間違えながらもこなす。

 

「もうお嫁に行けない!!」

「仕方ありません!!」

 

 同じく顔を赤くした武部が文句を言いながら踊り、秋山は覚悟を決めて踊りに専念する。

 

「恥ずかしいと思ったら余計に恥ずかしくなります!」

 

 五十鈴は顔を赤くするも、吹っ切れて踊りながらも西住を励ます。

 

「・・・・・・」

 

 冷泉は無表情で振り付け通りに踊っていく。

 

 

 生徒会は的確に踊りの振り付け通りに踊っていく

 

 

「くぅぅ!またこんな踊りを踊らされるなんて・・・・」

 

 ギャグ顔風な涙目で早瀬は少し遅れながらも振り付け通りに身体を動かす。

 

「やるからには、やらないとね」

 

 鈴野は少し頬を赤く染めながらも踊りをこなす。

 

「なんでこうなるのぉぉぉ」

 

 顔を真っ赤にして空しげに声を漏らすも、坂本は吹っ切れて踊り続ける。

 

「あなたは揺れる物が無いから良いでしょ」

 

「そういう問題じゃない!って言うかそれ言わないでよ!!」

 

 鈴野の突っ込みに顔を真っ赤にして坂本が言い返す。

 

「あ~私の黒歴史にまた一ページ刻まれた~」

 

「何ページあるのよ」

 

「10ページぐらい~?」

 

「そこそこ多いわね」

 

 

「・・・・・・」

 

 歯を食いしばりながらも如月は振り付け通りに身体を動かす。

 

(またこんな恥辱を受けるとは・・・・!)

 

 その間にも無駄に大きい胸が弾み、歩道で踊りを見ている男性の視線が不愉快であり、同時に屈辱的だった。

 

(公開処刑も良いところだ!!)

 

 内心で叫びながらも、必死に踊り続ける。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「はぁぁぁぁ・・・」

 

 あんこう踊りから解放されて、如月は深くため息を付きながら山道を歩く。

 

(出来るのなら、もう踊りたくない)

 

 内心で念仏を唱えるように何度も呟く。

 

 あの後早瀬達と別れ、私は大洗町の山の方に向かい、その間に花屋で花束を購入した。

 

(あんこう踊りのせいで微妙にそんな気分でなくなってしまったが、これだけは避けるわけにはいかん)

 

 気を引き締めて、如月はある場所へと向かう。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 しばらくして如月が辿り着いたのは・・・・・・・お墓だ。

 

 墓と墓の間の道を歩いていき、一つの墓の前に立つ。

 

 如月は手にしている花束を手にして包み紙を外し、花立に挿して立てる。

 

(父さん・・・母さん)

 

 その場で右膝を地面に着けてしゃがみ込み、両手を合わせて右目を瞑る。

 

 

「・・・・・・」

 

 瞑っていた目を開けて立ち上がった時だった。

 

「お久しぶりですね、お嬢様」

 

「・・・・?」

 

 後ろから声を掛けられて後ろに振り返ると、そこには和服を着る一人の女性が立っていた。

 とある家に仕える家政婦だ。

 

「・・・・お久しぶりです」

 

 如月は一歩前に出て頭を下げる。

 

「今回は奥様と御父上の命日より遅れましたね」

 

「色々と忙しく、町に降りる暇がありませんでした」

 

「そうですか。しかし、遅れてもちゃんと来られれば、きっと御ふた方もお喜びでしょう」

 

「・・・・・・」

 

 正直の所、あの二人が喜んでいる・・・・・・とは思えない。

 こんな親不孝な娘に・・・

 

 

「・・・・あなたには、感謝します。お陰で両親の墓が立てる事が出来ましたから」

 

「別に良いのですよ。私は奥様の家に仕える家政婦。当然の事です」

 

「けど、母さんと父さんは・・・」

 

「私は別にどうとは思っておりません。例え何があっても、お嬢様は『早乙女家』の血を受け継ぐ者です。

 なら、私の家族同然です」

 

「・・・・同時に、忌々しい『斑鳩家』の血を受け継いでいるんだぞ」

 

 と、如月の表情に影が差す。

 

「二つの家系から忌み嫌われ、遠ざけられた私だ。それでも、あなたは私を家族として見るのですか?」

 

「もちろんでございます。私は血筋の事は気にしておりません」

 

「・・・・・・」

 

「私はいつでも、お嬢様の味方でございます」

 

「・・・・・・」

 

 如月は家政婦に頭を下げて、静かにその場を立ち去る。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 そんな様子を、少し離れた場所にある木の陰より、一人の女性が見ていた。

 

「・・・・・・翔」

 

 女性は如月の名前を呟くと、ゆっくりと白銀の長い髪を靡かせてその場から離れていく。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後気晴らしに町中をぶらりと散歩して時間を潰していると、学園艦の出港時間が迫りつつあった。

 

 如月は走って学園艦に向かっている途中で、同じく走って学園艦に向かっている西住達と合流する。

 

「出港ぎりぎりよ」

 

「遅れてすまない」

 

「すいません!」

 

「すまなかったな、そど子」

 

「!その名前で呼ばないでよ!」

 

 そんなやり取りを無視して急いで学園艦の階段を登って行く。

 

 

「・・・・?」

 

 と、入り口前に人影があった。

 それは聖グロとの練習試合で敵前逃亡した、一年チームことDチームの面々だった。

 

 西住達もすぐに追いつく。

 

「お前達は・・・」

 

 

「あの、西住隊長!如月副隊長!」

 

 

「「「「「「すみませんでした!!」」」」」」

 

 と、一年メンバー全員は頭を下げて私と西住に謝罪する。

 

「戦車を放り出して逃げたりして・・・・・・本当に今日はご迷惑をお掛けしました!」

 

「先輩達、カッコよかったです!」

 

「すぐに負けちゃうかと思っていました・・・」

 

 申し訳なさそうに言うも、最後の一言は少し傷つく。

 

「次からは頑張ります!!」

 

「絶対頑張ります!!」

 

「・・・・みんな」

 

「・・・・・・」

 

 如月は腕を組んで静かに唸る。

 

「・・・・ここまで謝っていると、怒る気になれんな」

 

「はぁ」とため息を付き、一年メンバーを見る。

 

「次から、頑張るんだぞ」

 

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

「もしも同じ事があった場合、二度目は無いと思え」

 

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 

 

 

「これからは、作戦は西住ちゃんに任せるよ」

 

 と、横から生徒会の面々がやってきて、河島が「えっ!?」と驚く。

 

「んで、これ」

 

 と、副会長が手にしている籠を西住に差し出す。

 

「これは・・・・」

 

 籠には、紅茶の缶がいくつか入っており、その中に手紙も添えられている。

 

 如月は手紙を取り出して開く。

 

『今日はありがとう。あなたのお姉さまとの戦いより面白かったわ。また公式戦で会いましょう

                                      ダージリン』

 

 手紙にはそう書かれている。

 

「凄いです!!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を送らないとか!」

 

「そうなんだ」

 

「つまり、私達は認められたってわけか」

 

 手紙を閉じて籠に戻す。

 

「昨日の敵は今日の友ですね」

 

「ふっ」

 

 

「次は絶対に勝ちましょう!西住殿!」

 

「・・・・そう、だよね」

 

 一瞬西住の顔に影が差す。

 

「・・・・次は・・・・絶対勝ちたいです!」

 

「ま~、その次って言うのはすぐだけどねー」

 

「・・・・・・」

 

「へ?すぐ?」

 

 と、武部は目をぱちくりとさせる。

 

「だっていよいよ、公式戦が始まるから。戦車道の全国大会!もちろんエントリーしてるから。西住ちゃんには、抽選会にも出てもらうよ~」

 

「え、えぇっ!?」

 

 西住は声を上げて驚く。

 

 如月は西住の方に手を置いて「頑張れ」と一言伝える。

 

 

 

 


 
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