No.694054

超次元ゲイム学園 五時間目 【始動?いえ、知らない子ですね】

四時間目投稿から五ヶ月、ついに完成いたしましたー!
遅い?すいません。提督業やってました。あと学校行ってました。

非常に遅くなり申し訳ありませんでしたm(_ _)m

2014-06-15 00:51:28 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1487   閲覧ユーザー数:1364

――――――――――――

邂逅

思いがけなく出あうこと。偶然の出あい。めぐりあい。

 

 

頂点捕食者

実質的に自分自身を捕食するものがいない、食物連鎖の頂点に位置する上位種のことである。現状この世界【ゲイムギョウ界】においての頂点捕食者は人間でも女神でもない。

――――――――――――

~超次元ゲイム学園高等部 中央棟1F 保健室~

「急患です!」

「はいはーい。そろそろ来る思うてたわー」

 

静かな保健室に突如現れる人間が多数。

それに驚きもせずくつろいでいた女性、キュービアスは対応し始めた。

入ってきたのは生徒会の人間。ふたりがかりで持つ担架には見慣れた病人服のエクシスが乗せられ、横には申し訳なさげな5pb.が立っている。それだけでキュービアスは大体の話を理解したかいつもエクシスがいたベッドに移した。

 

仕事を終えた生徒会メンバーがぞろぞろと帰っていき、残ったのはキュービアスと5pb.、そして眠るエクシス。

安らかな寝息をBGMに、先に口を開いたのはキュービアスだった。

 

「やーっぱ、もたへんかったか」

 

本来なら保険医が座るだろう席に座り入る前から飲んでいたのであろう緑茶を啜るキュービアス。

エクシスを見る目は無理する妹を見守る姉にも似たものだった。

キュービアスの言葉を責めるものと受け取ったか5pb.は「ごめんなさい」と口にしながら頭を下げた。

 

「……今のは誰に対する謝罪かえ?」

「エクシスと、キューさんに。です」

「何故わてに謝る?」

「それは……」

 

言葉に詰まる5pb.。

キュービアスの威圧にも似た雰囲気から、とはとても言い出せず、そのままうつむいた。

その様子を見たキュービアスもため息をついた後、口を開く。

 

「べつに、わての予想があたったからああいっただけや。わてはあんさんらの後押しも足引っ張りもなーんもせん。わては単なる保険医代理(無断)やからな」

 

それに、と続けようとしたとき、ガラッと音を立てて保健室の扉が開いた。

同時に大きな声がしないことから怪我人とかではないなと思いながらキュービアスは5pb.の肩越しに来訪者を見た。

 

「やっほキュー。面白い話持ってきたよ」

 

紫色の長髪をなびかせ来訪者、キャストリームは言い放った。

困惑する5pb.を余所にキュービアスもニヤリと笑い、席に誘った。

~超次元ゲイム学園 某所~

「会えない?」

 

超次元ゲイム学園生徒会副会長、グリスは目を丸くして声を上げた。

過去の自分の記憶を頼りに生徒会長ルールローゼの部屋に足を運んだグリスがまず驚いたこと。それは門番がいたことだ。

前自分が行ったときには誰もいなかった扉の前に屈強な生徒がたっていたのだ。

とりあえず副会長として生徒会長に会いに来た、と伝えるグリスだが確認もなしに生徒会長とは会えないと突っぱねられたのだ。

 

「生徒会長は多忙であられて現在休憩中なのです。面会時間には戻られません」

「緊急の報告です。それであっても?」

「例外はありません」

 

ぐぬぬといった表情をするグリスだが、何を言っても聞いてはくれなさそうだと見て諦めることにした。緊急ではあるが至急ではない。つまりはそういうことだと自分に言い聞かせながら。

 

生徒会長の部屋を離れ長い廊下を歩く中、グリスは携帯端末を取り出し、耳元に装着し電源を入れる。

 

「……キャスト。グリスです」

『はいはいこちらキャストリーム、どったの?』

 

グリスの脳内に直接キャストリームの声が響く。グリス自作の電話機能骨伝導化のものだが上手くいっている、と自分で満足しながらキャストリームへの報告を開始した。

 

「結論から言うと会うことすらできませんでした。私が初めて来たときには人ひとりいなかったというのに」

『やっぱ、存在を隠してただけあって警戒してきたわけか……どうすんの?』

「明日、また試してみます。まだこちらの思惑は知られていませんし……最悪、リリアーヌに対象を変える必要があるかもしれませんね」

『なんでまた』

「正義感が強いっていうのは、使い易いんですよ」

『あーそう。今キューと話してるんだけどさ、伝えることある?』

「そうですね。【色白の子を手篭めにできますよ】とでも」

 

端末の向こうから絶句したような息遣いがグリスの耳に入った。そんなにおかしなことを言っただろうか?と困惑するグリス。

そんなことを考える間もなく気を取り直したキャストリームの声が聞こえた。

 

『とりあえず了解。すっごいことになりそうだけどね……キューがやる気になったら責任取ってよ?』

「……では、また明日」

『おいちょっとま』

 

キャストリームの静止も聞かずに通話を切断。ふぅと息を吐いてグリスは歩む足を止めた。

 

「…………血の匂い。あの部屋で何が…?」

 

グリス自身そこまで嗅覚が優れているというわけでもない。

そういった身体能力ならばキューが、嗅覚では感じない空気中の成分の解析ならキャストリームが遥かに得意だ。

そういう意味では常人級の嗅覚のグリスでもわかるほどに生徒会長室から血の匂いが漂っていたのだ。

そんな部屋の前を顔色一つ変えず守るあの生徒会員は只の門番の鑑と呼べるだけ任務に忠実、というわけでもないのだろう。明らかに何かを知っている、と目星をつけた。

一度考えを打ち切り、次に自分の取る行動に思考を切り替え再び歩き出した。

 

「………」

 

その動きの一切を見続ける目を無視しながら。

~保健室~

「うわ、切りやがった……」

 

通信を切られたキャストリームは即座にグリスに向けて連絡を取ろうとする。が、ワンコールも返さない。どうやらグリス側が端末の電源でも切ったのだろう。

なんだか脱力しているキャストリームを眺めるキュービアス。キャストリームの言葉を待っている雰囲気を漂わせたのを察知したかキャストリームも話し始めた。

 

「とりあえずわかってることだけを言っとくよ。報酬は……色白の子、かな?」

「さぁ詳しく話しんしゃい。あく、あくするんや」

「やる気出しすぎだろお前」

 

 

キャストリームが語った内容はそれほど多くはなく、精霊と呼ばれる敵対者(モンスター)がこの学園に潜んでいる可能性があること。確認出来た場合、生徒会の討伐認可を要請すること。

グリスですらわかる違いなのだからキャストリームが【視】ればすぐにわかる、とグリスが言っていたことだ。

 

「乗った」

 

話が終わった直後、キュービアスはそう宣言した。

あまりにも決断早すぎるだろと言いたげなキャストリームを無視して大きく背を逸らし椅子に体重をかけるキュービアス。ぎしぎしどころかメキメキと音を立てている。

 

「わての好みは知っとるやろ?わての好みは儚い女の子。それを報酬にされてもうたら受けるしかあらへん」

「持ちかけた私が言うのもなんだけどあんたのその単純さは恐ろしいわ」

「常識を逸する化物と常識の通じない化物(バカ)。わては後者でありたい」

「どう考えてもあんたは前者だよバカヤロー」

 

のほほんとしたキュービアスを呆れた目で視るキャストリーム。

こいつは【こう】いうやつだ。そういうことは嫌と言うほどわかっているはずなのにその度に驚かされている。基本的に思考を是とするキャストリームと理智など投げ捨てるキューは根本的に相性が悪いのだ。ほぼ一方的だが。

 

何にせよ話はついた、と言いたげにキャストリームは席を立った。

保健室の奥からうめき声が聞こえ始めたのを期にキュービアスも保健室に備え付けられた薬を探し始めた。

 

「まぁ、行動は早くても明日。現状精霊が存在するかもわからない。少なくとも私が一人見つけられれば確信が取れるんだけどね。こんな眉唾な話に付き合ってくれそうなのがいたら誘って。戦力は多いほどいいからね」

「あいわかった。まぁ、ブランちゃんあたりに声かけてみるわ」

「そんじゃ、また明日」

~超次元ゲイム学園 中央棟屋上~

キュービアスと別れたキャストリームだが、結局手がかりは皆無。

なのでというわけではないが、キャストリームの姿は屋上にあった。特に何でもない空を見て、特に何でもないことを考える。彼女なりのリラックス法のようなものだ。

 

「例えば仮に精霊が実在し、人間に対し敵対する存在だった場合。それならば【女神】を養成する場であるこことしてはそれを完全に排除するために動くだろう。いや、動かなければならない。だが仮に、精霊が実在して人間に友好的だったらどうする?グリスがもっていた本。その著者は何者?精霊と女神を両方知っている?それにただのラノベが如き創作物ならば後生大事に禁書として保管するわけがない。つまりはその禁書に綴られているものは精霊に限らず何しらが存在し、それをここの上が隠さなければならない何かがある。……それが精霊か、否か。生徒会長(トップ)に探りを入れられるのはグリスだけ……。まるで難事件を捜査する刑事みたいな手詰まりっぷりだ」

 

誰に言うでもなく呟きつづけるキャストリーム。思考は口に出して自分に聴かせることで進む。というのは彼女の持論だ。

ボーっと空を見つめながら虚ろに呟くキャストリーム。傍から見れば怪しさは全開だが、本人は何一つ気にしていない。というより迷路じみた本校舎を正しい順路で抜けてやっとたどり着くのがこの屋上なのだ。誰も来ないという確証もあったのだろう。

 

「そもそも精霊とはなんだ?辞書では【万物の根源を成すとされる不思議な気のこと】【草木、動物、人、無生物など何にでも一つ一つに宿っているとされる超自然的な存在】【肉体から解放された自由な霊】とされる。ならば私達が追っている精霊はどれだ?錬金術師パラケルススが発見した四大元素のそれぞれを記述した説明体系の擬人化?」

『あらあら。こんな遅くにこんな誰も来ないところでひとり戯れている方がいるなんて。誰か逢引の相手でも待っているのでしょうか?』

「なっ!?」

 

咄嗟に飛び起き、振り返る。

そこには長い黒髪で左目を隠した少女が佇んでいた。その少女は学生服を着てはいるものの、何かが違う。型に嵌り過ぎている、とキャストリームは思った

それ以前にキャストリームの目にははっきりと写っていた。目の前の女は、【人間】でも【女神】でもない。姿形はまさしく人間のそれだが、女神のように【中身】が全く違う。

読み込まれるデータ過多で涙が出かけた右目を瞑り、キャストリームは声をかけた。

 

「な、何だよ……あんた」

「時崎狂三、転入生ですわ」

 

礼儀正しく一礼する少女、時崎狂三。

逆に白々しくすら見えたその雰囲気を見てキャストリームは笑みを浮かべて自らの背後に小さな剣の形をした端末を出現させた。

 

「こうしてみて合点がついた。グリスの奴でも気付けるわけだ……あんたが、件の精霊って奴か」

「……仮にそうだとして。どうするおつもりで?」

「そりゃあ決まってる。討伐……ってのは私の領分じゃあないんだよね」

「おや、それは残念。ですが、武器を向けられてはお話もできやしませんわ」

「そりゃあ当然だろうね……ん?」

 

歩き出した狂三に対して身構えようとするキャストリーム。だが、両足が動かない。

握られているかのような感覚を疑問に思い足元を見る。

 

「なっ……んだオイ、ゾンビ映画じゃねぇんだぞ……」

 

キャストリームの足を止めていたのは、手だった。しかも、床から手だけが生えてキャストリームを逃すまいと掴んでいる。

透き通りそうな華奢な手だが、その腕力は予想以上に強くがっしりと掴んでいる。

どういうことだと考える間もなく今度は両手首が何かに掴まれ、伸ばされる。

これを掴んでいるのも足を掴んでいるのと同じ手。引き込まれて仰向けに大の字で拘束された。

 

コツコツと靴音を立てて歩き、キャストリームの枕元に立つ狂三。見下ろす狂三の顔は口裂け女みたいに笑んでいた。

 

「案外呆気ないものですわね。彼女とは大違い」

「誰と比べてるか知らないけど、私は戦闘型じゃないもんでね」

 

しゃがみこみキャストリームの顔を覗く狂三。

見下す顔は笑みのまま。貼り付けた仮面のような顔のままキャストリームに顔を近づけていく。

 

「女神の味、というのにも興味がありまして……」

 

そう言った途端、キャストリームが縛り付けられた硬いコンクリートの感触が消えた。

即座に横を見ると、自分の腕が、体が掴む手ごと沈んでいく。

見下す狂三は目を見開き、狂ったように笑う顔を見せている。

 

「【ここ】にきてまだ誰も食べていませんの。是非味あわせてくださいな?」

 

さらに生えるように増えた手に捕まれ縛られ、徐々に徐々にキャストリームが沈んでいく。

諦めたのか目を閉じるキャストリーム。それを見て詰まらなそうに狂三はキャストリームを掴む手を消し、沈んでいた分だけの反動がついていたのか飛び跳ねるようにキャストリームの体が宙を舞った。

 

「やっぱりやめましたわ、あなたは不味そうなんですもの。」

 

目を閉じたまま飛んでいくキャストリームに声をかける狂三。放物線を描きあのままでは頭から天井のコンクリートに落下するだろう。

でもそこまで言う義理もないため狂三はそのまま見守っていた。

 

「そりゃ、どうも……!」

 

キャストリームが目を見開き、全身が光に包まれる。

突然の発光に思わず目を覆う狂三。その間にザッ、と着地音が鳴った。光が止んだと思い狂三が両目を開くと、

キャストリームがいるべき場所に、薄紫色のボディスーツを纏った女神が佇んでいた。

背中には羽のように広がる4対の剣。体のところどころを守る装甲、目を覆うモノアイのゴーグル。

先ほどの飄々とした空気がなかったかのようにそれは佇んでいた。

 

『ターゲット【SPRIT・時崎狂三】の解析を終了』

 

無機質な合成音声のような声で話すキャストリーム。

その豹変に狂三もまだ何かあるのか、と次の動きを待っていた。

 

「それが、女神(あなた)の本当の姿……」

『戦闘能力データ、一部解析完了。戦闘継続の意義なしと判断』

「あなたを逃がす理由もないのだけど」

『武装スロット・スモークボム』

 

キャストリームが手を翳すと、そこには小型の銃が握られていた。

引き金を躊躇なく引き小さな球体状の爆弾らしきものが狂三に向かい飛ぶ。

 

「何をしてくるか事前に言ってくれるだなんてお優しいこと」

 

実弾でも拳銃程度の大きさの銃では傷一つ付かない確信はあったが、煙幕弾(スモークボム)だと宣言してくれたこともあり何の障害にもならないと思い宙に浮くキャストリームに向けて歩き出す。

球体が狂三にぶつかり、意味がない煙幕を張られると思った瞬間だった。

 

球体が破裂し、蛍光ライトを目に向けられたような眩しさが狂三を襲ったのだ。

 

「ッ……!?」

『大きな能力を持つものは、それに依存する。故にこうして騙される。当機からこの言葉を贈る【このクサレ脳みそが】』

 

至近距離での閃光だった故に未だ視界が晴れない。

この間に追加で攻撃されたらたまらない、と考えたか

 

「……仕方ないですわね!」

 

その言葉と同時に、狂三の姿が変異する。

女神化とは違う光とともに、制服が変異し、赤黒のドレスを身に纏う。

左目を隠す長髪がどけられ、その左目には赤い右目とは違い金色の時計となっていた。

 

変化の影響か閃光に傷つけられた目が回復していく。

ゆっくり目を開き、辺りを見渡すも――――――そこには誰もいなかった。

 

「……」

 

きょろきょろと再度見渡す。

しかしキャストリームの姿はおろか気配すら感じられなかった。

 

「……仕方ないですわ」

 

誰にいうでもなく狂三は呟き、影の中に沈むように消えた。

~数分前 超次元ゲイム学園 中央棟1F 視聴覚ホール~

謎の美少女女神ヴェルデハートと5pb.の唐突なライブが終了し、混乱したままの視聴覚ホール。

新入生歓迎のイベントということで一応参加していたネロは、保護者のようについてきたユニと同様絶句していた。

 

「つまり、どういうことなんでしょう……」

「さぁ……?とにかく乱入したかっただけなんじゃない?」

 

混乱から取り直した司会がアナウンスを再開させ、部活の紹介が再開されていく。

巨大な学園なだけあって長々とした部活紹介がまだ続くのか、とユニも若干飽きてきてあくびまでしている。

 

「あー……なんかもう、面白いものはなさそうね。ネロ、行くわよ」

「え?あ、はい」

 

ユニに手を引かれながらこっそりと視聴覚室を退出するネロ。

廊下にでて目的もなくふらふらと歩いていると突然ユニが鞄を見て慌てだした。

 

「あ、やば。教室に忘れ物したかも。ちょっといってくる。先帰ってていいわよ!」

「わかりました。また明日、ユニねーさん」

 

わたわたと慌てて走るユニを見送り、ネロも鞄の中身を確認する。

入学前に渡された資料、教科書類、筆記用具類、暇潰し用携帯端末、ノワールに渡された学園生活の心得。無くしているものはない。

だが念には念を入れ、とりあえず教室まで向かうことにした。

 

 

夕日が差す廊下を一人歩く。

視聴覚室の部活案内もあり放課後ということもあって人影はない。

入学して日も立っていないのに何故か空虚感を感じる。ネロには覚えのない空虚感だった。

もう少しで教室に着くところで、何か談笑する声のようなものがネロの耳に入った。

まだ教室に誰かいるのかと思いながら教室を覗いてみた。

 

「………」

 

一人の少女が、教室の端で窓から外を眺めていた。長い栗色の髪と同じ学年とは思えないような低身長が背後から見ても特徴的だった。ネロにはこの二つの特徴に当てはまる相手が二人ほどいたが、そのどちらも違う教室所属のため即座に別人だと判断した。

その手には端末のような機械が持たれており、恐らく電話か通信中ということがわかった。

念のための確認で電話を邪魔するのも悪いと思い、ネロは扉の前で少し様子を見ながら待つことに。

廊下から隠れて教室の中にひとりいる相手を覗いているというのはまさしく不審者だな、と内心自嘲するネロ。

 

通話が終わったのか、手に持つ端末をしまう少女。

そろそろ入ってもいいかな、と思ったところで少し大きめな声がネロの耳に入った。

 

「誰?さっきから見ているけど……」

 

まずい、と思ったが、よくよく考えれば後ろめたいことがあるわけでもなし。おとなしく姿を現すことにした。

ネロの姿を見た少女は一瞬驚いた顔をするが、すぐに落ち着いたのか口を開いた。

 

「わたしに、何か用、かな?」

「いや、用というわけではない。忘れ物の確認に来たら通話中だったようでな。出るタイミングを見測っていた」

 

それだけ言うとネロは自分の座席に向かい、真新しい机の中に手を突っ込み何もないことを確認してすぐに教室から出ようとした。

 

「邪魔したな。お前も早く帰れよ」

「あ、うん……じゃ、じゃなかった!ね、ねぇ!」

「……どうした?」

 

突然声を荒げる少女に少し引き気味に対応するネロ。

口調とは裏腹に結構臆病者、というより姉以外への対応の仕方がわからないのだ。

 

「私、エネット!エネット・ラドリー・オークレー!これからよろしくね!」

「……!ネロ・フェケート・シュバルツシスター。わたしのことを知りたいならユニねーさんかノワールねーさんに聞け。私自身よくわかっていない」

「…え?それって…?」

「またな」

 

口を滑らせたと思いいそいそと教室を後にするネロ。置いていかれたエネットは呆然とした後、はっとしてネロを追いかけるように走り出した。

~超次元ゲイム学園 校舎口前~

ネロは校舎の前でユニを待っていた。何か忘れものをしていたと言っていたユニよりは結局忘れものがなかった自分の方が早いはずだと見切りをつけてぼーっと佇んでいた。

 

数分待っていると、ユニの「あんた何してんの!?」という声ではっと意識が戻る。

気づくとネロの真正面にユニが不機嫌そうな顔をして立っていた。

身長の関係でほんの少しだけ目線を下に傾けるのを見てさらに不機嫌そうな顔をし、やれやれと言った表情を浮かべた。

 

「先に帰ってなさいって言ったのに」

「ねーさんが迷子にならないか心配で」

「あんたあたしをなんだと思ってるのよ」

「愛しいねーさんです」

 

歯に衣を一切着せない言い回しをする妹相手に顔を赤くしながらも手を引いて走り出すユニ。

それに釣られて走り出すネロ。傍から見ればまさに仲のいい姉妹にしか見えない光景だった。どちらが姉と見られるかは別として。

 

「そうだ、ねーさん。わたし」

「ネロちゃ~ん!」

 

突然、ふたりの背後からネロを呼ぶ声が聞こえ、その方向を向く。

急いで転びかけながらも、先ほどネロが出会った少女、エネットが息を切らしながらも走っていた。二人に追いつくと、息を吸ってはいてを繰り返しながら、ガバッとネロに向けて顔をあげる。

 

「ネロちゃん、寮どこ!?」

 

唐突に聞いてきたエネットにずずいと寄られ、ユニに助けを求める視線を送るネロ。

しかしネロ共々人付き合いが苦手なユニは即座に目をそらす。

姉が頼りにならないことを察したネロはエネットから多少引きながら答えた。

 

「ら、ラステイション……」

「ラステイション!?私プラネテューヌ!途中まで帰ろう!?」

「えっ……」

 

エネットがいうプラネテューヌ寮は、ネロたちが住むラステイション寮から見て本校舎を挟んで反対側。途中もなにもこの時点でエネットは自分の寮から離れていることになる。

それがわからないほど頭が足りないようには見えないエネット。何か考えがあるのだろうかと怪しむ目でエネットを睨みつけるネロ。

 

「……えーっと、ほら!せっかくできた友達だから色々聞きたくて…?」

「疑問符を付けるな。……大体、ユニねーさんに聞けといったはずだが」

「あ、じゃあそのユニちゃんって子は…」

「あたしよ」

 

まるで待っていたかのようにドヤ顔で佇むユニ。

ネロが「ねーさん」という相手がまさかネロより小さいコレだとは思わなかったのか、数秒固まるも即座にユニの手を取りぶんぶんと大きく振る。

 

「わたしはエネット!よろしくね、ユニちゃん!」

「よ、よろしくって振り過ぎよ!!」

 

慌てて手を振り払うユニ、えへへと照れくさそうに笑うエネット。

ほんわかとした二人の空気に微妙についていけずネロはそそくさと歩き出した。

 

「あ、待ってよネロちゃーん!」

「あたしを置いてかないでよネロー!」

 

二人もすぐに気づき、ネロの後を追った。

その様子こそ、姉と離れたくない妹のような光景だった。

~同時刻 本棟廊下~

「やっぱり、いない……」

 

本棟内を歩き回る少女、鳶一折紙。

既に一時間近く歩き回りながらも未だ目的の手がかりどころか学園の全貌すら見えない。

大分時間も経ったのを感じ、待ち合わせ場所に向かおうとしたときだった。

 

「……」

 

何かの気配。敵意、殺意ではない。いわば興味。そんな感じの視線を感じ、辺りを見渡すも既に大方下校か部活に行き人気がない。外から微かに人の声がする程度の廊下でただ一人いるはずの折紙は身構えて周りを警戒し続けた。

 

「……ッ!」

 

一瞬、強い気配を感じその方向をみる。

数瞬前には誰にもいなかったはずのそこには、兎を逆さにしたような帽子をかぶった小さな女の子が折紙をじっと見つめていた。

一見すれば小学生かとも思う少女は両手を後ろに回して折紙をじっと見ている。

 

「……」

「……」

 

互いに何も言わずに見つめ合う。

折紙は警戒を解かず、少女はまるで何も見ていないかのように。

 

数秒の後、少女は歩き出し折紙の横に立つ。

 

「復讐とは、なんぞや?」

「……?」

 

突然少女が投げかけた言葉。

一瞬困惑しながらも、折紙は少女の方に向き直り口を開く。

 

「相手を殺し、恨み晴らすこと」

「では、仮にその相手を殺したとして、心晴れなければ復讐を成したといえないのか?」

「殺した、後……」

 

言葉に詰まる折紙を見て、少女は折紙から視線を外す。

すたすたと窓際に歩き、窓に手をつけて外を見やる。外には下校中の学生らしき人影がまばらに存在した。

 

「では、仮にその相手を殺したとして、その相手に家族がいれば自分が復讐される側になってしまうのではないか?」

「あいつらに、そんなものがあるはずがない!」

「何故そう言い切れる?」

「――――――ッ」

 

少女が睨みつけるように折紙の目をみる。

鳶色の目が近づき、折紙は自分を見透かされるような気分に陥り、目をそらした。

それを見て少女は笑み、また背を向ける。

 

「人間はもちろん、動物、モンスター、女神にすら肉親はいるというのに、何故その復讐対象にそんな親しい相手が存在しないと言い切れる?」

「…いたとしても、その親しい相手も殺せばいい」

「……。彼も、ですの?」

 

彼?

そう呟いた途端、折紙を激しい頭痛が襲った。咄嗟に頭を押さえるも、まるで自分の脳が拒否反応を起こしているかのように痛み続ける。

その様を咲際の朝顔を眺めるかのように少女は佇んでいた。

 

「彼……だ、れ…?」

「…まさか、覚えていない?これは参った。まさか覚えていないとは。乙女心がどうのと言われる昨今男心は虚ろにされるものですのー」

「彼……    ……」

 

口に出したはずの言葉が、聞こえない。

自分が本来知っているはずの何かを思い出せない。

そのもどかしさと悔しさと共に襲う頭痛が、折紙から冷静さを次々と奪っていく。

 

「なるほど……予想外なこともあるものですの。記憶喪失ヒロインとかそういう題材だったんですの?あれ。……鳶一折紙。【彼】が誰だか知りたいですの?」

「……」

「知りたくないんですの?」

「……知りたい、教えて…!!」

 

縋るように少女の肩を掴み、悲痛な顔で叫ぶ折紙。

その顔を見て少女は目を見開きながら笑い、言い放った。

 

「やだ、ですの」

 

空気が凍結したのを互いに感じた。

あれだけ言いたそうにしていた少女の掌返しに折紙はわなわなと肩を震わせる。にたにたと笑う少女の肩を握り締め、少女の小さく軽い体を持ち上げ、背負投げのように地面に叩きつけた。

 

―――ズダァン!グチャッ

 

叩きつけた音と同時に、肉が潰れた音が響いた。

はっと折紙が我に返るも、少女は見事に首から先が潰れて心臓から送られるはずだった血が流れ出している。

自分のミスを自嘲する折紙。折角自分が追い求める何かを知ると言っていたのに。

と思ったものの、既にやってしまったことだと首を振り、立ち上がる。また別の情報源を探そうと血溜りを踏みしめその場を離れようとしたとき―――

 

「いやぁ、訓練してるんですのー。軽い自覚はあったけどあっさり投げ飛ばされたですの」

 

パチ、パチと拍手の音と共に頭を潰されたはずの少女の声が折紙の背後から聞こえた。

いくらなんでもあの状態で話すことも、拍手ができるほどの体力があるとは思えなかった。

あまりにも非現実的。即座に振り返ると、血だまりの上を無傷の少女が佇み手を叩いている。

 

「あなた……何…!?」

「まぁ、まずは失礼を詫びるですの。あなたのような間違った方向に全力疾走する純粋で愚かな考えなしが私は大好きなもので」

「……」

「褒めてるんですの」

 

睨みつける折紙を前にしてもニヤけた顔を変えない少女。

また潰されたら面倒だ、と少女は折紙の反応を待たずにさらに口を開く。

 

「なんの利もなくただよこせだなんて誰も応じたりはしないんですの。何かよこせですのー」

「……」

「あ、別に金銭とかはいらないですの。錬金術でどうとでもなるし。……一枚噛ませろですの」

「何が言いたい……」

 

さらに眼光を強める折紙を気にもせず、少女はポケットから携帯端末を取り出し折紙に画面が見えないようにふむふむと頷きながら目を通し続ける。

 

「へー、ふーん。ほー………うわ」

 

ニヤニヤしながら画面を眺めていた少女の顔が突然苦虫を噛み潰したようなものになる。その直後視線を画面と折紙に交互に向けながら、先程までのニヤケ顔が嘘のような表情のまま口を開いた。

 

「…いや、あの、ないわ…うん、私あんたが探し回ってる人のこと知ってるけど教えたくないわ……」

「……」

 

散々引っ張っておいて突然ドン引きし始める少女に堪忍袋の緒が切れたか、折紙は突然走り出し少女の顔面を掴んでそのまま壁に叩きつけた。

グチャッ、と気味の悪い音と共に少女の頭が破裂し壁には大きく血模様が飛び散った。

少しだけ残った顔面を離し、手からこぼれ落ちた携帯端末を拾おうとする。

 

「お前我慢弱すぎですの」

 

折紙の手より先に、小さな手が端末を奪い取った。

ハッとして壁を見るも血だまりと叩きつけたところに微かに残る脳髄だけ。無傷の少女が三度折紙の目の前に立っていた。

あまりにも異常な光景に、思わずその場から飛び退く。

潰した時の感触、返り血の生暖かさは確かに感じていたはずなのに。なのに死体はなく無傷の状態で、何の傷害も見えずに立っているのだ。

 

「何……何なのよ……!」

「いや私から言わせればお前こそ何なんですの。あんたの探し回っている【彼】。恐らく恋人関係なんだろうけど……こんな変態プレイした相手忘れるとか薄情とかそういうレベルじゃねぇですの。流石に【彼】が哀れすぎて何も言えないですの」

 

そういって少女は折紙に端末の画面を見せる。

そこには、【スクール水着を着て犬耳と尻尾を付けてさらに首輪とリードまで装備して這い蹲る折紙】の姿があった。

 

「いや、流石の私もドン引くしかないんですの。え?何?これ誰にでもすんの?」

「そんなことはしない!私は、彼に、しか……!」

「その彼を忘れていちゃあ世話ないですの。ねぇ今どんな気持ち?自分の性癖晒された挙句結局何も教えてもらえてないけどねぇねぇどんな気持ち?」

 

ニヤついた表情に戻して顔を近づける少女。

あまりにも不快感を煽る顔と言葉に誘われるように折紙は少女の首に手を伸ばす。

見た目相応に細く柔らかい首を軽くつかみ、そのまま先ほど叩きつけた壁に投げ飛ばす。

ベチャッ。直接叩きつけるよりは鈍い音と共に勢いついた少女は顔面から壁にぶつかり、そのまま自分の体に押しつぶされる。

ただでさえ血の花が描かれていた壁にさらに塗料が追加され赤い丸のようにもなっている。

 

「流石にこれ以上殺されると少しアレですの」

 

最早当然のように、折紙の後ろから少女の声がかかる。

振り向くのも面倒な折紙はそのまま少女の言葉を待つ。すると折紙の頭に何か紙のようなものが置かれたのを感じた。

 

「私の名はがすと、錬金術科二年ですの。もし、あなたがその絶対的に足りない愛ででも真実を知りたいのであれば……私を呼ぶですの。失礼いたします、【鳶一折紙(ケテル)】様」

 

カラン、と何かが落ちる音と共に少女、がすとの気配が消える。

振り返ると、そこにいたであろうがすとの姿はなく、代わりに旧式の携帯電話が置かれていた。

それと頭に乗る手紙を手に取り、携帯電話を開くと【連絡不可能】の文字が狭い画面にデカデカと表示されており、何の操作も受け付けそうにない。仕方ないと次に手紙を開いた。

 

『猿並の知能すら持っているかも怪しい子でもよくわかるがすとテレフォンのつかいかた』

 

明らかにイラつかせる目的で書いてある見出し文を見て手紙を握る手が力み手紙を引き裂きそうになるが、はっとして堪える。

一応この様なふざけたものでも現状では唯一の情報源なのだから、と自分に言い聞かせて大きく息を吐き、手の力を抜いて続きを読む。

 

『この手紙を持ったということは興味が出た、と受け取っていいのでしょうか?まぁ手紙なものでそちらの受け答えは何一つとして回答はできませんが。さて、手紙とともに置かれていた一見旧式の携帯電話。こちらがすとテレフォンといい見ての通りの携帯電話です。その機能は大きく分けて二つ。画面に【連絡可能】または【連絡不可能】と書かれておりますが、私に連絡できるかどうかの指標です。私これでも多忙なもので。まぁ連絡可能って出てる時は何時でもご連絡いただきたく思います。ああ、一応普通の携帯電話としても使えるので使いたいならご自由に。貴女が    にたどり着けることを祈る』

 

ふざけた見出しとは打って変わってそこまで煽るようなことは書かれていない。

一つ疑問があるとすればあからさまに空いた空白だ。文字の大きさからして四文字分ほどだけ明らかに空いている。あえて書かなかったのだろうか、もしくは書いてあったのを消されたのだろうか?

きっちり四文字分空けて続きを書く、ということをする理由もないはずだし、その部分は目標を示す言葉のようだ。消す理由も空ける理由もやはりない。

 

再び携帯を開いてみると、やはり画面いっぱいに【通話不可能】と映し出されている。

仕方なくポケットのしまい息を吐く。

今の数分の中で理解不能なことが多く起きてしまった。少し頭を冷やさないと、と重い周囲を見回すと、先ほどがすとを投げ飛ばした際に飛び散った血で通路の一部が真っ赤に染まっている。流石にこれを見られたら少しまずいかと思った折紙の行動は早かった。

 

「夜刀神十香と合流しないといけない……」

 

素早く血だまりに背を向けて半ば走るように歩き出した。

誰もいなくなった廊下では、血溜まりが次々とぽこぽこと沸騰したかのように泡を吹き、地面に染み込むように消えていく。最後には、赤い石の欠片のようなものが血溜りがあった場所にへばりつくだけとなっていた。


 
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