No.664934

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳

PHASE6 オーブ

お願いだから感想を……オラに感想をくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!些細なことでも良いから……

2014-02-21 08:03:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2045   閲覧ユーザー数:1978

「「「抜けた!!」」」

 

ビリビリと不快に振動するコクピットの中で、マユ、シン、イチカは各々の計器盤を見たままそう言った。大気の層が厚くなり、ガイア、ゲルググ、インパルスと、ガイアに抱きかかえているザクウォーリアの速度が一気に落ちる。それに伴って、赤熱していたガイアとインパルスの背面の温度が下がり、VPS装甲の鮮やかな色が戻る。メインカメラが作動、ツインアイにザクウォーリアのモノアイが捉えられた。

 

「アスランさん、大丈夫ですか!?」

 

マユはザクウォーリアに乗っている筈のアスラン呼びかける。

 

『ああ、大丈夫だ。異常はない』

 

電離層干渉によるEMP効果も無く、明瞭な応答がアスランから返ってくる。

 

「ま、前大戦の英雄がこんなんでへばるわけないか」

 

「お前、さっきから妙につっかかってばかりだな。そんなにマユに抱きつかれているのが気にくわないのか?」

 

「なっ!悪いか!?可愛い妹がお前以外の男と抱き付きあってんだぞ!?」

 

「抱き付きあってるって、モビルスーツだろうがてか俺はいいのか……」

 

「お前にならマユを託せるからな!」

 

「もう!……お兄ちゃんたちったら……あ、腕離しますからね」

 

『了解』

 

ここまで来たら、各々逆噴射をかけて着地に備える。ガイアもザクウォーリアもゲルググやインパルスと違って飛行能力は無いが、降りるだけならスラスターで姿勢制御し、減速できる。 ガイアがザクウォーリアを抱きかかえていた腕を解く。2機はスカイダイビングの要領で離れていき、その後各々スラスターを噴射して、姿勢を整える。地表が見える。無毛と思われる砂漠地帯。人家の気配は無い。遠慮なくスラスターを噴射して制動し、4機は大地に降り立った。

地上の状況が芳しくないことは、空を見上げているだけで解った。ミネルバはガイアとアスランのザクウォーリア、ゲルググにインパルスを回収すると太平洋上に出た。戦闘も無く、手すきの者は上甲板に出ていた。

 

「うへー、太平洋って言うんだろ? うわー、でっけー」

 

ヴィーノが興奮したように、手すりに身を乗り出し、あたりを見回している。彼に限らずプラントで生まれて育ち、地上とは縁の無い者がほとんどだった。プラントにも人工的な水場はあるが、海の広大さには及ぶべくも無い。

 

「でも、なんかイメージとちがくない?テレビや写真の海って、もっと鮮やかな青じゃなかった?なんかちょっと、緑色っぽくて濁ってるよ」

 

アリサが腕組みをしたまま、怪訝そうに言った。

 

「空のせいだ」

 

その声に、ヴィーノとデイル、それにヴィーノの傍らにいたヨウラン、ユーリが振り返る。

 

「イチカさん」

 

ユーリがその名前を呼んだ。

 

「海の青は、空の青を写しているんだ。だから空が晴れていない時は海の色もくすむんだ」

 

イチカは浮かない顔をして、甲板に出てきながら、そう説明した。

 

「そういや、空もこんな感じのって見たことないなぁ……」

 

デイルは空を見上げて、呟くようにそう言った。緑色に濁った雲が、辺りの空一面を覆っていた。

 

「多分、ユニウスセブン落下の影響だろうな」

 

今度はイチカが振り返る。イチカのさらに背後から、シンが出てきてそう言った。

 

「砕いたって言っても、あれだけの質量が一気に大気圏に突入したんだ、地上にはかなりの影響があったはずだ。被害も少なくないだろうな」

 

「そりゃまぁ、そうだろうねぇ」

 

溜め息混じりにデイルが言う。ヴィーノとヨウランは、ちらちらとの手すりに寄りかかっているマユの方を伺っている。当のマユは、物憂い気に軽くうつむいていた。

 

「……マユ、シン」

 

やや重い声で、イチカが声をかけた。

 

「ミネルバはオーブへ向かうそうだ」

 

「「!」」

 

その言葉に、マユとシンは姿勢はそのままで、一瞬凍りついたように目を円くした。

 

「それホントかよ」

 

ヴィーノが、好奇心交じりの表情と声で、イチカに聞き返す。

 

「でもどうしてわざわざ」

 

ユーリが、怪訝そうな表情で訊ねる。

 

「議長は一刻も早くプラントにステラ……例のナチュラルを連れて戻らなきゃならないし、オーブの代表もいい加減乗せっぱなしっていうわけには行かないだろう。それにここからカーペンタリアまで、最短距離だとどうしてもオーブ領海を横切ることになるしな」

 

イチカはこの場にいる全員に向かって、そう説明した。

 

「…………」

 

「マユ……」

 

マユは目を少し細めると、沈黙したまま、重い表情をしていた。シンはマユの名を呼びながら、そっと手すりに乗せる手に重ねた。

僅かに沈黙が流れた後、

 

「……けどホントに驚いた。心配したぞ、モビルスーツで出るなんて聞いていなかったから」

 

と、そんな声がイチカたちの背後から聞こえてきた。

 

仏頂面のアスランが甲板に上がってきて、それにカガリが続いていた。心配した、と言ってはいるがカガリの表情は明るい。それは純粋に喜びと安堵からのものだった。

 

「すまなかった、勝手に」

 

対するアスランは暗めの雰囲気で、憂い気な表情のままで言う。

 

「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし。私はむしろお前が出てくれて良かったと思ってる」

 

カガリは笑顔のまま、アスランに言 う。

 

「…………」

 

マユとシンはカガリを一瞥してから、アスランに視線を向けた。

 

「本当にとんでもないことになったが、ミネルバやイザーク達のおかげで被害の規模は格段に小さくなった。そのことは地球の人達も感謝してくれる」

 

カガリはそう言った。アスランは相変わらず物憂い気な表情のままだった。マユはシンと顔を見合わせる。マユは軽くため息をついた。

 

「…………そうだろうか?」

 

「え?」

 

アスランは重々しく口を開く。

 

「ユニウスセブンの突入は自然現象じゃなかった。犯人がいるんだ。コーディネィターのな」

 

「あ、ぁぁ……だがそれは……」

 

カガリの表情が急に曇った。

 

「あそこで家族を殺された連中が、ナチュラルなんか滅びろと言ってユニウスセブンを突入させたんだ」

 

「それは……それは解ってるさ!でも、お前達はそれを止めようとしてくれたじゃないか!お前だけじゃなくて、ザフトの人間も」

 

カガリは必死に言うが、アスランの顔は晴れない。

 

「だが、それでも止め切れなかった……破片が地上に降り注いで被害が出た……」

 

「…………それは」

 

「一部の人間がやった事だと言っても、俺達コーディネィターのした事に変わりは無い。許してくれるのか、それでも……」

 

アスランは言い、重々しく短いため息をついた。

 

「それは、人によるんじゃないの?」

 

「えっ?」

 

言葉に詰まったカガリに代わって口を挟んだのは、シンだった。

 

「アスランさんこそ、ナチュラルとコーディネイターという括りに囚われ過ぎていないか……せんか?俺達、デュランダル議長の下でのザフトと、あの連中が違うように、ナチュラルがみんながみんな、俺達を憎んだり、そうしなかったりするはずは無いと思う……ます」

 

「シン……君は」

 

アスランはシンに視線を向けると、何かを告げようとしたが、

 

「そうだよ!」

 

と、カガリが希望を見出した明るい顔で、それを遮るように声を上げた。

 

「犯人がコーディネィターだと言っても、ザフトはそれを阻止する為に動いてくれたんだ!きっとわかってくれる人だって、たくさんいるはずさ!」

 

事実、既にデュランダル議長の指示 でユニウスセブン突入はザフトを脱走したテロリストが起し、ザフトは被害を最小限に抑えるために活動したと、映像付で発表されている。ジンもザフト系の機体だが、旧式の機体であり、正規のザフトでは第一線を退いて久しい。現用のザクウォーリア、ゲルググとの対比が、彼らがテロリストである一定の根拠を与えてくれるはずだ。

 

「それは……そうかも知れないが」

 

逆にカガリに勢いを呑まれかけたアスランは、目を白黒させながら声を出してから落ち着きを取り戻す。

 

「ただ、彼らのリーダーが言っていたんだ。パトリック・ザラの採った道がコーディネイターにとって唯一正しい物だってな……」

 

カガリと正対したまま、アスランはそう言って、またため息をついた。

 

「アスランさん」 

 

マユに呼ばれ、アスランは軽く驚いたようにマユを見る。

 

「あの人達の言うことが、正しいとでも思ってるんですか?」

 

キョトンとした表情で、マユはアスランを見ながら、そう訊ねた。

 

「え……?い、いや、そんなことは無いが……」

 

アスランは面食らったように、目を円くして答える。が、すぐに再び声のトーンを落とした。

 

「ただ、まだ父の言葉に惑わされている人間がいるのかと思うと……」

 

「だからってあんなやり方が許されるって言うんですか?」

 

イチカの眉間に、軽く皺がよった。

 

「そ、そんなことは無い!当たり前だろ!!」

 

「だったらしっかりしてください!父親のやり方が間違っていると思ったから、アスランさんはそれを正そうとしたんでしょう?」

 

「それは……」

 

マユがそう言うと、アスランは答えに戸惑いを持つ。

 

「アスランさんがしっかりしなかったら、それこそこの後もズルズルとそういう人達が出ることになりますよ」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

入れ替わったイチカが一旦言葉を区切り、アスランは その間に聞き返す。イチカ、マユはすっと息を吸い込んでから、

 

「「女性が褒めてくれているのに、うじうじした態度とってる男なんて、かっこ悪いですよ!!」」

 

「え…………」

 

アスランは三度、面食らったように目を円くする。ちらりと背後に視線を向けると、カガリの視線とぶつかった。

 

「わ、私とアスランは、そんなんじゃない!!」

 

ムキになって言い返したのは、カガリの方だった。カガリの剣幕に、逆に軽く驚いたように目を円くしたマユたちの方だった。

 

「えっ?違ったんですか?」

 

「え~?あたしてっきりそーゆー関係かと……」

 

「いや、まだ希望を捨てるのは早すぎるぞ皆。世の中には表立って公表できないような恋愛があってだな」

 

「イチカお兄ちゃん、そんなに恋愛に詳しそうなのに、どうして私たちの気持ちに気付かないのかな?」

 

「そうですよね……はぁ」

 

「苦労してるなぁ二人とも」

 

「ルナマリアとアリサにも労ったとこうぜ」

 

皆々がそれぞれ好き勝手言い続ける中、ほとぼりが冷めるまでの間カガリとアスランはどうやって言い訳をすればいいのか、ずっと模索していたのであった。

 

「にしても、あたしはちょっと気にかかることがあるんだよねー」

 

好き勝手言い終えた後、腕組みをしたデイルが、おどけ混じりに首をかしげながら、言う。

 

「あいつらの使ってた機体……試作で落ちたジンの改修型でしょ?それをあんな数、連中どっから調達したのかねー」

 

「それは、ザフト脱走するときに乗り逃げしたとかじゃねーの?」

 

ヴィーノが後頭部に手を回したポーズで、何気無しに言う。

 

「それで説明つくような数か?あれ。大体連中全員同じ機体乗ってたし」

 

「それは……確かに」

 

シンが言い返すと、ヴィーノも言い、腕を組んで唸ってしまった。

 

「その辺りは、プラントの方でも調査すると思うけど……」

 

イチカも言ったが、その表情は浮かない。

 

「生産設備を持っている組織があると言うことか?」

 

カガリが単純にそう考え付く。

 

「可能性は排除できませんね」

 

ユーリが頷き、そう言った。

 

「だとしたら、くっそー、何処のどいつが……」

 

「いや」

 

1人で義憤を募らせるカガリに、アスランはそれを否定するような声を出した。

 

「彼らはユニウスセブンを落とせれば自分達も死んでも良いような発言をしていた。もしそんなバックアップ体制を持っている組織ならそんなことは無いはずだ」

 

「うーん…………」

 

その場にいた全員が頭を捻る。

 

「ま、その辺りの難しいことはお偉いさんが考えてくれるんだろうけど、次から次へとああいう手合いが出てこられたらやってられないね」

 

肩を竦めて、デイルが言った。この中で唯一その『お偉いさん』の範疇に含まれるであろう1人が頷いた。

 

 

 

「ザフトの戦闘艦とはな。姫もまた面倒なもので帰国される」

 

オーブ連合首長国・オノゴロ島、軍 港。

ミネルバの寄港の要請を受けて、その準備が整えられていた。その様子を見ながら宰相ウナト・エマ・セイランと、その息子ユウナ・ロマ・セイランが話し合っていた。

 

「今のところ我々は中立を保っていますから。でもどうします父上。その間に連合が動いたら」

 

「まだ正式に同盟を締結したわけでもないし、言い訳は何とでもできるさ。それに我々の動きを無視して、事を始めるほど連合も間抜けではあるまい」

 

ウナトは冷静な表情で言ったが、ユウナの表情からは不安が払拭されていない。

 

「どうでしょう。今ブルーコスモスを牛耳っている男、アズラエルと違って、プロパガンダの演出の為にそう言った打算が後回しになりそうな人物ですから」

 

「それならそれで、オーブはまた様子見をすれば良い。重要なのは土壇場で前大戦の過ちを繰り返さないと言うことだ」

 

「そうか……そうですね」

 

「それに、わざわざわが国の代表を届けて下さったのだ。無碍に扱うわけにもいくまい」

 

「最低限の補修、それに食料と推進剤の補充程度ならさすがに連合もどうこうは言ってこないでしょう」

 

2人が話し合っている間にも、入港の準 備が整えられた桟橋にミネルバが入港してくる。湾内で着水すると、タグ・ボートの力を借りず、自力でゆっくりと接舷を始める。

 

「全推進器停止。速力0。機関アイドルです」

 

ミネルバの艦橋で、男性オペレーターがそう告げる。

 

「OK。私とアーサーは議長と共にオーブ側へ挨拶に行ってきます。よろしくお願いね」

 

タリアはミネルバの停止を確認する とそう言ってから制帽を被りなお しアーサーを伴って艦橋を後にした。 桟橋からミネルバのメインデッキ左 舷側にタラップが寄せられる。気密扉が開き、まず姿を現したのはデュランダルだった。それに続く形で、カガリとアスランが出てくる。最後にタリアとアーサー、それにデュランダルの護衛役の兵が降りてくる。

 

「カガリぃ」

 

先程までとは一転、ユウナは甘ったるい声を出すと、タラップから降り立ったカガリに駆け寄っていき、抱きついた。

 

「あ、ユウナ……っておい、ちょっと待て」

 

表情の緩んだユウナとは対照的に、カガリは露骨に不快そうな顔をしながら、ユウナを解こうとする。

 

「これ、ユウナ。気持ちは解るが場を弁えなさい。ザフトの方々が驚かれておるぞ」

 

「あ、ウナト・エマ」

 

ウナトがユウナを制すると、ユウナはカガリを離してウナトの傍らに立った。その際、ちらりと挑戦的な視線をアスランに送る。

対してアスランは、不快そうな顔つきになる。

 

「大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、ありがたく思う。被害の状況はどうなっている?」

 

「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが、幸いオーブには直撃は無く」

 

カガリに訊ねられ、ウナトはそこまで答えてから、ちらりとデュランダルを見た。

 

「詳しくは後ほど、行政府で。急ぎ御報告しなければならない事案もありますので」

 

ウナトはそう言い、軽くカガリに礼をしてから、デュランダルと向き合った。

 

「ようこそオーブへ。ギルバート・デュランダル閣下」

 

「歓迎を感謝します、ウナト・セイラン閣下。火急の事態に余計な手間を増やしてしまい申し訳ありません」

 

デュランダルは笑顔で言い、ウナトと握手を交わした。

 

「いえ、こちらこそ、代表の帰国にこのような取り計らいをして頂き、まことに感謝いたします」

 

ウナトも、少なくとも表面上は屈託の無い笑みで、そう答えた。

 

「いえ、不測の事態とは言え、代表を連れまわす形になってしまったのは我々の方ですので。それにこの度の災害につきましても、お見舞いを申し上げますと共に、我々の努力の至らなかった事を謝罪いたします」

 

手を下ろした後、デュランダルはそう言って深く頭を下げた。

 

「いえ。こちらも事情は把握しております。どうか頭をお上げください」

 

ウナトが言い、ようやくデュランダルは頭を上げた。

 

「ありがとうございます。せっかくオーブを訪れたと言うのにまったく申し訳ないことですが、私は急ぎ プラントへと戻らねばなりません」

 

「事態は逼迫していますゆえ。理解いたします。早速シャトルを手配いたしましょう」

 

「お気遣い、重ね重ね感謝いたします」

 

デュランダルは再度、軽くだが頭を下げた。

 

「紹介します。この艦の艦長、タリア・グラディス」

 

デュランダルが紹介すると、タリアは直立不動で敬礼した。

 

「それから、副長のアーサー・トラインです」

 

アーサーも、タリアに倣う。

 

「ようこそオーブへ。クルーの方々もお疲れでしょう。まずはゆっくりとお休みください。補給と整備に関しましては、後ほど責任者の方を寄越しますので」

 

「お気遣い、感謝いたします」

 

ウナトが言い、タリアはそう答えた。

 

「お互い取り込んでいるようですゆえ、社交辞令はこの辺りで」

 

ウナトはデュランダルを見て言う、デュランダルは頷いて肯定した。

 

「代表、早速ですが行政府の方へ」

 

「あ、ああ……」

 

それまで、ウナトにデュランダルとのやり取りを任せきりにしていたカガリははっと我に返ったように 声を漏らした。カガリは一度、デュランダルを振り返る。

 

「議長、グラディス艦長、短い間だが世話になった。礼を言う」

 

「いえ。こちらこそ、お手間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

カガリとデュランダルが握手を交わし、オーブとプラントの首脳陣は別れた。

 

「あー、君も本当にご苦労だったねぇ、アレックス。報告書なんて後で良いからまずはゆっくりと休んでくれ給え」

 

「……はい」

 

わざと嫌味な態度を作り、牽制するように、ユウナはアスランにそう言った。アスランは苦虫を噛み潰したような表情で頭を下げた。

「何だと!?大西洋連邦との新たなる同盟条約の締結!?何を言ってるんだこんな時に!今は被災地への救援、救助こそが急務のはずだろ!!」

 

行政府、連合代表執務室に戻ったカガリは伝えられた急ぎの報告を聞いて、まずは激昂した声を上げた。

 

「こんなときだからですよ、代表」

 

居並ぶ閣僚の1人が冷ややかに彼女の驚愕を見守る。首長の一人、タツキ・マシマが代表するように口を開いた。

 

「それにこれは大西洋連邦とのものではありません。確かに呼びかけは大西洋連邦から行われていますが、それは地球上のあらゆる国家に対してです」

 

「…………」

 

言葉に詰まりかけたカガリだったが、突然何かを思いついたようにはっとすると、彼女らしくない鋭く重い睨みをタツキに向けた。

 

「あらゆる国家、と言ったな?」

 

「はい、そうで御座います」

 

「その中にプラントは当然含まれているんだろうな?」

 

「はっ!?」

 

低い声で問いただすカガリに、タツキは一瞬、目を円くしてひっくり返った声を上げてしまった。ウナトとユウナも驚きの様子を隠せず、 顔を見合わせた。

 

「な、何を言ってるんですか代表!此度の事、一体どのような経緯でこのような事態になったか、存じ上げていないわけではないでしょう!?」

 

タツキは素っ頓狂な声を上げて、それから、カガリに強い調子で言い返した。

 

「つまり、例外があると言う事じゃないか!それでは駄目だ!中立とはいえない、オーブの理念に反する!」

 

カガリも険しい表情で、怒鳴るように言い返す。

 

「まぁ、まぁ……」

 

ウナトは双方をいさめる様に、間に割って入った。ウナトは今にもタツキに噛み付きそうなカガリに向かうと、

 

「長い間ザフトのフネに乗っておられた代表には、今ひとつご理解いただけないのかもしれないがあの事件で地上が被った災害はそれは酷いものです」

 

と、そう言いつつ、ユウナに手振りで指示した。

 

「そして、これだ」

 

「あ!」

 

ユウナが壁面にかけられているテレビにビデオを再生する。それを指して、ウナトは重々しく言った。

 

「…………」

 

そこには、ユニウスセブンの破砕作業を妨害する、ジン・ハイマニューバIIの姿が捉えられていた。

 

「この画像は何処から出た? プラントからか?」

 

カガリは問い質す。

 

「まさか。大西洋連邦からですよ。もっとも、プラントも大筋ではこれを認めていますが」

 

そう答えたのはユウナだった。

 

「……じゃあ、誰がこれを撮影したんだ?」

 

「えっ!?」

 

ユウナが、軽く驚いた表情になる。

 

「私は見た!プラントを襲撃した連中は、大形戦闘艦を使っていたんだぞ!それも条約で禁止されているはずのミラージュコロイドを装備していた!」

 

カガリは激情を伴った声で言った。ユウナとウナトは面食らったように軽く仰け反る。

 

「ま、まさか代表は、その襲撃犯が大西洋連邦だとでも!?」

 

「確かに証拠は無い。だが、誰が送り出したと言うんだ。まさかプラントの自作自演だなどとは言わないだろうな!?」

 

ユウナが問い質すと、カガリはきっとユウナを睨んで言い返した。

 

「お待ちください代表、今はそのことではなく、ユニウスセブン落下のことのほうが重要です。議論を摩り替えないで頂きたい」

 

ウナトが淡々と、しかし強い調子の声でそう言った。

 

「だからあれはほんの一部のテロリストが起したことだ!事情を知って、デュランダル議長やザフトはその破砕作業に全力を挙げてくれたんだぞ!そうでなかったら、地球は、今頃…………」

 

「それは解っています。だが実際に被災した何千万という人々にそれが言えますか?」

 

感情的な口調で言い返すカガリに、ユウ ナが落ち着いた口調で嗜めるように言う。

 

「……言っていくしかない。解ってもらうしかない。そうでなければ、それこそ地球は壊滅していたんだからな!それがオーブの理念を守ることにも通じる!」

 

「…………!!」

 

ユウナは再び、驚いた表情でカガリを凝視した。そして、ウナトと顔を見合わせた。

 

「そ、それでは代表、今度はこちらの映像を見ていただきたい」

 

タツキはそう言って別のビデオの再生を準備し始めた。

ミネルバはドックに入る為、最低限の人員を残し、乗組員とMSパイロットには休暇が与えられた。その多くの者が始めての地上に、こぞってオーブの街に繰り出した。

 

「おーい、イチカー」

 

早くも閑散としている艦内で、アリサがミネルバモビルスーツ隊隊長の名前を呼んだ。

 

「ん、アリサ。それにルナも一緒か」

 

私服姿でこれから出かけます、という装いのイチカは、いまだ制服姿の2人が駆けてくるのを見て、言葉に出した。

 

「2人は街に出ないのか?」

 

「それで探してたんだってば」

 

イチカが訊ねると、アリサが即座に言い返した。

 

「良かったら、オーブを案内してもらえないかと思って」

 

「え、俺が?」

 

ルナマリアの言葉に、イチカは軽く驚いたような、苦い顔で答えた。

 

「うーん……まぁ、いいか……」

 

渋々と言う感じで、頭を掻きながら、イチカは承諾した。

 

「ありがと。あとデイルとショーンとヴィーノ、ヨウランにユーリも一緒だから」

 

ルナマリアは笑顔で、あっけらかんとそう言った。

 

「……俺は修学旅行の引率者か」

 

苦笑してジトリと汗をかきながら、イチカは言った。

 

「ところでマユとシンは?」

 

イチカは姿勢を軽く直してから、2人にそう訊ねた。

 

「シンはレイと射撃訓練って言ってたけど……マユは知らないな」

 

ルナマリアは肩を竦める。

 

「なんか、気がつかないうちに先に出かけちゃってたのよ。つれないのよね二人とも」

 

アリサも、目を閉じて指を頬に当て、そう言った。

 

「まぁ、マユもシンも、俺なんかよりも因縁深いからな、この国には……」

 

イチカは機械で出来た左腕を見ながらは哀しげに苦笑して、そう言った。

 

「ふーん……」

 

ルナマリアは感心なさげな声を出した。

 

 

 

オノゴロ島の旧市街は、現在は慰霊のための記念公園になり、巨大なモニュメントが立っている。それとは別にそこから程近い岬にも、白い慰霊碑があった。道路の走る堤防から、その岬に向かって、マユは階段を下りる。

艦長からクルーに対して上陸許可が出たので、射撃訓練などをやっているシンとレイを除いて皆が街に出かけていた。マユだけが上陸する事に抵抗を覚えていたが、艦に留まっているのも一秒ごとにじりじりと灼かれるような苦しみだった。

そうして艦を降りたマユはある場所を目指していた。歩いているうちにマユはふと思った。

 

━━私、戻ってきたんだ……オーブに……。

 

そう考えると意志に関わりなく、体の奥がざわつくような感じになる。

こんな形で帰ることになるとは思ってもいなかった。二度とその土を踏むことはないと思っていた祖国━━だがこうして戻ってみると、郷愁としかいいようのない勘定がわき上がり、マユは自分の気持ちを扱いかねていた。

階段を降りきると、そこには慰霊碑があり、その前に1人の男性がいた。年恰好は少年と青年の境の頃、年齢はシンやイチカより少し上に見える。

 

「…………」

 

するとその人物は気配に気がついたのか、振り返って視線を向けた。

 

「貴方も、慰霊……ですか?」

 

マユは慰霊碑に近づきつつ、男性に向かってそう訊ねた。

 

「ん……ああ……」

 

男性は穏やかだが、どこか気の抜けたような声で返事をした。

 

「良くは知らないんだけどね……ここにこうした形で来るの、始めてだから」

 

男性は優しげに薄く微笑んで、マユにそう言った。

 

「…………」

 

マユは僅かな間男性を見つめた後、慰霊碑に向かった。白いコンクリート製の慰霊碑を花壇が取り囲んでいる。

花は爛漫と咲いていたが、どこか元気を失いつつあるようにも見えた。マユはかがんで、その様子を観察した

 

「折角花が咲いたけど、波を被ったから枯れちゃうね……」

 

男性は穏やかだが、どこか物悲しげにそう言った。

 

「……誤魔化せないって、事じゃないでしょうか?」

 

「え?」

 

少年がその言葉の意味を問うように、マユを見た。

 

「この花、綺麗だけどどれも海岸には咲かないものばかりでしょう。人が勝手にこんなところに植えて……本当に海岸に咲く花なら、波を被ってもすぐには枯れたりしないのに……」

 

続いて繰り出された言葉に反射的に聞き返してきた男性に対し、マユは顔を合わせないまま、そう言った。

言ってから、腰を上げて、男性に視線を向ける。

 

「人は……自分達の都合で花の咲き方まで変えてしまう」

 

マユの言葉に、男性は目を細め、僅かに沈黙した。

どこからどう見ても十代にしか見えない少女からそのような言葉を聞いて、軽く戸惑いを覚えていた。

 

「君……いくつなの?」

 

男性は、口調は優しげだが、不躾に、聞いてきた。

 

「11、ですけど……それが何か?」

 

マユは内心むっとしたが、それを表情には出さずに答えた。

 

「いや……ずいぶん大人びたことを言うんだなぁ、って思って……あ、ごめん」

 

男性は正直に気持ちを言ってから、それが失礼に当たるように感じて、謝った。

 

「…………2年前に」

 

「え?」

 

ボソリ、とマユが言ったのを、男性は反射的に聞き返した。

 

「……いえ、何でもありません」

 

マユはそう言って、男性から顔を背けた。

 

「そう……」

 

男性は少し気落ちしたように声を出 す。

 

「トリィ!」

 

声がして、マユはキョロキョロと辺りを見回す。緑色の鳥形ペットロボットが飛んできて、男性の肩にとまった。

 

「それじゃ……僕は行かなきゃならないから」

 

「はい。私ももう、戻ります」

 

そう言って、男性とマユは別れた。もと来た階段を上がっていくとき、何処からか、誰かの歌声が聞こえてきた。

優しげで穏やかな歌声なのに、マユにはそれがとても不愉快なものに聞こえた。


 
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