第六十八話 「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
冥加が俺の手をそっと掴んだ。
全身黒くなってしまった俺が今にも崩れそうに見えたのだろう。
「零、今助けてあげるから」
冥加はそう言って行橋先輩と都城さんに目を向けた。
二人はその視線に頷くと繋がれた俺と冥加の手に自分の手を重ねる。
次の瞬間、全身に電流が走った感覚になり、頭のなかをいろいろな映像が流れていった。
『因果の種』は世界への直接的な接続が許されるスキルなのだろう。
先ほど流れていった映像は世界の記憶の一部だったのだろう。
俺の体を流れていくたくさんの力を感じながらそんなことを考えた。
「ふむ、やはり時間がかかりすぎるな。
爺さんの時も思ったが、スキルの情報量が多すぎるぞ」
「だね、これは、めだかちゃんの『完成』とは別の方向で難しい能力だね」
俺の手を握りながら能力の受け渡しを主導する二人はそんなことを言った。
原作そのままの表現であるならば暗く深い闇が『完成』という力、
そして、これは羽のように軽く白く、どこまでも澄み渡る力だ。
故に『完成』のような潰れる感覚はなく、むしろ重荷を解かれるような感覚だ。
「心地が良い」
気づけばそうつぶやいていた。
都城さんは「そうだな」と頷くと、俺の顔を見て目を細める。
「今、お前を見ておけと誰かが言った気がしたよ」
「奇遇だね王土、僕も同じさ。いま見ておかないといけない気がする」
二人の予想はあたっているかもしれない。
今回の件が終われば、俺は一度この世界から出るからね。
理由は……後にしよう。
さて、時間を稼いでいる奴らは大丈夫だろうか。
俺がここでのんきに能力を渡されている間に、戦闘不能になっていないだろうか。
「……ふむ」
彼等の方向を見て驚いた。余裕で時間を稼げている。
彼らがクランに勝てるという偶然はさすがになかったのだろう。
彼等は時間稼ぎの動きしかできていない。だが、それで十分だ。
時間を稼いでくれたなら、後は俺でどうにかなる。
「ぶっ潰す」
そんなことを呟いて、
頭を流れる情報たちに、意識を沈めていった。
****
「終わったよ」
冥加のその声で俺は意識を浮上させた。
確かに、もうひとつの力が宿っているのがわかる。
じゃあ、行ってこよう。たまたま偶然、黒いからだが元に戻った。
「姫ちゃん」
愛しの妹の方に歩み寄り、腰を下ろす。
彼女はとても心配そうな顔で俺を見る。
そんな彼女を安心させようと、俺は彼女の頭をなでた。
「行ってきます」
「兄さん!」
立ち上がろうとした俺の腕を、動けないはずの姫ちゃんが掴んだ。
そのまま腕を引かれて彼女に向かって崩れ落ちてしまう。
「おお!?」
「行かないでください!」
彼女は倒れこんだ俺を強く抱きしめた。
その抱擁から、彼女の思いの強さを察することができるだろう。
けれど、やはりここは行かないといけない、
そうしないと姫ちゃんはずっと神の連中に付きまとわれてしまう。
まぁ、彼女もそれはわかっているのだろう。
けれど、それでもやっぱり言いたいものは仕方ない。
「行くよ」
そして仕方なく口に出したとしても、
そこで俺は引き下がる訳にはいかない。
彼女の望みには反するけれど、人間自分の欲望に従わなきゃ。
俺は姫ちゃんと一緒にいたい。イチャイチャしていたい。
その幸せな世界を誰かに付きまとわれて暮らすなんてまっぴらだね。
「兄さん」
彼女が俺を抱く力をさらに強める。
俺は姫ちゃんが手を話すまでその頭をなでた。
しばらくして、姫ちゃんの手は脱力するように、諦めるように俺を放した。
最期にとでも言うように、軽く、小さな口づけを加えて。
俺はしばらく離れた姫ちゃんの顔を見つめ、
名残惜しさを感じながらも立ち上がってクランと、彼女に退治する時間稼ぎ組を見た。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
外出の挨拶をして、姫ちゃんに振り向かずに俺は足を進める。
姫ちゃんの抱擁と、キスは俺に力をくれた。
そして、最期の送り出しの言葉は俺の背中を押してくれる。
戦闘を続けるクランに向けて、俺は能力を発動した。
*****
『圧倒的』能力を手に入れた零とクランの戦闘はそう表現するしかなかった。
零があまりにも強すぎる。クランの攻撃はことごとく潰れていった。
『因果の種』この世界の中では最終兵器に当たる能力。
おそらく、このスキルと互角に戦えるのは善吉と言彦位だろう。
「潰れろ」
「ぐっ、がっ、ああああああああ!」
零自身は強くなっていない、
ただ、『因果の種』が接続する世界が強すぎるのだ。
全ての現象からから一つの現象を確定させるスキル『因果の種』
それにはこの能力を人の力で使った場合の効果。
神の力で使った場合は……世界を手懐けるスキルになる。
「『世界を統べる者』」
「うっ、ああっ」
「神は、この世界に入れない」
「きゃあああああああ!!」
世界干渉で神を追い出すなんて簡単で、
神を倒すなんて簡単で、姫ちゃんの全盛期になるなんて簡単で、
たまたま偶然、神の世界へ生けるようになるのも当たり前で、
彼が、そこに迷わず入っていくのも、当たり前だった。
「兄さん」
神姫のつぶやきが、零のいない世界に響いた。
****
物語は世界の修正力で簡単に戻ってしまった。
言彦というラスボスは代わりに鶴喰梟が務めることになった。
そして、物語通り、最後に何かを言いかけた時に、
たまたま偶然の事故で亡くなって、月が落ちてくることになった。
安心院さんは梟との対戦中に油断して何処かへ行った。
そして、感動の卒業式も無事終わり、
そして、最期の百輪走も……いや、これだけは物語が崩れた。
善吉は何故か不思議な力でスキルを制限され、
零にもらったスキルも使えずにめだかに負けた。
「ふむ、これでコサージュは集め終わったか?
いや、待て、後大事なものを四人ほど忘れてる気が……」
「そうそう、まだ終わってないだろう」
「戦うのは後三人残ってるわよ」
「休養のためにしばらく休んでましたけど、
百輪走くらいは私達も参加させてもらいたいです」
めだかは百輪走にて理外点の三人と戦うことになった。
コサージュは百三個、百輪走は百三輪走になってしまった。
一人はスキル無し、二人も病み上がりというのが大きかったのだろう。
めだかは辛くも三人に勝つことができた。
そして、めだかはそこで物足りないことに気づく。
「後一人はまだか……」
最期の一人いないことをめだかは呟いた。
世界の外へ出かけた彼は、いつ返ってくるのか彼女にはわからなかった。
そして、一人欠けていることに気落ちしていたため、
彼が帰ってきたことも、彼女にはわからなかった。
「さて、今は百輪走の時間かな?」
「!」
めだかの背後で声がする。
彼女は慌てて振り返った。
すると、そこには彼がいた。
あの時世界の外に出て行った時のまま。
「物語通り、善吉のスキルは封じておいたぜ」
「ありがたいな、普段の全吉なら小指で倒されていたよ。
それで……貴様、いつ帰ってきた?」
「三時間ほど前、姫ちゃんと体洗って飯食ってイチャイチャしてた」
「じゃあさっきの三人は?」
「全員本物、俺は隠れてただけさ。
最後の最後のボス。つまる所は隠しボスみたいな?」
零はニヤリと笑う。めだかはそんな彼に苦笑する。
「勝てないことが確定してるんだしイベントボスではないのか?」
「ああ、そういえばそっちのほうが合ってるな。
でも、大丈夫。今回はちゃんと勝てるようにしてあるさ」
零はもう一度指を鳴らす。
彼の体が透けた。
「!?」
「俺に一撃当てられたら勝利だ。
この学園の生徒としての最後の試練だ、頑張れ」
めだかは透けた零に驚き、そして、その試練の難しさに笑みを浮かべる。
難しい物ほど燃え上がる。めだかはそういう人間だ。
「いいだろう。今まで貴様に攻撃をまともに入れられたことがないからな。
やってやるさ。最後の最後に全力で貴様に一撃くれてやる」
「じゃあ、第二ラウンド…………レディー?」
「ゴー!!!!」
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神様と転生した主人公が
めだかで原作に入るお話
※注意※
めだかボックスの二次創作です
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