六十九話 一と零
「くっ……そっ」
「わははは、それじゃ一生当たらないぜ。めだか!」
零はめだかに向けてそう叫んだ。
半透明になった彼の体は、そこに有るのか無いのかよくわからない。
そして、その気配すらも曖昧で、存在があまりにも半透明すぎる。
そして、その体は、めだかの攻撃を難なく透過していた。
「自分を曖昧にするだけとは……
いつもどおり簡単な小細工だなぁ。零よ!」
「そうだろう? まぁあ単純だから強いんだが……
さて、どうやってお前は俺に一撃当てるのかな?」
零は楽しみだというように笑いながら言った。
めだかの方はその笑いに答える余裕はない。
時計に表示された残り時間はあと十五分程度、
短期決戦でないとどうやっても時間切れになってしまうのだ。
「くっ、このっ」
バトル開始からめだかは手加減などしていない。
隙を作るため、自らの習得し完成させたスキルを惜しみなく発動している。
が、干渉能力は零の能力で無効化。増幅させた手数は全て体をすり抜ける。
全方位攻撃も同じく透過。出す攻撃がまったく意味を成さない状態だ。
零のたった一つの技が圧倒的すぎる。
当たらない、と言うのはなんとも単純で強い戦法だった。
零は自分に攻撃を繰り返すめだかを笑顔で見ていた。
零は、実のところこの技に攻略法を出している。
めだかがあることをすれば、一撃与えられて終わりだ。
が、今は全くのノーヒント。攻略法の『こ』の字すらない。
問題文なし、ヒント無しで無理難題を言われている状態だ。
「いつまでも単調に攻撃してたって意味ないぜ、
頭をつかうんだな、お前は頭がいいんだから」
零がめだかにそう言う。これは、彼の出すヒントだ。
攻略法は簡単だ。この技、曖昧になっただけなのである。
神に対して使った運命操作もない、ただの状態変化の技だ。
「………」
めだかが例の言葉を聞いて動きを止める。
彼女は目を閉じると、その頭を回転させて対処法を考え始めた。
そして、零の予想通り、頭を使った彼女はすぐに答えを導いた。
「わかったかな?」
確信した面持ちのめだかに零が問う。
めだかは大きく頷いた。
「ああ、簡単だったよ。どうして気づかなかったのかと思うほどにな」
彼女は走る、目前の的に向かって。
彼女が放つ拳は迷いがない。あまりにも真っ直ぐなものだった。
「ふんっ」
そして彼女の繰り出した一撃が、零の目前で止まる。
零は、ニヤリと笑うと、そのまま大きな衝撃を受けたかのように吹き飛んでいった。
「……簡単だったろ?」
地面に大の字に倒れたままの零がめだかにそう言った。
実は、この自らを曖昧にする技『零と一の間』は単純な仕組みなのだ。
これは、ただ単に自分の存在しているところをずらしただけ、
簡単にいえば、二.五次元に自分を置く技だ。
「ARキャラクターに攻撃は通らない……そういうことだろう?」
「当たり」
漫画をARにした場合、キャラクターを殴ろうとしても意味は無い。
元々二次元の存在に、攻撃が通るなんてありえないからだ。
なら、どうするか。殴りたいやつを殴るキャラクターを作ればいい。
よくある物語にあることだ。漫画の中に入って、気に入らない相手を殴る。
そういう行動をめだかはとっただけだ。
「『言葉使い』で今のお前になるだけとは単純だな」
「……物語通り進んでいれば、お前は『換喩使い』と戦うはずだからな。
途中で言葉使いがリズムだってことも知るだろうし、
習得してるのはあたりまえだと思っただけだ」
零はそう言いながらめだかに向けてコサージュを投げた。
といっても、彼のコサージュに花はない。一見はただの板だ。
「花はどうした?」
「何の花がいいかわからなかったから付けなかった……
が、気が変わった。今思いついたよ。いいものつけてやる」
起き上がりながら零が言う。
彼が指を鳴らすと、コサージュには真っ白な朝顔が合った。
「花言葉はもちろんしてるよな?」
「ああ、零にしては頑張ったじゃないか、
服選びのセンスと同じく、センスは薄いみたいだがな」
「仕方ないだろう、お前ほど俺は頭が良くない。
この程度のセンスで我慢してくれ、それに、終わりじゃ無いんだしな」
「ああ、そうだな。ここで終わるわけがない」
めだかと零はお互いを見て笑う。
「じゃあ、そのコサージュめくってみろよ、
ああ、俺達四人のコサージュは百人分とは別だから気をつけろ」
「ああ、ありがたくめくらせてもらおうかな」
めだかがコサージュをめくる。
四枚には、理外点からの言葉と、花言葉が同時に書かれていた。
廻「そのままの勢いで頑張ってね」アルストロメリア『凛々しき姿』
創「強情なお前なら大丈夫だろう」都忘れ『強い意志』
神姫「かならずある可能性を忘れないように」アネモネ『可能性』
零「向こう七十年ほどよろしく頼もうか」朝顔『固い絆』
そして、その四枚をつなげれば一文字が浮かび上がる。
「『凛』……お前を表す一文字にピッタリだと思うんだが?」
「そうだな……ありがとう。元気よく、ここからさらせてもらうよ」
「ああ、じゃあまた」
「ああ、じゃあまた」
二人の言葉が重なる。
「「入学式で」」
****
4月……うん、あれからちょうど一年と少しか。
めだかとバトルした後も実は理外点四人で一悶着あった。
物語が一旦なくなって、俺達は自由なわけだが、
この後の俺達の人生をどうするかということだ。
で、俺達が出した結論は……
「姫ちゃんと永遠に要られるなんてなんて幸せなんだ!」
「兄さんの横に永遠に要られるなんて気が狂っちゃいます!」
「ねーちゃんが、永遠に居る。これほど嬉しい事があろうか? いや、無い!」
「格好いい創を永遠に見られるなんて最高だわぁ」
不老不死になってしまうことにした。
老いず死なず、昔から人が夢見ていたことをあっさり叶えて、
俺達はこれからの人生能力を最大限いつかって遊ぶことにした。
箱庭学園の卒業は確定事項として、その後の計画も組立中だ。
「さて、入学式と同時に行われるあれはまだかねぇ」
「おい零、お前、『あれ』ってなんだよ」
「待っていればわかりますよ善吉さん。
まあ座ってお茶でも飲みませんか?」
「いや、お前らなんで入学式で座敷広げてお茶してるんだ?」
「細かいこと気にしちゃダメよ善吉くん。
フリーダムなくらいが私達にはちょうどいいもの」
「自由すぎても困るんだよ廻……というかお前年上じゃなかった?」
「それも細かいことだぜ善吉、
ねーちゃんは俺のためにわざと戸籍を改竄したんだから」
「法律違反じゃないのか? というか、
なんで団子も出すとかここはお茶会じゃないんだが……」
気にするなよ善吉、細かいこと気にすると、ハゲるぜ?
さてと、じゃあ入学式を始めようか。
「生徒会長、最初の挨拶はお前のはずだぜ?」
「あ、ああ」
流石善吉だ。俺の発言にのって壇上に上がってくれた。
このまま構わずお茶会を続行させてもらうぜ。
「まぁそれにしても、この後はずいぶん忙しくなりそうだなぁ」
「ですね、さっき聞いたんですが、
私達と戦うために来た人も少なからずいるらしいです」
「あ、そういえば俺達のファンクラブも人数増えたらしいな」
「今で全校生徒の四割だったかしら、嬉しいわよねぇ」
「うんうん、祝福してくれる人が多いというのは喜ばしいことだ」
「ですね。あ、話は変わるんですけど、あの手紙来てました?」
「ああ、就職先のやつか? 来てたぜ」
老後も安泰って嬉しい事だね。
『さて、次は新理事からの挨拶です』
ん? 善吉の挨拶ずいぶん短くなかったか?
……まぁいいか細かいことは気にしない、ハゲない秘訣だ。
「悩みごとがあるなら、精一杯悩め!」
いやいや、めだかよ。精一杯悩みすぎて死ぬ奴も居るかもしれないぜ。
だから、少しくらいはけ口は用意するようにしような。
お前だと言葉の通り一人ひとりに解決を押し付けそうな気がする。
まぁそんなことはないだろうと信じているが。
「さて、楽しそうな学園生活が、始まる予感がするねぇ」
一時終幕の技『間話休題(スリープストーリー)』
じゃあ、また十年後に……よろしく頼もうか。
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神様と転生した主人公が
めだかで原作に入るお話
※注意※
めだかボックスの二次創作です
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