SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 ExtraEdition 前編
和人Side
「お兄ちゃ~ん!準備できたよ~!」
「ああ、いま行く!」
1階に居るスグに呼ばれた俺は財布とバイクの鍵を持って部屋から出て、玄関へと向かった。
外へ出て家の鍵を閉め、スグと2人でバイクに跨り、目的地である俺の学校へと移動を始める。
つい2日前に公輝と雫さんの馴れ初めを聞いたオフ会のあとの今日、
なぜ俺とスグがSAO生還者の通う学校へ向かっているのかというとそれはその2日前に遡ることになる…。
――2日前:イグドラシルシティ・キリト宅(仮)
第13層のフロアボスの攻略を終えた俺たちは解散し、俺はアスナとユイと共にイグシティで借りている家へと戻ってきた。
3人でソファに座ってゆったりし、現在はリアルが夏ということもあって、SAO時代の海や水に関する話しに花を咲かせていた。
ここであがった話題はSAO時代のアインクラッド、第22層の一番大きな湖でニシダさんと共に釣った湖のヌシのことだ。
「それでね、その時キリトくんが釣り上げたのがその湖のヌシだったの」
「やっぱりパパは凄いです!」
「アレは色んな意味で大変だったな…」
その時、既にユイは結晶へと姿を変えていた為、その話しは知らなかった。
嬉々として語るアスナと楽しそうに聞いているユイ、俺もあの時の事は懐かしく思う。
「だけどな、あの時アスナってば俺を置いて1人だけ他の人と一緒に逃げたんだぜ」
「え~、ママひどいですよ~」
「だ、だって、あんなの普通は逃げるよ~! そ、それに、その夜のキリトくんだって…///」
俺がその時の実態を話すとユイはからかうようにそうアスナに言った。
対する彼女は弁解しつつ、最後の方はユイには聞こえないくらいの声で呟いたが、
俺の耳にはしっかりと聞こえていた……可愛いなぁ~。
「でも、いいな~。わたしもヌシさん見てみたいです」
「新生アインクラッドを22層まで到達すれば、あのログハウスを買って、またニシダさんと釣ってみせるよ」
実はあの時に出会ったニシダさんなのだが、ALOもプレイしているのだ。
VRゲームでの釣りプレイヤーとして名を馳せるようになり、特にALOでは【ALOの太公望】という異名を持っている。
以前、MMOトゥモローで釣り好きプレイヤーの特集で取材されていたことをついでに思い出す…。
「だけど、思い返してみれば小型の鯨とか鯱以上の大きさはあったよな~」
「あ、そういえばそうかも」
「現実のクジラですか……それじゃあ、わたしの想像よりも大きそうですね」
モンスターとして見ればあんなものだろう、と思うのは真正面で戦った俺だけだと思う。
ん?…いまユイからずれた発言を聞いたような…?
「ユイちゃん、クジラをみたことあるの…?」
俺と同じように疑問に思った様子のアスナがそう聞いている。
いまのユイの言葉を聞くに、見た事がなければ合わないような気がしたからだ。
「いえ、数値データと映像データから大きさを推測しただけです。わたしは現実世界の物を直接見ることは出来ないですから…」
「そっか、そうだよね…。あのねユイちゃん、クジラってね……」
少し寂しそうに言ったユイにアスナは少しでも本物の鯨について教えてあげようと説明している。
う~む、どうにかしてユイに本物の鯨を見せてやりたいが、俺たちでも早々に見ることができるようなものじゃないしな…。
かといってALOで鯨と言われても………ん、そういえば、もしあの話が本当なら…。
「ユイ、もしかしたらALOで鯨を見ることができるかもしれないぞ」
「「本当(ですか)!?」」
「あぁ。前にルナリオがレコンから聞いたって言っていたんだが、シルフ領の南方で鯨が出てくるクエストが見つかったとか…」
俺の言葉に驚く2人。そう、確か7月の始め頃にルナリオがそんなことを言っていたのを思い出した。
ただ、あの時は夏休み開始当初から始まる俺たちの修行合宿などもあった為に、頭の片隅に追いやったんだ。
そんな中、ユイはその愛らしい瞳を輝かせながら衝撃的なことを言った。
「それならわたし、クジラさんに乗ってみたいです!」
「「……乗るのはちょっと無理かな~…」」
表情を固まらせながら、俺とアスナはそう言った…。
――現在:現実世界
とまぁ、そういう経緯があって俺たちはそのクエストに挑戦することになった。
その翌日、みんなにも話してみると協力してくれることになり、噂のクエストについて可能な限り調べてみた。
すると、そのクエストはシルフ領南方にある島の近海にある海底神殿にて受けることができると分かった。
そして早速明日挑戦しようということになったのだが、1つだけ問題が発生した。
それが俺の後ろでバイクに跨っているスグだ……理由は、彼女が水が苦手ということにある。
早い話しが泳げない、俺がSAOに居た2年間でも泳げるように努力はしたようなのだが、結局克服することは出来なかったらしい。
VRゲーム、特にALOではリアルでの運動能力も一部反映されるため、今回のクエストで水が苦手というのは致命的である。
練習しようにも夏休み中の遊泳施設は非常に人が多い為、練習など難しいだろう。
そこで提案されたのが学校のプールでの練習だ……許可は俺が取った、
こういう時に優等生で通しておくと便利だよな(黒笑)
そうして思い返しながらバイクを運転していると学校へと到着した(並列処理は必須だ)。
駐輪場には既に1台のバイクが停まっていて俺もその隣に停める、これはアイツのだな…。
2人してヘルメットを外して集合場所の中庭へと足を進めた。
そこでは既に俺とスグ以外のメンバーが集まっていた。
「すまん、俺たちが最後だったみたいだな」
「ううん、特に待ってないから大丈夫だよ」
今回の学校プールでの練習を提案した張本人である俺の彼女、明日奈。
「ごめんなさい、わざわざ集まってもらっちゃって…」
「気にする必要は無いっすよ、スグ」
スグの彼氏であり、今回の提案に真先に賛成して同行を望んだ刻。
「そうだよ。困った時はお互い様だからね」
「大船に乗った気でいなさいな」
「ま、危ない時には刻がなんとかすると思うけど、俺たちも居るから安心して練習に励めばいいよ」
「出来る限りの事は手伝うからね」
珪子、里香、志郎、烈弥も参加してくれている。
これだけの面子が居ればスグも泳げるようになるだろうから、安心して任せられるな。
「それにしても、プール日和な快晴の日に臨時カウンセリングなんて、ついてないですね」
「ご愁傷様っす」
「まあ、な…」
烈弥に続いて刻までそんな事を言ってきたので、肩を落としながら苦笑する。
そう、俺は今回のプール練習に参加できないのだ。
というのも、学校側からいきなりカウンセリングを行うことを言われ、それに向かわなければいけない……というのが、
明日奈やみんなに話した学校側との口合わせと表向きの理由であり、実際には別の理由があるんだけどな…。
「明日奈の水着姿が見られなくて残念ね~」
「ふふ~、和人くん残念~?」
からかいにきている里香と明日奈だが、俺にその手のからかいは通用しないさ。
「いや、別に」
「え、あ、そう…」
「そ、そうですか…(ず~ん)」
笑顔で即答すると引き攣った表情になった里香、一方の明日奈はショックだったのか暗い影がおりている。
スグと珪子はオロオロとし、けれど志郎と烈弥と刻は苦笑している。
「それじゃあ俺は行ってくるけど、スグは自分のペースで良いから頑張って泳げるようになれよ。
運動は出来るんだから、お前なら出来るさ」
「え、う、うん! 頑張るね」
「刻もみんなも、スグのこと頼んだぞ」
「「「了解っす・任せな・はい・」」」
「「は、はい・う、うん」」
「……うん(ず~ん)」
スグに言葉を掛け、みんなにも声を掛けると刻、志郎、烈弥は軽快に、
珪子と里香は前の問答のせいで困惑しながら、そして明日奈は落ち込みながら返事をした。
そんな時、里香この空気を挽回しようとしたのかこう言ってきた。
「び、美人のカウンセラーさんに鼻の下伸ばすんじゃないわよ~」
「……ふむ、それもいいかもな…」
「「「っ!?!?」」」
「(ガーーーンッ!?)」
里香の言葉に対し真剣な表情をして言ってみる俺。
その反応に甘くなる展開を予想していたと思われる女性陣3人は驚愕+困惑の表情になり、
明日奈はさらにショックを受けたのか涙目になってしょんぼりとしてしまった。
男性陣3人は笑いを堪えながらそっぽを向いているが、ここら辺で終わらせないとな。
「冗談だよ、明日奈。俺の一番はキミなんだから」
「(ぐすっ)ほんとうに…?」
「勿論。というか、俺が鼻の下を伸ばしたところなんて見たことあるか?」
「(ふるふる)ないよ…」
「それなら俺を信じて」
「うん…」
優しく宥めながら頭を撫でて落ち着かせる。うん、やはり彼女にはこれが一番だな。
「それに、本当は明日奈の水着姿を見られなくて凄く残念に思ってるよ。
今日の水着姿も、きっと凄く似合ってて綺麗だと思うからさ」
「あぅ…ありが、とう…//////」
「出来るだけ早く終わらせてもらえるようにするから、あとで見せてくれるかな?」
「は、はい…//////」
「うん、良い子だ…」
そう耳元で囁いたことで明日奈はヘブン状態へと陥ってしまったが、まぁ大丈夫だろう。
「じゃ、改めてスグと明日奈のこと任せたぞ」
「ほいほい、さっさと行ってこい」
「おう………あ~、ついでに里香…「は、はい!」……あまり俺をからかうなよ?」
「(コクコクコクッ!?)」
ついでだからみんなに明日奈のことも任せ、志郎が返事をし、
もう1つついでに里香へ向けて良い笑顔でそう言うと涙目になりながら高速で頷いた。
それを確認して俺は校舎内のカウンセリング室へと足を運んだ。
「こ、こわかったよ~…!」
「はいはい、今度からは自重しような~?(可愛いな~、GJ和人)」
「和人くんに、水着姿を……そのあとは、もしかして……いや~ん/////////♥」
「あ、明日奈さん、しっかりしてください!?」
「と、とりあえず落ち着いてください!?」
「……はぁ~、先に行くべきっすね…」
「そだね…」
(作者:警告を受けて怯える里香とそれを可愛いと思う志郎、
未だヘブン状態から抜け出せない明日奈とそれをなんとかしようとする珪子と烈弥、
それらを見て呆れて先に行く刻と直葉、和人が残した爪痕は予想外にカオスになった……迷惑だなw)
カウンセリング室に着き、ドアをノックすると中から女性の声が聞こえたので、入室の言葉をかけてから中へ入る。
奥に進むと何度か見慣れたテーブルと2つの椅子、そして机があり、その机に腰掛けるように凭れている茶髪の女性がいた。
おそらく、彼女が校内で噂の美人女性カウンセラーだろう……お生憎と、
俺は普段から男性のカウンセラーに担当してもらっているので会うのは今回が初めてだ。
だが、今回はカウンセリングがメインではない……今回のメインは…。
「…で、何時までそうやって隠れたつもりでいるんだ? 菊岡…」
「まぁそう言わないでくれないかな~…」
総務省の仮想課と呼ばれる部署に所属するエリート官僚、菊岡誠二郎……この男との面会だ。
カウンセラーの先生は隣の準備室に居ると言葉を残して室内から出て行き、俺は菊岡座る対面の椅子に座った。
「夜にも言ったと思うが、このあとは予定が控えているからそれまでには終わらせてくれよ…」
「善処はするよ」
コイツは本当に善処する気があるのか?
くそっ、コイツが連絡してこなければ明日奈の水着姿をゆっくり堪能できたのに…!
早く終わらせてさっさと明日奈の水着姿を堪能してやる…。
「実はキミから『SAO事件』と『ALO事件』、一連の事件について詳しく聴きたいと思ってね」
「おい、そのことなら前に話しただろ…?」
「そうなんだけど、今回はキリト君の視点から見たことを詳しく聴きたいんだ。
キミは両事件において中心人物と言ってもいい位置に居る。
ということで、キミが話せる範囲で構わないから話してもらえないかな?」
「断ってもいいんだぞ…」
「神代博士と会わせ、その内容についても詳しく聴かなかったんだけどな~…」
「ちっ……わかったよ、話せる範囲で話してやる…」
「うん、あからさまな舌打ちをありがとう。頭を使いそうだし、甘いものでも食べながら話そっか」
そう言ってケースの中から甘いものが中心の菓子類を出し、端末を録音状態に設定してから俺たちは話しをする事になった。
はぁ、早く終わらせて明日奈の水着姿を拝みたい…。
最初に話す事になったのはデスゲーム開始直後、茅場晶彦が開発した『ナーヴギア』と『ソードアート・オンライン』を、
その
「その時は混乱から抜け出す為に余計な事は考えたくなかったし、そのあとも考えた事は特に無かったよ。
それに、あの時は俺も余裕が無かったからな…」
考えた事が無いというのは嘘だ。俺には茅場の意図が半ば読み取れて、最後に言葉を交わした事でそれを確かなものにした。
だが、これは俺とアイツだけの会話であり、例え明日奈であっても話す事はないだろう。
それに、クラインを見捨てた事に変わりはないからな…。
「そうか……いや、そうだね。いまのキリトくんを見ていると想像し難いけれど、
実際のところ当時キミはまだ中学2年生だったはずだし、当然だね…」
そう結論付けることでこの話は終わり、次の話へと進む。
次はSAOのプレイヤーたちの行動について。
ほとんどのプレイヤーがパーティーを組み、団体行動を中心にし、単独行動を控えるようになった中で、
俺と『黒衣衆』のメンバーはほとんどを単独行動に当てていた。
その行動について訊ねられ、俺はその理由を語った。
βテスターの中でもその知識を己が為だけに使い、他者を蹴落とす、βテスターのチーター的存在……『ビーター』。
βテスターの中でも素人的な者を守り、悪意を自身に向けるために俺が作り、その身に甘んじたことを伝えた。
そして、俺を含む黒衣衆がリアルでの友人でありながらもほぼ単独行動だった理由が、
もしもの時の仲間の死に直面したくないため、
他のビーターでもある仲間たちに悪意を向けないようにするためであることも伝えた。
「キミが『ビーター』という存在を作った張本人だったんだね…。
しかし、随分と辛い役目を背負ったみたいだね……茨の道と行ってもいいかもしれないかな…」
「別に辛くはなかったさ……元々、独りだったからな…」
「?…キミには仲間が居たじゃないか」
「そう、だな…」
“独り”という言葉に菊岡は不思議そうな顔をしながら言い、苦笑して同意した。
当時の俺がアイツらを心の底から仲間だと思っていたのなら、俺はアイツらとパーティーを組んでいたはずだけどな…。
それから聞かれたのがパソコンに表示された高レベルプレイヤーの集まり、ボス攻略会議についてだった。
菊岡からすれば、常軌が逸したレベルと戦闘能力を有していた
疑問に思うのだろうがそれは間違いである。
確かに、フィールドボスが相手ならばボス攻略のヒントを掴み、行動さえ捉えきれば少人数でも撃破は可能であるが、
フロアボスともなれば話は別であり、その危険度は計り知れない。
さらに74層から77層のボスたちは異常であり、レベルが120近くあった俺が《二刀流》をもってしても、
危険な状態まで陥ったのだから…。
「なるほど…キリト君がそこまで言うのなら、相当なものだったんだと窺えるよ。
正直、キミがそれほどのことを言うとは思っていなかったからね」
「まぁ、死への恐怖も相まった極限状態だったから余計かもしれないけどな……だが、
アインクラッドにはボスよりも厄介な連中の方が多かったよ…。なぁ菊岡、アンタなら分かるだろ?
決まった行動しかできないプログラムと、様々な思考を持つ生物……どっちの方が厄介かってな…」
「プログラムと生物……っ、そういうことか…」
「察しが良くて助かるよ……モンスターより何よりも、レッド並びにオレンジと呼ばれた、
プレイヤーを物理的に傷つけるなどの行為を行ったプレイヤーのカーソルは、
グリーンからオレンジへと変化して俗にいう犯罪者となる。
その中でも、好んで殺しをしたりする者たちはレッドプレイヤーと呼ばれた。
奴らが生み出したプレイヤーキル、殺人の手法は数多にわたり、プレイヤーたちを次々に殺していった。
「実際のところはどうなんだい? モンスターとプレイヤー、どちらに殺された人間が多いか、キミは分かるかな?」
「数だけでいえばモンスターの方が上だが、それも大した差にはならないし、してはいけない…。
MPK、モンスタープレイヤーキルと呼ばれる手法は、モンスターに殺させるものだったからな…」
「どちらともいえない、ということだね…」
「あぁ……それに、俺は、俺たちは、多くの命を奪ってきたからな…」
そう、モンスターに殺されたのか、プレイヤーに殺されたのか、最終的なところはどちらも大して変わらず、
俺という人間も多くの命を奪った事に変わりはない。
『嘆きの狩人』、PPK―プレイヤーキラーキル―を行い、極めて危険なオレンジとレッドを殺害した非公式ギルドであり、
それが黒衣衆であり、リーダーが俺なのだ。事情を知る菊岡はそれ以上の事はきかなかった。
椅子から立ち上った菊岡は俺を手招きし、窓からプールにいる明日奈たちを指差した。
「だが、ヒースクリフである茅場先生を倒し、彼女たちを含む多くの人たちを現実へと帰し、
救ったのは紛れもなくキミだ……そうだろう?」
「……あぁ…」
俺を気遣ったのか、なんだか以外に思うが根が悪い奴ではないのは知っているからな……怪しいだけで…。
ともあれ、それが俺にとっての誇りであるのは確かだ。
英雄と呼ばれなくてもいい、知られずともいい、大切な人たちが生きていてくれている……それだけで、俺は…。
「それにしても不思議だね。茅場先生と相討ちになったキミが何故生きているのか…」
「どうでもいいさ。こうして生きていられるのなら、それで…」
「確かに。茅場先生亡き今、それも知る術がないしね」
俺が生きていられたのは茅場の意思、クリア報酬だ。
幼い頃に描いた空の城、それをどこまでも高く望んだ茅場の、それを理解できた俺の、最後の会話を思い出す。
そんな中で奴の思惑が絡まり始め、俺は明日奈を助けるために苦痛の道を、茅場は最後の尻拭いのために、ALOへと関わった。
そこで俺の元へ1通のメールが届いた、明日奈からだ。
内容は『もうご飯食べちゃったよ』というもので、写真には全員で写っていた。
女性陣は笑顔で写っており、男性陣はすまんと言わんばかりに手を合わせている…。
いいさ、どうせ俺はお菓子で済ませますよ…。
「誰からかな、って聞くのは野暮だね。しかし、キミも本当に厄介な事件に巻き込まれたね…」
「明日奈じゃなかっただけマシだ。仮に明日奈が巻き込まれていたら、俺が須郷を殺していただろうからな」
「冗談に聞こえないなぁ…」
茅場晶彦の後輩である須郷伸之が引き起こした『ALO事件』。
ゲーム『アルヴヘイム・オンライン』、その内部にて行われていたのは人体実験であり、
俺を含む300人のプレイヤーがその被害にあった。
元々、須郷にはマークを付けていたらしいのだが、SAOから生還した約7000名へのサポートに人材を割いてしまったため、
マークが僅かに緩んでしまったという。
さらにラボがALO内にあったということもあり、見逃してしまったのだ。
そんなことがあったのを菊岡が知ったのは、俺たち300人が目を覚ました後の事だった。
「須郷と近い位置にあった明日奈が俺の身に起こっている事を案じてそれを知り、
さらにネットであがっていた俺の目撃情報、
一部のALOプレイヤーとSAO生還者による攻略不可能なはずのグランドクエストの達成、
システムの穴を見つけた俺の攻撃、ALOを愛するプレイヤーたちによる総攻撃……仮想課の面目が丸潰れだな」
「耳が痛いけど、それについては釈明のしようもないし、するつもりもないよ。
本当に情けない話しだが、何も出来なかったのは確かだからね」
皮肉を混じらせながら言うと菊岡は苦笑しながらそう応えた。
俺のGM権限についてはシステムの穴への攻撃ということにしているから、
魂だけの存在となった茅場のことを知られることはない。
「ま、結局のところ須郷はシステムという力を過信して自滅したってところだな。
努力もしないで手に入れた力なんて、そんなもんさ」
「それに関しては大いに同意するね。だからこそ、彼は殺されたのかもしれないが…」
須郷は死んだ……紛れもなく、PoHの手によって殺された。自業自得といえば、その通りなんだろうけどな…。
ふと、気付いてみれば日が傾き、夕焼けとなっている。端末の時計を確認してみれば既に夕方の6時前だ。
家を出たのが朝9時半だからな~。
「俺が話せるのはこんなところだ。もういいか?」
「ありがとう。色々と参考になったよ……そうだ、余ったお菓子は持って行くといいよ」
「なら遠慮なく」
俺は余っていた5つほどの菓子類を持って椅子から立つ。
「あ、最後に1つだけ……『ザ・シード』って知っているかい?」
「当たり前だ。VR技術の革命ともいえるものだぞ……俺もダウンロードしたし。じゃ、またな…」
「あぁ、また…」
そう言って俺はカウンセリング室を後にし、みんなの居るプールに向かった。
“また”、その言葉の通り、俺と菊岡は近々会うはずだ……仕事を請け負い、紹介する関係だからな。
和人Side Out
To be continued……
あとがき
以上、黒戦版ExtraEditionの前編は和人視点の話しでした。
アニメのように態々視点を細かに変更するよりも、纏めて菊さんと話しをさせた方が書く方は楽でしたからね。
時期が7月ではないのは『黒戦』シリーズだと奈良で修行をしている最中だからなのと、
夏の最後の思い出的な感じで和人たちに過ごしてもらいたいと思ったからです。
前半部で和人さんが明日奈さんを弄っていましたがいつものことなのでお気になさらずw
次回の中編は水曜日に更新予定となっており、内容は明日奈視点となっています。
プールでのシーン、カップル組のイチャコラ、偶の過去話になったりしますよ~。
それでは続きをお楽しみに~!
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はい、今日のお話しは去年の大晦日に放送された『Extra Edition』の黒戦版になります。
タイトルで分かる通り、結構長くなってしまったので前・中・後編に分けました。
それでは、アニメとは少々異なる作風をお楽しみください・・・どうぞ。