華雄の反省会を終えた翌日、完全に体力を取り戻した俺は絶好調の朝を迎えていた。
「……んん〜〜、よく寝たな。…………ん?」
寝台から出ようと身体を起こした時、右腕に軽い違和感が。何かが引っかかってるというかしがみ付いてる?
覚えのない感覚に首をひねりながらも掛けていた布団を捲ると、そこには俺の腕にしがみ付きながら寝ている三国最強のお方が。
ここ俺に与えられた部屋だよな?なんで恋がここに?
なんて考えていると、布団が無くなって寒くなったのか、腕にしがみつきながらもぞもぞしだした恋は布団を探すことを諦め身体を起こした。
眠そうな半開きの目をこすりながら辺りを見回し、やがて俺へと焦点が合うとゆっくりと首を傾げた。
「……………………おは……よう…………?」
「お、おはよう、恋」
いや、なんでここに?みたいな顔をされても……。むしろこっちが聞きたいんだが。
恋がちゃんと目が覚めるのを待っていると、部屋の外が騒がしくなった。
ドタドタと走る音とともにあの叫び声が。あとで宿のおばちゃんに謝っとかないとな……。
「…………ん…………うぅぅ……」
あぁ、やっぱりお約束のアレか。
初対面のときから何度も繰り返されているお馴染みの光景が目に浮かんだ。
ドアの先から響く声を聞きながら、俺は恋に告げた。
「……はぁ。……恋」
「…………?」
「……頼んだ」
「……ん」
まだ瞼が開いてないがちゃんと返事はしたから大丈夫だろう。
恋は寝台の上を這うようにして、俺よりも扉寄りのところに移動し、俺は窓際へ。移動が完了すると同時に部屋の扉が勢いよく開き……
「キィィィィック!!……れ、恋殿ーー!」
いつもの台詞を叫びながら飛び蹴りを放った音々は……待機していた恋に足を掴まれそのまま全開にしてあった窓の外へと放り投げられていった。
なんか凄い音がしたけど大丈夫……だよな?
一仕事終えた恋はすでに布団で熟睡中だ。
なんとなく、今日も騒がしい一日になりそうだな。
予感は当たるもので……昼を過ぎた頃、影華と恋と音々が俺の部屋へとやってきた。剣呑な雰囲気だったから何かあったのかと思ったが、どうやら少し違うみたいだ。
「…………つまり、昨日と同じく街の偵察に行こうとしたら音々が恋と行きたいって我儘を言い始めたと」
「全然違うのですぞ!?」
おぉ、ツッコミが厳しいな。
「深、街に出たら音々が恋さんを見つけたんですよ」
「だから音々は恋殿を連れ戻すために行動したのです!」
「……ああ、それで一緒に食べ歩きし始めそうになったから影華に連れて来られたのか」
「そ、それは…………うぐぐー」
そりゃ影華が正しいわな。この場合は恋に非があるけど。
恋と華雄と霞は顔が割れてるから、なるべく外に出て欲しくない。もちろん俺もな。
その点、影華はずっと洛陽にいたし、音々は後方で指揮をしていただけだから二人に周辺の警戒を頼んでいたわけだ。
そんな中、恋は我関せずとすでに寝る準備を……って待て!
影華に目配せして恋を音々の隣に座らせる。
「恋」
「……………………ん」
目を逸らさせないよう頭も固定させたら、さすがに観念したのかきちんとこっちを向くようになった。
「外には出ないって約束したよな?」
「…………………………した」
ちゃんとしていれば良い娘なんだけど……実際、ちゃんと影華の話を聞いてここにいるわけだし。
「覚えてるなら、なんで外に出たのかな?」
「お腹空いてた」
「それなら仕方な……」
「音々、黙る」
「恋殿ーー?!」
そ、即答か。空腹はたしかに死活問題だが……しかし音々哀れな。
「た、確かに外に出るのは危険ではありますが、これ以上恋殿を縛り付けるのは無理なのですぞ」
それもそうか……。さっきから恋のお腹がぐーぐー鳴ってるしな。
「そんなに食べ歩きしたい?」
「……(コクコク)それなら、深も……一緒だと嬉しい」
「なんですとーー?!」
なんつー爆弾を投下してくれやがりますかね。おかげで冷静だった影華も「それなら私だって……」なんて言い始めてるし!
この騒ぎをどう収拾つけるか悩んでいたところで、部屋の隅に置いてあったソレに気が付いた。
ソレを取り出しながら、言い合いを始めた二人に向かって宣告した。
「ならさ、コレで決着をつけようか」
「……なんです?」
「……碁盤……でしょうか?」
俺が取り出したのは碁盤。元からあったのか誰かの忘れ物なのかは分からないが、有難く使わせてもらおう。
何かを言い合うぐらいならはっきり白黒つけられるもので終わらせた方が早いし。
「これで勝った方の言う事を聞くこと。
音々が勝ったら、今日一日ぐらい恋と一緒に出掛けていいよ。ただし、ちゃんと役目も忘れずにね。
影華が勝ったらこの話は無し。恋も大人しく宿で待機すること」
「望むところですぞ!」
迷わず即答か。恋の軍師って豪語してるからこそ、こういった知力を競うゲームには負けられないってとこかな。
力強く頷いた音々に対し、影華はやや落ち着きがないように感じられた。
「影華もこれでいいな?」
「…………私にも、わがままを言う権利ぐらいありますよね?」
あー、そりゃそうか。影華に勝負を受ける利がないもんな、そりゃあ不満もあるか。
無茶なことは言わないだろうし、たまにはわがままの一つでも言ってもらいますかね。
「なら、影華が勝ったらそれとは別に何かしていいよ。もちろん、勝負の意味がなくなるようなこと以外で」
「で、でしたら! 音々さんを負かしてから何をするか決めてもいいですか?!」
近い近い! ……そんなに食いつくか。というか勝つ前提か。まあ俺も影華が負けるとは思ってないけどさ。
「お前なんかあっという間に倒してやるのです!」
売り言葉に買い言葉。対抗心を燃やした両者の戦いが始まった。
なんというか、あれだな。
結果から言ってしまえば、三戦三勝だったよ。…………影華のな。まさに完全勝利ってやつだ。
一戦目は結構接戦だったんだが影華の辛勝。
「こ、これは準備運動なのですぞ!」という音々の言い訳を聞き遂げた二戦目。一戦目とは全く違う、俺の好む戦法を真似た影華の一手に翻弄された音々は態勢を立て直せず敗北。
泣きの三戦目。完全に頭に血が上った音々がポカして……。
手加減なしで思いっきり心を砕かれた音々は、さすがにやりすぎたと反省した影華の勝者の特権によって、今は俺の胡座の上に大人しく座っている。
恋は音々の足をまくらにして完全熟睡モードである。
影華曰くご褒美らしいが不貞腐れている姿を見ると本当かどうか怪しい。影華にとって褒美でも、ほかの人にとっては違うんじゃないだろうか……。とりあえずちょうどいい高さにある頭を撫でてみたりしている。嫌がっていないようだからしばらくはこのままでいよう。
ちなみに影華は三戦分の特権を手に入れたわけだが、残りの二つには触れないでおこう。
しかし、撫で心地いいなぁ……。
いつの間にか夜になっていた。
どうやらあのまま寝てしまったようで、身体のあちこちが固まって若干痛い。
部屋に影華の姿は無い。二人に布団を掛けたのは影華だろう。
恋はぐっすりと寝ている。今この瞬間だけを見たら、誰もこの娘が三国最強だとは思わないだろう。それほどあどけない姿を現していた。
そして、そんな恋の頭にぴったりとくっつきながら寝ている子が。
頭を撫でてみるとくすぐったそうに動いただけで、再び穏やかな寝息を立てて寝入ってしまった。
ようやく実感が湧いてきた。
みんなを守れたという現状に。
同時に不安が押し寄せてきた。
これから始まるであろう、群雄割拠の奔流に対して。
不安を隠すために見た二人の寝顔はとても穏やかで……言葉には出さず、こんな毎日をもっと長く過ごせるようにしなきゃ、そう己の心に強く誓った。
【あとがき】
本編ラストのあとがきですね……。
こんにちは! 九条です
態度だけ嫌々っぽい音々ちゃんはいかがでしたか?
みなさんの予想を見事に裏切っていたらガッツポーズしときます
恋ちゃんパートだろって言った奴は誰だ!? 否定はしないけど!
明日からは偽√を公開停止→再投稿の準備を進めていきます(本編を連番にして読みやすくする為
なので支援や閲覧してくださった皆様、ほんとごめんなさい
再投稿は連続して行うと新着がアレなことになりそうなので、どうするかは検討中です
1日1投稿か、1週間で1投稿になるかもですね……
内容に関しては加筆するものもあったり?
これにて族ためキャラは見納め!
ということでなにやら言いたいことがある人がいるらしいので私は一度退散しておきますねー
?「次回の作品には私は出演ry……」
それ以上は待てええええい!
アンタって人はぁ! ほんっっっと、もうね! 清々しくて文句も言えないね!
??「一応、司馬懿と孫堅が出るのは確定情報らしい。もはや過去の人間となった私達が出られるかどうかは知らんがな」
もう、下がって! お願いだから下がって!!
何しに来たのアノ人達……って悪ふざけが過ぎましたかね
わたくし、九条の三国志の知識というのはですね、恋姫と某無双ゲーぐらいなものなので
登場(させられる)人物というのも結構限られてくるんですよねー
馬岱とか史実の方は名前すら知りませんでしたし……
何より土地勘がない! 精々が州の大まかな位置ぐらいしか(汗
なのでそこらへんもあまり期待はしないでくださいね。指摘して貰えるととても助かりますけど
あとがき長いよ! ごめんなさい?!
それではこれにて本当の終幕。
たくさんの閲覧、支援、コメント、有難き幸せでした。
ほんと、閲覧数には一喜一憂ですね。なぜ伸びるのか、よくわからないことが多いのでw
それでも稚拙な作品を最後まで読んでくださった皆様に感謝を。
こんなよくわからんあとがきもきちんと読んで下さる方々にサムズアップを Σd(゚д゚*)
『終わりとは即ち始まりに立つことである』
これから再度始まる九条にご期待くだされ~
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本当のラスト