「一刀!会いたかったぜー!」
「ねね……会いたかった」
城門で待たされる事数十分、俺たちを迎えたのは猪々子と呂布だった。
現れた呂布に、安堵の息を漏らす。ねねに嘘をついたことにならなくてよかった。
しかし将が二人が自ら迎えにくるなんてな。
「れんどのぉおおおおおおおおおお!!!」
物凄い速さで呂布に飛びつくねね。
呂布はねねを抱きしめ頭を優しく撫でている。
「お前も居たんだな」
「おう。斗詩と麗羽様も居るぜ」
麗羽達が劉備軍に拾われるのは星から聞いていた。
加えて呂布がいるという事は、美羽を撃退した後なのだろう。
ということは、次に起こる事象は……
「とりあえず城に行こうぜ。一刀の事ずっと待ってた奴らがいっぱいいるぞ」
……そうだった。まずはあいつらを納得させなければ始まらないか。
じゃれる呂布とねねを尻目に猪々子と城へ向かう。足取りは、重い。
城に入るとすぐに玉座の間に通らされた。
劉備軍の錚々たる将達が並んでいる。こちらを見てうずうずしている張飛。意味深な笑みを浮かべる星。
だが銀華の姿が見えない。仕事でもしているのだろうか。
「一刀ぉおおお!!」
掛け声と共に後ろから向けられる殺気。流剣と牙刀を一気に引き抜き振り向き様交差させる。
鈍い金属音と共に襲いかかる衝撃。怒り心頭といった様子の銀華がそこに居た。
「銀華!客人になんて事を!」
「愛紗は黙っていろ!」
もう真名の交換は済ませたのか。と場違いな考えをしていると、銀華は釣り上がった目を俺へ向けた。
「一刀の言葉通り、月様の護衛についたはいいものの!肝心の一刀が居ないではないか!」
鍔迫り合いの中ギリギリと金剛爆斧に力が加わる。
相変わらずの馬鹿力だな。
「月様には申し訳ないが、私は一刀の傍に居られる方を選ぶと言ったはずだ!なのに……なのにぃ!」
怒りを含んだ瞳から溢れる涙。少しずつ、武器にかかっていた力が抜けていく。
そんなにも俺を……
「私がどれだけ、この気持ちを持て余したか……もう、毎晩一人で体を慰めるのは寂しくて耐えられないんだ!」
銀華の叫びに、将達の一部は顔を赤く染める。星はいやらしくニヤけているが。
溜息を一つ。力の抜けた武器を弾き、銀華の眼前に迫る。
「嘘を付いたのは悪かった」
顎をとり唇を重ねる。激しく銀華の口内を蹂躙し、舌を重ね絡ませる。
淫靡な音が部屋に響き、頃合を見て顔を離す。
「償いは後で必ずする。少し待て」
「……はいぃ」
目を蕩けさせ指で自分の唇を撫でる銀華。
玉座へと向き直ると、劉備と黒髪の女──確か関羽だったか──が、顔を背けていた。
「主よ、我らの陣営は色事に疎い者が多いのだ」
なるほどな。恥じらってるってわけか。可愛いものだな。
「それよりも主、償いは銀華だけでございますか?」
星はこちらに歩み寄ると、服をはだけさせ俺へ撓垂れ掛かる。
「止めよ星!話が進まないではないか!」
進むどころか始まってすらいないんだがな。
星は珍しく悲しげに顔を歪める。
「久しぶりの再開だというのに……少しぐらい良いではないか……」
関羽もこんなしょげた星は普段見ないのだろう。
虚を突かれた様に唖然とした後、慌てふためいた。
「え、あ……そのだな。再開を嬉しく思うのは構わないのだが、と、時と場合という物を……」
「ふふ、冗談だ愛紗。今は我慢しよう」
主、後で色々話してもらいますぞ。
そう耳元で言い残し、元居た場所へ戻っていった。
あれから星も色々分かったことがあるだろう。俺の見解と照らし合わせてみたらさらに分かることがあるかもしれない。
関羽は星の態度に顔を真っ赤に染め口をぱくぱく動かしたが、ぐっと堪えた。
恐らく、俺──客人の手前だからだろう。
「おっほん!とりあえずだ。北郷殿。星や詠から多少話は聞いている」
そこで言葉を切り、ジト目で俺を睨む。
「星の思い人であり月の恩人。だが、詠の言っていた事も合っていたか」
「何て聞いてたんだ?」
ま、想像はつくがな。
「節操無しの女泣かせと」
部屋の温度が数度下がった気がする。
周りからの視線も殆ど冷たいものだ。
「ま、まぁまぁ愛紗ちゃん。そんな喧嘩腰になっちゃだめだよ」
そんな中割って入ったのは劉備だった。
お気楽そうに笑みを浮かべている。
「北郷さん、私は劉備。字は玄徳!よろしくね!」
小走りで駆け寄り俺へ握手を求めてきた。
君主自らがこんな無警戒に近づいてくるとはな。
星の話で聞いていた劉備は、簡単に言うと甘ちゃん。理想しか語らずその理想への道筋に具体性を持たない。
――――少し、教えてやるか。
俺は、ニヤリと口角を上げ手を取る。
「……え、うわわっ!」
手を取った瞬間引き寄せながら左手で牙刀を抜く。劉備が俺の懐へ飛び込んだ。
豊満な胸が俺の体で形を変え、気持ち良い感触がする。
女特有の良い匂いを感じたその時、首元に冷たいものが押し当てられた。
関羽と、公孫賛か。
「その手を離せ、下郎」
「桃香を離せ!」
公孫賛はある程度近くに居た。だが関羽は玉座前に居たはずだ。
対した速さだ。さすがは関羽といった所だな。
だが……
「これが見えないのか?」
牙刀は既に劉備の首に添えてある。軽くちらつかせると、二人は武器を引いた。
周りを見る。ねねや張飛は困惑しているが、星は口元をヒクつかせていた。
あいつ、笑い堪えてやがる。
そろそろ止めるか。これで劉備も少しは考え方を改めるんじゃないか?
牙刀を仕舞おうと腕を引いた瞬間、笑い声が聞こえた。
「ぷっ、くふふ」
笑い声はどんどん大きくなり、俺だけじゃなくこの場の劉備以外全員が惚けていた。
「あははははは!愛紗ちゃんも白蓮ちゃんもおかしいよー!」
するりと俺の懐から抜け、向き直る。
両手指を交差させ、笑顔で口を開いた。
「北郷さんが本気じゃ無い事なんて、星ちゃんを見ればすぐに分かるでしょ?」
「おや、桃香様にはバレてましたか」
確かに、星が俺を止めにこない時点でおかしいか。
「ですが!本気で無かろうと桃香様に刃を向けるなど許されません!」
まぁ、そりゃそうだろう。徐州の主の首に武器を突きつけるなんで、斬首でも軽いくらいだな。
本当にそうなりそうになったらトンズラするが。
「私が許すからいいのっ。でも北郷さんも急にひどいよ?いくら私が情けないからって、こんなことして教えてくれなくてもよかったのに」
……あ?
「────ッ!もう、知りません!」
「あ、おい待てよ愛紗!」
怒り心頭の関羽が玉座の間から去り、公孫賛が後を追っていった。
ちょっと待て。劉備の言い様からして、一瞬で俺の考えが見破られたのか?
劉備へ視線を向けるが、関羽の出て行った扉を見て苦笑いしていた。
……劉備の認識を改める必要があるな。
「星、お前の部屋に案内してくれ」
「おや、ですがまだ話が……承知」
星は俺の顔を見て了承した。俺は今さぞ不機嫌そうな顔をしているんだろう。
歩き始めた星の後ろに着いて行く。
「北郷さーん!まだお話してないじゃないですかー!」
背後から聞こえる声を無視する。
こんな胸糞悪い気持ちは久しぶりだ。
後書き
桃香をちょっと良く書きすぎましたかね。
本編(魏とか)とか他の小説でもひどい扱い受けてる桃香ですが、思い出してないとはいえ周回してる桃香だしこのくらいやってもいいかなと思いました。
一刀は甘ちゃん女だと思って軽い気持ちでやってみた行動を手玉に取られた感じになって怒ってます。この一刀は自分主導じゃなきゃ気がすまない質なんです。
他の人達が空気ですが、これから色々絡ませようと思うのでご了承ください。
Tweet |
|
|
43
|
2
|
追加するフォルダを選択
いっぱいのアンケート回答ありがとうございます。
やはり久遠の続編を希望される方が多く、おや?との割合でいうと7:3ぐらいでした。久遠の執筆を再開しながら、すでに終えているおや?の方を投稿していきたいと思います。
久々すぎて軽い手直しすらどこか変になってそうでとても怖いです。
矛盾やおかしいと思ったところがあったら教えてくれるとうれしいです。