No.618662

真・恋姫†無双~絆創公~ 中騒動第二幕(中編)

一刀の妹、フラグを立てる。

2013-09-12 02:15:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1268   閲覧ユーザー数:1149

真・恋姫†無双~絆創公~ 中騒動第二幕(中編)

 

 鍛練場から東屋へと移動した三人は、備え付けの机の上にバッグの中身とサーバーを置いた。

「えっと……袋の中に飲み物を入れるカップ、じゃなくて…………えーと、容器があるんです」

 佳乃は相手が分かるように、宙で指を回しながら言葉の変換を考えていた。

「あっ、これだね?」

 言われた通りに袋からカップを何個か出し、それを見せながら微笑みかけた斗詩。佳乃はコクリと一度頷いた。

 

「おーっ! 美味いじゃんかこれ!!」

「って、文ちゃん! お行儀が悪いでしょ!?」

 準備している二人を後目に一人椅子に座って、勝手にタッパーの一つを開けてハチミツレモンを食べ始めている猪々子。

 満足そうに次々と口に運んで、既に一つが空になりかけている。

「あ、あの。これ、おしぼりです……」

「ああ、だいじょぶだいじょぶ。どーせまだ食うんだし」

 佳乃が差し出したおしぼりを受け取らず、蜜の付いた指を舐めながら二つ目のタッパーに手を掛ける猪々子。

「ごめんね、佳乃ちゃん……」

「いえ。気に入ってくれたのなら良かったです……」

 代わりにおしぼりを受け取り、猪々子の傍に置きながら斗詩は頭を下げた。佳乃はほんの少し困ったように笑いながら、斗詩の分のおしぼりを渡す。

「あの、これ良かったら使ってください」

 おしぼりの次に斗詩に渡したのは、小皿と長めの箸。斗詩の性格から考えて、恐らくこれを使うだろうと思って佳乃が持ってきた物だ。

「あっ。ありがとう!」

 斗詩はその心遣いに、素直な感謝の言葉を述べてそれを受け取る。

「じゃあ、私も…………」

 タッパーから輪切りのレモンを小皿に取った斗詩は、猪々子と同じように椅子に腰掛け、ゆっくりと口に運び半分ほどかじる。

「…………」

 タイミングを同じくして腰掛けた佳乃は、不安そうに目の前の人物の反応を見守る。

 

「……うんっ、美味しいっ!」

 

「…………っ!!」

 

 一人は口の中に広がる甘みに、もう一人は良好なリアクションに破顔一笑した。

 

「ほ、本当ですか……!?」

「本当だよ! 何だか元気が出てきたような気がする…………」

「これ……。私達の世界では、運動した後の疲労回復と、栄養補給に効果的だって言われているんです……」

「へぇ~……。やっぱり天の国って凄いんだね~……」

 箸の先にある残り半分のレモンをまじまじと眺めながら、斗詩は溜め息を吐く。

「でも……。作り方を間違えると、苦くなっちゃうんです」

「えっ、そうなの? 蜂蜜を使っているから、甘くなるんじゃ……?」

「あっ、蜂蜜は甘いんです。でも、苦くなる原因はこのレモンなんです」

 佳乃はそう言いながら、微かに表情を曇らせた。

「私達の世界では、このレモンに薬をかけて長く保存したりするんです。そのせいで、皮が苦くなっちゃう場合があるんです」

「そ、そうなの?」

「あっ、だだだいじょうぶです!! これには薬は使われてませんから!!」

 少し不安そうな顔をした斗詩を見て、佳乃は慌てて否定した。

「斗詩お姉ちゃんと猪々子お姉ちゃんにヘンな物を食べさせたくないからっ、アキラさんに頼んで安全なレモンを持ってきて貰ったんです……!」

「そうなんだ…………。ありがとう、佳乃ちゃん……!」

 精一杯の心遣いに感動した斗詩は、目一杯の笑顔を佳乃に返す。

 

 そして、もう一人の姉のほうは……。

 

「あー、美味い! あっ、佳乃。あたい飲み物欲しいんだけど」

 

 口をモゴモゴさせながら、新たな催促をしている。

 その傍らには、空になったタッパーが三個積まれていた。

 

「文ちゃんっ!! せっかく佳乃ちゃんが私達の為に作ってくれたんだから、もっと大事に味わって食べてよっ!!」

 感謝の言葉を未だに告げていない友人に、珍しく声を張り上げている。

「か、構わないですよ。待っててください。今用意しますから……」

 斗詩を宥めつつも、自ら立ち上がりサーバーへと寄っていく佳乃。

「だって、本当に美味いんだから仕方ないだろ。それに鍛練してて喉渇いてたのすっかり忘れてたんだよ」

「そうじゃなくて! 佳乃ちゃんにばっかり働かせたら悪いでしょ!?」

「でもさ。あたい、そのヘンな置物の使い方知らないんだしさー。斗詩だって分かんないんだろ?」

「そ、それは、そうだけど…………」

 口を尖らせた猪々子のまともな訴えに、斗詩は微かに怯んだ。

 そんな二人のやり取りを少し可笑しく思いながらも、佳乃は二つのカップにドリンクを注ぐ。

「ハイ、二人とも。どうぞ……」

 両手で一つずつ、二人が座っている場所の前に丁寧にカップを置いた。

「おっ、あんがと」

「あっ、ごめんね」

 同時に礼を告げた二人に一瞬キョトンとしてしまうが、次にはクスクスと笑い出す。

「……二人とも、仲がいいんですね」

「だろ? なんたってあたいと斗詩は、何をするにも一緒なんだぞ?」

「そんな事ないでしょ、文ちゃん」

 自信満々に胸を張る猪々子に、呆れたような視線を向ける斗詩。

「そうか? だってあたいと斗詩は一緒にアニキに抱かれたじゃないか……」

「ぶぶぶ文ちゃん!? 佳乃ちゃんの前でそんな話しないでよ!!!?」

「あ、アハハハ…………」

 あっけらかんと話す猪々子と汗だくで真っ赤になる斗詩。

 その二人を眺めながら、苦笑するしかない佳乃。

 

 前もって聞かされていても、改めて認識していたとしても、やはりこの話題にはまだまだ慣れてはいない。

 

 いや、慣れたら慣れたでそれは問題あるし、それに対しての反応に正解など無いのだが。

 

 しかし、佳乃は騒がしく話している二人を見ながら思った。

 こうやっている分には、目の前の二人は自分達がいた世界にいるような、ただの学生同士の会話にしか見えない。

 だが、先程鍛練場の中の二人の姿はそれは凛々しく、そして鬼気迫るような印象を自分に与えた。

 それは、二人が様々な戦で培ってきた、武将としての土台を示している。勿論二人だけではなく、それは幾度か鍛練場で見かけた他の“姉達”にも当てはまる。

 

 それを考えると、佳乃は只々羨望の眼差しを向けるしかなかった。

 

 

「…………佳乃ちゃん、大丈夫?」

 思考を巡らしていた佳乃がハッと気が付くと、自分の顔を心配そうに覗き込む斗詩の顔が目の前にある。

 

 斗詩は、黙り込んでボーッと自分達を見つめている佳乃が不安になり、声を掛けたのだ。

 思えば、先程斗詩が手を差し伸べた時もどこか浮かない顔をしていた。

 

「もしかして……。何か悩んでる事とか、あるの?」

 

 その問い掛けに、佳乃は何も言わずに少し俯く。見ようによっては、それは頷いたようにも見えた。

 

「……ねえ。良かったら、私達に話してくれないかな?」

 

 俯いたまま上目遣いのように視線を動かせば、自分の胸に手を添えて優しく微笑む斗詩の姿が映る。

 

「私達の知らない所で、ご主人様のご家族の皆さんが辛い思いをしているなんて……嫌だもの」

 

 その言葉に、佳乃は微かに頭を上げる。

 

「だから、何でもいいから話してくれる? 頼りなく見えるかもしれないけど、私達は佳乃ちゃんの“お姉ちゃん”なんだから、ね?」

 

 そう言って微笑む斗詩の姿は、佳乃の瞳には決して頼りなく映っていない。その包容力溢れる笑顔は、悩みで締め付けていた佳乃の心を十分に溶かしていた。

 

 

「そーそー。一人で悩んでたって何にも始まんないって!」

 

 不意に聞こえる陽気な声。佳乃が顔をしっかり上げれば、空になったカップを手で弄びながら笑う猪々子の姿が。

 

「溜め込んでモヤモヤするより、吐き出した方が楽になるさ。ま、あたいは悩んだってすぐに忘れるんだけどさ!」

 

 お気楽に笑う猪々子の姿に、佳乃は斗詩とはまた違うような、しかしスーッと心が安らいでいくのを感じた。

 

「……ハイ、分かりました。あの……実は頼みがあって……」

 

 

 

「何よ。みんなして楽しそうじゃない?」

 

 

 

 と、いきなり聞こえてきたのは可愛らしい声。東屋の中の三人の誰の声とも違う。

 出所を探そうと周りを三人はキョロキョロ見渡すが、人影は感じられない。

 

 聞こえてきた感じだと、自分達の上の方から聞こえてきたような……。

 

「三人して、何話してんのよ?」

 

「ワッ!!!?」

 

 視線を上、その先は入り口の方へと向ければ、屋根の外側上方から覗き込む顔がピョコンと。

 そこから丸めたピンクのお下げが、逆さまに揺れていた。

 そして驚いているこちらの様を悪戯っぽく笑って見ているのは、孫呉の三姉妹の末妹、孫尚香。真名は小蓮という。

 

「しゃ、小蓮、お姉ちゃん?!」

 

 ビックリしている佳乃を気に留めず、小蓮はそのまま空中で回転、綺麗に着地する。

「あっ、美味しそうじゃないの。シャオも貰うよ~♪」

 何事もなかったかのように室内へと入り、レモンをつまんで口に運ぶ。

「ど、どうして屋根の上に?」

「へぇ~、なかなか味いいじゃない。佳乃って結構料理できるのね」

「あ、ありがとうございます……。あ、あの。それでどうして屋根の上に……?」

「……冥琳から逃げてきたのよ」

 軽く寄せた眉根の下の瞳は、指先に付いた蜜を眺めている。

「冥琳お姉ちゃん、から……?」

「毎回毎回ウルサくて嫌になっちゃうわよ! “お勉強しろ”って……」

 頬杖と溜め息をつきながら、次々と指に付いた蜜を舐めていく。

「冥琳お姉ちゃんは、小蓮お姉ちゃんの事を考えて……」

「特に佳乃っ!! あんたが来てから冥琳は特にウルサいのよ!!」

「ヘェッ?! わわわたし、ですか?!」

 蜜を舐め取った小蓮の指は、佳乃の顔の真ん中へピンと伸びている。

「あんたが真面目に冥琳の勉強会に参加するから、あんたと私が比べられちゃうんじゃないの!」

「そ、そんな事言われても……」

 半ば理不尽な物言いに、佳乃は押されつつある。助け舟を出したのは、呆れ顔の猪々子だった。

「てかそもそも、小蓮が真面目に勉強すればいい話じゃないか」

「それ文ちゃんが言っても、あまり説得力無いと思う……」

 親友の助言を、こめかみを押さえながら逆に苦言を呈す斗詩。

 

「あっ、そういえば佳乃ちゃん。私達に何か頼みたかった事があるみたいだったけど…………?」

 ふと先程までの話題を思い出した斗詩が、佳乃に再び話を持ちかけた。

「おっ、そうそう。あたい達に出来ることだったら、何でもいいぞ! さっきのお詫びもあるしな」

「なになに? 佳乃が頼み事って……」

 にこやかに胸を叩く猪々子と、面白半分に瞳を輝かせて身を乗り出す小蓮。

 

 三人の視線を受け、佳乃は決意を込めてゆっくりと口を開く。

 

 

 

「あの……。私に、稽古をつけてほしいんです……!!」

 

 

 

-続く-


 
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