No.602413

IS~ワンサマーの親友~ep23

piguzam]さん

波乱を喰らう野獣

2013-07-28 07:07:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9854   閲覧ユーザー数:8416

前書き

 

深夜テンションで書いたから最後おかしいかも……スイマセン(汗)

 

 

それでは、どうぞッ!!

 

 

 

「な、なんですの!?何が起きたんですか!?」

 

「今のは鳳の衝撃砲でも、一夏の零落白夜でも無い……もっと別の『攻撃』だ!!」

 

謎の閃光がアリーナの中央に着弾した頃、第3アリーナの管制塔では警報がけたたましく鳴り響いていた。

試合中に突然上空から降り注いだ一条の光。

それは紛れもなく、このアリーナの外から撃ち出され、IS学園とは関係無い人物がもたらした厄災。

詰まる所、これは外部からの襲撃である。

この襲撃に、一夏と鈴の戦いに見入っていた管制塔の面々は面食らって動きが硬直してしまう。

何故なら、IS学園設立以来、前例の無い出来事だからだ。

それは代表候補生であるセシリアや、世にISを送り出した束の妹である箒でも例外ではない。

元より彼女達はまだ1年生、突発的な出来事に混乱してしまうのも無理は無かった。

 

「今の爆発はっ!?」

 

「システム破損!!上空からのナニカによる衝撃で、アリーナのシールドが破られました!!」

 

だがしかし、この異常事態に即時状況確認を取った者が管制塔には2人居た。

その人物こそ、この世界で最強と謳われる戦乙女、織斑千冬。そして彼女の良きパートナーを務める山田真耶の2人だった。

過去の世界大会モンドグロッソを闘い抜き、その頂点に輝いた千冬は持ち前の状況判断能力と冷静な思考をフル稼働させ、事態の把握を開始。

千冬の言葉に即応してシステムと現状のチェックを同時に済ませる真耶も、並外れた状況判断能力を持っている。

普段はおっとりしていてドジッ娘な場面も目立つ彼女だが、彼女も元代表候補生だっただけに非常事態への動きは俊敏なのだ。

何せ真耶が現役の頃は、もし千冬が居なければ真耶が国家代表に立っていたとさえ言われる腕前だったのだから。

 

『試合中止!!織斑!!鳳!!直ちにピットへ退避するんだ!!』

 

そして、外部からの犯行が判明した時点で、千冬は無線機を使って試合中だった一夏と鈴に鋭い声で退避命令を下した。

まだ敵が何者なのか、それ以前に敵なのか判断出来ない以上、2人を非難させるのは当たり前の処置と言える。

現在アリーナに居る2人は先程まで戦闘中だったのであり、例え小破状態と言えども危険な橋を渡らせる訳にはいかない。

生徒を危険に晒さない為に、学園には教師が存在し、そして多くの元代表候補や元国家代表が緊急時の戦闘員を務めているのだ。

2人に避難命令を出した千冬は、隣に居る真耶に鋭い声で命令を飛ばす。

 

「山田先生!!アリーナの観客席に居る生徒の避難誘導員の派遣と教師部隊に突入命令を!!」

 

「はい!!」

 

千冬の命令に従い、真耶は手元のコンソールを素早くタイピングし、教師陣の非戦闘員に避難誘導の命令を下した。

まず優先すべきはISを纏っていない一般生徒の安全の確保だからだ。

アリーナに居る鈴と一夏はISを纏っているので、多少のタイムラグは仕方無い。

そして避難誘導の係への各自通達が済み、教師部隊へのスクランブルも終了した所で――――。

 

ガシャンッ!!ガシャンッ!!ガシャンッ!!

 

突如、目の前のソリッドビジョンスクリーンに映しだされていたアリーナの観客席の周りが、鋼鉄の壁に覆われ始めたのだ。

それは、教師である真耶や千冬からすればその存在は知っている物であり――――。

 

「ッ!?学園のシステムにハッキングされてます!!アリーナの遮断シールドがレベル4に設定!!此方からの命令を一切受け付けません!!」

 

最悪の事態を予想させるには充分なモノだった。

今観客席を覆った鋼鉄のシールドは、アリーナに緊急事態があった場合にのみ発動の許可が降りる最大レベルの遮断シールドであり、普段は発動する事はまず無い。

勿論誰もその許可を出していないし、個人の判断で動かせるモノでは無いのだ。

それは外部犯からのハッキングの所為で、管制塔から、いや学園からの主導権を奪われてしまった事を意味する。

 

「観客席からの避難は!?」

 

「駄目です!!誘導員が着く前に、防護扉を締め切られてしまいました!!観客席には生徒が残ったままです!!」

 

「――あのISの仕業ですの?」

 

「そのようだ……完全に隔離されたというわけか」

 

既に後手に回っているこの状況に、千冬は苦い顔を浮かべたままセシリアの問いに答える。

非IS装備の一般生徒達の避難、アリーナに取り残された一夏と鈴の救出、全てが向こうに掌握されてしまった。

これでは此方から打つ手は何も残されていない。

幾ら教師陣が手練の集まりでも、訓練機である打鉄やラファールリヴァイヴでは、アリーナとピットを遮る隔離扉を破壊する事は無理だからだ。

仕方無しにモニターへと目を向ければ、そこには燃え盛る炎と黒煙の中に佇む侵入者の姿があった。

 

 

 

『…………』

 

「な、何だアレは?……あれでもISなのか?」

 

 

 

侵入者の姿を見た箒の呆然とした呟きが、管制塔に小さく響き渡る。

だがその呟きも仕方の無い事であった……何故なら、モニターに映るISの様な存在は、それ程までに既存のISとはかけ離れていたからだ。

無骨な全身のパーツに、顔から身体まで全てを覆う『全身装甲(フルスキン)』の異形。

本来顔が存在する筈の場所は不規則に並べられたセンサーアイが5つ点いているだけで、およそ人の顔は見当たらない。

非固定浮遊部位も存在せず、腕は足に匹敵するぐらいに長く、それはもはや人の形の様で人の形では無い姿。

今までに存在した事の無い、異形のISだった。

 

『…………(ドシュゥウウッ!!)』

 

「ッ!?」

 

「あ、危ない鳳さん!?」

 

その刹那、今まで沈黙を守っていた異形のISが、その巨大な腕を突き出し、空に居た鈴にレーザー射撃を撃ち込んだ。

その光景に思わず声を挙げてしまう真耶だったが、そのレーザーが鈴に直撃する寸前、一夏が鈴を抱えてレーザーを回避した。

正に間一髪といった状況に管制塔の職員並びに管制塔のモニターや計測を行なっていた3年の上級生は安堵の息を吐く。

それも直ぐに緊張感に変わり、真耶は今のレーザー射撃の測定結果に目を通す。

モニターに計測された結果は、競技用の枠から逸脱した威力を誇るレーザー射撃の威力だった。

 

『織斑君!!鳳さん聞こえますか!?今直ぐアリーナから脱出して下さい!!白式の零落白夜なら、アリーナのシールドを突破できますし、直ぐに先生達がISで鎮圧に向かいます!!』

 

その計測結果に、もし当たれば幾らISと言えども只では済まない事を理解した真耶は、無駄な事とはいえ一夏と鈴に脱出する様にオープン・チャネルで語りかける。

だが、オープンチャネルに映る一夏の顔は、恐怖に怯えた顔では無く、何か覚悟を決めた様な顔だった。

 

『いや、皆が逃げるまで、俺達で食い止めます!!良いな、鈴?』

 

『だ、だだ誰に言ってんのよ!?やれるに決まってるでしょ!!それよりいい加減降ろしなさい!!(ジタバタ)』

 

『うおっと、悪い……それに、俺達が逃げたら、あのISの矛先がアリーナに向かうかも知れません』

 

しかし、一夏は真耶の言葉には従わず、逆に乱入者を迎え撃つと言い放った。

更に、今現在一夏に抱えられている鈴ですらヤル気充分な返事を返してくるではないか。

顔を真っ赤にして、俗に言うお姫様抱っこの体勢から抜け出そうともがく様は、大分戦場に不釣合いだが。

 

「そ、それはそうですけど……!!」

 

彼等の言葉に、真耶は直ぐに否定の意を口に出来なかった。

先ほど自分から一夏に零落白夜の使用を進言した真耶だったが、実はこの方法は余りにも危険性を孕んでいる。

まず、乱入したISの狙いが分からない以上、無闇に敵ISをアリーナの外に出す訳にはいかない。

敵ISの両腕に内蔵されているレーザー兵器の出力はかなり高く、もし学園にその矛先が向かった場合、建物の倒壊は免れないだろう。

そうすれば、この試合を見物に来ていない生徒や、学園待機の教職陣に被害が及んでしまう恐れがある。

従って、皮肉な話しではあるが、現在アリーナにあの所属不明機が閉じ込められている状況は、学園を守る上では好都合なのだ。

……但し、それはアリーナの中に誰も居なかった時の場合であり、今は所属不明機の他に生徒が閉じ込められてしまっている。

更に観客席の生徒及び各国のIS研究者や女性権利団体の救出すらままならないこの状況。

真耶はIS学園に勤務してから今日まで、これ程の異常事態に遭遇した事は無かった。

でも、そうであっても、本来守るべき生徒達に危険な橋を渡らせる訳にはいかないと、真耶は必死な思いで打開策を講じていた。

 

『…………(ビュォオオオオンッ!!!)』

 

しかし、敵にこちらの思いを汲むという概念は無くアリーナの中央に仁王立ちしていた所属不明機はスラスターを吹かして空中に飛び上がり、空中に居た一夏達に肉薄する。

それに気付いた鈴と一夏は2人バラけて距離を取り、迎撃体勢を整えて所属不明機を睨みつけた。

 

『しかも向こうは完全にヤル気みたいですから……良い度胸してやがるぜ、あのゴリラっぽいIS』

 

『言えてるわねー。アタシ等完全に喧嘩売られてるわよ?アタシ今なら倍額で買ってやっても良いんだけど?……今の気持ちをゲン流の言葉で表すなら――』

 

『あぁ、俺も同じだ。折角の勝負に水を差されたんだからな……このやるせない燻った感、ゲンの言葉を借りるなら――』

 

『あ、あの……?織斑君?鳳さん?』

 

真耶の言葉も聞かず、2人はそこで言葉を切ると、追跡する様に飛んで追いかけてくる所属不明機に向けて各々の得物を構えた。

鈴と一夏がここまで怒りを剥き出しにしているのは、この勝負に賭けられていた『勝った方が負けた方に何でも一つ命令出来る』という賭けを邪魔されたからだ。

それは怒りという名のガソリンとして2人の心に給油され、心臓という名のエンジンに炎を灯し、激しく鼓動を刻む。

全身に駆け巡る激しい血流の流れに沿って、一夏は雪片弐型を正眼に、鈴は双天牙月を回転させながら再び二刀流の構えに戻す。

そして、遂に2人の位置に追いついた所属不明機が、その異形とも言える豪腕を真っ直ぐと突き出して殴りかかって来た刹那――――。

 

 

 

 

『『チョーシに乗ってんじゃねぇええええッ!!!(乗ってんじゃないわよぉおおおおッ!!!)』』

 

ギャギャギャギャギャッ!!!

 

『ッ!?』

 

 

 

何と、2人は互いの得物を交差する形で構えながら、所属不明機の豪腕パンチを、上向きに逸らしたのだ。

ギャリギャリと金属が削れる不協和音と火花を散らしながら、互いの刀を交差させてパワーを補う事で、その巨大なパンチの真下を潜った2人。

そのまま刀を滑らせて所属不明機の懐深くに飛び込んだ2人は、自らの機体を左右逆に回転させて――――。

 

『『うらぁああああああああああああああッ!!!(ドゴォオオオオオオッ!!!)』』

 

回転の勢いを十全に乗せた、ダブル回し蹴りをお見舞いした。

恐らく思いもよらなかった2人のピッタリと息の合ったコンビネーション攻撃だったのだろう。

所属不明機は特に反撃らしい反撃もせずに、再びアリーナの地面に叩き落されていく。

 

『ぬあぁーーーッ!!冷静に考えたらかなりムカついてきた!!一夏!!今からアイツをブッ倒した方が勝ちって事で良いわよね!?』

 

『へっ!!望む所だぜ!!この不完全燃焼な気分の全てをあの傍迷惑野郎に叩き込んでやらあ!!』

 

「あの二人共!?む、無茶は駄目ですよぉーーーーッ!!?」

 

真耶の涙声な静止も何のその、一夏と鈴は不完全燃焼気味な燻りに火を点けると、その怒りの矛先を所属不明のISへと向けた。

慌てて注意を促そうとする真耶だったが、向こうからオープンチャネルとプライベートチャネルを切られてしまい、彼女の声は一夏達に届く事は無かった。

何時もと違ってヤル気満々すぎる気迫を宿した一夏に、箒とセシリアもアワアワと慌てだす。

 

「本人達がヤル気なんだ……なら、あいつ等に任せてみても良いだろう」

 

そして、その会話を傍で聞いていた千冬は、何時もの冷静な態度そのままに言葉を紡ぐ。

それは誰が聞いても間違い無く、戦闘続行の許可と敵ISへの攻撃の許可だった。

しかも少しばかりの微笑みを浮かべているのだから、周りの驚きはかなりのモノになる。

今正にモニターの向こうで命の遣り取りをしているのは、他ならぬ千冬の身内の人間であるというのに、千冬が笑っている事が信じられなかったのだ。

 

「お、織斑先生!!何を暢気な事を言ってるんですか!?」

 

この千冬の態度に困惑した真耶は、少し声を張り上げて千冬に抗議するが、千冬は微笑みを崩さずに真耶に視線を向ける。

 

「落ち着け。コーヒーでも飲め、糖分が足りないからイライラするんだ」

 

困惑した表情で問い詰める真耶に千冬は表情を微塵も変えずに、傍に置かれていた熱々のコーヒーに粉を入れていく。

その所作はとても洗練されていて、見る者が見れば感嘆の息を吐いてしまう程に様になっていた。

タイトな黒スーツに身を包んだ麗しの美女。

正に美女と呼ぶに相応しい千冬がほほえみを浮かべたままにコーヒーを入れ、スプーンを音を立てずに掻き回す仕草。

それはとても様になっていたが――――。

 

 

 

「――あの、織斑先生?――――それ、『塩』ですけど?」

 

「――――」

 

 

 

『塩』と大きく書かれた箱から流れる様な仕草でコーヒーに塩を投入しているのだから何とも言えない。

シュガーではなくソルト、糖分でなく塩分、どんな悪食だ。

しかも真耶の忠告を聞くまで全くもって気付いていなかったのだから、管制塔に居る教師、生徒は一斉に目を逸らしてしまう。

真耶達の傍に居た箒とセシリアも目を逸らす事で、今の光景の全てを無かった事にしようとしていた。

正確には巻き込まれ回避だが。

 

「……何故、ここに塩があるんだ?」

 

「さ、さぁ?……で、でも、大きく『塩と』書いてありますし……」

 

千冬は塩と大きく書かれた容器を睨みながら、誰にというワケでも無く呟き、その呟きに真耶は律儀に答えた。

基本的に管制塔では、飲食の飲は許可されているが、食は許可されていない。

だというのに、コーヒーメーカーの置かれている場所に塩が置いてあるのは何故だろうか?

こんなアホらしいミスをするほど、何時も冷静沈着を地で行ってる千冬は弟の一夏の事をかなり心配して焦っているという事になる。

しかし幾ら考えども、既に千冬が微笑みながらコーヒーに塩を『間違えて』入れてしまった事実は掻き消えず、管制塔には嫌な沈黙が降りてしまう。

 

「え、え~っとぉ…………あっ!!やっぱり弟さんのことが心配なんですね!?だからそんなミスを――」

 

「………………………」

 

そして、真耶はこの変な空気を払拭しようとして、盛大に自爆してしまった。

真耶としては目の前で起きたアクシデントをフォローするつもりだったのだろうが、それは逆に火にダイナマイトを投げ入れる行為に他ならなかった。

この時、比較的近くで会話を聞いていた箒とセシリアは二人して真耶の冥福を祈った。

千冬の纏う雰囲気とイヤな沈黙に、真耶は何か不味い事が起きる気がして、話しを逸らそうと試みるが既に遅かった。

慌てて口を開こうとした真耶の目の前に――――。

 

「山田先生、喉が乾いてそうだな?コーヒーをどうぞ」

 

ずずいっと、千冬の手によってコーヒーが進呈されるのであった。

波々と注がれ、熱々の湯気を漂わせるコーヒーではあるが……。

 

「へ?……あの、それ塩が入ってる奴じゃ……」

 

そう、目の前でポイズンクッキングばりに開発された新たな味覚の境地、塩入りコーヒー(ブラック)を。

勿論その現場を全て見ていた真耶は千冬に対して至極当然な疑問の声を挙げるが……。

 

「 ど う ぞ 」

 

それは「拒否は許さん」とニコニコとした微笑みを浮かべた千冬に封殺されてしまう。

ここに至ってやっと自分の逃げ道が無い事を悟った真耶は、涙目でその塩入りコーヒーを受け取る以外に選択肢は無かった。

 

「い、いただきます……」

 

「熱いので一気に飲むといい」

 

言葉の端々に覇気の籠められた千冬の死刑宣告を聞き、真耶はその手に持つ、一見何の変哲も無いソルトコーヒーを、ゆっくりと口に向けて傾けていく。

只でさえ湯気が立っていて熱々のコーヒー、しかも塩という未知の調味料によって魔改造されたコーヒーを飲むのはかなりの勇気が必要だ。

故に、真耶がゆっくりとした動きになってしまうのは致し方ない事なのだが――――。

 

 

 

『管制室!!誰か聞こえるッスか!?1年1組の鍋島元次っす!!誰でも良いから聞こえたら応答してくれ!!』

 

 

 

しかし、そのゆっくりとした動きが、今回に限って真耶を窮地から救い出した。

突如として、管制室のスピーカーから元次の音声が鳴り響き、モニターにオプティマスのオープンチャネルの受信を表示したのだ。

 

「ッ!?こちら管制室です!!げ、元次さん!!大丈夫ですか!?(ま、また元次さんに助けてもらっちゃった……ありがとうございますぅ!!)」

 

これ幸いとばかりに、真耶は今しがた千冬から受け取った(押し付けられた)ソルトコーヒーを端に置いて、元次からの通信を受け取る。

そうすると、モニターの端にオプティマスの待機状態であるサングラスを額に掛けた元次の顔が映し出されていく。

背後の風景は真っ赤に染まっていて、その奥では一般生徒達が扉を叩いて何とか逃げ出そうと声を出す風景も写っていたが、概ね誰にも怪我らしき怪我は無い。

元次の顔を見た真耶の顔は誰が見ても安堵の色に染まっており、ある意味で管制室の空気が良い方向にかわる切っ掛けとなった。

まるで去年の冬に初めて会った時の様に、自分のピンチをさっそうと助けだしてくれた元次に、真耶の好感度は鰻登りで上昇していく。

尤も、既にこの学園に入る前から真耶の中では元次株がストップする事は一切無かったが。

 

「……チッ」

 

若干一名は面白く無さそうに舌打ちをしていたが、真耶はなるべくそれを気にしない様に心がける。

誰であろうと自ら野生の狼(最強種)の機嫌を損ねたく無いものだ。

 

『おぉ!!真耶ちゃんか!?無事で良かったぜ。いきなり観客席のシールドが扉で覆われちまったから何が何だかわかんねえんだけど、一体全体何が起きたんだよ!?観客席の娘達なんか半狂乱になってんだ!!』

 

真耶の姿を向こうでも確認したのか、元次は嬉しそうな表情を作るが、それも直ぐに真剣な表情に変えてしまう。

普段の元次より若干ではあるが、焦りの含まれた声を聞くと、管制塔に居る面々の表情は再びキリッと緊張感を纏って締まっていく。

現状で管制室に居る人間に状況を打開する手立ては無いが、パニックに陥りそうな現場を宥める事も教師のやるべき仕事の一つなのだ。

 

「手短に説明します。先ほどのアリーナで起きた爆発は学園外からの所属不明ISが放ったレーザー射撃によるもので、現在織斑君と鳳さんが交戦中。更に敵ISが乱入したのと同時にアリーナのシステムがハッキングを受け、シールド、防護扉の全てが掌握されています」

 

『ISの襲撃ぃ?……何処のどいつだか知らねえが、ココにカチこみ掛けるたぁ大した度胸してやがるぜ……ん?ちょっと待ってくれ?ココ全体がハッキングを受けたって事は、ソッチからはこの防護扉を開けらんねえのか?』

 

「残念ながら、それは今の所無理だ」

 

『この声は千冬さん?そっちは無事なんスか?その所属不明ISとやらの所為で怪我とかしてねえッスか?』

 

ナチュラルに回線に割り込んだ千冬だが、元次はそれに取り乱す事無く、千冬の安否を確認してくる。

その優しい気遣いに千冬は心の中で嬉しく思うも、それを表情に出さないように力を込めて仏頂面を作った。

……管制室の暗い灯りの所為で傍目には判断が付き難いが、少しばかり頬が染まっている様にも見えなくもない。

 

「ふん。お前に心配される程私は弱く無いさ……話を戻すが、現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。此方へシステム権限を取り戻す事が出来次第、防護扉を開ける事が出来る」

 

千冬は元次にそう返事を返しつつ、手元にある電子端末に目を通す。

そこには生徒達の自治体である生徒会の要請で、3年生のコンピュータープログラミング科の生徒達が必死にシステムを掌握しようとしている姿が映し出されていた。

教師陣の殆どは開かない防護扉の前で待ちぼうけを食らっているか、ISに乗り込んで今か今かと扉が開くのを待っている。

従って、IS学園側のハッキングへの対策は、今のところ3年生達が頼りなのだ。

 

『つってもよぉ、結構コッチの女の子達も参ってますぜ?それこそ泣きそうな娘達もいますし……許可さえ貰えりゃ、俺がオプティマスで扉をブッ壊しますけど?』

 

しかし、閉じ込められた側の位置に居る元次からすれば、自分の持つ力でこの状況を打破する事も不可能では無いのだ。

オプティマス・プライムを使えば防護壁など紙屑同然の存在であり、後必要なのは先生達、つまり千冬からの許可だけだった。

現在殆どのISがアリーナの手前にだ払っている中で、専用機持ちという存在はかなりの戦力になる。

しかも元次の実力は折り紙付きであり、オプティマスに動いてもらえば生徒達の安全は確保出来ると、管制塔の面々は表情を明るくする。

……しかし、それは千冬の厳しい表情と声で却下されてしまう。

 

「駄目だ。今判明している事だが、敵ISはお前達の居る観客席一帯に、常時サーチをかけている。恐らく専用機持ちがISを展開するかを見張っているのだろう」

 

『げっ?マジかよ……それってつまり、俺等専用機持ちの誰かがISを展開すりゃ……』

 

「即時襲ってくる可能性も否めん。よって専用機持ち全員に、ISの展開を禁止する連絡事項を送っておいた」

 

千冬の厳しい表情で紡がれた言葉に、管制室の誰もが表情を暗くさせてしまう。

目の前に現れたド級の戦力が削がれてしまった事への焦燥感、そして他の専用機持ちというアドバンテージを封じられてしまった事もだ。

それはこの場で悔しそうに下唇を噛むセシリアにも当て嵌まる事であり、モニターの向こうで戦っている愛しい男の元へすら駆け付けられない事への苛立ちも含まれる。

 

『あぁ、俺の方にも今来ましたよ……さっき真耶ちゃんがそのクソッたれな敵ISを一夏と鈴が迎え撃ってる最中って言ってましたけど、そっちの救援も出来そうに無いんすか?』

 

「そうだ。襲撃があった時点で政府にも救援は要請してあるが教師陣の部隊にせよ、政府の救援にせよ、どの道ハッキングされたシステムを取り返さない事には遮断シールドに覆われたアリーナへの突入も出来ん」

 

『って事は、どっちにしろ俺が一夏達の方に乗り込むのは無理って訳だ……チッ、仕方無え。とりあえずオプティマスは使わずに、俺はコッチの避難が出来る様にちと動きますわ』

 

「何だと?」

 

千冬のIS使用禁止命令を聞いた元次は一瞬面倒くさそうな顔をするも、直ぐに表情を和らげて何事も無かったかの様に千冬に言葉を返した。

この元次の発言に、千冬は眉を少し動かして怪訝な表情を浮かべる。

まるで「ちょっと醤油が切れたから買ってくる」といった感じの軽いノリ、しかし面倒だなと言わんばかりの言葉だったからだ。

 

「どういう事だ?今説明した通り、学園のシステムは襲撃者に制圧されてる。3年の精鋭が総掛かりでやっているシステムクラックより、お前が早く出来るワケが無いだろう。ましてやソコには端末すら無い筈だぞ?」

 

正しく正論とも言える千冬の言葉は、管制室の誰もが思う所だった。

今現在、3年生のコンピュータープログラミング科、その最精鋭たる成績優秀者達が全員で掛かっても、襲撃者の対応の方が早く手が付けられない。

こちらからの侵入に、まるで神業とも言える速度で対処され鎮圧されてしまっているのだ。

そんな成績優秀者達の集まりより早くハッキングを解く電子的技術等、元次は欠片も持ち合わせていない。

それは長い付き合いである千冬からすれば良く解っている事だ。

 

 

 

 

――――だが、この時千冬はある一つの事実を失念していた。

 

『いや、確かにハッキングは俺には何とも出来ねえッスけど……』

 

目の前で獣の如き鋭い眼をギラつかせて笑うこの男が――――。

 

 

 

 

 

『俺もいい加減、檻に閉じ込められんのは嫌気が差してきたんで――――ちとブッ壊しちまおうかと、ね?』

 

元来、檻の中で飼い慣らされる事を極端に嫌う――――『野獣』の如き男である事を――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「んじゃ、俺は少しばかり暴れますんで、また後で連絡しますわ」

 

『おい、待て元j……』

 

とりあえず千冬さん達の無事と現状の確認が出来たので、俺はオープンチャネルを閉じて後ろを振り返る。

やれやれ、まさか所属不明のISとか言うワケ分かんねえISが攻めてくるとか……ISのコアって国が管理してんじゃ無かったのかよ?

 

『ココを開けてぇ!!出してよぉ!!』

 

『嫌だよぉ……ぐすっ……怖いよ……助けて』

 

そして、後ろを振り返った俺の視界に飛び込んできた光景は、見ていて気持ちの良いモンじゃ無かった。

俺の視界に広がる光景、それはこの観戦区画に居た女子がこぞって出口である扉の前に群がって叫んでいる光景だ。

それは2年、3年といった上級生も関係なく、もはや涙声としか言えない声音で、必死に扉を叩いてここから逃げようとしている。

だが無情にも、扉の前に浮かぶソリッドビジョンが映す文字はLOCKED……封鎖の文字から変わる事は無え。

その事実に耐え切れなくなって、床に座り込んで目元を手で拭う女子まで居た。

多分、行き成り起こった異常事態に恐怖で涙が出て来たんだろう……ホント、どこまでも巫山戯たISだぜ。

女の子(常識のある良い)達を泣かせたばかりか、あろう事か俺の幼馴染み達に喧嘩売ってるとはな……絶対にブチのめしてやんぜ。

まぁ兎に角、今はココから抜け出す道を作るのが先決だな。

 

「あうぅ~……ゲ、ゲンチ~。怖いよぉ……ひっく(ひしっ)」

 

と、俺が状況を分析してさぁ動こうって時になって、俺の隣に居た本音ちゃんが俺にひしっと抱きついてくるではないか。

何時の間にか今居る観戦区画の照明が落ちて赤い警告灯のみになっちまったこの視界じゃ暗くて顔が見辛いが……本音ちゃんの顔は今にも泣きそうだった。

しかも俺にしがみついてるその腕から、フルフルと細かい震えが伝わってくる程の怯え様。

 

 

 

…………良し、ブチのめすじゃなくて派手にブッ殺そう☆(良い笑顔)

 

 

 

必死に俺にしがみついてプルプルと震える本音ちゃんを見て、俺は決意と判決を心の中でクソISに下す。

俺の大事な癒し発生器たる本音ちゃんを怖がらせた罪は万死に値する、法廷抜きで惨殺刑じゃ。

華麗なるジャッジを判決した俺は、なるべく本音ちゃんが安心出来る様に柔らかい笑顔を浮かべて、本絵ちゃんを優しくナデナデしてあげる。

今はとにかく、この震える可愛らしい小動物な本音ちゃんを落ち着けてやらねえとな。

 

「安心しなって本音ちゃん。もし何かあっても、俺が絶対に守ってやるからよ?な?(ナデナデ)」

 

「う……うん~……わかった……」

 

俺の安心させる様になるべく優しくした言葉が効いたのか、本音ちゃんは戸惑いながらもちゃんと頷いてくれた。

その様子を見届けた俺は、本音ちゃんを撫でていた手を止めて席から立ち上がる。

 

「おし、そんじゃあ、ちょっと扉の方を見てくっから、本音ちゃんはココで……」

 

「わ、わたしも一緒が良い~~!!」

 

待っててくれ、と続けようとした俺の言葉は途中で立ち上がりながら必死な様子で俺に返事を返す本音ちゃんの声量で遮られてしまう。

その必死な様子に少し面食らったが、俺は直ぐに気を取り直して笑顔で頷く。

 

「わかったよ。一緒に行こうや」

 

「ッ!!うん!!」

 

そう返すと、本音ちゃんは俺の横にピッタリと並ぶ形で俺と一緒に歩き出し、共に通路へと続く階段を登る。

上に上がる度に防護扉の閉まった入り口に群がる女子に進路を阻まれたが、そこは自慢のデカイ身体を駆使してゆっくりと掻き分ける様に進んでいく。

なるべく他の女子に当たらねえ様にしながら女子の波を歩いて抜け、遂に扉の真ん前に到達した。

 

「あぅあぅ~……酔いそう~……」

 

だがしかし、俺の後ろに隠れる形で着いてきた本音ちゃんは、その人の密集度にヤラれてしまったらしく目をグルグルと回してしまっている。

普段ならそんなフラフラ状態の本音ちゃんをそのままにしとく事は無えんだが、今は目の前の扉を何とかする事が先決なので、俺は扉の前で扉を叩いてる女子に近づいた。

しかし俺が直ぐ後ろに近づいたにも関わらず、目の前の女子は扉を無我夢中で叩いている。

 

「ねぇ!!誰かココを開けてよぉ!!」

 

うわぁ、もう涙声っていうか完全に泣いてるじゃねえかこの娘……とりあえず、横に避けてもらいますか。

 

「(チョンチョン)HEY。ちょっと悪いけど、扉から離れてくれや」

 

「もう何がどうなって…………へ?……な、鍋島君!?」

 

少し半狂乱に近い状態の女の子を刺激しない様に、肩を指でチョンチョンと突きながら声を掛けると、その女生徒は俺の姿を捉えた瞬間に驚いたように声を挙げる。

まぁ今は緊急事態だから仕方無えけど……何?俺ってそんなに怖いのでしょうか?

かなり大袈裟な女生徒の反応に挫けそうになるも、今は非常事態だと心を叱責してから、俺は慌ててる女の子の頭を優しく撫でてみた。

 

「あっ……あ、あのぉ?(照れ照れ)」

 

そうすると、俺が頭を撫でた女の子はさっきまでの半狂乱振りを完全に消して戸惑いの声を出す。

良かった、とりあえず少しは落ち着いてくれたみてえだな。

この機を逃すまいと、俺は彼女の頭をゆっくりと撫でながら口を開き、優しい口調で語りかける。

 

「まぁ落ち着けや。ちょっとこの扉を調べてえから少し脇に避けててくんね?直ぐに終わるからよ」

 

「……は、はい……分かりました……(ぽ~)」

 

俺の言葉を聞いてくれたその女生徒は、半ば夢遊病なのか?と疑いたくなる様なフラフラした足取りで俺の後ろの方に息、扉から離れてくれた。

漸く目の前の扉がフリーになったので、俺は少し屈んで扉を調べる。

勿論、オプティマスのセンサーを使ってこの防護扉のロック方式を並行して調べながら、だ。

えぇっと……まず、扉はスライド式で、厚さはそこそこあるな……ロックの仕方は、真ん中の大きさ15センチぐらいの大きさの回転式の鍵か。

キーを刺す穴は無いし、多分千冬さん達の居る管制室からの電子制御式って奴だろう。

 

『解析完了。厚さは10センチ程。電子制御なのでピッキング等は不可能です。また、中央の電子施錠機以外に施錠機の存在は確認出来ず』

 

俺の考えと同じく、オプティマスの調べてくれた情報を照らし合わせて、俺は顎を手で擦りながら考える。

ドアには何処にも取っ手らしき物は付いて無いって事は、手動で開けるってケースは考えてねえんだろうな。

ならネックになってるのはこのデカイ鍵周りだが……これは後から取り付けられたモンみてえだ。

何でそんな事が分かるかっつうと、この鍵の円形部分だけ、後から打ち付けた様なボルトで固定されてるからだ。

車で例えるなら、ホイールのリム部分に撃ち込まれてるピアスボルトの様な配置でボルトを打って取り付けられてる。

 

 

 

つまり、ココを何とか出来れば鍵は外れるし、後は扉を動かしゃ良いって訳だな……やってみますか。

 

 

 

とりあえず扉を開けるプランが頭の中で固まったので、俺は早速行動を始める。

まずは自分の着ているIS学園の白いブレザーを脱ぎ、中に着ている黒いカッターシャツの袖を肘まで捲る。

そしてさっき脱いだブレザーを自分の右手の拳部分にグルグルと巻きつけて即席のグローブを作った。

さあて、俺の拳が通じるかどうか……いっちょ扉と勝負だな。

 

「……良し、ちょいと皆!!危ねえからもう少し扉から離れててくれ!!」

 

俺はさっきより声を大きく張り上げて、俺の後ろでどうするんだろうと固まっていた女子達を後ろに下げる。

その指示に最初こそ戸惑っていた彼女達だが、他にどうする事も思い浮かばねえ様で、直ぐに俺の指示に従って空間を開けてくれた。

現在、扉の前には俺が1人、後ろに居た女子も下がって少しばかりの空間が出来上がる。

よぉし……いっちょ無茶を通して道理を引っ込めますか。

俺は右腕にあらん限りの力を込めて、足を大股開きに開いていく。

そのまま足を地面にドッシリと下ろすと、次は腰を落として捻りを加え、弓なりに身体を倒す。

限界まで自分の集中力を高め、自身の身体に蒼い炎を纏い、『猛熊の気位』を発動。

 

 

 

 

 

さぁ行くぜッ!!冴島さんとの喧嘩修行、そしてヤマオロシとの喧嘩で身に付けた俺のヒートアクションッ!!

その威力をその身(扉)でとくと思い知りやがれッ!!

 

 

 

 

 

「フゥ…………どぉらぁあああッ!!!!!(ゴォオオウゥッ!!!!!)」

 

 

 

 

 

限界まで高めた身体のパワーを一気に開放して、俺は気合の雄叫びと共に拳をロック機構の組まれた部分に振り下ろす。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「何とかこの部分だけでもハッキングを解かないと……ッ!!」

 

「誰か整備科から大型バール持って来て!!こうなったら物理手段でも何でも良いから中の生徒達の安全を確保するのよ!!」

 

一方、此方は元次達の居る観戦区画から扉一枚隔てた反対側の通路。

そこでは、真耶の指示で生徒達の避難誘導を開始しようとし、突如閉ざされた防護扉の前でIS学園の教師達が扉を開けようと奮闘していた。

人数にして15~6人程居るが、その内の1人が扉の横にある基盤を開けてノートパソコンを繋ぎ、何とか扉のロックを解除しようと試みる。

更にその集団で指揮を執っている教師は、手の開いている教師に扉を抉じ開ける道具を持ってくる様に指示を飛ばした。

その場に居るのは全員女性ではあるが、彼女達は力技であろうと必死になって目の前の分厚い防護扉を開こうとしている。

それはひとえに自分達教師が守らなければならない大事な教え子が、人質同然に観戦区画に閉じ込められてしまっているからだ。

 

 

 

守るべき大事な生徒達を何とか救おうと、指示を受けた教師が整備科に向かおうとした刹那――――。

 

 

 

ゴォオオオオオオオンッ!!!!!

 

「きゃあっ!?」

 

「「「「「ッ!!!???」」」」」

 

 

 

 

突如、防護扉の向こう側から、まるで鉄を撃つ様な鈍く大きな音が響き渡ってきた。

その突発的とも言える轟音に、防護扉の傍でパソコンを弄っていた女性教師――――1年3組担任の杉山陽子は悲鳴を挙げて尻餅を付いてしまう。

本来非常事態対策を受けた教職員が驚く事等滅多に無いが、何せ比較的離れた場所に居た他の教師ですら驚く程の大きな音だ。

傍に居て、しかも他の事に必死になっていた杉山が驚いて尻餅をついてしまうのも無理は無い。

 

「…………な、何の音?」

 

そして、呆然とした教師の1人が小さく呟くが、その呟きに言葉を返す余裕のある教師は1人として居なかった。

正に恐る恐ると言った具合で、教師たちがゆっくりと音の鳴り響いた防護扉に近づくと――――。

 

 

 

ゴォオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

 

又もや、扉の向こうから何とも形容し難い轟音が鳴り響き、尻餅を付いてから立ち上がった杉山も含めた面々はビクゥッ!!と驚いてしまう。

度重なる聞いた事も無い音に戸惑う一同だが、この教師陣のリーダー的な役割を持つ教師は恐る恐る口を開いた。

 

「まさか……中の生徒が扉を開けようとしてるの?」

 

「そ、そんな!?有り得ませんよ!!観戦区画にはこんな音を出せる様な鈍器はありませんし、代表候補生達の専用機は誰も稼働していません!!」

 

「……じ、じゃあ、この音は一体な――――」

 

自分の考えを真っ向から否定した教師に、「じゃあこの音は何だ?」と聞き返そうとした瞬間――――。

 

 

 

『――――おりゃぁあああああああああッ!!!(バガァアアアアアンッ!!!!!)』

 

「「「「「きゃぁああああッ!!?」」」」」

 

防護扉に備え付けられ、今正に自分達が必死になってどうにかしようとしていた中央の電子制御ロック、その機構が丸々とフッ飛ばされる現場を目撃した。

そのまま破壊されたロック機構部分は、ガシャァアンッ!!と派手な音を立てて床に転がり、その役目を終えてしまう。

余りにも非常識且つ、今まで見た事も無い言葉を失った教師達がゆっくりとした動きでロック機構の残骸に視線を向ける。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そして、そのロック機構だった部品の有様を見て、彼女達は言葉を失ってしまう。

彼女達教師陣が見たロック機構……それは向こう側、つまり観戦区画側の表が見える様に転がっていたが、その有様は見るも無残な姿だった。

何せ、固定していた筈のピアスボルトは全て弾け飛び、残っている、いや残ってしまったボルトはあらぬ方向にひしゃげてしまっている。

更にロック機構の部位を丸々、本来通らない狭い穴から無理矢理押し通した結果、形が悲惨な物に変形しているからだ。

特にその中央部分には、生々しい『拳』の跡がクッキリと刻まれてしまっている。

こんな光景を見せられれば、如何に非常事態対策を受けた彼女達とて、言葉を失ってしまうのは仕方が無いと言えよう。

現実から走り高跳びでもしたのかという有り得ない物を見せられた教師達は、次にロック機構が備え付けられていた部位に視線を移し……。

 

「「「「「…………ゑ?」」」」」

 

その穴から此方側へと突き出ている、IS学園の白いブレザーで『拳』を覆った野太い『人間の腕』に目を点にした。

しかもこの腕、太いだけじゃなく、これでもかと筋肉のブロックが出来上がった逞しさを備えているではないか。

「あれ?このぶっとい腕ってもしかして?」と何人かの、というかほぼ全員の教師がそう考えていると、その腕は一度中に引っ込み先ほど開けた穴の縁に片手を掛けた。

 

『……ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!(ゴゴゴゴゴゴゴゴ……)』

 

そして、まるで獣の様な低い唸り声が扉の向こうから聞こえたかと思えば、目の前の防護扉が横にゆっくりとスライドしていくではないか。

ちなみにこの防護扉、重さは200キロ近くあり、人の力で動かす事はまるで想定されていない。

特に防護扉の開閉は中に組み込まれたギアを連動させる仕組みなので、それが止まってる今の状況なら尚更重かったりする。

だと言うのに、その防護扉を開くその手は一つであり、目の前の1人では動かない防護扉が1人の力で動かされているのだから教師の驚きは相当なモノだ。

その常識外れの光景に教師たちが呆然と口を開けていると、最終的に防護扉は完全に開き……。

 

 

 

 

 

「フゥ……『剛撃の極み』3発で壊れたか……案外脆いモンだな、ココのシステムって」

 

 

 

 

 

黒いカッターシャツをこれでもかと鍛えこまれた筋肉で張り詰めさせ、ニヤリと口元を吊り上げて笑う男性IS操縦者、鍋島元次が姿を表した。

オマケにシャツは第二ボタンまで外し、素肌にシルバーのネックレスを着けオプティマスの待機状態である黒いサングラスを掛けてるので、ダーティな感じが2倍増しだ。

何やら非常識な事を呟きつつ出てくるので、教師達はコレが夢なんじゃないかと頬を抓る者も数名居る。

更に元次の後ろにはポカーンと口を開けてる少女達の軍団まで居る始末。

彼女達が満場一致で理解したのは、先ほどの試合前に一夏が言っていた事が眉唾物では無かった事と、あの腕に殴られたら人生終了という事だった。

但し恐怖ばかりでは無く、その破天荒+ワイルドを地で行く元次の姿に見惚れている女子生徒や教師もかなりの数、居たが。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

目の前の防護扉が完全に開いたのを確認しながら、俺は扉の向こうに固まっている教師の人達に目を移す。

しかし其処に居る教師の方々は、俺が扉を抉じ開ける様を見ていた様で、驚きに目を見開いてストップしてらっしゃるではないか。

まぁそれも仕方無えか……破られない様に安全性を高める筈の防護扉が人間のパンチでブッ壊されるなんて、予想だにしてなかっただろうよ。

俺からすりゃ、常識外れであっても冴島さんだって同じ事が出来ちまうからあんま大した事にゃ思えねえけど。

でもこのままボーっとされたら面倒な訳だし……ちょいと千冬さんの真似をさせて頂きますか。

 

「ほれっ(ガァンッ!!!)」

 

『『『『『ッ!!?(ビクゥッ!!!)』』』』』

 

俺は扉を少しだけ潜った位置から、傍の鉄製の壁を軽く拳で殴って音を出し、周りの人達の意識を呼び起こす。

その音に驚いた皆は肩を竦めて飛び上がったが、直ぐにハッとして現状を把握してくれた。

 

「ちぃと荒っぽい遣り方でスンマセンが、緊急事態って事で許して下さいッス」

 

「あ、う、うん。さすがに驚いたけど、仕方無いわ……ここからは私達の仕事ね。ありがとう」

 

さすがに扉を壊しちまったので、俺は目の前に居た先生の1人に軽く頭を下げて謝罪を述べておく。

そうすると、その先生は少しだけ顔を赤くしながら俺に俺を言ってくれた。

まぁこの人達がココに集まってるって事は、多分避難誘導の為に来たんだろう。

でも防護扉が閉まってて難航してたって訳だ……扉んトコにパソコン繋がれてるしな。

っと、そんな事より色々情報を聞いておかねえと。

 

「いえ、自分の出来る事を遣っただけッスから……それより、ハッキングの方はまだ何ともならねぇんスか?」

 

俺の問いを聞いた先生はさっきまでの安心した顔つきを苦いモノへと変えていく。

 

「……残念だけど、相手のハッキング技術の方が2手も3手も上みたいなの……恐らく、解除にはまだ時間が掛かるわ」

 

そして、先生の返してくれた答えは余り歓迎出来ねえモンだった。

さすがにその事実は俺も予想してなかったので、俺も先生に釣られて少しばかり苦い顔をしてしまう。

千冬さんの話じゃ3年生の精鋭って呼ばれてる人達が寄って集って対処してるって話しだったのに、ソレを上回るとかどんな奴だよ?

幸いココのフロアには俺が居たが、他のフロアに居る子達で俺みてえな芸当が出来る子は絶対に居ねえだろう。

さてどうしたモンかと後ろを振り返って見れば、ポカンと呆けてた女の子達の他に、地面に座り込んで呆けてる女の子が居た。

 

「ん?どうしたよ?大丈夫か?」

 

「へ!?あ、あの……ちょっとですね?……足が……」

 

さすがにそのままにしとくワケにもいかねえので、俺はその女の子のトコまで歩いて近寄り、しゃがんでその子に声を掛けた。

だが、俺の言葉を聞いた女の子は少し吃りながら驚いてるだけで、床から立ち上がろうとしない……ありゃ?

 

「もしかして、腰抜けちまった?」

 

「…………(コクン)」

 

俺がその子の態度と返事を聞いて、予想した答えをぶつけてみると、大当たりだったご様子。

聞かれた女の子は恥ずかしそうに頷いて、顔を俯かせちまった。

 

「まぁ、いきなりこんな事になりゃ仕方ねーわな……どれ、よっと(ガバッ)」

 

「え?キャアッ!?……え、えぇええ!?」

 

『『『『『ぇぇえええええええええええええッ!!?』』』』』

 

女の子の恥ずかしそうな返事を聞いた俺は苦笑交じりに女の子を抱き上げる。

千冬さんにしたのと同じ様にお姫様抱っこでその子を持ち上げると、何故か周りの女の子たちがデカイ悲鳴を挙げだしたではないか。

っていうか誰も出ようとしねえけど、今が緊急事態なの判ってんですかチミ達?

とりあえず周りで叫んでる女の子達を無視して、今しがた俺が抱き上げた女の子を安心させる様な笑顔を浮かべる。

 

「歩けねぇんだから仕方無ねぇが、少し我慢してくれ」

 

「~~~~~~~~~ッ!!!?(ボボンッ!!!)」

 

何故か俺がそう言葉を掛けると、女の子は顔をトマト色に染め、声にならない悲鳴を挙げて硬直してしまうではないか。

まぁいきなり見知らぬ男にこんな事されたらビビるか……さっさと先生に引き渡そう。

とりあえず、アワワと驚いてる女の子を今しがたブチ開けた扉まで連れて行き、何やらビックリした顔の先生に手渡す。

 

「ほい。とりあえずこの子頼んます」

 

「そ、それは良いけど……「そんじゃ、俺はこれで(スタスタ)」あっ!?ちょ、ちょっと何処行くの!?」

 

女の子を手渡したので、俺はそのまま踵を返して今しがたブチ開けた観戦区画に戻って行くが、そうするとさっきの先生が俺に声を掛けてくる。

いやいや、何処行くのって……そんなモン一つしかねえでしょうに。

その先生の質問に呆れながらも動かしていた足を止めて、その先生に振り返った。

 

「何処って……こっから先の観戦区画を仕切ってる扉をブチ壊しに行くんスけど?」

 

『『『『『ッ!!?』』』』』

 

俺の「ちょっと散歩してきます」ぐらいの気軽さで放った言葉が信じられないのか、その場に居た先生達と他の女子が目を大きく見開いて驚いてしまう。

ココの観戦区画と隣の観戦区画、つまりこの先の方まで、全てココと同じく一つの通路で繋がっているのだ。

だから、俺が片っ端から扉をブッ壊してしまえば、アリーナに取り残された女の子達を全員助けだす事が出来る。

もしかしたら全部の区画を回り切る前にハッキングが解けるかもしんねえが、何もしねえよりは100倍マシだろう。

 

「ダ、ダメよそんなの!?生徒がそんな危険な真似しちゃ……ッ!?」

 

「でも正直なトコ、先生達じゃココの扉を開けるなんてなぁ無理っしょ?」

 

「そ、それは……」

 

後ろ髪をポリポリと搔きながら語った俺の指摘に、先生達は二の句が告げず押し黙ってしまう。

大体、鉄で作られた扉をブチ抜くなんて荒業を女の人にヤラせるつもりなんざ欠片も無えけどな。

気まずい表情で押し黙る先生達に、俺は苦笑しながら言葉を掛ける。

 

「別に責めちゃいませんぜ?只、こーゆーのは男がヤルべきモンだってだけッスよ。だから先生達は、俺がブッ壊した扉の先に居る女の子達の避難誘導をしてあげて下さい。さすがに俺1人じゃそこまで手が回んねぇんで」

 

「……わかったわ……確かに、私達が鍋島君に着いて行っても、何も出来ないものね……ごめんなさい。教師として、そして大人として不甲斐ないけどお願いするわ……女の子達を助けてあげて」

 

「へへっ。任せて下さいよっと」

 

大人として、そして教師としては男とはいえ一生徒に任せるしか無いってのが辛いんだろう。

先生達は悔しさを滲ませた表情で俺に頭を下げてくれたので、俺は自信満々な表情で笑いながらソレを請け負った。

そのまま扉のある奥の方まで進もうとした時、俺の目の前に本音ちゃんが飛び出して来たではないか。

 

「ゲンチ~……」

 

本音ちゃんの表情は、かなり不安そうに歪んでいて上目遣いに俺を見てくるその目の端には、少しだけ涙が浮かんで見えた。

おうおう、俺なんかの事心配してくれてんのか……ありがとうな。

そう思いつつも口に出さずにいると、本音ちゃんは心配そうな表情で俺の片手を持つと、いきなり胸元まで引き寄せた。

ってぐにゅんって胸が形を変えて!?そ、その中心に俺の手が埋まってるんですけどぉおおおッ!!?

予想だにしなかったラッキースケベに、俺の顔が赤く染まっていくのを気付いて無えのか、本音ちゃんは依然として心配そうな表情を崩していない。

 

 

 

「無茶……しないでよ~?……ちゃんと帰って来なきゃ、泣いちゃうからね~?(ウルウル)」

 

 

 

本音ちゃんはそう呟くと、今にも溢れそうな涙目のまま、避難誘導を開始した先生達の声に従って、皆と一緒に扉へと向かっていく。

俺は本音ちゃんが居なくなっても、只その場でボーッと木偶の坊の如く突っ立っていた。

理由は単純明快……今の本音ちゃんの仕草がハートにドッキューンと来てしまったからなのだ。

本音ちゃんの俺を心配する言葉と気遣いが、俺の心という名のV8エンジンにニトロを注ぎ込み、爆発的なパワーを呼び起こす。

 

「…………フッ……行くぞ、防御設備共。扉の貯蔵は充分か?」

 

本音ちゃんの可愛すぎる応援を受けた俺に、もはや怖いモノ等これっぽっちも無え。

今から俺の目の前に立ち塞がるモノは即時粉砕、もう誰にもこの暴走特急は止めらんねえぞ?

 

 

 

 

 

「スゥ……道を開けろぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

 

 

後、扉まで50メートルといった場所から、俺は足に力を込めて全速力で駆け出し、立ち塞がる防護扉に渾身のパンチを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

場所は再び戻って、此方はアリーナ上空。

元次が扉を破壊してから大体10分ほど経っているが、コチラの状況はあまり芳しく無かった。

 

 

 

 

 

「くぉのヤロォおおおおおおおおおおおッ!!!(ブォオンッ!!!)」

 

裂帛とも言える雄叫びを挙げながら、一夏は自身の唯一にして最強の武器、雪片を敵ISに向けて横一文字に振り払う。

 

『……』

 

それを見た敵ISは、全身の至る所に装備されたスラスターを吹かし、上半身を真後ろに倒した体勢のまま猛スピードで離脱する。

まるで人体の構造を無視したその変態的とも言える軌道で下がられて、雪片は虚しくも空振ってしまった。

間一髪と言うよりも、余裕を持った行動で回避した敵ISは、その体勢から上体を起こして、巨腕に装備されたビーム砲をチャージする。

 

「ゲッ!?やば!?」

 

先程雪片を振った体勢から身を起こした一夏は、その巨大なレーザーが自分をロックしている事に焦りから叫ぶ。

何せレーザーの威力は最初に実演で見せて貰った上に、その威力は計り知れない程に強力と来てる。

これで焦らない人間が居るとすれば、それは自分の姉ぐらいだろうと一夏は心中で考えていた。

そして、敵のチャージが終わったのか、次第にその砲口から滲み出るレーザー粒子の大きさが大きくなった時――――。

 

「コッチも忘れてんじゃないでしょうねッ!!!(ドンドンドンッ!!!)」

 

上空の黒い雲の中から、鈴が龍砲を散発的に敵ISへ向けて放った。

鈴の甲龍に搭載されている第3世代兵器である龍砲は、砲身砲弾を空間に圧縮して生成する為に、射撃中の移動は不向きという弱点が存在する。

これはつまり、移動中に空間を圧縮した場合は空間の圧縮した比率が変わってしまうので砲身と砲弾の生成にタイムラグが生まれるのだ。

故に、移動中の龍砲の威力及び展開速度はあまり早く無いので、その辺りの使い難さが1つのネックとなっている。

完全に停止した位置のみの射撃という点では優秀なのだが、それでは余り砲台と変わらなくなってしまう。

しかしソレを補って存在するメリットこそ、砲弾が見えない故の回避のし辛さにある。

 

『……』

 

だが、敵ISは鈴の姿を見た所で、別に驚く素振りも見せずに、またもや在り得ない方向に身体を捻って冷静に射線から外れていく。

敵ISがその場から避けた次の瞬間、アリーナの地面に衝撃が走って土埃が巻き上がる。

 

「あぁんもうッ!!どんな身体の構造してんのよあ(ビュオォオオンッ!!!)わひゃあッ!?」

 

「鈴!!1度離れるぞ!!」

 

「わ、判ってるわよ!!一夏も1度上に来なさい!!あたしが援護したげるから!!」

 

「悪い頼む!!」

 

自分の攻撃が外れてしまった事に唇を噛む鈴だが、直ぐに先程チャージされていたビームが襲い、一夏と共に1度敵ISから離脱した。

その際に少し離れた場所に居た一夏と連携を取るべく、鈴は衝撃砲を牽制に使って一夏を狙おうとした小型のレーザーを撃たせない様に狙いをズラしていく。

狙い通りに敵ISは肩に装備された小型レーザーによる射撃を中断して回避にまわり、その隙に一夏と鈴は空中で合流を果たす。

 

「くっそ!!これで5度目の失敗かよ!!」

 

「ちゃんとやんなさいよ……って言いたいトコだけど、アイツの回避能力は異常過ぎるわね……一夏、アンタまだエネルギー大丈夫なの?」

 

悔しそうに吼える一夏に対して、鈴は諌める様な口調で一夏のシールドエネルギーの残量を問う。

鈴のIS甲龍は中国の第3世代機にして近~中距離での戦闘をコンセプトにしたパワータイプだが、それと同時に燃費も考慮した機能を両立している。

故に、一夏と戦ってからそのまま突入したこの戦いだが、それでもシールドエネルギーはまだ40%程残っている。

些か決めてに欠ける面があるも、長期戦では中々に頼もしい機体でもある。

だが一方で、一夏の操る近接戦闘特化型のISである白式はドラッグマシンも真っ青な燃費最悪のマシンなのだ。

鈴が代表候補生になるために勉強していた経験から予想したのは、あれだけの機動力で動ける白式はもうエネルギーが無いんじゃないかという事だ。

そして、鈴の予想は見事に的中してしまう。

 

「……正直、もう10分の1あるか無いか位だ。鈴は?」

 

鈴の質問に一夏は苦い顔で答えるが、同じ問いを返された鈴も顔色は良くない。

 

「アタシも全体の5分の1ってトコ……向こうのISがどれぐらいシールドエネルギーがあるか分かんないけど、全然決め手が当てれてない……ちょっとマズイわよ」

 

自分たちの現状を確認しながら地面に仁王立ちしている敵ISを注意深く睨むが、敵は只ジッと此方を見ているだけだ。

先程から鈴が龍砲で援護しつつ、一夏が零落白夜を使って斬りかかるアタックを繰り返したが、龍砲で足止め出来てもその先のコンボがまるで繋がらなかった。

これだけ聞けば一夏の実力不足と思えるが、実はそうでも無かった。いや寧ろかなり善戦しているのだ。

世界最強にして、同じ武器の間合いと特性を骨の髄まで理解している千冬のスパルタ特訓。

一夏と同じ流派の篠ノ之流剣術を納め、同年代では抜きん出た剣の腕前を持つ箒とのマンツーマンでの特訓。

狙撃手としては1年生トップの実力を持ち、専用機を与えられている自分達の中では1番ISに詳しいセシリアの軌道技術の教授。

極めつけの、元次が行うIS無しでの生と死の狭間を彷徨う様な過激な特訓と、オプティマスを使った限りなく実戦に近い模擬戦。

これをこなしてきた一夏はメキメキと実力を伸ばし、近接戦闘では早くも箒に追い付こうという位置に居る。

だが、そんな一夏の腕を持ってしても、地面に立つ敵ISは、変則的且つ強引な回避方法で雪片の攻撃だけは悉く躱してしまうのだ。

その人間業では無い回避方法を思い出して雪片を強く握る一夏だが、ここで一夏の心に一つの疑問が出て来た。

 

「……なぁ、鈴?……思ったんだけどよ。アイツの動きって、何か機械染みて無いか?」

 

「……謎かけなら暇がある別の時にして欲しいんだけど?何が言いたいワケ?」

 

一夏の唐突な疑問を聞いた鈴は、敵を睨む目そのままに一夏に疑問を返す。

 

「だからよ……あのIS、本当に人が乗ってんのかよ?さっきから俺達が会話してる時は攻撃の手が薄くて、興味を持ってるみたいに聞いてる風に感じるんだ」

 

一夏は半ば確信した様に鈴に自分の立てた仮説を話し、鈴の反応を待つ。

敵と戦っている時に一夏が感じた事、それはあの所属不明機が無人なのでは無いかという事だった。

一見無差別に攻撃してくる様に見えて、自分達が会話している時には殆ど傍観していた。

それが一夏には、まるで受け身、つまり何らかの反応があった時に稼働する機械の様に見えると言う。

馬鹿馬鹿しい、有り得ないと思いつつも、鈴は一夏の仮説を聞いてから今までの所属不明機の動きを思い出す。

 

「……確かに、アタシ達を観察してる風にも見えるし、アイツの回避の仕方は人間業じゃ無かった……それに、普通なら関節があって動けない場所でもまるで関係無しに動かして回避してたわね」

 

「だろ?……普通の人間なら、あんな動きをしながら回避するなんて絶対に無理だ……でも、あれが無人機なら……」

 

「関節の可動域に関係なく変態チックな動きが出来る、か……ううん、でも無人機なんて有り得ないわよ?何処の国もそんなモノは作れて無い……ISは、人が乗らなきゃ動かないの」

 

一夏の推理、そして自分が見てきた相手の行動を当て嵌めても、鈴は一夏の予想を否定する。

確かにISの無人機化はどの国でも一度は試みた経歴がある。

だがそれはどの国も失敗に終わり、ISの無人機化というプランを現実にした国は何処にも存在していない。

一夏が敵は無人機ではないかという発想が出来たのは、鈴やセシリアの様な代表候補生や一般生徒の様にISの事を深く理解していないからだ。

ISの常識という固定概念に縛られ無い程の知識しか持たないが故の発想だが、ある意味で柔軟さを持った思考でもある。

故に、一夏は鈴の否定する言葉を鵜呑みにせず、もしもという過程で話を進める事にした。

 

「仮に、仮にアレが無人機なら……俺も全力で零落白夜を振るえる」

 

「零落白夜って……そのレーザーの刀身の事?」

 

真剣な表情で自分の予想を組み込んだ話をする一夏に、鈴は雪片から現れている零落白夜を見ながら話し掛ける。

敵ISが現れてからというもの、一夏は零落白夜を展開したまま戦っていた。

それは零落白夜の展開速度があまり早くない事も含め、敵の回避が速すぎるという事が理由になっている。

その所為でかなりのエネルギーを消耗してしまっているが、一夏の頭の中ではもう一つの秘策が眠っていたのでエネルギーの事はあまり心配していない。

後は自分の頭の中に浮かび上がるその作戦に必要なファクターである鈴の許可が取れれば良いのだ。

 

「あぁ、雪片弐型の全力攻撃だよ……さすがに人相手に全力じゃ振れねえけど、相手が無人機なら問題無い……協力してくれ、鈴」

 

「……偉く自信満々じゃない……オーケー、他に有効な作戦も無いし、アンタの賭けに乗ったげるわよ。どうしたら良いの?」

 

「サンキュー。まず鈴は俺が合図したら、アイツに向かって衝撃砲を撃ってくれ、最大威力でな」

 

一夏の真剣な表情に、単に憶測や妄想でモノを言ってる様に見えなかった鈴は、敢えて一夏の策に乗る事にした。

しかし、その後に続く作戦内容に、鈴は少しばかり顔を歪めてしまう。

 

「良いけど、フルパワーで撃つなら静止しとかないと駄目だし、アレが相手じゃ当たんないわよ?」

 

「それで良いんだよ……それじゃ早速――――ッ!!?」

 

『…………(ズドドドドドドッ!!!)』

 

そして、一夏と鈴が新しいプランに添って行動しようとした矢先、今まで沈黙を守っていた敵ISが行動を開始した。

なんと敵ISは、両腕を左右に広げた状態で左右のスラスターを逆向きに点火し、駒の様に回転を始めたのだ。

しかも、両肩に装備された小型レーザー砲をこれでもかと連射しながら、腕の巨大レーザーを撃つという狂気の行動を。

コレに気付いた一夏と鈴は、2人揃って急降下や上昇を繰り返してレーザーの雨をくぐり抜けていく。

 

「落とされるなよ鈴ッ!!」

 

「判ってるわよ!!コッチは良いから、アンタはちゃんと合図しなさ――――」

 

 

 

ドォオオオオオオオンッ!!!

 

 

 

「「ッ!!!??」」

 

しかし、2人が回避をしながら隙を伺っていた時、正に最悪の事態が引き起こってしまう。

2人は最初からこの敵ISを倒すつもりでいたが、それ以外にも自分達に目を向けさせて観客席に被害が行かない様に誘導する事も考えていた。

そうでないと、観客席に居る一般生徒達は最悪の場合死に至る。

だからこそ、2人はなるべく上空に誘い出す形で回避しながら、敵の目を自分達に向けやすい様に戦っていたのだ。

 

 

 

 

 

――――だが、この目論見は、敵ISの行った回転射撃の所為で水泡と化してしまう。

 

 

 

 

 

余りにも無慈悲な偶然だが、その偶然たる一撃の巨大なレーザーが、観客席を覆っていた鋼鉄のシャッターの上を掠めてしまったのだ。

そして、敵ISは気まぐれな神の悪戯なのかその穴の開いたシャッターの近くで回転を止めてしまい、シャッターの中に視線を向けてしまう。

 

 

 

「ウソ、だろ!?」

 

 

 

――――そして、敵ISは観客席の中でレーザーの衝撃で倒れ伏す1人の無力な少女を視界に収めた。

 

 

 

「逃げて!?早く逃げて!!――――――――さゆかぁあああああああああああああッ!!!?」

 

 

 

――――鈴の友達にして一夏のクラスメイトである――――夜竹さゆかをターゲットに選んだのだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『『『『『きゃぁあああああああああああッ!!!?』』』』』

 

轟音、そして振動と破壊、悲鳴……地面に倒れ伏す夜竹が理解出来たのはそれだけだった。

敵ISが偶然にも放ったレーザーによる破壊の衝撃は、不幸にもその真下に居た夜竹に襲いかかったのだ。

 

「…………うっ……あぁ……嫌ぁ……」

 

『…………』

 

「嫌っ……来ないでぇっ…………ヤダぁ」

 

その衝撃で床に身を投げ出している夜竹がボンヤリと目を開けた先には、無機質なセンサーアイで自分を見下ろす敵ISが居た。

突如自分を襲った衝撃に混乱していた夜竹には、その赤い5つのセンサーアイが、自分を殺そうとする殺意の表れに見えてしまう。

恐怖に支配されかけている夜竹はそのセンサーアイと敵ISの全貌が見えた瞬間、恐ろしさから涙をボロボロと流して震える事しか出来ない。

何とかその恐ろしい化け物から逃げようと考えても、衝撃で投げ出され地面に叩き付けられた身体は、全く言う事を聞いてくれなかった。

何故夜竹だけがこの観戦区画で、シールドの近くに居たかと言えば、彼女の内気な性格が災いしたとしか言い様が無い。

この非常事態が起こって、観戦席に座っていた他の女子生徒がこぞって扉に集中する中、彼女は生来の遠慮がちな性格の所為で身体が固まり扉の方に行けなかったのだ。

だからこそ、皆が居なくなるまで座っていた席に座っていようと、この日の為に並んで確保した『最前列』の席に座っていた事が仇となってしまった。

端的に言えば不幸が重なってしまったとしか言えないが、その不幸の積み重ねで命が危険に晒される等、もはや理不尽以外の何者でも無い。

 

『…………(グイィイイッ)』

 

そして、夜竹を視界に収めた敵ISは、無情にもその巨大な腕を持ち上げて拳を握り、その矛先を目の前の獲物に向けてしまう。

敵ISの裏では一夏と鈴が必死に此方へと向かっているが、如何せん距離が空き過ぎて間に合わない。

それに、一夏が考えだした作戦も、敵ISの傍にISを纏わない一般人が居ては使う事は出来ない作戦だったのだ。

完全に一夏達の読みは外れ、今正に考えたくなかった悪夢が目の前で起きようとしている。

恐怖に陥った夜竹も敵ISが拳を振り上げた時点で、その矛先が自分に向いてる事を理解したのか、イヤイヤと首を振って涙を零す。

 

「ヤダッ……止めてよ……だ、誰か……」

 

夜竹は動かない身体を必死に動かそうとするが、身体は彼女の思いに答えず、只目の前で自分を殺そうとする巨大な拳が持ち上がるのを見ているしか無かった。

更に最悪な事に、この観戦フロアに居たのは全員が一般人であり、専用機持ちが居ない。

つまり、今この場で夜竹を助けられる人物は誰も居なかったのだ。

この場に居る一般生徒の殆どは、既に壁際に移動しており、誰もが目の前のISに対して恐怖しながら震えている。

助けを求めて上の段に居る生徒達に目を移した夜竹は、その救いの無さ過ぎる現実を理解してしまう。

一緒に居た自分の親友である谷本癒子や、IS学園で友達になった相川は、此方に手を伸ばした体勢でボロボロと泣いている事が無性に嬉しく感じていた。

 

「(あぁ……私、死んじゃうんだ……)」

 

そして、遂に目の前のISが拳を大きく振りかぶってから自分に拳を叩き付けようとするのを目の当たりにして、夜竹はもう無理だと思った。

だが例え死ぬにしても、彼女はまだまだ沢山遣りたい事があったなぁ、と泣きながら考えてしまう。

友達とショッピングに行ったり、夜皆で恋話に華を咲かせたり、文化祭も参加したかった等、夜竹は遣り残した事を次々と考えながら――――意中の男の事を胸に抱く。

 

 

 

 

 

ずっと伝えられず燻る思い……この死に瀕した土壇場でも口に出来ない自分に苦笑いしながら、夜竹は一つだけ、彼と遣りたかった事を口にする。

 

 

 

 

 

「――――元次君に、私のお弁当……食べて貰いたかったなぁ」

 

 

 

 

 

もはや眼前に迫った巨大な拳を見ながら、夜竹さやかは自分のしたかった事を呟き――――。

 

 

 

 

 

「――――ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!(ズゴォオオオオオオンッ!!!)」

 

『ッ!!!?』

 

目の前に迫っていた敵ISが、同じく巨大な足で『蹴り飛ばされていく』姿を目撃した。

 

「――――え?」

 

ガシャァアンッ!!!と盛大な音を立てて観戦区画の座席を破壊しながら倒れ伏す敵ISを尻目に、夜竹の目の前に敵ISを蹴り飛ばした自分の想い人が立ちはだかる。

本来存在する筈のアンロックユニットが存在しない、銀の翼を持つデザイン。そして従来のISを遥かに凌ぐ巨大で雄弁な立ち姿。

あの敵ISの様な異形の姿では無く勇猛にして果敢な勇姿……夜竹にとっては、まるでおとぎ話しに存在する『ヒーロー』の様な存在感が滲み出ている専用機持ち。

 

 

 

 

 

――――そんな男、この学園には1人しか存在しない。

 

 

 

 

 

「……随分とおちゃらけた真似してくれんじゃねえかよ、あぁ゛?」

 

「あっ…………あぁっ……!?」

 

倒れ伏す敵ISを見ながら、まるで野獣の唸り声の様な重い声音で話す大型IS――――『オプティマス・プライム』の操縦者。

彼の心情は怒り一色で染め上げられ、それは怒らせてはいけない野獣を彷彿とさせる。

だと言うのに、夜竹には『彼』が自分を全ての害悪から守り通してくれる……『王子様』の様に写ってしまう。

夜竹の心の中を満たすのは、自分のピンチへ駆けつけてくれた事への感謝、歓喜、充実感そして――――甘くて溶けてしまいそうな思慕の感情。

心の中に侵食する甘さは、やがて胸をこれでもかと締め付ける強き鎖となって、夜竹の心を束縛していく。

既に視界の先ではさっきの敵ISが起き上がろうとしていたが、今の夜竹にはそんな事はそうでも良かった。

まるで毒の様な想いに反抗する事無く全てを受け入れたいと考えながら、夜竹は自分の持つありったけの感情を乗せて、彼の者の名を紡ぐ。

 

 

 

――何時も自分を助けてくれる、自分の心を占領する想い人の名を――――。

 

 

 

「――――――――元次君ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

目の前で起き上がろうとしている敵が居るからか、元次は彼女の呼ぶ声に返事を返す事は無かったが、代わりにチラリと顔だけ振り返って夜竹に微笑みかける。

もうそれだけで夜竹の心は幸福感に満たされてしまうが、元次は直ぐに視線を前に戻し、敵ISに対して口を開く――――そう。

 

 

 

 

 

「人の大事なモンに手ぇ出しやがって……誰の前でチョーシに乗ったか教育してやらぁあああああッ!!!」

 

 

 

 

 

自分の領域(テリトリー)で暴れ過ぎた哀れな鉄屑に、明確な敵意と怒りを剥きだして――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

危なかった……本気で間一髪だったぜ……覚悟しろよこの腐れブリキ野郎ッ!!!

後ろで怯えながら涙を流す夜竹をハイパーセンサーで一瞥して怪我が無い事を確認して、俺は安堵の息を心中で吐いた。

さっきまで扉をパンチで抉じ開けながらここまできたが、突然襲ったドデカイ衝撃。

そしてオプティマスの『敵IS,3メートルに確認』の文字を見て、俺はオプティマスを全身展開して扉を瞬時にブチ壊したんだ。

すると俺の目に飛び込んだのは、地面に倒れる夜竹に拳を叩き付けようとしてたブリキ野郎の姿だから、もうブチッとキレちまったよ。

とりあえず飛び蹴りを浴びせて夜竹と距離は離させたが、コイツにゃとっととこの場からご退場願うぜっ!!

俺は怒りのままに叫び声を挙げて、愚かにも夜竹を殺そうとしたクソISの懐に飛び込んだ。

 

『ッ!!!(ブォオオオンッ!!!)』

 

「クソ遅えんだよ、ノロマがッ!!」

 

と、俺が飛び込む様子を確認したISは、オプティマスよりデカイ腕を横薙ぎに払って俺の顔面を狙ってきやがった。

だがそれを直ぐ様身を屈めて躱し、その屈んだ体勢のままに俺はアッパーを繰り出してクソISの腹目掛け……。

 

「ダァッ!!!(ドグシャァアアッ!!!)」

 

思いっ切りブチ当て、腹の装甲部分の一部を砕き飛ばす。

そのパンチがモロに入ったクソISは体勢を崩し、腹をくの字に曲げて顔面から倒れこんでいく。

だが、俺はソレを許さない。

 

「ダァーーーー―ッ!!!(ボガァアアアッ!!!)」

 

『ッ!!?』

 

敵ISの体勢の崩れた顔部分をターゲットに、俺はジャンプしながらの垂直膝蹴りを叩き込んで再び顔を仰け反らせる。

ここから更に畳み掛けて、俺は敵ISとの距離を詰めながら両方の拳を交互に振るう。

 

「ダッ!!(バンッ!!)ダッ!!(ゴンッ!!)ダッ!!(バキッ!!)ダッ!!(ズゴッ!!)ダッ!!(ドガッ)ダァアアッ!!!(ドグシャッ!!!)」

 

『ッ!!?ッ!!?ッ!!?ッ!!?』

 

腹、鳩尾、胸、顔、顎、と言った比較的当てやすくて拳の戻しが速い箇所に、ありったけのパンチを見舞いながら、俺は少しづつクソISを観戦席からアリーナまで追い出していく。

俺の拳が1発1発叩き込まれる度にクソISの装甲はひしゃげ、砕け、罅が入って観戦席の床に残骸がポロポロと落ちていた。

そのまま殴り続ける事で、遂に壊されたシールドの穴の前に着くと、俺は右手を思いっ切り後ろに引き絞って溜めを造り前のめりに倒れかけてるクソISの顔面に向けて解き放つ。

喰らいやがれボケッ!!!コレは本音ちゃんを泣かせた分の……。

 

『STRONG!!HAMMER!!!(ドゴォオオオッ!!!)』

 

テメエの重い罰だぁああああああああああああッ!!!!!

俺の拳がクソISの顔面に深々とめり込むと、アッパースイングで振るった『STRONGHAMMER』の衝撃で顔面のセンサーアイの一つが飛び出てきた。

しかしそれは取れる事は無く、中から飛び出たコードで何とか繋がってる状態になる。

ブランブランと揺れるそのセンサーアイ以外は全てグチャグチャに潰れて、もはやセンサーとしての機能は果たしちゃいねえだろう。

俺は奴の顔面にパンチが突き刺さった時点から更に踏み込んで拳を振りぬき、奴を観戦フロアからアリーナの空中に放り出す。

良し、これでフロアの中の子達の安全は確保出来た――――。

 

『ッ!!!(ズドドドドドドッ!!!)』

 

「ッ!?ンなロォッ!!!」

 

しかし、奴は苦し紛れの抵抗のつもりか、俺の居るフロアに向かって肩の小型レーザーをバラ撒いてきやがった。

俺はオプティマスを装備してっからコレぐらいなら何とも無えが、俺の後ろに居る夜竹は只じゃ済まねえ。

幸いにも他の子達の居る場所はまだアリーナのシールドに覆われてるし、あの小型レーザーならアリーナのシールドで事足りる筈。

 

 

 

――なら、後は俺の後ろに居る夜竹を守ってやらねえとなッ!!!

 

 

 

俺は夜竹を背中に隠す様に立ってから迫り来るレーザーの雨に対して手を掲げ、オプティマスに量子変換されている武装の一つを呼び出す。

すると、俺の選択した武器が粒子を漂わせながら形になり、一つの巨大な『盾』を形成した。

一見すれば棺桶の様な形のこの盾こそ、オプティマス・プライムの唯一の防御装備『ストライカーシールド』だ。

しかもこの盾、高速で回転して使う事も出来るから、防御範囲もかなり広い。

俺は空に掲げた『ストライカーシールド』の持ち手からスイッチを作動させ、盾を円盤状に高速回転させる。

このぐらいの弾幕なら、俺にとっちゃ屁でも無えってのッ!!!

 

「ウォオオオオオオッ!!!(ブォオオオオオオオンッ!!!)」

 

地面に倒れて動けない夜竹の前に立ち、『ストライカーシールド』で俺と夜竹に降り注ぐ弾幕を外へ弾き返す。

けっ!!この程度の弾じゃ俺に傷なんざ付けらんねーんだよボケッ!!!

今の所後ろには1発も飛ばしていないが、念の為後ろに居る夜竹をハイパーセンサーで確認すると、夜竹は俺に心配そうな視線を送っていた。

本音ちゃんに続いて夜竹まで俺なんかの事を心配してくれてる事実に、俺はこんな状況ながら嬉しさで笑みを浮かべてしまう。

まぁ安心させる為にも、声の一つでも掛けておきますか。

 

「おい夜竹!!そんな心配そうな顔しなくて良いぜ!?コレぐれえの弾なんざ俺にゃ問題にならねえよ!!」

 

「で、でも元次君!?わ、私を庇ってる所為で動けないんだよ!?……わ、私の所為で……ごめんなさい……」

 

降り注ぐ弾幕を回転する『ストライカーシールド』で弾きつつ、俺はオプティマスの足元で倒れてる夜竹にそう言い放つ。

だが、夜竹は俺の言葉にそう返すと悲しそうな、それでいて申し訳無さそうな顔で俺を見てくるではないか。

 

「んなモン気にすんじゃねえって!!お前は俺が守ってやる!!何があろうと、オメエに傷一つ付けさせたりしねぇ!!」

 

「……え?そ、それって…………~~~~~~ッ!!!???」

 

俺がクソISの弾幕を弾きながら宣言すると、夜竹は声にならない悲鳴を挙げて固まってしまった。

な、何だ?どうしたんだ夜竹の奴…………あれ?ちょっと待てよ俺?冷静に考えたら今の台詞って結構ヤバイんじゃ――。

 

『警告。敵ISより高レベルのレーザー充填を確認。至急対策を』

 

と、後ろの夜竹に気を取られそうになった俺に、オプティマスが警告を促してくる。

その警告に従って空を見上げれば、空中に浮かび上がった敵ISが、丸太みてーにデカイ腕に装備されてるレーザーを俺に向けて充填してるトコだった。

さすがにあのサイズになると『ストライカーシールド』で防げても、後ろのフロアに避難してる子達が巻き添え食っちまう。

一応俺が開けた穴はあるけど、皆怖くて動けないのか、最初に居た場所から動いて無かった。

 

 

 

 

 

誰が見ても絶体絶命、あぁコリャもう駄目だ――――な~んて言うとでも思ったか?

 

 

 

 

 

空中で俺に狙いを定めてるクソISに対して、俺はニヤついた笑みを崩す事は無い、何故なら――――。

 

 

 

 

 

「ちゃんと狙い易い位置まで飛ばしてやったんだ――――外すんじゃねぇぞ?」

 

今アリーナの空には――――。

 

「あぁ!!任せときな兄弟ッ!!!!!(ズバァアアアアアッ!!!)」

 

『ッ!!!?』

 

俺の頼もしい『兄弟』が居るんだからな?

敵ISの砲身がコッチに向いてるその後ろで、一夏は鈴の衝撃砲を浴びながら瞬時加速を使い、一気に敵ISに肉薄する。

しかも何故か零落白夜のレーザー刀身が、フルパワーで使う時と同じくらいまであるのは驚いたぜ。

アイツどっからエネルギー持って来たんだ?ちょいと後で聞いてみっか。

 

「ぜぇああああああッ!!!!!(バシュゥウウウッ!!!)」

 

そんな事を考えてる間に、一夏は振りかぶった雪片を垂直に一閃して、クソISのチャージしてた砲身を腕ごと斬り落とした。

加速の勢いを殺さないで一気にそのまま離脱しようとするが敵ISはソレを見逃さず、すれ違う一夏を逆の手で殴り飛ばそうと腕を振るう。

しかし自分に向かってくるデカイ腕を見ても、一夏は余裕の表情を崩さない。

かく言う俺もそうだが、その理由は勿論――――。

 

「コイツもついでに喰らっときなさいよッ!!!人の友達に上等決めたお返しだぁああああッ!!!(ズドォオオオオンッ!!!)」

 

まだ鈴が居るからに決まってんだろ。

一夏をはたき落とそうとしたクソISに向かって、鈴は甲龍の衝撃砲を中距離まで間合いを詰めて浴びせた。

しかも衝撃砲を撃つ鈴の顔は般若も裸足で逃げちまいそうなぐらいに怒りで歪んでる……アイツも夜竹を狙った事にキレてんだな。

 

『ッ!?……ッ!?(バチバチバチッ!!!)』

 

そして、俺の『STRONGHAMMER』、一夏の『零落白夜』、鈴の『衝撃砲』を立て続けに喰らった敵ISのスラスターから黒煙が吹き上がる。

しかもバチバチと耳障りな電子音を鳴らしつつ、身体の至る所からスパークを散らして地面に墜落したではないか。

うわぁ……遣った俺が言うのも何だが、アレのパイロット大丈夫なのか?……っていうか、一夏の斬った腕の部分から出てるのがオイルなのは何でだ?

俺が相手のパイロットの安否を気にした時に、オープンチャネルから一夏の威勢の良い声が響いてきた。

 

「ゲン!!アレは無人機だ!!人が乗ってねえから思いっ切りやっても大丈夫だぜ!!」

 

良し、鉄屑だってーんなら、遠慮無しにスクラップにさせてもらおう☆

かなり良い事を一夏から聞いた俺は、まるで鬼の首でも取った気分を味わいつつ、スラスターを吹かして地面に墜落したクソISの元まで加速する。

そして、地面スレスレを飛行しながら『ストライカーシールド』を格納し、手の甲の上からエナジーソードを展開して、無人機とやらに突貫した。

 

『……ッ!!(ブォオオンッ!!)』

 

そして、もはやケーブルでブランブランと揺れながら繋がってるだけのセンサーアイで俺を発見した奴は、俺に向けて残った片腕でパンチを放ってくる。

……しかし、それはもはやガタガタでスロー過ぎる上に、腕がデカイから見切りも付け易い。

俺はオプティマスのウイングを畳みながら回転し、奴の拳を避けつつ、その伸びきった腕にエナジーソードを展開していない方の腕でしがみついた。

そうして腕の身動きが取れなくなった無人機の肩に、俺は展開していたエナジーソードを力の限り振り下ろす。

この夜竹にオイタしようとした悪い腕は、俺の権限で没収だ!!

 

「ぬぉらぁッ!!(ギィイイインッ!!!)」

 

オプティマスのエネルギーを微量に消費して熱せられたエナジーソードの切れ味は鋭く、叩き落とした力も合わさって、まるでバターの様にアッサリと無人機の腕を叩き斬った。

さぁ!!次はテメエ自身に罰を与える番だぜぇええッ!!?

俺は直ぐ様切り落とした腕から手を離して、無人機の顔を鷲掴み、腕で抱え込む様にして固定。

そのまま体勢を無理矢理力技で抑え付け、もう片手のエナジーソードを――――。

 

「これでもシャブってやがれぇええええッ!!!!!(ズボォオオオオッ!!!)」

 

『ッ!!!!???(バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!)』

 

無人機の口の部分に、思いっ切り突き立ててやった。

俺の突き出したエナジーソードは何の抵抗も無く無人機の口があるであろう場所を貫き、反対側にその姿を表わす。

勿論無人機の反応もかなりのモノで、物凄いスパーク音と火花を散らしながら、まるで痙攣しているかの様な動きでビクンビクンッ!!と跳ねまわる。

暫くその体勢を維持して、もうそろそろ良いかなと満足した俺は、勢い良く無人機の口に突っ込んでいたエナジーソードを引っこ抜き――――。

 

「――――フンッ!!!(ボギィイイイイッ!!!!!)」

 

まだ微妙に繋がっていた無人機の首部分を力任せに毟り取ってやった。

それが最後の止めになったのか、無人機は俺の加えた力に反抗せずに、地面へその身体を横たえて動かなくなった。

チラッとブッ千切ってから地面に投げ捨ててやった顔の方に目を向ければ、最後の残ってたセンサーアイも赤い光を除々に失って、遂には真っ黒な色に変わる。

それを見届けてからエナジーソードを手首の中に収納して待つと、オプティマスのセンサーがメッセージを表示した。

 

『敵ISの完全停止を確認。排除完了』

 

そのメッセージを見て、俺はニヤリとした笑みを浮かべたままに――――。

 

 

 

 

 

「――――理解したかブリキ君?決して――――チョーシに乗るな……だぜ?」

 

 

 

 

 

今やバラバラになった謎のISへの教育を、終わらせてやった。

 

 

 

 

後書き

 

多分分かり辛いって人が居ると思うので補足をば。

 

『ストライカーシールド』

 

これは実写版トランスフォーマーの玩具、『ストライカーオプティマス』に付属してるシールドです。

また回転するという設定は、サイバトロンの英雄ダイノボットの武器の『サイバーシールド』の設定を組み込んだモノです。

 

『エナジーソード』

 

これは実写版トランスフォーマーでオプティマスが使ってたソードです。

ワンサマーに出てくるエナジーソードも、手首の部分から展開します。

勿論外して普通の剣としても取り扱い可能。

 

後、元次が使うオプティマスのウイングやロケットは、実写版トランスフォーマーダークサイドムーンでオプティマスが使用してたジェットパックの事です。

 

 

以上、解説でしたwww

 

 


 
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