No.599542

IS~ワンサマーの親友~ep22

piguzam]さん

クラス対抗戦、そして波乱

2013-07-20 12:00:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:8902   閲覧ユーザー数:7578

前書き

 

「やあ皆!!司令官のコンボイだ!!」

 

PIGU「帰れ!!」

 

「オイラはラットル君でーす!!しりとりしよう、リンゴ」

 

PIGU「ご招待した覚えはねえ!!」

 

「チータスじゃーん!!俺とスピード勝負なんてどうじゃん?」

 

PIGU「だから帰れっつってんだろ!?」

 

「ライノックスだな。僕のお尻セクシー?」

 

PIGU「知らねえよボケ!?さっさと帰ってだなだな言ってろ!!」

 

「ダー!!ダイノボットだー!!つべこべ言わず俺と戦え!!」

 

PIGU「てめえホント何しに来たんだよダーダー野郎!?」

 

「「「「「我ら!!正義のサイバトロン!!お呼びにより参上!!」」」」」

 

PIGU「誰も呼んでねぇーーーーーー!?」

 

 

 

 

「悪い子の皆、元気にしてるかなー?俺様は!!破壊大帝メガトロン様だ!!よろしくな?諸君」

 

PIGU「テメエは帰ってチョロQでもしとけや!!!」

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

PIGU「えーすいません、大変なお目汚しをしてしまいました。特に意味は無いので気にしないで下さい」

 

 

 

 

 

 

『さぁ~!!やって参りました、IS学園恒例クラス対抗戦1年生の部!!今対抗戦で最も注目すべき試合は、ココ!!第3アリーナにて行われます!!実況は私新聞部部長の黛薫子が担当させて頂きます!!皆さんよろしくお願いしま~す!!』

 

『『『『『ワァァアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

アリーナの観客席に向かう道中、廊下に取り付けられたスピーカーから黛先輩の元気な声が響き、それに続いてアリーナから歓声が湧き上がる。

っとと、ヤベエな。急いで行かねえと席が埋まっちまうじゃねえか。

スピーカーを通して聞こえた歓声の数が予想より大きかったので、俺は廊下を少し急ぎ足で走って第3アリーナへと急いだ。

 

 

 

 

 

はい、今日は記念すべきクラス対抗戦の一戦目、つまりクラス対抗戦の初日だ。

 

 

 

 

 

……うん、判ってる。判ってるぜ?何で行き成りこんなビックイベント間近に、俺が廊下を走ってるかと言えば、それはトイレに行ってて遅れたってだけの話だ。

それとついでに言えば、もうこの対抗戦が一夏と鈴の長い冷戦状態を解消する唯一の方法だったりするんだよコレが。

 

 

 

 

 

俺が一夏にタイキックを食らわせたあの日、授業が終わった瞬間、俺は一夏に詰め寄って前の晩に何があったのかを問い質したんだ。

そんで詳しい話を聞いてたが、聞けば聞くほどアホらしすぎて頭が痛くなったっての。

事件のあったあの日、等々我慢の限界に達した鈴は、一夏達が訓練の終わる時間帯に更衣室へ赴き、一夏に反省したかどうかを聞いたらしい。

しかしソコはさすが安定の一夏君、何と反省したかと聞いてきた鈴に『へ?何をだ?』と聞き返しやがったそうな。

やっぱ俺の予想は的中してたのか、一夏の野郎、訓練に集中し過ぎて謝るとか思いだすって前提すら忘れてしまった様だ。

あんのエアヘッド野郎めぇ……頼むからその頭の隅っこにで良いから姉ちゃん以外の事も詰め込んで欲しいと切実に思ったのは俺だけじゃない(断言)。

勿論このアーパーな一言と呆けた一夏の表情に鈴の火山が遂にヴォルカニックしてしまったで候。

そのままヒートアップした鈴が罵声を浴びせると、ムッとした一夏もヒートアップして売り言葉買い言葉戦争が勃発。

すったもんだの末に次のクラス対抗戦で鈴が勝てば、一夏が鈴に謝り、一夏が勝てばあの約束の意味を説明してもらうとなったらしい。

それ聞いた瞬間『最初っからそうしとけってんだ!!このアンポンタン!!』と、一夏のケツに追撃を見舞った俺は悪くない。

そんで俺の追撃の蹴りを食らった一夏は悲鳴を挙げて気絶し、休み時間の終了と同時に降臨した千冬さんの出席簿スラッシュで荼毘に臥されかけてた。

そんな死にかけ一直線状態の一夏を、俺は額にデコピンを見舞って地獄から現世へと叩き起こし、痛みで悶える一夏に話の続きを促す。

まぁ続きと言っても、後は少々の売り言葉と買い言葉の応酬…………そして、一夏が踏んだ特大級の地雷の事だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『そ、それでさ。鈴に大馬鹿の甲斐性無しって言われて……つい、頭に来ちまって…………その……』

 

『あ?ハッキリと言えハッキリと。オメエは一体何を言ったんだよ?』

 

あの日、俺は教室の片隅で一夏に箒、オルコットと本音ちゃんに夜竹を交えてコソコソと喋っていたんだ。

さすがにコレは鈴と一夏の問題だから皆に聞こえるのはマズイと思った俺なりの遣り方だったが、まぁ目論見通り他の連中には聞かれずに済んだよ。

しかし、俺の聞き返しを聞いても、一夏は中々話し出そうとはしなかった。

かなり気まずそうに俺から視線を逸らしてどもる一夏に、俺は苛立ちから語気を荒げながら問うが、一夏は依然喋りにくそうにしている。

それで少しづつ怒りが充填し始めてきた俺はもう一発デコピンをお見舞いしてやろうとしたが、それは夜竹に阻止されてしまう。

 

『げ、元次君。織斑君も話しにくいみたいだし……も、もう少し待ってあげよう?……ダ、駄目かな?(ウルウル)』

 

しかも弱々しげに瞳をウルルとさせながらの女の武器であり必殺級の威力を誇る上目遣い。

それ見た瞬間スッと拳を収めた俺はキャッシュなんだろうか?

俺が拳を収めたのを見てホッと息を吐いた夜竹は、気まずそうにしている一夏に視線を合わせてゆったりとした口調で語りかける。

 

『織斑君。元次君だけじゃなくて、私も……頼り無いと思うけど、鈴と仲直り出来る様にお手伝いするから、昨日何があったか教えて……ね?』

 

『ほ、本当か夜竹さん……!?』

 

『私も~お手伝いするよ~♪りんりんとおりむ~が仲直り出来る様に~頑張っちゃうのだ~♪』

 

まるでシュンとした子供を慰める様に、夜竹は優しく一夏に語りかけ、一夏はそんな夜竹の優しさが嬉しいのか、目が少し潤んでる。

更に夜竹の優しさに便乗して本音ちゃんもニコニコしながら手を挙げて、一夏を慰め始めた。

そんな2人の女の子が放つ優しい気遣いを見て、俺は自然と微笑みを浮かべてしまう。

つうか本音ちゃん、リンリンて……それ、鈴が虐められてた時に付けられたアダ名と一緒です。

後で本音ちゃんには鈴の前でその名前を呼ばない様にそれとなく注意しとこう。

……もしソレに鈴がキレて本音ちゃんに手ぇ出そうとしたら、俺はあいつを酢豚の材料に変えちまうだろう。

さすがにそんな幼馴染みが料理の具材でBADなイベントは回避せにゃイカンよ。

 

『の、のほほんさんまで……!?わ、わかったよ……力を貸してくれ……じ、実は俺……』

 

『『『うんうん?』』』

 

現在の事情聴取をしてる面子で、昨日の事を知らない俺と本音ちゃん、そして夜竹は、ボソボソと語り始めた一夏の声に相槌を打つ。

何やら横で箒とオルコットが青い顔色を浮かべながら、『一夏!!それ以上言ってはいけない!!』と小声で注意しているではないか。

え?マジでコイツは鈴に何を――――。

 

 

 

『き、昨日の言い合いで鈴に……その――――『貧乳』って言っちまって……』

 

『『『――――』』』

 

絶句、というのは正にこんな状況の事を表すんだろう。

かなりやっちまったって表情でそう言う一夏に、俺達は開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

貧乳、またの呼び方をひんぬー、ペチャパイ、ナイチチ、絶壁、哀れ乳、名状し難きパーイのようなモノ。エトセトラエトセトラ……。

 

 

 

この単語が意味する所は総じて、女性の象徴たるおっぱいが無いとか乏しいって事を示す。

貧乳に貧乳と面と向かって言い切る勇気、ソレは死亡フラグを建てた状態で魔王に突撃する勇者さながらである。

いや字面にすりゃ中々格好よさげではあるが、その実人の身体を貶めているだけですからね?

とまぁ、人の逆鱗を電動サンダーで擦り上げるような行為をした挙げ句、鈴にぶっ潰す宣言をされてしまったらしい。

俺はソレを聞いて本気で呆れ果てて溜息を盛大に吐いてしまう。

お、俺ですら、鈴の奴にそんな直接的な言葉を言った事がねえってのに、何でお前はそんな簡単に人の核地雷をブチ抜く真似が出来んだよ?

そんな事を考えてる俺の眼前で『マジでどうしよう?』という小動物の様な表情で俺に視線を向ける一夏。

テメエはこんな時でも何時もと変わらねえなホント。

その子犬を思わせる一夏の表情に頬を赤くしてウッと胸を抑える箒とオルコット、あんた等ホントにブレねえなオイ。

まぁ一夏のこの弱り切った子犬みてーな表情で謝れば、どんなに怒り狂った女でも魔法に掛かった様にコロッと許してくれるんじゃ――――。

 

 

 

 

 

『織斑君♪そこに正座しよっか?(ニコニコ)』

 

 

 

 

 

ふと、隣に目をやれば、そこには輝かしい笑顔で床を指差しながら一夏に正座を言い渡す夜竹の姿が――――ゑ?

関係無い筈の俺が、何故か今の言葉で床に足を付けそうになったです。

勿論それを言われた本人である一夏なんか、正にポカンと理解出来なかったって顔をしてる。

そんな一夏にニコニコと擬音が付きそうな笑顔で笑いながら床を指差し続ける夜竹。

あれ?夜竹ってこんなキャラでしたっけ?……あっるえ?

 

『……ゑ?……あの、夜竹さん?ここ床なんですけど――』

 

 

 

 

 

『早く正座だよおりむー?床じゃなかったら何処に正座するのかな?かな?(ニコニコ)』

 

 

 

 

 

更に夜竹の隣に視線をズラせば、本音ちゃんは何時ものゆったりした癒しボイスの真逆、キリッとした声音で一夏を叱りつけて――――ゑ?

またもや普段らしからぬ雰囲気を携えた人物が現れ、しかもその矛先が自分に向いてると感じたのか、一夏は顔色を青を通り越して白色に変えてしまう。

 

『本音ちゃんの言う通りだよ♪床以外に正座する所なんて無いんじゃないかな?ソウダヨネ?』

 

『ハイスイマセン。ソノ通リデス。ノホホンサン、ヤタケサン』

 

『もう♪変な織斑君♪……クスクス♪』

 

2人の只ならぬ気配に呑まれたのは俺だけじゃなく、その尋常じゃない雰囲気をモロに浴びた一夏は、2人の指示通り床にスッと正座した。

素早く2人の指示に従う一夏の顔には、これでもかと嫌な汗がダラダラと流れ出ている。

あぁ判る、判るぞ兄弟……怖いよな……俺だって許されるなら全速力で逃げたいぐらいに怖いもん。

それを見て口元を隠しながらクスクスと愉快げに哂う、いや違った笑う本音ちゃんと夜竹。

心なしか、段々と語気が無機質な様に感じられてきました。

普段なら一夏を助ける為に動く(純粋にか、好感度稼ぎかはその日次第)箒とオルコットの2人ですら、夜竹と本音ちゃんのオーラにブルってる。

気付けば俺達の話しに何とか聞き耳を立てようとしてたクラスメイトが遠くに避難してた。

何て無駄に連携が良いんだこのクラス。

おかしい、おかしいぞ。本音ちゃんはこのクラスで真耶ちゃんと双璧を為す小動物的な癒し発生器の筈なのに。

夜竹はそのふわっとした大人しい雰囲気と相まって、このクラスでNO,1に輝く優しい心を持った優しい(大事な事なので二回ry)女の子の筈なのに。

目の前で繰り広げられるおかしな光景に現実逃避したい俺を置き去りにして、事態は更に加速する。

 

『ねぇ、織斑君?女の子にそんな事言っちゃ駄目だよ?それは織斑君に例えたら、織斑君の持ってるコンプレックスを指摘する事と同じだからね?』

 

『ハイ。理解シテマス。ワタクシガ本当ニ愚カデシタ。誠ニ申シ訳ノシヨウモアリマセン』

 

『うん♪反省してるのはとっても良い事だし大切だけど、謝る相手が違ウヨネ?……どうすれば良いかな、本音ちゃん?』

 

夜竹の背中に般若を宿しながら浮かべるスマイルと迫力に呑まれた一夏は、徹頭徹尾低姿勢で謝罪の言葉を口にするが、夜竹は笑顔でそれを一蹴してしまう。

その合間にも更に膨れ上がる夜竹の半端ねえプレッシャーの重圧に、もはやオルコットと箒は気絶寸前だ。

今の自分の雰囲気を理解してるのかは分からんが、夜竹はそのプレッシャーを従えたまま、同じくバリパネエ雰囲気の本音ちゃんに声を掛ける。

それを聞いた本音ちゃんは、何時もの様なのほほんスマイルではなく、無機質な作り物の様な笑顔で頭を捻っていく。

 

『うん、アレだね。おりむ―は自分が言った事が、どれぐらいリンリンに響いたか判って貰わないと駄目だと思うのでー……こほん、ゲンチ~♪』

 

『アイ・マム!!お呼びでしょうか!?(ズビシッ!!)』

 

2人の創りだす異様な雰囲気空間を冷や汗全開で眺めていた俺に、本音ちゃんの幾分か何時もの口調に戻った声で呼びかけられ、俺は直立不動の敬礼で返す。

逆らう?駄目ってか絶対に無理、マジで怖えよ今の本音ちゃんと夜竹のお2人は。

 

『うん~♪あのね?ゲンチ~から~おりむ―に~、リンリンに言った事を~男の子ば~じょんで、言ってあげて欲しいのだ~♪』

 

『は?……つ、つまり、鈴のコンプレックスを中傷した事を、一夏に例えて言えって事ですか?』

 

『そうで~す♪…………ヤッテくれる?』

 

俺の聞き返しに何時もと同じほにゃらかな笑顔と口調で答えた本音ちゃんは、最後の語尾だけを一夏に向けたモノと同じに変えて、俺の目を覗きこんできた。

何時もと同じ様な気軽さで繰り出される本音ちゃんの上目遣い、但し瞳に光は欠片とて無し。

そんな目で至近距離で笑顔のまま見つめられた俺の選択肢は只一つ――――。

 

『イエス・マム。お安い御用で御座います』

 

『わ~い♪ありがとぉ~♪』

 

只ひたすらに忠実なる下僕と化す事だけだ。

あぁそうさ、これは仕方無い事なんだ。

決して本音ちゃんの後ろでニコニコしてる夜竹が怖かったとかそんなんじゃねえ。

今の俺は鍋島元次って1人の人間じゃねえ。本音ちゃんと夜竹の命令に忠実に従う一個のキリング・マシーンだ。

だから本音ちゃんの言う通り、言われた事を遂行する。

 

『良いか一夏?心して聞けよ?聞こえなかったとかほざきやがったら、ねじるからな?』

 

『何処を!?』

 

『織斑君?静かにしようネ?(ニコニコ)』

 

『ハイゴメンナサイ!!?』

 

俺の言葉に突っ込みを入れた一夏だが、それは夜竹の怖い笑顔で謝罪のコンボに追い込まれた。

もはや土下座もかくやという様子を見せる一夏だが、そんな一夏に、俺は今から更に追撃を掛けねばならない。

スマン、許せ兄弟……っていうか最初から言うつもりだった事を言うだけなんですけどね?

青い顔で震える一夏に、俺は立ち上がった体勢で一夏を見下ろしながら、昔良くやった弾や鈴達と居た時のノリで口を開く。

 

 

 

――――ココがIS学園――――つまり女子校だという事実を忘れて。

 

 

 

 

 

『良いか?オメエが鈴の事をペチャパイと呼んだのはな、俺等男からすりゃ、女子に笑顔で『一夏君の(バキューン)って、ちっちゃいね(笑)』と言われる事と同義なんだぜ?』

 

『(ズババァッ!!)ぐはぁッ!!?……お、俺は何てむごい事をぉ……!?最悪だ、大馬鹿だ、俺って奴はぁ……!!』

 

俺の諭す様な声音で呟かれたドギツイ一言を、脳内で女の子に言われた様に置き換えたんだろう。

一夏は心臓を抑えた体勢のまま顔色を土気色に変えて、止め処ない後悔の念を口から溢れさせている。

幾ら俺達の周りで鈍感と謳われている一夏でも思春期真っ盛りの男。

故に、俺の言葉の中に含まれた下ネタ的な意味を理解してくれたんだろう。

俺はそんな後悔後先断たずって言葉を体現している兄弟の姿に重い溜息を吐いてしまう。

ヤレヤレ、これで少しは懲りてくれると良いんだけd……。

 

『やあ~~~~~ッ!!?(真っ赤)』

 

『きゃぁああああああッ!!?げ、元次君!?(真っ赤)』

 

『うお!?な、何だ何だ!?どうしたよお二人さん!?』

 

すると突然、俺の直ぐ後ろから本音ちゃんと夜竹が悲鳴を挙げて俺の名前を呼んできたではないか。

その声に驚いて2人に向き直ると、そこにはさっきまでのヤバイ雰囲気を完全に消し去って、何故か顔を真っ赤に染めて俺を凝視する本音ちゃんが居たとさ☆

何故か夜竹は甲高い叫び声を挙げて、それ以上聞こえない様に両手で耳を塞いだ体勢で俺を見てたとさ☆

いや居たとさじゃなくて!?な、何でお二人は顔真っ赤にしてるワケ!?俺は只一夏の(バキューン)の事を話し…………あ゛っ。

そこまで考えが及んでおいて何でさっきは分からなかったとかの突っ込みは無しの方向でお願いします。

だって鈴とかこんな下ネタでも普通に返してきてたんだもん。

まぁ勿論一夏の居ないトコ限定でしたけどね?

いっぺんだけ一夏の前で弾がうっかり下ネタを披露した時にゃ、鈴の掌底が綺麗に弾の顎に……ってそんな事はどうでもよござんす!?

焦って箒とオルコットに視線をやれば、箒達も本音ちゃんと夜竹と同じ様に顔真っ赤にしてプルプル震えてた。

ヤ、ヤベエぞこりゃ……!?普通に鈴や弾達と居る時のノリで喋っちまったけど、良く考えりゃこの子達って普通じゃん。

普通の女の子の前で男の(バキューン)の話しなんてNGなのは常識だろオイ。

 

『ゲ、ゲェーーーーーーーーーン!?貴様ひ、非常識にも程があるだろう!!じょ、女子の目の前でい、いい、いいいい一夏のちちち、(バキューン)の話しをするなど!!?もっと詳しく話せ!!』

 

『箒さんの言う通りですわぁ!!レディーの前でい、いい一夏さんのち、(バキューン)の話題を平然と出すなんて、紳士の風上にも置けません!!今の発言に対する詳細を要求します!!』

 

ちょ!?お前等声がデカ……!?

 

『『『『『何だってぇぇええッ!!?織斑君の(バキューン)の話しですとッ!?是非とも聞かせて下さいッ!!!』』』』』

 

『お前等花も恥じらう乙女が揃いも揃って(バキューン)(バキューン)連呼すんじゃねぇえええええええええッ!!?』

 

箒とオルコットの人目を憚らない大声で出されたキーワードっていうか餌に食い付く我らが1組クラスメート大隊。

そんな飢えた野獣の様な軍団を怒鳴りつけて事態の収拾を図ろうとする俺だが、奴等は最後の1人になるまで諦めはしないだろう。

もうどうしてこうなった?っていうか一夏の(バキューン)ってトコに食いつき良すぎなんだよコイツ等。

っていうか我がクラスメート諸君のNGワード食い付き率がハンパじゃねえんですけど?

 

『ちょ!?な、何で鈴を怒らせた経緯の話が摩り替わって俺のアレの話しに!?何がどうしてこうなったんだよ!?』

 

『そりゃオメエ……ナニがああしてああなっちまったのさ』

 

『どうなった!!?何がどうなった!?』

 

俺の諦めが多分に含まれた呟きに過剰反応して食いつき、俺の胸ぐらを掴んで揺する我が兄弟。

まぁ自分の(バキューン)の話をこんな大勢の前でネタにされちゃ堪んねえよなぁ。

俺だったら方法は違えど全員容赦無く即刻黙らせてるよ。

 

『さあ一夏!!嘘偽りなくお前の全てを吐いてもらうぞ!!』

 

『そうですわ一夏さん!!こ、これは決して、疚しい気持ちからくるモノではありません!!えぇ!!えぇそうですとも!!全てはこ、ここ後学の為です!!』

 

『『『『『包み隠さず全部教えて織斑君!!主に私達の薄い本の資料の為に!!』』』』』

 

『へ、変態にも程があるだろぉおおおお!!?だったら俺のじゃなくてゲンのサイズを教えてもらってくれ!!アイツの対艦砲の話し――』

 

『テメエ何俺を巻き込んでんだゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

『(バチコォオオオオオオンッ!!!)ア゛ーーーーーーーーーーーッ!!?』

 

余りにも酷すぎる回避方法にキレた俺は瞬間で一夏のケツを、あの電話帳並にブ厚い参考書で思いっ切りブン殴ってやった。

詰め寄る目のギラついた集団から逃走すべく一夏が繰り出した話題は、何故か俺の下のサイズの話し。

また巻き込まれたで御座る。しかも会話の中でサイズ言っちゃってるじゃねえかチクショオが!?

結局そのまま碌な話し合いも出来ず、クラスメートは暴走を止めず、終いにゃ千冬さんに全員制裁食らって暴徒は鎮圧された。

ちなみに俺は騒ぎの元凶って事で4倍増しの数だけ出席簿アタックと千冬さん自慢のこ・ぶ・しをプレゼントされたよ……アレは痛かった。

まぁそんな騒動があったりした所為で、結局俺達は鈴と一夏が仲直りする有効な手立てが見つからないままに、ズルズルと日にちだけが過ぎてしまったんだ。

何せ休み時間とかに鈴に会っても、一夏を視界に入れた瞬間、警戒状態MAXな猫さながらなリアクションを取って威嚇してきやがる。

夜竹が必死に「大丈夫だよ、怖くないから」って言って手を差し出す様は野良猫をあやす光景以外に説明が出来ない。

いやホントそのまんまの光景だったからな。

しかし、少しでも一夏が動こうとか喋ろうと口を動かしたりしたら、瞬間でご自慢のツインテールを逆立てて睨んでくる。

もう「フーッ!!」って唸りながら襲ってくる5秒前って感じだったなありゃ。

そして虚しくも日にちは流れ流れて、遂に何の解決も見出せないまま今日のクラス対抗戦を迎えてしまったのである。

幸いにして一夏が鈴と戦って勝利するか、敗北するかの賭けで、2人の仲は修復可能って保険が残ってるのがまだ不幸中のハッピーだ。

 

 

 

 

 

そんでまぁ、一夏もしっかりと気合を入れて、今回のクラス対抗戦は鈴に勝つまでは生き残ると決意を新たに息巻いていたが……。

 

『本日ココ第3アリーナで行われる対抗戦の第1試合は、1組対2組!!注目の代表者2人ですが、まずは1組のクラス代表!!世界に2人しか存在しない男性IS操縦者の1人!!純白の甲冑を身に付けた我らが王子様こと、織斑一夏選手だぁあああッ!!』

 

『『『『『ワァァアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

と、そうやって今日までのあまり実りの無かった日常をダイジェスト的に思い出していた俺の耳に、今回の騒動の張本人である兄弟の名が声高々にスピーカーから聞こえてくる。

それに少しだけ遅れて聞こえてくるのは、もう目の前まで来たアリーナの観客席入り口の向こうで叫ぶIS学園の生徒達の歓声だ。

おっし、何とか開始までには間に合ったな。

俺はその歓声を聞きつつ、アリーナへの入り口を潜って中に入る。

すると、俺の視界いっぱいに広がった光景は、女子、女子、女子……見渡す限りの女の波だった。

まぁ一夏と俺以外の生徒は女子なんだから当たり前っちゃ当たり前なんですけどね?

 

 

 

実は今回の試合、俺は一夏側のピットに行かず、官制室での観戦も千冬さんから誘われたが断った。

だって今回のクラス対抗戦、一回戦の試合の相手ってまさかの鈴だったからな。

まさか勝敗で賭けをしてたこの2人が最初にぶつかるとか……誰か運命操作してんじゃねえだろうな?

幼馴染み達の試合でドッチか片方だけのピットとかに偏るのは嫌だったので、今回の観戦は他の生徒と同じ観戦区画を選んだ。

今官制塔に居るのはオルコットと箒、そして千冬さんと真耶ちゃん達で本音ちゃんと夜竹は観戦区画に居る。

まぁ一夏と鈴には試合前に「片方は応援出来ねえけど、2人とも思いっ切りぶつかってこいや」と激昂の言葉は送っておきましたよ。

 

 

 

いやぁ、しかしまぁ壮観壮観。見渡せば溢れかえる人、人、人。

そりゃ一発目の試合が転入してきた代表候補生VS人類史上一人目の男性IS乗りでブリュンヒルデの弟。

噂好きの女子達からすりゃ、話の種に此所まで相応しいもんも中々あるもんじゃねえわな。

既にアリーナに設置された観戦椅子のほぼ全てが埋まっており、俺の目の前には立ち見をする生徒すら居る程だ。

その人の密集度に気温が少し熱く感じられる上に、女子の香水やら女の子の匂いが混ざってトンデモねえ事になってるじゃないっすか。

そして、この観客席は広大なアリーナを囲う形でぐるっと円を描いている。

簡単に言えばドーナッツのもう少し横を伸ばした形……いやレース場のオーバルコースって言った方がしっくりくるか。

俺が居る観客席からアリーナを見渡す事が出来る様に、この観戦席は天井まで全てが吹きぬけの形だ。

見渡す限りの青空が広がる観戦席だが、これでも俺達の居る観戦席とアリーナを隔てる形で、ISの技術を応用したシールドが張られてる。

しかも真耶ちゃんの話しによれば、並大抵の攻撃力じゃあビクともしないぐらいに強靭らしい。

このシールドを簡単に破壊できるのは、一夏の『白式』の唯一仕様『零落百夜』とか俺の『オプティマス・プライム』に積んである超大型ミサイル級の威力ぐらいなんだと。

まぁ俺はその観戦席の一番端っこの区画、つまり学園に通じる通路に隣接した区画に居るんだが……。

俺は女子が密集した場所に居るけど、身長が周りの女子より大分高いので、人を探す為に見渡す事は問題無い。

それでこのアリーナの観戦席を見渡して目当ての人物を現在進行形で捜索中だったりする。

さあて、本音ちゃんは何処だ?確かこの区画の席に座ってるってメールが……。

 

「おぉ~い~ゲンチ~♪こっちこっち~~♪」

 

お?居た居た。あの癒しボイスは間違いなく本音ちゃんその人だぜ。

予想通り、俺が視線を向けた先には席から立ち上がった体勢で俺にヘロヘロ~とでも擬音が付きそうなゆったりとした速度で手を振る本音ちゃんが居なすった。

お顔も本当に嬉しそうっというか、何時も通りにほにゃ~っとしたスマイル。

うむ、相も変わらず本音ちゃんの笑顔は素晴らしいですな。こう、なんていうか……心の清涼剤的な?

そんな癒し溢れる本音ちゃんの笑顔にヤラれながら、俺は本音ちゃんの居る席の方まで続く階段を下りていく。

 

『ね!?アレ鍋島君じゃない!?やっぱ凄い身体してるよー!!アレもう絶対ヤバイって!!色々堪んないわ!!』

 

『ホ、ホントだ!?何でこの観戦区画に来たんだろ!?ア、アタシ化粧崩れてない!?汗臭く無いかな!?』

 

『うわぁ……!?サングラス似合い過ぎでしょ……ワルな雰囲気がまた何とも……良いじゃないの』

 

そして、本音ちゃんの声が聞こえた他の女子生徒の視線がいっぺんに俺に集中してきた。

もう数えるのも馬鹿らしくなる様な視線の嵐に、俺は若干引き気味な……というか及び腰になってたり。

だって皆一様に笑顔浮かべて手振ってくるんだぜ?俺は芸能人でも何でもねえんですって。

しかし、やっぱこのIS学園でも腐った連中はまだまだ居るワケで……。

 

『……ふん……野蛮な男風情が調子に乗ってんじゃないわよ』

 

『気にいらないなら何時でも掛かって来い、だっけ?専用機があるからって調子に乗ってるわね。男の癖に良い気になるなっての』

 

そう言いながら、俺に侮蔑の視線を向けてくるクソ女2人はっけーん。

しかも俺に面と向かって言うワケでも無く、ボソボソと陰口を叩く陰湿さが全くもって不快だ。

まぁ俺は昔からこの手の輩には手加減なんざ無用ってのが持論なんで……喧嘩売ってるなら買ってやる主義なのです。

 

「こちとら訓練機だろーが生身だろーが何時でもお相手してやんぜ?」

 

『『ッ!!?』』

 

俺は今しがた俺に舐めた口を聞いてた2人の馬鹿女に振り向いて笑顔で声を掛けてやった。

どうにも小声だから気付かれないとでも思ったみてーだが、生憎と俺はヤマオロシと戦った事で視線とかに混じる感情とか他人の悪意には敏感なんだよ。

本音ちゃんの座っている下の方にある観戦席に向かっていた足を止めて、俺はソイツ等2人の場所まで歩を進めていく。

俺が近づくと、馬鹿女2人はこぞって顔色を真っ青にして震えだしたではないか。

ったくよぉ……言った後で後悔すんなら最初から言うんじゃねーってんだよ、この馬鹿たれ共が。

 

「テメエ等みてーな影でしか人の悪口言えねー奴等程度に、俺が態々オプティマスを使うわきゃねえだろーが?お望みなら後で訓練機の使用許可取ってきてやるから、そのまま模擬戦でもやるか?あ?」

 

「い、いえ……そんなつもりじゃ」

 

「わ、悪気は無かったんです!!ごめんなさい!!」

 

俺が笑顔で言葉を紡ぐと、馬鹿女達は目に涙をたっぷりと溜め、恐怖に満ちた顔で俺を見てくる。

実は今喋ってる現在も、俺はこの馬鹿2人に声を掛けた時から段々と怒気の強さを上げて、この馬鹿共にピンポイントで当てていたからな。

ちゃんと周りに被害がいかねー様に引き絞った怒気だが、まだあの本音ちゃんを膝枕した時に尾行してた奴に浴びせたレベルまでは上げてない。

だってそこまでしたら……多分コイツ等失禁すると思う。

そんな事になったらこの馬鹿共の近くの席の子達が巻き込まれるし可哀想だ。

だから俺は今も少しづつ、コイツ等に浴びせてる怒気の強さを上げていくだけに留めてる。

 

「悪気がなきゃあんな事言えねーだろボケ。俺に文句があんなら直接言いに来い。次に影口叩いてみろ……」

 

俺はそこで一旦言葉を区切って、目の位置に掛けているオプティマスの待機状態であるグラサンを指で下向きにズラした。

そして、今や最初の見下した顔ではなく只怖がってるだけの女2人に、俺は直にメンチビームを浴びせながら口を開く。

 

「俺の前でチョーシに乗った事を後悔させてやるぜ?……分かったか?(ギンッ!!)」

 

「あっ……(ガクッ)」

 

「ひ、ひぃ……(ガクッ)」

 

最後にチョコっとだけ2割近くの怒気を浴びせてやると、バカ2人は小さく悲鳴を挙げて気絶してしまった。

ソレを見届けた俺はフンと鼻息を鳴らしながら踵を返して、当初の目標地点である本音ちゃんの元へと歩みを再開する。

 

『ちょ!?この2人気絶してる!?』

 

『眼力だけで人を気絶されるとか……あの目で見つめられたい♡』

 

『あぁん♡思いっ切り罵って蔑んでくれないかなぁ……』

 

聞こえない、俺はなぁ~んにも聞こえない。突っ込んだら負けだ。

大体俺は千冬さんみてーにサディストじゃねえからそんな高度過ぎるプレイはお断りの事よ。

そのまま本音ちゃんの隣まで歩いていくと、本音ちゃんは座っていた席から身を乗り出した体勢で、俺に苦笑を送っていた。

 

「あ~あ~。やり過ぎちゃ~駄目だよゲンチ~」

 

「なぁに、気絶する程度に加減しといたから問題無えさ」

 

そう言ってやんわりと注意してくる本音ちゃんに、俺は肩を竦めて返事しつつ、本音ちゃんの隣の席に腰を降ろす。

そして、アリーナの空中に視線を向けると、正にグットタイミングってな具合でピットの発進口から一夏が白式を纏って飛び出してきた。

汚れ一つ無い純白の、正に『白馬の王子様』を彷彿させる機体、それを駆るパイロットはイケメンとくれば……。

 

『『『『『ワァァアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

勿論の事、女の子達はこぞって黄色い声を大音量で叫ぶ。

もう耳が痛くなるレベルで歓声を挙げる周囲の金切り声に、俺は若干顔を歪めてしまう。

まぁ一夏がイケメンでモテるのはそれこそ骨身に染みて理解してるが……この場に弾が居たら「死ねぇえええッ!!?」って叫んでるだろうな。

 

『さぁ!!今大会が二回目の戦闘となります織斑選手の入場です!!彼はISに初めて搭乗したというハンデがあるにも関わらず、英国代表候補生であるセシリア・オルコットさんに初陣初勝利を飾った、正に今大会のダークホースと言っても過言では無いでしょう!!搭載武器はブレードオンリーというのも男らしい!!』

 

空に一夏が現れた瞬間、合いの手でスピーカーから黛先輩の元気いっぱいな解説が聞こえてくる。

しかし最後のブレオン機体という説明が出ると、観戦席の女の子達はひそひそと「大丈夫なのかな?」という疑惑の声を出す者も居た。

それとは反対に「あのクラス代表決定戦は凄かった!!」と更に期待を篭めた眼差しを向ける子も居る。

後者の子達はあのクラス代表決定戦を見に来てた子達だろう。

心配というか半信半疑の人たちは大体上級生ばっかりだったからな。

 

『なお新聞部が独自に掴んだ情報によりますと、今大会には出場していませんが……IS初搭乗であのブリュンヒルデと名高い織斑先生との模擬戦闘試験に文句なしで合格するという荒業を成し遂げ、更にはIS搭乗時間がたったの50分未満にも関わらず先ほど名前が挙がった代表候補生セシリア・オルコットさんと、そのセシリアさんを打ち破った織斑選手を反則的なまでの力で叩きのめした、超ド級の実力者が1組に存在しています!!』

 

と、周りの女の子達の反応を分析していた俺の耳に、何やら不穏な説明が飛び込んできた。

その説明を終えて、まるで溜めを作るかの様に黛先輩の言葉が途切れた瞬間、全ての観戦区画の声がシンと鳴り止む。

しかもそれに続いて、この観戦区画の視線が俺の背中とか横合いから豪雨の如く集中し始めるではないか。

え?いやちょっと待てコラ?何か嫌な予感、と俺の声が口に出るより早くスピーカーから黛先輩の楽しそうな声が溢れた。

 

『そう!!その超理不尽な嵐を体現する人物こそ、織斑選手と同じく世界に2人しか存在しない男性のIS操縦者の1人にして、もはや絶滅危惧種とされる男らしさの塊!!タフガイの中のタフガイ!!人類失格シリーズ!!実はサイボーグとビーストのハーフ!?しかも料理の腕前はプロ級という家庭的な面まで併せ持つドチートな存在!!誰が何と言おうと1年最強!!チョーシに乗ってる奴は許さねえ!!超大型IS『オプティマス・プライム』の操縦者!!通称『鋼鉄の野獣(アイアン・ビースト)』こと鍋島元次君です!!!』

 

「失礼にも程があるだろ黛先輩ぃいいいいい!!?っていうか今この場で俺の事紹介する意味が皆無過ぎる!!?」

 

スピーカーから鳴り響く余りにも失礼な言葉の羅列に憤慨して席から立ち上がる俺だが、生憎とスピーカーにはコッチの声を拾う機能はついていない。

よって俺の声は楽しそうにナレーションしてる黛先輩には全く届いていないのである。

幾ら何でも酷え!?酷すぎるぜ黛先輩!!大体オレが人類失格ってんなら、千冬さんとか霊長類しっか……。

 

『『『『『キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

「どわぁああッ!!?」

 

結構危ない考えを頭に浮かべてた俺だが、背後から響くド級の大声に驚いて思考を中断させる。

な、何だ何だ今の声の塊は!?

そう思ってクルッと背後に振り返って見れば、そこに広がるのは笑顔で俺に手を振る女子の軍団がががが。

しかもこの観戦区画の殆どの女の子たちがキャーキャー言いながら手を振ってるモンだからかなり困る。

とりあえずどう答えたら良いか分かんねえので曖昧な笑顔を浮かべ、軽く手を振って席に着く。

男子が珍しいってのもあるんだろうが……悪くない気分です。

 

『キャー!!今あたしに手を振ってくれたわ!!』

 

『違うわ!!私よ!!』

 

『いやいやいや!!今のは間違い無く私!!心が通じ合ったもん!!』

 

『妄想乙w』

 

『あの千冬様の戦闘試験に合格するなんて……鍋島君って人間?』

 

『リーサルウェポンの間違いでしょ?』

 

無視だ無視、後ろの会話に関わってたらキリがねぇよ。

っていうか俺の精神キャパシティを軽くオーバーしちゃう。SAN値がががが。

 

「む~……ゲンチ~は~モテモテで嬉しそうだね~?」

 

「い、いや。そんなつもりは無えんだが……」

 

「ぶ~、鼻の下が伸びてるよ~に見えるのですが~?」

 

ここで更に俺の隣に座ってる本音ちゃんが、ほっぺたをむくれさせながらじーっと睨んでくる追加攻撃発生。

勘弁して下さい。もう俺のSAN値に余裕は御座いませんの事よ?

ちょっとばかしの後ろめたさをブレンドした俺の苦笑を見ると、本音ちゃんは更に頬を膨らましてくる。

こんな状況俺にどないせえとおっしゃりますか?

 

『盛り上がってきた所で、お次は2組のクラス代表、鳳鈴音選手の入場になります!!鳳選手は中国の代表候補生にして専用機持ち、実力は本国の現代表候補性達の中でも指折りの実力者だそうです!!しかも私が極秘に掴んだ情報によりますと、何と鳳選手と織斑選手、そして鍋島君の3人は幼馴染みであるとの事!!離れていた幼馴染みがこの学園で再会し、この試合で闘う!!これは正に注目の一戦です!!』

 

黛先輩の熱の入った説明が終わると同時に、反対側のピットから鈴がISを纏ってアリーナに踊り出る。

するとさっき程では無いが、一夏の時と同じ様に観戦席の女子が鈴に声援を送っていた。

そして空中に現れた鈴の姿を視界に収めると、そこには赤色と黒色のツートンカラーに彩られた専用機を身に纏う鈴が映る。

全体的なフォルムは一夏の白式に近く、従来のISの持つシャープさを再現していた。

但し、両肩の位置に浮いているアンロックユニットは白式の様な翼の形を模したスラスターでも、オルコットのブルーティアーズのBT兵器の様な自立可能なモノでもなくて、棘付きのゴツゴツしたスパイクアーマーだ。

うおぉ……アレで殴られたら半端無く痛えだろうなぁ、しかも良く見りゃ背中に豪快にして大型の青龍刀っぽいモノが刺されてるじゃありませんか。

と、初めて見る鈴の専用機を軽く分析していると、オプティマスのセンサーが起動して、ガラスの部分に情報を掲示してきた。

 

『中国第3世代型、近接格闘型IS『甲龍(シェンロン)』第3世代型特殊兵装有り』

 

甲龍ね……あの棘付きのアンロックユニット見た感じじゃ、願い事は叶えちゃもらえねえだろうなぁ。

っていうか、何でISは相手の情報とかが開示される様になってんだっけ?

 

「なぁ本音ちゃん」

 

「む~……な~に~?」

 

俺は素朴に感じた疑問の答えが欲しくて、隣で唸ってる本音ちゃんに声を掛けた。

俺のクラス代表決定戦前の勉強を手伝ってくれた前歴もあるが、本音ちゃんは意外な事に勉強は良く出来てる。

実戦とかの戦い方はそこまでだが、兎に角知識面では俺の大分先を行ってるんだぜ?いやはや人は見掛けによらねえもんだ。

 

「ちょいと聞きてえんだがよ、ISは何で他のISの簡単な情報とか名前が分かる様になってんだっけ?」

 

「ふえ?それは~ISの、コアネットワ~クっていう情報の遣り取りがされるネットワ~クがあるからだよ~?」

 

本音ちゃんはイキナリの質問にキョトンとしながらも、懇切丁寧に教えてくれた。

 

「情報の遣り取りをするネットワーク?……あっ。そういやISのコアの解析と開発は、束さん以外の人は出来ねえんだったっけか?」

 

律儀に答えてくれた本音ちゃんの答えに首を捻っていると、一番最初に参考書で習った項目が頭ン中に浮かび上がってくる。

ISのコアは束さんしか造れねえ上に、コアの中身は完全なるブラックボックス。

未だどの国の科学者も、コアの解析に躍起になっちゃいるが、それでも謎は解明されてねえ。

そしてそのブラックボックスたるISコアにはそれぞれ独自の意識があり、その遣り取りの中で生み出された情報の限りある部分だけが、データとして蓄積される。

ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っていて、ソレの応用がオープン・チャネルとプライベートチャネルによる操縦者会話だ。

元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたものらしい。

 

「いやはや、すっかりド忘れしてた。サンキュー、本音ちゃん」

 

「いえいえ~♪報酬は~、明日のデザ~トに、ホットケ~キを所望しま~す♪夢の5段重ね~~♪」

 

「ははっ、わかったわかったよ。ホントにちゃっかりしてんぜ」

 

「にゅふふ~♪この世は~等価交換で成り立っているので~す♪」

 

嫌に生々しい発言ですね?

俺の了解の返事を聞いた本音ちゃんは緩んだ笑顔を浮かべて嬉しそうにしている。

ホント、本音ちゃんのおねだりには弱いなぁ俺。

なんだかんだ言っても無碍に出来ない自分の心に苦笑しつつ、俺は空中に浮かぶ2人の幼馴染みに目を向ける。

しかし、空の向こうに居る幼馴染み達は俺達の居る観戦席の和やかな雰囲気は一切漂っておらず、ただひたすらにピリピリしている。

まぁ結局今日まで冷戦状態が続いてたからなぁ……鈴の奴、ここで今までの鬱憤を全部ぶつけるつもりだろうよ。

しかも一夏の方も勝負事に負けるとか態と手を抜くって行為が大ッ嫌いだから、一夏の目も闘志全開だ。

でも、鈴の奴だってオルコットと同じ代表候補生に上り詰めた奴。

生温い実力はしてねえだろうから……一夏の奴が切り札を出すタイミングを間違えたらソレで終わりだろう。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

見るからに殺る気――字が違った。やる気MAXと言った雰囲気の鈴。

一夏も覚悟を決めたような表情を変える事無く真っ直ぐと前を見ている。

 

『一夏、今謝れば少し痛めつけるレベルを下げてあげるわよ?』

 

アナウンスに従って空に昇った鈴は、一夏より少し高い位置からまるで見下す様にしてそう宣言する。

おうおう、あんな冷ややかな笑みを鈴が浮かべてるのは、間違い無く自分の方が強いって確信……いや、驕ってるからだな。

その台詞を聞いてムッとした表情を浮かべる一夏。

 

『そんな雀の涙程度のお情けなんか要らねえよ。全力で来い』

 

しかしその表情が一夏の癪に障ったんだろう、生来の負けず嫌い気質を発揮した一夏は雪片を展開して片手に持ち、堂々と宣言する。

その態度が気に入らねえってな具合で、今度は鈴が表情を歪めていく。

何だあの負の相乗効果は?もう少しカラッとした雰囲気で戦って欲しいモンだぜ。

俺程じゃあねえが、中学時代から短気だった鈴は堂々と臆する事無く言い返した一夏に、背中から青龍刀みてーなのを抜き放って突き付けた。

 

『一応言っとくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にもダメージを貫通させられる……言ってる意味が分かるかしら?』

 

……おーおー、随分と物騒な事を言うじゃねぇか鈴の奴ぁ……つまりこういう事だろ?

 

『「殺さない程度にいたぶる事は出来る」』

 

俺の呟きと、観戦席に備えられたスピーカーから聞こえてくる一夏の返答は、全くもって一緒だった。

鈴の脅迫とも取れる言葉に、一夏は表情を崩して、余裕の笑みを浮かべながら鈴に対して口を開く。

 

『それがどうしたんだよ?俺はこの学園に来てから今日までの特訓で、ゲンに何度ブッ飛ばされたかわかんねえぐらいブッ飛ばされてんだぜ?今更死なない程度の攻撃なんかにビビるかよ』

 

おい待て兄弟?

 

『あー……そうね。ゲンの拳とか蹴りを生身で受ける事考えたら、絶対防御ちょっと突破される痛みなんかどうでも無いか』

 

おい待て幼馴染み?

 

少しばかり聞き逃す事が出来ねえ言葉の応酬に首を捻っていると、空の向こうに居る一夏は、何時の間にか哀愁漂う遠い目をしていた。

 

『今日までの特訓中、ゲンの拳とか蹴りが迫る度に思ったよ……『あ、コレ死んだ』ってな……何回走馬灯を見た事か……ソレに比べりゃ、IS使った試合何て全然怖くねえよ。絶対防御マジ万歳』

 

そう言って儚く笑う一夏に、会場の空気は『ご愁傷様』って空気一色に支配されていく。

良く見りゃあんだけ怒り狂ってた鈴ですら、一夏に同情を禁じ得ない的な視線を送っているではないか。

……あれ?これって俺が悪いのか?

一応弁解しておくと、俺に鍛えてくれって言ってきたのは一夏だからね?俺は頼まれた事しただけです。

試合前だってのに微妙になりつつある会場の空気だったが、その空気は鈴がコホンと咳払いをする事で払拭され、再び緊張に支配される。

 

『コホン。まぁとりあえず……始めよっか』

 

短くそう言って青龍刀っぽいモノを構える鈴に呼応して、一夏も雪片を正眼に構える。

いよいよ、喧嘩の始まりって訳だ。

 

『では、クラス対抗戦第1試合、織斑選手対鳳選手戦を開始します!!』

 

プァーーーーーーーーーンッ!!!

 

そして、黛先輩の掛け声と共に試合開始のブザーが鳴り響き、一夏と鈴の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

『ハァアアアアアアアアアアッ!!!』

 

『オォォオオオオオオオオッ!!!』

 

2人は合図の瞬間に飛び出し、一夏は雪片を大上段に、鈴は青龍刀を下から掬い上げる様に振るい、己が獲物同士を交差させる。

すると、ガギィッ!!と金属がぶつかり合う嫌な音を奏で、そのまま鍔迫り合いへと移行する。

いきなり試合運びが速い様にも感じるが、一夏と鈴のISは近接型だから、2人とも其々の土俵で戦おうとするとこうなる。

一夏の白式は、オーバースペックともいえる機動力と速度を活かし、唯一仕様である『零落百夜』を使ったワンキル戦法。

鈴の甲龍は近接型と銘打たれちゃいるが、アイツもオルコットのブルー・ティアーズと同じで第3世代型特殊兵装とやらが積まれてる。

この特殊兵装ってのがどんなモンかは分からねえが、それが少し引っ掛かるな。

ブルー・ティアーズのビット兵器みてーに、他の一般的な装備とは一線を課したモンの筈だと思う。

 

『(ギリギリッ!!!)くっ……ぐぅううぅ!?』

 

そして、空中で鍔迫り合いをしていた一夏と鈴に目をやると、一夏は苦しそうな声を上げて上体を逸らし始めてしまっている。

一方で押し込んでいる鈴の表情は涼しげだ。

 

『フフン♪お生憎様だけど、アタシの甲龍はパワータイプなのよ!!(ガギィンッ!!)』

 

『おわ!?』

 

急に押し込まれた体勢から弾き飛ばされ、一夏は後ろに飛ばされてしまう。

すかさず青龍刀を構えなおした鈴が一夏を追従し、今度は斜め上からの袈裟斬りを繰り出した。

 

『それ!!ファーストダメージは貰ったわよ!!』

 

肩に担ぐ様な形で、鈴は斬撃を一夏に繰り出し、白式の胸部装甲を狙う。

その斬撃が当たると疑わない鈴の表情は笑顔になっているが、一夏は鈴の斬撃を見ながら焦らずに雪片を斜めに構える。

さっきの鍔迫り合いをいとも簡単に押し返したパワー、そして鈴の台詞から考えると鈴の一撃の重さは甲龍のパワーにモノを言わせたゴリ押しのスタイルだ。

機動力と速度が売りの白式じゃそれを防ぐ事は難しいと、鈴は瞬時に見抜いたんだろう。

だがまぁ、一夏の特訓の成果と戦闘経験を侮ったのは悪手だな、鈴。

 

『せいやあっ!!(ギャガガガッ!!)』

 

『ちょ!?う、嘘!?』

 

何と一夏は、鈴の斬撃を真正面から受け止めるのではなく、力に逆らわず綺麗に外へ受け流した。

千冬さんの特訓で教えられた事を忠実に守ってるみてえだな……さすがはシスコンの名を欲しいままにする男だぜ。

嘗て、千冬さんが現役時代に乗っていたIS『暮桜』の唯一にして最強の刀『雪片』の後継機『雪片弐型』は日本刀をトレースした片刃の日本刀だ。

何でも日本刀ってのは、『斬る』という目的を愚直に追求した結果、刀身を薄く鋭くした形となったらしい。

そのため、剣同士の打ち合いに対する耐久性は意外と脆く、直ぐ使い物にならなくなってしまう。

力比べの鍔迫り合いだって文字通り、刀の刀身じゃなくて鍔を当て合うワケだからな。

だから千冬さんは、IS同士の打ち合いに関しても、日本刀の様に反り返った刀身で、相手の攻撃を受け流させる事を徹底して一夏に教え込んだ。

まぁ白式自体がノンパワータイプなんで、力比べで根負けしたらアウトってのも理由の一つだったがな。

千冬さんの有難いアドバイスに従った一夏は、ISを使った箒との近接訓練でも徹底して受け流す事を守りの主とし、ISが使えない剣道の時も、それをしっかりと学んでた。

お陰で一夏の防御方面の技術は格段に上がったし、体重を乗せて『叩き斬る』を主としてる鈴の青龍刀への対策はバッチシってワケ。

日本刀の反りを受け継いでいる一夏の雪片弐型は、鈴の青龍刀の重さと一撃の力を見当違いの方向へと受け流し、そのまま体勢を入れ替えて無防備な鈴の隣りへと移動する。

 

『初撃はコッチが貰う、ぜッ!!(ズバァッ!!)』

 

『キャッ!?』

 

一夏はその場所から刀を手首で返す様に回し、鈴の無防備な背中を雪片の実体剣でもって斬り伏せる。

ココで零落白夜を使わなかったのは、零落白夜の展開速度が余り早く無い事が原因だ。

ISのシールドエネルギーを無効化させるチート染みた零落白夜は、その絶大な破壊力と引き換えに展開速度は早く無い。

更に自分のシールドエネルギーを馬鹿みたいに消費させちまうから、常時展開させていると直ぐガス欠になっちまう。

オマケに白式自体が燃費の悪さが尋常じゃねえから、必ず大ダメージを与えられると判断した局面以外では展開しない様に俺と千冬さんはアドバイスした。

背中に決して軽くない衝撃を受けた鈴は刀の勢いそのままに前のめりに吹き飛び、空中で即座に体勢を切り替える。

 

『くのッ!?やってくれたわね!!』

 

まさか初心者の一夏に初撃を奪われるとは思ってもみなかったのか、鈴はさっきまでの上機嫌な表情を消して悔しそうな顔になる。

そして、鈴は青龍刀を握っていない片手に粒子を漂わせると、開いた手にもう一振りの青龍刀が展開された。

まるで新体操のバトンの様にクルクル回し、もう片方の青龍刀には決して当たらないという曲芸の様な物を披露しつつ、鈴は一夏へと特攻をかける。

二刀流とか、鈴の奴随分と器用な真似するじゃねえか……アイツが剣を嗜んでるなんて聞いた事無えし、中国に帰ってから訓練したんだろうな。

向こうに帰ってから1年足らずで代表候補生にまで上り詰めた鈴の才能に、俺は内心舌を巻いていた。

 

『はぁッ!!せいッ!!うりゃあッ!!』

 

裂帛の気合と共に縦横無尽な位置から振り下ろされ、踊る様に舞う剣撃の独奏曲。

傍から見てもガキのちゃんばらゴッコとは違って良く洗練されたモノだと伝わってくる程に、鈴の剣は力強い動きを見せていた。

だが、一方でその独奏曲を受け止める一夏の剣筋もテンションをアゲていく。

 

 

 

――――それはつまり、二重奏の始まりの合図でもある。

 

 

 

「うおぉおおおおおおッ!!!」

 

両端に付いた刃を交互に縦横斜めと角度を変えながら鈴は怒涛の勢いで斬り込んでいくが、一夏も負けじとその剣撃をいなしていく。

ガキィンッ!!と幻想的な火花を散らしながら鳴り響く金属の楽器による2人の二重奏。

剣対剣、中国と日本の思想の違いが生んだ異形の形同士の超インファイト。

それは見る者を魅了し、ほぅと感嘆の溜息を吐かせる。

そんな風に観客席が静まり返る中、鈴と一夏は互いに弾かれた様に距離を取り、相手の出方を伺う膠着状態になった。

今まで観客を魅了していたショーが終わり、それから一拍遅れて……。

 

『『『『『ワァァアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

観客席を、いや会場全体をドデカイ歓声が埋め尽くした。

今や席に座っていた少女達は軒並み立ち上がった体勢で手を大きく振りながら歓声を贈り、熱も冷めやぬって感じだ。

かく言う俺も、皆とは違って席に座ったままだが、目の前で繰り広げられた戦いに笑みを浮べている。

いやはや、2人揃って良いモン見せてくれるじゃねぇか。

まだ喧嘩が始まって5分ちょっとだってのに、ここまでギャラリーを沸かせるとは思わなかったぜ。

 

『……まさか、アンタがここまで強くなってるなんてね。双天牙月の連撃をここまで綺麗にいなされちゃ堪んないっての』

 

空中で睨み合っていた2人だが、その静寂を破って鈴が悔しそうな顔で一夏に話し掛ける。

あの青竜刀っぽいの、双天牙月って言うんだな。

スピーカーから響く声に、観客席の歓声はシンと鳴り止み、向こうの言葉を一語一句として聞き漏らすまいと耳を傾けていく。

 

『確かにお前の甲龍のパワーは俺の白式より上だぜ?正直、防ぐのも大変だった……でもよ、ゲンのオプティマスのパワーに比べりゃ、羽みたいに軽かったな』

 

一夏は鈴に笑顔でそう答え、雪片をしっかりと握り直す。

ここでまさかの俺の名前が出た事に鈴の奴は「そういえばそうだった」みたいな顔をし、俺の居る観戦区画の目が又もや俺に集中してくる。

まぁこちとら純粋なパワースタイルですから?生半可な力してませんよ。

 

「……ん?……何だあいつ等?」

 

と、周りの視線を気にしねえ様にしてたら、オプティマスのハイパーセンサーで見ていた他の観戦区画の一角から変な視線を感じた。

不審に思ってそこに目を遣れば、そこにはどう見ても学生って歳からかけ離れている大人の軍団が居た。

全員偉そうな高級スーツを着込んでいて、俺の居る観戦席に色んな感情が篭った目を向けている。

男は興味深そうな視線だったり、まるで値踏みする様な不快な視線……まぁオバハン達のに比べればまだマシな方だ。

オバハン達の視線は、まるで俺を親の仇の如く睨んでたり、そこら辺に転がる石ころを見る様な視線。

だがハイパーセンサーで拡大された奴等のどの顔も、俺はまるで知らねえし、会った覚えもまるで無え。

一体何なんだアイツ等は?

 

「なぁ本音ちゃん。向こうの観戦区画に居るあのジジババ共は誰なんだ?」

 

気になった俺はそのババア共が居る観戦区画を指差して、隣に座ってる本音ちゃんに質問する。

さすがに本音ちゃんは専用機を持っていないので、俺が指さした方向に居るのが誰か分かるのに時間が掛かると思ったが、意外とすんなり答えが帰ってきた。

 

「じじばばって……大人の人達なら~、色んな国の研究所の人とか~、IS企業の人達だよ~?そんな事言っちゃ~駄目だよゲンチ~」

 

「別に構やしねえさ。アイツ等俺を値踏みする様な目だったり、ババアに至ってはまるで汚物を見る様な目で見てやがるからな」

 

口をすぼめて俺に注意してくる本音ちゃんに、俺は笑顔で言い返す。

別に普通に見てくるなら俺は普通の対応をするし、敬語も使うぜ?……だが、ありゃどう考えても俺に喧嘩売ってるとしか思えねえ。

俺に喧嘩売ってるってんなら、俺は女だろーがジジイだろーがババアだろーが平等にブチのめす。

そして俺の言い分を聞いた本音ちゃんは、「あぁ~」と納得した様な声を出しながら、苦笑した顔で俺を見てくる。

 

「多分~その人達は~、女性権利団体だと思うよ~」

 

「女性権利団体?……あぁ、あのファッキンババア共の巣窟か」

 

本音ちゃんから教えてもらった聞き覚えのある団体名に、俺はフンと鼻息荒く席に座り直す。

 

 

 

――――女性権利団体。

 

 

 

この団体は以前まで女性の立場や人権を主張する普通の一団だったが、女性しか使う事が出来ないISと言う兵器の誕生で女尊男卑社会が出来ちまった事で変わった。

それもかなり悪い……いや、悪質な方向にだ。

今や女性の立場と権利を好き勝手に振舞って男性を奴隷のように扱う私利私欲に塗れた傲慢な一団でしかねえ。

例えば欲しい物をタダで手に入れる為に近くにいた見ず知らずの男に買わせたりとか、勝手な言いがかりをつけて男性から慰謝料を請求した後に職を失わせる等々がある。

俺からすれば胸糞悪いゴミ溜めって認識でしかねえし、正直生きてる価値もねえってのが本音だ。

普通に考えればそんな横暴な事をする一団は処罰されてもおかしくない。

だが、女尊男卑社会となっている為に各国が女性優遇制度を作った所為で、今は女性がどんな事をしても許されるってクソッタレた時代になっている。

故にその政策によって、IS操縦者以外の女性達が権力者よりも性質が悪い傲慢な腐れアマ共へと変貌した、要はそんな産廃以下のクソゴミが集まる場所だ。

まぁとは言え、その権利団体に限らず、そして女性全てとは限らず、中には良識を持った女性もちゃんといる。

千冬さんや真耶ちゃん、束さん……はどうかは分からんが、それにお袋に婆ちゃんが良い女の見本だ。

 

「さっき~黛先輩が、ゲンチ~は1年さいきょ~って紹介したからじゃない~?後~、ちゅ~ごくの最新鋭より~オプティマスが強いのが~気に入らないのかな~?」

 

「ハッ。要するに下らねえやっかみって事だろ?男を奴隷としか考えてねえクソ女共の考えそうなこったな……機会がありゃブチのめしてやんのによぉ」

 

俺は横で分かりやすく教えてくれる本音ちゃんに相槌を返しながら、獰猛な笑みを浮かべる。

別にアイツ等が喧嘩売ってくるってんなら、こちとら何時でも歓迎してやんぜ。

まぁ、絶望を身に刻んで死ぬほど、いや死んだ方がマシってレベルまで後悔させてからケチョンケチョンにボコすけどな。

と、俺があの腐れババア共と何時か戦り合う事になった時の事をシュミレートしていると、隣に居る本音ちゃんがグイグイと俺の裾を引っ張ってきた。

どうしたんだろうと思ってソチラに目を向ければ、そこには若干心配そうな顔をした本音ちゃんが居るではないか。

 

「……ゲンチ~って、女の人が嫌いなの~?」

 

「は?……な、何でそうなったんでしょうか本音ちゃん?」

 

ちょっと不安そうな表情で上目遣いに聞いてくる本音ちゃんの言葉が理解出来なかった。

いやいやいや、何で女が嫌いってなったワケ?俺男スキーじゃないよ?

 

「だって~……あの人達の事~滅茶苦茶に言ってたもん……私も事も~……ホントは嫌いなのかな~って」

 

本音ちゃんはそう言うと、不安そうな表情を崩さずに、上半身を俺の胸辺りに凭れさせてくる。

下から俺を見つめる本音ちゃんの瞳は、何だか捨てられそうな猫そのものだった。

え?もしかしてそれだけの理由で?っていうか嫌いなワケ無いでしょうが。

俺はさっきまでの獰猛な雰囲気を消し去り、ニコやかな笑顔を浮かべて胸元に凭れてる本音ちゃんの頭をグニグニと撫でた。

 

「そんなワケ無えじゃねぇか?俺が嫌いなのは、性別だけで相手を好き勝手扱えるって考えてるウジの湧いた頭してる連中の事だよ。本音ちゃんみてえな優しい娘を嫌ったりなんて有り得ねえな」

 

「はぅ……ホント~?私、わがままじゃ無いかな~?嫌々、私と居るんじゃ無いんだよね~?」

 

「おう。ホントホント。それに天地が引っ繰り返っても有り得ねえが、もし本音ちゃんが嫌いだったら俺は本音ちゃんとまともに口も聞いてねぇさ」

 

「ッ!?そ、そっか~♪じゃあ、私は嫌われて無いんだね~?良かったよ~♡(て、天地が引っ繰り返っても在り得ない、ですか~♡もぅ♡ゲンチ~ってば~♡)」

 

俺の言葉に気を良くしたのか、本音ちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべて俺から離れる。

そして、何やら頬に手を当てながらイヤンイヤンと幸せオーラを撒き散らせ始めた。

ど、どうしたんだ本音ちゃんは?……ま、まぁ喜んでくれてんならそれで良いとしとこう。

今は目の前で戦ってる幼馴染み達の事を気にしとかなきゃな。

そう考えて空中に浮いてる鈴と一夏に視線を向ければ、鈴は一夏の言葉に苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

『羽みたいに軽いとか……言ってくれるじゃない?一応この甲龍は、中国機随一のパワータイプで最新鋭機なんだけど?』

 

『別に最新鋭機でも、防げるなら問題ねえさ……ゲンと生身で特訓した時なんか防御で顔面の前にだした木刀がへし折れて、そのまま木刀の破片事ブン殴られたんだぜ?オプティマス装備なら、一瞬の拮抗すら出来なかったっての。……アレを受けた後じゃ、受けれる攻撃なんかまるで問題にならねえ』

 

『……そうだった……!!アイツの前じゃ防御なんかまるで意味ないのを忘れてたわ……!!路上で喧嘩した時も、鉄パイプを構えてた相手を鉄パイプごとブッ飛ばしてたわね、アイツ』

 

『まさか相手も自分の防御してた鉄パイプがそのまま凶器に繋がるとは思って無かっただろうけど……まぁ兎に角、そんな非常識の塊と特訓してきたんだ!!それぐらいのパワーじゃヘコたれねえぞ!!』

 

おいコラ兄弟?誰が非常識の塊だえぇオイ?俺はそこまで人間辞めたつもりは皆無だからな?

長年一緒に居る兄弟分に随分と酷い言い草をしながら、一夏は雪片を実体剣のままに上段に構えて鈴を見据える。

もはや様子見は終わりだと語る一夏の動きに、鈴は両手に持つ双天牙月を回転させながら、その柄尻同士を近づけ、ガチンッという音を鳴らして連結させた。

おいおい、あの双天牙月ってのはあんな双刃でも使えるのかよ、カッコイイじゃねえか。

刃の向きを左右反対向きに組み込んだ双刃モードの双天牙月を器用に振り回しながら、鈴は堂々と一夏に視線を向ける。

 

『上等よ!!こっちだって伊達で代表候補生やってんじゃないからね!!生半可な訓練はしてないんだから……コレ以上無いってぐらいに、キッチリとブッ飛ばしてあげるわ!!』

 

『へっ!!後で吠え面かくなよぉッ!!!』

 

2人はそのまま武器を構えて突進し、再び超インファイトを開始する。

方や雪片を使った受け流しからの攻め、方や両刃の双天牙月を使った攻防一体の剣撃。

互いに一歩も譲らず、その先へと繋がる決定打を出せずに只打ち合うのみだ。

まぁこれは一夏だけの話しだが、一夏の白式は後付け装備(イコライザ)が詰めないという弱点を持ってる。

これはある種仕方の無え話しで、白式の拡張領域はもう99,9%埋まってるらしい。

ただ一度点検した時の話しでも、オルコットも箒も検討が付かない上に原因が良く分からないという事だった。

故に一夏の武器は雪片オンリーで、近接格闘以外に戦う手段は残されていない。

つまり、一夏はその土俵以外では戦えないんだが、鈴は違う。

まず間違いなく、射撃、もしくはそれに順ずる物を絶対に積んでる筈だ。

っていうか代表候補生に幾ら実験機といってもブレオンの機体を渡す馬鹿は、一夏の白式を作った倉持技研ぐらいなモンだろう。

 

『うぅ……!?くッ!?』

 

『ほらほらほら!!さっきまでの威勢の良さはどうしたのよぉ!!』

 

やがて、暫く保っていた均衡が崩れ、一夏が苦しげな顔で苦悶の声を上げた。

今やさっきまでの均衡は完璧に無くなり、鈴の双天牙月による連撃の嵐が一夏を押し始めている。

複雑な軌道を描きながら一夏を襲う双天牙月の操り手である鈴は、さっきと同じ様な自信に満ち溢れた笑顔で武器を振るう。

ちっ、やっぱ幾ら俺や千冬さんが鍛えた所で、所詮は1週間ちょっとの付け焼刃だったか。

ここに来て一夏と鈴の地力、体力の差が出てきて、体が全く負い付かなくなって剣がワンテンポ遅れてやがる。

幾ら一夏が才能溢れるダイヤモンドの原石だといえ、まだまだ全然磨けてねえからな。

今のままじゃジリ貧だと悟ったのか、一夏は鈴の大振りな横薙ぎを剣で流さずに回避すると、後ろに後退して距離を取った。

って待て待て!?白式の武器は雪片しかねえんだから無闇に距離を開けたら――――。

 

 

 

俺が一夏の愚策に心中でマズイと感じた次の瞬間――――。

 

 

 

『甘いッ!!(バォオオンッ!!!)』

 

『ッ!?(ボォゴアァッ!!!)ぐあッ!!!』

 

 

 

甲龍のアンロックユニットがスライドして、少し光ると、一夏が吹き飛んでいた。

まるで見えないナニカにブン殴られた様な軌道を取り、一夏はアリーナの地面へ一直線に落ちていく。

 

『(ガシャァアンッ!!!)ぐうッ!!?』

 

そして、轟音と少しの振動を響かせて、一夏は地面とディープキスをカマしてしまう。

一方で空中に居る鈴は、地面に大の字に倒れる一夏を見て、ニヤリとした笑みを浮かべていた。

余りの急展開に目をポカンとさせていると、オプティマスのガラスウインドウに、新たな項目が浮かび上がる。

 

『甲龍の第3世代型兵器の使用を確認』

 

第3世代型兵器……ヤッパあいつの機体にも積まれてやがったか……そこらのノーマルな武器とは一戦を課すトンデモ武器が。

オプティマスから知らされた情報を確認しつつ、俺はココで出て来た鈴の隠し球が何なのか考えてみる。

アリーナの向こうでは、起き上がったばかりの一夏に再び襲い掛かる見えないナニカが地面に撃ち込まれていく。

そのビックリドッキリウェポンの襲撃を、一夏は紙一重で何とか回避して空中に飛び上がった。

武器を使ってる筈の鈴は、最初の場所から一歩も動いていないのに、ナニカの衝撃だけが次々と襲いかかる奇っ怪な場面。

ただ、その衝撃が出る少し前に甲龍の肩のスパイクアーマーの中の珠が光っていることを見れば多分絡繰りはそこだろう。

撃ち込まれた地面はそこまで陥没してないって事は、威力は中の上ってトコか?

 

「あれはね~。『衝撃砲』っていうんだよ~?」

 

俺が鈴の武器のからくりを必死に考えていると、隣に座っていた本音ちゃんがニコニコと笑顔で俺に声を掛けてきた。

って……衝撃砲?聞いた事が無え武器の名前だな?

 

「本音ちゃん、その『衝撃砲』っつー武器の事知ってんのか?」

 

「うん~♪まずはね~?空間自体に圧力を掛けて砲身を作って~、で余って出来た衝撃を砲弾にして打ち出すんだ~。簡単な特徴は~、空間を圧縮してるから~弾切れも無いし~、見えないって所かな~?」

 

俺の質問に、本音ちゃんは笑顔を崩さずに懇切丁寧に説明してくれた。

ただ、幾ら丁寧な説明でも、俺の頭がその説明に追い付いてねえからんまり意味無えけど。

しかし、本音ちゃんは今の説明で俺にちゃんと伝わったのか気になってる様で、瞳をキラキラさせながら俺を見てくるでないか。

自分の口で「ワクワク♪ワクワク♪」って言ってるし……こんな表情見せられたら分からなかったじゃ済まされねえよ。

と、いうわけで、俺は頭に手を当てながらウンウン唸りつつ、本音ちゃんの言葉を自分なりに纏める作業に入る。

 

「衝撃を撃ちだす?……弾が見えない?…………アレか?未来から来た青狸の空気砲的な?」

 

「大体はそんな感じだよ~♪参考になったかな~~?」

 

「お、おう。サンキューな」

 

「むふふ♪……ホットケ~キに~……アイスを乗せて欲しいな~♪」

 

俺の言葉を聞いた本音ちゃんは謙遜するワケでも無く、何故か色気のある流し目で俺にお礼をリクエストしてくる。

追加注文入りましたー♪っていうかアイスまでトッピングっすか?益々出費ががが。

しっかし色気を乗せた流し目でデザートの追加オーダーって……色気出して食い気もなんて器用ですね本音ちゃん。

最近割りと出費の多い我が財布事情を考えながら、俺は少しヒクついた笑顔を浮かべてしまう。

 

「り、了解だ……チョコチップバニラを作って乗せさせて頂きます」

 

「わ~い♪」

 

俺の言質を取った本音ちゃんは、そりゃもう小躍りでもしそうな勢いで腕を振り回して喜びを露わにした。

地味にペシペシと俺とか本音ちゃんの横に座ってる娘に裾が当たってる。

嬉しいのは分かるけどもうそろそろ止めようね~本音ちゃん?横の娘さっきから顔の近くに当たりそうで怖がってるから。

 

『へぇ……良く躱すじゃない?この『龍砲』は、砲弾も砲身も見えないのに……でも、それが何時まで続くかしら!?』

 

『く!?うおあ!?』

 

俺が本音ちゃんとコントを繰り広げている間に戦いは更に苛烈さを増し、一夏は鈴の放つ衝撃砲を必死に避けていた。

鈴はその場から動かずにありったけの砲弾を放ち、一夏は機体を縦横無尽に動かしてそれを避けつつ距離を詰めようと飛ぶ。

途中、何発かこの観戦席に外れた衝撃砲が飛んできたが、アリーナのシールドが俺達を守ってくれてるので、被害はまるで無い。

精々困るとすりゃ、当たる度にドォオン!!とウーハーの響く様な重低音が鳴ってウルセエってトコだな。

 

「およ~?おりむ~が何かしよ~としてるのかな~?」

 

「ん?……あぁ、確かにありゃ、『今から何かするぞ』って顔だな……」

 

本音ちゃんの言葉を聞いて一夏を拡大して見てみると、白式を駆る一夏は、鈴の攻撃を回避しつつ鈴の射線から抜けそうで抜けない絶妙なポジションを執っていた。

しかも鈴の機体の周りを回転するかの様な軌道で飛行している……って事は、多分鈴の視界から自分を外そうとしてるんだろう。

視界から自分の存在を消して、そこから奇襲……って事は千冬さんが教えてた瞬時加速 (イグニッション・ブースト)を狙ってんのか?

瞬時加速 (イグニッション・ブースト)てのは、ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み圧縮して放出する飛行技術だ。

その一度開放された爆発的なエネルギーをスラスターに戻した際に得られる慣性エネルギーを使って爆発的に加速する事が出来る。

良くドラッグレースやゼロヨンなんかで使われるニトロ加速装置、通称NOSに似てると俺は思う。

瞬時加速の速度は特に決まっておらず、外気に放出したエネルギーの量に比例する。

しかも自分のISのエネルギーじゃなくても、外部の何らかのエネルギーを使用してもいいって便利な技だ。

ただし当然デメリットもある。

それは、瞬時加速の使用中は加速に伴う空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えることができず、直線的な動きになるって事だ。

無理に力技で軌道を変えたら、絶対防御があっても最悪骨折に繋がるって千冬さんが言ってたっけ。

それともう一つの特徴は、この技は所謂初見殺しに最適な技術ってトコだ。

何せ離れた距離をほぼ一瞬で縮める事が可能な上に、相手が対処する前にコッチの初動が早ければそれで終わり。

幾ら鈴が代表候補生つっても、一瞬でトップスピードを叩き出す瞬時加速、そして機動力と速度に特化した白式の奇襲攻撃にゃ耐えらんねえだろう。

オマケに一夏にゃ一撃必殺と言っても過言じゃねえ隠し球『零落白夜』がある。

もし奇襲が成功すりゃ、試合の流れは一気に一夏へ傾くだろうな……失敗すんなよ、一夏。

 

『あぁもう!?チョコマカと動くんじゃないわよ!!こんのぉおおおおおッ!!!(ギュボボボボボボッ!!!)』

 

『ふ!!今だ!!』

 

そして、一夏が鈴の周りを撹乱する様に飛び続ける事5分ぐらい経った頃、状況が動いた。

当たるか当たらないかという限界ギリギリの所を飛翔していた一夏の行動に、鈴は持ち前の短気さを遺憾なく発揮させ、衝撃砲を辺りにバラ撒く。

だが、それは今まで飛んでいた一夏に狙いを付けて打つ様な正確なモノじゃなく、ただやぶれかぶれに連射するという冷静さを欠いた行動だ。

 

 

 

――――それが、一夏に絶対的なチャンスを与え、鈴に決定的な隙を生み出した。

 

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

『ッ!?』

 

我慢強くチャンスを待っていた一夏は鈴が生み出した決定的なチャンスに食らいつき、雪片の刀身をスライドさせてレーザーの刀身を露わにする。

全IS中トップクラスの威力を誇る世界最強の称号を受け継いだ唯一仕様『零落白夜』のお披露目だ。

そのまま一夏は雪片を両手で握った体勢からスラスターを吹かし、本番一発で、瞬時加速を成功させやがった。

いきなり視界から消えた一夏、そしてさっきまでと違うレーザーの刀身、オマケとばかりにトップスピードで迫る白式。

この3つの要素が一度に鈴に襲いかかった所為で、鈴はその場から動けず身体を硬直させてしまう。

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアッ!!!(ビュォオオオンッ!!!)』

 

スピードに乗った一夏は硬直して動かない鈴に、雪片を気迫と共に振り下ろす。

こりゃあ一夏の勝ちか?

 

 

 

 

 

そして、一夏の振り下ろした雪片が鈴に届く瞬間――――。

 

 

 

 

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

 

 

 

一筋の閃光が、アリーナの地面にブチ当たり、轟音と砂塵を巻き起こした。

 

 

 


 
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