No.602237

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ四十七

 お待たせしました!

 遂に迫る一刀達の帰還。

 それを知った皆の心の内に去来する物は…。

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2013-07-27 20:52:19 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:4630   閲覧ユーザー数:3761

 

 俺と朱里が元の世界に戻る日が近い事はその日の内に皆へと伝える事とな

 

 った。

 

 そしてそれを知った皆の顔には戸惑いや悲しみの他に『やはり…』という

 

 心の内も感じられるものがあった。やはり皆、心の何処かでそういう事に

 

 なるのではないかという思いはあったようだ。

 

 それからはそれまで以上に政務の形作りに皆が没頭し始めた。それはまる

 

 で俺達がいなくなるという事を忘れようとしているようにも見えて、それ

 

 を見ている俺達の心にもくるものがあった。

 

 ・・・・・・・

 

「さあ、皆さん召し上がれ」

 

『いただきま~す!』

 

 朱里の声に皆の声が一つになって答える。

 

 あの日以来、出来るだけ皆が集まって朝食を摂っていた。

 

 作るのは朱里だったり流琉だったり紫苑だったりと日々違うが、食べるの

 

 は必ず皆で集まっていた。ただ、今までと違うのは何時もより食事の時間

 

 が長くなっている事だった。それはまるで皆がこの時間を名残惜しく思っ

 

 ているようでもあった。

 

「さあ、今日も仕事だ」

 

 俺がそう言うと皆が仕事に散らばっていくのももうお馴染みになっていた

 

 のであった。

 

 

 

「ご主人様」

 

 皆が行った後、後片付けを終えた朱里が話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「仕事の引継ぎについてはほとんど終わったのですが、一つだけ問題が…」

 

「問題?」

 

「はい、陛下より私達が帰った後の人事についてのお達しがまったく無いの

 

 が…詠さんにも確認したのですが、その話になった途端に陛下は話を変え

 

 てしまうか席をたってしまうかで意図的に避けてるとしか思えないと…」

 

 朱里の報告を聞いて俺は渋い顔になる。想像出来た事とはいえ、此処まで

 

 あからさまでは…やはりもう一度俺自身が話をしてくるしか無いという事

 

 なのだろうか?

 

「…分かった。洛陽へ行ってくる」

 

「私もお供します」

 

 ・・・・・・・

 

「一刀、朱里、待たせたわね」

 

 洛陽に着いた俺達は真っ先に陛下へ謁見を願ったのだが、まったく音沙汰

 

 も無く、二刻程して話を聞きつけた詠が顔を出す。

 

「陛下は?」

 

「それが…二人が来たと聞くなり後宮に籠ってしまわれて出てこないのよ。

 

 後宮はあくまでも陛下の私的な場、勝手に入れないしボクも月も困ってい

 

 るのよ」

 

 こりゃ予想以上に難題そうだな…ならば。

 

「俺が後宮へ行く」

 

「へっ!?…あんた何言ってんのよ、そんな勝手に…」

 

「忘れたのか?陛下のお腹に宿っている子供の父親は誰なのかを」

 

「…そうだったわね。あんたは入れるのよね…すっかり忘れてたわ」

 

「本当はこういう権限を行使したくは無かったのだけどね」

 

 ・・・・・・・

 

 俺は後宮に入り、まずは陛下の部屋に行ってみたが姿が見えなかった。

 

「此処にいないのなら…あそこか」

 

 

 

 俺がそこへ行くと命が座って空を眺めているのが見える。

 

 そこは先帝の墓の前である。命は考え事をする時には此処に来る事が多か

 

 ったのである。

 

「命、此処にいたか」

 

「えっ…一刀!?何故勝手に此処まで来とるんじゃ!」

 

「俺は入れるだろ?そもそも命が決めた事じゃないか」

 

 咎めだてするような眼をする命に俺がそう言うと、命は言葉を詰まらせる。

 

「そうじゃったの…で、何用じゃ?」

 

「俺がいなくなった後の事で…」

 

「此処は私的な場じゃ、仕事の話はしない約束じゃぞ」

 

「なら表に出てきてもらわなくては話になりませんね。このままでは問題を

 

 先延ばしにするだけですが」

 

 俺のその言葉に命は伏し目がちにこう答える。

 

「先延ばしではダメなのか?問題を残したままだったら天の御遣いとしては

 

 帰れないのではないのか?」

 

 そういう事か…確かに俺個人としては問題を残したままで帰るなんて事は

 

 出来ないけど…。

 

「ダメだな。俺と朱里がこのままこっちに残り続ける事がこの世界に逆に悪

 

 影響を及ぼす事になるのはお前も聞いただろう?」

 

「そんなの…そうなってみなければ分からないではないか!そんな何時なる

 

 のか分からん話で…」

 

「何時などという悠長な話では無いな。俺達は後一月もしない内にこの世界

 

 から消える。逆に言えば、それ以上居る事が危険だという事だろう。なら

 

 ば、俺達はこの世界の存続の為にこの身を消す覚悟はある。そしてお前は

 

 この国の皇帝だろう?ならばこの国が存続する為に尽くす覚悟が必要にな

 

 るはずだ。例えそれが何かを犠牲にする事になってもな」

 

 

 

 命は俺のその言葉をうつむいたままで聞いていた。

 

「まったく…何でそんなにはっきり言えるんじゃ?もう少しお主も迷っては

 

 くれんのか?」

 

「…迷う事が許されるんだったらたっぷり迷いたい所だけどな。実を言えば

 

 俺はこういう状況が始めてというわけじゃない。何度やったって慣れるも

 

 んでもないけどね」

 

 俺のその言葉に命の顔に疑問の色が見える。

 

「これは誰にも言ってなかったんだけど…俺は前にも違う世界に行った事が

 

 あってね。朱里は本当はそこの世界の人間だったんだよ」

 

「それでは…お主はその世界から朱里を連れてきたという事か?」

 

「そうだよ」

 

 俺がそう返答すると、命は少し考えこんで、

 

「…少し朱里と話をさせてくれんか?」

 

 俺はその言葉に頷くと、朱里を呼びに出て行く。

 

 ・・・・・・・

 

「お待たせしました」

 

「すまぬな朱里、わざわざ来てもらって。身体は大丈夫か?」

 

「はい、最近は」

 

「そうか…それは重畳。実はな…お主に聞きたい事があってな」

 

「私の身の上の事を話したのはご主人様から聞きました」

 

「うむ…お主は違う世界に行く事は怖くなかったか?」

 

 命のその言葉に朱里は少し考えこんでから答える。

 

 

 

「私が元の世界から飛ばされた時は無我夢中でしたので、最初の内はそうで

 

 もなかったのですけど…しばらくしてからは寂しいと感じる事も多かった

 

 です。何せもう生まれた所にも行けなければ家族にも会えないのですから。

 

 正直、ご主人様がいてくれなかったらとうの昔におかしくなってしまって

 

 いたかもしれません」

 

 朱里のその述懐を命は黙って聞いていた。

 

「すると、一度そっちの世界に行ってしまうと二度と此処には戻って来れな

 

 いという事か?」

 

「はい、貂蝉さんはそう仰っておられました」

 

「お主は本当にそれで良かったと今でも思っているのか?」

 

「いろいろ迷う事は今でもあるのですけど…私にとってはご主人様が全てで

 

 すので。他に何もありませんでしたしね」

 

「そうか…そうなのじゃな。なれば、本当にちょっと一刀の世界に遊びに行

 

 って…などという事も出来んのか…本当に皇帝という身分はこういう時に

 

 は面倒じゃの」

 

 そう言っていた命の顔はほんの少しではあるが、ふっきれたような表情に

 

 なっていた。

 

「ありがとう、月と詠に明日は政務に出ると伝えておいてくれ」

 

 命は朱里にそう伝えると自室へと戻っていった。

 

 朱里は何か声をかけようとしたが、命の背中からはそれを拒むような空気

 

 が出ていたのでその場は黙って引き下がっていったのであった。

 

 

 

 そして次の日。

 

「皆、すまなかったの。それでは改めて朝議を始める」

 

 そこには皇帝としての顔を完全に取り戻した命の姿があったのである。

 

「まずは…皆も知っての通り、此処にいる北郷と諸葛亮は天の御遣いとして

 

 の役目を終え、程無く天の世界へ帰る事となった。本当であればこのまま

 

 ずっと此処に留まり力になってもらいたい所ではあるのだが、これもまた

 

 天命と申す物であろう。だから、妾は笑って見送りたいと思う。それこそ

 

 二人が帰るのがもったいなく思える位にな」

 

 命のその言葉に、月を始め居並ぶ面々の眼に強い意志が宿ったような光が

 

 見えた。

 

「それではまず、一刀達がいなくなった後の荊州と益州の統治について…」

 

 命がそう朝議を取り仕切るのを見ながら、俺は朱里にそっと話しかける。

 

「朱里、昨日は一体何を話していたんだ?」

 

「それは秘密です」

 

 朱里はそれ以上何も言わなかった。それ以上はツッこめなさそうだ。

 

「こりゃ、朝議中に何を二人でこそこそ話しておる?真面目に参加せんか!

 

 事はお主達に関係する事じゃぞ」

 

 そこへ命にそう怒られた俺達はちょっと苦笑いを浮かべてから朝議に戻っ

 

 たのであった。

 

 そして朝議が終わった後。

 

「一刀、ちょっと良いかの?」

 

 命が俺に話しかけてくる。

 

「はい、俺は大丈夫ですが…」

 

「そうか。では朱里、少し一刀を借りていくぞ」

 

 命は朱里にそう告げるや否や俺の左腕に自分の右腕を絡めてそのまま俺を

 

 後宮へと引っ張っていった。

 

 

 

「お~い、何処まで行くんだ?」

 

 命の自室に連れて行かれるとばかり思っていたのだが、居住区や中庭も通

 

 り過ぎてもまだ歩みを止めようとしないので、少し不安感に苛まれた俺は

 

 命にそう声をかける。

 

「もう少しじゃ、我慢せい」

 

 そして…。

 

「此処じゃ」

 

 そこは洛陽の街だけでなく遠くの景色まで見渡せる絶景ポイントというべ

 

 き場所であった。そこから街を見ると、多くの人が行き交う様が見える。

 

「どうじゃ、いい景色じゃろ?妾のお気に入りの場所じゃ」

 

「ああ、街の活気が見て取れるな」

 

「この賑わいもお主と朱里がこの世界を救ってくれればこそじゃぞ」

 

「命にそう言われると何だか照れるな。でも皆が頑張ってくれたからだよ」

 

「皆が頑張れたのもお主達のおかけじゃよ」

 

 命はそう言うと俺の手をそっと自分のお腹の上に持ってくる。

 

「そしてこの子がこれを守っていくのじゃ。その頃にはもう一刀は此処にお

 

 らんがの」

 

 改めてそう言われると何だか申し訳ない気持ちになってくる。

 

「それも運命なのじゃろ?本当の事を言えばとても寂しいがの。この子にも

 

 父親の顔を見せてやれんのじゃし。じゃから…せめてしばらくこうしてい

 

 てくれ。まだまだかすかにしか感じられんかもしれんが…此処にもお前の

 

 子がいる事と、この子が守り育てていくこの街とこの世界をな」

 

 俺はその言葉に頷くと、しばらくの間そのままでいたのであった。

 

 

 

 それからの一月は一気に過ぎていったように感じた。そして…。

 

「さあ、皆とは此処でお別れねぇん」

 

 泰山の麓にて、貂蝉に促され、俺と朱里は見送りに来た皆の方へ振り返る。

 

「皆、ありがとう。本当の事を言えばまだまだ一緒にいたいけど…此処でお

 

 別れだ」

 

 俺達を見る皆の顔は一様に泣き笑いの表情を浮かべていた。

 

「さあ、皆の者!一刀と朱里の門出じゃ、笑って送ろうぞ!!」

 

 一番泣きそうな顔をしていた命のそのかけ声で皆が一斉に最高の笑みを浮

 

 かべる。

 

「ありがとう…本当にありがとう!」

 

「ありがとうございました!」

 

 俺達はそのまま振り返る事無く泰山の中へ入っていった。

 

 ・・・・・・・

 

「行ってしまわれましたね…」

 

 そう呟いたのは、一刀の後を継いで南陽の太守となった輝里であった。

 

 その言葉に皆は感慨深げに頷き、一斉に涙を流していたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「此処からか?」

 

「そうよぉん。あそこに鏡が見えるでしょぉん?」

 

 泰山に建てられていた廟の中に入った俺達は貂蝉の案内に従って元の世界

 

 に戻る『門』の前まで来ていた。

 

「前の時もこのような場所でしたね」

 

 朱里の眼にはまだ涙が溜まっていた。

 

 

 

 

 

 その時。

 

「ふん、ようやくの登場か」

 

 その声と共に現れたのは…。

 

「お前…まさか!」

 

「ああ、久しぶりだな。此処の外史を葬る事は出来なかったが、お前の命は

 

 貰いにきた!」

 

 何と…左慈であった。

 

「あらぁん、此処でご主人様の命を奪ったって何もならないわよぉん?」

 

「黙れ貂蝉、そんな事お前に言われなくても分かっている。お前と卑弥呼に

 

 邪魔されたせいでこの外史にまったく手出しは出来なかったのだからな!

 

 だがこのままでは俺の気が治まらんだけだ!」

 

「いや、それってただの八つ当たりじゃないのか?」

 

「う、うるさい!!北郷一刀、おとなしく俺に殺されろ!!」

 

 何だか釈然とはしないのだが…このままじゃ埒が開かないし、やはり戦う

 

 しかないのだろうか?

 

 

 

 

 

                                          …続く。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 さらにいろいろすっ飛ばした感じになってしまいましたが、

 

 もう完結間近でございます。

 

 後は突然やってきた左慈をどうするかですが…さて?

 

 とりあえず次回はこの続きからです。一刀と朱里は無事に

 

 元の世界に戻れるのか?

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ四十八にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 追伸 左慈は一人で来たので、于吉の登場はありませんので

 

     悪しからず。 

 

 

 

 


 
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