No.600840

『舞い踊る季節の中で』 第138話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 納得も理解もする訳にはいかない。
 何故それ程の厳罰を下されなければならないのか。
 賈駆から告げられた内容に魏延は声をあげる。

続きを表示

2013-07-23 21:48:08 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:7110   閲覧ユーザー数:4989

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第百参拾捌話 〜其処に在りし舞いは、まだ名が付いていない〜

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

焔耶(魏延)視点:

 

 

 個人の部屋としてなら広いと断言できるが、役職に応じた部屋の大きさかと問われれば、決して十分な広さとは言えない部屋。それでも狭苦しく感じないのは、部屋の持ち主が変わって間もないと言うのも理由と言えるかもしれないが、それ以上によく整理されている以上に、運び込まれる膨大な仕事を一定量以上溜めこまずに次々処理するだけの几帳面さと真面目さが、その部屋の主の性格を表しているからなのだろう。

 

 はっ?

 

 その部屋の中で聞かされる処罰の内容に、疑問と不満が私の頭の中を駆け巡り、その後に続く理由や今後の対処が片方の耳から入ってはくるものの、もう片方の耳から抜けていくだけの不思議な感覚を感じながら、ワタシは思うままに不満の声をあげてしまう。

 

「何故ですかっ!」

「理由は、今、告げた通りよ」

 

 だけど声を荒げる私に対して、目の前に立つ少女は、つまらなそうな口調でそう冷たく返す。

 苦情も申し立ても聞く気はない。黙って従えと。その大地を示す色の瞳に、文字通り大地の如く硬い意志を込めて。

 目の前にいる緑色の髪の少女………、詠の言う事が分からない訳では無い。

 この国で法を司る職に就いた以上、私情を抜きでの公正な判断を下す事の出来る人物だと、出会って短いながらも、そう信じられるだけの事を彼女はその短い間でやってきた。

 それでも納得いかない事に、このまま黙って従う訳にはいかない。

 数日前、街の中で蒲公英を相手に大騒ぎを引き起こしたうえ、アイツ等(・・・・)が関わってしまった以上、処罰は免れない覚悟はしていたさ。

 だから謹慎だろうと減給だろうと、アイツ等(・・・・)に媚びを売るような内容で無い限り、文句を言うつもりは決してなかった。

 だが、詠が下した処罰は………。

 

「そんな事、承服できませんっ!」

「だったら、今すぐ軍を止めなさい。 アンタがこの国や仲間、そして桔梗に受けた恩を簡単に捨てられると言うのならね」

「ぐっ!」

「処罰が軽すぎる。そう言いたいのは分かるわ。 アンタの性格からしてね」

 

 桔梗様やこの国を離れるだの、私にとって絶対にありえない選択を押し付ける事で私の出鼻を止めた詠は、私の言いたい事は分かっていると言う。それはつまり分かっていて、それを選択したのだと。

 詠が下した処罰の内容、それは自宅謹慎伍日。詠が言ったように、処罰としては軽い方だが、起こした騒ぎの内容からして重い処罰とも言えず。騒乱罪と言うだけなら、まぁ妥当な処罰の内容と言える。 しかも既に事件から自室待機のまま数日経っているため、不謹慎な者ならば『事実上、御咎めなし』とさえ捉える事が出来てしまう。

 むろんワタシは間違ってもそんな受け取り方はしない。何より自分が其れを良しとしないからだ。

 それよりも問題なのは私の事では無く。

 

「ワタシが言いたいのは、蒲公英が将の職を解かれ、一般兵へと降格処分とする重すぎる処分に対して、ワタシをその程度で済ますと言うんですか!? 街の大通りで暴れたのは私も同じ。それにアイツ等(・・・・)に得物を向けた・」

「それ以上言うのなら、本気でアンタを軍から放り出すわよ」

「ぐっ! またそれかっ! そう言えばワタシが黙ると思っているのか!」

「そんな事、思う訳ないじゃない。迂闊な事をアンタの口から言わさせないための口実よ。いいから黙って話を聞きなさいと言っているだけ。

 それと、これだけは最初に言っておくけど、アンタの言うアイツ等(・・・・)からは何も言ってきていないわ。あの時、正体も名も明かさなかったのはそう言う事よ。それくらいの事は武官であろうとも察しなさい」

 

 蒲公英に降格処分に対してワタシの処分が軽いのは、あくまで仕事中に起きた騒動に巻き込まれただけで、それを的確に処理できなかっただけに過ぎない。という先程の理由はあくまで表向きの内容だと言う事。

 むろん、それも処分の内容としてはあり得ない事では無いが、今回の件は、国としての思惑があるからなのだと。

 桃香様と月様が劉璋様に変わりこの国の王に成られたとは言え、それを快く思わない民がいるのは仕方が無く、中には盗賊上りと野蛮人と同列視している者さえいる。

 そして当然ながら旧くから劉璋様に仕えてきた者達にとって自分達は新しい王達に邪魔者として排斥され。

 最悪、密かに処分されるのではと疑心暗鬼になっている者も少なくはない。

 

「だからこそ、新旧関係なしでの公平さを示す必要があるのよ。

 蒲公英は旧劉璋軍とは言っても、旧劉璋軍にとって実績も任期も何もない新参者。殆どの人達にとって桃香達側と思われているわ」

「つまりワタシ達への処罰を利用したと」

「ええ、そうよ。悪い?」

 

 なんの悪びれもせず。はっきりとそう言い切る詠に、私は思わず毒気を抜かれる。

 開いた口が塞がらないという言葉があるが、きっとこう言う事を言うのだろうと頭の片隅に浮かべるワタシに、詠は静かに語る。

 少なくてもこれで街の人間は新しい王達を、それなりに評価するだろうと。

 徳では無く、法でもって国を治める王だと。

 ああ、それは構わない。

 ワタシと蒲公英の諍いを利用しようとも、それで民達が少しでも安心して暮らせるのなら、それで構わない。

 詠が釘を刺したように、蒲公英への処分の内容としては、けっしてあり得ないものではなく。そのうえで蒲公英とワタシを、桃香様側と旧劉璋様側の関係を表して見せ、それを牽制する必要があるのも理解できるし納得もして見せよう。

 

 だが、それでは蒲公英はどうなる。

 

 確かに、蒲公英のした事は許されるべき事では無い。

 蒲公英もそれなりの処分は覚悟していた筈。気に喰わない尻軽女だが、其処まで考えの無い奴だとは欠片も思っていない。

 あいつは多くの自分の仲間のために……。

 一緒にこの地までついて来てくれた一族達が安心して暮らせるために……。

 蒲公英達の一族が、この地に住むよからぬ考えを持つ人間に危険に晒させないために……。

 こうなる事を覚悟の上で、槍を持ってワタシの前に立ったのだと私は知っている。

 いくら気に喰わなかろうが、嫌いな奴だろうが、それだけは分かるし、その想いを無駄になどしたくない。

 同じ民を想う将として…。

 なにかを守りたいと想う者として…。

 甘い奴だと思われようとも、その想いだけは守ってやりたい。

 考えていた事が顔に出ていたのか、詠はそんな私に諭す様に言いだす。

 

「蒲公英の降格処分に関しては、彼女自身から言い出した事なのよ。

 なら、アンタが其れを気に掛ける必要は、何処にもないわ」

「………へ?」

「まぁ、ボク達としては渡りに船ではあったけどね。

 幾らアンタの言うアイツ等(・・・・)がそう言う気が無くて、厳罰だのを望んでいないと解ってはいても、此方側としては『はい、そうですか』と言う訳にはいかないのよね。

 そんなの借りや後ろ暗さを持つ事と一緒だもの。

 だからボク達としては、アイツ等のそう言う思惑を利用して、この程度の処分で国としての体面を保てるよう収めたかったのよ。『ボク達はちゃんとやるべき事をやったんだから、後から文句は聞かないわよ』ってね」

 そんな国の体面だのの、どうでもいい事をおまけの様に付け加えるようにして、蒲公英の当分の処遇を聞かされる。

 それすらも、将一人を抜けた穴を埋めるため、蒲公英の義姉である翠と、今回の騒動の張本人の一人であるワタシが主にその皺寄せを受け持たなければならない事を、それも処罰の一環として受け止めてほしいと。

 

 

 

 詠の部屋を出た私は、何となく回廊を抜け庭の方へと歩きながら、ワタシは考えていた。

 蒲公英はいったい何を考えて自分から厳罰を望むような事を……。

 将の職が嫌になっただなんて事はない。蒲公英の奴は将としての自覚に乏しい尻の軽い言動ばかりしてはいても、将として相応しくないかと言えば、ワタシは首を横に振らざる得ない。

 武の腕も愛紗や翠達には遠く及ばなくても、将としての水準は大きく上回っているし、認めたくはないがその実力はワタシに近い。

 何より、あの面倒見の良さや仲間を守ろうとする想いをみても、将としては一目置かざるえない。

 だからこそ、今回の蒲公英への処分は、例え蒲公英本人が望んだとしても納得がいかない。

 一般兵に組み込むには蒲公英は、実力も違い過ぎるし、何より人望がありすぎる。

 そんな状態では上に立つ将はやり難くなるだけ。

 結局、蒲公英は何処かの部隊に配属される事の無いまま、主だった将の下で交代で監視下に置かれる。

 

 ———飼い殺し。

 

 唾を吐き出したくなるような嫌な言葉が、ふと脳裏に浮かぶ。

 もし本当にそうならば、もはや蒲公英には武勇を立てる機会を与えられる事は無い。

 むろん国を出て他の国に行けば、蒲公英ほどの腕が在ればいくらでも士官の道があるだろうが、蒲公英の性格からして、その選択肢は最初からありはしない。

 蒲公英が、やっと安住の地に就けた翠や多くの仲間を捨てて、この国を出る事など考えられない。

 なにより、ワタシ自身が認めちまっている。

 アイツは、この国で将をしているのが似合うと。

 この国で、私とくだらない理由で、本気でぶつかり合っている事の方がよほど自然なんだと。

 

「あれ? 謹慎があけたって言うのに、なに、とぼとぼと歩いてんのよ。

 いつも見たく根拠のない自信を胸にはって、馬鹿見たく大股でのっしのっしと闊歩すればいいのに」

「そんな品の無い歩き方をワタシが何時したと言うのだ!」

 

 だと言うのに、突然かけられたいつも通りのアイツの言葉に、ワタシは今、頭の中を悩ませていた事も忘れて大声をあげてしまう。

 まるでいつものワタシみたいに……。

 

 

 

蒲公英(馬岱)視点:

 

 

 

「そんな品の無い歩き方を、ワタシが何時したと言うのだ!」

 

 なんか、らしくも無く暗い顔で歩いている焔耶の姿を見かけ、軽く声を掛けてみたらごらんの通り。いつもの焔耶らしいガサツな返事が帰って来た。

 うん、なんか心配しちゃって損した気がするけど、まぁいいか。別に喧嘩を売りたいわけじゃないし、蒲公英としては通りすがりに声を掛けただけだしね。

 

「そいじゃ」

「まて」

 

 そのまま横を通り過ぎようとした蒲公英の肩を、焔耶は掴んで蒲公英を強引に呼び止める。

 いったい何のつもり? やっぱり前回、蒲公英が巻き込んだ事をまだ根に持っているのかなぁ?

 そう言えば、まだきちんと謝っていなかったし、今回だけは此方から素直に頭を下げておいてもいいかな。 正直、焔耶相手に頭を下げるのは癪ではあるけど、そう言う問題じゃないからこればかりは仕方がない。

 

「この間の事は謝っておく。ごめ・」

「そんな言葉を聞きたいんじゃないっ! 違うだろうがっ!」

「うわっ」

 

 なにかを吐き出すかのような怒鳴り声ともいえる焔耶の声に、蒲公英は思わず小さく悲鳴を上げてしまう。

 もう、さっきかたいったい何なのよぉ。幾ら蒲公英の事を怒っているにしたって、その態度は幾らなんでもないと思うんだけどなぁ。

 確かに蒲公英が今回やった事を考えたら仕方ないのかもしれないけど、此奴ってそんなに根に持つ性格じゃないと思ったんだけどなぁ。良く言えば快活。蒲公英に言わせればガサツなだけなんだけどね。

 ああ、もしかして……?

 

「何故な・」

「そっかそっか、蒲公英今はもう一般兵なんだから、魏延将軍と呼んだ方が良かった?」

「止めんか気色悪いっ! お前にそんな呼ばれ方されたら本気で寒気が走るわっ。

 見ろっこの腕をっ! 鳥肌が立ったろうがっ!」

「なっ!? 人がせっかくこの間の事謝ろうとしたのに、そういう事を普通言う!?」

「嘘つけっ! だいたい人に謝ろうとしている人間が、あんな能天気な笑みを浮かべて庭を歩いてくるものかっ!」

「ぬあっ!? そんなの全然関係ないじゃないっ!

 だいたいそう言うアンタだって、似合いもしないのに愁いた顔で歩いちゃってさぁ。そんなの全然似合わない。 アンタがあんな顔で歩いていた日にゃ。空から大猩猩(ごりら)が降るわよ。しかも荒れ狂った」

「降るか〜〜〜っ!! だいたい槍ならともかく大猩猩(ごりら)ってなんだよ。そんなモノが雨のように降ってきたら、この世の終わりだろっ! いった何処をどうしたらそう言う発想が沸くんだ」

「……いや、たんにアンタを動物に例えてみただけなんだけど」

「しみじみと真面目な顔でそう言う失礼な事を言うなっ!

 まるで本当の事の様に聞こえるだろうがっ」

 

 流石にこの間、騒ぎを起こしたばかりだけあって、得物を荷物として手にしてはいても、それを本来の目的のために手にする事はない。 互いにその得物先を地面に深く落とす代わりに、いつも以上に悪言雑言を飛ばし合う。

 途中で何人かの人間が大きく避けるように通り過ぎながら、大きく溜息を吐いていたりしていたけど、その理由は、このさい考えないもんね。

 だいたい普段あれだけ蒲公英の事を、口から先に生まれてきたに違いないとかいろいろ言う癖して、よくもまぁ此れだけ悪態がつけるもんだと人の事ながら感心する。

 もっとも蒲公英だって、まだまだ二刻ぐらいは焔耶の悪態を言い続ける自信はあるんだけどね。

 

「………」

「なによ。いきなり黙りだしちゃって。

 まさか自分から喧嘩を吹っかけておいて、先に音をあげちゃったとか?」

 

 結局、あれから更に四半刻程言い合った頃。先に言うべき言葉が見つからなくなったのか、焔耶が何時ものムッツリ顔で蒲公英を黙って睨みだす。

 蒲公英も今のは流石に言い過ぎかなと思いつつ、焔耶の出方を窺う。

 どうせ『馬鹿馬鹿しくて止めただけだ』とか言うんだろうけどね。

 ……だけど、その予想はちょっとだけ違った。

 

「馬鹿馬鹿しいから止めただけだ」

「あっそ(やっぱりね)」

「それよりも、何故だ?」

 

 はぁ? いきなりいったい何を……そう言えば、さっきも何か言い掛けていた気がしたけど、もしかして本気で何か用があったのかなぁ?

 だったら悪いことしちゃったかな。 でも焔耶だって悪いんだよ。 今だって『何故だ』の一言だけ。

 それでは何を答えろって言うのよ。 焔耶は蒲公英の事をおしゃべりだなんだの言うけど、蒲公英にしてみれば焔耶は肝心な事を全然しゃべらないじゃない。

 そりゃあ話さなくても分かる関係って言うのもあるよ。 でもそれは普段からきちんと意思疎通をしている間柄だから出来る事だもん。

 人はいっぱいいっぱい話をして、互いを分かり合わなければいけない。

 そうでなきゃ、いらない誤解がいっぱい生まれちゃうもん。

 悲しい誤解もたくさん生まれちゃうんだもん。

 だから今度は蒲公英から……。

 

「何がよ?」

「何で、あんな事を言いだしたんだって言ってるんだっ」

 

 だけど帰って来たのは、あいも変わらない足りない言葉で、それに対する答えは幾つもと言うにはあまりにも多すぎる程の答えが脳裏に浮かんでは消えてゆく。

 ……本当に困った奴だよね。でも、何となく焔耶が聞きたい事が分かっちゃう当たり、蒲公英もいい加減此奴の性格に慣れてきたのかな。 ……焔耶を相手に慣れたいとは思わないけどね。

 それにしても、もし蒲公英が考えている通りだとしたら、此奴、意外に可愛い性格のなのかも。

 なんてね。

 

「もしかして心配してくれたんだ?」

「そんな訳あるかっ! ただ、なんでアイツ等に媚を売るような事を言いだしたんだって思っただけだ」

「アイツ等? ああ、もしかして呉の人達?」

「あ、…ああ」

 

 ふ〜ん、嘘くさいなぁ。

 あっ、別に焔耶の言いたい事が分からないって訳じゃないんだよ。ただ、呉の人達を理由に切り出したのが、なんか付け足したくさく感じただけ。

 それにそう言う所が焔耶の嫌いな所なんだよね。何でそう言う所を素直に言えないのかなぁって。

 それは将としてだけじゃなく女の娘としても言える事。

 せっかく良い所をたくさん持っているんだから、そう言う所は表に出すべきだと思うんだよね。

 まぁ、今はその事はいいや…。

 

「べつに、呉の人達は関係ないよ。蒲公英がそうした方がいいと思ったからああ言っただけ。

 あっ、でもまったく呉の人達が関係ないって言ったら違うけどね」

「何だよそれは?」

「別に……。ただ、いろいろ考える切っ掛けにはなったって事」

 

 蒲公英の言葉に納得いかないのか、眉間に皺を寄せ、力付くで聞き出そうと思っているのか、先程ほんの僅かだけど腰が低くなっているのを蒲公英は見逃さない。

 ……でも、そんな挑発には乗ってあげない。

 ……そして、アンタみたいに言葉足らずで終わるような真似はしない。

 

「確かに蒲公英がああ言い出したのは、一つは蒲公英なりのけじめだけよ。

 でも、ああした方が桃香様にしろ月様にしろ助かるだろうし、自分からそう言った方が、あれ以上の処罰を言い渡されずに済む可能性が、ぐっと高くなるって考えただけ」

「なっなっ! お、おまえ、あれが計算づくだと言うのか!?」

「あったりまえだよ。 蒲公英が自分が不利になるような事を自分からする訳ないじゃん」

 

 あまりと言えばあまりの言葉に、焔耶は口をぽかんと開けて呆れかえった顔で蒲公英を見つめてくるけど。此れには、まだまだ続きがあるんだけどなぁ。

 ………例えば。

 

「それに今の役職って、新体制が出来るまでの暫定的なものでしょ。 あと、これが肝心なんだけど、戦の褒美はまだだって事。

 もっともそう言う事に回すお金がそんなにある訳ないから、身内相手には適当にお茶に濁す事になるんだけど、蒲公英と翠お姉様への褒美は半年ほど遅らせてもらう事になってるの。

 褒美が貰える頃には、馬の育成の成果も出始めているだろうからね。 そして、その事をきちんと確認したんだよ。この意味、分かるよね?」

「な、なっ、なっ!」

 

 そう、つまりは最初からこの処罰は仕組まれているって訳。

 そもそも、よく考えれば分かる事なんだよね。大国へとなったとは言え、所詮は国を獲ったばかりでまだまだ多くの弱点を持つ状態。

 其処へただでさえ少ない信用できる将を、みすみす飼い殺しにするような真似を本当にするわけがないじゃない。

 桃香様達にとっては、何の腹を痛める事無く呉への貸しや借りを作る事なく面目を保つ事が出来た上、国内への将兵や民に対して示しを付ける事が出来る。

 むろん、幾ら優しいとは言っても御二人の性格からして、そう言う理由が無かったとしても、蒲公英をそれ相応に罰っしはしただろうけどね。

 

「それに、アンタと起した騒ぎの件にしたって、蒲公英の目的はもう十分に果たせ訳だしね」

「へ?」

「まぁ蒲公英にとっては、あまり良い噂じゃないんだけど、あれから変な噂が広まってるんだよね。『西涼から来た民に手を出すと、族長自ら一族を引き連れて報復しにくる』だなんて本当に失礼しちゃうよね。蒲公英もお姉様もそんな乱暴者じゃないのに。 ぷんぷんだよ」

 

 そして蒲公英達にとっては、たとえ不名誉な噂だろうと。

 たった半年の間、将を罷免さられるだけで、例え少しだろうとも仲間が安心して暮らせるようになるなら、蒲公英にとって、それは十分な価値がある。

 まぁ、あの騒動の後だったから、当然ながらお姉様からは散々ぶん殴られはしたけど、それでもその後でいっぱいいっぱい抱きしめてくれたし、蒲公英のためにたくさん涙を流してくれた。

 桃香様達の手前、お姉様は言葉にこそしなかったけど、お姉様の気持ちは十分に伝わって来たもん。

 

「それに、蒲公英の仲間内でもそうなんだけど、民の中でも蒲公英の人気って上がっているんだよ。

 『仲間のためなら御上だろうと立ち向かう義侠心の熱い勇士だって。その上、自ら処罰につく信人だって』うんうん、やっぱり見る人が見れば蒲公英の本当の姿が分かるんだね」

「そんなわけあるかーーーっ!

 お、お、お前は民を騙して恥ずかしいとは思わないのかっ!」

「ふふーんだ。別に騙してないもんねぇ。きちんと筋を通した結果がそうだってだけだよ」

「ぜっ、絶対に何か間違っているっ!」

 

 焔耶の言う事が分からない訳じゃないけど、今回は蒲公英が言った通り、筋を通した結果ってだけ。

 ただ多くの選択肢の中で、更に多くの思惑とそうせざる得なかっただけに過ぎないんだもん。

 焔耶じゃないけど、蒲公英だってこういうのは好きじゃないし、きっと桃香様や月様だって苦肉の選択だったはずだよ。

 そんな事は直接問わなくても分かる。……そして焔耶だって、知った以上はそれが分かるはず。

 たんに蒲公英の運が良かっただけに過ぎないって。

 あの人達の思惑が蒲公英と焔耶を救ったんだって。

 正確に言うなら、蒲公英と焔耶が関わっている人達を救ったんだって。

 

「まぁアンタがどう思っていようと蒲公英には関係ないけど、詠辺りから言われなかったの?

 蒲公英の事を気にする必要はないって」

「……ぐっ」

「あっ、やっぱり言われてたんだ。

 じゃあそう言う訳だから、蒲公英は行く所あるから、蒲公英の代わりに将のお仕事がんばってねぇ〜」

 

 焔耶にはそう言ってみせるけど、蒲公英だって将の身分を剥奪されたのとは別に、しっかりと罰がある。

 当然だ。もともと仕組まれた処罰である以上、その見せかけの賞罰には何の意味も無い。

 なら、その裏で本当の処罰があってしかるべきだもん。

 一つはありがちだけど、将の身分を剥奪されている間は、御給金が生活に必要な必要最低限になってしまう事。

 そしてもう一つは、蒲公英の見張り役と称した愛紗達の下働き。そうする事で蒲公英が抜けた将の穴を少しでも穴埋めする事が出来る上、他の皆の仕事ぶりを勉強できる。……そう、これこそが蒲公英の目的。

 だって……。

 

「待てっ、話はまだ終わってないぞ。

 だいたい、将でなくなったお前がどこに行くってんだ?」

「今日は星の所でコレだよ。 これから半年間。愛紗達にみっちり鍛えてもらうんだ。

 へへーん。半年後には焔耶をけちょんけちょんにしてあげれる程、腕に差が付いてるかもよ」

「な、なるかっ! 逆に叩きのめしてやる」

 

 そう言って蒲公英は、地面に深く落としていた己が相棒を、自分の手足の様に軽々と扱って肩へと掛ける。

 此処で焔耶を相手にしていたため、思った以上に時間を喰ってしまい、前もって自主鍛錬をしようと思ってかなり余裕を持って出てきたにもかかわらず、この先にある裏庭まで駆けて行っても間に合うかどうか怪しい。 もし星が先に来ていて、しかも待たせたとなったら、きっとねちねちと嫌味を言われるに決まっている。

 だから焔耶の怒声を背に蒲公英は駆け始めるんだけど……。そうそう、つい忘れる所だった。

 こんなことを今言ったら、焔耶は絶対に素直に受け取らないし、嫌味にしか聞こえないだろうけど、それでもきちんと言わなければいけない事があった。

 だから蒲公英は駆けだした足を止めて、焔耶に振り向く。

 もう蒲公英に対して背を向けてしまっていたけどかまわない。

 その代わり、しっかりと聞こえるような声で言ってやる。

 

「この間は蒲公英達の都合に巻き込んでごめんね。それと心配してくれてありがとう」

「なっ、なっ、なっ!」

 

 蒲公英の言葉に焔耶は驚くも、此方を見ようとしない。ううん、きっと無理やり振り向かないように踏ん張っているに決まっている。

 だって蒲公英があんな事を言えば、例え図星であろうとそれを蒲公英には絶対見せまいとする。

 普段はガサツで荒々しく振る舞っているくせに、実は思いやりが深く、優しくて、素直に慣れない照れ屋さんだって事を隠そうとする。 笛の音を聞くのも、舞いを踊るのも好きで、とくに舞いは例え他国の使者であろうとも、二人で会うのが不味いと分かっていても、その舞いを学びたくて桔梗に付き添ってもらって学びに行くほど一途で。他にも女の子らしい所を実はいっぱい持ってるくせに、それを必死で隠す不器用な性格だって事を、蒲公英はとっくに見抜いている。

 その証拠にほらっ。焔耶の耳やうなじが照れて真っ赤になっているもん。

 賭けてもいい。アレは絶対蒲公英に対する怒りで真っ赤にしているんじゃなくて、不意打ちで蒲公英の真っ直ぐな謝罪とお礼の言葉を受けて恥ずかしがっているだけだって。

 もっとも、そう言う魅力的な所を隠す所が蒲公英の癇に障る処でもあるんだけどね。

 うん、でも此れで少しすっきりした。

 此れで次に焔耶似合う時は、貸し借りも負い目も一切なしで、何時もの蒲公英と焔耶の関係に戻れるはず。

 

「☆◆▽※$っ! %#○○っ!」

 

 なにか後ろから慌てふためいた罵声らしきものが聞こえるけど、無視して庭を駆けてゆく。

 裏庭で星を待たせているかもと言うのもあるけど、これ以上時間を無駄にできない。

 ……たった半年しかないんだもん。

 蒲公英が自分を徹底的に鍛え直すと言う我儘のために許された期間は、鍛え直すには短いとしか言わざる得ない時間。

 それでもその短い期間でモノにできるかどうかは蒲公英次第。

 昨日の白蓮と鍛錬もものすごく勉強になった。

 武の腕そのものとしては蒲公英より格下ではあるけど、あの人の戦い方はものすごく考えられている。

 特に他の人と組んでの戦闘は、他の人達より戦いの幅がもの凄くあるのが少しの模擬戦からでも理解できるほど。

 

『私は弱いから、工夫しないと簡単に負けちまうからな。

 今、見せたのも所詮は小細工の類だし。苦労して仕掛けても、鈴々あたりにあっさりと力付くで返される事なんてザラだぞ』

 

 そう肩を落として苦笑しながら話してはいても、工夫と鍛錬はけっして怠らない。

 ……負けない為に。

 ……勝てないまでも守るために。

 ……その肩と背に背負った仲間と多くの民のために。

 この人は、例え蒲公英よりも武の腕は弱くても、蒲公英より上なんだと。

 ……将として、……そして人としても。

 だって白蓮は、その『勝てない』現実を受け入れて尚も、ああして真っ直ぐと歩み続けている。

 それに比べて蒲公英は……、お姉様との力の差を恥じいって……。。

 蒲公英の力の無さのあまり、お姉様に見限られたくなくて……。

 それでも、お姉様の背中を見ていたくて蒲公英なりに一生懸命に駆けていた。

 ううん。駆けていた振りをしていただけだって、今なら分かる。

 お姉様を吃驚させるためだと言って、隠れて鍛錬していたのがその証。

 師となるべきが人が周りに沢山いる恵まれた環境の中で、ただ意固地に我流での鍛錬。

 ………はははっ、御笑い種だよね。

 そんなものは、誰かを守るためでは無く、自分の賤しい心を守るための自己満足に過ぎない。

 

 ———だから蒲公英は、あの時に恐いと感じちゃったんだ。

 

 真っ直ぐと喉元に突きつけられた鉄扇。

 目の前の女性の振り(・・・・・)をしたあの人は、その綺麗な顔に巨大な鈍砕骨が襲い掛かると言うのにも拘らず。その攻撃が止められる事を微塵も疑っていなかった。

 仲間である周泰が、焔耶の攻撃を止める事に……。

 仲間ではないと言うのにも拘らず、焔耶がその得物を止めきって見せる事に……。

 その上で、蒲公英の槍を払い落とすと同時に蒲公英に鉄扇を突きつけていた。

 蒲公英だって一端の武人のつもりだし、そう言えるだけの多くの死線を潜り抜けてきたから分かる。

 ううん、きっとお姉様や叔母様だってあんな真似は出来やしない。

 いつもギリギリの所で安全を確保している。傍から見たら無謀だと見えてはいても、それでもその危険に対応できるように動いているし、それが出来るように鍛えている。そしてそれが武術と言えるモノ。

 ………でも、アレは絶対に違うモノ。

 自分の命を、まるで紙屑かの様に曝け出し、賭けとも言えない無謀な決断にその身を投げ出すモノを、間違っても武術とは言わない。

 

 でもね。蒲公英が本当に怖いと感じたモノはそれじゃない。

 

 それだけなら、ただの命知らずの馬鹿で済む話だもん。

 蒲公英を本当に驚かせたのは、あの人が付きつけていた鉄扇を持つ腕。

 腕をあれほどまでにまっすぐと伸ばしきってしまった状態では、蒲公英をあれ以上攻撃する事は出来ない。

 まっすぐと伸びきってしまった腕では、次の動作を起こすには一最低でも度腕を引くなり、体勢を大きく崩すなりの予備動作が必要。

 つまりあの人は、あの時点ですでに蒲公英があそこで引き下がると自分の中で決着がついていたの。

 蒲公英が万が一反撃する事もあり得たのに、それは無いと。そうだとしてもあの人はそれでも対応して見せたと思う。

 あの人は、そんなあり得る未来の全てを受け入れた上で、蒲公英を殺さないと決めて鉄扇を突きつけたんだって。

 

 ははははっ………、化け物だ。

 

 お姉様達も化け物じみてるし、叔母様はもっと化け物そのモノと言えた。

 でも、それはあくまで比喩でしかなくソレそのものでは無い。

 対してあの人の戦い方は、人のソレとは全く別のモノ。

 気が狂っているなら、まだその方が何千倍もマシだと言える狂気。

 蒲公英は其れをあの時感じた。

 

「………焔耶、アンタは同じ場にいながら、アレを感じなかったの?」

 

 呟く相手は此処にはいないと分かっていながら、蒲公英は虚空へと問う。

 あんな人がいる呉が、桃香様達の力を借りるために来ている。

 それが例え一方的なものだとしてもその事実は変わらない。

 孫呉が桃香様達の力添えをしてまで、そうしなければならない事実があると言う事実。

 つまり、呉にはそれだけの敵がいると言う事であり、蒲公英達がいずれあいまみえなければならない相手。

 そんな相手に、蒲公英達は生き残らなければならないんだよ。

 一人でも多くの仲間を生き残らせなければいけないんだよ。

 

「……それこそ死に物狂いで腕を磨かなければ、出来る訳ないよ。そんな事」

 

 なりふりなんて、もう構っていられない。

 だって、蒲公英はまだ死にたくないもん。

 皆を死なせたくないもん。

 桃香様も、月様も……。

 愛紗や星や鈴々ももちろん。

 みんなみんな死なせたくない。

 その中には焔耶も当然ながらいる。

 喧嘩ばかりしてはいても、焔耶に死んでほしいなんて欠片も想った事はない。

 他の誰かに殺されるくらいなら、蒲公英の手で直接って決めてるもん。

 

「ふぅ、てっきり逃げ出したのかと勘繰るところであったぞ」

 

 建物の角を曲がって、目的地が視界に入るなり、星からそんな言葉が飛んでくる。

 うわぁ、やっばーい。……でも、蟀谷の引きつり具合から見て、まだ許容範囲……かな?

 

「ごめんなさーい。ちょっと焔耶の奴に絡まれちゃって。 えへへ♪」

「……はぁ。お前達は、よくも飽きないものだ」

「文句ならあっちに言ってよ。蒲公英は悪くないもん」

 

 まぁ、それでも星を待たせた事には違いないんだけどね。

 

「まあいい。私の鍛錬に遅れてくるだけの度量があると言う所を見せてもらおうか」

「へへへ〜っ。望むところだよ」

「……ほう〜」

 

 蒲公英の返事に星は目を細めて、意外そうな。それでいて嬉しそうな顔をする。

 でもそれは蒲公英も同じ。自分で自分の言った言葉が不思議と心の奥へ『すとん』と落ち付くのを感じる。

 昨日までは出来なかった事が、今日は不思議と出来た。何でだろう?

 でもいいや。蒲公英が今やるべき事は一つ。

 やれるべき事を、そしてやるべき事を必死にやるだけ。

 蒲公英らしくやって見せるだけ。

 思考を謎かけへと。

 疲労を爽快感へと。

 必死さを楽しさへ変えて。

 

「じゃあ、いっくよーっ」

「ふふっ、なにを仕掛けてくるか楽しませてもらおうか」

「でえぇぇぇぇーーーーーーいっ!」

 

 だって、蒲公英達は生きてるんだもん。

 なら、楽しまなければ損だよ。

 苦労だってそう。苦労を楽しんでみせればいいだけ。

 今日を……、そしてまだ見ぬ遠い明日を楽しむために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百参拾捌話 〜 其処に在りし舞いは、まだ名が付いていない 〜 を此処にお送りしました。

 

 おひさしぶりです。

 色々と家庭の事情を含み、多忙の毎日で更新が遅れて申し訳ございません。

 さて、更新が遅れている言い訳はそれくらいにしておいて。

 前回までに書ききれなかった裏話を、今回書かせていただきました。

 原作とはほんの少しだけ違う焔耶と蒲公英の関係。

 読者の皆様には、この二人の成長にも少しだけで構わないので、目を向いて欲しくて描きました。

 好敵手でも友情でもない『まだ名前が付いていない関係』を何処まで描けたかは分かりませんが、面白く感じていただけたのなら幸いです。

 

 次回は、ちょっとだけ呉の方を描きたいと思います。

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
46
6

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択