No.613329

『舞い踊る季節の中で』 第139話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 今日も、美羽は荘園の駆ける。
 夢見ていた夢の中を、友達と言う名の二人と共に。
 三人の少女は、声をあげながら今日も、一生懸命に駆けていた。

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2013-08-28 12:02:44 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6944   閲覧ユーザー数:4829

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第百参拾玖話 ~ ただ、其処に舞う君の微笑みを見ていたくて ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

七乃(張勲)視点:

 

 

「ぬぁぁぁぁーーーーーーーっ!」

「ちょっ! こっちに来ないでよっ!」

「逃げるなら、あっちに行きなさいよ」

「ぬぉぉーー! シャオはともかく、春霞まで妾を見捨てるというのかっ! と言うか、文句は妾を追いかけてくるあいつらに言うのじゃっ!」

「「「ふひぁぁぁーーーーっ!!」」」

 

 稲の生育は順調で分けつも終え、あと少しで出穂が始まりそうです。一刀さんから教わった一苗一苗を手で植える今回のやり方は、手間が掛かるばかりで収穫量はそう変わらないと言う事ですが、稲と稲を一定間隔に開ける事により風がよく通り、稲の病気を防ぎやすくなるようです。

 まだまだこれからで油断はできませんが、今年は荘園全体でみれば病気にかかる稲がかなり少なくなっているとの事。

 東の斜面の開拓は順調で、……問題は西側の方ですね。

 水路を伸ばすにしてもあちらの方までとなると流石に厄介ですし……。いっその事、一刀さんの書いた文献の中に在った水道橋でも作ってみるのも手ですけど。其処までの資金も時間もまだ無いですから、とりあえず適当な所まで溜池を作っておいて、井戸を幾つか試掘してみるしかないですが、出なかった時の事を考えて芋や豆類などを中心とするのも良いですね。

 

「なぁ、ええのんか? あっちを放っておいて?」

「其方こそいいんですか? 一応は義娘さんでしょ?」

 

 ああ、そうそう、こういう時は発想を逆転させるといい。とよく言ってましたね。

 水道橋では無く地下水路なら人手はかかっても水道橋ほどにはお金は掛かりません。と言う手もありでしょうが、そもそも水源が乏しいなら、それでも何とか育つ物ではなく。水はけが良くて、肥沃な土よりも石や砂利だらけの荒地を好む物を育てればいいんです。

 一応、そう言う植物は幾つかは知っていますが実際にそれで食を繋げ、お金に変えれるかと言うと…労力に見合うものになりそうとは言えないんですよね。

 そうなると………。年数が掛かりますが、蜜柑が良いかもしれません。

 一刀さんから話を聞いた時には意外と思いましたが、蜜柑は水はけが良過ぎるくらいの方が根っ子を良く伸ばして、栄養と水分を実に良く溜め込むそうです。

 それに蜜柑ならば、薬としての価値があるので労力にもみあいます。

 いけそうならば、同じ意味で柿の木を植えてみるのも良いかもしれませんね。

 

「ああ、やっぱりこっちに来よったか。しゃーない」

「ちゃっちゃっとお願いしますねぇ」

 

 私の声援に霞さんは何故かワザとらしく溜息を吐いてみせ。槍を軽く振って具合を確かめながら前方から向ってくる美羽お嬢様と春霞ちゃん、そして孫呉の姫君の一人である小蓮(しゃおれん)さん迎えます。

 別にその槍でもって御三方を迎え撃とうと言う訳では無いですよ。霞さんの狙うのは御三方の後ろからもの凄い勢いて追いかけてきている何百匹で収まるかと言うほど大量の蜂の群れ。

 どうやら三人が……と言うか多分お嬢様辺りが誤って養蜂箱をひっくり返してしまったんでしょうね。

 もう涙交じりで必死になって此方に掛けてくるお嬢様の御顔の愛らしさ。むろん春霞ちゃんや小蓮さんも半泣きで駆けてくる姿は可愛いですけど、お嬢様が一番可愛らしいです。

 それが私に助けを求めて必死になっている姿と分かっているから、もうたまりません。

 

 ひゅっひゅっひゅっ!

 

 そしてお嬢様方が霞さんの横を通り過ぎるかどうかから鳴り響く風切り音。

 振るう槍の先端は既に一般兵程度では目視できる速さでは無く。神速の張遼の二つ名に相応しい速さでもって次々と相手を斬りつけて行きます。

 やがて、一降りごとにぼとぼとと音を立てて次から次へと地面へと落ちて行く蜂の群れが、空に無くなるのにそうは時間が掛からず終わった頃。

 

「………ああああ、せっかく増えたのに」

「命あっての物種よ。しかたないわよ」

「そうよ。だいたい悪いのは転んで箱をひっくり返したアンタと、蜂を全部叩き落とした霞が悪いのよ。シャオは一方的に巻き込まれただけで悪くないもん」

 

 ああ、なんという予想通りの展開。

 流石お嬢様、私の期待を外さない見事な所は天下一品です。

 そしてこの後の展開も、予想通りになるんでしょうね。

 いいんですか小蓮さん。そんな事を言っちゃって?

 

「人聞きの悪い事言う悪い口は此の口かーー?」

「ふひゃーっ! 痛い痛いっ! 何するのよっ! 痛っ!離しなさいよぉっ!」

「ウチを誰だと思ってるん? ウチは一匹たりとて蜂には当てとらんで」

 

 案の定、小蓮さんは霞さんに両拳で頭を両側からグリグリされちゃいました。

 その間に私はお嬢様と春霞ちゃんを宥めるように両手で抱きしめちゃいます。

 ぎゅ~と。きつすぎない程度に優しく抱きしめてあげます。

 小蓮さんの身を守るのが監視役兼護衛役である霞さんの役目で、心をお守りするのが私の役目と言う事にしておくとして。孫呉の姫君である小蓮さんが私達について来ているのは、後学のためといろいろ(・・・・)問題があったため、私達に護衛を付けるための口実と言うのが表向きの理由になっています。

 ですが実際は歳の近いお嬢様方が頑張っているのを間近に見せて、勉学武術共にもっと目を向けさせようと言う孫権さん達の考えなんでしょうね。

 小蓮さんは小蓮さんで、まだ一刀さんの事を諦めていないらしく、とりあえずお嬢様と仲良くなって見せて、お嬢様を口実に一刀さんに会いに来るための下準備と言う算段だったらしいんですが、今の所を見る限り十分に現状を満喫しているようです。

 小蓮さんの言う『本当の学問と言うのは机上では無く。人と人の中に在るのよ』と言う所なんでしょうね。

 

「あっ、じゃあ義母様はもしかして槍の引き起こした風圧だけで」

「そ~や。 ほれ、気絶しとるだけの証拠に、目が覚めて巣に戻って行くやろ。

 ああいうんのは、気絶させればその前は何やっていたか忘れるもんや」

「凄いのじゃ。 流石は霞なのじゃ」

「義母様はやっぱりすごいです」

「う、疑って悪かったわ」

「まぁ、その件(・・・)はもうええて」

 

 先程までグリグリとしていた小蓮さんの頭を撫でながら、本当にそんな事(・・・)は気にしていないという具合に笑って見せます。そのざっくばらんな人の良い笑みは、やがてゆっくりと邪悪な猛獣の笑みに変わって行くと共に、小蓮さんの頭に置かれた霞さんの手は、掴んだ相手を逃がさないとばかりにしっかりと鷲掴みをし、犬歯が覗いたその口元がゆっくりと言葉を紡いでゆきます。

 

「それはそうと、ウチはさっきから疑問に思うてる事あるんやが、聞いてもええか?」

「お、義母様?」

「い、いやじゃ。妾は何か嫌な予感がするのじゃ。 って七乃!なんで妾を前に押し出すのじゃ」

「そ、そんな事より頭の上の手を離してくれるとシャオ嬉しいかなぁ……と」

 

 いやですねぇ。むろん今から起こる事に巻き込まれたくないからに決まっているじゃないですか。

 だいたい、今回はお嬢様方に非があるんですから、お嬢様方が責任とってくださいね。

 むろん養蜂の箱を倒して、その箱に住む蜂を怒らせたことじゃないですよ。

 

「三人の着とる変わった服な。それがなんやったか、もう一度ウチに教えて欲しいんや」

「「あっ」」

「なんじゃ。霞はもうそんな事を忘れてしもうたのか? 

 なら寛大な妾がもう一度教えてやるのじゃ。 これは主様が妾達のために用意してくださった養蜂用の防護服なのじゃ。 少し動きにくいがこれを着ておれば、蜂などもう怖くは…な……い……の……じゃ………」

 

 春霞ちゃん達は霞さんが何を言いたいのかすぐに気がついたみたいですが、お嬢様はもう盛大な勘違いをしたまま霞さんの質問に、薄っぺらな胸すらない胸を堂々とこれでもかーと言う程張って講釈をたれたのですが、流石に途中で霞さんの質問の意味に気がついたのか、顔色がもう面白いくらいに変えながらしどろもどろになってゆきます。

 もう鼠を隅へと追いやった猫が後はしとめるだけと自信満々にした時に、突然目の前にお腹を空かせた獅子が現れたかのように、ガクガクぶるぶると震え始める姿は、ぎゅーと抱きしめたくなちゃいます。

 でも、まだまだしちゃだめなんですよね。此処でそんな事をしたら楽しみが半減しちゃいますから。だからここは涙を惜しんで、巻き込まれないように見守る事にします。

 だって安全(・・)に恐い目に遭ったお嬢様を、夜お部屋で慰めて、頬ずりをして、私にからかわれながらも私の所が一番安全な場所だと安心して寝入るお嬢様の寝顔を一番近くで見ていたいですから、今は我慢の時なんです。

 むろんそれだけが目的でではないですけどね。

 

「そ~や~。つまり逃げる必要なんて、これぽっちも無かったっちゅう訳や。

 …で、春霞。ウチの娘ならウチが何を言いたいか。分かるよな?」

「あ、あの、義母様。 やっぱり怖いものは怖い訳で。 特に群れで襲われたら・」

「そんなもん分かっとるわ。恐いもんを怖いと思うのは当然や。恐いもんなんてあらへんとか言う奴に限って大成せいへん。

 ウチが言いたいのは、その恐いもんを踏ん張って見据えて行動できんでどうするんやって事や!

 だいたい春霞はまだ分かる。ウチの後を追おうと頑張っているとはいえ、まだまだ子供や。だけどシャオは何や? 未熟とは言え、正真正銘の将やろうがっ」

「そ、それはその…そうよっ。二人があんまり慌てるからシャオもつい慌てちゃったのよ」

 

 あぁ……。うちのお嬢様もそうですけど、小蓮さんも予想を裏切らないですよねぇ。

 事実としては小蓮さんの言う通りなんでしょうけど。そんな事は火に油を注ぐだけと言う事に口にしまってから気がつく辺りなんて、大人ぶってはいますが、まだまだお嬢様同様、中身は可愛いお子様と言わざる得ません。

 

「つまり、シャオは周りの兵が恐慌に陥ったら。まとめるのを放棄して一緒に逃げると言うんか?」

「…えと、その………。あはははははっ、シャオったら失敗しちゃった。てへっ♪」

「よー。わかった」

「わ、分かってくれたのなら。い、いいのよ」

 

 ああぁ……、そして分かっていながら現実から目を逸らそうと、無駄な必死さも可愛いです。これがもう少し大人になると意地だの意固地だの張って、可愛さが無くなちゃうんですよね。 もっとも残念な事に、その必死さは今回も無駄に終わっちゃいますけどね。

 

「あんな蜂の群れの恐怖なんて、大した恐怖で無いと思うくらいの恐怖を、明日からウチがみっちりと教えたる必要があるってな。 安心せい。ウチはこれでも優しいから、雪蓮ほど無茶はせえへんでぇ。……多分」

「か、義母様っ!?。 そ、それは流石にどうかと……」

「そうじゃそうじゃ。だいたい将では無い妾には関係ないのじゃ」

「シャオにはちゃんと師範がいるから霞なんてお呼びじゃないわよ。だいたい、ちょっと胸が大きいからって、態度が大きくないっ? 態度の大きさが胸の大きさと比例して許されると思ったら大間違いよ」

「そんな事はどうでもええから、今はとっとと自分の持ち場に行きい。

 たらたらしとったら、今から修練したいと思うとるとウチは勝手に取るけど、それでもええのんか?」

 

 優しい口調とは裏腹に、霞さんの瞳の奥に浮かぶ本気の光を感じ取ったのか、慌てて先程来た方向へと同じ勢いで駆け戻って行くお嬢様方を余所目に、私はこの村を実際に纏めておられる長老さんと、先程考えていた事について打ち合わせをしてゆきます。

 私の立てた計画に驚きつつも村の人達に納得させる為なのか、作業の効率を測るためと言って幾つかの質問を交えてゆく会話の順調さに、違和感を覚えます。……馴れと言うのもあるんでしょうが、以前はもっと敵意や憎悪を押し殺した気配を節々に感じていたのですが、今は警戒はされつつも面白くないと言った感じを受けるんです。

 孫家からの援助や力はともかく、私や美羽お嬢様に対する負の感情や、一刀さんから学んだ天の知識を利用するだけすると言う雰囲気が目の前の老人からは薄れているんです。 気のせいとか長老さんが仮面を被るのが上手くなったとかでは無く、確かに私や美羽様への敵意が薄らいでいるんです。

 

 

 

霞(張遼)視点:

 

 

「そろそろ嬢ちゃん達の所へ、いった方がええんちゃうか?」

「また、あると?」

 

 長老の爺ちゃんと話が一段落ついた頃合いを見計らって声を掛けた七乃は、ウチの言いたい事を事もなげに理解し、最低限の短な言葉でもって尋ねて返してくる。

 孫呉の姫君であるシャオがいるのに、以前のように物陰や人混みに隠れて遠くから投石してくるとは考えにくいと。 それでもその瞳に警戒の色を表す事も無く、周りに剣穏な空気が流れていないかを必死に読もうとする辺りの自然さは、ずっと嬢ちゃんを守って来ただけあるなと心から感心させられる。

 だからこそ警戒していたとはいえ、先日、投石によって嬢ちゃんに怪我をさせた事を悔やんでいるんやろうな。 むろん嬢ちゃんも、七乃自身もそれくらいの事は覚悟はしとったやろうが、それはそれ、これはこれや。

 

「いいや。それよりも次の指示を出した方がええんゃう?と思ってな。嬢ちゃん達になんや記録を取らせるとか言うてたろ」

「うーん。まぁそう言うことなら、ここはお願いしますね」

「了解や。 ついでに春霞にもしっかり教えてやってや。

 あの娘にはウチみたいに、戦しか知らん様な人間にはなって欲しくないんや。少なくても、自分が何を守って槍を持つのか、その意味が分かる娘になって欲しいんや」

「春霞ちゃんは、十分に分かってますよ」

「それでもや」

 

 まったく、相変わらずにこにこと恍けた顔をしとるが、しっかりと押さえるべき事は抑えておるやっちゃな。七乃はごく自然の流れで『此処はお願いします』と言うた。

 当たり前のような言葉と、勝手に信頼していますよと言う七乃らしい勝手な笑顔を残して。

 ……つまり、ウチの考えはしっかりと見抜かれているっちゅう訳や。

 ほんま、詠といい冥琳といい、軍師っちゅうもんは人の頭の中が分かるんかっ?と思わされるわ。

 そう言う意味では一刀はどっちなんやろな。他の軍師より恐いと思う時が在ると思いきや、ごっそりと抜けている所があるから、逆にの意味で危なくて目が離せんけど、そう言う所が可愛く映るんやろうな。

 一刀は今頃何やってるんやろうな? 明命がついて行っているから、そう心配はいらんとは思うけど。それでも安心できんのが一刀やからなぁ。

 

「まぁ、ええか」

「………何がですかな?」

 

 まるで他人事のように吐き出した言葉を、退屈しのぎに言葉を掛けたのだと思ったのか、それともウチの思惑を察してかは知らんが、ウチとそう背の変わらぬ老人は、その長い白髪と髭にその相貌を隠しながらウチの言葉に応えてくれる。

 

「いや、どうでもええ事なんやけど。何でだろう?と思うてな」

「……立派な将たる張様の御心を煩わす事が、私奴(わたくしめ)のような者が分かるモノとは思えませぬが」

 

 ………やっぱ狸やな。この爺ちゃん。

 ウチ等が不審に思うてる事に気がついていて惚けとる。 しかもごっつい自然に。

 ウチかて、こう見えても官軍として大陸の首都である洛陽で将をしとったわけや。

 この爺ちゃん以上の海千山千の者も当然ながら多く見てきたし、相手にもした。

 だから、なんとなく分かるんや。

 

 悪人やない

 

 ってな。 少なくとも、その表情に刻んだ皺からは、アイツ等のような嫌な感じも臭いもせえへん。

 同じなのは、積み重ねてきただけや。 多くの年月と共に過ごしてきた困難を。 それら一つ一つを挫折し、そして乗り越えてきた。 年を取ったもんだけが得る事の出来る知識と知恵を、この爺ちゃんはこの荘園を守ると言う事にだけ特化して生きてきた。だからこそ厄介やし、同時に恐いんやけどな。

 ……そして、そういう人間は、ウチは嫌いやない。

 やりにくいなぁ。と思いつつも、ウチのやれる事なんて決まっとる。

 七乃達のように相手の考えが分かる程ウチは器用でも、頭が良いわけでもあらへん。

 なら、まっすぐと向き合うだけや。

 

「そうでもあらへんで、というか教えてくれへんか。 何が在った?」

 

 真っ直ぐと爺ちゃんの眼を覗きこむ。

 もっとも長い髪と眉のせいなのか、もともと目が細いせいなのか、爺ちゃんの瞳を見る事はでけへんけど、それでも、まっすぐと爺ちゃんの瞳に…。いいや、心へと問い掛けるつもりで。

 

「………」

 

 奴隷であるものの、一刀の所有物でもある美羽達に石をぶつけるっちゅう事は、一刀を庇護する孫家へ弓を引く事ではあるけど。 正直、それくらいは仕方あらへんとウチは思うとるし。孫家も孫家としては同じや。 孫家の面子を潰す行為だとは思うてもな。

 せやけど、私人としてはその限りでは無い。 そして、今、うちが爺ちゃんに問うたのはそんな事やあらへん。

 一応命じられはしてはいるけど。今更、犯人捜しをしたいとはウチも七乃も思うてへん。

 そんな事をしてもしこりが残るだけやし、互いになんら益にはならへん。

 むしろ互いに損をするだけや。 だいだいウチ等だけでなく、ウチの部隊がこうして此処に来ている行為そのものが、この地に住む人間に対しての警告なんやと十分過ぎるほど理解できたはずや。

 だからウチが問うたのは全く別の事。

 

「空気がな、全然違うんや。

 ごくごく一部のもんやけど、それでも以前に来た時には無かった空気や」

 

 そう、相変わらず美羽達への視線は、それなりにきつい。

 当然や。幾ら自分達の生活を豊かにしに来ていると判ってはいても、そう簡単には今迄やられて来た事を無しにはでけへん。

 この辺りの土地はもともと孫家の管轄だったから、マシな方だったはずやけど。袁家の老人の横暴の手が此処まで及ばなかったわけやあらへんし、袁家に納める為の税の上乗せや若い働き手を多く取られてきた事に変わりはない。

 孫呉が袁家の傘下に降った事で更に生活が苦しくなったのら、それはどう言い繕ってもつくろえない事実やからな。

 力も感情も余っている若い者なら、それは余計に顕著に表れる。

 歌っている美羽の顔に石をぶつけたのも、そんな連中の一人なんやろう。

 

「………空気……ですか?」

「そうや」

 

 そんな人間が仰山おる中で、ごく僅かとはいえ美羽達を見る目が変わってきた連中が出てきたら、七乃が警戒するのも、ある意味当然の事や。

 何年、いいや何十年と頑張って来たというならともかく。目に見え始めてきているとはいえ、まだまだはっきりと結果が出ていない現状で、理由もなしにそう言う事をされたら、そう言う世界に住んできた人間からしたら警戒するのが当然やし、油断を誘っているのではと疑うが普通なんや。

 

「はて? 私にはいつもと変わらないように感じますが」

 

 ああ、そう言うと思うたわ。

 この荘園にそれ程運んでいないウチが気がつくような事を、この荘園を実質的に治めている爺ちゃんが気がつかんわけない。 ましてや目の前の爺ちゃんこそ、その中の一人なら尚更の事。

 ………でもな爺ちゃん。ウチは聞いてるんやで。

 七乃達のおもり役としてでないで。孫呉の姫さんや孫呉が守らなければならないモノを守る役目を仰せつかってる者としてや。

 

 ひゅっ!

「…っ」

 

 爺ちゃんの顎髭を数本だけ斬り飛ばした所で止めた青龍偃月刀の矛先が、絹糸ほどの深さ分だけ肌にめり込んだ状態である事を、槍から伝わる感触だけでその深さを維持しながら爺ちゃんにもう一度問う。

 

「言うとくが、ウチは気短いで。

 ウチはウチの役目を果たすために、必要な事を聞いとるだけや。

 本来ならば、こんなくだらん事に人手を割く余裕も暇もない。

 爺ちゃん達かて、余所者にうろうろされたくないなら正直に答えといた方が身のためやで」

 

 本気の殺気を矛先からまともにぶつけたる。

 ウチは頭も口も使うけど、軍師の連中みたく口が上手くあらへん。

 かといって、こんな手段は正直好かん。

 それでも必要な手段だと判断したなら、躊躇するほどウチは甘ちゃんやない。

 この荘園の連中は既に一度、一刀の所有物に害意を持って襲い怪我を負わせた。

 ならば、天の御遣いを保護している孫家は、当然ながら其れを罰してみせなければならない。

 それが身内であるなら身内である程、孫家は別の意味で処罰を緩めるわけにはいかへん。

 孫家は国として、天の知識と天の御遣いを利用する以上、孫呉は天の御遣いの重要性を示して見せる必要がある。 例え一刀自身がそんな事を望んでいなくても、孫家は国を治める者として、そうする必要があるんや。 天の御遣いである一刀を守るっちゅう事は、そう言う事や。

 ウチがこの荘園の纏め役である爺ちゃんに矛を突きつけてるんは、その事実を突きつける為や。

 ……もっとも、そう言う事実が記録として残れば、の事やけどな。

 

「爺ちゃんがウチを誤魔化そうとしたとは、ウチは少しも思うてへん。

 ただ、心当たりを思い出せなかっただけ。そやろ?」

 

 七乃と嬢ちゃんは、その事実を認めんかった。

 一緒にいた春霞の証言が在ろうとも、その事実だけは認めんかった。

 春霞の言葉を否定する事無く。その事実だけを無かったものとして荘園での様子を報告したんや。

 だから孫家は、その報告内で取れる対応をしただけの事や。

 二度と孫家の面子を甞めるような真似をさせないように忠告(・・)しとく事。

 兵を動かすための無駄な出費を抑えるためと言うより、つまらない流血を未然に防ぐために。

 それが、今回ウチが将として出張って来た本当の理由や。

 

「はて? この歳老いた爺には何のことを言っているのか分かりませぬ。

 ……ですが、それでも分かる事はあります」

「ほう。言うてみ」

「あれほど勢いで鳥が(・・)石を落とす事など。ましてやそれが誰かに当たってしまうなど、生まれてこのかた聞いた事がありませぬ。

 私奴の父にも、祖父にも、またその祖父にも、そのような不幸がこの地で起きたなど聞き及んでおりませぬ」

「……で、それがなんや?」

「ならば、百年以上も起きた事のない不幸な事故と言うものは、私奴が生きている間にはもはや起こり得ぬ事なのではないかと考えれませんかな?」

 

 つまり、ああ言う事故(・・)は、もう起こさせない(・・・・・・)っちゅうわけやな。

 そっちがそう言う気構えなら、記録として残ってない以上、今回の一件は孫家も納得してくれるやろう。

 孫家としても、幾ら国を治める者としての面子や、一刀のためやと言うても、そうそうこんなくだらん事に金も人でも掛ける訳にはいかへんしな。 後腐れなく丸く収める事が出来るっちゅうなら、その方がええに決まちょる。

 

「確かに、それは道理やな。

 ……でもな爺ちゃん。ウチが聞いてる事には少しも答えてへんで」

 

 髪の毛一筋程度の差。

 せやけど突きつけた矛先に、ほんの僅かに滲みだした血を伝わせるにはそれで十分。

 首に伝わる感触の変化と強まる殺気に、緊張に身体が強張る爺ちゃん動きに合わせて矛先を調整するんは、ウチにとって朝飯前や。例え爺ちゃんが此処で突然くしゃみをしても対応して見せれる。

 だから、とっとと聞かせてくれんか?。 ウチが本当に聞きたい事をな。

 

「ふふふふっ、貴女様は面白い方ですな」

 

 せやのに、爺ちゃんは笑って見せる。

 身体全体から冷や汗をかきながらも、笑って見せる。

 虚勢でも自棄でもなく。言葉通りに笑って見せよる。

 

「御使い様の所有物とはいえ、奴隷へと堕ちたあの者達の身を守るには、先程の答えで十分なはず」

「いいや、不十分や。他の奴ならともかく、ウチには納得いく答えとは言えへん」

 

 僅かに覗く事の出来た長い髪の毛と眉の奥に潜む瞳は、とても深くて読めへん。

 ただ、本当に笑って見せちょる。

 ……ウチを嘲笑っているのか。それともウチの言動を面白がっているのかすら解からへん。

 ただ嫌な感じはせえへん。イラッとは来たけどな。

 

「失礼いたしました。耄碌した年寄りの戯言と流してくだされ」

「爺ちゃん次第やな」

「………やれやれ。孫呉に仕えておられる貴女様に話しても仕方なき事。

 これは我等の誇りに関わる事。それでもお聞きになられたいなら、お聞かせください。

 それほどに、あの者達が大切なのですかな?」

「大切や。 アイツ等も、そしてあんた等もな。

 どちらがじゃなく。ウチは守りたいから護るだけや。

 それにな、思うんや。 一刀が……って、一刀って言うのは天の御遣いの事なんやけどな。一刀があいつ等を使ってやろうとしている事は、きっと簡単に結論を出して良い事やあらへんって。何年…、いいや何十年とかけて決断するもんなんやってな」

 

 爺ちゃんは『誇りに関わる』と言うた。なら、ウチもそれに応えたる。

 其処まで言う以上、其処に踏み入るなら、それ相応の対価を払うのが礼儀。

 そしてそれが必要なときなんやって、戸惑う事無く判断できる。今は一気に相手の懐に踏み込むときなんやって。

 

「ウチは見て見たいんや。

 あんなに優しい一刀が、あんなに自分を殺して戦って戦って、血の涙まで流して、やっと得た束の間の平和の中で、どんな平和を築くのか」

 

 前に一刀に聞いてみた事があるんねん。きっと一刀が目指すっちゅう国は、みんな笑って暮らしてるんやろうなって。

 せやけど、一刀はウチの言葉に苦笑しながら首を横に振ったんや。

 

『例え俺に神の如く力があったとしても、泣く人間を無くす事は出来ないよ。

 人は泣くからこそって言うのもあるけど、現状に不満を持てるからこそより良い未来に向かって先に進む事が出来るんだ』

 

 その後でウチに勘違いしていると言うた。

 

『この国を築くのは俺じゃない。こういう事を言うと怒られるかもしれないけど、王や一部の特権階級の人間でもない。 国を、未来を築いて行くのは民一人一人。王や特権階級の人間は、その中の代表者に過ぎず。それとて多くのついて行く民がいなければ、存在する事すら叶わない存在なんだ。

 俺に出来るのは、皆が築こうとしている未来を、ほんの少しだけ手伝う事だけで、それすらも口や知識を出すだけにすぎない。

 本当に偉いのは現在を一つ一つ築き、例え崩れようとも、壊されようとも、其れを経験と言う名の土台として、諦める事無く未来を作って行く民一人一人なんだ』

 

 確かに、そんな民が冗長するような事を他人には聞かせられへん。

 せやから、言葉を変えて一刀の言葉から感じたウチの想いを爺ちゃんに……、この荘園を実質的に取り仕切っている爺ちゃんに話す。

 

「ウチはな、其れを酒の肴にして眺めてみたいんや。

 未来を信じて、安心して一生懸命に生きる事の出来る風景をな」

 

 可愛い義娘もせっかくできたんやし。春霞の膝を枕にして、そう出来たならウチやウチの仲間がしてきた事が無駄やないって信じられる。

 戦、戦の毎日で血と汚物に塗れたウチの生涯も、それだけで満足する事ができる。

 散って逝ってしまったアイツ等も、きっと安心して眠る事が出来るはずや。

 

「その為には、あの二人が必要なんやってウチは想うとる。

 せやから、ウチはウチの夢のためもあって、あの二人を(・・・)守るんや」

 

 我ながら勝手な言い分やと思う。

 孫呉に仕えておきながら、一刀の作る国を見たいと言い。

 二人を守ると言いながら、それはウチ自身の夢のために利用できるからやと。

 爺ちゃん達の誇りに関わる事だと知っておきながら、己が想いためにそれを突きつける。

 今思えば、本当に我儘ばかりの酷い言葉や。

 

 それでもな、ウチが孫呉に仕えるようになったのは、孫呉に一刀がいたからや。

 あの二人を利用している事には違いないけど、ウチ自身は二人を気にいっちょる。

 醜悪な袁家の老人から、幼い美羽を笑顔の仮面を被って、必死に守る七乃の姿を知っているからや。

 その七乃を信じて…、己が想いを信じて…、自分達の夢を託すべく孫呉に、自分達の命をも餌にした姿を。

 爺ちゃんにそれを分かって欲しいなんて虫の良い事を言う気はない。袁家を恨む気持ちを呑み込んでほしいと言う気もない。

 ただ、爺ちゃんの言う『誇り』に触れる以上。ウチの真っ直ぐな想いを隠して適当な言葉で踏み込むのはウチの矜持が許さへんのや。

 ただ、それだけのことや。

 分かってもらおうだなんて、最初から思うてへん。

 

「………なるほど。本当に貴女様は面白い方ですな」

「なんやねん。それは?」

「いえいえ、貴女様には驚かされてばかりと言う事です。

 ……よっと」

 

 爺ちゃんは顔を拭う様にして、その皺だらけの手で髪を掻き上げ。

 それが終えると、今度はゆっくりと腰を地面へと降ろす。

 突きつけられた矛を気にする事無く、ウチの腕を信じて何でもないかの如く息をゆっくり吐き出す。

 

「なんのつもりやねん?」

「歳を取ると、ただ立っているのも辛くなりますのでな、失礼させていただきます。

 それに、これなら頸を刎ねるのも刎ねられるのも簡単ですからな。

 なに、老い先短い私奴の頸一つで済むと言うのなら安いものです」

 

 つまり、話に納得できなければ、自由にしろっちゅうわけか。

 孫呉への証として。

 この荘園の者達への抑制として。

 必要と判断したなら、礎にしろっちゅう事やな。

 

「話の前に一つだけ御忠告を」

「なんや?」

「貴女様は確かに世に名だたる将なのでしょう。

 放たれた殺気は、戦場を幾つも駆けた経験をした私奴も知らぬ程、怖ろしき物です。

 ですが、その恐ろしき殺気の中にあって、殺意を少しも感じられませぬ。

 これだけ歳を取りますとな。目が見えぬようになって行く代わりに、そう言うものが見えるようになってくるのです」

 

 本当に、やりにくい爺ちゃんや。

 さすがは、この広い荘園を任されているだけはあるっちゅう訳やな。

 その証拠に、先程掻き上げた髪のおかげで、もうはっきりと観る事の出来る爺ちゃんの瞳は、とても遠くを見ている気がした。

 時折、一刀がする程ではないけど、どこかへ消えてしまうのではと不安にさせる瞳。

 

「此処からの事は、他言無用でお願いいたしまする」

 

 そう言ってから始めた爺ちゃんの話。

 この荘園に住む何人かは、かつて袁家の荘園の一つに居た者達で、其処から逃げ出して此処に辿り着く事の出来た運の良い者達なのだと。

 爺ちゃんの息子の嫁もその中の一人で、だから知っていたのだと。

 袁家の老人達に作り上げられた袁術達の姿では無く、その姉である袁基やまだ幼さの残っていた頃の張勳の姿を。

 ほんの短い期間だったとはいえ、民の暮らしが少しでも良くなるためにと駆けまわっていた頃の姿を。

 だから姿を見かける事がなくなった時、所詮は気まぐれに過ぎず、民に目を向ける事に飽きただけだと。上の者が自分達を本気で顧みる訳ないと諦めていた事を。

 やがて袁家の税や横暴がだんだん酷くなり、どう考えても今の限られた土地では、いずれ生きて行く事が出来なくなると判断した者達が、土地を捨て逃げ出したのだと。

 結局、そんな自殺行為な真似が上手く行くはずも無く、此処に辿り着けたのは五人に一人もいなかったとか。

 ただ、その時の姿と今の二人の姿が重なる時があり、二人が袁家の老人達の隠れ蓑にされていただけという噂が後押ししたのか、二人を今迄どおり恨み続ければいいのか分からなくなているだけなのだと。

 

「私奴達は確かに農民で、雲の上の方達から見れば家畜以下も同然なのかもしれませぬ。

 食べ物を作りながら、碌に食べる事も出来ぬ身の上であろうとも、御上の言う事には黙って従うしかありませぬ。 そんな私奴達にも、護るべき家族があり、誇りがあります」

 

 それは『 虐げられた者として誇り 』

 

 例え其処に意図が在ろうと無かろうと、治める者達の言葉一つで、多くの力無き者達の生涯が振り回される事になる。

 例えそれが女に贈り物をしたいからと言うしょうもない軽い気持ちだとしても、一度治める者として税をあげると口から発せられた以上、それは変わらへん。

 その結果、家族を飢え死にさせられ。

 娘を泣く泣く売らなければならなくなり。

 家族を食わすために、息子を戦場へと送り出さなければなくなる。

 更に追い込まれれば、働き手にならない幼い我が子を、その手に掛ける事になってしまう。家族が今日を生き延びる糧としてや。

 だからと言って、その土地を逃げ出したとしても、余程運が良い者以外は、道半ばで倒れ獣の胃を満たさせる事になるだけ。

 

「赦される事など、あってはならないのです。

 それを赦すと言う事は、家族を死に追いやった事を赦すと言う事。

 流した涙を忘れると言う事。……流した涙を無かった事にする事など、とても出来ませぬ」

 

 ………せやろうな。

 やった方は簡単に忘れられる。

 せやけど、やられた方は忘れられない。

 御上の言葉として『許せ』と命じるのは簡単や。

 簡単やけど、そんな事に何の意味も在らへん。

 ………ただ哀しみと恨みを貯め込むだけや。

 言葉や態度にでけへん分、よけいに心の奥底へ貯め込む事になるだけや。

 

「なるほどな。確かにウチが踏み入ってええ事やあらへんし、踏み込んでも得る事なんてなんもあらへん。

 ………でもな、それだけやあらへんやろ? それだけなら、それは此処を新たに故郷にした連中に限っての事や。

 せやから爺ちゃんまで変わるわけあらへん。とくに爺ちゃんの様な年寄りは、頑固やさかいな」

 

 嬢ちゃん達も、その事は分かっているはず。

 赦されようなんて思うとらへん。 それが分かってへんのは一刀くらいや。

 ……もっとも、どっちかと言うと、分かっていてやらせとるんやろうけどな。

 ほんま、甘い事を言う癖にドキツイ事をやらせるわ。

 きっと一刀の事や、全力で二人を支えるんやろうな。

 二人の心が折れぬよう、茨の道を歩ませるんやろうな。

 

「……納得されませぬか」

「納得するさかい。全部(・・)話せと言うとるだけや」

 

 ウチが手にしている矛には何の力は入っとらへん。

 恫喝と見透かされた以上、それは話の続きを促すための形骸にしかあらへん。

 爺ちゃんも其れは分かっておるはずや。これが恫喝のまま終わるかどうかは、まだやって事が。

 ウチが本当に聞きたいのは、この先あるはずなんや。

 

「人は暴力でもって殴られれば、その相手を恨みます。

 例え天地がひっくり変えろうが敵わぬ相手であろうとも、その瞳には影が落ちてしまうものです」

「せやろうな。 訓練しようとも、簡単に消せるもんやあらへん」

「はじめに理不尽からの怒りを。次に涙と共に悲しみと悔しさを。そして抗えぬ事を知り、諦めの感情を」

「じゃあ、嬢の瞳には何が映ってたんや?」

「……なにも」

「なにも?」

「ええ、あそこに在ったのは歌を歌う事への喜びと、強い意志を秘めた純粋たる瞳だけ」

 

 一刀が美羽に課した贖罪の一つ。

 それが歌による民への慰労。

 その歌の半ばで石をぶつけられようとも、嬢はそのまま歌い続けたのだと。

 ……怒る事も。

 ……嘆く事も。

 ……悲しみと境遇に酔う事も無く。

 ……ただ、民のために歌い続けた。

 王の時では出来なかった夢を……。

 一刀の奴隷に堕ちる事で、やっと掴む事の出来た夢の欠片を……。

 全てを引き替えにして、天の御遣いと言う後ろ盾を得る事で、掴んだ夢の欠片。

 

【 民の笑顔のために 】

 

 一時は全てを諦め、全ての元凶と共に地獄へ落ちる事しか考えれなかった嬢が、一刀の力を借りて得る事の出来た機会。

 母親から、……そして姉から引き継いだ夢を、自分の夢としてやっと叶える事ができるんや。

 なら、投げ付けられた石だろうが、額から流れ出る血だろうが、そんな瑣事なんぞ眼に入るわけあらへん。

 袁家の老人達はおろか、雪蓮や冥琳達すらも騙しおおして、あれだけの事を遣り遂げようとした人間が、例えその仮面を雪蓮に打ち壊されていようとも、そんな程度の事で揺らぐわけあらへん。

 

「……答えは最初からウチの中にあったっちゅう訳か」

 

 投石と言う事故の事も。

 美羽がそれでも歌い続けたと言う事も。

 ウチはちゃんと最初から知っていたやないか。

 二人が問題ないとして事故を報告しなかった事も、ウチはちゃんと知っていた。

 爺ちゃんはそんな嬢を気にいったんやろうな。

 其処まで出来る嬢が、悪人な訳ないと確信しつつも、爺ちゃん達には守り通すべき『誇り』がある。

 つまり、そういうこっちゃな。

 

「もし私奴達が以前と違うと言うのなら、それは失礼ながら貴女様と同じだからではないでしょうか。

 私奴達は私奴達の夢のために、あの二人を利用しつくすと決めたため」

「まぁ、此処だけの作り話としては、そこそこ面白かったわ。

 とても他の人間に、わざわざ聞かせられるような話ではないけどな」

「私奴の持て成しも、まだまだと言う訳ですな」

 

 手にした矛を爺ちゃんから離して肩に担ぎながら、『ちょっちあっちを見てくるわ』と断りをいれて場を離れる。

 馴染んだはずの矛が、今はほんの少しだけ重く感じる。

 爺ちゃんから聞いた話しを七乃達に話せば、二人は喜ぶかもしれへん。

 蓮華達に報告すれば、対外的に喜ぶ事はでけへんやろうけど、それでも一刀のためと安堵の息の一つくらいはついてくれるはずや。

 ……せやけど、それはでけへん。

 なんせ、この地に住む民だけの問題やあらへんからな。

 美羽が袁術として関わった土地に住む、全ての民の誇りの問題なんや。

 せやから、ウチは何も聞いてへん。ただ、もうああいう事故はあらへんと報告するだけや。

 

「………本当に大切な想いは、胸の中にそっと在ればええねん」

 

 美羽も七乃も自分達への見返りなんぞ、最初から求めてへん。

 此処に、こうしていられる事自身が、二人にとっての見返りなんや。

 それにな、例え爺ちゃん達の想いを知らなくても、爺ちゃん達の想いはきっといつか伝わる。

 いいや。二人の想いが皆を変えて行ってくれるはずや。

 ……時間は掛かるやろうけどな。それが分かっただけでも今日は来て良かったわ。

 大仰しく部隊を引き連れてきた事は、実際には無駄やったかもしれへんけど、此れからの二人の助けにはなったはずや。

 それにしても、ほんま必死に生きてきた年寄りっちゅうのは、怖い生きもんやな。

 雪蓮達が見抜けなんだもんを、年寄りの知恵と洞察力でもって見抜いたんやからな。

 ウチの気分を害することなく、爺ちゃんはこの荘園の皆を護ったんや。

 例え、恫喝と分かっていても、爺ちゃんは護るために動いた。

 ほんま、長く生きた人間の叡智と言うのは恐いわ。

 

「なぁ一刀。 一刀は此処まで読んでたんか?」

 

 人はそれぞれ自分の道を歩むし、歩まねばあかん。

 せやけど一刀が二人に示した道はただの道やない。茨が蔽い茂る密林や。

 先に進もうと思うたら、道を切り開いて行かんとあかん。

 茨の棘で傷つこうとも……。地を這った根で躓こうとも……。

 蔽い茂る茨で視界を奪われていようとも歩まなあかん。

 なのに、二人はそれを躊躇する事無く歩んどる。

 一刀自身が、そんな道を歩んでるからと言って、そんな道を歩めるもんやあらへん。

 ましてや示されたからと、命じられたからと言って歩めるほど簡単な道やあらへん。

 二人の足を進めているのは、二人の『意志』や。

 美羽の一歩間違えれば凶暴とも言える純粋な想い……。

 不可能と知りつつも、それでも思考を止めずに笑みを湛えれる七乃の恐さ……。

 

「二人が民への贖罪ではなく、文字通り『民の笑顔のため』に民を導ける存在になると」

 

 せやけど、誰も歩んだ事のない先にあるのは、誰も見た事もない世界。

 二人が歩んだ後が道となり、民に新たなる未来を夢見させる。

 これが袁家の本当の血やとしたら……。いいや、王家と言う人間が、ああいう血を引く人間の事を言うのなら……。

 もし【袁家の老人達】なんてもんがおらずに、本来の血のままで王でいれたのなら、孫家と袁家の立場は今とは違っていたかもしれへんな。

 せやけど現実は違う。 なら、此れが天の意志なんやろうな。

 少なくても二人は一刀の元にいる今の方がええ。ウチはそう思う。

 あっちの二人には、ちと気の毒やとは思うけどな。

 

 

 

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

 

 幾つかの視察と、明日の会議を前に幾つかの根回しの確認などを済ませ、自分の執務室へと戻る前に部署の方に顔を出すと。

 

「あっ、子瑜様。測量班より定期連絡が来ています」

「そう、部屋に持ってきておいてください。それと測定結果の方はあちらに方に回しておいて構いません。其方で出来上がって来た物を見させてもらいます」

 

「此方が来季の予想報告の纏めです。それと此れが各荘園の報告の纏めになります」

「そう、貴女は纏めていてどう感じました?」

「まだ実例が少なすぎて何とも…」

「今の時点で感じたままで構いません」

「続ける価値はあるとは思います。 悪い結果が出ている所もありますが、それも一つの結果として記録が蓄積される事となります」

「良い見方ですね。物事には良い結果も悪い結果も出てしまうもの。ですがその悪い結果を良い結果へと導く事が出来る事こそが、人としての本当の力だと私は感じています」

 

「子瑜様、活版印刷の事でまた」

「放っておきなさい。まだあれは世に出すには早い技術です。

 天の技術の再現性と継承と発展のために、ごく一部で使っているにすぎません。

 今はまだ木版印刷で十分でしょうし、その木版印刷ですら早すぎると言う方もいるくらいです」

「その一部の件で、あの者達が出している【袁々】は高位の女性の愛読者も多く、私も楽しみにしている一人ですが。……その、【八百一】とか言う相応しくない季刊誌が在るとか無いとか」

「印刷所は厳重に管理されています。それだけです」

「は、はい。そのように処理しておきます」

 

「あの…最近少し太って来たらしく」

「なら、女の子終了日から三日間ほど豆や野菜だけで過ごすと言いそうですよ。気を付けないといけないのがその中にお米や小麦が入っていては駄目と言う事です。本当は体を動かすのが一番良いのですが、なかなか時間が取れないなら試してみてください。 頑張ってくださいね」

 

「南の太史慈様から報告が来ています。

 あちらの方に動きが在ったらしいですが、どうやら悪い報告ではなさそうです」

「それは読んでから判断させてもらうわ。それとアチラに送れる物資があるなら手配の準備はしておいて頂戴」

「はっ」

 

「蒲公英の茎より取り出した乳液の精製と保管は終えたそうですが。如何いたしましょうか」

「一応試作には移れるでしょうが、天の御遣いが戻ってくるまで保留した方がよさそうね」

「それとなんとか菊と言う花も、指示通り花序で摘み取り、既に乾燥を終えて製粉化まで終えたそうですが、これはいったい何に使うんでしょうか?」

「詳しくは私にも……、其方は華佗さんが話は聞いているようですが、詳しい製作工程は聞いていない上に、試作と試行を繰り返さないといけないとか。此方の方も戻って来てからですね」

 

「先日納められた綿織物以外にも試作した陶器や切子硝子などの工芸品に、西方の商船の人間がかなり興味を示しているようです」

「そうですか、なら生産体制が整い次第、此方からも商船を出しましょう」

「まだ試作段階ですがよろしいので?」

「かまいません。此れから何十年も何百年もかけて完成させる工芸技術です。

 職人達もその方が腕の振るいようがあるでしょうし、その時々で利益を生みださなければ、先に進む事も出来なくなってしまいます。

 それに過程から派生する私達独自の技術もありますし、それを育てて行く事も国としては大切な事なんですよ。 ですが、技術の流出だけは抑えれるよう監視と管理をしっかりとお願いいたします」

 

 私が顔を出すのを待っていたかのように、次々と報告や相談が舞い込んできますが、その一つ一つをみじかな言葉で処理をして行き、新たな指示を与えてから、やっと自分の執務室へ戻る事ができました。

 もっとも、戻ってきた所でゆっくりと寛げる暇は………机上に詰まれた書簡竹簡の山を見れば言うまでも無い事です。

 

「はぁ……今日も遅くなりそうね。」

 

 侍女にお茶を一杯持ってくるように頼んでから、思考を切り替えるかのように大きく息をしてから、机に向かい、手近にあった竹簡を手にし、固く結われた封緘を解きます。

 流麗に書き綴られた文字をゆっくりと心の中で読み上げて行く。

 読み上げるのは、文字として書き上げられた意味だけではありません。

 そんなものは執務上形式的な物でしかなく。悪く言えば形骸化した定型文のようなものです。

 必要なのは、其処に綴られた書き手の意図と背景。

 私の所まで上がってくる仕事である以上、無碍にはできない相手、もしくは放っておいては問題が生じる可能性があり得るもので、いずれも繊細な問題が関わっている事が多々としてあります。

 むろん、それ以上に優先順位的にかなり低い案件………。ぶっちゃけ言えば愚痴や不平と言った、どうでもいい内容の物がそれ以上にあったりもしたりしますが、そう言った各部署や諸侯の不平や不満を一つ一つ丁寧に便宜を図ったり調整してみせるのが、政を行う上で大切な事になります。

 特にここ数年、天の御遣いである一刀君の知識により多くの新しい政策を打ち出してきた以上、新たに発生する利権や、どうしてもそういったものの皺寄せが起きてしまいます。

 一応、確実性の高いモノから行ってきたため、今の所大きな問題にはなってはいませんが、小さな問題が起きていない訳ではありません。

 それは、幾ら一刀君が事前に起きうる問題を事前に提示し、更に私達で研鑽していたとしても、問題が起きない訳がないんです。ただ、事前に分かっていた問題に対して、迅速に対処できるだけの事です。

 そして、其れがまた孫呉の力を天に示す機会へとなっている事を考えれば、どのような案件であろうとも手を抜く訳にはいきません。

 

とんとん

 

「翡翠ちゃん。いる?」

「これは深月様、わざわざ此処へ来られるだなんて、いったいどうされたのですか?」

 

 幾つかの書簡を整理したところへ、どういう経路で広まったのか、天の国で言う【のっく】という壁を叩く音共に私の執務室に顔を出したのは、私達孫呉の本拠地とも言える建業の街やその周辺を、ついこの間まで不在がちであった雪蓮様達の代わりに治めていた方で、性は魯、名は粛、字は子敬と言います。

 

 

「たいした用事じゃないのよ。 用事なんてのは口実で、ちょっと翡翠ちゃんの顔を見に来ただけ。

 あっ、飴玉いる? 今度のは新作なのよ~♪」

 

 柔らかな物腰と共に、和やかな微笑みを揺蕩わせながら、懐から言葉通り飴玉を取り出そうとするのを、やんわりと断ろうとしたのですが……。

 あうっ、此方の行動を察してなのか、悲しげな顔を……と言うか、既に眦にうっすらと涙を貯め込み始めた深月様の表情に根負けして、深月様から飴玉を頂く事にしたのですが。

 

「あ、あの自分で食べれますから」

「あ~~ん♪」

「………」

「あ~~ん♪」

「………」

 

 結局、また同じ事の繰返しになるだけなので、気恥ずかしいですがこれで機嫌が良くなるならと深月様のやりたいようにさせる事にします。この方にかかっては私だけでなく冥琳様達ですら子供扱いになってしまうんでしょうね。

 実際、多くの孫呉の臣下が穏やかで懐の深い深月様を母親の様に慕っていますし、中には敬愛の情をもって母刀自(おもとじ)様と呼ぶ者もおるくらいです。

 なんにしろ祭様と同じく、孫呉の歴史を観られて来られた方なので、深月様のああいう行動も分からない訳では無いのですが、時折苦笑を浮かべてしまうのも事実なんですよね。……しかもそれを気がつかない振りをしている辺り、祭様とは別の意味で一筋縄ではいかない方です。

 ですがそう言った方ではありますが、皆が慕う以上に優秀な方で、本来の役職に戻られた現在でも深月様は孫呉にとってなくてはならない方。 実質的に孫呉の財布を握っていると言ってもおかしく無い程、信頼されており、雪蓮様や祭様ですら、深月様の管理下の蔵からはお酒や肴を無断で持ち出す事が無い程です。

 ……正確には、持ち出す事が無くなったと言うべきですけどね。

 

「これは金平糖ですね」

「あぁぁ~、驚かそうと思っていたのに知っていたんだ……。がっくり」

 

 舌の上で転がす覚えのある感触に飴玉の正体を見抜いた言葉に、深月様は目的の一つを失い。肩を落として残念そうに落ち込まれます。

 本当に、この方は何時まで経ってもこう言った可愛らしい仕草や反応を無くされません。

 実際、やや童顔な事もあって、実年齢よりかなり若く見られる事があるかもしれませんが、それ以上にその言動から見た目通りの年齢と勘違いされる方が多いようです。

 

「以前に一刀君が作ってくれましたから。

 それにしても、もう出回っていたんですね。

 ……つまり、そう言う事ですか?」

「さすが翡翠ちゃん。話が早くて助かるわぁ」

 

 金平糖の製法や販売の出所は、容易に想像がつきます。

 深月様も、別に此の金平糖自身を問題にしている訳ではありません。

 問題にしているのはその出何処の大元である彼女達の行動を問題にしていると言うか、あえて(・・・)問題にしている人達がいると言う事。

 ようはこう言った金平糖などの珍しいお菓子はもちろんの事、天の技術とまではいかなくても、そう言った様々な利権をうむ知識を、彼女達…美羽ちゃん達から奪いたいと思っている人達の事でしょうね。

 一刀君の指示で七乃ちゃんが仕切っている形になっている塩を始めとする幾つかの商いは、名が売れてしまうのと信頼の関係上、七乃ちゃんは長勲の名では無く麋竺と言う別の名を使っています。何年かしたならばともかく、今の段階でそう言う事を言ってこれるのは、ある程度事情を知る人間に限られてきます。

 

「一応、私の方からも、もう一度根回しと忠告はしておきますし、蓮華様の方からもそれとなく諸侯や商人達に口添えして頂くようにお願いいたしましょう。

 彼女達は、あくまで天の御遣いの所有物として、天の御遣いの代わりに動いているだけに過ぎないと。

 それと、こう言った類の利権に関しては、どうせ数年しか持ちませんから、放っておいても構わないでしょうが、一応二人の方にもやり過ぎないよう注意をしておきます」

「お願いねぇ。一応事情は分かっているつもりだけど。どうしたって彼女達は目の敵にされてしまうものだし、特にこういった利権が関わるとなると、余計にね」

 

 と応えてみたものの、実際のところは利権とかそう言った物に関してはそう心配してはいません。

 七乃ちゃん自身がそう言った調整に関しての手腕は私や冥琳様以上。おそらく今問題になりつつある状況すらも、七乃ちゃんからしたらギリギリの所で抑えている筈でしょうし、それに対する対処もすでに打っている筈。

 彼女の性格と能力を考慮するならば、もしかするとこう言った状況ですら計算に入れて動いている可能性がありえますし、何より彼女自身が自分達がどう動いても、非難の的にしかならない事を十二分に理解して動いている筈です。

 もし問題に成り得るとしたら、私達がそれらの問題に対して、彼女達を信頼しすぎずに、それらの事態にして普通に対処して見せる事の方が、彼女にとって予定通りになるとみています。……もっとも、七乃ちゃんならば、私達がどういった行動をとったとしても、即応して見せるでしょうけどね。

 かつて袁家の老人や私達を掌で踊らせていたように……。

 

「それにしても此処だけの話。双方に益があるとは言っても、随分と嫌な手段よね。

 いくら【天の御遣い】の庇護を受けているから最悪の事態は無いにしても、袁術ちゃん達の想いを利用して、民の非難を集中させた上で、彼女達の得た利益を開拓や新たな技術の開発の費用に充てたり、その中で使える技術は孫家の名の下で広めるのは、少し可哀相に思えるわ」

 

 優しい方。 そして、そうと分かっていても国の重鎮として、私心を律するだけの厳しさをお持ちです。

 それもこれも二人の境遇に対して、秤にかけるべきモノがどれだけの重みがあるか理解されておられるから。

 

「今は、そうならざる得ないでしょうね」

「あら、今は(・・)なんだ。じゃあ安心ね。

 もっとも彼女達しだいって所でしょうね。翡翠ちゃんが真名を赦すほどの子達なら、時間は掛かるでしょうけど、見込みはありそうよね」

 

 なにより、こう言った所が深月様の凄い所なんでしょうね。

 冥琳様の様に知識では無く、むろん雪蓮様のような勘でも無く、そう言ったものに頼ることなく相手の事を受け入れる事の出来る懐の大きさと、それを支える多くの経験。

 当然ながらその経験の中には望まない結果も多く在ったにも拘わらず、それでも仲間を信頼し受け入れつづける事が出来るところ。

 むろん悪意ある方や、悪戯心のある困った方々には、容赦をいたしませんが。

 

「それにしても、楽しみね」

「そうですね。……でも、そこもこれも孫呉が生き残り、天下に孫呉の力を示す事が出来なければ、全ては灰燼に帰してしまいます」

「そうね。そうさせないために私達は動いているし、彼も動いている。違って?

 私が楽しみだとは言ったのは、そっちの方。 色々と噂(・・・・)はあるけど、そんな噂と違って良い子に決まってるわ」

「……ぁ」

 

 深月様の言葉に含まれた無条件の信頼が嬉しくなる。

 まだ会った事のない人間を…。

 敢えて流してある嫌な噂を知っていて尚、私達の話した一刀君を…。

 私達が信じていると言う私達を信頼して…。

 一刀君が信頼するに足る人物なのだと…。

 

「それに翡翠ちゃんだけじゃなくて、明命ちゃんの心まで掴んだ子だもの。

 良い子なのはもちろんなんでしょうけど、どんな子なのか気になるのよねぇ」

 

 え? えーと……、深月様? いったい、いきなり何を?

 

「しかも袁術ちゃんは可愛い子で長勲ちゃんの方も美人と言う話だし、そんな二人を傍に置くのを許しちゃう程に惚れちゃってるんでしょ? いったいどんな子なのかなぁ?とね

 もちろん天の御遣いとしてではなく、翡翠ちゃんが想いを寄せる男の子としてよ」

「ぁぅぁぅぁぅ……、そ、それはその許したとかそう言う訳じゃなく、仕方なくであって、…あぅぅ…」

 

 いきなりとんでもない方向に話を持ってゆかれ、顔どころか頭の中まで熱くなるのが自分でも分かります。

 た、たしかに、今の私達の状況は、傍から見たらそう見えるかもしれませんし、実際にはそう言った事態になっている訳ではありません。

 そ、それはまあ、一刀君が二人に手を出していないかと疑った事が無いと言ったら嘘になりますけど、それはそれで別の問題であって……。女としてはどうしても気になってしまうと言うか。自分でも抑えようのない事で…。

 

「翡翠ちゃんの好みと言うと、大男で筋肉……じゃあ明命ちゃんの好みとは違ってそうだし、聞いている話とも合わないわよね…」

 

 べ、別にそう言う男性が好みと言う訳じゃなくて、そう言う男性を題材にしていた時期が長く在ったと言うだけで、好みの話にしたって確かに私の中に在った理想の男性像と言う訳ではないですけど、恋と言うのはそう言った夢と言うか妄想から抜け出さなければ出来ないものです。

 それに一刀君は一刀君で沢山良い所を持っています。で、でもその中の何に惹かれたかと聞かれても正直困る訳で………、いえ、別に一刀君に魅力的な所が無いと言っている訳では無くて、あの暖かい春の日差しのような笑顔はもちろん、その……一杯あり過ぎて……。

 あっ、でもでも、別に良い事ばかりある訳では無いんですよ。

 一刀君は一刀君で困った所もいっぱいあります。

 ある一定な事柄に対して無自覚な所とか鈍感な所とか。

 その癖して誰彼かまわず女心を掴むような事ばかりしたり。

 べ、別にヤキモチを焼いてそう言う事を言っているわけじゃなくて、それは純然たる事実であって一刀君を良く知る人間の共通する認識のはずです。

 他にも他にも、大切な事をけっこう勝手に決めちゃう事があります。孫呉の独立の時もそうでしたし、現にこうして今も私を長期間に渡って放置しているわけで、きっと今頃明命ちゃんとイチャイチャとしているのかと思うと、こう腹の底からドロドロと黒いものが湧き上がってきます。

 でも、きっとそれは一杯一杯傷ついたからというのもあるんでしょうし。その癖してきっと帰ってきたら私の膝の上で泣き縋って、明命ちゃんには見せない一面を私にだけは見せてくれるんだと思えば、湧き上がった黒いものを吹き飛ばす狡い所を持っていますし。困ったのが私が其れを赦せちゃうところで…。

 

「ん~~、安心した♪」

「……ぁぅ?」

「くすくす♪ 口癖、出てるわよ」

「あぅっ! あっ、い、いまのは…その……」

 

 ついさっきまで興味津々といった顔をしていた深月様が、何時も見せる以上の慈愛に満ちた優しい表情で、腕を回して抱きしめ、温かな手で髪を撫でて行きます。

 その事につい先程まで考えていた事に再び顔が熱くなるのですが、深月様がそんな私の髪を優しく梳く度に、まるで子供の頃に還ったかのような錯覚が、深月様の優しい声と言葉と共に私を包み込んでゆきます。

 

「今の翡翠ちゃん、とても幸せそうな顔をしてたわよ。

 百面相で何を考えていたか丸分かりな所は、文官としてはどうかと思うけどね」

「ぁぅぁぅ…そ、それは忘れてください。だいたい深月様がいきなり…」

「ごめんね。でも確認しておきたかったのよ。

 天の御遣い君が実際にどんな子かは知らないけど、あれだけ色々な噂がある訳でしょ?

 まぁ、その辺りはあまり心配してないけど、肝心の貴女が幸せかどうかそれが知りたかったの。

 それに話では婚儀もあげていないのに、そう言う仲になっていると言うじゃない。例え話だけの事だとしても心配するのは当然の事よ。

 今日はどちらかと言うと、そう言う事を心配している人達の代表として来たわけなの」

「そ、それはその、……先日も噂を聞きつけた水鏡先生からも心配のお手紙が」

「それだけ心配してくれる人がいるのは幸せな事よ」

「……はい」

 

 深月様の言葉に、私は深月様の胸に額を埋めて素直に頷く。

 確かに雪蓮様達という後ろ盾や、事後とはいえ根回しが在ったとしても、私も明命ちゃんもそう言った事情を知らない人達からは心配されて当然の事をしているわけですし、建業に残って居た人達を代表して深月様が来られたのも分かる話です。

 もしこれが雪蓮様達の後押しや、相手が【天の御遣い】と言う事では無かったのなら、こんな穏便な手段で済むような話ではありません。幾ら無理強いな婚儀を結ばせないと言う雪蓮様と一刀君との約束があったとしても、そうそう簡単に変えれるものではないからです。ゆっくりと何十年かけて守る約束なんです。

 少なくても現状では相手の顔も知らずに婚儀が決まる事も多い中、きっとそれぞれの思惑があったでしょうし、深月様のようにそう言うのを抜きに心配してくれた方も多くいたはずです。たくさんたくさん心配してくれたはずです。

 幾ら【天の御遣い】と言う孫呉にとって益のある相手だと言っても、あれだけ不確かな噂が流れてしまっていては、心配をするなと言う方が無理な話。

 

「……深月様」

「な~に?」

 

 だから、きちんと伝えなければいけない。

 その多くの方を代表してきたと言う深月様に…。

 孫呉に仕えて以来、沢山の事を教えていただいた深月様に…。

 血は繋がってはいなくても、母や姉のようにしていただいた深月様に……。

 こうして抱きしめられ、額を通して確かに伝わってくる深月様の温もりと優しさに応える為にも。

 

「一刀君と結ばれた事、私は後悔していません。

 そして、それはこれからもずっとです」

「そう」

 

 伝わってくる。深月様の短い言葉から……。

 浸み込んでくる。髪を梳かれる度に……。

 深月様が、私の言葉を喜んでくれていることが…。

 まだ見ぬ一刀君のことを祝福し、私達の未来を応援してくれることが…。

 そして同時に湧き上ってきます。

 今は遠く離れてはいるけど愛しいあの人の事を…。

 傷ついて、傷ついて、涙を流している事に気がつかない程傷ついて、ただ私達を守りたいと言う一心で、それでも頑張り続けるあの人の事を…。

 きっと今度も傷ついいて帰ってくるあの人を守り、癒したいと…。

 違います。本当はそんな事は望んでいない。そんなあの人を傷つく事が前提とした事なんて望んでいない。そんな身勝手で浅ましい事じゃない。

 私が本当にあの人に望んている事…。

 私があの人にしてあげたい事…。

 それは複雑な事でも、難しい事でもありません。

 あの人への想いはもっと単純で、だからこそ力強いもの。

 私が最初に自覚出来たあの人の想い。

 

「私は、どんな事があっても一刀君の笑顔を守ります」

 

 今だけではなく、これから先ずっとずっと心の奥に在りつづける想い。

 それこそが私の一刀君への想いの始まりであり、守り通すべき未来なんです。

 この想いが、どれだけ深月様に伝えられたかは分かりません。

 紡いだ言葉は短く、感情だけが先走った拙い言葉。

 

「……ごめんなさい深月様。こんな言葉しか出て来ないんです」

 

 こんな事では、国を任せられないとお叱りを受けるかもしれません。

 それでも、そんな言葉しか出て来ないんです。

 本の中でなら想いの込めた千の言葉を、例え万の言葉だとしても紡ぐ事も出来るのに。

 ただ私の本当の想いを乗せた言葉は……、一刀君への想いを深月様へと表す言葉は、此れしかなかったんです。

 

「なんで謝るの? 謝る必要なんて少しもないじゃない。

 翡翠ちゃんはものすごく良い出会いをしたの。

 その事は今の翡翠ちゃんの目を見れば良く分かるわ。

 もし謝る必要があると思うなら、いっぱい幸せになりなさい。

 これから何年も、何十年もいっぱい幸せになって周りの人を納得させればいいだけの事。

 そうすれば謝る必然性なんて何処を探しても無くなっちゃうわ。

 それとも幸せになる自信がない?」

 

 深月様の言葉が心の中に入ってくるより先に、反射的に首を横に振ってしまう。

 我ながら子供っぽい行動だとは思う。だけどこの方の前ではきっと誰もがそうなのだと思う。

 この方の優しさに…、この方の懐の深さに…、誰もが子供に還ってしまうのではないのだろうか。

 つくづくとそう思い知らされる。そしてそれが少しも嫌じゃない事にも同時に気がついてしまう。

 

「それにしても、若いって良いわねぇ~」

「深月様だって、まだまだお若いですよ」

 

 この方が私に想ってくださるように、私もこの方に幸せになって欲しいと。

 多くの悲しみを乗り越えてなおも、この慈愛を失わない深月様こそ、きっと幸せにならなければならない方だと。

 

「そうねぇ。でも、さすがにこの歳だと縁談の話は来ないのよねぇ。

 あ~あ、何処かに可愛い子が落ちてないかなぁ」

「……猫の子じゃないんですから、流石にそれは」

 

 あり得ない事を、まるで夢見るように頬を軽く染めながら深月様の姿は、本当に見た目通り恋に夢見る少女のもの。

 聞いた話では、その頃は人助けをする事だけに目が行ってしまい。またその事で多くの問題も引き起こし、長く縁談の話も無かったとのこと。その縁談も決まりそうになる度に、相手の方が病気や戦で命を落とされるなどの不幸があって流れてしまったと聞いています。これだけの方が、そんなつまらない事で一人身で終わってしまうのは、世の中間違っているのではないかと思えます。

 実際に年下の私から見ても可愛らしい方ですし、私と違ってきちんと成長されるところは成長されているうえ、これ程の人格と徳を持っておられる上、男の方の目を引くその女性らしい象徴と言うべき所は………止めましょう、虚しくなってきます。

 

「え~、でもそう言う出会いって運命的だとは思わない?

 もしそれが年下で母性本能擽る様な可愛い子で~。その癖に頑張り屋さんで、時折男の子なんだなぁと思わせてくれて~。優しい子なんだけど時々私を有無言わせず引っ張ってっちゃう強引な所があって、それでいて実はそれが私のためだって分かっちゃたら、きっと私全部投げうっちゃうかも」

 

 本当にそうなったら良いなぁと言わんばかりの瞳で、まるで十代の娘の様な夢を紡いでゆきます。

 それが少しも違和感無い所もこの方の凄い所ではあるんですが、……取りあえず幾ら今のが想像上の話とはいえ、一刀君を紹介するのは当分の間は止めておきましょう。

 これ以上、一刀君の周りに魅力的な女性が集まるのは極力控えるべきと言うのもありますが。一刀君、絶対に深月様の様な大人の女性の雰囲気に流されやすいに決まってます。

 こう、一刀君に膝枕をしてあげて耳掃除をしながら優しい微笑みを浮かべたりする深月様は…………、う゛っ、どう考えても見ても、子供っぽい私より御似合いです。心配です。

 ええ、むろん信じてますよ。深月様が分別ある大人だと言う事は。

 一刀君が私達だけだと言ってくれた事は。

 でも、不安に思ってしまうのはしょうが無いんです。

 

「あれ? 翡翠ちゃんどうしたんです? いきなり渋面しちゃて?」

「……ぁぅぅ、なんでもありません(いったい誰のせいだと思っているんですか)」

「そんな仏調面をしてたら、例の彼氏を不安にさせちゃうわよ。

 とりあえずお菓子でも食べて心を落ち着きましょう。 ほらほら。飴玉あげますから♪」

 

 

 

七乃(張勳)視点:

 

 

「七乃~、助けてたもれ~」

 

 洗い終えた食器を布巾で丁寧に拭いていると、お嬢様の助けを呼ぶ声が聞こえますが、その声音からして本気で助けを呼んでいるわけでは無く、困ったので助けてほしいと言ったところでしょうね。

 そんな訳で拭くべき食器もあと二つ三つほどなので、其方を終えてから顔を出す事にしましょう。

 ……まぁ、だいだい何が起きているかは想像できちゃうんですけどねぇ。

 

「七乃~」

 

 あ~、はいはい今行きますから、もう少し待ってくださいねぇ。

 お嬢様の何度目かの催促に、口に出さずに言葉にしながら、最後の食器を拭き終えてお嬢様がいるであろう居間に顔を出すと。

 

「うーん、やっぱり全然違います」

 

 先程まで無理やり天の国で言う【抱き枕】とか言う物のようにされていたお嬢様が、そんな言葉と共にもう興味がないとばかりに『ぽいっ』と捨てられていた所でした。

 ああ、可哀相なお嬢様。散々無理やりに慰み者にされた挙句に、事が済めばまるで襤褸雑巾のように捨てられるなんて。

 

「……なんか、失礼なこと考えてません?」

「いえいえ、気のせいです♪ 少なくとも言葉には出してませんよ♪」

「……はぁ…もういいです」

 

 解放されたのを幸いにと、慌てて私の背へと逃げるお嬢様の髪を軽く後ろ手で撫でながら、お嬢様を羽交い絞めしていた体を起こして、再び一人で物憂げに酌を始める翡翠さんの姿に『またですか』とこっそりと溜息を吐きます。

 

「ん~…、足りないです」

「そうですか? おツマミもお酒も十分あると思いますけど」

「……分かってるくせに」

 

 昼間の優しげな物腰の中でも毅然と執務をこなし。威厳では無く、律と仁徳でもって治める政治の在り方だけでなく。人としての在り方からでも多くの武官文官達に慕われる姿は其処には欠片もなく。

 寿春の家から持ってきた布団と懐炉の無い掘り炬燵……と言うか、布団も掛かっていない炬燵なんて、もはやただの机ですよね。

 とにかくただの机に成り下がった机を枕に頭を乗せながら杯を片手に一人で酌を進める姿は、しどけない女性の姿を通り過ぎて、だらしない駄目駄目人間さんがいます。まるで何処かの元王様のようですねぇ。

 

「なんにしろ、お嬢様で(・・・・)遊んで良いのは私だけですから、お嬢様が幾ら可愛いからと言ってお嬢様で遊ぶのは止めてください。

 この間、生贄として作って差し上げた【でふぉるめ】した一刀さんの【ぬいぐるみ】はどうしました?」

 

 【ぱいる布】の応用で作った生地を元に、ちょっとした犬ぐらいの大きさの一刀さんの人形を三体ほど作り、一つは目の前にいる翡翠さんに、一つは勝手ながら明命さんの部屋に置いてあります。

 え? もう一つですか? もちろん、もう一つはお嬢様に差し上げましたよ。

 ただ、お嬢様と私は同じ部屋なので、必然的に私の部屋にあるとも言えない事はないですけど。アレはお嬢様がお嬢様の意志で寝台の上に置いているだけであって、私の意志ではないですよ。変な意味に勘違いしないでくださいね。

 とまぁ、聞いている誰かがいる訳でもないのに、こんなつまらない事を頭の中で問答しているのは、目の前の状況がもうどうでもいい位につまらない状況な訳で、その辺りを少しでも気がついてくれる何処かの誰かさんが居たなら、少しだけ私の気も晴れるかもしれないなぁ。と勝手に現実逃避していただけなんですけどね。

 

「そうそう、それですけど。 もう一つ作っていただけないでしょうか?」

「あれ? もしかしてもう痛たんでしました? そんなに簡単に痛むような作りはしていない筈ですけど」

「いえいえ、七乃ちゃんが作っただけあってしっかりしてますよ」

 

 そう言って、何処からか出したのか、先程のお嬢様の代わりに問題の【ぬいぐるみ】を抱きしめながら酌をする翡翠さんに、軽く首を傾げてみると。

 

「ただ、もう少し硬めのモノが欲しいかなぁと。

 そのなんていうか…………」

 

 お酒のせいもあるでしょうが軽く頬を染めてモジモジと言い難そうにしてはいる姿は、男の人からしたら庇護欲を刺激されるんでしょうし、同性から見ても翡翠さんの童顔さと小柄な体型が相まって可愛らしく映るんでしょうが、私の眼には……。

 

「ようは、うっぷん晴らし用に叩きのめせる物が欲しいと言う事ですね。

 そう言う事なら、綿の代わりに砂袋でも入れておきます」

「………七乃ちゃんの意地悪」

「違うんですか?」

 

 更に訪ねてみせる私に、翡翠さんは『お願いしますね』とだけ言って、今度は乾物の酢和えを口に咥えたまま、服の裾が肌蹴るのも構わず再び床に寝転がりだします。うわぁ…おっさん臭い。

 幾ら同性しかいないと言っても、あまりものだらしない姿に注意しようか、それともそのまま踏みつけちゃおうかと一瞬だけ考えたものの、此処数日ほとんど毎日のように見せられる姿に、結局出たのは小さな溜息が一つです。

 

「……はぁ」

「……ぁぅ」

 

 重なる二つの溜息。

 でも出た意味はまるで違う二つ。

 私は教育上良くないので、お嬢様にお部屋に戻って、荘園での写生や記録を纏めるようお願いします。

 別に翡翠さんのだらしなさに此れから一戦交えようという訳では無いですよ。

 だってそんな事をしても疲れるだけで、私に何の益もないですから。

 

「ぁぅぅ……、やっぱり足りないです」

「何がです?」

「養分が足りないんです」

「……ちなみに今更いくら栄養を取っても、翡翠さんの歳では成長は見込めないですよとか言っちゃたら怒ります?」

「そう言う養分じゃないんですぅ。

 それに、この歳ですと流石に身長に関しては諦めはついています」

 

 身長は(・・)なんですね。

 流石にそれを口に出しては言いません。恐いですから心の中で想うだけです。顔には出してちゃってますけどね♪

 でも、それで黙っているだけですと、翡翠さんに口実を与えてしまうだけなので、早々に話題を戻しちゃいます。

 

「じゃあ何が足りないんです?」

「そんなの決まってます。

 一刀君が足りないんです」

 

 がしっ!

 

「なんで話の途中で逃げるんです?」

 

 そんな事、聞きたくないからに決まってるじゃないですか。

 というか今どうやって腕を掴んだんです? 絶対にあの位置からは届かない位置だったはずですよ?

 だいたい養分が足りないと言う話で、何で一刀さんの名前が出てくるんですか。

 ええ、分かってますよ。分かっていますけど聞きたくないと言うか、そう言う理由の酔っ払いを相手にしたくないと言うのが本音です。

 

「一刀君の温もりが欲しいんです。

 一刀君の匂いを嗅いでぎゅ~っと抱きしめたいし、抱きしめられたいんです」

「あー、分かりました分かりましたから、そう言うのは部屋で、その抱きしめている【ぬいぐるみ】を相手に言ってあげてください」

「だから足りないんですぅ。

 こんな物じゃなくて、本物の一刀君を躰いっぱいに感じたいんですぅ」

「だからって、そう言うのにお嬢様や私を巻き込まないでください。

 と言うか、今、なにか字が違いませんでした? こうなんかエッチな響きが」

「もちろんそう言う意味ですから」

 

 わぁ~、…この人そう言う事を言っちゃいますか。

 本音だったらえろえろですし。何を勘違いしてかは知りませんが、もし私達に対する牽制なら容赦がないというか。

 それ程歳が離れている訳では無いですが、翡翠さんの年頃の恋愛ならそう言うものでしょうけど。

 もしかして想いが暴走しまくって、方向性がおかしいと言う事に気がついていないとか?

 

「ああ、じゃあ霞さん呼んできますから、ちょっと待っててくださいね

 ほらほら、私って一応箱入りでしたから、そう言う意味では霞さんの方が人生経験豊富ですし、きっと翡翠さんの御話の相手になってくれますよ」

「……そうなんですか?」

「そこで疑われたら、悲しいじゃないですかぁ。これでも正真正銘、乙女なんですから」

「……」

 

 とにかく代替案を出して、酔っている翡翠さんに納得してもらい、やっとの事で開放してもらいます。

 まぁ代わりの生贄を差し出す約束をしたとも言いますけど。それは言わぬが花と言うか、本人が知らなければ問題ない訳で。

 と言う訳で、とっておきのお酒があると言う理由で呼び出しちゃいましょう。

 幸い霞さんと春霞ちゃんの家はすぐ隣ですし、きっと霞さんなら喜んで来てくれるはずです。

 むろん翡翠さんがすでに出来上がっていて、厄介な状態だと言う事は、ついつい言い忘れちゃいますけどね♪

 

「じゃあ待ってますねぇ~♪

 それと戻ってこなかったら後が酷いですから、その事を忘れないでくださいね♪」

 

 そこへ背中越しに掛けられる可愛らしい言葉に小さく溜息を吐きながら外に出ると。

 既に陽が完全に落ちかけようとしているにも拘らず、真っ直ぐと此方に向かっている人影に気がつきます。

 あれは確か周瑜さんの所のお弟子さんですよね。

 

「夜分に申し訳ありません。師より火急の言付けを預かって来ました」

「では此方にてお待ちください。 今、子瑜さんを呼んできます」

「あっ、師より貴女にでも構わないと仰せつかっております」

「そうですか」

 

 聞かされた言付けは、お弟子さんの姿を見た時より予想していたものの一つ。

 周瑜さんからの呼び出しでは無く火急の言付け、しかも私にも関わる事となると、その内容は安易に想像が出来ます。

 既に私の中では言葉にして聞くまでもない事ではあるものの、確認作業としては必要なものですし、何より此処まで駆けてきてくれたお弟子さんの苦労と周瑜さんの気遣いに感謝の意を示す必要があります。

 私はお弟子さんに感謝の言葉を言付けして、再び足を向ける。

 向かう先は霞さんの家に繋がる通用門……ではなく、元いた部屋。

 

「あぅぅ……。あっ、七乃ちゃんおかえり~。霞ちゃんは……………留守でした?」

 

 其処には机に頭を乗せながら、此方に顔を向ける翡翠さんの姿。

 建業の街では、いいえ、正確には一刀さんの前では決して見せる事の無かった翡翠さんの私生活の姿の一つ。 この街に移り住んで、私達に時折見せるそんな翡翠さんの姿を正すのは簡単な事。たった今聞いた事を伝えればいいだけ。

 そしてその予想が現実のものとなるには、言葉の最後まで言う必要すらありませんでした。

 『戻ってきますよ』たったそれだけで全てを理解した翡翠さんは、飛び起きるかのように一瞬で先程までの姿が幻かのように何時もの翡翠さんへと戻り、慌てて身支度をして城へと戻って行きます。

 迎え入れる為に…。そのための時間を作るために…。

 

「七乃~。いま翡翠が慌てて出かけて行ったが、どうかしたのか?」

「何でもありませんよ。翡翠さんが自分で自分を忙しくしているだけです」

「そうなのかえ?」

「ええ」

 

 物音に気がついて、様子を見に来たお嬢様をあやすかのように、私はお嬢様を両手で抱き上げます。

 先程翡翠さんが抱きしめていたせいか、翡翠さんの香りが移ってしまったのを私の香りで染め直そうとしたのかもしれません。

 鼻孔をお嬢様の甘い香りが擽ります。

 そして、その香りと一緒に僅かに香るのは………、お嬢様、また部屋で【ぬいぐるみ】を抱きしめていたんですね。お嬢様の【ぬいぐるみ】は、翡翠さんと明命さんへ作った物と違って、全て真新しい材料で作ったわけでは無く。裏地に使った古布や、打ち直した綿に染みついた誰かさんの匂いが残っています。

 私はともかくとして、お嬢様にはその方が良く眠れるらしいんですよね。

 

「なぁ七乃」

「どうしたんです?」

「何か良い事でもあったのかえ?」

「どうしてそう思うんですか?」

「うむ、何処となく嬉しそうにしておるからじゃ」

「いやですねぇ。気のせいですよ。 むしろ少しだけ嫌な気分になっているぐらいなんですよ」

「そうなのかえ?」

 

 嘘じゃありません。

 先程まで此処に居た方に、嫌な気分になったのは本当なんです。

 

「ええ、でも、今お嬢様をこうして抱きしめちゃいましたから、そんな嫌な気分はすっかりどこかへ消えちゃいました」

「妾は七乃の元気の元なのじゃな」

 

 別にだらしないとか、そう言う事でじゃないですよ。

 人間、誰だってそう言った一面は持っているのは当然なんですから。

 それに、人前でけっして見せないような姿を私達に見せるのは、翡翠さんにとって、私達を家族として受け入れくださっている証しでもある事を考えれば、嬉しい事ではあるんです。

 

「そうですよぉ~。私はお嬢様が笑ってくだされば、何時だってご機嫌です」

「ぬはははっ、それこそ妾の一番の家臣じゃ」

 

 じゃあ、何でそう言う姿を一刀さんに見せてあげないんです?

 それは翡翠さんだけに言えることではありません。

 

「でもお嬢様の涙ぐむ姿も、大陸一の可愛らしい姿ですよ。 先日の蜂の時なんかもう」

「そ、そう言うのは忘れるのじゃ。と言うか霞めの稽古という名の虐めは何とかならぬのか?」

 

 一刀さんも一刀さんです。

 翡翠さんがよく練習されている天の国の料理。

 あれは一刀さんが翡翠さん達のための料理であって、一刀さんが時折こっそり作っている粗野な味付けの料理とはまったくの別物。

 その事を知らないから、あれが一刀さん好みの味だと勘違いしたままでいるんです。

 

「ん~~。無理♪」

「ぬぉっ、そのようなあっさりと答えを出すでない」

 

 本当の自分を隠したままで、ずっといられる訳ないと言うのに…。

 そんな隙を人に見せておきながら、あんな牽制をしてくる人に…。

 

「ええ、でも無理なものは無理としか言えませんよ。

 それよりも良いんですか? 先程から其処に霞さんが立っているんですけど」

「ぴっ! ち、違うのじゃ。 今のはお主の稽古が嫌とか言うのではなくてじゃな。そ、その・」

「と思ったら、ただの箒でした♪」

 

 なにより、そんな程度の事で何故かイラついている自分に対して、イラついてしまいます。

 全然関係ないはずなのに。

 

「ぬぁっ、妾を騙したのかっ?」

「いえいえ違いますよぉ。

 言ったじゃないですか、見間違いです。

 ほらほら、美羽様も見間違いされる事があるじゃないですかぁ。それに臣下の罪を赦すのも立派な主の条件ですよぉ。

 美羽様は私の立派な主人じゃないんですか?」

「う、うにゅ。その通りじゃ。

 だが七乃よ。一つだけ言うて置くが、七乃は確かに妾の掛け替えのない臣下じゃが、同時に妾達の主は主様じゃぞ。その事を忘れるでない。妾達が今こうしていられるのは全て主様在っての事じゃ」

 

 そんな私を、お嬢様は真っ直ぐと連れ戻して下されます。

 お嬢様は私の戸惑いに気がついていないにもかかわらず。お嬢様はお嬢様の魂が訴えるがままに暗闇に迷う私を、お嬢様の元へと照らしてくださいます。

 それがお嬢様の袁家としての本来の魂の御力なのか。

 それともお嬢様自身の成長なされた証なのかは分かりません。

 ただ、分かる事。それは私のお嬢様は、お嬢様にしかありえない事。

 そして……。

 

「そう言えばその一刀さんですが、もうすぐ帰ってくるそうですよ」

「ぬなっ、それは本当か!?」

「もちろんです。私がお嬢様に嘘なんか吐いた事なんて、一度もないじゃないですかぁ~」

「そうじゃったかなぁ? まぁ良い、今はそれ所では無いのじゃ。

 七乃。手伝ってたもう。 主様にいっぱい見せたいモノがあるのじゃ。

 妾達がいっぱいいっぱい頑張った事を見てもらいたいのじゃ」

 

 そうですよね。お嬢様はお嬢様なりに一生懸命頑張りました。

 荘園での稲や養蜂を始めとする様々な育成記録や作業での記録。それは天気や気温だけではなく、その様子を絵と短い言葉で書き止め続ける事。

 今は何の役の役にも立つ事の出来ない積み重ねですが、その積み重ねこそが、いずれ宝となるんです。

 勘や経験に任せたものでは無く、確たる手法を確立するために。多くの人達を飢えから護るために。

 

「駄目ですよ。整理は手伝って差上げますけど、荘園での記録はお嬢様自身の手でやり遂げなければ、一刀さんの事ですから見破ってしまいますよ。

 きっと一刀さんの事ですから、怒ったりはしないでしょうし、逆に褒めてくださるでしょうが、一刀さんの期待に応えた事にはなりませんよ。それでも良いんですか?」

「ぬぉっ! それは不味いのじゃ。どうにかならぬか?」

「ああ、でも一緒に観察されていた春霞ちゃんや小蓮さんの手を借りるのは問題ないと思いますよ」

「おおぉ、さすが七乃じゃ」

 

 お嬢様は今、一歩一歩確実に歩まれています。

 先の見えぬ道であろうとも、一刀さんの指し示す先に向かって。

 お嬢様の魂が訴えるがままに、歩んでおられています。

 その先に民の笑顔がある事を信じて。

 

「ならば今から春霞の所へ行ってくるのじゃ」

「今からですか? 幾らお隣とは言えもう遅いですよ」

「善は急げと言うのじゃ」

 

 そう言うなり、お嬢様は部屋に必要な物を取りに駆けだします。

 確かに早めにから纏め直しておくのは良い事ですが、お嬢様気が付いています?

 一刀さんが戻ってくるとは確かに言いましたが、明日や明後日の事では無く、まだまだ先の事ですよ。

 ああ、そう言えば、翡翠さんにも何時頃戻ってくるかを伝えるのを忘れてました。

 

「お嬢様、待ってくださいね。私もお供いたしますから」

 

 なら、念のために霞さんの所へ避難しておきましょう。

 でも翡翠さんだって悪いんですよ。最後まで話を聞かずに行っちゃうんですから。

 それにしても一刀さん、今頃何してるんでしょうか?

 きっと、考えるだけ思考の無駄ですよね。

 

 

 

通常視点:

 

 

「くわーーーーーっ、ななんなんだ、これ! 辛っ辛っ!」

 

 薪が爆ぜる音が、星空が輝く夜空に吸い込まれるのを打ち消すかのように、少女の堪らないと言った悲鳴が辺りの荒野へと響き渡る一方。

 

「………っ!! くぅ……っ!」

 

 長い黒髪の少女の方は声を必死に殺しながらも、涙を抑える事が出来ず、思わず片手で顔を被う。

 

「だから、ちょっと付けるだけだけだって注意したんだけど」

 

 そんな対照的な二人を気遣う様に、二人に白湯をそっと渡す少年は、苦笑を浮かべていた。

 少年にとっては、此処まで送り届けてくれた礼として、長身の少女を夕食を誘っただけのつもりだったのだが、まさかこんな事態になるとは予想だにしていなかった。

 流石は馬の民と言われるだけあって、長身の少女が率いる人達の動きや手順は、少年達の隊にとって快適だったのはもちろん。大いに手本となるべき存在であった。それ故に感謝の意を出来る限り表したいとおもうものの、行軍中故に手の込んだ食事は作れない。でも代わりに道中故での出会いもあった。

 清水の湧く山の中で自生しているのを見つけたそれは、少年としては故郷の懐かしい味。

 ほんの少し擦って料理に入れるだけで、独特の清涼感と爽やかな後味を与えてくるうえ、臭み消しや防腐剤としては最高の調味料の一つ。

 

「ほら、こうして少しだけなら、最初は甘味だって感じれるし」

「「無理っ!」」

 

 だが少年の想いと言葉は、二人の少女の重なる言葉によって、一言の元に切り捨てられる。

 しかも、二人の少女の攻撃はそれだけには止まらない。

 

「だいたい、あんな辛くてツーンとするようなものを、よく口に入れられるなぁ」

「そうです。思わず鼻の奥を攻撃されたかと思いました」

「天の国の人間はあんなのを食べるてるのか?

 そりゃあ、馬乳を使った料理とかには驚いたし、仲間が色々と作り方を教わっておいて今更こう言うのもなんだけど。信じられない味覚しているなぁ」

「そうですよ。一刀さんの作る料理は何時も美味しいですけど、この味は絶対に認められません。

 梅干しとか言うアレより凶悪です!」

「なにぃ、まだこんなのがあるのかっ!?」

「はい、他にもクサヤとか凄い匂いがするのもありました。

 中でも納豆とか言う煮豆なんて凄いんですよ。こう箸に取ると糸が引くんです」

「それ絶対腐ってるだろっ!

 うわぁ、なんと言うか。うん、あたし天の国に生まれなくて良かったと今初めて思った」

 

 此処までの道中、それなりに打ち解け合ってはいた二人の少女ではあったが、此処まで息の合った会話は少年の記憶には無い。その事そのものは少年にとって喜ばしい事ではあるが、此れが自分への攻撃となると、その喜ばしさは半減するどころか、正直、嬉しくない。

 それでも少女が活き活きした表情をするのを、少年は嬉しくなってしまうのは惚れた弱みと片づけるには。はあまりにも複雑な状況。

 しかも、自分の慣れ親しんだ味をこうまで攻撃されては少年とて黙ってはいない。

 

「辛いと言ったら、唐辛子や山椒の方が凶悪だろう。喉が焼けるわ、舌が痺れるわ。

 少し使うくらいならともかく、俺には山葵くらいの辛さがちょうどいいんだよ。

 だいたい鼻が曲がりそうなくらい臭い料理だったら、この地にだっていっぱいあるぞ。

 それと納豆は腐ってるんじゃなくて発酵してるだけだ。どっちかと言うと馬乳酒と同じなんだよ」

 

 正論でもって反撃を試みるが、少女達とて慣れ親しんだ食材が、否定されたり同列視扱いされれば否定したくなるもの。

 そもそも、味覚と言う個人の感情に左右されるものに対して、正論で攻めること事態間違っていると言えるうえ、少年は決定的な間違いを犯していた。

 

「全然違う!」

「違いますっ!」

「だいたい唐辛子や山椒は簡単に育つし、量を使ってもあんな酷い目に遭わない。 そりゃあ美味い料理が作れるかと言えば自信はないけど。一応一通りは出来るんだ。だからこれだけは断言できる。あんなものは食材とは言わない」

「そうですよ。唐辛子や山椒を多く使うのは、食べ物を腐りにくくするためと言うのもありますし、多くの料理にも使えます。 一般的な料理ならともかく、保存食を作る事に関しては少しだけ自信があります」

「………二人とも料理が出来るとは流石にいえないと思うけど」

 

 それは感情論に走った少女二人を前に、口で敵う訳など無く。

 ましてや、乙女心の微妙な所へ傷をつける言葉を発してしまった事。

 

「だったら、あたしが料理が出来るって所を見せてやるから、そこで待ってろよ」

「そうです。翡翠様や七乃ほどでは無いですが、私にだって料理ぐらいできます」

 

 かくして、らしくも無く戦略的撤退を選ぶ事をしなかった少年は、少女の一人との別れの朝を迎えても、まだその地を立つ事も出来ずに、天幕の中で呻く事となる羽目になるとは、この時の少年に分かる訳などなく。

 二人を怒らせてしまった事を恥じながら、呑気に二人がどんな料理を作って来てくれても、完食しようと心に誓っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百参拾玖話 ~ ただ、其処に舞う微笑みを見ていたくて ~ を此処にお送りしました。

 

 気が付いたら三話分の文章量を書いていました。そして同時に一月以上経っている事に気が付きました。

 おかしいなぁ。お盆前に投稿しようと決めていたのに、何故か何時の間にかお盆が過ぎていました。うーん、何時の間に時間が経ったのだろう(笑

 と、毎度の言い訳はおいておいて、今回は建業の街に引っ越してお留守番をしていた美羽ちゃんと七乃を中心に描きました。

 美羽の成長ぶりは如何でしたでしょうか? えっ、全然成長していない? ……確かに背とお胸は1ミリも成長・げふんげふんっ。まぁそれはさておいて。

 あの二人が孫呉の下で生きる為には、それ相応の覚悟は必要なのだと思います。

 ああして生きている事自体が許せない人達がいる程でしょうから、幾ら一刀君の庇護下にあると言っても一筋縄ではいかないんでしょうね。

 それでも味方が居ない訳では無いと言うのは、あの二人にとって心強い事だと思います。

 でもそれも、二人が頑張っているから得る事の出来た味方。あの二人にはこれからも頑張ってほしいと思います。 もっとも、あっちの方面に関してどうなるかは、今の所は秘密です♪

 

 以前に名前だけ出てきた深月さんですが、今回は本人も込みで再登場いたしました。

 キャラクターイメージは、毎度大変お世話になっている金髪のグゥレイトゥ様からお借りいたしました。

 本当に母性本能の塊と言ったお方ですよね。翡翠がきちんと成長していたなら、こういう方になっていたかもしれませんね。

 ちなみに、この方は此の作中では、在る獲物を使い雪蓮や祭さんですら敵わない所を見せますが、ある特殊な事情のため武将としては無能です。その辺りは今後の作中で語りたいと思いますのでお楽しみに。

 そしていつも素晴らしいオリキャラと作品を描かれている金髪のグゥレイトゥ様には、この場を持ちまして感謝とお礼の言葉とさせていただきます。

 

 ……一刀君大丈夫かなぁ。あんなの食べて(汗

 でも男の子ならば、女の子の手料理は完食するべきですから、後悔なんて欠片も無いでしょうね。

 きっと可愛い女の子の手料理を食べれて本望でしょう♪

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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