#45
そんなこんなで、店を開いて数日が経過した。美味い飯と可愛い女店員がいるという事で、仕事途中、あるいは仕事帰りの連中がわんさかと来店し、収益もうなぎ登りだ。
そんなある日の夕方。陽も翳り、夜の帳が落ち始めてきた。『食事屋・北郷』から『居酒屋・北郷』へと立て看板を変えて開店準備。お品書きの札も架け替える。波才と月ちゃんは仕込みを続け、詠たんとねねたんは卓を布巾で拭いている。恋たん? 恋たんは昼間と同じ場所で寝ているよ。
そうしたなか。
「おっ、聞いた事のない料理をあるぞ、紫苑」
「あら、ホント。『焼鳥』…? 食欲をそそる匂いね」
この辺りではあまり耳にする事のない声色。見れば、妙齢の女性が2人に幼女が1人。おそらく片方の娘だろう。よく似ている。
「おや、食事ですか? こんな場所にお姉さん達みたいな人が来るなんて、珍しいねぇ」
俺は営業用のスマイルで声を掛ける。
「あら、お姉さんだって」
「ふむ、幾つになろうとも、そういう言葉は嬉しいな」
掴みはなかなかの感触だ。
「もうすぐ開店だから空いてるよ。どうだい、軽く食事でも」
勧誘の言葉を掛ければ、2人は顔を見合わせる。
「どうする、紫苑?」
「どうしようかしら――」
「おかーさん、璃々、おなか空いたー」
「そうだな、璃々。儂も酒を飲みたいぞ」
「仕方がないわねぇ、2人共」
「へい、らっしゃい!」
そんな訳で、夜の部、開始。
「さて、何にするかぃ?」
客もまだこの3人だけだし、他の従業員は待機、というか休憩。俺が焼き場に入り、カウンターっぽくあつらえた席で接客を開始。
「そうねぇ。注文するにしても、初めての料理ばかりだし……」
「だったら定番の料理にしておくかぃ? お嬢ちゃんには別の料理も出せるよ」
「ふむ、定番という事は、安定した美味さという訳だな。よし、紫苑。それにしよう。それと酒を頼む」
「仕方ないわね。それと、幼い子ども向けの料理もあるのかしら」
「普段は出してないが、ご覧の通り、他に客もいないからな。準備出来るよ」
「なら、それをお願いするわ。璃々、もう少し我慢できる?」
「うん!」
「儂は我慢出来んぞ」
「桔梗様、わがままー」
「うぐっ」
仲睦まじい母娘とその友人といったところか。嬢ちゃんの友人女性に対する敬称は気になるが、ま、美人の客だ。精一杯もてなしてやんよ。
「酒も常温と熱燗があるけど、どっちにするかぃ? ちなみに、熱燗ってのは、酒をお湯で温めたものね。香りが増すよ」
「あら、美味しそうね」
「うむ、初めてだな」
「毎度っ」
一頻り会話も終わったところで、月ちゃん達と休んでいた波才が立ち上がる。ちゃんとタイミングをわかってやがる。
「ま、アタイは特殊な訓練を受けてるっすからね」
なに言ってんだ、コイツ?
「酷ぇっ!?」
(´゚Д゚`)こんな感じの顔をした波才は放置するとして。
「む、お主が作るのではないのか、店主よ?」
「おっと、ここでは
「あら、何かこだわりでもあるのかしら?」
「そんなとこだ」
少しでも工夫を凝らさないと、読者の記憶に残らないからな。
「ただでさえ、投稿間隔が開いてるっすからね」
「るせぇ!」
「……シクシク」
「ますたぁは何を作っているのだ?」
煮込みと串を用意する波才の横で、俺は別の料理を始める。
「言っただろ? そちらの嬢ちゃんのご飯を作るのさ」
「璃々の分? わーい!」
「あらあら、はしゃいじゃって」
俺の言葉に、真ん中に座った幼女が喜びの声を上げる。可愛いなぁ、もぅ。
「ちなみに、璃々にはどのような料理を出すのだ?」
「んー、普通の
「ほぅ、それは興味深い」
「ま、見てな」
食材を包丁で切りつつそんな会話をしていれば。
「ますたぁ、火が準備できたわよ」
「おっ、詠たんナイス」
「たん言うな」
おっと、ツンっちまった。
「あんがと。月ちゃんもご苦労さん」
「いえ、お仕事ですから」
月が額の汗を手で拭えば、煤か何かで鼻っ柱が黒くなった。
「……一刀」
「あぁ」
「(可愛いから黙っておくわよ)」
「(当然だ)」
「?」
俺と詠たんは無言のアイコンタクトで意志疎通を図るのだった。
「あれっ? 月ちゃん、鼻の頭が煤で黒くなってるっすよ」
「えっ、ホントですか?」
「いま拭くっすね……っしょ」
「んみゅ……へぅ、ありがとうございました」
気遣いの出来る波才たん。
「テメェ、ざけんじゃねぇぇぇええええええっ!!」
「いっぺん死んできなさいっ!」
「ぶばぁああああああああ!?」
詠たんと俺のツープラトン。
焼き場とは別に焚いた火で、俺は料理を始める。
「はい、熱燗と
「じゅぅす?」
「はい。柑橘系の果物を絞ったものに、蜂蜜を混ぜたものなのです。甘くて美味しいのですぞ。お嬢ちゃんにどうぞ」
「あら、ありがとう。ほら、璃々にだって」
「わーい、ありがとー!」
ねねたんもウェイトレスとして頑張ってる。一枚絵だとそこそこの身長なのに、立ち絵だとこの幼女と変わらないんだよなー。
「ますたぁ、何か言ったすか?」
「んにゃ、何も」
電波はなかったことにするとして。
「まぁ、定番だよな」
「何作るんですか、一刀さん」
「ん? オムライス(的なもの)」
皆が皆、頭上に疑問符を浮かべている。ま、この時代にゃないしな。
「でもケチャップがねーんだよなー」
「なんすか、けちゃっぷって」
「アレだよ。ほら、#0で、トマトの種をポケットに入れてるシーンがあっただろ? いずれこっちじゃ珍しい作物を栽培して、新しい味の料理を出すっていう流れにしようかと思ってたんだよ。伏線的なアレで。
んで、今回ソレ使おうかと思ったんだけど、そもそも野菜を栽培する暇がないんだよな。『実は作って、ずっと運んでましたー』っていうのも一瞬考えたんだけど、まず腐っちまうし」
「「「「?」」」」
めめたぁ。
あとがき
そんなこんなで#45。
忙しくて#48から#50が終わっていない。
ま、なんとかなるだろ。
ではまた次回。
バイバイ。
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やばい、忙し過ぎて#48以降を書いていない。
……(゚ω゚)
どぞ。