#46
「へい、お待ち」
しばし料理に精を出し、幼女の為の品が完成する。焼き上がって一度お椀に写し、半球にした炒飯。それに薄く焼いた卵を被せ、裾の部分を炒飯の下に詰め詰め。見た目はケチャップ無しのオムライス。つくね用のひき肉を丸めたハンバーグ。母親がいるならば、ちゃんと野菜も出さなければ。とう訳で、人参を花形に切り、焼いたもの。
「わー、お花さんだー!」
「ほんとね。お野菜が苦手な璃々でも食べられそうね」
「うん!」
なかなかの感触。ハンバーグにも、刻んだネギと塩ダレを混ぜたものを乗せている。
「はい、こいつはサービスだ」
「さぁびすとは何だ?」
「無料提供って意味さ。お姉さん達みたいなお客さんは、この辺りじゃなかなか来ないからな」
銀髪のメガねーさん(メガ乳ねーさん、略してメガねーさん)が、赤ら顔で問いかけて来たので軽く返す。
「気前がいいな。ますたぁよ、酒の一杯くらいさぁびすしてくれてもよいのでは?」
「姉さん達がこの店に便宜を図ってくれるならいいよ」
俺の言葉に、銀髪メガねーさんがスッと眼を細める。母親の方も娘の様子を見ながら、こっちに注意を払っている事がうかがえる。それを受け、俺はニヤリと笑う。
「おやおや、マジに役職に着いてる御方たちだったんだ」
「「…………えっ?」」
「一般人なら、そんな反応しないさ。するとしても、また利用してくれって言ってると思うだろうし」
「「……」」
「お母さん、おいしーよ!」
お嬢ちゃんの喜びの声が響く。
話を聞けば、銀髪メガねーさんは厳顔さん。母親の方は黄忠さんらしい。ってことは、娘さんは……黄叙だっけ?
「まさか、こうも簡単にハメられるとはな」
「私たちも、まだまだ未熟ってことね」
「既にだいぶ熟してナンデモアリマセン」
「おいしー」
璃々ちゃんはいい子だなー。
「ま、さっきのは冗談さ。一般人だろうと帝だろうと、ウチで飯を食うなら等しくお客さんだ。その待遇に差なんてつけないよ(←セールストーク。春秋姉妹を厚遇していた過去は忘れた)」
「儂らもその方がありがたいしな」
「そうね」
「それにしても、結構な役職の御方がこんな店で飯なんて珍しいな(←セールストーク。長沙、陳留のことは忘れた)。何か用事でもあったのかい?」
「あぁ。街の外で新しく開墾を行なっていてな。コチラ側の門が一番近かったのだ」
「私は璃々とお散歩の帰りね。桔梗とはたまたま一緒になったの」
「んで、俺たちはここで店を開いていた、と。縁ってのは、やっぱあるもんなんだねぇ」
どうしてこう、有名人とばかり知り合ってしまうのか。
「縁とな?」
「あぁ。俺たちは元々長沙の出なんだが、向こうでも店を開いていてな」
「長沙というと、孫策のところね」
「そうそう。で、向こうでも街の重鎮たちに気に入られてね」
「重鎮?」
「あぁ。孫策ちゃんとか周瑜ちゃんとか、んー……黄蓋さんとかも知ってる?」
俺の言葉に、2人はおや、といった表情を浮かべる。
「あれ、知ってるの?」
「えぇ、祭…公覆のことならよく知ってるわ。3人で、よく弓の腕を競い合っていたもの」
「懐かしいな」
世間は狭いな。
「なんだ、知り合いか。なら祭ねーさんの性格は知ってるだろ? 乱暴な客を軽くあしらった事を聞きつけて、勝負をふっかけられた事があるんだよ」
「あらあら。祭も変わってないわね」
「いや、それよりも、ますたぁは祭に認められる程の腕ということなのか?」
「認められたかどうかはわかんないけど、たいてい引き分けに終わってるよ」
俺がそう言うと、厳顔ねーさんの眼がすっと細まる。
「おいおい、勘弁してくれよ。俺はただの商売人だぜ?」
「何を言うか。腕のたつ者が目の前にいるのだ。勝負をせずにいられるものか!」
「黄忠のねーさんからも言ってくれよ」
「でも、桔梗は言ったら聞かなくて」
おっと、けっこうな放任タイプなのかもしれない。あるいは、面倒事は避ける性質か。
俺は、対年上用の最終兵器を繰り出す。ほんのわずかに上目遣い(意識しないと気付かないレベル。無意識下に攻撃を与える)。
「……お姉ちゃん、厳顔姉ちゃんを止めてくれないかな?」
「あぅっ!?」
果たしてそれは、相当の効果を有していたらしい。黄忠ねーさんは、その巨大な胸を抑えて呻いた。
そんなこんなで戦闘回避。
「……まさか、紫苑があそこまで必死に止めにくるとは思わなんだぞ」
「だって、可愛い男の子のお願いだもの」
「違いない」
そう言って軽く笑い合う2人。アレ、なんか危険な雰囲気が。
「それはいいとして、だ。ツマミの皿が空いたけど、何か追加注文はあるかい?」
「どうする、紫苑? 酒ならいくらでも飲めるが」
「そうねぇ……」
と、そこで。
「ふぁぁああぁ……」
璃々ちゃんの可愛らしい欠伸。
「璃々もお腹いっぱいで眠そうだし、これくらいにしておきましょうか」
「そうだな。城に帰ったら焔耶でも捕まえて飲み直すとしよう」
もう1人いるのか?
「美味かったぞ、ますたぁ」
「えぇ、まだこの街にはいるのかしら」
「あぁ、もう少し稼がせてもらうよ。月たちの
「だいぶ慣れたわ」
「うん、疲れるのは変わらないけど、楽しいよね」
詠たんも楽しそうだ。
「んんんー、ねみゅぅ……」
そしておねむの璃々ちゃん。黄忠ねーさんの服にしがみつき、その大き目の布に包まろうとする。
「少し風も出て来たな。待ってな。羽織らせるものを出すよ」
「あら、いいの?」
「お得意さんだからな」
「ふふっ、まだ1回目なのにね」
「なって欲しいのさ」
「えぇ、また今度ね」
「そうだな。また来させてもらう」
「あじゃじゃしたー」
そんな出会い。
あとがき
さて、寝るか
バイバイ。
Tweet |
|
|
81
|
2
|
追加するフォルダを選択
やっぱりこんな時間
どぞー