#44
陽もほとんど沈んだ宵の時間。
西涼から南下気味に東進し、やって来たのは益州のとある街。
「はーっ、恋や一刀がいるから野宿でも別にいいんだけど、やっぱり布団があると違うわね」
「うん、気持ちいいね、詠ちゃん」
適当に良さげな宿を取り、休憩に入る。寝袋(手作り)は用意してたから、野宿でもそこそこの寝心地だったが、やはり屋根があり、布団があると安心する。月ちゃんと詠たんは布団にごろんと横になった。
「もきゅもきゅもきゅ……」
「びっ、備蓄がないのですぞ!?」
「ねね…おかわり……」
「恋殿ぉぉおおお!?」
恋たんは閉店間際の屋台で買い込んだ点心やら何やらを食べつくし、ねねたんは悲鳴をあげている。
「えーと、ここの宿代がコレで、恋のご飯代がこうだから……」
んで、波才は帳簿をつけている。
「どうだ?」
「恋の食費が大きいっすけど、道中で色々と商売してんで、まぁ、だいじょぶっす」
「そうか。よくやってるな」
「へへっ」
マジメに役割をこなしている波才の頭を撫でる。
……ん?
「なんすか?」
「ここ、計算
「うげっ!」
「お仕置きだな」
「んにゃぁ!?」
お仕置きとして、乳を揉んでおいた。
「小さいけどやっこいなー」
「んっ、んにゃっ」
月ちゃん達はもう寝入ってるし、恋たん達も食後で寝ている。
「ちょ、そろそろやめっ――」
「あと3モミモミな」
「んにゃぁああああ!」
もう少し堪能しておこう。
という訳で、翌朝。まだ董卓軍の奴らがいる時に作らせた荷車を引っ提げ、街を歩く。
「ぜぇっ…ぜぇっ……お、重いっす……」
「軟弱ねぇ」
息を切らせながら荷車を引く波才に、詠たんが辛辣な声をかける。
「そんな事言ったら駄目だよ、詠ちゃん」
「う…悪かったわよ、波才。ボクじゃ絶対に無理だしね」
「べ…別に、かまわない、っす……」
「それより、一刀が楽々と引いてる事に驚きなんだけど」
「そりゃ、俺はこうやって旅した事もあるしな」
「一刀さん、凄いんですね」
身体全体で息をする波才とは逆に、俺はスイスイと荷車を引く。
「「……zzz」」
昼寝をする恋たんとねねたんは、波才の荷車に。
「それより、どこで始めるんですか?」
「当然、売れそうな場所だ」
「それって何処なのよ」
そんな会話をしながら、やって来たのは大通りの外れ。
「ここでやるの? 通りの端っこじゃない」
当然、詠たんは文句を言ってくる。甘いぜ。
「な、何よ」
「詠たんはこの通りしか見ていないからそう思うのさ」
「どういう意味?」
「あー、そういや社長、夜中に出掛けてたっすね」
「そうなんですか?」
「まぁな。今は朝だから分かりにくいが、それなりに人通りはあるぞ」
俺は波才と荷車を屋台に変形させながら言葉を続ける。
「ここは通りの端であっても、街の外れって訳じゃない」
「そうなの?」
「あぁ。もう少し向こう側にいけば、何かの作業所が軒を連ねている。つまり?」
詠たんも分かったようだ。
「つまり、仕事の昼休憩、あるいは仕事後にたくさん客が来るわけね」
「そうだ。しかもそれだけじゃない」
「どういう意味ですか?」
月ちゃんだけでなく、詠たんも首を傾げている。頭はよくても、商売については素人だからな。
「波才、説明してみろ」
そしてOJT。隣で作業をしている波才に話を振る。
「そりゃアレっす。客が来る時間帯が決まっているなら、それ以外の時間は休憩、あるいは仕込みに使えるんすよ。それと、午前午後と仕事に精を出すのは大の男たちっす。そいつらが満足できる味と量を出すには、最初の仕込みが大事なんすね。準備が万全なら、注文を受けてから料理を出すのにも時間がかからないっすし」
「正解」
「っし!」
俺の首肯に、波才はガッツポーズをする。
「っ!? て、敵襲なのですか!?」
「……zzz」
手を離したおかげで荷車が音を立てて傾き、ねねたんが飛び起きた。
そんなこんなで。
「『食事屋・北郷、三号店』(本店:『焼鳥・北郷』in長沙、二号店:『焼鳥・北郷』in陳留)開店だぜ!」
「「「「おーっ!」」」」
「……おー」
益州店(臨時)を開く。とはいえ、まずは仕込みだ。月ちゃんも料理が得意とのことなので、波才と組んで仕込みに入ってもらう。詠たんと恋たんとねねたんはウェイトレス的なポジションだ。いずれも、長沙の店で妹達が着ていたような、仕事着に身を包んでいる。黒の半袖と七分丈の下衣、あと三角巾。
「……」
「どしたんすか、ますたぁ?」
「いや、別に」
可愛いなぁ、もぅ。
「――この位でいいですか?」
「んー、もうちょぃ足した方がいいすね」
作業者以外が来てもいいように、俺は焼鳥の方の仕込みに入る。横で、波才と月ちゃんが他の料理の仕込みをしていた。
「でも、味が濃くなっちゃうと思うんですけど……?」
「甘いっすね、月ちゃん。これを食べるのは、がっつり働いて、汗をかきまくった男たちっすよ」
「それは分かりますけど……」
「ちなみに、汗がどんな味か知ってるっすか?」
「んと…しょっぱい……?」
「そっす。つまり、塩味をアイツらは必要としてるんす。だから少し濃いくらいが、アタイらが目当てにしてる客にはちょうどいいんすよ」
「なるほど」
波才も商売については先輩だ。いっぱしに研修的な事をしてやがる。
「ひゃぁっ!?」
「波才さん?」
「~~♪」
ご褒美にと、とりあえず波才の尻を(こっそり)撫でておいた。
通りの外れという事もあり、スペースはある。卓と椅子をいくつか並べ、即席の店舗をあつらえた。
「――詠たん、3番に焼鳥丼2つ!」
「わかったわ!」
「ねねちゃん、8番と12番
「任せるのですぞ!」
んで、今度こそ開店。昼時、初出店にも関わらず、なかなかの盛況だ。何故かって?
「……もきゅもきゅ……おかわり」
なんとも美味しそうに食べる恋たんがいるからな。
「一刀! ぼさっとしてない!
「あいよっ!」
「はい、お会計ですね。少々お待ちください」
詠たんやねねたんは軍師なだけあって、覚えが早く、また動きもいい。月ちゃんは月ちゃんで、その癒し系な雰囲気から、よく客に話し掛けられている。
「一刀っ、1番に常温2本なのですぞ!」
「昼間から酒はやってねぇよゴルァア!!」
「「「「ひぃっ!?」」」」
恋たん以外の4人をビビらせてしまった。
んで、昼飯時も終わり、
「――――さぁ、飯の時間だ!」
「っしゃぁ!」
「へぅぅ…お腹ペコペコだよぉ……」
「こういった仕事もなかなか面白いわね」
「詠よりもねねの方がいい動きをしていたのです」
「なんですって!?」
働いた後の飯の美味さを知っている波才は喜びの声を上げ、月ちゃんは空いた卓に突っ伏す。詠たんとねねたんは気合だけは負けていないようで、身体を解しながら卓についた。
「けぷ…お腹いっぱい……zzz」
恋たんはずっと食べ続けていたため、火を落とした調理場の陰で、昼寝に移行する。
「煮込み丼の煮込みが余ったから、それにちょっと味を加えて出してやるよ」
「「「「わーい」」」」
パチパチと拍手が起こる。とはいえ、大した事はしない。柚子と胡椒を混ぜて作った柚子胡椒を添えるだけだ。酸味がある分、余計に食欲が湧くんだぜ。
あとがき
という訳で、まったり回でした。
今日は23時過ぎに職場を出ようとしたんだけど、
『セ〇ムを作動できません』
……orz
そんな訳でこんな時間。
おつかれっしたー。
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どぞ。