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真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第二部 第05話

ogany666さん

今年の夏は去年より涼しい、そう思っていた時期が私にもありました。
まあ、近況報告はこのくらいに致しまして、華琳様再登場です。
これからも頑張っていきますので何卒宜しくお願い致します。
それでは、お楽しみください。

2013-07-06 00:39:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10056   閲覧ユーザー数:6795

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様、あれは!?」

「どうやら先を越されたようね、私達より早くここを着きとめるとは大したものだわ・・・・」

眼前に佇む、いたる所から煙が上がる砦。

その砦の城壁の上でたなびく、蒼い仲の牙門旗を今や兗州(えんしゅう)の州牧となった華琳とその一番の家臣である春蘭が見上げる。

「そんな!華琳さまよりも早く兵站に気付いて攻撃するものがいるなんて!」

「仕方ないわ、桂花。私よりも先に気付いた者がいた、ただそれだけの事よ」

華琳はいささか感情的になっている桂花を宥めながら、再び砦に翻る牙門旗を目を向ける。

「仲の牙門旗・・・・・、ここを攻めた者の旗のようだけど、一体誰の旗かしら?」

「恐らく、涼州に居る司馬懿の物かと。肩書きは新平の太守ですが、今や涼州の東部一帯を治める男と聞いております」

「おい、秋蘭。何故新平の太守がほかの地を治めているのだ?」

「なんでも、黄巾による混乱でほかの地を治める役人が逃げ出したらしくてな。州牧も五胡の対応で手が回らず、その隙に版図を広げたのだそうだ・・・」

「ふん、そのような火事場泥棒が華琳様よりも聡明であるものか!今回の事もまぐれに決まっている!」

「確かに下劣な男なんかが、華琳さまよりも優れているとは思えないわね。筋肉しか取り柄が無い春蘭と同意見なのは嫌だけど」

「なんだとっ!?」

春蘭と桂花がじゃれあっていると、軍の先鋒に居た季衣が少し慌てた様子でこちらへ来る。

どうやら前のほうで何かが起きたようだ。

「華琳さまー!砦の方から趙子龍っていう人が来てます!司馬仲達の武将だから華琳さまに会わせて欲しいって!今は凪ちゃん達が応対してますが、どうしますか?」

「そう、良いでしょう。すぐにこちらへ連れて来なさい」

「わかりましたー!」

季衣は華琳の言葉を聞いてすぐに取って返す。

しばらくすると、季衣と凪達が真紅の槍を手にする一人の女武将を連れて来た。

その武将の雰囲気は、春蘭の勇猛さと秋蘭の冷静さ、その二つを兼ね備えた様な風格をかもし出している。

「華琳様、あの者・・・」

「ええ、中々の将ね。少なくともあれだけの者を従わせるだけの人望があると見ていいわ」

こちらに来る趙子龍という将や、それを従える司馬懿の評価を秋蘭としていると、季衣や凪達が目の前までやって来る。

「華琳様、ご命令通り趙子龍殿をこちらまでお連れしました」

彼女と相対していた為か、少し気疲れした様子の凪がこちらへ報告すると、後ろに居た武将がズイッと一歩前へ出て、口上を述べだした。

「我が名は趙雲、字は子龍。この砦を落とした我が主、司馬仲達の命により曹孟徳殿の前へ赴いた。御用があれば承るようにとの事」

「なら、砦の中へ案内して貰えないかしら。司馬仲達という男と一度話をしてみたいわ」

華琳の言葉を聞いた桂花が声を荒げて苦言を申し立てる。

「華琳さま自らが男などに会われる必要はありません!ここは秋蘭や春蘭に向かわせれば十分です!」

自分の意を訴えつつも、さり気無く春蘭達に嫌な仕事を押し付けようとする辺りは流石は軍師といったところ。

だが、華琳はその意見は受け入れる気は毛頭無い。

「桂花、私は司馬仲達がどれだけの人物か、自分自身の目で確かめたいの。仕官する為にこの私を試したあなたなら解るわね?」

「むぅぅ・・・・・・はい」

桂花は華琳の言葉を聞き、意気消沈と言った様子で渋々同意の返事をする。

その返事を聞いた華琳は、しょぼくれた桂花の頬をそっと撫でながら話しかける。

「聞き分けのいい娘は嫌いじゃないわ。・・・・それで趙雲、案内してもらえるかしら?」

桂花の頬から手を離し、趙雲に先ほどの要望に対する返答を請うと、彼女は即座に了承してきた。

「承知、では早速主の下までご案内しよう」

「解ったわ。春蘭と季衣、護衛の為について来なさい。あとの者はここで待機、何かあった時は桂花と秋蘭の指示に従いなさい」

「了解です」

「解ったのー」

「まかしとき!」

「春蘭、絶対に華琳さまを下賎な男からお守りするのよ!」

「言われるまでもないわ!華琳様がお認めにならない様な男など近寄らせてたまるか!」

桂花たちと別れた後、春蘭と季衣を連れて砦へと向かう。

途中、自分の主を貶されたと思った趙雲から睨まれるが、気にせずに歩を進める事にする。

砦へ入り、黄巾の物資を燃やしているのを眺めながら歩いて行くと、風化してはいるが他の物よりも少し格式高い扉の部屋へとたどり着く。

恐らく、この砦がうち捨てられる前は指揮官が詰めていたであろうその部屋の扉を趙雲が開けて、中に居ると思われる司馬懿に私達の来訪を報告する。

「主、風、ご命令通り曹孟徳殿をお連れしましたぞ」

「どうぞお入り下さいー」

戦の後にしては少し間の抜けた様なのんびりした声が中から聞え、こちらへ部屋に入るように促す。

言われるがままに中へ入ると、部屋の中はやや薄暗く、窓際には古ぼけた机が一つ在るのみ。

その机の近くには桂花と同年代くらいの小柄な女性。

そして・・・・。

「曹操殿。あちらで地図を広げた机の前に立っておられる方が、我が主、司馬仲達様だ」

「「!」」

こちらに背を向けて机の前に立つ一人の青年。

その姿が目に入ったとき、華琳と春蘭の中で時間が停止した。

成長して背丈や体格は変わっているが、その容姿や雰囲気、そして何よりも腰に差しているあの剣が、その人物が何者なのかを雄弁に物語っている。

「最後に会ったのは確か・・・・・洛陽を出る数日前、十三年ぶりだね」

まだ幼く、何の力も持たない私を、命の危機から救ってくれた男の子。

いずれ大陸に覇を唱え、互いに雌雄を決する事を誓い合った男の子。

十常侍の手により洛陽を追われ、今まで行方が解らなくなっていたあの男の子。

「久しぶり、華琳」

そう、御爺様以外で唯一認めた男、北郷一刀がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

俺は後ろに居る華琳たちへ言葉を紡ぎながら、体をゆっくりとそちらへ向ける。

俺を見て放心状態になっている華琳と春蘭。

その様子を見て全く事情を知らない季衣や星はおろか、俺と華琳が知り合いだと先ほど聞かされた風でさえ、状況を理解できずに俺と華琳達を交互に見てしまっている。

「あ、あの、華琳さま。どうされたんですか?」

華琳の様子を案じた季衣が、恐る恐る彼女に声を掛ける。

しかし、それすら耳に入っていない華琳は、季衣の言葉を無視する形で、放心状態のまま俺に話しかけてきた。

「一刀・・・・・・なの?」

驚きのあまり上手く声を出す事が出来ていないが、俺が本当に北郷一刀なのかを問うてくる。

その華琳の問いに対して、俺は今の名前を含めて答えを返す。

「ああ、姓は司馬、名は懿、字は仲達になってしまったが、間違いなく華琳が知っている一刀だよ」

俺の答えを聞いた華琳は眼から一筋の涙を流す。

そして、ゆっくりと一歩前へ踏み出し俺に向かって歩みを進めようとした。

「かず」

「一刀おおおぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

「「「「「!」」」」」

だが、華琳が俺の事を呼ぼうとしたその時、彼女の隣に居た春蘭が俺の名を叫ぶ。

その部屋を震わすほどの叫声に、周りに居た全員が驚愕して春蘭のほうを見る。

「でやああああああああっ!」

俺の名を叫び終えた春蘭は裂帛の気合と共に俺へと突進。

腰に提げていた大剣を勢い良く抜くと、上段に構えてから一気に振り下ろしてきた。

「主!」

「お兄さん!」

俺の危機と察した二人を俺は左手で制し、腰を落としながら春蘭を見据える。

そして、腰に差した正宗の柄へそっと右手を添えた。

キイィィィィン・・・・・・・カランカラン

今まさに振り下ろされる大剣目掛けて正宗を抜刀、昔の様に春蘭の手にする剣を真っ二つに両断する。

そして、返しの刃を春蘭の首元へ持って行き、そのまま静止した。

「春蘭さま!!」

「主!!」

「止めなさい!季衣!」

「槍を引くんだ星!俺は大丈夫だ!」

俺の動きを見て春蘭の危機だと思い、武器を構えた季衣。

それを受けてこちらも臨戦態勢になり、槍を構えた星。

その二人を、俺と華琳は互いに強いひと声でそれを制し、二人が引いたのを確認すると、俺も正宗を鞘に納めて春蘭に話しかける。

「腕を上げたね、春蘭。剣がなまくらじゃなかったら、そのまま押し込まれていたところだよ」

「・・・・・・・・何故だ・・・・一刀!」

剣を真っ二つにされてもまだ興奮冷めやらぬ春蘭は俺に対して声を荒げながら更に詰め寄る。

「何故あれから一度も連絡を寄越さなかった!?お前が居なくなってから私がどれだけ心配したと思っている!」

「・・・・・・すまない。春蘭達の周りは十常侍の目が光っていてね。迂闊に連絡をする事が出来なかった。・・・・心配をかけて本当ごめんよ、春蘭」

「・・・・・」

俺の言葉を聞いた後、何の反応も見せない春蘭。

まだ怒っているのかと顔を覗こうとすると、突然俺に抱きついて大声で泣き出してしまった。

「かじゅとおおおぉぉぉ!無事でよかっらのらああぁぁぁ!うわあぁぁぁぁん!」

まるで親を見つけた子供の様に俺にしがみ付いて泣きじゃくる春蘭に、俺は片手で抱きしめながら頭を撫でて落ち着かせる。

少しの間、父親のような気分で春蘭をあやしていると、華琳が季衣に声を掛けるのが聞こえた。

「季衣、春蘭を連れて少し席を外してもらえるかしら。この娘にも心を落ち着かせる時間が必要でしょうしね」

「え?でも華琳さま、それじゃあ・・・・・・」

季衣は困惑した顔で俺の方へチラチラと視線を向けてくる。

季衣にしてみれば初対面である俺の事を警戒するのは至極当然の事だ。

そんな季衣に華琳が微笑みながら話しかけて説得する。

「大丈夫よ、季衣。一刀はあなたが思っているような事をする男ではないわ。私の身に何かあれば身を挺して守ってくれる人物よ。安心して春蘭を連れて行きなさい。いいわね?」

「・・・・はい、わかりました」

季衣は華琳の言葉を信じ、泣いている春蘭を連れて行くためにこちらに近づいてくる。

俺は今すぐにでも季衣に抱きしめたい気持ちを押さえ込み、今の彼女に自己紹介をする。

「始めまして、お嬢さん。俺は司馬懿、字は仲達、真名は一刀。華琳とは旧知の仲だから安心して任せてくれていいよ」

「は、はい、許緒と言います。あの、仲達さん、良いんですか?会ったばかりのボクに真名を許しても・・・・」

自己紹介とすると同時にいきなり真名を許した俺に、困惑した表情を向ける。

そんな季衣に俺は微笑みながら話しかける。

「ああ、華琳が護衛として傍に置くほど信頼しているんだからね。春蘭の事、よろしく頼むよ」

俺の言葉を聞くと季衣は歳相応の子供のような無邪気な笑みを浮かべた。

「うん、ボクの事は季衣でいいよー。またね、兄ちゃん・・・・・。春蘭さま、皆の所まで戻りましょう」

「ひっく・・・・・すまにゅ」

まだ泣いてはいるものの、先ほどよりは幾分か収まった春蘭は、俺から離れて季衣に付き添われる形で部屋を後にする。

傍から見ていたらどっちが年上か解らなくなる光景だ。

「剣の腕は上がったが、純真なところは相変わらずだな」

「そこが春蘭の可愛いところよ・・・・・・・・・・・・・さて、一刀」

春蘭が部屋から出て行くのを確認すると、華琳は先ほどまでは無かった威圧感を出して俺の前に立っていた。

俺は知っている。彼女がこんな威圧感を出している時は・・・・・。

「あの、華琳さん・・・・・。ひょっとして、怒っていらっしゃいます?」

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

「いや、何かすごい機嫌が悪そうだし・・・・」

「別に私はそこまで機嫌は悪く無いわ。もしそう思うのなら、あなたの中で何か私にやましい事があるからかもしれないわね」

嘘だ!!

絶対に怒ってる!!

とにかく思いつく限りの事を謝ろう。

俺は目の前に君臨する般若のような華琳を前に懺悔を始めた。

「じゅ、十三年以上音沙汰が無くてごめんなさい!」

「あら、どうしてそんな事を謝るのかしら?十常時の件で連絡が取れないあなたに腹を立てるほど、私は狭量ではないわよ」

「え、えっと。じゃあ前に春蘭の事を察しろって言われたのに結局また泣かせてしまったことかなぁ・・・・」

「・・・・・・」

俺が的を得ない返答ばかりしている為か、華琳はよりいっそう機嫌が悪くなり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

そして・・・・・

「あなたって自分で空気を読もうとすると・・・・・・本当に駄目ねっ!」

ゴッ!

「いってええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!」

華琳は要領を得ない俺に対して、文句を言いながら脚甲の尖ったつま先の部分で俺の脛に蹴りを入れてくる。

加減はしているがそれでも何も着けていない脛の部分、俺はあまりの激痛にその場に倒れこんで悶絶してしまう。

「ふん、少しは気が晴れたわ」

俺は床に座りながら蹴られた脛を擦り、華琳の方を見上げる。

幾分気が晴れたとみえて、先ほどのような威圧感はもう華琳から感じられない。

今なら、春蘭が襲い掛かって彼女に言えなかった言葉を口にする事が出来ると思い、華琳に声を掛ける。

「華琳」

「何かしら?」

「言うのが遅れたけど。・・・・・ただいま、また逢えて嬉しいよ」

「・・・・・言うのが遅いわよ・・・・・・バカ」

俺に背を向けて顔だけ、こちらを向けている華琳。

その横顔は俺の言葉を聞いてまた不機嫌な顔をしている。

だが、先ほどまでの威圧感は無く、子供の頃に見た拗ねた顔に近かった。

「いつまでそこに座っているの?手を貸してあげるから立ちなさい」

「ああ、ありがとう」

床に座り込んだまま立ち上がらない俺に、華琳はスッと手を差し伸べてくる。

俺はその手を掴み、痛みの引いた脚に力を込めて立ち上がったのだが、俺の引っ張る力が強すぎた為か、華琳は体勢を崩して倒れそうになってしまった。

「危ない!」

「え?」

俺は体勢を崩した華琳の手を引き、転んで怪我をしないようにこちらに抱き寄せる。

抱き止められて驚いている華琳は、俺の胸に手を当てて硬直してしまっている。

そんな華琳の緊張を和らげるために、俺は彼女に話しかけた。

「大丈夫だった?華琳」

「え、ええ。大丈夫よ・・・・」

「そっか、怪我が無くてよかったよ」

バンッ

「姉者を泣かせた司馬仲達はここかああぁぁぁーっ!?」

「華琳さま!お怪我はありませんか!?」

「「!」」

砦中に響き渡っているのではと錯覚するほどの大声を出しながら、勢い良く扉を開けて秋蘭と桂花が部屋に入ってくる。

しかし、その勢いも俺と華琳の姿を見て、二人とも目を見開いたまま石のように止まってしまい、俺と華琳も立て続けに起きるアクシデントに対応出来ずに固まってしまった。

「な、な、な・・・・・」

その時が止まった空間から真っ先に動き出したのは桂花。

彼女は体を震わせると、口をパクパクと動かして言葉にならない声を発しながらこちらを凝視してくる。

そして、堰を切る様に俺に対して罵詈雑言を浴びせてきた。

「何なのよあんたは!!!?華琳さまを襲ってどうするつもりよ!!?妊娠しちゃうじゃない!!さっさと離れなさいよ!!この痴漢!!変態!!全身精液男!!」

あ、この台詞久しぶりに聞いた。

俺は桂花の罵声に懐かしさを感じつつ、抱き止めていた華琳から離れる。

それを見ていた桂花は隣に居る秋蘭に即座に声を掛けた。

「今よ、秋蘭!華琳さまを犯したあの男を射殺しなさい!」

「・・・・・・」

しかし、秋蘭も華琳や春蘭の時と同様、桂花の言葉など耳に入らずに俺をただ見つめている。

そして、春蘭と同じように俺めがけて突進して来た。

春蘭と違い武器を手にしていないが、殴り飛ばされるのではと少し警戒する。

正直、その程度で彼女の気が晴れるのならば殴られてもいいと思っていたが、予想とは裏腹に秋蘭は両の腕を広げて俺に抱きついてきた。

「一刀、本当に無事でよかった・・・・。華琳様からお前の報せの事を聞かされていたが、心配していたのだぞ・・・・」

そう言いながら俺の胸で秋蘭は涙する。

性格は火と氷といった感じで対極ではあるが、こういうところは春蘭そっくりだと心から思う。

俺は抱きついたまま離れない秋蘭を、春蘭の時と同じように頭を撫でながら話しかける。

「心配してくれてありがとう、北家は無くなってしまったが俺は大丈夫だ。また春蘭を入れて三人で稽古しような」

「ああ・・・・・ああ・・・・」

「しゅ、秋蘭まであんな事に・・・・・。これは妖術に違いないわ!華琳さま!ここは危険です!早くこの場を離れましょう!」

状況が把握出来ずに取り乱す桂花は、俺と離れてから下を向いたまま顔を覗う事が出来ない華琳にここから逃げるように提案する。

だが・・・・。

「黙りなさい」

「ヒィッ!」

ただ一言、黙れと言葉を発しながら、華琳はゆっくりと顔を桂花のほうへ向ける。

その形相は先ほど威圧感を出していた時の比ではない。

その怒気に当てられた桂花はあまりの恐怖に体が小刻みに震え、小さく悲鳴を上げながら数歩後ろへ下がってしまっていた。

「桂花、あなたには私が離れるている間、本隊の指揮を任せたはずよね。それなのに秋蘭と二人でこんな所に現れるなんて、どういう事かしら?」

「そ、それは・・・・。戻ってきた春蘭を見て華琳さまの危機だと思いましたので」

「それならば何故兵も連れずにここまで来たのかしら?それに季衣には事情を話していた筈よ。それを聞いているのならば代わりの者を護衛に寄越すだけで十分なのではないのかしら?」

口調は華琳らしく至って丁寧なのだが、彼女から発せられる怒気によって、それがかえって恐ろしさを増している。

その鬼か夜叉のような華琳に理詰めで責められては、さしもの魏の名軍師である荀文若といえどもメンタル面で押されてしまい、思うように言葉が出てこない。

「それに指揮官である貴方が本隊から離れた今、誰が指揮を取っているのかしら?春蘭がまともに指揮を取れない状態では季衣しか居ないはずよね?まさか私の軍師ともあろう者が、先の防衛戦で指揮を取ったあの娘に仕事を丸投げしている何て事は、な・い・わ・よ・ね?」

「あ、あの・・・・」

「あまつさえ私の恩人である一刀に対して散々罵声を浴びせた挙句、秋蘭に射殺せとまで命令するなんてね・・・・・。どんな罰がお好みかしら?桂花」

華琳気圧されて、桂花は何も言えなくなっている。

流石に気の毒になってきたので助け舟を出してあげる事に。

俺は落ち着いた秋蘭から離れると、華琳の肩に手を当てて説得を試みる。

「なぁ、華琳。そのくらいにしてあげなよ。もう十分反省しているようだし、主君を思っての行動って事には変わりは無いんだから」

「これは私の軍での問題よ。あなたに口出しされる謂れは無いわ」

「半分は俺が貶された事に対する君の怒りだろ?俺の事をそこまで思ってくれているのは嬉しいけど、そこまで気にしてはいない。だからここは俺の顔に免じて矛を収めてはくれないか?」

俺は誠心誠意、華琳に桂花の免罪を申し出る。

それを聞いた華琳はそっぽを向いてしまい駄目かと思ったが・・・。

「・・・・仕方ないわね、ここはあなたの顔を立てて許してあげるわ。桂花、一刀の心の広さに感謝するのね」

どうやら聞き入れてくれたようなので良かった。

これで丸く収まると思い、俺は桂花に自己紹介をする。

「初めまして、華琳の軍師殿。私は司馬仲達、華琳とは昔からの知り合いで真名は一刀と言います。どうか宜しく」

「チッ・・・・、姓は荀、名は彧、字は文若、真名は桂花よ。あまり名前を呼ばないでよね。妊娠するから」

やっぱり桂花の男嫌いは相変わらずだな。

今度は桂花とも仲良くやって行きたいと思ってたんだけど、先は長そうだ。

そんな事を考えていると後ろから肩を叩かれる感覚があったのでそちらを向くと・・・。

「それで主。いつになったら私に曹操殿との事を説明していただけるのですかな?」

半ば放置された事でいらつき、業を煮やして俺に声を掛けてきた星の姿がそこにあった。

 

 

 


 
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