この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。
また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。
その様なものが嫌いな方はご注意ください。
場の収集を付けてから外で待機している華琳の軍にも砦の中に入ってもらい、両軍の主だった者が地図を広げているこの部屋に集結する。
各々が落ち着いたのを見計らうと、この世界で始めて会う凪達のことも踏まえて自己紹介と共に華琳との関係を説明する。
「えーそれでは、この場を代表して俺から名乗らせていただきます。知っている方達も多いと思いますが、俺の名前は司馬仲達、華琳とは子供の頃からの知り合いで」
「私や春蘭たちの命の恩人で、将来を誓い合った者よ」
「か、一刀殿が曹操様と将来を誓い合った!?ま、まさか夫婦の契りを・・・・ぷはっ」
華琳は俺の説明に割って入ると、誤解を招くような言葉をわざと選んで俺との関係を説明する。
その話術に見事に引っかかった稟は、いつも通り鼻血で見事な放物線を描きながらその場に倒れてしまった。
「お、おい一刀。大丈夫なのかコイツ・・・・」
鼻血を噴く様子を見て一様に驚く華琳たち御一行、その中で春蘭が戸惑いながら俺に稟の事を聞いてくる。
「気にしなくて良いよ・・・・。病気みたいなものだ・・・・。風、いつものように頼む」
「はーい、稟ちゃーん、首出してー。とんとーん」
「うぅ・・・・ふが・・・・」
「手馴れたものね・・・・」
稟を介抱する風の様子を眺めながら、感心するように華琳はただ一言そう呟く。
それが耳に入った俺は、思わず彼女のほうを見る。
意図せずとはいえ、この状況を作ってしまった華琳に、俺はつい小言を言ってしまった。
「華琳、誤解を招く言い方はやめてくれ。見ての通りこっちには君の言葉を真に受けて妄想の中に飛び込んでしまう娘がいるんだ」
「・・・・ふん」
華琳は俺の言葉を聞くと、少し不機嫌な感じの面持ちでこちらから顔を背けてしまう。
そんな俺と華琳の様子を見ていても埒が明かないと思ったのか、星が俺に真相の程を聞いてくる。
「して主。曹操殿と本当の関係とは?」
「ああ。将来、王として大陸に覇を唱えたその時は、互いに雌雄を決するまで戦うという好敵手としての誓いだよ」
「本当にそれだけなんですかー?」
「勿論さ、断じて親が決めた許嫁とかそんなものは一切無いよ」
先ほどの華琳の言葉を聞き、妙な勘繰りをしてくる風と星。
だが、誤解をされた事はあるものの、俺と華琳の間には(悲しいことに)そんな色恋沙汰の話は無かったので、その旨を二人にきっぱりと伝える。
「そうですかー、それならいいですけどー」
「ふむ、先ほどのやり取りから、もう少し面白い話が聞けるかと思ったのですがな・・・・」
そんな何の面白みも無い俺の返答に二人は興が削がれたのか、詰まらなそうな顔をする。
俺はそんな二人にため息を吐きつつ、話を戻して各々の紹介をしようと思ったのだが・・・。
「稟が回復するまで少し掛かりそうだし、悪い華琳、そっちから紹介を進めてくれないか?」
「はいはい・・・・」
華琳は俺の言葉に半ば呆れたような返事をしつつ、星達に自分を含めた全員の紹介を始める。
「陳留で州牧をしている曹操よ。こちらは我が将の夏候惇、夏候淵、許緒」
華琳が三人の紹介をしている間に、俺は星に小声で話しかける。
「星、春蘭のことなんだけど・・・」
「夏侯惇殿がいかがされた?」
「前に言っていた“体育会系の脳筋”の事だけど、彼女がその典型的な例さ」
「ほほぅ、夏侯惇殿が・・・・。」
「分かりやすく要約すると、頭を使うよりも体を動かしていた方が性に合っている脳ミソまで筋肉で出来ている様な人の事さ」
「そういえば確かに、主と再会したときも言葉より先に手が出ておりましたな」
「あの手の人間は根性次第で何でも出来るという持論を持っているからね。俺がやっている調練には最適な人材なんだよ」
端から聞いていると余り春蘭の事が好きではない様に聞こえるが、もちろんそうではない。
春蘭の魅力はそういったところも引っ括めての純心さなのだから。
「なるほど、百聞は一見にしかずとはまさにこの事。この趙雲、感服いたしましたぞ」
「私のほうを見てコソコソと何を話しているのだ?根性がどうだのと聞こえたが」
「「!」」
春蘭が俺達の視線に気付き、いぶかしみながら話に割って入ってくる。
俺は咄嗟に体の良い言葉でお茶を濁す事に。
「しゅ、春蘭は根性があって勇猛な将だって話してたんだよ・・・ハハハ」
「そ、そうかぁ・・・・・?お前もしばらく見ないうちにまた腕を上げたと私も思うぞ・・・」
危なかった、今の話を聞かれてたら春蘭のことだ、有無を言わさずまた斬りかかって来るに違いない。
そんな事を考えながら胸を撫で下ろしていると、華琳がこちらの様子に気付き目を吊り上げる。
「一刀、私に部下の紹介をするように頼んでおいて自分の将と雑談するとは、いいご身分ね」
「ご、ごめん、星に春蘭のことを詳しく話してたんだ」
「それなら後で話すとかにしなさい、あなたは私に紹介を頼んだのだから、ちゃんと聞く義務があるのよ」
「はい・・・」
華琳の的確な忠告にうぐぅの音も出ない俺を、桂花は嫌味な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
あいかわらずキャラがぶれないものだと思いつつ、俺は華琳のほうを見る。
「さて。あなたのお陰で話が逸れてしまったけれど続けるわよ。今紹介した三人の隣に居るのが、私の軍師を勤める荀彧」
華琳の紹介された桂花は風たち三人に対して軽く挨拶をした後、まるで親のかたきの様な目で俺を睨み付ける。
「あんた・・・・華琳さまに気に入られているからって、いい気にならない事ね」
「おやおや、随分とお兄さんを毛嫌いしているのですねー」
「当然よ。いずれ華琳さまと雌雄を決する以上、私にとっては倒すべき敵以外の何者でもない。精々、私の策に嵌らないように気をつけることね」
俺は桂花から並々ならぬ敵愾心を肌で感じ、それは前世の彼女からは受けた事が無いほどのものだった。
この世界での俺は、華琳の部下と言うわけでも無いのに彼女に気に入られている。
その上、自分達よりも先に敵の砦を落とした総大将とあっては、桂花にとっては目の上のたんこぶ以外の何物でもない。
それらの要因が元々の男嫌いと合さり、このような形で俺にぶつけられているのだろう。
彼女とも昔の様に接したかったのだが、これでは取り付く島も無いな。
そんな事を考えているうちに、華琳は俺と桂花の間に割って入ってきた。
「はいはい、桂花も一刀に突っかかるのはそのくらいになさい。話が進まないわ」
「・・・・・はい」
鶴の一声で俺への敵意を収めて、しおらしく返事をする桂花。
それを確認した華琳は残った三人の紹介を始めた。
「全く・・・・。それでは最後になるけれど、ここに来る前の戦場で私の指揮下に加わった、楽進、李典、干禁よ」
「どうも」
「以後よろしゅう」
「よろしくおねがいしますなのー♪」
凪たちは紹介されてかるく挨拶をし、俺もそれに対して会釈をして答える。
「あの、ひとつお聞きしたいのですが・・・・」
挨拶を終えた後、凪は何か真剣な顔をして俺に質問してきた。
「ん、何?」
「先ほど夏侯惇将軍の剣を見せてもらったのですが、あれをやったのは貴方なのですか?」
「ああ・・・、そうだよ」
「私も多少武に心得がありますが、夏侯惇様ほどの達人が振るう得物だけを狙って破壊するなど、とても出来ません。いったいどれだけの研鑽を積めば剣を真っ二つに斬ることが出来るのです?」
どうやら凪は真っ二つにした春蘭の剣を見て、武人として俺に興味が沸いたようだ。
「鍛練も必要だけれど、これのお陰なところも多分にあるね」
俺はそう言いながら、腰に差した正宗の柄をクイッと持ち上げて見せる。
「その剣がですか・・・・?」
「へぇ~、ごっつい剣には見えへんけどなぁ~。ちょっと兄さん、見せてもらえん?」
技術屋としての興味が沸いたのか、真桜は正宗を見せてくれと俺に催促してくる。
俺はその催促に対して、真桜を横目に見ながら・・・・。
「だが断る」
この一言でバッサリと切り捨てた。
「え~、ちょっと位ええやないか~。イケズ~」
「だーめ、この司馬仲達は催促する相手に否と言ってやるのが好きなんだ」
いくら真桜が相手とはいえ、いずれは雌雄を決する華琳の将にして技術者。そんな相手に易々と自分の技術の引き出しをひけらかす様な真似は出来ない。
俺は真桜の要望を断りつつ、話を変える事にした。
「さて、一通り華琳の方の紹介も終わったようだし、今度はこちらの番だね」
俺は先ほどまで鼻血を出してダウンしていた稟が復帰したのを確認すると、風たちの紹介を始める。
「まぁ、こちらは華琳のところみたいな大所帯では無いから直ぐに終わってしまうけどね。先ずはうちで唯一の武闘派である趙雲、先陣を切るだけの武と、並みの軍師の策ならば簡単に見抜くだけの智を兼ね備えている」
「主、私を煽てても何も出ませんぞ」
「俺はただ事実を述べているだけさ。俺は過小評価もしなければ過大評価もしないよ」
「全く・・・主は人を乗せるのが上手い」
星はそう言いながら口元に笑みを浮かべる。
そのやり取りを横目で見ながら、華琳と秋蘭は星のことを自分達なりに推察する。
「華琳様、あの趙雲と言う者・・・・」
「ええ、恐らく一刀の言う通りなのでしょうね。私も顔を合わせた途端に感じたわ・・・・戦場ではあまり会いたくない類いの武将ね。それに・・・・」
華琳は最後の言葉を濁し、何故か俺の方をジッと睨んできた。
「ど、どうしたんだ華琳、俺の顔に何か付いてる?」
「別に何でもないわよ・・・・・バカ」
華琳はそう言いながら不機嫌にそっぽを向いてしまい、それを見ていた秋蘭は俺を見て鼻で笑っていた。
何だか良く分からない居た堪れなさに襲われつつも、俺は紹介を続ける。
「ま、まあ取り合えず続けるよ。俺の下で軍師をしている郭嘉と程」
「あ、お兄さん。ちょっと待ってくださいー」
俺が軍師である二人を紹介しようとしたその時、風が突如俺の言葉をさえぎって紹介を止めてきた。
「どうしたんだい?」
「風の事は自分で紹介しますねー。どうも、お兄さんの下で軍師をしております程昱といいますー」
「風、あなた名を改めたのですか?」
稟は風に改名した事を問うと、風はその軽易を彼女に答えだした。
「はいー、実はあの夢を見た時から既に決めていたのですが、なかなか名乗る機会が無かったのでこの機に発表しようかと」
「なるほどね・・・・」
俺が風の言葉を聞いて相槌を打ちながら納得していると、稟が自ら華琳へ自己紹介を始める。
「初めまして、曹孟徳殿。先ほど一刀殿の紹介がありました郭嘉と申します。以後お見知りおきを」
「先ほど鼻血を出して倒れた娘ね。かなり勢い良く出ていたようだけれど、大丈夫?」
「は、はひぃ!こ、この程度で軍師の役目に支障を来たしは・・・・ぷはっ」
稟は華琳の自分を心配した顔を目の前にして、自制が利かずにまた盛大に鼻血を噴出した。
「ああもうまたか!風、悪いけど頼む」
「はーい」
「・・・・一刀、あれで本当に軍師の役目が務まるの?」
先ほどから鼻血を噴いているところしか見ていない華琳は、俺に稟の軍師としての資質を問うてくる。
「大丈夫、稟は鼻が弱いがここ一番での読みは目を見張るものがあるよ」
「そう・・・・」
華琳は俺の言葉にそっけない返事をしながら二人の様子を見た後、俺の方を向いて本題を切り出してくる。
「それで、単に自己紹介をする為だけでここに全員を呼んだ訳では無いわよね。あなたの本当の目的を教えてくれないかしら?」
「ああ、今回の黄巾の賊徒の件について話がしたくてね。華琳は何か情報を持っていないかな?」
俺は先ず、華琳が黄巾党に対してどれくらいの認識があるのかを聞くことにした。
「大した情報は無いわね。首魁が張角という人物だという事、最初は散発的なものだったのが、次第に組織化して地元の盗賊とつるんで強奪を繰り返している程度のものよ」
「なるほど・・・・」
どうやら華琳は張角が旅芸人の天和達だと言う事は知らないらしい。
あれは確か、俺が季衣のフォローをしている時に二人で気付いた事だったはずだから、恐らく俺が居ない事で、その情報が手に入らなかったのだろう。
それならば・・・・。
「俺の方も張角がどういう人物なのかという報告は受けていない。だが、かなり大まかではあるけれども、張角がどの辺りにいるかは、ある程度目星はつけているよ」
「何っ!?本当か、一刀!」
春蘭は俺の言葉に勢い良く身を乗り出して聞き返してくる。
俺はその勢いに驚き、少し身を仰け反らせながら春蘭に答える。
「ああ、だけどそれも司隷南部にいるという程度のものだよ。そこで・・・」
俺は再度華琳を見て、この砦に彼女を招き入れた本当の目的を話す。
「華琳、君と同盟を組みたい」
「同盟・・・・?内容次第ね・・・・一体どういうものかしら?」
華琳は主君としての風格を出しながらこちらに同盟の内容を問うてくる。
「俺は司隷と涼州の州境に罠を張っているんだが、それに張角が掛かったら華琳たちと挟撃して確実に仕留める。手柄は二人で山分け、同盟期間はこの黄巾の件が片付くまで」
「その内容だとあなたの旨味が何処にあるのかが分からないわね。そこを聞いてからじゃないと同盟は組めないわ」
「今回この砦を落としたことで、黄巾は物資調達をせざるを得なくなった。司隷周辺で比較的物資を調達しやすそうに思えるのは、最近まで無法地帯で州境の警備を手薄にしてある涼州東部。そこへ黄巾の本隊と張角を誘い込み、間諜を使ってあぶり出すつもりだが、華琳が治める兗州に向かう可能性も捨てきれない。折角追い詰めた獲物を華琳に持っていかれては元も子もない。それならばいっそ、手を組んで手柄を二人で分けたほうが俺にとっては良いのさ。それで、どうだろう?」
俺は手前の広げた地図を使い、罠を仕掛けた位置や黄巾党の動きを分かりやすく説明していく。
俺の説明を聞き終えた後、華琳はしばしの間考え込み、桂花にもこの同盟の事を相談する。
「私はこの同盟を受けても良いと考えているのだけれど、桂花はどう思うかしら?」
「受けて宜しいかと。戦場を涼州にするのであれば、兗州が被害を受ける心配は御座いません。また、我々が策を弄して互いに足を引っ張り合う危険も回避できます」
「そうね・・・・」
華琳は桂花の助言を聞いた後、俺のほうを向いて答えを返す。
「良いわ、一刀。あなたとの同盟、受けてあげる。それで、私達は何をすればいいのかしら?」
「ああ、華琳達は司隷と兗州の境に兵を集めて欲しい、警備もいつもより厳重にお願いするよ。俺のほうで司隷周辺にそちらの警備が固いという情報を流布しておくから、あとは敵が罠に掛かったのを見て集めた兵を動かし・・・」
「我々と一刀たちで挟撃するというわけか・・・」
秋蘭の言葉に俺は深く頷く。
「本隊の位置が解ったら真っ先にそちらに伝えるよう、間諜には指示を出しておく。挟撃は攻撃の時期を合わせないと意味が無いからね」
「決まりね。それじゃあ私達はそろそろ失礼させてもらうわ。もたもたしていると官軍と鉢合わせになるでしょうしね」
「だな・・・・俺達もここの後始末が終わったら撤収する事にするよ」
俺との間の話が纏まり、別れの挨拶を終えると華琳たちは部屋を後にしていく。
大方の者が部屋を後にし、あとは華琳だけになると俺の方へと振り返り声を掛けてきた。
「一刀」
「何?」
「同盟は組むけれど私はあなたを諦めたつもりは無いわ。必ずあなたを手に入れてみせる」
「なら先ず、それだけの力を俺に示さないとね」
「ふふっ、そのつもりよ。首を洗って待っていなさい」
「ああ、楽しみに待っているよ・・・・。華琳」
互いの顔を見てにこやかに笑った後、言いたい事を言い終えた華琳は悠然と部屋を出て行く。
その姿を見届けながら、俺は口元に笑みを浮かばせて思わず華琳の事を呟いてしまった。
「相変わらずだなぁ・・・まぁその方が華琳らしくていいけど」
「「・・・・」」
そんな華琳とのやり取りを見ていた風と星は、華琳が行った後も俺のほうをただ黙ってじーっと見ている事に気が付く。
その二人の視線に俺は少し驚きながらも、何か言いたそうなので取り合えず声を掛けてみる事にした。
「ふ、二人ともどうしたの・・・?」
「いえ、なんでも御座いませぬ。お気になさるな主・・・」
「風はただ夢に見た二つの日輪のことを考えていただけですのでー」
「?」
二人の言葉に首を傾げていると、兵士が報告の為に部屋に訪れる。
「失礼します!黄巾の物資焼却が完了いたしましたので、ご報告に上がりました!」
「ご苦労、直ちに撤収準備。それが終わり次第新平へ帰投する」
「サーイエッサー!」
兵士は勢い良く軍礼をすると、すぐに部屋を後にして俺の命を報せに行く。
それを確認した後、俺は広げていた地図を片付けながら風たちに話しかけた。
「さて、それじゃあ三人も撤収準備を頼むよ。俺はここを片しておくから・・・・あれ?そういえば稟は?」
「稟ちゃんなら、そこで鼻血を出して倒れていますよー。お兄さんと話していた曹操さんの笑顔を見たからではないかとー」
「ハァ・・・・・風、重ね重ねすまないけど手当てをしてやってくれる?それが終わったら撤収の指揮をお願い」
「はーい、わかりましたー」
風は手際よく稟の手当てをすると、鼻を押さえる稟と共に撤収準備に向かい、部屋には俺と何故か残っている星の二人だけとなる。
すると星は俺に今回の華琳との同盟について、質問を投げかけてきた。
「主、一つ聞いても宜しいか?」
「何だい?」
「先ほどの曹操殿との同盟の内容、いくら確実に本隊を仕留める為とはいえ、些かあちらに有利過ぎる内容ではありませぬか?」
「それがそうでも無いんだよ」
俺は丸めた地図で自分の肩を軽く叩きながら、星にこの同盟の真の利益を説明する。
「確かに俺達の陣地に敵を誘い込む以上、治安を取り戻したばかりの街や村が襲われる危険性はある。だがそれと引き換えに俺は今回の騒動の発端である旅芸人の張三姉妹の身柄を手に入れる絶好の機会を手に入れたのだからね」
「旅芸人の張三姉妹?それは黄巾党の首魁、張角のことですかな?」
「そう、今回の騒動は彼女達の歌を聴いた若者が、暴走して暴れまわっているだけの酷く単純なものなんだよ。彼女達を仲間に出来れば人材の募集に大きく貢献してくれるだろうしね」
「・・・・主、先ほど曹操殿と話していたとき、張角がどういう人物なのか報告を受けていないと言って居られませんでしたか?」
「ああ、誰からも"報告は受けていない"よ。俺が自分で調べただけさ」
俺は地図を持っていない方の手を頭に当てて、片目を瞑って舌を出す。
本当は前世から知っていただけなんだけどね。テヘペロ
星はそんな俺の顔を見て、呆れながら話してくる。
「・・・・なんとも、主は抜け目がありませんな」
「黄巾党の被害に遭う危険性は全部こっちが引き受けているんだから、このぐらいの報酬があってもばちは当たらないさ。まあ、それはともかく、星もそろそろ撤収準備に向かってくれ。華琳の言葉じゃないけど、このままじゃ本当に官軍と鉢合わせになっちゃうよ」
「ですな。主、手伝っていただけますかな?」
「しょうがないなぁ・・・いいよ、ここの片付けも終わったし。行こうか」
俺達は撤収準備で慌しく動いている兵士達の元へ向かう。
元々夜営していた訳ではないので作業は瞬く間に終了し、俺達は砦を後にする事に・・・。
「それにしても、あの砦のさまを目の当たりにした官軍の将の顔を見てみたいものですな」
星は後方に見える砦の城壁にたなびく仲の旗を眺めながら、そんな事を口にする。
「星、悪趣味ですよ」
「でも少し面白そうですねー。お兄さんはどう思いますか?」
「なんだったら一人諜報員を残しておくかい?俺のは優秀だから間の抜けた官軍の将の似顔絵まで持ってくるかもしれないよ・・・・なんてね」
「「「「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」」」」
俺は軽い冗談を飛ばし、それを聞いた三人と互いに笑い合いながら新平への帰路に就いた。
司隷南部にある平原、そこを黄巾党との戦闘を終えた官軍が縦断して行く。
「華雄将軍、間もなく黄巾の賊が根城にしているであろう砦に到着します」
「うむ、あれだけの大部隊を打ち倒してここまで来たのだ。これで奴等の拠点を落とせば、私の武名も上がると言うものだ!」
十分な鍛練を積んでいない官軍は、前の戦闘ですっかり疲弊してしまっており、兵達からは覇気を感じる事は出来ない。
だが、そんな事を気にも留めない華雄は、新たな戦場に胸を躍らせながら自ら先陣を切り行軍している。
そんな彼女の元に、斥候に出ていた兵が戻ってくる。
「か、華雄様!それらしい砦が見えました!」
「そうか!全軍戦闘準備!連戦で疲れているとは思うが、ここが正念場だ!奮闘せ」
「か、華雄様」
斥候の報告を受けて意気揚々と号令を出す華雄だったが、途中でその兵士に止められてしまう。
「号令の最中に何だ!」
「そ、それが・・・・あれをご覧ください・・・・」
そう言いながら兵士は砦のある方を指差す。
歯切れの悪い兵士に対して、イライラしながら華雄は彼が指を差している方向を見た。
「まどろっこしい奴だ!貴様も武人ならはっきりしろ!それで、私に何を見せたいん・・・・・・・・な・・・・何だあれはーーーーーーーーーーっ!!!!!」
黄巾党の大部隊を何とか打ち倒し、拠点となっていた砦に辿り着いた華雄。
その彼女が仲の牙門旗が翻る砦を見て絶叫したのは、一刀たちが後にした翌日のことであった。
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3週間に1度の投稿を心掛けておりますが、誠に申し訳ありませんが次回の投稿は諸事情により1週間程ずれ込む可能性が出てまいりましたので、この場を借りて御報告させて頂きます。
それでは、第二部6話をお楽しみください。