第24弾 死銃の正体は?
ハジメSide
起こってしまった…いや、起こさせてしまった。
甘かった、本当に起こるはずがないと心の何処かで高を括っていたのだ。
「あいつ…他のプレイヤーを、サーバーから落とせるっていうの…?」
「……違う、そんな程度の知れるものではない…」
シノンの呟きに、イラつきを含んで答えてしまう。
「程度の知れるって、どこがよ…。
「……ああ、程度が知れるものじゃない。
奴は、殺したんだ……ペイルライダーを、彼のアバターを操る生身の人間を、現実世界で殺したんだ!」
「なっ!?」
シノンは有り得ない、と…そんな反応をするが、紛れもなく現実だ。
「……迂闊だった、介入するべきだったんだ。
たとえこの命が危険に晒されようとも、奴を、『
「デ、デス・ガンって、噂の…? 確かに、それが気になるって、貴方達は言ってたけど…。
そういえば、『ゼクシード』と『薄塩たらこ』が、撃たれたっきり、ログインしてないって…」
私の言葉に、シノンは動揺したように呟き始めた。
「……その2人のアバターを使っていたプレイヤーは、少し前に死体で見つかった。
撃たれた時間と、死亡推定時刻がほぼ一致している…」
何故そんなことを知っているのか?そう物語っている彼女の表情。
だがいまは…ぼろマントはダインの側を通り抜けると、太い鉄柱の反面に回り込んで、姿を消した。
隠れたと思ったが、違う。奴は移動している…そう、気配で感じる。
「ハジメ、スキャンの情報が更新される。これで奴の名前を確認するから、鉄橋の方を警戒して」
「……ああ」
まずは名前を知ることが重要だ。そう思ったのだが、シノンが奴を示すであろう光点がないと言った。
水中に潜って移動している、彼女はそう言い、岸から上がったところを攻撃すればいいと言った。
「……駄目だ、その案には乗れない。1発でもあの拳銃に当たれば、殺されるかもしれない」
「でも、私には信じられない…。PKじゃなくて、本当の人殺しをするVRMMOプレイヤーがいるなんて…」
「……奴は、間違いなく殺したんだ。SAOで、私と殺し合い、他のプレイヤーを殺したように…!」
そこまで言って、自分が喋り過ぎたに気付いた。
いまの言葉で、おそらく彼女は俺がSAOで人を殺した事があると予測したのかもしれない。
だが、正直いまはそんなことで悩むのはあとである。
「……シノン…シノン? シノン」
「え、あ、ご、ごめんさない…大丈夫。少し、驚いただけだから…。
すぐに信じるのは難しいけど、全部が嘘だとは思わないから…」
「……いや、それで十分だ…」
再三呼び掛けてようやく反応を示した彼女。少し急ぎすぎたかもしれない、反省しないといけないな。
シノンは再び全フィールドを表示し、光点を数えているが……やはり数が合わない。
生き残りが17人、死亡プレイヤーが11人、合計28人。
あとの2つは先程やられたと思われるペイルライダーと、死銃のプレイヤーだろう。
「……シノン、私はこれから奴を追う。
どのように現実世界のプレイヤーを殺したのかは分からないが、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。
奴の正体の可能性、直接対面すれば確信が持てる…」
ペイルライダーを救ってやれなかった…間違いなく、私の責任である。
ならばせめて、これ以上は好きにはさせない。
「ハジメ、私も行くわ。もし本当に人を殺したっていうのなら、
私が好きなこのゲームでこんなことをやってのけたアイツを許せるはずがないのよ…」
「……これは『ゲームであって、ゲームでない』、命懸けの、危険なことなんだぞ」
「それはお互い様でしょ。それに、この大会中はどのみち戦わないといけないもの」
シノンの思い、それは強く真っ直ぐなものである。ならば無碍にはできないか…。
「……本当に来るのか?」
「ええ、決めたから…」
最後に聞くと、彼女は即断した。もう反論することはないな。
「……分かった。ならシノン、私はキミを全力で守ろう。この命に代えても…」
「っ…//////」
「……どうかしたのか?」
「な、なんでもない…!(うぅ、すごく照れる…//////)」
私が決意を込めて言うと、何故か紅くなったシノン。
本人がなんでもないと言っているのだから、大丈夫なのだろう。
そろそろ移動を始めようと思った時、攻撃の気配を感じた。
それは100mほど離れた大きな岩陰、そこから1人のプレイヤーがアサルトライフルを構えていた。
自身の得物である銃剣を抜き放ち、シノンの前に躍り出て…、
―――ダダダダダァァァンッ!
―――ガガガガガキィィィンッ!
相手が放った弾丸を全て叩き落とした。
「ふぇ…?」
「うっそぉ!?」
シノンも相手も驚きの声を上げている。
彼女はすぐに正気に戻ると、ヘカートを用意しながら伏射姿勢を取り、攻撃の準備に入った。
「……シノン、奴の名は?」
「確か『夏候惇』よ」
厳つい髭面、房飾りのついたオープンヘルメット、右眼に装着された眼帯型のデバイスをしている。
なるほど、夏候惇とはよく言ったものだ。アサルトライフルは『ノリンコ・CQ』か…。
「……前衛は任せろ。止めを頼む」
「ええ、任せて」
ハジメSide Out
シノンSide
なんて頼もしい、そう頭の中で考えた。
相手がノリンコで連射してくる弾丸の中でも、当たらないものには目もくれず、当たるものだけを選別して全て叩き落とす。
これが本当にただの技術なのかと疑ってしまう。殺到する予測線の軌道と順序を見極める冷静さ。
素早く正確に対応していく反応力と対応力。一切動じない度胸という胆力。これが強さを持つ者なのかもしれない…。
そして、その背中から感じ取れる絶対的な安心感。お陰で私は集中して相手に狙いを定めることができた!
「……やれ、シノン!」
彼の合図を聞き、引き金を引いた。
100mの距離で外すはずもなく、ヘカートから放たれた弾丸は夏候惇の真ん中を貫いた。
相手は一撃でHPが全損し、[Dead]の表示が成された。
私はヘカートの少なくなった弾倉を入れ替え、ハジメは銃剣を綺麗に回してから腰元に据えた。
「今の戦闘音で残っているプレイヤーが集まってくるかもしれないから、移動しないと」
「……そうだな。死銃は川を沿って北に向かったと予測できる。
9時の『サテライト・スキャン』で次のターゲットに向かうだろう」
ハジメの言う通り、集まったプレイヤーに狙いを定める可能性がある。
「……奴は基本的には
「都市廃墟エリア、ね…」
彼の予測に頷きながら応える。彼も同じようで納得の表情だ。
「……私達も行こう」
「わかった」
私達も川岸を走りながら廃墟へと向かう。
この島の主戦場である都市廃墟エリアに到着した。けれど途中で死銃と遭遇することはなかった。
「追いつかなかったけど……もしかして、追い抜いちゃったりとかは…」
「……それはない。走りながら水中は確認していたし、周囲の気配も警戒したから…」
「それなら、奴はもう街の中に潜伏してるってことね」
「……そうだろうな。9時のスキャンまで3分、これで奴の名前が分かればいいが…」
そうだった、死銃の正しいプレイヤー名を私達は知らない。
まずはスキャンでこのエリアにいるプレイヤー、
私が示した3人の内、残る2人のどちらかがいれば、そいつが死銃ということになる。
「安易かもしれないんだけど、『銃士X』の銃士を交代してカタカナ読みで『シジュウ』。
Xは『クロス』で、十字を切ることを意味するっていうのは…違う、よね?」
「……ない、とも言いきれない。VRMMOのキャラネームはモジリが多いからな。一応、その線で優先しておこう」
私の案にすぐに乗ってくれたハジメ。
確かに他には案がないのかもしれないけど、すぐに信じていいの?と思ってしまう。さらには…、
「……もし私がスタン弾に撃たれても、慌てずに狙撃体勢に入り、死銃に止めを刺してくれ」
「え、えぇ…でも、どうして、そこまで私を…信じてくれるの…?」
「……これでも、人を見る目はあるほうだ。それに言ったはずだ、キミを守ると…ならば、信じるのも守ることだ…」
心が、揺さぶられる…。
優勝を争う敵のはずなのに、決着をつけると誓ったのに、信じてくれることが嬉しいと思う。
「……ほら、出来るだけ移動しよう」
「…うん」
前を歩くハジメの少し後ろを歩きながら、彼の背中を見つめた。
そして3分後、スキャンによって位置情報が伝達された。
ハジメが北から、私は南からチェックし、その結果『スティーブン』はおらず、『銃士X』がこの街にいることが分かった。
つまり『銃士X』が『死銃』ということになる。そして狙った獲物はおそらく…。
「『リリコ』に狙いを定めたみたいね…」
「……ああ。ただ問題は…」
ハジメが危惧していること、それはその2人の近くにいるもう2人のプレイヤー……キリトとアスナだ。
2人もまた、この都市廃墟エリアにきていたのだ。
「向こうも私達には気付いていると思うけど、どうしよう…?」
「……銃士Xを倒して合流、だな…。行くぞ、援護を頼む」
「了解」
短く言葉を交わして、私達は銃士Xのいる場所の近くへと移動する。
このエリアには現在、私とハジメ、キリトとアスナ、死銃と標的の他に3,4人のプレイヤーがいる。
けれど遮蔽物や建造物のお陰で難なく進むことが出来た。
目的地の中央スタジアム、朽ちて欠けている外壁上部に…太陽光による反射で銃口が光ってみえた。
ハジメも気付いたみたい。私達は作戦の為に移動する。
シノンSide Out
キリト&アスナ
「ハジメとシノンの狙いは銃士Xみたいだな。シノンが示した3人の内の1人」
「なら死銃はやっぱり…」
「コイツの可能性が高い」
「うん…。ペイルライダーと
「死銃に撃たれて回線が途切れた、ということだろうな…。とにかく急ごう、これ以上は犠牲を出してはいけない!」
「そうだね、行かなく…あれ?」
「どうしたんだ、アスナ?」
「さっきまで、消えていたのに…『スティーブン』が表示されてる?」
「なんだと…?くっ、嫌な感じしかしないな…全力で駆け抜けるぞ!」
「了解!」
???Side
上手く誘いに乗ったか、もう少しで2人目。
アイツは自分のモノにしたいと言っていたが、あの様子だと無理だろうな。
しかし、2人目を殺した時、果たしてハジメはどうなるか…。
あの時のように冷めたように怒り狂うか? 冷徹に切り捨てるか? どちらともか? どちらでもないか…。
くっくっくっ、どのみちもう少しだ…シノン、俺達に眼を付けられたことを精々悔め。
そして
ハジメ、キリト、アスナ…お前達ともすぐに決着をつけてやる。さぁ、お前達とあの人はどうする?
「イッツ・ショウ・タイム」
???Side
To be continued……
後書きです。
ハジメとシノンが都市廃墟エリアに向かい、それぞれが動き出しました。
次回は1回目の死銃戦となりますが、そんな戦いというほどのものではないので。
それでは・・・。
Tweet |
|
|
21
|
5
|
追加するフォルダを選択
第24弾です。
今回からハジメ達の視点に戻ります、ペイルライダーが撃たれた直後からになります。
どうぞ・・・。