No.591640

GGO~剣客の魔弾~ 第23弾 出来ることを…

本郷 刃さん

第23弾です。
前回のALO観戦組の続きになります。

どうぞ・・・。

2013-06-27 09:59:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10161   閲覧ユーザー数:9201

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第23弾 出来ることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハクヤSide

 

「ごめんなさい、みなさん…。わたし、本当は、パパ達がいまの、『死銃(デス・ガン)』の調査に行ったことを、知っていたんです」

「知っていたって、それじゃあバイトの依頼をした人のことも…?」

 

ユイちゃんの言葉を聞いてリズが問いかけ、彼女に全員の視線が集中する。

 

「はい。ハクヤさん達なら、ご存知だと思います……菊岡さんです…」

「ちっ、あの野郎か…」

 

菊岡の名前が出るとシャインが舌打ちをした。

あの男、菊岡誠二郎は信用に値するが、信頼できるかと聞かれれば難しい。

キリトはパイプの為、なによりVRMMOを愛する者として、奴の依頼する仕事に関わっているらしいが…。

 

「ハクヤ、みんなを頼む。俺は一度落ちて奴に連絡を入れてくる」

「了解、そっちも頼む」

「おう」

 

シャインの提案を頼りにし、彼は一度ログアウトした。

俺達は静かな雰囲気のまま、再び画面に視線を向け直した。

そこにはもう、ぼろマントの姿は映っていなかった。

 

 

5分程経過して、シャインは戻ってきたので、あとは菊岡が来るのを待つのみ。

その間に俺が、いや…黒衣衆とクラインが思い出していたのは奴ら、殺人(レッド)ギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のことだ。

SAO史上最悪と呼ばれた2つのPvP戦にして、人を狩ることを目的とした討伐戦の『ラフコフ討伐戦』、

『第2次ラフコフ討伐戦』、俺達が経験したこの2つの戦い。

どちらも合わせると数十人の死者を出した、最悪の戦いだった。

特にクラインやティアさんとカノンさんは思い出したくもないはずだろう。

そして部屋のドアがノックされ、ドアが開いた瞬間に、

 

「遅~い!」

 

リズのこの一言、全員の心を代弁してくれた。

 

「セ、セーブポイントから全速力で飛んできたんだよ、勘弁してくれないかな…?」

 

入室してきた水妖精族(ウンディーネ)魔法使い(メイジ)であるこの男、名を『クリスハイト』。

こいつこそが、現実世界の菊岡誠二郎だ。

 

「さて、GGOで何が起きているか、話してもらおうか…」

「俺がさっき聞いたことだ。キリト達のコンバートにテメェが一枚噛んでるのは、こっちは承知済みなんだよ…」

 

俺とシャインの威圧の篭った言葉に、クリスハイトは口籠ってから思案する様子を見せた。

 

「そう、だね…うん、今回の依頼は紛れもなく僕からのものだよ。説明は、正直何処から話せばいいか…」

「説明役は、わたしが代わります」

 

彼の認める発言を確認し、今度はユイちゃんが説明役を買って出た。

その姿は、彼女の両親であるキリトとアスナに良く似ている。

相手を黙らせる事の出来る厳しい表情、小さいながらも凛々しい立ち姿、

まるでキリトとアスナを重ねて見ているようだ。

 

「では、僭越ながら……」

 

そして彼女が始めた…『死銃(デス・ガン)』と名乗るアバターの奇行、

撃たれた2名である『ゼクシード』と『薄塩たらこ』のアバターを使っていたプレイヤーの死亡、

そしてさきほど撃たれた『ペイルライダー』のプレイヤーが既に死亡している恐れあり、と話した。

テーブルの上で話し終えたユイちゃんは体をふらつかせ、

彼女をティアさんが抱きかかえて「ありがとう、お疲れ様です」と労いの言葉を掛けた。

 

「驚いた、そのおちびさんは『ナビゲーション・ピクシー』だと聞いたんだけど…。

 おちびさんの説明は全て事実だよ。ゼクシードと薄塩たらこは、死銃に撃たれてから急性心不全で死亡している…」

 

「ってことはなにか? クリスの旦那ぁ…あんた、その殺人事件のことを知ってて、キリト達をGGOに向かわせたってのか!?」

「クラインさん、落ち着いて!」

 

事実を認めたクリハイトにクラインが詰め寄ろうとしたが、カノンさんがそれを抑えた。

しかしその様子を見せているのはヴァルとルナリオ、クーハと黒猫団の男性陣もだし、

俺とシャインだって、理性を保って抑えている。

 

「待ってくれクライン氏、ハクヤ君達も…。そもそも、僕とキリト君の出した結論は、殺人事件ではないんだ」

 

彼のその言葉を受けて俺は理解した。

 

「なるほどな、確かに不可能だ。

 ナーヴギアと違って、あらゆる制限が掛けられているアミュスフィアで人を殺すなんて、無理がある。

 ゲーム内からの銃撃で人を殺せるはずがない…」

「そ、そういえば…」

 

俺の言葉を聞いたリズは納得し、他のみんなも冷静を取り戻したようだ。

 

「なら、クリスさん。あなたは、どうしてお兄ちゃん達に今回のことを任せたんですか?」

「アンタも感じているんじゃないっすか? あの死銃って奴が、碌でもないものを抱えているって…」

「それは…いや、その通りだよ…」

 

リーファちゃんとルナリオの剣士と戦士の立ち振る舞いに、クリスハイトは怯みながらも短く答えた。

 

「そんな貴方に、奴の取って置きの情報があるわ…」

「奴は、『SAO生還者(サバイバー)』だ。

 しかも、最悪と謳われた殺人ギルド、ラフィン・コフィンの元メンバーという、取って置きのな」

「それは、本当、なのかい…?」

 

カノンさんと俺の発言にクリスハイトは今度こそ驚愕の表情になった。

こいつだって知っているはずだ、奴らの存在くらいはな…。

 

「黒衣衆とクラインは、二度に亘るラフコフ討伐戦に参加した。だから分かるんだよ、奴はラフコフの一員だ…」

「だが、幾ら奴らでも、SAOをやって超能力やらなんやらに目覚めたはずはねぇよ」

「まぁ、当然だろうね…」

 

俺とシャインは奴がラフコフの誰かであることを告げながらも、

やはりゲームでの殺害は不可能だと宣言し、クリスハイトも頷いた。

 

「あの、クリスさんはSAOのことを知っているんですよね?」

「ネットワーク関連の仕事をしてる公務員で、VRMMOの研究をやってるって…」

「そうだよ。ただ、今の仕事の前は『SAO事件対策チーム』にいたんだ。名ばかりの組織だったけどね…」

 

シリカちゃんとリズの疑問にクリスハイト自身が答えた。

本人は名ばかりと言ったけれど、実際は全力を尽くして対策に乗り込んでくれたのは知っている。

 

「えっと、ラフコフのメンバーってことで、所属していた生還者を洗い出してから、

 GGOサーバに接続しているか、契約プロバイダに照会するとか出来ないんですか?」

「そんなことをしようと思ったら、裁判所の令状が必要になるし、

 捜査当局に事情を説明するのに何時間もかかるよ……いや、でも…そうか…」

「どうしたんですか?」

 

真剣な状況だけに、聴く側に徹していたケイタが提案したが、

クリスハイトは難しいと言い、しかし何かに納得したのでサチが聞いている。

 

「キリト君が午前中の内に連絡を入れてきたんだよ。

 ラフコフのメンバーのリアル情報を洗い出せるように準備しておいてくれってね。

 もしかしたら、彼は気付いていたのかもしれない、相手がラフコフであることに…」

「さすがですね、キリトさんは…」

「多分、ハジメさんアスナさんも気付いているっすよ。3人とも、奴が誰かを思い出す為にGGO(戦場)にいるんすよ」

「殺しをやめさせる為に、か…」

 

クリスハイトの推測、それを肯定する反応を示したヴァルとルナリオとクーハ。だけど…、

 

「あんのバカどもが…! なんで、何も言わねぇんだよ…!」

「一言、いってくれりゃ…俺達もついて行ったのによぉ…!」

「シャイン…」

「クラインさん…」

 

悔しげに喚く2人に、ユイちゃんを抱えたティアさんとカノンさんが身を寄せる。

 

「また、自分達だけで…!」

「幾らでも、手ぇ貸してやるのに…」

「歯痒いなぁ…」

「テツ、ロック…」

「ヤマト…」

 

3人もいま手の届かない悔しさがあるのだろう。ケイタとサチも彼らの肩に手を乗せている。

ヴァルとルナリオは、唯々画面に見入りながら、自身の掌を拳にし、

リアルであれば血が流れるのではないかというくらいに強く握り締めている。

そんな2人の拳に、シリカちゃんとリーファちゃんは優しく手を添える。

クーハも画面を見つめ、少しでも何か情報を得ようとしているようだ。

リズは俺を背中から抱き締めてくれている、これがなければ何をしているか分かったものじゃないな。

完全に冷静を取り戻した俺は、口を開く。

 

「リーファちゃん、キリトは自分の部屋からはログインしてないんだよね?」

「はい、都心の何処かとしか…「僕が知っているよ」、クリスさん?」

 

訊ねてみるとクリスハイトはあっさりと口を割った。

 

「千代田区お茶の水の病院、3人を守る為にセキュリティも鉄板、モニタリングも盤石、すぐ側に人もいる。

 3人の安全は責任をもって保証するよ」

 

それなら安全だろう、信用は出来るからな。

 

「そうか…。ハクヤ、今度こそみんなを頼む」

「シャイン?」

 

すると今度はシャインが短くそういった。

 

「キリト達…和人達のところにいく。なんたって俺は、兄貴分で【鉄壁】の異名を持つ男だからな。守るのが役目だ」

 

そうか、現実にいる和人達を守る為に…。

 

「それなら、私も一緒に行きますよ、シャイン。私は貴方を支えたいですし、それに私もみんなのお姉さんですから♪」

「ったく、俺には勿体無いくらい良い女だ…。んじゃ、ちょっくらいってくる!」

「いってきます!」

「和人達を頼む!」

 

シャインとティアさんはログアウトし、現実世界へと戻った。

おそらくティアさんのことだから、朝霧のSP部隊を動かすかもしれない。

これなら現実の和人達は安全……“安全”?

なにから、安全なんだ? 何かが引っ掛かる…。

 

「待てよ…」

「ハクヤ? 今度はどうしたの?」

 

―――“死への恐怖”、“死銃“、“ラフコフ”、“幹部”、“赤い眼”、“特徴的な喋り方”、“因縁”、“守れば安全”っ!?

 

まさか、奴は…それに、奴らの手口は…!

 

「そうか、そういうことか!」

「ハ、ハクヤ…?」

 

なんてことだ、キリト達は気付いているのか!?

いや、気付いていたとしても対策が取れないか!

俺達で対策を取るしか…!

 

「おい、クリスハイト。いつでも動けるように準備しておけよ……奴らが誰か、分かった。それに犯行の手口もだ…」

「な、本当かいっ!?」

 

俺の言葉にクリスハイトは驚愕、彼だけでなく他のみんなも驚愕に表情を変化させている。

 

「い、一体誰なんだよ、ハクヤ!?」

「手口は、なんなの!?」

 

クラインとカノンさんも問い質してくる。

 

「正体はまだ予測でしかない。あとはキリト達がその証拠を持ち帰るだけだ。だがその正体の予測、それと手口は………」

 

俺の、死銃の正体の予測と手口を聞いた一同は、さらに驚愕へと表情を変えた。

クリスハイトはすぐさま現実へと帰ったのは、キリトからの連絡が有り次第、すぐに動くためだろう。

 

「俺達には、何も出来ねぇのかよ…!」

 

クラインの悲痛な言葉、それは残っている全員が感じていることだ。だが、彼女は違った。

 

「いいえ、そんなことはありません…」

「ユイちゃん?」

 

ログアウトしたティアさんの代わりにユイちゃんを抱き締めていたカノンさんが首を傾げた。

 

「パパとママ、ハジメさんの無事を、祈ってください…そして、必ず止めて、必ず帰ってくると、信じてください…」

 

この娘は、なんて強いんだろうか…。

キリト、アスナ…お前らの娘はこんなにも優しくて、ハジメ…俺達の仲間のこの娘は、こんなにも強かだ…。

俺も、俺達もお前達を信じる!

だから…キリト、ハジメ、アスナ……奴を、奴らを、必ず止めてくれ…!

 

ハクヤSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

シャインとティアの2人が現実のキリト達の身体のある病院へと向かいました、これで安全は完璧っとw

 

さらには奴らの手口、トリックに気が付いたハクヤ・・・しかしGGOにいるキリト達には伝えられません。

 

ユイちゃんは強い娘です、キリトとアスナに似てきました!

 

次回はペイルライダーが撃たれた直後のハジメとシノンの様子になります。

 

それでは・・・。

 

 

 

 

 


 
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