第25弾 奇襲と逃亡
ハジメSide
私とシノンは『
銃士Xのいるスタジアムの朽ちた外壁、そこに私が攻撃を仕掛け、万が一、
電磁スタン弾で撃たれた場合は即座にシノンが狙撃できるように反対側のビルで狙撃体勢に入っているはずだ。
スタジアムの内部を移動して、相手を見つけた。
「……動くな!」
「なっ、いつの間に!?」
銃士Xの首筋に銃剣を添えて、相手の動きを制止させる。
だがその声を聞いておかしいと思い、そのまま相手の姿を見て、そのおかしさに気が付いた。
「……っ、なんだと…?」
思わず口から出た言葉、それが意味するのは…。
「……名を、聞いてもいいか?」
「…『
聞いて答えた相手の声、そしてその姿は紛れもなく……女性のアバターだった。
死銃はラフコフのメンバーで、当時ラフコフの幹部で女はいなかった。
姿を偽る事も出来ない。ならば私達の予想は間違いで、
本物の死銃はまだこの近くにおり、『スティーブン』こそが……『死銃』なのだ。
「……くっ、すまない!」
「え? う、うん…というか、こういうゲームだから…」
私は彼女に謝り、そして一撃で仕留めるべく斬り捨て、申し訳なく思いながらも、
彼女が残した『スモークグレネード』を拝借して急ぎスタジアムから移動する。
『デザートイーグル』を構え、全力でシノンの元へ…。
「……すぐにいく、シノン!」
奴から、死銃から守る為に。
ハジメSide Out
シノンSide
何が起きたのか、最初は解らなかった。
強烈な寒気を感じて、後ろを振り向こうとした瞬間、腕を撃たれたらしい。
身体が動かない、間違いなく電磁スタン弾による攻撃だ。
銃士Xが撃ったのか? 違う、そもそも居た場所の方角が違う。
ならば他のプレイヤー? 違う、『No-No』も『huuka』も『闇風』も時間の関係で私を攻撃できる位置には来れない。
電磁スタン弾を使い、音も無く狙撃してきたのだ……奴しかいない…。
そして南に約20m離れた空間に僅かな光の粒が流れ、空間が斬り裂かれたように人が現れた。
―――アレはまさか、『メタマテリアル
声にならないので、心の中で叫ぶ。
装甲表面で光そのものを滑らせて自身を不可視化するという究極の迷彩能力。
一部の超高レベル
そして現れたのはやはり、ぼろマントの人物…死銃だった。奴は私の2mくらい前にきて、声を発した。
「ハジメ。お前が、本物か、偽物か、はっきりさせて、やる。
あの時の、怒り狂った、お前を、俺は覚えて、いる。
この女を殺して、再び狂えば、お前が本物である、証だ。
見せろ…お前の、純然たる、怒りの殺意、を…」
ハジメへの宣言、それの意味は解らない。だけど、光迷彩を隠れ蓑にしているだけの奴に負けたくない。
その一心で、なんとか動かせる右手を必死で動かして、腰に据えている『MP7』のグリップを掴む。
奴は十字を切っている最中、死銃があの自動拳銃のハンマーをコッキングする、そこがチャンスだ。
まだ逆転できる、十字を切った奴がマントの懐に手を入れ、銃を取り出した…。
―――……え?
呟けたのかは分からない。だけどその声は、紛れもなく私のもの。
奴が取り出した拳銃、それは……『54式・
あの日、私の全てが、私が全てを変えてしまった日の始まりの銃。
私のお母さんを撃とうとした男が持っていた銃、私が男を殺そうとした銃、
私が大好きな景一を撃ってしまった銃、そして……私が景一に、人を殺させてしまうことになった銃。
いつかこの時が来て、きっと乗り越えられる、そう信じていままで戦ってきた…なのに、体が動かなくなった。
結局、まだ乗り越えられるほどに、私は強くなっていなかったということ。
なんで、なんでこの銃なのよ…なんで…。
―――ダァンッ!
「ぬっ…」
1発の銃声が鳴り響くと、目の前の死銃の身体がふらついた。どうやら攻撃を受けたらしい。
奴はダメージを受けたものの、素早くL115を構えて銃弾が流れてきた方に銃撃した。
直後、私の傍に1つの手榴弾が落ちてきた。
それは辺りに煙をまき散らす、スモークグレネードだ。
いまなら逃げられるかもしれない、けれどスタンは完全に切れておらず、立ち上がる気力も起きない。
あの時のことが全て頭を過ぎるから、そこに…。
「……すまない。少し我慢してくれ」
その声と言葉を聞き、私の身体は抱えあげられていた。
滑らかな浅黒い肌、銀の髪、冷静かつ真剣な表情、ハジメだ。
私をと高重量のヘカートを抱えながらも、かなりの速度で廃墟エリアを駆け抜ける。
背後から流れてくる銃弾を見えているのではないかというように背後を見ずに回避している。
辺りに散らばっている瓦礫や遮蔽物さえも見ないで避けているのは、本当に凄い。
ハジメが北側のメインストリートに向かっているのに、気付いた。
でも、一体どこに向かうつもりなのかな…?
そう朦朧とする意識で考えていると、1つのネオンライト看板がみえた。
あれは、バギーとロボットホースのレンタルショップ…。
私をバギーのリアステップに乗せると、彼はシートに座り込んでエンジンを始動。
けれどそこに銃弾が駆け抜け、ガラスを破壊した。危うくバギーを破壊されるところだった。
「……しっかり掴まっていろ!」
ハジメの言葉に小さく頷く。だが私は見た、死銃がこのバギーに狙いを定めているのに。
ヘカートで反撃しようとしたけれど、トリガーを引けなかった…手が震えて、トリガーを引けない。
銃が……怖い…、
―――ダダダダダァァァンッ!
―――ガガガガガァァァンッ!
「「むっ(えっ)!?」」
突如、銃声が鳴り響いて、死銃の動きを止めた。奴はすぐさま遮蔽物に隠れた。
また光迷彩に隠れるつもりかもしれない。それにしても、いまの銃撃はいったい…?
「早く出せ、ハジメ!」
「ここは私達が!」
「……キリト、アスナ! 奴が、死銃だ!」
助けてくれたのはキリトとアスナ、ハジメは2人にそう声を掛け、その言葉に2人は驚愕の表情を浮かべた。
「っ、先に行ってくれ! すぐに追いつく!」
「大丈夫! 無理はしないから!」
「……分かった!」
キリトとアスナに促されて、ハジメはアクセルを全開にしてバギーを動かした。
私はただ、残った2人を見つめ、怯えることしかできなかった…。
シノンSide Out
キリトSide
さて、上手くハジメとシノンを逃がすことは出来たが…シノンのあの様子、只事じゃないな。
それに奴が死銃なら、アスナを守りながら勝つのは苦労しそうだ。
特に奴が、
「アイツ、出てこないね…」
「…アスナ、その馬のところに。他のはバギーも全部壊れているからな」
「うん…」
1匹だけ使える機械の馬の傍にアスナを移動させ、敵の気配を探る。
ハジメもシノンがあの様子じゃなかったら冷静に気配を探れたんだろうけどな…。
集中して気配を張り巡らせ、その悪意を掴む。
「そこだ!」
「ちっ…!?」
俺が『ファイブセブン』で放った弾丸は空を切ったかにみえたが、僅かに紅いライトエフェクトがみえる。
さらにその地点に連射、だがやはり全て避けられたようだ。
「アスナ、馬に乗れ! 後ろ向きにだ!」
「え、う、はい!」
俺の言葉に戸惑いながらも馬の頭とは反対向きに跨るアスナ。
俺は弾倉を素早く替え、正しい方向に跨る。
つまりアスナとは顔を向け合うことになる。
「俺の肩に頭を置いて…そう、そのまま2丁の銃で後方を…」
「っ、そういうことね! 馬を出して!」
「頼んだぞ!」
アスナは俺の左肩に頭を乗せ、俺の脇の下に腕を通す…その右手には『ベレッタM92FS・フルオート』、
左手には『コルト・ガバメント』を構え、俺は馬を動かした。
SAOの時に馬に乗った技術がここでも生きるとはな。
アスナはそのまま後方に向けて乱射するように銃撃を開始した。
全弾を放つとすぐに弾倉を取り換え、再び銃撃。
乱射しているので相手は銃撃の体勢を取るのに苦労するはず。
さらにこの機械馬の踏破力はかなりのものだ。
少し走らせただけですぐに大きく距離を取ることができた。
そのまま銃撃の対象にされない為に軌道を変えたりしながら、俺達は北部エリアの砂漠エリアへと向かう。
キリトSide Out
ハジメSide
キリトとアスナにあの場を任せたあと、バギーに乗ったまま都市廃墟エリアを抜け、ようやく砂漠エリアへとやってきた。
少しの間は砂漠の中を走らせていたがどうにも落ち着けるような場所がない、見晴らしが良すぎる。
バギーを止めてシノンに視線を向けると、少しばかり項垂れていた。
余程なにかのショックが大きかったのかもしれない。
「……シノン。この砂漠エリアには隠れるような場所はないのか?」
「…あっち。多分、洞窟があると思う…」
「……ありがとう、そこに行こう」
少しバギーを進め、洞窟の入り口から少々離れた場所に停め、そこから洞窟内へと入った。
2人で向き合うように壁に背中を預けて座り込む。
しばし沈黙が流れるが、このままなにも話さないというのもよくない。
「……奴、死銃はどうやって現れたんだ? まるで、いきなりキミの傍に現れたみたいだが…。
衛星に映らなかったのも、いきなり姿が消えたのも、なんらかの力を使ったのか?」
「多分、『メタマテリアル光歪曲迷彩』っていう能力。ボス専用って言われてるけど、その効果の装備が実在したみたい…」
なるほど、それが姿を消した原理の正体か。
この場所は荒い砂だから砂を踏む音や足跡で気が付けるので、接近は防げるだろう。
私達は予め支給されていた回復アイテムの救急治療キットを用いてHPを30%回復させた。
時刻は9時15分、5回目のスキャンが行われているが、
この洞窟はスキャンされず、情報が送信されることもないので意味はないが…。
「ねぇ、キリトとアスナは……大丈夫、よね?」
「……あの2人が簡単にやられるわけがない。私達のように何処かに隠れているかもしれない」
「そう、よね…」
それからシノンは私にどうしてすぐに助けにこれたのかを聞き、銃士Xとのやり取りを話し、
拝借したスモークグレネードを使ったことを話した。あと、L115に撃たれたことも。
私の言葉を聞いていくたびに、シノンは落ち込むように膝を抱えていく。
ここで私が彼女を慰めれば、それは彼女の心を傷つけてしまうかもしれない。
本来は競い合うライバルなのだが、今回シノンは自分が足を引っ張ったと考えている可能性がある。
なら、下手な慰めをしてはいけない。私は、意を決して動くことにした。
「……シノン、私はそろそろ行こうと思う」
キリト達が無事なのは信じるしかない。ならば、私も信じて動くしかない。
ハジメSide Out
To be continued……
後書きです。
原作で喋らなかった女性キャラの『銃士X』さんに喋ってもらいましたw
そして撤退するハジメとシノンを援護したのは、我らがキリトさんとアスナさんです!
この2人もロボットホースを使って撤退しましたけどね。
えっと、今回ので改めてシノンのPTSDの正体が判明しました。
次回はハジメとシノンの2人の会話になりますよ。
それでは・・・。
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第25弾になります。
死銃との第1戦目ですが、大した戦闘にはなりませんのであしからず。
どうぞ・・・。