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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第七十二話 Happy birthday!!

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-05-11 13:35:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:28969   閲覧ユーザー数:25557

 俺は本局の廊下を歩き、鳴海少将の執務室に向かっている。

 あの人からの呼び出しがある時って大抵が神様絡みなんだよねぇ。

 

 「(まさか面倒事じゃないだろうな)」

 

 あのうっかりが直らない以上、絶対に何か厄介事に巻き込まれるからな。

 今回もそんな感じがする。

 

 「(この予感が外れてくれます様に…)」

 

 心の中で祈りながら目的の部屋の前に着き、扉をノックする。

 中から『どうぞ』という声が聞こえたので俺は室内に足を踏み入れる。

 

 『待っていたよ勇紀』

 

 今回はいきなりディスプレイが繋がってる状態で神様と鳴海少将が出迎えてくれた。

 

 「…で、いきなり何でしょうか?」

 

 『いきなり本題に入るのかい?まずは世間話から…』

 

 「いや、今日は保護隊の方に早く行かないといけないんで」

 

 またもやレポート・報告書作成のための人手不足って事で俺、呼ばれてるんだよ。

 

 『そうかい?なら時間を掛けるのもいかないね。じゃあ本題に入ろう』

 

 神様が『コホン』と咳を入れ

 

 『勇紀、君にユニゾンデバイスを進呈しようと思うんだ』

 

 「は?」

 

 いきなり過ぎて意味が分からなかった。

 

 『実は私が転生させた人間がめでたく今日で10000人目に達したんだよ』

 

 「そうですか…」

 

 『むっ?反応薄いよ」

 

 「いや、それって普通に考えれば神様のミスで死んだ人間が10000人になってしまったって事でしょ?それを『めでたい』なんて言って喜べるわけ無いでしょうが」

 

 『ぐっ!相変わらず手厳しい』

 

 『手厳しい』じゃないでしょ。

 

 『だけど転生した人間は皆第2の人生を満喫してるんだから別に良いじゃないか』

 

 そこで開き直られても。

 

 『ま、まあいい。とにかく!勇紀にはこの神様特製のユニゾンデバイスを2体受けとって貰いたいんだよ!』

 

 「ユニゾンデバイス…ねぇ」

 

 正直、『必要か?』と聞かれたら『どっちでもいい』って感じだしね。ユニゾンだったらリンスと出来るし。

 

 『けどリインフォースは基本はやての側にいるだろう?』

 

 「そりゃ八神家の一員ですからね」

 

 『私が作るのは君専用のユニゾンデバイスなんだよ』

 

 「てか何で俺に?亮太、椿姫、銀髪トリオ…それに鳴海少将もいるじゃないですか?」

 

 『亮太、椿姫、理の3人はもう『必要無い』って昨日言ってたんだよ。で、貴志、英伸、澪の3人は揃って『そんな事よりなのは達の傍に居る時間の方が大事だ』って言ってコッチの用件すら聞いて貰えなかったよ』

 

 「はあ…」

 

 『で、残ってるのがもう君だけなんだよ勇紀』

 

 どうしよう?

 貰っといて損は無いんだろうけど…。

 

 「シュテル達にどう説明したらいいのやら…」

 

 『それなら理に貰ったという事にすればいいよ』

 

 「鳴海少将から…ですか?」

 

 俺が視線を鳴海少将の方に向けると当の本人は笑顔のまま頷いてくれた。

 

 『理はデバイスマイスターの資格も持っているからね。『お気に入りの君のために造った』ってことにすればいいと思うよ』

 

 鳴海少将…デバイスマイスターの資格持ってたんだ。

 

 『だから頼む!!ユニゾンデバイスを受け取ってくれないか!?』

 

 「何でユニゾンデバイスなんですか?」

 

 『今は物造りにハマっているからだよ』

 

 そんな理由かよ…。

 俺は呆れた表情を浮かべて神様を見る。

 

 『そんな顔しないでくれ。それとマジで受け取って下さいお願いします』

 

 土下座してまで俺に頼む神様。

 

 「…分かりました。貰います」

 

 これ以上断っても引かなさそうだし、さっきも思ったが別にどっちでもいいから貰っておいても損は無いだろ。

 何より今回は面倒事じゃなくて良かったわ。

 

 『本当かい!?よかった!じゃあ早速造り始めるから』

 

 「ってまだ造ってなかったんかい!!」

 

 さっきの会話からしてもう出来てるもんかと思ってたじゃねーか。

 

 『気にしない気にしない♪あ、折角だしユニゾンデバイスの容姿とかは勇紀が決めてくれないか?』

 

 「俺がですか?」

 

 『うむ。原作キャラ瓜二つでも良いし他作品のキャラでも良い』

 

 原作キャラはいらんかな。これ以上そっくりさん増えたら余計な混乱招きそうだし。

 つー事で他作品キャラだな。

 

 『さっきも言ったけど君に渡すのは2体だからね』

 

 つまり2体分の容姿を決めろという事か。

 じゃあ………。

 

 

 

 今日から12月突入…。

 神様に呼ばれてからは何の音沙汰も無いまま月日は流れていた。

 そんな今日は日曜日。

 

 「ユウキ、まずは何処に行きましょうか?//」

 

 俺の隣で腕を組みながらユーリは尋ねてくる。

 

 「ユーリは何処か行きたいところってある?」

 

 「わ、私はユウキと一緒なら何処にでも…//」

 

 「そうか。なら何処行こうかなー?」

 

 俺は案内板を見て何処から行こうか悩む。

 

 「…決めた。まずはジェットコースターにでも行こうか」

 

 こういうのは人気のありそうなヤツから行くのに限る。

 

 「ええ、私はユウキにお任せします//」

 

 ユーリも俺の決定に異を唱えるつもりは無いみたいだし、そうと決まれば早速移動だ。

 少しでも早く行かないと列に並ぶ羽目になったりして待ち時間なんか掛かるのが勿体無い。

 それに遊園地の定番だろジェットコースターは。

 

 「せっかくの遊園地なんだ。精一杯楽しまないとな」

 

 「はい//」

 

 俺達は早速移動を開始する。

 俺とユーリが2人だけで(・・・・・)遊園地に来たのには昨日まで時間を遡らなければならない………。

 

 

 

 ~~回想シーン~~

 

 「ユウキ、明日私は少し用事がありますので…」

 

 「あ、僕も」

 

 「我もだ」

 

 夕食が終わり、リビングでゆったりと過ごしていた俺にシュテル、レヴィ、ディアーチェが口を開く。

 

 「3人共?管理局の仕事でも入ってるのか?」

 

 「いえ、私用です」

 

 「僕もだよ」

 

 「以下同文だな」

 

 「そうなのか…」

 

 うーん、明日は誰か予定が空いてたら良かったんだけど、用事があるなら仕方ないか。

 

 「ええ、そういう事ですので連絡だけしておこうと思いまして」

 

 「分かった。覚えておく」

 

 「すみません」

 

 「ゴメンね」

 

 「済まぬな」

 

 3人共俺に軽く頭を下げて謝り、リビングから出て行く。

 

 「勇紀君、明日は朝から家の掃除をしようと思うのよ」

 

 3人が出て行ってからメガーヌさんが声を掛けてくる。

 

 「そうなんですか?じゃあ俺も…」

 

 『手伝います』と言おうとしたらメガーヌさんに手で遮られた。

 

 「いえ、明日は私とルーでするから大丈夫よ。だから勇紀君は外で時間を潰しておいてくれないかしら?」

 

 「えと…何故に外で?」

 

 「勇紀君、普段から家事とかルーの世話とかであまり遊ぶ時間取れてないでしょ?だから明日はどこか遊びに行くなりして自分だけの時間を作って過ごしてほしいのよ」

 

 そうかな?そこまで自由時間が無いって訳でも無いんだけど…。

 

 「……………………」(ニコニコ)

 

 …ま、いいか。

 

 「いいですよ。どうせ外に出るつもりでしたから」

 

 「そう?じゃあ明日はゆっくり楽しんできてね♪」

 

 それから少しメガーヌさんと雑談して俺はユーリの部屋に行く。

 

 コンコン

 

 「ユーリ、入ってもいいか?」

 

 「ユウキですか?どうぞ」

 

 ガチャッ

 

 「お邪魔します」

 

 部屋に入るとユーリは洗濯が終わった自分の衣類を折り畳んでいた。

 ユーリの家事も随分様になってきたな。

 

 「ユウキ、何か用ですか?」

 

 「ユーリは明日の予定って何かあるか?」

 

 「明日ですか?いえ、特に何もありませんけど」

 

 ようやく明日ヒマな奴を見付ける事が出来たか。

 

 「じゃあさ、明日俺と遊園地に行かないか?」

 

 「へ?」

 

 目が点になるユーリ。

 

 「実は今日商店街で買い物した際に魚屋の雅さんから遊園地のペアチケット貰ったんだけど、行く相手が見付からなくてさ」

 

 「……………………」

 

 「で、チケットの期限も明日までだし、もし誰も行けないなら捨てるつもりだったんだ」

 

 「……………………」

 

 「他の皆も都合悪いみたいだし…って、ユーリ?おーい…」

 

 「ふ…」

 

 「ふ?」

 

 「ふええええええええぇぇぇぇぇっっっっ!!!!?」

 

 「うおおっっ!!?」

 

 突然ユーリが絶叫を上げる。

 み、耳が、耳がぁ…。

 

 「ゆゆゆ、遊園地!!?ユウキと遊園地ですか!!?」

 

 「お、おう…そうだけど…」

 

 耳がキンキンしているがユーリの声はちゃんと聞こえているので返事する。

 

 「あ、でもユーリが行きたくないなら無理に…」

 

 「行きます!!ええ、行きますとも!!是非ご一緒させてください!!」

 

 「そ、そうですか…」

 

 興奮気味のユーリに若干気圧されて一歩後ずさる。

 

 「あ、でも私でいいんですか?シュテルとかは…」

 

 「シュテル達は明日用事があるらしくてな。誘う前に断られた」

 

 シュテル達どころかなのは達にも一応声掛けたんだけどこっちの用件を聞く前に凄い勢いで『無理』って言われたからな。

 

 「そ、そうですか(デート!こ、これってユウキとデートじゃないですか!!しかもユウキから誘ってくれるなんて!!)//」

 

 「けどユーリがOK出してくれて良かった。チケット捨てずに済んだし」

 

 「きき、気にしないで下さい!!それより私はもう寝ます!!あああ、明日に備えないといけませんので!!」

 

 ワタワタと慌ててるユーリの姿は見ていて可愛らしい。

 

 「そうか?じゃあお暇しようかな。明日の朝9時に家を出るという事でいいか?」

 

 「じゃ、じゃあ私は先に家を出ますね!!(シュテル達に邪魔されたくはありませんから)」

 

 「え?じゃあ一緒に…」

 

 「いえ!!ユウキは後から来て下さい!!絶対に私と一緒にじゃなくて一人で!!」

 

 「は、はあ…」

 

 何か分からんがユーリがそう言うならそうしようか。

 

 「じゃあ、明日な」

 

 「はい!!おやしゅみなしゃい!!」

 

 噛んだ。

 俺はユーリの部屋を出て自室に戻り、着替えを持って脱衣所に向かうのだった………。

 

 

 

 ~~回想シーン終了~~

 

 で、俺より一足先に出たユーリと海鳴駅前で合流して電車に乗り、海鳴市から少し離れた所にある遊園地にやって来た訳だ。

 ちなみに他の皆に俺とユーリが2人で出かける事はユーリが言うとの事だったので俺からは伝えていない。

 

 「これがここの遊園地で人気アトラクションのジェットコースターか」

 

 「列は出来てますけど並ぶのですか?」

 

 「無理。俺達は身長制限に引っかかる(・・・・・・・・・・)

 

 凄く乗りたい!乗りたいんだけど現実って非情だよね。

 看板には『155cm以下は乗車不可』という文字が並んでいる。

 俺とユーリはこの155cmという条件を満たしていないのだ。

 

 「え?でもさっき案内板を見ていた時『ジェットコースターに行こう』って…」

 

 「もう少し先に子供でも乗れるジェットコースターがあるみたいだから『それに乗ろう』って意味だ」

 

 「あ、そういう事だったんですか」

 

 『納得いきましたー』と頷くユーリ。

 という事で俺達は子供が乗れる『リトルコースター』という子供用のジェットコースターに乗る事にした。

 コースターは小学生以下の子供でも乗れるヤツみたい。

 俺とユーリよりも年下だと思える小さい子も俺達の後ろに並び、それから間もなくコースターに乗り込んだ。

 

 「ドキドキしますー」

 

 「子供専用だからそこまでスリルは無いだろうけどな」

 

 安全装置がちゃんと作動してバーが外れないのを係員の人が確認してブザーが鳴り、コースターがゆっくりと動き出す。

 

 ゴトゴトゴト…

 

 ゆっくり…またゆっくりとコースターが上がっていく。

 

 「はうう…いよいよですね」

 

 ゴトゴトゴト…

 

 「怖い?」

 

 ゴトゴトゴト…

 

 「いえ、初めてなので何とも。今はまだ『楽しみ』で一杯です」

 

 ゴトゴトゴト…

 

 「そうか」

 

 ゴトゴトゴト…

 

 子供用だからそこまで怖くは無いだろう。

 

 ゴトゴトゴト…

 

 「ていうか上り過ぎじゃね?」

 

 下を見たら地面までの距離がとんでもなく離れているのが分かる。

 

 「子供用のコースター…なんですよね?」

 

 ユーリが聞いてくる。

 

 「看板にもそう書いてたしな」

 

 「でも、私達コースターに乗る前に所持品預けましたけどあれって…」

 

 ユーリに言われて『ハッ!』とする。

 確かにそこまで勢いが無いなら所持品は預ける必要無いよな。

 まさか… 

 俺がそこまで思った瞬間、コースターは一番上にまで到達し

 

 グラッ

 

 と傾いたかと思うと

 

 ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

 

 俺達は風になった様な気がした。

 

 

 

 「うう…」

 

 ユーリの顔色が悪い。

 

 「大丈夫かユーリ?」

 

 「な、なんとか…」

 

 あの後『リトルコースター』から降りた俺達は近くのベンチで小休憩を取っていた。

 有り得ねえ…。子供が乗る普通のコースターであの速度と高さは有り得ねえ。

 最初に並ぼうとして無理だったジェットコースターよりも遥かにヤバい代物だぞ。

 けど他の子供は皆純粋に楽しんでたし。

 あれかね?俺達みたいに精神が大人な子供には楽しむ余裕を持たせてくれない何かがあるのかね?

 

 「何故でしょう?普通に自分の死を予感したのですが…」

 

 「だよな。空戦とかこなしてあれぐらいのスピードや急旋回する時だって凄く稀にあるのにな」

 

 「体感的には『剃』よりも若干遅い感じなんですけどね」

 

 実に不思議だ。

 

 「ま、まあ終わった事を気にしても仕方ないし…」

 

 「そうですね」

 

 多少は顔色が良くなったユーリだが、まだ本調子まで回復はしていないな。

 もう少しここでゆっくりしよう。

 

 「すみませんユウキ。せっかくの遊園地なのに…」

 

 「いや、ジェットコースターに誘ったのは俺だから…。俺の方こそゴメンな」

 

 お互いに謝る。

 …ハア~、まだ一つ目なのに何やってるんだろうね?

 次は普通のアトラクションを選ぼう。

 

 「…じゃあ、行きましょうか」

 

 「まだ顔色悪くないか?」

 

 「さっきよりは大分マシになりましたから。それに時間が勿体無いです」

 

 「…無理はするなよ?」

 

 ベンチから立ち上がり、手を繋いで歩き出す。

 しばらくはどのアトラクションに乗ろうか考えていたのだが

 

 「ユウキ、あれに乗りませんか?」

 

 ユーリが指差す先にあったのはメリーゴーランドだった。

 

 「メリーゴーランド…か」

 

 「はい」

 

 「ユーリ、行ってきな。俺は待っとくから」

 

 「嫌です。ユウキも一緒に乗るんです!」

 

 「……マジで?」

 

 正直男がアレに乗るのは恥ずい。純粋な子供なら別なんだが俺にはキツいものがある。

 

 「ほら!早く行きましょう」

 

 ユーリに手を引かれ、そのまま連行されてメリーゴーランドに乗り込む。

 ユーリはそのまま馬車の中に入り込むので俺もユーリの隣に座る。

 その後、ブザーが鳴るとゆっくりメリーゴーランドは回り始める。

 俺達以外の子はほとんどが馬に跨っており、子供の親達は微笑ましそうに見ている。

 

 「何だか馬車に乗ってるとお姫様になった気分です」

 

 「嬉しそうだな?」

 

 ユーリは馬車に乗れたのが満足なのか、ずっとニコニコしている。

 

 「ユウキは嬉しくないのですか?」

 

 「嬉しくないというより恥ずかしい//」

 

 「何言ってるんですか。ユウキより小さい男の子も乗って楽しんでるんですよ?」

 

 「俺より小さい子だからだろ?」

 

 「むぅ…」

 

 若干頬を膨らまし睨むユーリ。

 

 「えーと…怒ってる?」

 

 「別に…そんな事無いです」

 

 怒ってるじゃん。

 この後ユーリはしばらく不機嫌なままだったので俺はご機嫌を取るのに必死だった………。

 

 

 

 お昼を食べた俺達は売店でシュテル達にお土産のお菓子でも買ってやろうと思い、現在俺とユーリは別れて何を買おうか見て回っている。

 

 「…やっぱこのクッキーかチョコレートの二択だよな」

 

 片手にクッキー、もう片手にチョコレートを持ち、交互に見ながら悩む。

 

 「……決めた。チョコレートにしよう」

 

 クッキーを元の場所に戻し、レジで会計を済ませようと思い、足を少し進めた所で途中にあるアクセサリーコーナーがあったのだが、そこに設置されていた看板の文字が目に入る。

 

 「そう言えば今日って…」

 

 …ふむ。せっかくだし買っていくか。

 俺はレジで会計を済ませてユーリが来るのを待つ。

 程無くしてユーリも売店から出てきた。

 

 「お待たせしました」

 

 「いいって。そこまで待ってないから」

 

 ユーリも何か買った様だ。その手にはお土産が入ったビニール袋が握られている。

 

 「とりあえず宝物庫に収納するからそれ貸して」

 

 「お願いします」

 

 ユーリからお土産を受け取って人気の無い所で宝物庫に収納する。

 戻って来たところで次に行きたいアトラクションをユーリと探す。

 

 「ユーリ、何か行ってみたいアトラクションは無いか?」

 

 「そうですねぇ…」

 

 ユーリは周囲をキョロキョロ見渡して

 

 「あっ!アレ行ってみたいです!」

 

 一つのアトラクションを指差す。

 

 「お化け屋敷か…」

 

 「はい。何だか楽しそうです」

 

 この子、作り物とはいえお化けとか平気なのかね?

 

 「じゃあ行ってみるか?」

 

 ユーリが首を縦に振るのでお化け屋敷に入る。

 屋敷の中に一歩足を踏み入れた瞬間に雰囲気が一変する。

 

 「な、何だかドキドキします…」

 

 俺と肩を並べて歩くユーリ。

 今の所は、お化けも何も出てこない。

 だが少し先の通路を角に曲がったところで

 

 ピトッ

 

 「ひゃうぅっ!!?」

 

 ユーリの顔に何かが触れた。

 

 「……コンニャク?」

 

 な、何て古典的な…。

 角を曲がった瞬間に飛んでくるというタイミングは見事だった。おそらく隠しカメラの映像を見てタイミング良くコンニャクを出現させたんだろう。けどこんなので怖がる奴は…

 

 「う…うううっ……」(ブルブル)

 

 …いたよ隣に。

 顔についたコンニャクを振り払い、俺の腕にしがみ付いて震えてるユーリ。

 

 「ユーリ、ただのコンニャクだ」

 

 「ほ、ホントですか?」

 

 「あれ見てみなよ」

 

 俺が指差す先には糸に吊るされたコンニャクがプラプラ揺れている。

 

 「な?」

 

 「ううっ…ホントです…良かったです……」

 

 もう目元に涙が溜まり始めてるんだけど、コンニャクでそこまでの精神的ダメージ受けたのか?

 この調子だと最後までもたないだろ?

 

 「ちょっと早めに歩いてさっさと出るか?」

 

 「ううっ……………」(コクコク)

 

 俺達は足早に通路を進み始める。だが少し進むと

 

 ブシューーーッ

 

 「っ!!?」

 

 ギュウッ!

 

 ユーリは突然両サイドから吹き出した二酸化炭素ガスに驚き、俺の腕に強くしがみ付いてくる。

 目を瞑り、必死に泣くのを我慢している様だ。

 

 「(こりゃ、次の仕掛けで泣くんじゃないか?)」

 

 最早、『お化け屋敷に入る前の興味津々な表情は何処へやら?』といった感じだ。

 まだスタッフの人が直接脅かしに出てきた訳じゃ無いのに。

 

 「《ユーリ、どうしても怖いなら認識阻害掛けてやるぞ?》」

 

 見た目が変わるだけでも恐怖心はかなり和らぐ筈だ。

 

 「っ!!」(ブンブンブン!!)

 

 しかしユーリは首を横に振り、俺の提案を拒否する。

 最後までこのままでいたいという事か?

 

 「《無理しなくてもいいんだぞ?》」

 

 俺が諭してもユーリは一向に首を縦に振らない。

 全く、頑固な奴。

 

 「《…どうしても無理だったら正直に言ってくれよ?》」

 

 「っ!!」(コクコク!!)

 

 …という事で再び歩き始めた俺達。

 矢印の案内通り進むと部屋に入らなければいけない様で俺が扉を開けて中に入る。

 

 「ん?」

 

 室内はさほど大きくない正方形の一室で部屋の中央にはテーブルの上に電話が置かれており、壁にスピーカーが設置されている以外は何も無い。

 俺がキョロキョロ室内を観察していると

 

 prrrr…prrrr…

 

 突然電話が鳴り出す。

 ユーリはその音にビクついて腕に抱き着く力を込める。

 …流石にそろそろ力を緩めて貰わんと俺の腕も大変な事になってきそうだ。

 そしてコール音が鳴り止まない電話。

 …とりあえず次に進むか。

 矢印の先にある反対側の部屋の扉に手を掛ける。

 

 「あれ?」

 

 けど扉はカギが掛かっていて開かない。

 ドアノブを回してもガチャガチャ音が鳴るだけで扉はウンともスンとも言わない。

 

 「おかしいな?」

 

 スタッフの人がカギを外し忘れた?

 けどこのアトラクションの出口側から参加者が出て来てたのは見たし。

 

 「ユウキ、どうしたんですか?」

 

 涙声気味のユーリが尋ねてくる。

 

 「扉が開かないんだ」

 

 「ふえ!?」

 

 現状に一杯一杯のユーリ。

 一刻も早くお化け屋敷から出たいであろう彼女からすれば、その一言は最早死刑宣告に近いモノだったりする。

 未だに鳴り続けている電話のコール音もユーリの恐怖心を煽っている。

 

 「(さて、どうしたもんか?)」

 

 先に進めないと出られない以上、どうしようも無い。

 念のため、他に何か無いか調べてみる。

 

 「………あれ?」

 

 よくみるとテーブルの上にある電話とテーブル表面の隙間にメモ用紙が挟んである。そのメモ用紙には

 

 『電話に出て下さい』

 

 と一言だけ書かれていた。

 ひょっとしてカギが開く方法でも教えてくれるのか?

 …何だか有り得そうだな。

 

 prrrr…prr…ピッ

 

 俺は受話器を取り、電話に出る。

 

 『Hello』(こんにちは)

 

 「っ!!?」(ビクッ!)

 

 受話器越し、そしてスピーカーから声が聞こえる。やけに低い声だな。

 しかしユーリはその声に反応し、更に腕に力を…って痛い痛い!!

 

 『I’m 『scream』』(私は『スクリーム』です)

 

 受話器の向こうの声の主はコチラの状況を無視して英語で会話してくる。

 

 『May you go to kill you from now on?』(今から君達を殺しに行ってもいいかな?)

 

 …随分物騒な事言うなあ。

 

 「You don’t need to come」(来なくていいです)

 

 とりあえず答えておく。

 直後に『ブツッ』っと通話が切られ、受話器からは『プー、プー』と音が鳴る。

 俺は受話器を戻し電話を切る。

 

 「ユ、ユウキ…」

 

 震える声でユーリが聞いてくる。

 

 「わ、私はバニラ味がいいです」

 

 「はい?何でバニラ?」

 

 「だ…だって今向こうの人が言ってたじゃないですか?『アイスクリーム』って」

 

 「いや!そんな事言って無かったし!」

 

 「『こんにちは』の後に言ってたじゃないですか」

 

 『Hello』の意味はまだ英語を習っていないユーリでも知ってたか。

 

 「…それ、『Ice cream(アイスクリーム)』じゃなくて『I’m scream(私はスクリームです)』だからな。電話の向こうの人が自分の名前言ってきただけだから」

 

 「そ、そうなんですか?」

 

 俺は頷く。

 

 「じゃ、じゃあその後は何て言ってたんですか?それにユウキ、会話してましたよね?」

 

 英語は結構得意なんだよ。

 前世の頃、必死に受験勉強した時の成果だねこれは。

 

 「…相手のお願いを断っただけだ。会話の意味は知らない方が良いぞユーリ」

 

 「ううっ…そんなに後悔する様な内容なんですか?」

 

 「今のお前なら間違い無く…な」

 

 世の中には知らない方が良い事もあるのだよユーリ君。

 しかし相手も自己紹介するなら『My name is called 『scream』』(私の名前は『スクリーム』と言います)って丁寧に言えばいいのに。

 

 ガチャッ

 

 「ん?ひょっとして今の音…」

 

 先程まで開かなかった扉のドアノブを回すと扉が開いた。

 これで先に進めるな。

 

 「ユーリ、行こう」

 

 「……………………」(コクコク!!)

 

 俺達は部屋を出て新たな通路を進んでいく。

 しかし『スクリーム』か…。

 お化け屋敷…っつーかホラーで『スクリーム』っていったら多分アレ(・・)だよな。

 

 バターン!!

 

 「っ!!!」(ビクッ!)

 

 しばらく歩いていたら突然後ろの方から乱暴に扉を開ける様な音がしたのでユーリがビクつく。

 そして俺と一緒に振り返るとどうやらさっき俺達がいた部屋から出てきたらしい人物が立ってコチラを見ていた。

 全身を黒いローブで覆い、顔は白いマスクで隠されている。

 そうそう、映画で見た『スクリーム』ってあんな恰好してたよな……ってアレ、どう見てもスクリームじゃん。

 

 「ああ…こういう仕掛けって事か」

 

 俺は納得し頷く。

 少しずつコチラに近付いてくるスクリーム。

 こうやって怖がらせるのね。

 

 「ユーリ、走るぞ」

 

 「……………………」

 

 「ユーリ?」

 

 ユーリの顔を覗くと

 

 「…………きゅ~」

 

 立ったまま気絶していた。

 最後までもたなかったか。仕方ない…。

 俺はユーリをお姫様抱っこで抱えて、迫り来るスクリームから逃げ、お化け屋敷を一気に攻略していくのだった………。

 

 

 

 お化け屋敷から脱出してしばらくは気絶していたユーリだが、目を覚ますや否や『次のアトラクションに行こう』と言い出した。

 少しでも早くお化け屋敷の事を忘れたいらしい。

 それで色々なアトラクションを回って気が付けば空が少しずつオレンジ色に変わり始めていた。

 そんな時にユーリが

 

 「ユウキ、アレに乗りましょう」

 

 一つのアトラクション…観覧車を指差したので乗る事に。

 1周するのに約30分掛かるらしい観覧車。徐々にゴンドラが上がっていくに連れて空が濃いオレンジ色になっていくのと共に、遠くの景色を一望出来る様になってくる。

 

 「ふわあ~♪」

 

 既にユーリは景色を一望するのに夢中で瞳をキラキラと輝かせている。

 

 「うーん…何故観覧車から見る景色はこんなに感動出来るんだろうな?」

 

 自分で普通に飛べばいつでも見れるんだけど、不思議とここまで心に響いたりはしない。

 

 「それはやっぱり観覧車だからじゃないですか?」

 

 「意味分からんぞ」

 

 「私だって分かりません。でもそんな事どうでもいいじゃないですか」

 

 お互いに視線は外の景色に向けたまま会話をする。

 夕焼けが良い感じに街を照らしているのが現在、景色に見惚れてしまう理由の一つにもなっているのだろう。

 観覧車が一番上まで到達し、下を見ると最早米粒の様に小さく見える俺達以外の人達がどこかに移動しているみたいだった。

 視線でその先を追うと、どうやらパレードが行われているみたいだ。ほとんどの人はパレードを見るためにメインストリートまで移動しているのか。

 

 「ユーリ、下でパレードやってるみたいだぞ?」

 

 「えっ?…ホントですね」

 

 「観覧車降りたら観に行くか?」

 

 「いいのですか?」

 

 「お前が行きたいならな」

 

 「じゃあ、観に行きたいです」

 

 下のパレードに興味津々なのか、今度は一望できる景色よりもパレードの方に視線が固定されている。

 『早く降りませんかね~』と、ゴンドラが下に降りるのを今か今かと待ち侘びている様だ。

 

 「(もうお化け屋敷の一件は完全に吹っ切れたかな?)」

 

 ユーリの様子を見てそう思う。

 やがて観覧車が下まで降りて俺達がゴンドラから出るとパレードが行われていたメインストリートの方へ向かって歩き出す。けど…

 

 「うー…人が一杯ですねぇ」

 

 ユーリが言う様にパレードを間近で見ようとする人達がいるため、俺達は近くで見る事が出来ない。

 

 「別の場所から間近で見れないか探してみようか?」

 

 「そうですね」

 

 俺達はこの場から移動する。そんな最中…

 

 「ああ、ユーリ」

 

 「何ですか?」

 

 「これ…」

 

 誰もいないのを確認して宝物庫から一つの物を取り出し、ユーリに手渡す。

 

 「これは?」

 

 「売店でお土産を買った時、一緒にな。誕生日おめでとう(・・・・・・・・)ユーリ」

 

 そう、今日は12月1日で俺とユーリの誕生日だったのだ。

 あの時売店のアクセサリーコーナーの看板に書かれていた

 

 『当店で絶賛されているペンダント。誕生日や記念日のプレゼントに是非買ってみてはいかがでしょうか?』

 

 『誕生日』という文字を見て思い出した。

 

 「正直、あの看板見なかったら完全に忘れていたかもしれないし」

 

 「……………………」

 

 「それにプレゼントって言ってもそれ程高価な物じゃないけどな」

 

 「……………………」

 

 「…って、ユーリ?聞いてるか?」

 

 何かペンダントを見て放心してるユーリ。

 一体どうしたんだろう?

 

 

 

 ~~ユーリ視点~~

 

 ユ、ユウキが私にプレゼントを…。

 プレゼント…プレゼント…。

 

 パンッ!

 

 「はっ!?私は一体何を!?」

 

 突然私の側で何かを叩く様な音がしたので呆けていた私は我に返ります。

 目の前にはユウキの両手が合わさった状態で止まっています。

 どうやら私の顔の前で両手を叩いて音を鳴らしたみたいですね。

 

 「どうしたんだユーリ?いきなり呆けたりしてたけどもう疲れたのか?なら帰る?」

 

 「い!いえいえ!!そんな事無いです!!元気一杯ですよ!!」

 

 「そうか」

 

 ユウキが私を心配する様な表情を浮かべて私に聞いてきたので答えます。

 

 「そ、そそそれよりコレ…//」

 

 「うん。誕生日プレゼント」

 

 「わ、わわ私にですか!?//」

 

 「むしろお前以外の誰に渡せと?今日が誕生日の奴なんて俺とお前以外誰も知らないんだが?」

 

 「そ、そうですね…(プレゼント…ユウキからのプレゼント)////」

 

 正直言って嬉し過ぎます。

 

 「安物だからそんなに価値は無いんだけどな」

 

 「そんな事ありません!!」

 

 「うおっ!?」

 

 「値段なんてどうでもいいんです!!大切なのは相手に送る『気持ち』なんです!!違いますか!?」

 

 「い、いえ…仰る通りです」

 

 ユウキが私のために買ってくれた…『喜ぶな』という方が無理に決まってます。

 もっとも…プレゼントを用意してたのはユウキだけではありませんが。

 

 「ユウキ…実は私もユウキの誕生日プレゼントを買っていたんです。受け取ってくれませんか?//」

 

 「え?」

 

 「これです//」

 

 私は自分の服のポケットから小さな紙袋を取り出し、ユウキの前に突き出します。

 実はお昼にお土産をユウキの宝物庫に収納して貰った物とは別に、コッチはユウキに直接手渡そうと思って売店を出る前に自分のポケットに入れておいたのです。

 

 「どうぞユウキ。お誕生日おめでとうございます//」

 

 「…ありがとうユーリ」

 

 驚いた様子のユウキですがすぐ顔に笑みを浮かべ、ユウキに向かって突き出している紙袋を受けとってくれます。

 

 「中見てもいいか?」

 

 「どうぞ//」

 

 ユウキが紙袋の口を開け、手に取ります。それは…

 

 「…ユーリもこれ買ったんだ」

 

 「はい」

 

 ユウキが私に買ってくれたのと全く同じペンダントです。

 ただ、ユウキが買ってくれたペンダントは薄い黄色ですが私が買ったペンダントは紫色です。

 ユウキは早速ペンダントを身に付けてくれたので私もユウキから貰ったペンタントを身に付けます。

 

 「色は違うけどお揃いだな」

 

 「そ、そうですね////」

 

 お揃い…何という素晴らしい響きでしょう。

 

 「じゃあ、早くパレード見れそうな場所に行こう」

 

 「あっ!待って下さい!」

 

 踵を返そうとするユウキを呼び止めます。

 

 「ん?まだ何かあるのか?」

 

 「はい////」

 

 私はユウキの正面に近付きます。

 

 「こ、これは遊園地に誘ってくれたお礼です////」

 

 「へ?」

 

 私はすぐさまユウキの後頭部に手を回し、つま先を伸ばしてユウキの唇を奪いました(・・・・・・・・・・・)

 

 「んんんっ…////////」

 

 「んっ!!?」

 

 ユウキが驚いた声を上げようとしますが私の唇で塞いでいるので声に出せません。

 

 「んん…んうっ……////////」

 

 「んっ…んんっ……////」

 

 しばらくはユウキとのキスを堪能していました。

 ただ、つま先立ちをずっとするのは辛かったので一旦唇を離し、かかとを地面につけます。

 

 「ゆ、ユーリさん!!?////」

 

 「ふふ…その…気に入って頂けましたか?//////」

 

 慌てた様子のユウキを見ながら聞きます。

 これで私も他の皆に追い付きましたね。

 …いえ、ユウキと今日デート出来た事を考えれば私がリードしたとも言えるかもしれませんね。

 邪魔が入らない様シュテル達にも今日『ユウキと一緒に遊園地に行くという事』は言ってませんし(・・・・・・・)

 

 「いや!いきなりでビックリしたんだけど!?////」

 

 「気にしないで下さい。それよりもユウキ…」

 

 私は一呼吸置きます。

 今なら誰の邪魔も入らず、ユウキに伝えられます。自分の想いを…。

 

 「私は…ずっとユウキの事が…////」

 

 ユウキの方を上目使いで見るとユウキは何故か私の後ろを見て固まっています。

 どうしたんでしょうか?

 私はユウキが固まっている理由が気になって振り返ってみると…

 

 「……………………」

 

 私の後ろには黒いローブに白い仮面をつけた…お化け屋敷で見たお化けが立っていたのです。

 そこから先、私は何も憶えていませんでした………。

 

 

 

 ~~ユーリ視点終了~~

 

 ビックリしたー。いきなりスクリームがいたんだもん。振り返った瞬間、ユーリはまた気絶したし。そのまま俺の方へ倒れてきたので抱き留める。

 このスクリーム、おそらく俺がユーリとキスしてる間に近付いてきたんだろう。

 あの時ぐらいしか気が動転してなかったし、普通にしていたら気付けただろうから。

 でも何でスクリームがここにいるんだろう?

 

 「……………………」(スッ)

 

 スクリームがある方向を指差す。その先は現在パレードが行われているメインストリート。

 

 「???」

 

 俺は首を傾げる。一体何が言いたいんだ?中にいるスタッフの人は喋らないし。

 するとスクリームはこの場で踊り出す。

 

 「ひょっとしてパレードに出るんですか?」

 

 「……………………」(コクコク)

 

 スクリームも踊るのか…。怖がる人いるんじゃないのか?

 そのままスクリームはパレードの方へ行き、残ったのは俺と気絶したユーリだけ。

 

 「…………きゅ~」

 

 どうしようか?パレードを観に行きたがっていた本人が気絶してしまったので観に行けない。

 

 ~~♪~~♪

 

 ここでユーリの携帯が鳴る。相手は…シュテル?

 本人は気絶してるし、勝手に携帯を触るのはアレだけど相手がシュテルだから良いかな?

 俺はユーリの代わりに出る。

 

 ピッ

 

 「もしもし?」

 

 『ユウキですか?何でユーリの携帯に?』

 

 「ユーリと一緒にいるからだよ。ユーリは今電話に出れないから俺が代わりに出たんだけど」

 

 『そうですか。まあユウキに掛ける手間が省けました。実は今すぐ翠屋に来ていただきたいのですが』

 

 「今すぐ?何かあったのか?」

 

 しかも翠屋でって…

 

 『来てもらえればわかります。とにかく待っていますので』

 

 そう言うとシュテルはすぐさま携帯を切る。

 うーん…ここからだと電車使って帰ったら1時間ちょいかかるし、すぐにっていうのは転移魔法でも使わんと無理だよなぁ。

 それにユーリに何も言わず、パレードを観ないまま帰っても良いモノかどうか…。

 

 「うーん…」

 

 気絶してる当の本人はうなされてるし。

 ……シュテルには悪いけどユーリが目覚めるまではしばらくここにいるか。

 俺はユーリを近くのベンチに運んで寝かせ、目覚めるのを待っていた。

 

 

 

 「むー…」

 

 あれから1時間程でユーリは意識を取り戻した。

 ユーリはパレードを観に行きたがっていたがシュテルから掛かってきた電話の内容を伝えると不機嫌になった。

 余程観たかったんだねぇ。

 けどスクリームがパレードに参加してる事を伝えたら一転、二つ返事で翠屋に向かう事をOKした。

 ユーリにとってトラウマになってないといいけど。

 ただ、電車でゆっくり家に帰りたかったらしく、転移魔法で翠屋の近くまであっさり転移し、海鳴市まで戻って来た事に不満があるらしかったので現在も唸っている。

 この子そんなに電車好きだったっけ?

 

 「ユーリ、翠屋が見えてきたぞ?」

 

 「…そうですね」

 

 …やれやれ。これはシュテルに何か突っ掛かりそうな感じだな。

 

 「ところでユウキ」

 

 「ん?」

 

 「シュテルが指定したのは本当に翠屋なんですか?」

 

 「そうだけど?」

 

 「ですが、アレ…」

 

 ユーリが指差す先には翠屋…

 

 「店内の電気が消えてるんですが?」

 

 「えっ?…ホントだ」

 

 ユーリが言う様に店内の電気が消えている。周囲も日が沈んだせいですっかり暗くなってしまい、中の様子を窺う事が出来ない。

 店に近付くと入り口のドアには『本日の業務は終了いたしました』の文字が書かれた掛札が。

 

 「おかしいな?シュテルは『翠屋に来てほしい』って確かに言ってたんだけど…」

 

 ひょっとして1時間も待たせたから翠屋に呼び寄せる用件が済んだとか?

 

 「どうしましょう?」

 

 「とりあえずドアをノックしてみよう」

 

 ドアを軽くコンコンと叩いてみるが中からの反応は無い。

 次にドアノブに手を掛けて回すとカギが掛かっておらず、あっさりとドアが開いてしまった。

 おいおい、不用心だな。まさか桃子さん、戸締まりするの忘れたんじゃあ…。

 俺とユーリがゆっくりと足を踏み入れ店内に入った瞬間、

 

 パンッ!…パパンッ!

 

 一斉に音が鳴り

 

 「「「「「「「「「「ハッピーバースデー!!ユウキ!(ユウ!)(勇紀君!)(勇紀!)、ユーリ!(ユーリちゃん!)」」」」」」」」」」

 

 電気が点くと同時にシュテル達が笑顔で俺達を出迎えてくれた。

 テーブルにはケーキや食べ物が沢山用意されている。

 

 「「……………………」」(ポカーン)

 

 俺とユーリは突然の出来事に口を開けて固まってしまった。

 

 「驚いてますね?2人に隠したままサプライズを企画した甲斐がありました」

 

 「僕も今回は頑張ってバレない様に振舞ったからねー」

 

 「というよりも2人共忘れてるだろうと思っていたからな」

 

 「おにーちゃん、ゆーりおねーちゃん、びっくりしたー?」

 

 「ごめんなさいね2人共♪」

 

 長谷川家に住む面々に

 

 「サプライズ大成功なの」

 

 「おめでとう2人共」

 

 「今日の料理は特に力入れて作ったからなー」

 

 「私も手伝ったからねー」

 

 「私も少しは作ったんだから感謝しなさいよね//」

 

 「勇紀君とユーリちゃんの口に合えばいいんだけど」

 

 聖祥組が口を開く。

 

 「「……………………」」(ポカーン)

 

 しかし事態を上手く呑み込めず未だに俺とユーリは固まっている。

 

 「っていうかいい加減、目を覚ましなさいよ!」

 

 ビシッ!×2

 

 「「痛っ!?」」

 

 おでこに衝撃と痛みを感じ、俺とユーリの硬直が解けた。

 俺達の前には指を真っ直ぐに揃え、おでこの前で止めているアリサの姿があった。

 どうやら両手で同時に俺とユーリにチョップしたらしい。

 

 「い、いきなり何するんですか!?」

 

 「暴力はよくないぞアリサ」

 

 「はいはい。文句は後で聞いてあげるから」

 

 アリサはサラッと俺達の批判を受け流す。

 

 「そうだよ。2人共まずはここに座って座って」

 

 アリシアが椅子を引き、『ここへ来い』と促すので俺とユーリは着席する。

 

 「今日は2人に黙ってこのパーティーを企画したんだよ」

 

 「せっかくやし、驚かせてやろう思うてな」

 

 「まあ、さっきの2人を見た限りでは我等の予想通りの結果になって良かったぞ」

 

 ああ、つまりは俺達に内緒で準備を進め、当日にビックリさせるために…か。

 ようやく冷静に事態を呑み込める様になってきた。

 

 「ていうかメガーヌさんも一枚噛んでいたんですね」

 

 どうりで昨日は俺に掃除を手伝わせずに外出する様、促してきた訳だ。

 

 「うふふ、この事をシュテルちゃん達から聞いた時、少し楽しそうに思えたのよ」

 

 「わたしもばれないようにがんばった!」

 

 「そっか。全然気付かなかった」

 

 ルーテシアも『えっへん!』と胸を張って自慢げに言うのでとりあえず頭を撫でて褒めておく。

 

 「それにしてもやけに遅かったですね?私が電話してから1時間以上経ってたんですが?」

 

 「それについてはスマンな」

 

 遅くなった事を詫びる。

 

 「まあ、いいですよ。せっかくのおめでたい日ですからその事は不問にします」

 

 「で、どう?どう?僕達のサプライズは?気に入ってくれた?」

 

 レヴィが聞いてくるので素直に答える。

 

 「そうだな。素直に嬉しい」

 

 「はい。私もユウキと同じ気持ちです」

 

 俺とユーリは皆の顔を見渡して

 

 「「ありがとうございます」」

 

 誕生日を祝ってくれた事を感謝して頭を下げる。

 俺の人生に良い思い出が出来た1日だった………。

 

 ~~おまけ~~

 

 「そういえばユウキとユーリは今日1日なにしてたんですか?」

 

 「ん?ユーリと遊園地に行ってたんだけど?」

 

 「そうです。しかもユウキから誘ってくれたんですよ////」

 

 「「「「「「「「「「なっ!!?」」」」」」」」」」

 

 シュテルが聞いてきたので素直に俺とユーリが答えると何故か皆が驚く。

 

 「どどど、どういう事かな勇紀君!?何でユーリちゃんと遊園地に行ったの!?」

 

 「し、しかも勇紀から誘ったって本当!!?何でユーリなの!!?」

 

 「そうやそうや!!言ってくれたらわたしも都合合わせたのに!!」

 

 「どうどう。落ち着け」

 

 慌てて俺に詰め寄ってくるなのは、フェイト、はやてを宥める。

 

 「ていうか俺、お前等に予定聞いたぞ?けど皆『日曜日は無理』の一言で俺が理由いう前にバッサリ断ったじゃねえか。遊園地のチケットも期限が今日までだったし、『都合が良い』っていう奴がユーリしかいなかったんだよ」

 

 「「「「「「「「「「そ、そんな…」」」」」」」」」」

 

 俺とユーリ、メガーヌさんとルーテシア以外はヘロヘロとへたってテンションが下がった。

 そんなに遊園地行きたかったのか?

 

 「(ま、まさか勇紀君からデートに誘う様な事があるなんて…)」

 

 「(つ、つまり今回のサプライズ企画に乗る事無く勇紀に付き合っていたら2人でデート出来たって事!?)」

 

 「(しかも遊園地…デートの定番にして良い思い出が沢山作れる場所…)」

 

 「遊園地、凄く楽しかったですよ♪それに私も追い付きましたから♪////」

 

 そこにユーリが口を開き、人差し指で自分の唇にチョンと当てる動作をする。

 

 「(ま、まさか!?)」

 

 「(ユーリも勇紀とキスしたの!!?)」

 

 「ふふ…それにユウキから誕生日プレゼントとしてこのペンダントも貰いましたし、ユウキが身に付けているペンダントは私がプレゼントしたものですし////」

 

 皆一斉に今度は俺の方を見る。

 目がギラついてて何か怖い。

 

 「っていうかシュテル達は知ってたんじゃないのか?ユーリは『自分からシュテル達に伝えるから』って俺に言ってたから俺はてっきり知ってたものかと」

 

 「「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」」

 

 今度はユーリの方へ。

 

 「……………………」(サッ)

 

 視線逸らした!?

 

 「…ユーリ、少し来ていただけますか?」

 

 「な、何故です?」

 

 「勿論ユウキが言った事について聞きたいからです。私は一言も『ユウキと一緒に遊園地へ行く』なんて聞いてませんが?」

 

 「い、言ってませんでしたか?」

 

 「僕も聞いてないよ」

 

 「我もだ」

 

 「あ、あはは…言い忘れてたみたいですね」

 

 顔色真っ青で大量の汗を掻いているユーリにシュテルを始め、皆が詰め寄る。

 

 「心配掛けた罰としてO☆HA☆NA☆SHIです」

 

 「ええっ!!?さっきは『おめでたい日だから遅くなったのは不問にする』って…」

 

 「連絡し忘れてた事については見過ごせませんので」

 

 「そ、そんなぁ…」

 

 そのままユーリを連れて行く一同。

 今日のパーティーの主役の一人が消えてしまった。

 ……ユーリ、連絡してなかったのか。

 あそこまでシュテル達が怒る理由はさっぱりだが

 

 「(生きて帰ってこいよ…)」

 

 俺は静かにユーリの無事を祈るのだった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 ゴールデンウィークの長期休暇も終わったので小説の更新速度はいつも通りに戻ります。

 


 
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