のんびりと日常をすごしている俺達。
時期はもう12月。季節は冬に突入しました。
今日、突然アリサに呼ばれて翠屋に来たんだが
「全く、あの三人はしつこいったらありゃしないわ!!」
「こっちはあれだけ拒否しとんのに何で理解せんねやろ?」
「アイツ等の頭の中は年中お花畑なんじゃないの?」
アリサ、はやて、アリシアが口々に言います。
フェイトとすずかも口には出さないもののその表情から察するに同じ事を思ってる様だ。
「というか愚痴をこぼすためだけに呼ばないでくれ。こっちは明日期末テストがあるんだ」
聖祥は何時からか知らないが海小はテスト前日だ。
シュテル達は一足先に家に帰って勉強し始めている筈だし。
「アンタなら余裕で満点取れるでしょ?別に良いじゃない」
いや、取れるけど勉強してるフリぐらいはしときたいんだよ。
「なのは、アンタも何か言いたい事があるなら言いなさいよ?」
「……………………」
アリサに振られたなのははどこかボーっとしている。
「なのは?」
「……………………」
「なのは!!」
「ふにゃっ!?」(ビクッ!)
大声で名前を呼ばれ、やっと反応するなのは。
「さっきから呼んでるのにアンタ全然返事しないじゃない!」
「ゴ、ゴメンねアリサちゃん」
『にゃはは』と苦笑いしながら謝るなのは。
「どうしたのよ?最近ボーっとしてる事が多いわよ?」
「何か悩み事でもあるの?なのはちゃん」
「もし困ってる事があるなら相談してなのは。私達でよければ力になるよ?」
「ありがとうすずかちゃん、フェイトちゃん」
……うーん。
ここに居る皆はなのはが『何かに悩んでる』と思っている様だがどうもそんな感じじゃないだろう。
ジーーーーッ
「???勇紀君、どうしたの?」
なのはの顔をジーっと見ていると目が合ったなのはに声を掛けられた。
「…なのは、お前無理してないか?」
「ふえっ!?」
「何つーか、今のお前からは若干疲れてる様な感じがするんだが?」
「そんな事無いよ」
俺の言葉を否定するなのは。
「そうか?」
「うん。別に疲れてなんかいないの」
「気のせいだったらいいんだ。けど無理はすんなよ?」
「にゃはは、心配してくれてありがとうなの」
いつも通りの笑顔で返事するなのは。
「フェイト、はやて、アリシアも怪我とかしない様に無理すんなよ。管理局での仕事も自分の出来る範囲でボチボチやってけ」
「「「分かった(オッケー)(了解や)」」」
三人共頷く。
「《それと三人共…》」
「「「っ!?《念話?》」」」
「《なのはの奴、口ではああ言ってるけどやっぱ無理してる様な感じがするんだよ。お前等なのはと仕事で一緒にいる時はそれとなく見守っててやってくれないか?》」
「「「《なのは(なのはちゃん)、無理してるの?(無理しとるん?)》」」」
「《俺の勘違いだったらそれで良いんだけど…な》」
「《…分かったよ。なのはの事は任せて》」
「《なのはは大事な友達だからねー》」
「《わたしはシグナム達にも言っとくわ》」
三人共俺の頼みを快く引き受けてくれた。
「(今、なのはの体調を
『
対象のコンディションを花というビジョンで把握する。発動条件は対象と数回以上会話する事。花の色と形で対象のコンディションを知る事が出来る。この『能力』は大切な人のコンディションや感情の動き、そしてその先の行動を把握するための観察の賜物である。
Stsで語られたなのは墜落の事件。今回はスカリエッティがもう改心し、ゆりかご内に残っていたガジェットは全て破棄したと本人も言っていた。
「(この現状ならなのはが撃墜される事は無いと思うんだが…どうにも嫌な予感がする)」
評議会を暗殺した犯人が別の方法で介入してくる可能性も考えられる。
「(せめてこの不安が杞憂であってくれればいいんだが…)」
カルピスを飲みながらそう思う。
しかしこの不安は回避されず、後に現実となって起こってしまうのであった………。
今日は12月20日。海小2学期の終業式だ。
と言っても1学期の終業式の時と同じで通知表を渡され、歓喜を上げる者と特に反応しない者、そして落胆する者の3種類に分けられる。ちなみに俺達は皆特に反応しない者である。レヴィは成績が悪くても絶望なんてしないからな。
それと教室や共有場所の大掃除だ。箒を使って床を掃く者、雑巾で机を拭く者、トイレや図書室、音楽室の様な共有場所を掃除する者がいる。
俺は音楽室、シュテル、ユーリは家庭科室、ディアーチェは教室でレヴィは教室前の廊下掃除だ。
掃除を終え、教室でHRを終えて俺達は帰宅する。
「…で、12月25日に翠屋で行われるクリスマスパーティーに持ってくプレゼントは用意したのか?」
「「「「はい(勿論)(うむ)」」」」
それはこの前、アリサ達の愚痴を聞いた後でアリシアが
『折角だしクリスマスパーティーをしよう』
と発案したのだ。
俺は勉強してるであろうシュテル達にメールで確認した所、『全員が参加(メガーヌさん、ルーテシア含む)する』と返事が返ってきたのでその旨を伝えた。
当日はプレゼントの交換会もするという事で各々が自分で準備するために街中を色々歩き回ってプレゼントになる物を探していた。
「楽しみだな~♪美味しい食べ物やケーキが出てくるのを想像しただけで…」
瞳を輝かせ涎を垂らすレヴィの口元をシュテルがハンカチで拭く。
「「気が早過ぎるぞレヴィ」」
俺とディアーチェは呆れた表情でレヴィを見るが当の本人は浮かれていて気付かない。
~~♪~~♪
突然俺の携帯から着信音が鳴った。
フェイトからだ。一体何だろうか?とりあえず電話に出るか。
ピッ
「もしもし?」
「ゆ…勇紀!!なのはが…なのはが…」
電話越しに聞こえてくるフェイトからは何か取り乱してる様な感じだ。
「落ち着けフェイト。なのはがどうした?」
「なのはが…仕事で大怪我を負って…病院に運ばれたって!!」
「っ!?そうか、分かった」
それから少し喋った後電話を切ると『何の用だったのですか?』とユーリが聞いて来た。
俺はフェイトからの内容を伝える。
「なのはが…意識不明の重体でミッドの総合病院に運ばれたそうだ」
俺の懸念していた事が現実になり、四人は『まさか!?』という表情を浮かべ、しばらく俺達五人はその場に立ち竦んだままだった………。
~~なのは視点~~
…どうしてこんな事になったんだろう?
私が意識を取り戻したのは昨日の事だ。
最初に目が覚めた私の目には知らない天井が映っていた。
ここは何処だろう?私は何でこんな所にいるんだろう?
そう思いながら少しずつ思い出してみる。
………そうだ。私は任務でヴィータちゃんと一緒にとある世界に行ったんだった。
そこで任務が完了した事で気が緩み油断してた。
帰ろうとした時、不意に現れた未確認体の攻撃。私はその攻撃を避けようとした。
……でも身体が動かなくて避ける事が出来ず、結果として直撃を受けてしまい私は墜ちてしまった。
そこから先の記憶が無い。この時に意識を落としてしまったんだ。
昨日、目を覚ました時にお見舞いに来てくれたフェイトちゃんに言われた。『病院に運ばれて3日間、眠り続けてた』って。
それから瀕死の重傷で病院に担ぎ込まれ、『もう少し運ばれて来るのが遅かったら間違い無く命を落としてた』って。
ヴィータちゃんにも迷惑かけちゃった。
…ううん、ヴィータちゃんだけじゃない。お見舞いに来てくれたフェイトちゃんやはやてちゃん、アリシアちゃんにシグナムさん達にも凄く心配された。
お父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんといった私の家族はすぐに来てくれたが、アリサちゃん達はまだお見舞いには来ていない。
管理外世界の人がミッドチルダに来るには手続きが必要で、家族や親族を除く人が来るのには許可が下りるのに時間がかかるって説明された。
お見舞いに来てくれたら皆に謝らないと。
そしてその日は『ゆっくり休みなさい』と、お医者さんに言われて病室で身体を休めた。
それで目を覚ました今日の朝、私はお医者さんに言われた。
『君はもう魔導師として生きる事は出来ない』と…。
始めはお医者さんが何を言ってるのか理解出来なかった。でもお医者さんは続けて言う。
『君の身体に溜まっていた極度の負担に加え、今回の重傷で体内のリンカーコアは粉々になって二度と元に戻らない。それに立って歩く事も二度と出来ない』と。
魔法はもう使えない……。リハビリをしても足は治らない……。
そう断言されて私の頭の中は真っ白になりしばらくは放心したままだった………。
病院食もあまり喉を通らず、お昼過ぎ。
車椅子に乗った私は看護師さんに頼んで病院の屋上に連れて来て貰い、『少し風に当たりたいから一人にして下さい』と言って一人にして貰ったの。
足はある。けれど動かす事が出来ない。
「魔法…もう使えないんだ。それにもう…歩けないんだ」
誰も居ない屋上で、一人空を見上げながら呟く。この事はもう、お見舞いに来てくれた皆にはお医者さんが話したらしい。
「私…もう要らない子になっちゃうのかな?」
不意にそんな不安が頭をよぎる。
皆が私から離れて行く。魔法が使えなくなって必要とされなくなっちゃう。歩けなくなって足手纏いだと思われて皆から見限られちゃう。
…また一人ぼっちに戻っちゃう。
「…う…うう……」
私は声を押し殺して泣き始める。
嫌だよ。もう一人ぼっちになるのは嫌だよ。折角、見つけられたのに。困っている人を助けられる、私が皆のために出来る事が見つかったのに。
私が少しの間、静かに泣いていると
「今日は折角のクリスマス・イブだって言うのに病院で過ごすだなんて勿体無い事してるなあ、なのは」
「ふえっ!?」
突然声を掛けられたの。慌てて振り向くとそこに居たのは
「ちーッス。見舞いに来てやったぞ」
片手を軽く上げてこちらに近付いてくる勇紀君の姿があったの………。
~~なのは視点終了~~
前回本局で鳴海少将と会った時と違って今回はミッドへの入国手続きやら何やらをクロノが申請し、許可が下りるまでえらい時間が掛かってしまい、フェイトから連絡を受けてお見舞いに来るまで数日待つ羽目になってしまった。
だからと言ってスカリエッティのアジトに行く時みたいに不法で転移してくるわけにもいかない。
許可が下り、なのはが搬送された病院の病室に行った所、部屋の中に当人の姿が無かったので適当に病院内を探して屋上に来た。そこでようやく見つける事が出来た訳だ。
「とりあえず見つけられたのは良いが…なのは、お前何で泣いてたんだ?」
「えっ!?…あっ!!ち、違うよ!!泣いてなんかないの!!目にゴミが入ってただけだから!!」
『にゃはは』と無理して笑い、ゴシゴシと服の袖で涙を拭くが両目にゴミが同時に入るなんてあまり思えないし。
俺はなのはの横に立ち、本人を見る。なのはは車椅子、俺は立っているので自然と見下ろす形になってしまう。
そのまま無言でなのはを見ているが
「???どうしたの?」
…うん。何か偉そうな態度取ってるみたいで嫌だな。俺はそのままなのはの背後に回り、ハンドルを握ってそのまま車椅子を押していく。
「え!?え!?何処に行くの!?」
「すぐそこのベンチだ。立ったままだと疲れるしな」
そう言って屋上にあるベンチの側まで車椅子を移動させ、隣に停めてから俺もベンチに腰を下ろす。
「なのは、これやるよ」
「ふえ?」
俺が宝物庫から取り出したのはホットココア。海鳴の自販機で買ったものを宝物庫に収納し、持ってきた。ミッドの通貨なんて持ってないからコッチで買い物なんて出来ないからな。
「いつから屋上に居たのか知らんが身体が冷えて体調を崩すのもいかんからな。それ飲んで少しは温かくなれ」
「ありがとうなの」
プルタブを開け、飲める様にしてからなのはに手渡す。お礼を言ってくれたなのはは早速飲み始める。
「美味しいの」
「それは良かった」
俺も宝物庫からカルピスを取り出し、飲み出す。
お互いに飲み物を飲んでる間は無言で、静かに時間が流れていく。
「「ふう…」」
同時に息を吐く。穏やかな時間だ。でもこのままのんびりしてるのもアレだ。
「なあ、なのは…」
俺の方から口を開くことにした。
「何かな?」
こっちに顔を向けたなのは。俺はなのはのおでこに
ビシッ
「ふにゃっ!?」
軽くチョップをかます。
「いきなり何するの!?」
『痛いの』と言った後、『う~』と唸り俺を睨みながら両手でおでこを擦っている。
「何って…心配かけた罰だ。先に見舞いに来てるフェイト達や士郎さん達はお前の事心配してばかりで誰も怒ったりしてないだろう?だから誰よりも先に俺が怒ってやろうと思ってな」
「う……」
「俺が怒るのはお前が嘘を吐いた事だ。なのは、以前俺がお前に『無理してないか?疲れてる感じがするぞ?』と聞いた時、お前は『無理してない、疲れてない』って言って嘘吐いたよな?何で嘘吐いた?」
「それは…あの時は本当に大丈夫だったの」
視線を逸らして答えるなのは。明らかに『嘘吐いてます』って言ってる様なものだ。俺は腰を上げ、なのはの正面に回る。
「…ハア~。あのな、俺はあの時お前が疲れてるのを
「え…」
俺の告白に呆然とするなのは。
「相手のコンディションを知るぐらいのレアスキルだけどな。それでお前の体調が悪い事は分かってた」
「じゃあ…何で?何であの時は勘違いしてるフリをしたの!?」
なのはが俺の胸倉を掴みながら叫び出すように声を張り上げる。
「なら俺も聞くが、何故お前はあの時嘘を吐いた?別に体調が悪い事を嘘吐いて誤魔化す必要なんて無かっただろう?」
「だって…私には皆の役に立てる力が…困っている人達を助けられる力があるんだよ!?だから私が頑張らなきゃいけないの!!」
「だが、今のお前は身体を酷使し過ぎてここにいるんだぞ?自分で自分の身を守れないような奴が他人を助ける事なんて出来る訳無いだろ」
「う……」
「それとも…お前にそこまで働けと言ったのはリンディさんか?それとも管理局の上司か?」
「ち、違うよ!!これは私が皆に嘘吐いて無理しただけなの!!」
「じゃあ何故そこまで頑張ろうとする?」
「それは…………」
そして俺と視線を合わせない様に俯いてしまう。
会話をしながらも俺は
視えたのは明らかに暗い色をしている花だった。今なのはが抱いてる感情は不安、恐怖の類。つまり…
「…恐れてるんだな。一人になる事を。誰にも認められなくなったら皆が自分の側から離れて行くのを」
俯いたまま、俺の言葉にビクリと身を震わせるなのは。
「全く…お前はちゃんと周りに居る友人の事をよく見ろ。別に「…………で」…ん?」
「……に………いで」
俯いたまま小声でつぶやく様に喋るなのは。
「なのは?何を…」
「嫌いにならないで!!」
顔を上げたなのはは懇願する様に声を張り上げ俺の言葉を遮る。胸倉を掴んでいる手にはますます力が籠もり、その目元には涙が徐々に溜まり始める。
「嘘吐いた事は謝るから…もう嘘は吐かないから…ちゃんと良い子になるから……なのはの事嫌わないで……一人にしないで……」
涙声になりながらもなのはは言葉を発する。
「何言ってんだ?別に嫌いになんて……」
「もう…もう一人ぼっちにはなりたくない……なりたくないよう……」
遂には『ふええぇぇぇん』と声を出して泣き始める。
「お、おい!?」
そんななのはを見て俺は狼狽え、アタフタと慌てる事しか出来なかった………。
なのはが泣き始めてからしばらくして…
「うっ…ぐすっ…」
「少しは落ち着いたか?」
俺の問いに無言で小さく頷く。胸倉を掴んでいた手も離してくれた。
「じゃあ落ち着いた所でもう一度言うが、もっと周りの連中の事を信用しろ。お前に対して損得勘定で計算して付き合ってる奴なんて居ねえよ」
「…でも、魔法が使えなくなったら私、他に何も出来ないし」
「あのな…確かにお前が『魔法』という存在を知ってフェイトやはやて達と出会う事になったのかもしれないが、それはあくまできっかけに過ぎんだろ。アイツ等と友達になれたのはお前自身の力だ。何も無いなんて言うな。もっと自信を持て。お前の言葉や想いをぶつける事によってアイツ等は確かに救われたんだ。むしろその事を誇りに思え」
「……………………」
「それにアリサやすずかに関してはどうだ?アイツ等と友達になった時、お前は既に魔法を使えたのか?あの二人はお前が魔導師だと知ってたか?」
なのははフルフルと左右に首を振って答える。
「お前があの二人と仲良くなった経緯はすずかから聞いた。…まあ、いきなり引っ叩くのはどうかと思うがな」
「あうう…言わないで////」
恥ずかしがってるなのは。
「ま、アリサ、すずかと仲良くなれたのが答えみたいなもんだろ。魔法なんてのは有ろうが無かろうが関係無い。お前の周りに居る友達は皆『魔導師の高町なのは』ではなく『友達の高町なのは』として接してくれてるんだ。お前の周りから離れる様な事なんて絶対に無い」
「勇紀君は?」
「ん?」
「勇紀君も…なのはの事、『友達のなのは』として見てくれてるのかな?」
「当たり前だろ」
なのはの問いに即答してやった。
「…良かった……良かったよう……」
再び涙声になっているなのは。俺は『よしよし』と頭を撫でてやる。
「それとゴメンな。俺達は誰もなのはがそんな不安を抱えている事に気付いてやれなかった。もしもっと早くに気付いていたのならこんな怪我を負わせることも無かったのに」
「…そんな…事無いよ……。なのはも…正直に言ってたら……」
「でも大丈夫。皆ちゃんとお前の側にいるから」
「うん…」
「お前が出来ない事はフェイト達に頼めばきっと力を貸してくれるし、俺やシュテル達は管理局員じゃないけれど微力ながらサポート出来る事が有るかもしれない。だからもう一人で頑張ろうとするな」
「…う゛ん…う゛ん……」
「今までよく一人で耐えて来たな。偉いぞ。でもお前は一人じゃない。もう、そんな不安に怯える事も無いんだ」
「ゆう゛ぎぐん…あり…がどう゛……」
「我慢するな。今は泣いていいんだ」
俺のその言葉を聞いてなのははもう限界だったのだろう。涙腺が決壊し、俺に抱き着いてきて
「みんながわだじがら…はなでるどおもっで…ごわがっだ…ごわがっだよう゛……ふえええぇぇぇぇんん!!!!」
大声を出して泣き始めた。そんななのはを俺は優しく受け止めて泣き止むまでの間、ずっと頭を撫で、背中をさすってやっていた………。
あれからしばらく泣いていたなのはだが、
「すっきりしたか?」
「も、もう大丈夫なの//////」
今は泣き止んでいる。今まで抱えてたモノを泣きながら全部吐き出せたのか表情も随分と良い
「で、これからどうするんだ?お前の状態は昨日、フェイトから聞いたから知ってるんだけど…」
「……私はもう魔法も使えないし、歩くことも出来ないってお医者さんに言われたけど…言葉で伝える事は出来るの」
「ふむふむ」
「だから、これから管理局で働こうと考えている人達に『無茶をしない様に』って教えられるお仕事に就こうと思うの」
「そうか…」
「うん。少なくとも今の私と同じような目に遭う人も、フェイトちゃん達みたいに心配する人も増やしたくはないから」
そう言うなのはの瞳からは力強い意志をはっきりと感じる。
…今のなのはならもう今回の様な無茶をしでかす事は無いだろうと思える。なら…
「治してやろうか?」
「ふえ?」
「なのは、お前を治してやろうか?」
俺はなのはに尋ねる。
「治すって…勇紀君は出来るの?なのははリンカーコアも壊れてどんな治療もリハビリも効果が無いって言われたんだよ?」
「出来る。俺のレアスキル、
俺もはっきりと断言する。
今回、
「じゃあ、なのははまた空を飛べるの?歩ける様になるの?」
俺が首を縦に振る事によってなのはの表情が変わっていく。
「じゃあ!じゃあお願いします!!なのはの事治してほしいの!!」
「良いけど条件がある」
「条件?何かな?なのはに出来る事なら何でもするの!」
「簡単な事だ。もう二度と無茶はするな。一人で出来ない事は無理をせず、皆に力を貸して貰え。さっきも言ったけど俺やシュテル達も微力ながら力になれる事だってあるかもしれないからな」
一瞬キョトンとした表情になったが
「うん!!もう皆に心配掛ける様な事はしないの!!」
すぐに笑顔で返事してくれる。
「よし!じゃあ治してやるな」
俺はすぐさまレアスキルを発動させる。
「
なのはを包む様に光を纏わせる。
「ふにゃ~…」
気持ち良さそうに目を細めて光に身を委ねるなのは。
十数秒程経つと光は完全に消える。
「これで終わりだ。もう立てるだろ?」
「にゃわっ!?」
そう言ってなのはの手を引っ張り、無理矢理立たせる。
「…本当に立ててる」
今の自分が信じられないのか驚いた表情を隠そうともしないで自分の足を見ている。
そしてテクテクと周囲を歩いたり時折、ピョンピョンと軽く飛び跳ねて確かめる。
やがて驚愕から歓喜の表情へと変わり
「治ってる…治ってるのーー!!」
「おわっ!?」
感極まった様子のなのはが突然抱き着いてきた。突然の事だったので驚いたがグッと踏ん張り、倒れずに済んだ。
「勇紀君!本当に…本当にありがとうなの!!」
「はいはい。喜ぶのはいいからとりあえず落ち着け」
興奮しているなのはを宥める。
「とりあえず主治医の先生に治った事伝えてこい。一人で行けるだろ?」
「うん!でも一人で?勇紀君はどうするの?」
「カルピス飲んでから追い掛けるから先に行ってろ」
さっさと行くように促す。なのはは満面の笑顔で『ありがとうなの』と俺に礼を言ってから駆け足で屋上から去っていく。……転んだりしないだろうな。
「さて……」
なのはの姿が見えなくなった直後に…
「…くうっ!」
まるで空気を読んだみたいなタイミングで来たな。喜ぶべきか悲しむべきか…。
今回は何の感覚を代償に機能が低下するのかも気になるがまたシュテル達は俺の事、心配するだろうな。事前に
~~なのは視点~~
「~~♪~~♪」
私は上機嫌で鼻歌を歌いながら病院の廊下を歩く。
今この瞬間が夢じゃないかと思い、歩きながら頬を抓るけど痛みをしっかりと感じ、その痛みが現実だと教えてくれる。
『もう二度と魔法が使えない』『歩く事が出来ない』と言われた時は不安で心が押し潰されそうになったの。『皆が離れて行くかもしれない』という恐怖で一杯だったの。
でも一人の友達が私の心と身体を救ってくれた。
長谷川勇紀君。
勇紀君は私が嘘を吐いた事に対して怒り、そして教えてくれたの。
『私はもう一人じゃない』って。
『良い子でいなくても皆離れない』『もう一人ぼっちにはならない』って。
凄く嬉しかったの。
私の不安を真っ向から否定し、取り除いてくれた事が。
そして私の身体を治し、もう一度空を飛べるようにしてくれた事が。
勇紀君には感謝してもしきれない。この恩は一生を掛けてでも返して行こうと思うの。
そんな事を考えていると私の視界に見知った顔の友達が映る。
「皆~♪」
私は小走りで駆け寄っていく。私の姿を見たフェイトちゃん、はやてちゃん、アリシアちゃん…それに地球から来てくれたアリサちゃん、すずかちゃんは固まってシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリの四人が何が有ったのか把握している様な表情を浮かべているの。
私が側まで駆け寄ると
「「「「「なのは!!(なのはちゃん!!)歩けないんじゃなかったの!?(歩かれへんかったんとちゃうんか!?)」」」」」
途端に囲まれ
「はわわわ…」
フェイトちゃんが肩を掴んで思いきり揺さぶってくるせいで脳が揺れて…き、気持ち悪くなっちゃうの。
「フェイト、少し落ち着いて下さい。なのはの顔色が悪くなっていってますよ」
「えっ!?…ああっ!!?ゴメンなのは!!」
「にゃ、にゃはは…大丈夫なの」
シュテルが止めてくれたおかげでフェイトちゃんが手を離し、事無きを得たの。
「そ、それでなのはちゃん!!何で歩いてるんや!?お医者さんが言うには…」
「えっと…それはね…」
「ユウキに治してもらったのだろう?」
私がはやてちゃんの質問に答えようとしたらディアーチェが代わりに答えてくれる。やっぱりシュテル達は分かってたんだ。
「治してって…有り得ないじゃん。なのはが意識を失っている間、医者だけじゃなくユーノやシャマルを含めたあらゆる治療魔法の使い手が治療しても身体を治す事が出来なかったんだよ。それに勇紀はシャマル程治療魔法が得意じゃないって言ってたよ。それなのに…」
「貴女の言う通りですよアリシア。確かにユウキの治療魔法は徐々に上手くなり始めてるとは言え現状、シャマルよりも劣ります。ですがそれは
「そだねー。ユウの
「本人も『死んでないなら虫の息からでも全快させられる』と言ってますから」
シュテル、レヴィ、ユーリの言う事にも納得出来るの。現に今、私の体調が完全に治っているから。
「じゃあ、勇紀が施した力でなのははもう大丈夫って事?」
「どうなの?なのはちゃん?」
「シュテル達の言う通りだよアリサちゃん、すずかちゃん。それどころか物凄く身体が軽いの」
「それは多分、ユウキの
そこまで効果が出ていたんだ。
「で、ユウキは何処にいるんですか?」
「勇紀君なら屋上で『カルピスを飲んだら追い掛けてくる』って言ってたよ?」
「屋上ですね?」
私から勇紀君の場所を聞いたシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリの四人はそのまま屋上に向かって行ったの。
「…レヴィ達、行っちゃったね」
「私達も追い掛ける?」
フェイトちゃんとアリサちゃんが言う中…
「た…たた、高町さん!?」
突如私の事を呼ぶ人がいたの。それは私を屋上に連れて行ってくれた看護師さんだったの。
そう言えば私の身体が治った事を言いに行こうとしてる途中だったっけ。
「あの…」
私が声を掛けた瞬間…
「せ、先生!!先生ーーーっっ!!高町さんが、高町さんがーーーーっっっ!!!」
病院内にも関わらず大声を上げて走って行っちゃったの。
「……何か大事になりそうな予感やなあ」
はやてちゃんが呟いた事は現実になり、私の姿を見た先生達は大騒ぎで私はすぐに精密検査を受ける事になっちゃったの………。
~~なのは視点終了~~
なのはを治すために
俺は特にする事も無く、今日の夕方からクリスマスパーティーの行われる場所、翠屋に来ていたが…
「《はい勇紀君♪あ~ん、なの》」
さっきから俺に付きっきりで隣に座り、甲斐甲斐しく世話をしてくれるなのはが居た。
「《あー…なのはさん?俺は別に一人で食べられますから…》」
「《遠慮しなくていいの。勇紀君のお世話は私がちゃんとするの♪》」
…さっきからずっとこの調子だ。
まあこうなったのには理由がある。昨日俺が使った
後、なのはの見舞いに来たメンバー全員にも大層心配され、俺も皆に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
まあ、聞こえなくなったと言っても念話での会話ならば全く問題無い。後はアリサやすずかの様に念話を使えない人と会話する時だが、手話が出来ないので筆談で会話する事にしている。そのため今はスケッチブックとマジックペンが俺と会話する人にとって必須の持ち物となってしまった。
「《ですがなのはさん?手が動かなくなったとかいう訳じゃないから本当に一人で食べるぐらい問題無いんですよ?》」
「《いいの♪なのはは少しでも勇紀君に恩返しがしたいの♪》」
…ホント、引く気が無いねこの子。
[じゃあ、チーズケーキとカルピスのおかわりを下さい店員さん」
[了解なの♪]
こうやって時折は念話出来る人とも筆談で会話する。念話ばかりで意思疎通してたら他の一般人に不審がられるかもしれないし。
というかなのは。筆談に『♪』は書く必要無いだろ。
そんな時に翠屋に新たなお客さんがやってきた。ていうかフェイトだ。フェイトは店内を見渡し、俺が居る事に気付いた。
[よっ、フェイト]
フェイトに挨拶する。
[早いね勇紀。もう来てたんだ?]
[まあ、家に居ても暇だったし。そっちこそ早いな?]
[私はここで勉強しようと思って]
勉強とな?フェイトがそう言って見せてくれたのは
「《試験近いのか?》」
執務官になるための学科の参考書だった。
「《年が明けて少ししてから…かな》」
「《そっか。確かアリシアも一緒に受けるんだろ?アイツも勉強してるのか?》」
そう、テスタロッサ姉妹は揃って執務官志望なのだ。
「《昨日は遅くまで勉強してたからまだ私が家を出る前も寝てたよ》」
「《まだ試験本番まで充分時間はあるんだから今からそんなに無理せんでも…》」
「《私もそう言ったんだけどね…》」
苦笑するフェイト。大丈夫かねえ。試験に向けて勉強しまくるって…確かはやても原作で上級試験受ける前はシャマルさんが心配する程猛勉強してたよな?
[ま、何はともあれ頑張れ。応援してるよ]
[ありがとう(勇紀に応援されちゃった♪嬉しいな♪)]
フェイトと筆談や念話越しで会話していると…
ジーーーーッ
何やら視線を感じる。
視線のする方向を見ると
「むーー……」
何か厨房からこっちを睨んで唸っているっぽい感じのなのはが視界に入った………。
~~桃子視点~~
「なのはー。チーズケーキが出来たわよー」
私は娘の名前を呼ぶけど当の本人はどこか不機嫌そうに唸って、ある一点を見つめている。
何かと思ってその視線の先を追ってみるとそこには筆談で楽しそうに会話しているなのはの友達、勇紀君とフェイトちゃんの姿があった。
「(あらあら…これはもしかして…)」
そんな娘の姿を見て私は一つの可能性に至る。
「(ようやくなのはにも春が来そうなのね♪)」
なのはは勇紀君とフェイトちゃんが楽しそうにしている姿を見て嫉妬している。
間違い無い。我が娘は勇紀君の事を好きになったのだろう。
勇紀君はなのはの『二度と治らない』と言われた怪我を治してくれた私達高町家にとっても恩人とも言える子だ。
おそらく彼が治療する際に何かあったのでしょうね。
自分はおろか他人の恋愛事にすら鈍感なこの子が『本当に男の子を好きになるのかしら?』と思っていたのだけど…。
「(これは美由希よりも先になのはが孫を見せてくれるのかしら♪)」
それに勇紀君ならなのはさんのお婿さんになるのも大歓迎だし♪
恩人という事を抜きにしても礼儀正しくて料理も美味いらしく、優しくて頼りになるとか。充分に合格点をあげられるわ。
私も彼になら『お義母さん』と呼ばれたいしね。
娘には今後も頑張って貰わないと。その前にまずは…
「なのは」
「ふえっ!?」(ビクッ)
近付いて少し強めに声を出すと反応してくれる我が娘。
「チーズケーキとカルピスよ。ちゃんと持って行ってね」
品物が乗ったトレーをなのはに手渡す。
お手伝いとしてお客様に注文された品を運んで貰わないとね…。
~~桃子視点終了~~
筆談や念話でフェイトと雑談しているとなのはがトレーに注文したチーズケーキとカルピスを持ってきてくれ…
ガチャンッ!!
「《ご注文のチーズケーキとカルピスです!どうぞなの!!》」
「「《……………………》」」
乱暴に置いた後、フェイトと反対側の席に座り、頬を膨らませながら睨むなのは。
[なのはさん?何故に怒ってらっしゃるのでしょうか?]
俺、
[別に怒ってないの(フェイトちゃんと仲良くしてるのを見たら何だかムカムカするの)]
明らかに怒ってるじゃん。
[そんな事より出来立てのチーズケーキなの。早くどうぞ、なの]
フォークでケーキを切り取って刺し、口元に持ってきてくれる。
「な、なのは!?何してるの!?」
「何って…勇紀君に食べさせてあげてるの」
「勇紀が悪くなったのって耳だよね?なら普通に自分で食べれるんじゃあ…」
「でもその原因を作ったのはなのはなの。だからお詫びの意味を込めてお世話してるんだよ」
…何やらなのはとフェイトが会話してるみたいだけど何言ってるんだろ?
耳が聞こえない俺はそれからしばらく喋っている二人の間で板挟みになりながらカルピスを飲んでいた………。
「という訳でこれからクリスマスパーティーを始めます!メリー・クリスマース!!」
「「「「「「「「「「メリー・クリスマース!!」」」」」」」」」」
「それとなのはー!退院&魔導師復帰おめでとー!!」
「「「「「「「「「「おめでとー!!」」」」」」」」」」
「ありがとうなの♪」
発案者であり幹事を務めているアリシアの音頭で始まったクリスマスパーティー(俺は聞こえないが)。今日は士郎さんが店を早めに閉め、貸切り状態にしてくれたので顔見知りの面子で行われている。
参加メンバーは長谷川家(七人)、高町家(五人)、テスタロッサ家(五人)、八神家(七人)、アリサ、すずか、忍さん、亮太、椿姫の合計二十九人と大所帯だ。
必要最低限の机や椅子以外は店の外に出しており、基本立食パーティーの形式で行われている。
もっとも保護者役のメガーヌさん、士郎さん、桃子さん、プレシアさん、リニスさんの五人は雑談しつつも厨房を行ったり来たりで俺達の為に料理を作っては持ってきてくれる。食材はスーパーや商店街で買い、鮫島さんやノエルさんが車で運んでくれた。そして『パーティーが終われば迎えに来てくれる』と言う事で一旦帰っていった。
「《勇紀、ホントに済まねえ!アタシが着いていながらなのはを守れず、オメーに迷惑掛ける事になっちまった》」
他の皆が料理や雑談に花を咲かせている中、ヴィータに念話で謝られた。
「《別に気にするな。耳が一時的に聞こえなくなるだけでなのはを助ける事が出来たんだ》」
「《でも事前にオメーがはやてに言ってくれた忠告をアタシは聞いていながら、いつもと変わらない笑顔で接してくれるなのはを見て勇紀の取り越し苦労だと思って安心してた。結果、肝心な時にアイツを守れなかったんだ》」
原作同様、かなり気にしてるな。
「《それに関してはなのはにも若干問題があったからな。アイツも正直に言えば良かったんだから》」
もっとも、なのはが抱えていた心の闇を考えると『言えなかった』というのにも納得せざるを得ないのも事実。
「《だけどよ!!》」
「《もういいじゃん。過ぎた事は気にすんな。それより、これからもなのはが無茶しない様にしっかり見張っといてやれ》」
「《それは勿論!!》」
「《ならこの話はお終いだ。今日はパーティーなんだし、あまり辛気臭い話はしたくないしな》」
「《……分かった。それから、あんがとな。なのはの奴を助けてくれて》//」
他人に礼を言うのに慣れてないのか、こっちに視線を合わせず、若干頬を染め恥ずかしそうにしながら口にするヴィータが微笑ましい。
ヴィータと念話での会話を終えると丁度プレゼント交換会…というよりクジ引きが行われることになった。
何でもクジに書かれた名前の人が用意したプレゼントを貰う事が出来るとか。ただし、自分で自分の名前を引いた場合は引き直しらしい。
…まあ自分で用意したプレゼントを自分が手にするってのもアレだし…ねえ。
「(参加するのは俺、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、なのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずか、亮太、椿姫のプレゼントを用意した十三人か)」
他の人は用意していないから参加は出来ない。
「(さてさて、誰のプレゼントが当たるのやら…)」
俺はそんな事を考えていた。
「「「「「「「「「「(絶対にユウキ(ユウ)(勇紀君)(勇紀)の名前を引き当てて見せます!!(引き当てて見せる!!)(引き当ててやる!!)(引き当てるの!!)(引き当てたる!!)(引き当てるわ!!)(引き当てるよ!!)」」」」」」」」」」
…あの方々は何故にそこまで気合十分なのか。
「(皆勇紀のプレゼント狙ってるんだなあ)」
「(やっぱり勇紀は見事としか言い様がないわね。なのはも陥落させたみたいだし。これで聖祥組はコンプリート♪次はStsで登場するキャラ達がメインになるわ♪原作入るまでに案外全員堕としそうね♪)」
亮太は皆を眺めて苦笑い、椿姫は皆を見てニヤニヤしている。
…うん。椿姫のあの顔は間違い無く碌でもない事考えてそうだから、後でアイツ焼いても良いかもしれない。
そんな事を考えている内にクジの用意が出来、クジ引きが始まった。
最初は誰が引くのかと思っていると
ジーッ×12
俺以外のプレゼントを用意した皆さんが皆揃ってこちらを見ている。
[…まさかとは思いますが最初は俺に引けと?]
俺がスケッチブックに書いた言葉に皆揃って頷く。
…いやまあ順番なんてどうでもいいんだけど。
『ハア~』と溜め息吐いた後に、クジの入った箱に手を突っ込む。
俺が引いたクジに書かれていた名前は…………なのはだった。
それを皆に見せる。
「《あ…あのね勇紀君》」
その当人が俺を念話で呼ぶ。
「《実は…私があんな事になっちゃって…プレゼントは用意出来なかったんだ》」
気落ちしてるなのはが申し訳無さそうに言う。
「《……ま、仕方ないわ。気にすんなよ》」
「《ゴメンね、絶対に何か用意するから》」
「《ん、楽しみにしとくよ》」
俺が会話してる間に皆次々とクジを引き、肩を落とし落胆する。
そんな中で
「ふははははー!!天は我を選んだぞーー!!(勇紀のプレゼント、ゲットだーー!!)」
「「「「「「「「「(アリシア(アリシアちゃん)……羨ましい)」」」」」」」」」
何かテンションが上がってるっぽいアリシアが高笑いしてる様な感じだけどそんなに良い物だったのか?
亮太、椿姫を除く他の皆はそんなアリシアを恨めしそうに見てるし。
「《ね、ね、勇紀。これ早速開けていいかな?》」
…どうやら俺のプレゼント当てたらしい。けど、まだ包装紙も解いて中身見てないのにここまで嬉しそうなのは何でよ?
「《別に良いけど嬉しそうだな?》」
「《まあね♪》」
「《言っとくがあまり期待すんなよ》」
アリシアが嬉しそうにリボンを解いて包装紙を破いていく。そして中から出てきたのは…
「《……箱?》」
ゼンマイのついた木箱だった。
「《何コレ?》」
[箱を開けたら分かる]
頭に疑問符を浮かべながらも箱を開けるアリシア。
「「「「「「「「「「わ~~、綺麗な音色~~」」」」」」」」」」
おー、おー、聴き入ってるみたいだな。
俺が用意したのは手作りのオルゴールだ。
[勇紀君、これって『涙の誓い』だよね?]
すずかはすぐに気付いたか。
[正解だ]
『とらハ3』の主題歌。俺、『とらハ』シリーズの曲は全部好きなんで。前世の頃も毎日の様によく聴いてたし。
この世界ではフィー姉が歌ってる曲でもある。というか俺が『歌いたいなあ』と、ふと思った時に
[結構綺麗な音色だけど楽器自体はあまり良質の物を使ってないわね]
[アリサ、分かるのか?]
[そりゃあ、習い事で色々な楽器を弾いてるからね]
[まあ、学校の音楽室にある備品のピアノなんだからそれは我慢して貰わんと]
ピキッ
俺の文章を見たアリサが固まる。
[勇紀君、ピアノ弾けるの!?]
[ピアノだけじゃなく楽器なら大体弾けるな]
すずかも驚いた様子で聞いて来るので俺は頷き答える。
俺は楽器を奏でる事や歌を歌う事は大好きだ。…といってもここまで好きになったのは
二人が歌ってる練習を見てたり聴いてたりしてる内に自然と好きになった。
[そうなんだ。…ねえ、もし良かったら今度私と一緒に演奏してくれないかな?]
[良いぞ。俺も誰かと演奏なんてした事ないし、以前からしてみたいとは思ってたから]
[約束だよ?]
[おう。…で、アリサは何であんなに固まってるんだ?]
[勇紀君、自分でピアノを弾いたんだよね?多分アリサちゃんは負けた気がしてるんだよ。アリサちゃんも色々な楽器の習い事してるから]
[あー、本人も言ってたな。でもそれだけで固まるか?]
[多分、学校に置いてある備品のピアノであそこまでの音色を出せる事に敗北感を感じてるんじゃないかな?]
[……突っ掛かってこないのを祈るか]
負けず嫌いな奴だから絶対に絡んできそうだが。
「ちょっと勇紀!!今度私と演奏で勝負しなさい!!」
ビシッと人差し指で俺を指して何か宣言してる様だがコイツ、俺が聴力低下してる事もう忘れてないか?
[何を言ってるか大体予想は着く。お前と競い合うつもりは無いからな]
そう言って、そそくさとこの場を離れる。
「ちょっと!!待ちなさいよ!!」
「ア、アリサちゃん。勇紀君は今何も聞こえないんだから言っても意味無いよ」
最後にチラリと後ろを見た光景は両手をぶんぶん振って暴れるアリサと、そんなアリサを羽交い絞めにして抑えているすずかの姿だった………。
一通り食事を堪能し、皆と念話や筆談で会話した俺は一人、翠屋の外に出た。
実はなのはに内緒でなのはの愛機、レイジングハートになのはが墜ちた時の映像データをダイダロスに送ってもらい、ソレを見ていたのだが…
「(やっぱりなのはを墜としたのはガジェットか…)」
原作同様にガジェットⅣ型だった。
「(…だけど俺の知っているガジェットじゃないな。原作で見たガジェットは
今回、なのはを襲ったガジェットは形状こそ原作と同じものの、全身が赤いカラーリングだった。
「(以前、クイントさんとメガーヌさんを違法研究所で助けた時に戦ったガジェットは原作と同じ色のボディだった。少なくとも聖王のゆりかごに配備されてたヤツじゃなく、別の場所で製造されたモノだな)」
おそらくコレを製造したのは評議会を殺した奴だろう。ガジェット自体はスカリエッティがゆりかごから別の場所に引っ越す際に全部破棄しておいたとの事だったので後日、ゆりかごに来たソイツが残骸を回収し、改造したと考えるのが妥当か…。
「(だとしたらソイツはゆりかごに?)」
一瞬そんな考えが浮かんだが、原作のスカリエッティの様にゆりかごとは別にアジトを用意してる可能性もあるな。…というよりも確実に用意してるだろう。
だとしたらゆりかごには居ない可能性が高いか。
色々推測してみるが特に『コレだ!!』と思える様なものが思い浮かばない。
「(……まあ、いいか。いずれ分かる時が来るだろう)」
とりあえず映像を消し、しばらくは夜空を見上げていた。
不意に誰かが近付いてくる気配がしたのでそちらを向くと同時に
「《隣いいかな?》」
念話で話し掛けられた。
なのはだった。
「《別に良いぞ》」
俺が許可すると隣に並ぶ。
「《勇紀君、外で何してたの?》」
「《夜空を見ながら休憩だ。少し食い過ぎたからな。なのはこそどうしてここに?》」
「《ん~、勇紀君の姿がいつの間にか見えなかったから何処に行ったのかと思って…》」
「《まあ誰にも言わずに出てきたからな》」
『なのは撃墜時の状況見てきます』なんて言える訳無いし。
それから無言で俺となのはは空を見上げる。
「《綺麗だね》」
「《そうだな》」
満天の夜空に輝く星と月を見ながら短い感想を口にする。
「《また来年も再来年もこうやって皆で楽しくパーティー出来るかな?》」
「《誰かが引越しでもしない限りは皆揃って出来るだろ》」
「《うん!》」
この街から引っ越すなんてなのは、フェイト、はやてが中学卒業と同時にミッドへ行くぐらいだろう。そうなるとアリシアや、ヴィータ達も一緒に行く事になるからこの街に残る魔導師は俺達長谷川家の面々って事になるか。
「《勇紀君。私ね…今すっごく嬉しいんだ》」
「《魔導師として復帰出来る事がか?》」
「《それもあるけどお友達が沢山出来た事が何より嬉しいよ。勇紀君にシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、大槻君に椿姫ちゃん。ルーちゃんも妹みたいで可愛いし》」
嬉しい事言ってくれるが俺としては当初、原作介入せずシュテル達とのんびり過ごす事考えてたからなあ。屈託の無い笑顔で俺を見て言ってくれるなのはを見ると僅かな罪悪感を感じるぜ。
…しかしちょっと長居し過ぎたせいか身体が少し冷えてきたな。
「《なのは、俺はもう翠屋に戻るけどお前はどうする?》」
「《あ、私も戻るの》」
そう言って戻ろうとした時
「《…勇紀君》」
なのはに呼ばれ
「《ん?》」
返事をした時に
チュッ
頬に何やら温かい感触が触れた。
「《っ!?》」
慌ててなのはの方を見た俺。
「《えへへ…。よ、用意出来なかったクリスマスプレゼントの代わりなの》//////」
なのはは頬を赤く染めたまま笑顔で俺に告げ
「《さ、先にお店の中に戻るね》//////」
逃げる様に店内へ入って行った。
そして店の外には
「(さっきの感触……ま、まさか俺……なのはにキス…された?)」
…………
……
「っ!!~~~~~~っっっ!!!!//////」
頬に触れた温かい感触が何なのか理解し、恥ずかしさで顔が真っ赤になっているであろう俺一人が佇んでいた。
~~なのは視点~~
クリスマスパーティーが終わり、お店の後片付けが終わって私は家に戻ってきたの。
「にゃ~~~…うにゃ~~~…////////」
私はリビングで猫の様な鳴き声を上げてさっきの行動を思い出していたの。
何であんな事をしたんだろう?
『《えへへ…。よ、用意出来なかったクリスマスプレゼントの代わりなの》//////』
あの場はああ言っちゃったけどプレゼントは後で準備してちゃんと勇紀君に渡すつもりだったのに…。身体が勝手に動いてやっちゃったって言うか…。
う~~~……。本当に恥ずかしい事しちゃったの。
「……は」
でもでも!何だか胸がポカポカして凄く満足感に満たされたのも事実なの。
「…のは」
勇紀君…いきなりあんな事したなのはの事、変な子だって思ってたりしないかな?
「なのは!!」
「ふにゃっ!?」
「もう!さっきから何度も呼んでるのにちっとも反応しないんだもの!」
いつの間にかお姉ちゃんが私の事呼んでたみたいなの。お父さんとお兄ちゃんもいる。
「ご、ごめんなさい…」
「別に良いわよ、怒って無いから。それよりさっきから『にゃ~にゃ~』って何唸ってたの?」
「俺もそれは気になってたな。どうしたんだなのは?」
「えっと…それは……//」
何だか恥ずかしくて言えないの。
「なのはにもようやく春が来たのよ美由希♪恭也♪」
するとお母さんが飲み物を持ってリビングに来たの。
「???お母さん、どういう事?」
お母さんから飲み物を受け取ったお姉ちゃんが尋ねている。
今は冬なのに春ってどういう事だろう?
「こ・れ♪」
お母さんは携帯を取り出し、一つの画像を見せる。そこには
「「ぶふっ!!」」
「あらら」
「に……にゃあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!?////////」
私が勇紀君の頬にキスしてる場面が激写されていたの。それを見てお父さんとお兄ちゃんは飲み物を噴き出し、お姉ちゃんは少し驚いた様子。私は思わず叫んじゃったの。
「おおお、お母さん!!?ここ、これいつの間に!!?//////」
「勇紀君が出て少ししたらなのはが追いかける様に出て行ったものだから♪『これは何かあるかも?』と思ってこっそり裏口から出て…ねえ♪」
「『ねえ♪』じゃないよお母さん!!」
まさか撮られてるとは思わなかったの。
「積極的ねえ、なのは」
お姉ちゃんも興味津々といった様子だし。
「お母さんも安心だわ。なのは、お母さんは応援してるからね。頑張って勇紀君と恋人になるのよ」
応援って……え?恋人?私と勇紀君が?
「ふ…ふえええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?ちちち、違うよお母さん!!//////」
「何が違うのよなのは。こんな事するなんて事は勇紀君の事好きなんでしょ?」
「た、確かに勇紀君の事はお友達として好きだけど…//////」
「…何言ってるのよ。なのはの『好き』は『お友達』としてではなく『一人の男の子』として『好き』って事よ」
「そ、そんな事…////////」
「それに貴女、今日勇紀君と筆談で話してる時は嬉しそうだったのにフェイトちゃんやシュテルちゃん達と筆談で話してるのを見てた時、凄く不機嫌になってたわよ」
にゃ!?見られてたの!?
「私の言ってる事違う?」
「…違わないの////」
お母さんの言う通りに勇紀君とお話してる時は胸がポカポカして凄く嬉しかったけど、フェイトちゃんやシュテル達とお話してるのを見かけたらムカムカしたの。
「なのはにとって今まで感じた事の無い不思議な感情だから分からないのかもしれないけどそれが『恋心』というものよ」
これが…恋心?
私…本当に勇紀君に恋しちゃったの?
「…にゃ~~~////////」
そう理解するとますます勇紀君の顔を思い出して意識しちゃうの。
「でもなのは。勇紀君を好きな子は他にも沢山いるわよ?このままだと他の子に取られちゃうかも…」
「ふえっ!!?だだ、駄目なの!!?」
私以外の子と勇紀君が一緒にいるのを想像するとまた胸がムカムカするの。
…お母さんの言う通りだ。私、勇紀君に恋しちゃってるんだ。
「じゃあ頑張りなさい。さっきも言ったけどお母さん応援してるから」
「お母さん……うん!分かったの!!」
高町なのはは心機一転、管理局のお仕事も恋も全力全開で頑張るの!!
私はグッと拳を握って決意を新たにするの。
「その意気よなのは」
「私、頑張って勇紀く「「待ったーーーー!!!」」…にゃ!?」
喋ってる途中でお父さんとお兄ちゃんの叫びに遮られたの。どうしたんだろう?
「いかん、いかんぞ。確かに勇紀君はなのはにとっての恩人だし、泰造の息子だから信頼も置ける」
「だけどなのはに恋愛は3年……5年……いや10年か!?とにかく…」
「「なのはに恋愛はまだ早い!!」」
私の恋愛をお父さんとお兄ちゃんは認めてくれないっぽいの。
「お父さんも恭ちゃんもいつまでも過保護過ぎだよ」
「そうなの!なのははもう一人でも頑張れるの!!だからお父さんもお兄ちゃんも口出し無用なの!!」
「「な…なのはが……なのはがグレたーーーっっ!!?」」
失礼なの!!
それからもお父さんとお兄ちゃんが色々言うけどお母さんが
『二人共、少しあちらでO☆HA☆NA☆SHIしましょうか?』
そう言って二人を引きずって行ったの。
それからすぐにお父さんとお兄ちゃんの悲鳴が聞こえてきたの。
「ま、二人には良い薬よね」
お姉ちゃんは呑気に言うの。そういえば…
「お姉ちゃんは好きな人いないの?」
お姉ちゃんの浮ついた話は聞いた事ないの。
「…なのは、それは言わないで」
肩を落としたお姉ちゃん。今の一言は失敗だったの!
「だ、大丈夫だよ!お姉ちゃんにも良い人がきっと見つかるの!!」
「こんな事で妹に慰められるなんて……。こうなったら私も勇紀君狙おうかな。私も結構勇紀君の事気に入ってるし」
「だ、駄目なの!!お姉ちゃんみたいな地味な人、勇紀君の好みじゃないの!!」
「妹の言葉が辛辣だ!!?」
~~なのは視点終了~~
~~あとがき~~
今回は長くなり過ぎました。まさか23000文字オーバーとは…。素直になのは復帰とクリスマスパーティーとを分けた方が良かったと思ってます。
まあ、何はともあれこれでなのはフラグも成立です。なのはのリンカーコア完全破損とか下半身の回復見込みが無い怪我など原作以上に怪我の状態が重く、そして勇紀の治療による早期退院とますます原作乖離まっしぐらです。それと自分はシリアスなシーンとか書くのが苦手なのでこれで一杯一杯ですが読者の皆さんが少しでも満足していただけたら幸いです。
それと勇紀は今回の
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。