No.534914

真・金姫†無双 #12

一郎太さん

という訳で、連続投稿2日目。

一刀くんが頑張ってます。

どぞ。

2013-01-22 21:30:55 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9384   閲覧ユーザー数:7043

 

 

 

#12

 

 

かっぽかっぽと馬で闊歩する。クソつまんねー。どうも、のっけから親父ギャグをかます、北郷一刀です。状況としては、嘘ではない。俺はいま、部隊を率いて平野を行軍している。隣には亞莎。反対側には、軍師の雛里と補佐の穏が、俺と同様に乗馬している。

 

「大丈夫か、雛里?」

「あうぅ、お尻が痛いです…」

「そうかそうか、帰ったらお兄ちゃんがさすってやろう」

「あわわっ!?」

 

冗談はさておき。

 

「一刀さん、斥候から情報が入りましたよぉ」

「応」

 

穏から、報告を受ける。いま俺達は、領内に現れたという賊の討伐に向かっている最中だ。聞けば、しばらく行った先の古砦を根城にしているようだ。

 

「どうする、雛里?」

「あわわっ、私ですか!?」

 

隣で穏の説明を聞いていた雛里に作戦を問えば、ビクっと小さな身体を震わせた。何を驚いている。雛里がこの討伐隊の軍師だろ?

 

「あ、そうでした……」

「砦までにはまだ時間がある。それまでに、策を練っておくように」

「はいっ!」

 

抜けているのか気合が入っているのか。元気よく返事をする雛里んでした。

 

 

 

 

 

 

という訳で、雛里ん指示の下、砦より少し離れた場所で野営を敷き、作戦会議。

 

「領内の砦は、孫堅様の時代にも調査がされていて、ひと通りの地図があります。いま、私達が向かっているところもです」

 

いいながら、雛里は地図を広げた。その後ろでは、穏がうんうんと、生徒を見守る教師のように頷いている。

 

「見張りが立っているのは、さきほど戻って来た斥候の方の情報では、四方に2人ずつ。計8人です。ですが、砦内に見張り台があることも考えると、もう少し増えるかと」

「なるほど。ただ突っ込んでも、向こうは迎撃の準備をしちまう、って訳だ」

「はい。ですので、陽が落ちるまで待ちます。この時間であれば、いま砦を出ても何処にも行けません」

 

言いながら、今度は、この周辺の地図に置いた石をそれぞれ指す。……あぁ、直近の邑って訳だな。

 

「日没後、部隊は待機。それとは別に、潜入の人選をします」

「潜入?」

「はい、夜ならば最小限の見張りを残し、大多数は休みに入ります。その隙を狙って――」

 

雛里が両手の人差し指で、砦の地図にある、割と大きい建物を指す。

 

「――このどちらかが食糧庫です。そこに、火を放ちます」

「火計だな」

「はい……どうですか、穏様?」

 

雛里は不安気に振り返るが、穏は笑顔で頷いた。

 

「はぁい、穏もそれでいいと思いますよ。問題は、誰に潜入してもらうか、ですが」

「ここは、俺だな」

「一刀さんが行くんですか!?」

「だって、俺の部隊にそんなん出来る奴いないんだもん」

「もん、って……でも1人だと危険過ぎます!」

 

俺の妹がこんなに心配性なわけ以下略。

 

「じゃぁ、亞莎が来るか?そうしたら、誰が俺のいない部隊を率いる」

「えと、その……」

「それとも亞莎が潜入するか?」

「あぅ……」

「出来なくはないが、まだ亞莎には足りないものがある」

「足りないもの?」

「?」

「……」

 

俺の言葉に亞莎と雛里は首を傾げ、穏は瞳を伏せる。それだけで、穏も『ソレ』を経験している事がわかった。

 

「ま、それを経験するのが、今回のお前達の課題だ」

「「はぁ……?」」

 

俺もだけどな。

 

 

 

 

 

 

らられれふぁふぁーっとオカリナを吹いて時間を進め、夜がやって来ました。遠くに野犬か狼の遠吠えを聞きながら、砦を挟んで夜営地とは反対側の山にて、砦を眺める。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……外壁に、昼は2人ずつ、夜は1人ずつの体制か。間違っちゃいないが、それだけじゃ足りない」

 

奴らが想定しているのは、軍や他の賊による攻撃だ。つまり、敵は多い。しかしながら今ここにいるのは俺1人。俺からすれば、穴だらけだよ。

 

「さて、どっから行こう……ん?」

 

何処が1番脆いか考えながらその4人を見ていると、西側の1人が、何やらゴソゴソとやっている。そうして、懐から小さな瓶のようなものを取り出すと、それを口に当てて傾けた。

 

「おいおい、酒かよ。やる気のねぇ奴だ。それとも眠気覚ましか?」

 

いやいや、賊にそんな殊勝な態度を期待しても始まらない。間違っていたとしても、俺1人ならなんとか生き残るくらいは出来るだろう。

 

「――さて、やりますか」

 

計画通りに、俺は西側の城壁の下にいる。こちら側は陰になっており、俺が見つかる心配も薄い。

 

「予想の通りだ。これだけ古い砦なら、外壁にも綻びが出るさ」

 

それも、古いというだけでなく、誰にも使われていなかった砦だ。外壁の石はそこかしこに浸食による傷があり、そこに手足を掛ければ身体の支えにも使う事が出来た。

 

「よっ…ほっ……」

 

手足を交互に動かして、虫のように壁を登る。ロッククライミング。そう、今の俺は虫。虫。日陰に行き、その機能性は人類を凌駕しながらも存在を疎まれるゴキブリ……。

 

「生まれてきてすいません……」

 

思い込みが激し過ぎて若干鬱になったが、ようやく外壁の淵にまでやって来た。

 

「――――ぷはっ。ったく、飲まなきゃやってらんねーぜ」

 

聞こえてきたのは、呂律がほんのわずかに危うい男の声。ちょうど真ん前にいるらしい。

 

「だいたい…んぐ…なんで俺が……ぷはっ、不寝番なんか」

「じゃぁ、寝てていいんだぜ?」

「へ?」

 

振り向いた男の鳩尾に拳を叩き込み、悶絶させる。

 

「おやすみー」

「ま、待っ――」

 

そのまま首に手を掛けて頭を捻り、気絶させる。音もなくソイツは崩れ落ちた。

 

さぁ、作戦開始だ。

 

 

 

 

 

 

「こちらスネーク!侵入に成功した!」

 

…………。

 

「どうした、応答しろ!?」

 

ま、無線も何もないんですけどね。

 

冗談はさておき。

 

俺はいま、雛里が地図に指した建物のうちのひとつ、その裏手にて息を潜めている。とはいえ、おそらくこれがアタリだ。城にある蔵ともよく似ている。

 

「暇だな」

「あぁ、眠ぃったらありゃしねーぜ」

 

見張りは2人。こいつらも、俺が投げ捨てた男と同じように、やる気は感じられない。

 

さて。

 

「すううぅぅぅ……はああぁぁぁぁぁ……」

 

ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐く。何度もそれを繰り返す。バクバクと跳ねる心臓が次第に疲弊し、落ち着きを取り戻したと認識できた時、俺はようやく動いた。

懐から取り出したのは、2本のクナイ。短刀でもよかったが、なんとなくカッコイイのでコッチ。冗談だ。使いやすさか。2本の黒い得物は、その大きさに反して重量がある。無理もない。この2倍の大きさの剣が出来るくらいには、鉄を使用したのだ。それを力任せに打ち込み、密度は通常の倍、つまり、強度も倍である。雪蓮や祭ねーさん、それに他の兵が使うような武器だと、力任せという表現に相応しい働きをするが、俺は武将じゃない。これくらいの方が、自制も利く。

 

それはさておき。

 

「っ!」

 

屋根に上り、見張りの背後に降り立つ。2人が反応するよりも速くクナイを奴らの喉に当て、引き裂いた。

 

「……っと」

 

倒れそうになる2人を抱え、蔵の陰に隠す。月明かりでは色の判別もつかないが、俺の上衣は血塗れだろう。

 

「鍵は…っと、あったな」

 

片方の男の懐から、蔵の鍵と思しきものが見つかる。果たしてそれは期待通りのもので、俺は蔵の扉をわずかに開き、その隙間から内部に忍び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ゔお゙ぇ゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙……」

 

びちゃびちゃと音を立てて蔵の地面に零れるのは、俺の口から溢れた吐瀉物だ。壁と膝に手を着きながら、胃の中身をすべてぶち撒ける。

 

「はぁっ!…はぁっ……」

 

胃液しか出なくなっても落ち着かなかったそれが、ようやく収まりを見せた頃、乱暴に口元を腕で拭って上体を起こした。

 

「クソ、俺でさえコレなんだから、亞莎に任せなくて正解だったな……」

 

俺が亞莎を指揮官として待機させていたのは、偏にこれが理由だった。

人を殺す事の不道徳と不快感。

その所為で亞莎が戦闘不能にでも陥ってしまったら、作戦も何もない。もしかしたら、行動に出る前に捕らえられていたかもしれない。

 

「……まぁ、いい。後は火をつけるだけだ」

 

手筈通りに作物の乾いているところを見繕って、点火する。それは瞬く間に燃え広がり、蔵の中をオレンジ色に染め上げる。

 

「さて、脱出しますかね」

 

わずかにフラつく脚に活を入れ、俺は蔵の出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、#12でした。

 

 

まだストックはある。

 

 

ひと段落がつくまでは、1日1話投稿を目指した。

 

 

それとは別に、新しいバイトを始めた。

 

 

よって、これからしばらくは毎日のように5時起き。

 

 

泣けてくるぜ。

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 


 
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