#11
さて、やって来ました練兵場。店は2日前に閉めたし、食材も酒も使い切った。俺はそんなに酒を飲まないから、雪蓮と祭さんにご馳走してやったよ。勝負代金がその前払いと考えれば、プラマイゼロ……とまでは言わないが、まぁ、よしとしよう。
荷物も城に宛がわれた部屋に運び込んだし、戸締りもちゃんと……したよな?ちょいと心配になってきたな。
「あの、一刀さん……?」
「あ、あぁ……そうだったな」
第一声の通り、俺はいま練兵場に来ているのだ。隣には亞莎。俺達の前には、兵たち。これも仕事だし、こっちに集中するとしなければ。
「さて、この度、新しく将軍となった北郷だ。見て見りゃ何度も店に来ていた奴らもいるし、俺も呂蒙も自己紹介は必要ないだろう」
ニッと笑えば、兵たちの間にも笑いが零れる。甘い。甘すぎて糖尿になっちまうぜ、ボーイ達。
「だが、ここでは忘れろ」
「っ!?」
「「「「「――――っ!」」」」」
表情を一転。睨みを利かせる。亞莎・隊兵共にビクリと背筋を伸ばした。爺ちゃんの真似だが、効果はありまくりらしい。
「俺を気のいい酒屋の店主と思ってたら……お前ら死ぬぞ」
「「「「「…………」」」」」
黙っちまった。そんなに怖いか?だからお前達は甘ちゃんなんだよ。
「返事はどぉしたぁ!あ!?聞こえねぇぞ!」
「「「「「……お、応っ!!」」」」」
「声が小せぇ!反応が遅ぇ!てめぇら死にてぇのか、あ!?」
「「「「「応!」」」」」
「……それでいい」
掴みはバッチリだ。さて、何から始めようかね。
「……あぅぁぅ」
「亞莎まで泣きそうにならないでくれ……」
とりあえず、亞莎は無表情を通そうな。
「うぅ…緊張しました……」
「亞莎も武官になるんだったら、あれくらいは必要だぞ?」
調練を終えて部隊を解散し、俺は亞莎と共に城に戻る。
「おう、お疲れ一刀!亞莎もな。見ておったぞ」
「さ、祭様ぁ!」
「どうした、いきなり泣きついて」
「一刀さんが怖かったですぅ!」
「あー…確かに儂も怖かった……」
「おい」
いい感じに鬼軍曹やってたと思うんだけどなー。
「言っとくが、亞莎の指揮力も鍛えるから」
「ひいぃっ!?」
それはいいとして。
「さて、冥琳のとこに行くぞー」
「冥琳様、ですか?」
なんでまだビビッてんだよ。
「あぁ。雛里んの様子でも見に行こう。ま、心配しちゃいないがな」
「あ、はいっ!」
「おう、行ってこい。儂は自部隊の調練に行くぞ」
そう言って、祭ねーさんは俺達がやって来た方向へと向かう。逆に俺達は、祭ねーさんが来た廊下の奥に向かう。さて、もう1人の妹は元気にやってるかね。
「入るぞー」
「あぅ…失礼、します……」
そしてやって来たのは冥琳の執務室。初日という事もあり、今日はここで、雛里が色々と冥琳や穏に教えて貰う事になっている。俺の就任挨拶と調練も終わったし、こちらも終わっているだろうと訪れてみれば、俺達の視界には項垂れる冥琳と穏。真っ白になってるぞ。ジョーかコラ。
「どうした、雛里?」
「あ、お兄ちゃぁん……」
唯一表情の見える雛里はオロオロと冥琳・穏の間で視線を泳がせ、俺が声を掛ければ、泣きそうな声で駆け寄ってくる。
「2人はどうしたんだ?なんかすっげー落ち込んでるんだけど」
「あの、その…コレです……」
「ん?」
「雛里ちゃん、コレ何?」
雛里の視線を追って机に目を向ければ、正方形の木盤と、その上にはいくつかの彫刻。
「えと、象棋です…」
「将棋?」
「?」
「はい。この盤と駒を疑似戦場に見立てて、互いに駒を使って本陣を落とすんです。戦略の競い合いですね」
へぇ。俺の知ってる将棋とは違っていそうだ。
「冥琳様と穏様がこんな風になっちゃったのって、コレと関係があるの?」
「あの、実力を見させてもらう、って言われて…えっと……」
あぁ、そういう事か。
「実力を見るとかカッコつけておいて、雛里にボッコボコにやられた訳だな」
「あわわっ!?」
「ぐふっ!」
「はぁぅぅ…」
冥琳が吐血し、穏が情けない声を出す。
「こんな奴らは放っておいて、中庭に行くぞ、雛里」
「あわっ、いいんですか、お兄ちゃん?」
「雪蓮に誘われてな。1日目から忙しくても疲れるだろう、って。一服して休もう」
「でも、冥琳様たちは……」
「放置。こういう時はそっとしとくのが1番なのさ」
「あわわっ!?」
雛里を抱き上げ、扉に向かえば、服の裾を引かれた。
「どうした、亞莎?」
「あの、えっと……」
「あっ…」
口籠る亞莎の表情に、雛里は何か感づいたようだ。
「あの、お兄ちゃん。たぶん亞莎さんも……」
「ひ、雛里ちゃんっ」
「抱っこして欲しいんじゃ……」
「言っちゃダメ…って、言ってるし……」
なんだ、そんな事か。
「あうぅ…恥ずかしぃです……」
「ほら、亞莎」
俺は亞莎に背を向けたまま膝を曲げる。早く乗れ。俺達の主が待ってるぞ。
「えっと、いいんですか……?」
「抱っこじゃないが、許してくれ。でも兄貴は力持ちだからな。妹2人くらい訳ないさ」
「じゃぁ、お邪魔して……」
「よいっしょ、と」
左腕に雛里、背中に亞莎を引っ提げて、俺は部屋を出る。
「…穏」
「はぁぃ…」
「私達も…まだまだだな……」
「はいぃ…」
力無い声を聞きながら。
――――中庭・四阿。
「お待たせー」
「そんなに待ってないわ。それにしても、凄いカッコね」
「暖かいんだぜ?」
「はややっ!?」
「あわわわ…」
亞莎を右に、雛里を左の椅子に座らせる。
「ウチの妹たちもそれくらい素直だったらいいんだけれど」
「孫権さんと尚香さんだっけ?」
「そっ。下の妹はまだ幼いしいいんだけど、上の娘がまた堅物でね」
「ウチとは大違いだな」
そんな話をしていると、侍女が茶と菓子を持ってきてくれた。雪蓮に断りを入れて亞莎と雛里は菓子に手を伸ばし、顔を綻ばせる。可愛いなぁ、もう。
「そうそう、遅くなったけど、その服装も似合ってるじゃない」
「ん?」
「貴方たちが今着てるものよ。作らせた甲斐があったわ」
「デザインを決めたのは俺だがな」
「私のは露出が多すぎだと思うんですが……」
俺のは端的にいえば功夫服だ。動きやすさ重視。上が白、下が黒。シューズもなんとか作る事が出来た。材料は高かったが、そこは城持ちだ。対して、ぷちぷちと文句を言う亞莎は、キョンシーが着ているような服装だ。ただし、暗器を得意とする為、袖はかなり大きめの物となっている。
「いいじゃないか。雪蓮なんてハミ乳だし」
「ハミっ!?」
「あわわ…」
「ちょっとー、主に向かってそんな言い方ないでしょー」
というか、この城の重鎮はみんな露出が多いんだよ。兵たちの苦労がしのばれるぜ。
「でもでも、やっぱり丈が短過ぎです!」
「俺の好みだ」
「はやっ!?」
こう、亞莎のシミひとつない滑らかで細い、それでいて女らしい生足が、な?
「『な?』じゃないですよぉ!」
涙目でポカポカと叩いてくる亞莎はいいとして、雛里はなに服をいじってんだ?
「いえ、その…私も露出を増やした方がいいのかな、と……」
「雛里んは貴重な
「幼女…」
「悪かったわね、年増でー」
「そうは言ってないだろ」
あっちを立てればこっちが立たない。ちゃんと立つのは俺の息子だけだ。いや、下ネタはいいとして。
「雛里のは、確か水鏡女学院の制服だっけ?」
「あ、はい」
「これはこれで可愛らしいわよね。……暑そうだけど」
「いえ、それほどでもないですよ?」
「雪蓮が暑がりなだけだよ。
「ちょっと!ちゃんと履いてるわよ!」
「はややっ!?」
「あわわっ!?」
うむ、ナイスなツッコミだ。
あとがき
という訳で、#11でした。
商売人要素が皆無なんだが、どうやって戻していくか画策中。
てか、次回からギャグ要素すらもなくなっていきますが、ご容赦をば。
ではまた次回。
バイバイ。
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という訳で、『戦う商売人』編改め、『頑張る一刀くん』編をお送りします。
ひと段落つくまで、また1日1話を目標に頑張っていくぜ。
どぞ。