#13
「火だ!火が上がったぞぉ!」
「うわぁ!?燃え移りやがった!!」
混乱に乗じて、建物の間を俺は駆ける。月光に照らされた場所を賊たちが行き交い、蔵に注目が向かう。ギリギリまで裏手を走り、ようやく辿り着くは、砦の正門。部隊が待機している方角だ。
「さて、開けちまおうか」
門番の兵を斬り倒す。先ほどすべてを出し終えた為か、嘔吐感はあってもそれで立ち止まる事はない。
「――――っしゃぁ!!」
扉を開門すれば、月明かり下の大地に砂塵。
「居たぞ!捕まえろぉ!!」
見つかっちまったらしい。だが、もう詰んでんだよ。
「あと1分もしないうちに、騎馬隊が到着するぜ?」
再びクナイを逆手に構える。俺の仕事は、この開門を維持する事だ。
「クソっ!なんとかして門を閉めるんだ!」
「無理だ!すぐそこまで来てやがるっ!」
門前で戦うこと数十秒。吶喊の騎馬隊の先頭には、長妹の姿。
「突撃っ!門を確保してください!」
「おー、様になってるねぇ」
しっかりと指揮官を全うしている亞莎の姿に口笛を吹きながら、俺は後方へと向かう。少しもしないうちに歩兵部隊の先頭と合流した。
「脚を止めるな!奇襲はかけたが、前方は騎馬隊だけだ!てめぇらもさっさと追いつきやがれぇっ!!」
「「「「「応っ!!」」」」」
後続の歩兵に檄を飛ばせば、その速度も上がる。最初からそうしてろってんだ。
で、俺のもう1人の妹は、っと……いたいた。後方にて、砦の様子を見ている。
「あわわっ、お兄ちゃん!?」
「おう、兄貴だ。作戦は……見ての通りだな」
「はいっ、流石でしゅ!あわわ…」
最後の最後で噛んでしまうのは、ご愛嬌だ。
だが。
「穏、ここ任せていいか?」
「……意地悪なお兄ちゃんですね。なにも、初めての討伐でやらなくても」
問い掛ければ、哀しげな、そして非難めいた瞳。穏は、俺がこれから何をするかわかっているらしい。流石は周瑜ちゃんの弟子。いや、自身もそれを経験しているからか。
「今だからこそだ。それで折れるなら、居酒屋の店員に収まるしかない。逆を言えば――」
「あ、あのっ、お兄ちゃん?穏様?いったい何の話を……」
「おぉ、雛里。これからちょっと出かけるぞ」
「……へ?」
話についていけない雛里の乗る馬に飛び乗る。
「えと、その……」
「レッツゴー!」
「あわわわわわ……」
そして、馬を駆けらせた。腕の間で小さくなる雛里が可愛かったですマル。
そうしてやって来ました最前線。兵の怒号と剣戟の音が鳴り響く。
「なんでですかぁ!?」
「あー、安心しろ。雛里は俺が守ってやるから……命に代えてもなキリッ」
「あぅ…擬音を口で出さないでください……あわわっ!?」
そんな会話をしている間にも、飛んできた流れ矢をクナイで弾く。雛里が帽子を押さえてさらに縮こまった。
「そうしてろ」
「はいぃ…」
そのままさらに馬を進め、到着する。ひと際、炎の燃え盛る蔵の前に。
「顔を上げるんだ、雛里」
「……えっ?」
俺の声音に、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。先ほどまでの怯えすら消えた表情で、雛里は顔を上げる。彼女の目の前には――――。
「あ゙あ゙あぁぁっ!!熱い、熱いぃぃいいいいいい!!!」
兵に弾き飛ばされ、蔵に突っ込んだであろう賊の1人。その身には炎。
「あ…」
「よく見ろ。これが、お前が取った選択肢の結果だ」
その光景を認識し、俺の両脚の間で雛里は小刻みに震え出す。
「そして理解するんだ。策を出すとは、どういう事かを。戦がどういうものなのかを」
「あ、あぁぁ……」
その震えは、徐々に大きくなる。
「ぃゃ…」
「目を逸らすな」
「いゃぁ…嫌だよぉ、お兄ちゃん……」
「見ろっ!」
「っ!」
馬上で振り返り、縋りついて来ようとする雛里の肩を押さえ、視界を固定する。燃えていた男は息絶えたようだ。地面に倒れ伏したままピクリとも動かず、火が燻ぶっている。それ以外にも、兵に斬られ、血を流し、苦痛の呻きを上げる賊たち。
「もうやだっ!やだよ、おにぃちゃぁん!」
「駄目だ」
轟く兵の怒号。響く剣戟の音。消えない断末魔の叫び。それを聞くまいと雛里は泣き叫ぶが、幼い少女の泣き声など微々たるものだ。腰のあたりから、異臭が漂ってくる。失禁してしまったらしい。
「もうやだ、やだよぉ……」
「……そっか」
さめざめと泣き出した雛里を見て、これ以上は本当に無理だと判断する。雛里の胸に腕を回して抱き上げ、自身の服が濡れる事も意に介さず、こちらを向かせる。途端、雛里が抱き着いてきた。
「ごめんな、雛里。穏のところに戻ろう」
「……」
もはや、声を出す事も出来ないのかもしれない。俺の腰にしがみついたまま頷くと、さらに強い力で抱き締めてきた。
「ごめん…」
もう1度だけ謝り、俺は馬を駆けらせる。
本陣まで戻れば、穏が伝令越しに指示を出している。
「あ、一刀さん!」
「穏、悪いが雛里を頼む」
「……はぃ」
俺の声に振り向いた穏は、むしゃぶりついたままの雛里の様子を見て、状況を察したようだ。さっきと同じような眼で俺を見るが、すぐに頷き、雛里を受け取ってくれた。
「じゃぁ、終わらせてくる」
「あの!」
「ん?」
再び馬首を翻せば、穏に引き留められた。
「一刀さんは…その、大丈夫なんですか?」
「……俺はもう、全部吐き出してきたよ。火を点ける前にな」
「そう、ですか…」
「行ってくる」
何やら言いたげな様子だったが、今はその時ではない。両脚に力を籠める。
次は亞莎の番だ。
再三砦に戻れば、もう戦いも終盤だった。賊は散り散りになり、それを追って兵がトドメを指す。もはや殲滅戦だった。
「亞莎は、っと……」
周囲を見渡せば、ちょうど亞莎が部下に指示を出しているところだった。
「お疲れ、亞莎」
「あ、一刀さん……」
部下が離れたところを見計らって声を掛ければ、ほっと一息をつきながら返事をしてくれる。
やっぱり、か。
「もう終わりのようだな」
「はい、いま組を分けて砦の中を調べさせてますが、おそらく敵もいないかと」
「そうか。だったら、ちょっといいか?」
「はい?」
首を傾げる亞莎を引き連れ、砦の奥へと向かう。
「あの、ここが何か……?」
「ここなら誰もいない」
「え?」
「気丈に振る舞う必要もない。亞莎はよくやったよ」
「あ…」
ぽむっ、と頭に手を置いてやれば、途端に亞莎の瞳が震え出す。
「おいで」
「……っ」
ひと声かければ、さっきの雛里のように俺に抱き着いてきた。雛里と対応が違い過ぎるが、そこは許して欲しい。何故なら。
「私、頑張りました…」
「うん」
この娘は、1人で乗り越えられたから。
「初めて、人を殺しました……気持ち悪くなりました…吐きそうになりました……逃げ出したくなりました……」
「わかるよ」
俺もそうだったから。
「それでも、頑張りました…私が弱かったら、みんなが危険だから、、頑張りました……」
「あぁ、知ってるよ」
「一刀さん…う、うぅぅ……」
静かに泣き出した亞莎が落ち着くまで、俺は彼女の頭を撫で続けた。
あとがき
そんなこんなで#13です。
雛里んが可哀相だけど、頑張って欲しいものです。
というか、ギャグに持っていけないorz
頑張って戻したいけど、#15まで戻せない。
ではまた次回。
バイバイ。
追記:
なんだよ、あのクソタイトル。
直しました。
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という訳で、#13。
一刀くんがお兄ちゃんです。
亞莎ちゃんが頑張りました。
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