No.533660

SAO~菖蒲の瞳~ 第二十三話

bambambooさん

二十三話目更新です。

《攻略戦》に入るとかぬかしましたが、戦闘シーンはもう少し後になります。
戦いは会議から始まるのだよ。

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2013-01-19 16:15:51 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1139   閲覧ユーザー数:1089

 

第二十三話 ~ 英雄の懺悔 ~

 

 

【アヤメside】

 

第二層が解放されてから十日目の今日。迷宮区最寄りの《タラン》にて、第二層攻略会議が開かれることになった。第一層の時の約三倍のスピードだ。

 

第一層の攻略は一ヶ月と長い時間を掛けて行われたが、これは《十分以上に準備した》と言うことの裏返しでもある。その準備のお釣りが、今回の攻略スピードの最大の要因だろう。

 

広場の端で壁に寄りかかりながら全体を見渡す。

 

ざっと見た感じ、今のところ集まっているメンバーは第一層の時と比べてかなり多い。そして、コボルド王戦に参加したプレイヤーは全員いるようだった。

 

変化があるとしたら、それぞれのパーティで装備やカラーリングに統一性が見られるところだろう。例えば、キバオウを中心としたパーティは鎧の下の胴衣をモスグリーンに統一している。

 

因みに、ソロプレイヤーである俺は薄茶色のケープと言う統一性からはかけ離れたものだ。そもそも鎧ですらない。

 

そんな中に、キョロキョロと周りを見渡しながらパーティの間を縫うように歩く、深夜の闇を連想させる黒のコートを装備する少年を発見した。言わずもがな、キリトである。

 

キリトの出で立ちは黒に完全統一されているため、見つけるのが物凄い楽だ。

 

いつ気付くかな、などと思いながらその様子を眺めていると、キリトの側にフーテッドマントを見に付けるロングヘアーの少女と赤いリボンで髪をツインテールに結った少女が近寄ってきた。

 

ここ最近行動を共にしているアスナとシリカも到着したようなので、俺は壁から背を離して他のパーティより明らかに平均年齢の低い、いろんな意味で小さいパーティに歩み寄った。

 

「あ。アヤメさん」

 

近付く俺に気付いたシリカがこちらに手を振る。俺はそれに振り替えし、輪の中に入った。

 

「遅かったな。今回は参加しないんかと思ったぜ?」

 

「それも考えたんだが、やっぱりお前らが心配でな」

 

茶化すような口調のキリトに淡々と返す。すると、俺の言葉に気になるところがあったらしいアスナが疑問符を浮かべた。

 

「考えたって、参加しないつもりだったんですか?」

 

「ああ。今朝、アルゴから【情報収集手伝って欲しい】ってメールが届いてな。今度情報収集手伝ってやるよ、と以前言った手前、どうしようかと悩んでいたんだ」

 

「まあ、最終的にこっちを選んだけど」と続けると、話の途中、少し不安げな顔をしていたシリカが嬉しそうに小さく微笑んだ。

 

何が嬉しかったのかは不明だ。

 

「そう言えばアヤメ。アスナとシリカもだけど、トーラスの《ナミング・インパクト》は対処出来そうか?」

 

突然のキリトの問いに、俺たち三人はほぼ同時に頷く。

 

《ナミング・インパクト》とは、筋骨隆々の半裸の男に牛の頭がくっ付いた姿が特徴のトーラス族が使ってくる剣技(ソードスキル)の名前だ。

 

今回のボス戦では、この剣技をいかに上手く回避できるかが鍵になってくるらしく、キリトは教えられる範囲の《攻略組》に割と早い段階でこの情報を教えていた。

 

その中には当然俺たちも含まれているわけで、時間的に余裕があったため俺たち三人は回避のタイミングを無事覚えることが出来たのだった。

 

この出来事の裏には、仕事を取られたアルゴが軽く愚痴るという背景もあったのだが、彼女の名誉のために黙っておこう。

 

チラリと目配せすると、俺と一緒にその場にいたシリカが苦笑いで頷いた。

 

「そうか。じゃあ、一安心か」

 

「俺はお前がまた無茶するんじゃないかと少し心配だけどな」

 

第二層に最も近い部屋で行われた死闘の最中、キリトがほぼ単身で王に挑んだ姿を思い出す。

 

「いや、アヤメにだけは言われたくない」

 

そう言うキリトは、俺が時間稼ぎのために王のタゲを取り続けていた時のことでも思い出しているのだろうか。

 

「私から見たら二人とも変わりありません。アヤメさんもキリト君も、無茶しないで下さい」

 

と、最後にはアスナに持っていかれ、茶番を見せられていたシリカはクスリと笑った。俺も小さく微笑む。

 

しかし、広場入り口が視界に入ると、その笑みは一瞬で消えた。

 

「どうした?」

 

目敏く反応したキリトが尋ねる。

 

「《レジェンド・ブレイブス》の到着だ」

 

その言葉を聞き、全員が《レジェンド・ブレイブス》の方へ視線を向けた。

 

上限近くまで鍛え上げられた風格を持つ黒ずんだバンデッドアーマーにバシネットと言うオルランドを中心に、クーフリン、ベオウルフ等々、アルゴのメールに記されていた面々が全員揃っていた。

 

そう、全員だ。

 

「よかった……。ネズハさん、ギルドの皆さんを説得できたんですね」

 

その顔に安心の二文字を浮かべるアスナとシリカ。

 

俺たちがレジェンド・ブレイブスを遠目から眺めていると、その視線に気付いたナタクが頭を下げた。

 

「大丈夫そうだな」

 

「……まあ、そうだな」

 

キリトの言葉に、俺は少し曖昧に答える。

 

被害者はアスナだけではない。この中にも被害者は何人かいるはずだろうから、問題はソイツらが赦してくれるかどうかだ。

 

「それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいまーす!」

 

レジェンド・ブレイブスの面々が広場に到着してすぐ、広場の中央から声が聞こえてきた。

 

プレイヤー全員が見つめる視線の先には、銀髪の男が立っていた。

 

「それじゃ、早速だけどレイドの編成を始めたいと思う! オレの名前はリンド。今回のレイドリーダーに選ばれた! よろしく!」

 

どこかで聞いたことのある自己紹介を言い終えたあと、広場に拍手が湧き起こった。特に、胴衣をロイヤルブルーに統一しているパーティからの拍手は大きい。

 

「選ばれたゆうてもコイントスやけどな」

 

リンドの近くにいたキバオウが、やや不満げな声で茶々を入れた。すると、今度は小さく笑いが起こった。

 

「……リンドは、ディアベルをリスペクトしているのか?」

 

笑い声に紛れ込ませるように、小さな声でキリトに尋ねた。

 

「みたいだ。第一層じゃディアベルの団体にいたような気がするし、フィールドボスの時に少し睨まれた」

 

「そうか。……お前が気にすることじゃないからな」

 

頭で理解出来ても、心が納得できないことはいくらでもある。全ての人が善人なわけでは無い。ディアベルの件は、結構長く引き摺ることになるかもしれないな。

 

「待ってくれないか!」

 

あちこちからレイドを編成するためウィンドウを開く音が聞こえてくる中、どこからか声が上がった。

 

声の方に顔を向けると、そこにはナタクたちレジェンド・ブレイブスがいた。声を上げたのは、おそらくオルランドだろう。

 

レジェンド・ブレイブスはざわめきの中を足枷を引きずるような、されど一歩一歩しっかりとした足取りでリンドのいる中央へ歩み寄った。

 

すれ違う瞬間、横目で観察してみたら、その目は覚悟が灯っているのが見えた。死を受け入れる覚悟だった。

 

 

「会議の前に、少し時間をくれないか?」

 

「……どうしてだ?」

 

「ここにいる全員……いや、全プレイヤーに謝らなくちゃいけないんだ」

 

「謝る……?」

 

オルランドの言葉に、リンドは首を傾げた。

 

「頼む……!」

 

オルランドが頭を下げると、メンバーも揃って頭を下げる。

 

リンドは訝しみながらも、その頼みを受諾した。

 

「ネズオ……」

 

「……うん。大丈夫」

 

オルランドや仲間たちから心配の目を向けられながら、ナタクはパーティの中から一歩踏み出した。その姿を見て息を呑む気配が三つ。

 

「あいつは確か鍛冶屋の……いつの間に戦闘職に移ったんだ?」

 

「それにあいつが持ってる武器って確かドロップオンリーだろ? しかも結構レアな」

 

「鍛冶屋で相当儲かったんだな。自分でドロップしたってことは無いだろうし、誰かから買ったのか?」

 

隣のパーティから、そんなヒソヒソ話が聞こえてきた。

 

ナタクの装備する武器は、三日月状のやや肉厚の刃に革の巻かれたグリップ、と言う形状のものだった。

 

分かる人なら一発で分かる独特の形状を持つその武器は、投剣のサブカテゴリ《円月輪(チャクラム)》に分類されるアイテムだ。

 

現状、このチャクラムは迷宮区にポップする《トーラス輪投げ男(リングハーラー)》というMobからドロップするしか入手法が存在しないレアアイテムである。

 

はっきり言って、生産職が手に入れられることなんてほとんど有り得ない代物だ。入手方法があるとしたら、プレイヤーから買い取るなどでトレードするしか無い。

 

さらに大きくなったざわめきの中、ナタクやその仲間たちは正座して武器や兜を脇に起き、額を地面にこすりつけるように深々と頭を下げ――――。

 

「……僕たちは、武器強化の直前に、あなた方の武器をエンド品にすり替えて騙し取っていました。僕の鍛冶屋で強化をした時、武器が消滅したのはペナルティじゃなくて、システムを利用した強化詐欺です」

 

ざわめきは一瞬にして静まり、重い静寂が広場を満たした。普段は全く意識しないタラン村のBGMと、大通りの喧騒だけが耳に届いた。

 

しんとした沈黙の中、三人のプレイヤーが歩み出てきた。青の胴衣を着用するリンド隊の男性プレイヤーが二人と、緑の胴衣を装備するキバオウ隊の男性プレイヤーが一人だ。

 

表情は、一様に固い。怒りを抑え込んでいるようでもあった。

 

「あんたが言ったことは、事実なのか……?」

 

リンド隊の一人が、強張った声で尋ねた。

 

「はい。全て、事実です」

 

落ち着いた声でナタクが答えると、先ほど尋ねた男以外の二人が激発寸前まで顔を強張らせた。

 

ちらりとキリトたちを見ると、全員顔色が青白かった。シリカに至っては、今すぐにでもナタクたちを庇うために飛び出して行きそうだった。

 

そっと、シリカの手を握る。そうすると、シリカは縋るように握り返してきた。

 

「……騙し取った武器は、まだ持っているのか?」

 

そう男が尋ねると、床に手を突いたままのナタクは、頭を左右に振った。

 

「いえ……。もう、お金(コル)に替えてしまいました」

 

「なら、金での弁償ならできるか?」

 

「それも―――」

 

「金は、全部俺たちの装備の強化とか、高級レストランの飲み食いとかで残らず使いました。……弁償のためのコルはある程度は集めましたけれど、まだまだ足りません」

 

ナタクの言葉を奪い取り、頭を垂れた姿勢でオルランドが答えた。

 

そこでついに、もう一人のリンド隊の男が、忍耐の限界を超えた。

 

「お前……お前、お前らァァッ!!」

 

きつく握った拳を振りかざし、右足のブーツで何度も床を踏み付ける。

 

「お前ら、分かってるのか!! オレが……オレたちが、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いをしたか!! なのに……オレの剣売った金で、美味いもん食っただぁ!?」

 

続けて、キバオウ隊の男も裏返った声で叫んだ。

 

「オレだって、剣なくなって、もう前線で戦えないって思ったんだぞ! そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、オレたちだけじゃない、あいつらも……攻略プレイヤー全員を裏切ったんだ!!」

 

そのあと、二人の絶叫が導火線となったかのように、これまで事の成り行きを見守っていた多くのプレイヤーたちが、一度に爆発した。

 

――裏切り者!!

――自分が何したか解ってるのか!!

――今更謝ったって、何もならねえんだよ!!

 

口々に叫ぶ数十人の声が合わさり、轟音となって空気を震わせる。

 

「あやめ…さん……」

 

「大丈夫。落ち着け」

 

俺は、すぐ隣で小さく震えるシリカを、小さい頃、怖がる妹を落ち着かせるためやっていたように優しく抱きしめた。《ハランスメントコード》が表示されるが気にしない。それでも、シリカの震えはなかなか治まることは無かった。

 

戦闘では気丈に振る舞うアスナも、いつも飄々としているキリトも、どうしていいか分からずただそこに立ち尽くす事しか出来ないでいる。

 

事ここに至れば、事態を収める魔法の言葉など存在しない。詐欺を行った事実が存在する以上、それを償えるのは同額のコルか、同じくらい重い何かか……。

 

――同額の、コル?

 

「まず、君たちの名前を教えてくれるか」

 

怯えるシリカを宥めるように優しく抱きしめながら解決を探していると、いつの間にか喧騒は小さくなり、リンドの声が耳に届いた。

 

リンドは今回のボス戦のレイドリーダー。今この場において、ナタクたちレジェンド・ブレイブスの最終判決を決めるのに、最もふさわしい人物だ。

 

「……レジェンド・ブレイブス、です」

 

平伏したまま、リーダーであるオルランドが名乗ると、リンドは二、三回頷いた。鋭利な風貌のリンドだが、かなり緊張しているように見える。咳払いをし、低い声で言う。

 

「そうか。……お前たちのメンバーのカーソルは全員グリーンだが……だからこそ、お前たちの罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来るが、お前たちの罪はどんなクエストでも(そそ)げない。その上、弁償ももう出来ないと言うなら……他の方法で、償ってもらうしかない」

 

キリトは歯を食いしばったかのように見えた。しかし、そんな心配は無用だと俺は思う。

 

リンドはディアベルを尊敬し、彼のようになろうとしている。だったら、自分の命すら投げ打ってキリトを助けたような男を目指すなら、ここでナタクたちを殺すような判決は下さないだろうからだ。

 

「お前たちが彼らから奪ったのは、剣だけじゃない。彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だからお前らは……」

 

リンドは恐らく、レジェンド・ブレイブスに、今後の攻略での貢献と、収入からの定期的返済要求するつもりだろう。ディアベルも、きっとそう裁決を下すはずだ。

 

「違う……そいつらが奪ったのは時間だけじゃない!」

 

しかし、リンドが続く言葉を口にするより早く、誰かが甲高い声で叫んだ。

 

「オレ……オレ知ってる!! そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは、他にもたくさんいるんだ! その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、今まで倒せてたMobに殺されちまったんだ!!」

 

再び、広場がしんと静まり返る。

 

数秒後、誰かが掠れた声で呟いた。

 

「……し……死人が出たんなら……もう、詐欺師じゃねぇだろ……ピッ……ピ……」

 

「そうだ! そいつらは人殺しだ! PKなんだ!!」

 

他の誰かが、そう続けた。

 

 

【あとがき】

 

以上、二十三話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

今回はタイトル通り、英雄たちの懺悔回です。

そのせいでアヤメ君たちの出番が少ないです。

次回はちゃんと活躍させますんで。(主にアヤメ君)

 

次回は《英雄の罰》です。ボス戦はその後ですかね。あまり長引かないようにします。

 

それでは皆さんまた次回!

 


 
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