「なんという事だ!」
男は電車から降りた直後、何かを見て驚きの声を上げた。
「どうかしたのですか?」
「電車が定刻通りに着いたんだ! こんな奇跡があってもいいのか!」
そう言いながら男は時計を指さす。確かに今の時刻はちょうど電車がこの駅に到着する時刻だ。
「そんなに驚く事ですか?」
「そうだとも! 私がいつも利用している路線は常に十分二十分の遅れは当たり前、酷い時には一時間以上遅れる事もあるのだ!」
男にとって電車が十分や二十分も遅れるのは当たり前だった。たから常に所要時間と遅れる時間を計算して早めに家を出ているのだが、それでも運が悪ければ遅刻してしまうくらいに遅れる。
「まあ、この電車は遅れるなんて事はあり得ませんからね」
「何故だ。人もそこそこに乗り降りしているみたいだし、結構過密なスケジュールじゃないか」
時刻表を見ながら男は駅員に尋ねた。
「遅れたりしたらそれこそ一大事ですから。何せこの電車は――」
その時、次の電車が駅に到着した。次から次へと多くの人が降り、同程度の人数が電車に乗る。
「っと、失礼しました。この電車は、死者の魂を乗せて天国から地獄、霊界魔界その他へ向かいますから、遅れは許されないのですよ。でないと魂が現世に留まってしまう」
にっこりと笑顔を見せた駅員の言葉に、男は絶句した。
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即興小説で作成しました。お題「凛とした列車」制限時間「15分」