「ねえ、あそこで新しいパンプスを買っていきたいんだけど」
「わかったよ、行こうか」
右を見ると腕を組んで歩いているカップル。
「特にあのラストのシーンが超よかったー」
「そうだな、あれは感動した」
左を見るとテーブルを挟んで映画の感想を言い合っているカップル。
街を歩くと必ず恋人同士の二人組を見かける。どっちを向いてもどこに行っても、大抵一組は見つかる。
「寒い……」
そんな中、私は一人で歩いていた。これから食事に行くのだ。寒い冬には温かい鍋が一番。
「出歩くにはちょっと辛いな、この寒さは」
時折吹く風が耳を切り裂くようだ。触っていなくても冷たくなっているのがわかる。こんなに寒くなるならコートとマフラーと手袋だけでなく、耳当てもしてくればよかった。
「もう……」
「よっ」
突然、後ろから肩を叩かれた。驚いて振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
「ちょっと、いつから後ろを歩いてたの? 家とは違う方向じゃない」
「CDショップ見ていたんだ、早く来すぎたからな。それで出てきたらちょうどお前を発見して声をかけたってわけだ」
無邪気な笑顔を見せてきた。思わず私も笑顔になってしまう。
「まあいっか。それじゃ行きましょう」
私は彼の腕を取り、先ほど見かけたカップルのように腕を組んだ。
「うん、あったかい」
鍋もいいけど、この温かさが一番好きだ。
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即興小説で作成しました。お題「振り向けばそこに恋愛」制限時間「15分」