遠くの森の方からセミの鳴き声が聞こえる。空は青空、南側に大きな入道雲は見えるけど天気予報では今日は一日中晴れだと言っていた。
「ふう」
照りつける日差しで滝のように汗が出てくるのをハンカチで拭きながら、私はバス停で人を待っていた。二、三年くらい前まではここに来るまで駅から三十分以上かけて歩かなければならなかったけれども、今ではバスが往復するようになった。とはいえ本数が朝昼晩の三本しかないから、それを逃したら何時間も待つか結局歩くかのどちらかしかない。
だけど、私の待ち人はその辺がしっかりとしているから、きっと今待っているバスに乗っている事だろう。
「……変じゃないよね」
これから五ヶ月ぶりに会う事を考えたら、今更ながら自分の今の服装が気になってきた。若草色のツーピース、スカートの丈はちょっと頑張って膝より少し上。うん、大丈夫、きっと大丈夫。
「あの時もこんな服だったっけ」
私は少しばかり記憶をたどってみる。あの人と出会ったのは今から五年前、小学生の夏休みの時だった。この思い出は私とあの人と、そしてもう一人としか共有できない、ひみつの大切な思い出だ。何故なら、私達をつなげてくれたのは『魔法』なんていうファンタジーな力だからだ。
あの時、私は今待っているあの人とは違う、もう一人の彼の手伝いとして魔法を授かった。彼はこの世界とは違う所から迷い込んでしまい、元いた世界に戻るためにエネルギーが必要だった。そのエネルギーを溜めるためには魔法を使って善行を繰り返し、色んな人達の感謝の心を集める必要があった。その魔法は彼自身では使いこなす事が出来ないらしく、たまたま使う事が出来ると彼に見込まれた私が使って代わりに集めていた。
そして五年前の夏、私はその魔法を使っている所を偶然あの人に見られてしまった。最初はどうしようかと思ったけど、あの人は怖がるどころか逆に私達を手伝ってくれた。そしてそのおかげで予定よりも早くエネルギーが溜まり、彼は無事元の世界に戻る事が出来た。
「懐かしいな。今は何してるんだろう」
彼とはそれ以来まだ一度も会っていないが、別れ際に必ず再開すると約束した。それが何年先になるかわからないけれど、私とあの人は今でもその約束を信じて待っている。
「あっ」
その時、遠くからバスがこちらに向かってきているのが見えた。ついに来た。
バスが目の前で停まり、ドアが開いて中から一人の男の人が出てきた。私の待ち人だ。
「やあ、久しぶり」
「うん、五ヶ月ぶりだね」
私は笑顔で彼を迎えた。
五年前の夏に出会ってから、私達は春先と夏の休みの時に会うようになっていた。彼の住んでいる所がここからずっと遠い所だからこうして会う頻度は少ない。だけど、メールでやりとりはしているからあまり距離は感じていなかった。
「それじゃ行こうか」
「うん」
私達は手をつなぎ、バスが走り去っていった方へと歩き出した。
今日はこれからまだまだ暑くなりそうだ。
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即興小説で作成しました。お題「少女の夏休み」制限時間「30分」