「バトルが足りない」
少女はそういってディスプレイに映る文字の羅列の間に大きく空白を挿入した。
「でも今回の話は戦闘より主人公の成長をメインに描いているから、これ以上書くと長くなりすぎるよ」
「バトルが足りない」
青年の言い分を聞き終えると同時に同じ事を繰り返す。少女は無表情でその気持ちは読み取れない。
「……わかったよ。もう少しこの戦闘を膨らませてみる」
あきらめたようにため息をついて青年がキーボードに手をかけるが、少女はその腕を掴んで止める。
「増量するだけじゃ駄目」
「じゃあ何を入れろって言うのさ」
「………………」
それ以上は何も言葉を発さない。表情は変わっていないものの、青年をじっと見つめる少女からは何かあきれているような雰囲気が出ている。
「はいはい、自分で考えろって事ね。それじゃ一日待って」
「ん」
青年のその回答で納得したのか、少女は掴んでいた手を放してベッドに座り、ベッドの上に放り出されていたゲーム機を手にして電源を入れた。
「さも当然のようにゲームを始めたけどさ、「一日待って」って言ったよね。だから今日はもう帰ってもいいんだよ」
「出来るまでここで待つ」
「お母さんが心配するよ」
「連絡済み。泊まりを快諾してる」
「何度言ってもあの人は君を止めないよね」
もう一度、今度は深くため息をつく。
それ以上は無駄だと判断したらしく、青年はディスプレイの方に向き直ってキーボードを叩く。じわりじわりとあぶり出しのように現れる文字の羅列。
「……前から聞きたかったんだけどさ」
「何」
互いに違う画面から目をそらさず手を休めずに会話する。
「何でそこまでして僕の書く小説に色々意見を出してくれるの。僕が書いているのは女の子向けじゃないよ」
ゲーム機から爆発音が発せられる。ゲームオーバーになってしまったようだ。
「……そこじゃない」
「えっ」
青年は手を止めて少女の方に振り向く。少女の表情が不機嫌そうになっていた。
「何でもない。ただ、君の小説を最初に読みたいだけ」
「でも、さっきも言ったけど女の子向けじゃないから」
「関係ない。君の小説は面白い。君の小説がす……」
言葉が途中で止まった。
「どうしたの」
「………………」
突然、枕が青年の顔に命中する。
「な、何するのさ」
「……馬鹿」
無表情のまま少女は一言、罵倒を口にした。
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