雨が降り出した。朝のニュースで今日はずっと晴れだと言っていた気がしたけれど、今となってはもう覚えていない。
「あーあ……」
私はわざとらしく声を出して空を仰いだ。雲からこぼれてきた無数の水滴が私の顔を叩く。
「意を決して告白しようと思ってたら、これだもんなあ」
数分ほど前、私はこの半年間片思いをしていた男の子に自分の気持ちを伝えようとして彼の教室の前まで訪ねていった。だけど、そこで目にしたのはその男の子がクラスメートと思われる女の子と中が良さそうに腕を組んでいる姿だった。
胸を銃弾が貫いたかのように衝撃的すぎた。気がついたら私は学校の裏門近くまで来ていた。呼吸が乱れている。どうやら全速力で走ったらしい。
「何だか……何……」
言葉が、声が、上手く出てこない。ああ、駄目だ。
私は大声を上げて泣いた。その間にも雨が激しくなり、雨粒が地面を叩く音で私の声がかき消される。
「大丈夫?」
突然声をかけられ、私はビックリして泣くのをやめて声が聞こえた方に振り向いた。雨と涙で少しぼやけて見えるが、そこにいたのは私の友人だった。
「あ……」
「その様子だと、駄目だった?」
「だ、駄目とか、それ以前の問題だった――」
嗚咽で上手く言葉を紡げない状態で、私は彼女にいきさつを説明する。一言一言口にする度に、彼女の顔も暗くなっていく。
「そう、なんだ」
「もうさ、どうすればいいのか、わからないよ」
また涙がこみ上げてくる。いっその事、ここからいなくなりたい。
「……ねえ」
「なに――」
突然、温もりが私を包み込んだ。
「言い方は悪いかもしれないけど、彼のことなんか忘れなよ。あたし、あなたのそんな辛そうな顔を見たくない」
「ちょ、ちょっと?」
何が起こってるの。
「今こんな事を言うのはずるいかもしれない。でも言いたい。ねえ、聞いて」
「な、何」
「私、あなたの事が好き。ライクじゃなくてラブの方」
雷が鳴った、私の中で。
「ちょ、ちょっと待って」
「待たない。もう抑えきれないの」
彼女が私の目を真っ直ぐ見つめる。どうしよう、視線を逸らしたいはずなのに、目が離せない。
「待ってよ。私達、女の子同士――」
「そんなの関係ない。好きな気持ちに性別なんて意味ない」
「だけど……」
どうしよう、こんな事おかしいはずなのに。
私の心臓は十分前のように高鳴っている。
「ねえ、私じゃ駄目? あなたの笑顔を作れない?」
「………………」
どう答えよう。もう少し時間が欲しい。
だけど、私は既に落ち始めている。もしかしたらもう抜け出せないかもしれない。
だったらとことん落ちていこう。その先に何が待っているかはわからないけど、きっと悪くはない。きっと。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
即興小説で作成しました。お題「女同士の奈落」制限時間「30分」