「あ」
とあるビルの屋上で、彼女は思わず声を漏らした。
「外れた……!?」
狙いは外さず必ず命中させることで名の知れた彼女だが、今回ばかりは困難な状況が重なった事によって射撃を失敗してしまった。
まず第一に射撃までの時間が極端に短かった。ターゲットが現れるのはわずかコンマ一秒であり、その瞬間に狙いを定めて矢を放たなければいけない。一瞬でも反応速度が遅れてはいけないという極限状況が判断を誤らせてしまった。
第二にその日は強風が吹き荒れていた。しかも乱立するビルによって風は不規則に乱れ、正確に読むことが出来なかった。
そして第三。
「あんたのせいだからね!」
「ご、ごめん」
先に挙げた二つの状況をクリアできた一瞬の時に、よりにもよってたまたま近くを通りかかった彼に声をかけられた事によって手元が狂ってしまった。
おかげで矢はターゲットをかすめることなく飛んで行ってしまった。
「あーあ、課長に何て言えばいいのやら」
「もう一回やればいいんじゃないか」
彼女は失敗の原因となった彼をにらみつける。
「ダメに決まってるじゃない。このタイミングを逃したせいであの二人は結ばれないわ」
「もう二度とチャンスは来ないのか」
「一期一会。もっとも、あの二人が歴史に多大な影響を与える人物じゃなかったのが不幸中の幸いかしら」
彼女は大きくため息をついた後、背中の翼を羽ばたかせて上空へと飛び立った。
「ほら、あんたも来るのよ。こうなった以上、一蓮托生だからね」
「はいはい、すみませんでした」
彼も同じ様に翼を広げ、空中へと飛び上がる。
彼女の名は『キューピッド』。アカシックレコードという名の脚本に従って男女を結びつける役割を担っている天使だ。
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即興小説で作成しました。お題「失敗の狙撃手」制限時間「30分」