皆さんこんにちは、蒼です。っていうかそんなこと言うよりもありえない光景に春蘭達と合流して見ているんだが。ありえないモンを見ている。
義勇軍がいる。まあ、それはいい。春蘭達はそいつ等の戦いに助太刀してたんだから。終わった直後だし、戦場近くに陣取るのは分かる。
『劉』の旗がある……うん。いいよ。予感、というか確信的に、ここに劉備達がいる、しかも大将が劉備だってわかる。 黄巾党との戦いの内に会うんじゃないかななんて考えていたけど、本腰入れた時にすぐに会うとは思わなかった。ま、会えば華琳の奴は更に気合を入れるだろうし、いいことだと思うよ。うん。
『劉』の旗の隣に『十字紋』の旗がある……ってふざけんじゃね―――!!なんであの旗がこんな時(時代)、こんな場所(中国)にあるんだよ!!ヤバい、何がっていうか色々ヤバい。今までは中国の人間だけだから変なセリフなんか吐かずに、ボロを出さず、皆にも怪しまれていない。けど、中身は日本人だ。ナニカの切欠っていうかこれがきっかけでボロを出して、周りから怪しまれたら今までの苦労(横文字を使わないとか)が全部台無しになってしまう。
それに『十字紋』っていったら島津だぞ。俺と同じように転生、または飛ばされてきたか?それに、飛んできたのがあの『妖怪 首置いてけ(島津 豊久)』だったら……駄目だ想像するだけで背筋が凍る。
……ふう、とにかく落ち着け。根拠のない予測で思考を全て使うな。今、あの旗があるっていうことはだ……
・あそこには日本人がいる。
・そして、この時代(三国志)の流れを知っている。
・島津にゆかりのある者である。(おそらく非凡の才を持つもの)
・そしてそいつは劉備と行動を共にしている。
今すぐに出てくる中で特に二番目と四番目が問題だな。(個人的には全部アウトだが)俺達のアドバンテージの未来の情報って言うのが潰された。それに俺のように飛ばされてきてから当たり前の対策を講じてきた元パンピーじゃなく、武家とかになると史書をもとに策略を練ったりするから、対処法とかも考えてあるだろう。逆にアドバンテージを取られたことになる。
はっきり言うと厳しい。例えるなら相手はイカサマを使えて、此方は使えない博打。
「蒼さん、聞いてますか?」
「あ、ああ。すまない桂花。もう一度言ってくれ」
「もう、しっかりしてください。
後軍、到着しました。行軍中に何も問題は無し。
一応、戦の後処理の準備もしていますが。どうしますか?」
「うーん、一応すぐに取り掛かれるように待機させといてくれ。
もともとこの戦いはあの義勇軍の物だし、いきなり、正規の軍が我が物顔で仕切るのも華琳が認めないだろう」
「はい、わかりました」
「あ、そうだ桂花」
「あ、はい。なんですか?」
「ありがとな」
「え、えーと。話が見えないんですけど……というか、これはあのメスタヌキより一歩先んじた!?華琳様ならともかくそれ以外には負けないと思っていた努力が今結晶に!!
……スイマセン、今のは忘れてください」
「お、おう」
桂花のおかげで悩みが少し解決したから礼を言っただけなんだがな。なんか暴走した、まあ、すぐに正気に戻ったからいいか。
しっかりしなきゃいけない。未来を知っているのは俺も同じだ。それに下地も作ってる。少なくとも俺ほど下地を作れるほどの年月はいないだろう。そこは俺のアドバンテージだ。
思考を止めるな。最悪の事態を想定し、その中から最高とは言わないが最良の結果を導きだす。何時も俺が意識していることも今回も行うだけ、それしか俺は華琳に貢献できないのだから。それに、そいつに対処出来るのは俺しかいない。
そう思いながら、後軍の報告をするために華琳のもとに向かった。
SIDE 華琳
「春蘭、ご苦労様。秋蘭、部隊の被害はどうかしら?」
「は、死傷者はなしです。負傷者は軽傷を合わせても百少々といったところで、被害は軽微です」
「そう、春蘭、あなたの目から見て、義勇軍の者達をどう見たのかしら?」
前軍の被害の少なさに安堵しながらも、気になる義勇軍のことについて尋ねる。
「は、義勇軍の中に腕の立つ武芸者を見ました。おそらくその者達が中心となっているのでしょう」
へえ、春蘭が認めるほどの腕ということね。楽しみだわ。
「それに、伏兵を出す時も最も効果がでる時に出しているので恐らく軍師の役割を担ってる人物もいるのでしょう。それにより、練度が低い義勇兵でしたが、しっかりとまとまっていました」
春蘭の言葉に重ねるように秋蘭も自分の見解を述べる。
彼女たちが認めるほどの才を持つ者がいる義勇軍。面白いわね。
「誰かあるか」
「は」
「もうすぐ蒼が戻ってきたら、義勇軍の所に向かったから直ぐに来なさい。と伝えて頂戴」
「御意」
蒼が戻るまで待とうかと思ったけど、我慢できそうにないわ。どうせすぐに来ると思うし、先に行かせてもらうわ。
「春蘭、秋蘭、義勇軍の所に向かうわよ」
「は」
義勇軍の陣に立てられている二つの旗、その一つに『劉』の文字がある。予感だけど、蒼の言っていたあの劉備かもしれない。
面白い。見せてもらおうかしら、私よりも天に愛されているかもしれない、仁徳の相を持つ者というのを。
「そうですね。あと……一点だけ分かっているのは、自分にも他者にも、誇りを求めるということ……」
「誇り?誇りってどういう?」
「誇りとは天へと示す己の存在意義。誇り泣き人物は、例えそれが有能なものであれ、人としては下品の下品。そのような下郎はわが覇道には必要なし。
……そういうことよ」
目の前から聞こえてくる、私にとっての『誇り』の価値観について答えながら、義勇軍の中心となっている者達を見回す。
なかなか面白い人材がそろっているじゃない。それにしっかりと『誇り』を持ってこの乱世に臨もうとしているように感じられる。
「ほわっ!?びっくりしたっ!?」
「誰だ貴様!?」
「控えろ下郎!この御方こそ、我らの盟主、曹孟徳様だ!」
そう怒鳴る春蘭を手で抑える。
蒼の言った通りなら、恐らくあの驚いたのが劉備なんでしょうね。蒼に印象を聞いたら、「抜けてる」って言ってたけど本当にそのようね。
それにしてもその劉備の隣にいる男は誰なのかしら?見慣れない服を着込んでいるようだけど……
「そ、曹操さんっ!?え、でも、ついさっき呼びに行ってもらったばかりなのに……」
「他者の決定を待ってから動くだけの人間が、この乱れた世の中で生き延びられると思っているのかしら?」
そう、この世の中は力を持つ者が上に立ち、更にそれを効率的に、より早く使える者がその中心に君臨出来る。
それに、ウチの速さに重点を置く人間を見れば、より速さの大事さを思い知らされるしね。
「……俺たちが君と会うことを選ぶって、分かっていたってことか」
「寡兵なれど、戦場を俯瞰して戦略的に動ける部隊ならば、大軍を率いて現れた不確定要素を放置しておける訳は無い。……ただそれがわかっていただけよ」
私の言葉を聞いているだけの劉備たち。
ここは彼女たちの陣だけど、主導権はこっちが握れた。
「改めて名乗りましょう。我が名は曹操。官軍に請われ、黄巾党を征伐するために軍を率いている者よ」
「こ、こんにちは。私は劉備って言います」
「劉備。……良い名ね。あなたがこの軍を率いていたの?」
予想どおり彼女が劉備で、間違いはないようね。
蒼から聞いていたのを悟られないように今知ったかのように会話をする。会話の主導権をわざわざあっちに渡すこともないし、名も売れていない貴女を意識しているなんていうのも知られたくない。
それにしても、蒼との賭けで培ってきたおかげなのか、相手に表情を読まれるなんていうことはなかったようね。劉備や正体のわからない男はともかく、後ろで控えている者達は武では春蘭や蒼にも劣らず、文では桂花や森羅に匹敵するほどの者が揃っているように感じられる。うかつに隙なんて見せたらバレてしまうかもしれないしね。
「それはその……私が率いていたのじゃなくて、私たちのご主人様が……」
「ご主人様?」
「俺がそれ。……北郷一刀。宜しく」
そう言いながら差し出された手を無視する。
自分をご主人様呼ばわりさせてる人間なんかにロクなやつがいたことなんて数少ない。
それに見る限り、あまりその呼び方をしてほしくないみたいだけど、それならしっかりとその意思を持って伝えたのかしら?
おそらく流れに流されて、その呼び名が定着してしまったように見える。正直、自ら望んでそう呼ばれるよりもたちが悪い。
比較するようで悪いけど、アイツならその呼び方を断って……最悪折衷案を提示してでも止める。実際に凪達に様付けはやめてほしいと言っていたしね。
それより……
「北郷一刀……聞いたことのある名前ね」
「そりゃそうですよー。ご主人様は最近噂の天の御使いなんだもん♪」
「天の御使い……ああ、あのつまらない噂のことね。まさかあの与太話が本当のことだと、そう言い張りたいのかしら?」
「さて。天の御使いだって証明するために何が必要か分からない以上、それは結局自称ってことだろうし。
信じてくれる人にだけ信じてもらえればいいから、本物だーなんて言い張るつもりは無いさ」
「貴様!華琳様に何という口の聞き方を!」
「やめなさい春蘭」
「良いの。この男の言うことも尤もよ。
本物と証明する術がない以上、それを信じるか信じないかはそれぞれが考えること……」
そう、証明したいのであれば実力で示すのがこの時代で一番確実な方法、それはちゃんとわかっているようね。
「俺だけの力じゃない。皆の力があってこそ、部隊を率いることが出来たってだけさ」
「へぇ……」
しっかりと、自分の立場、能力を判断してるってことかしら。
「……俺の顔に何かついてる?」
「別に。取り立てて特筆すべきところのない顔だと思ったまでよ」
ええ、自分をしっかりと理解し、行動している人間として認識しただけ。
「で、これから曹操はどうするんだ?まさかさっきの戦闘が目的ってわけじゃないようだけど……」
「あら、勿論じゃない。これは貴方たちが行い、貴方たちが勝った戦。私たちはそれの手伝いをしただけ。
私は他の官軍と違って、そんな意地汚い真似は嫌いなの」
「そっか、ならよかった。
で、曹操はこの先にある、砦を落とすつもり。でいいのか?」
あら、視野も広いようね。
ただ、そんな話をしたいわけじゃなさそうね。なにか目的がある。それを自分で考えてやっているのかそれとも助言されて……か。
「ええ、その通りよ」
「けど、それってかなり厳しい戦いになるんじゃない?」
「黄巾党如き雑兵が我らに適うはずは無かろう!華琳様の忠実な兵士たちを見損なうな!」
「えーっと……」
「夏候惇よ。そしてこっちが夏侯淵。愛しい従姉妹にして、信頼する部下よ」
「なら夏候惇さんに一言申し上げる。……戦いって観念だけでやってたら必ず負けるよ?」
「な……………なにぃぃーーーーーっ!」
「春蘭!落ち着きなさい。みっともない」
「うっ……で、でも華琳様ぁ~……」
「北郷の言うことももっともなことよ。……」
そう、観念だけじゃ勝てる戦も勝てない。
けど……
「その通り、残念ながら、観念だけじゃ勝てない。
だが、強い観念を持った者ほど、勝利に近づける。
ま、そこら辺の機微はお前の場合、感覚で分かってるだろうからいいんだろうけどな。
だから、あんまり気にすんなってことだよ春蘭。
って、華琳が言いそうなことを全部言ってしまったが、話に入ってすまない。続けてくれ」
「あら、遅かったわね。自称『最速』の二つ名は返上。ということかしら?」
「後軍の報告をしに行ったらこっちに来いという伝言だけ残してとっとと行っちまう主君には言われたくねえよ。
後、自称は外せ」
私の言おうとすることを先に言った蒼が面倒臭そうな、そしてどこか安心したような顔でそこに立っていた。
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