キリト視点
?「・・君・・・リト君・・・キリト君ってば・・・ねえ起きてよ!!キリト君!!」
悲鳴にも似た叫び声に、俺は意識を呼び戻された。
頭を貫く痛みに顔をしかめながら上体を起こす。
キリト「いててて・・・」
見渡すと、そこは先ほどのボス部屋だった。
目の前に、ぺたりとしゃがみこんだアスナの顔があった。
泣き出す寸前のような表情をしている。
アスナ「バカ・・・!!無茶して・・・!」
アスナは叫ぶと同時に俺の首にしがみついてきた。
俺は驚愕のあまり目を白黒させてから冗談めかして言った。
キリト「あんまり締め付けると、俺のHPがなくなるぞ・・・」
するとアスナは真剣に怒った顔をした。
直後、小さな瓶が飛んできて俺の口に突っ込まれる。
流れ込んできた、緑茶にレモンジュースを混ぜたような味の液体は
間違いなく回復用のハイ・ポーションだ。
投げてきたのはデュオらしく、投げた体勢のまま少し笑みを浮かべると
すぐに体勢を戻して顔をそらした。
アスナは俺がポーションを飲み干したのを確認すると表情を隠すように俺の肩に額を当てた。
そこにクラインが近づいてきて、遠慮がちに言った。
クライン「生き残った軍の連中の回復は済ませたが、コーバッツとあと2人死んだ・・・」
キリト「・・・そうか。ボス攻略で犠牲者が出たのは、六十七層以来だな・・・」
クライン「こんなのが攻略って言えるのかよ!?コーバッツのバカ野郎が!!死んじゃ何にもならねえだろうが!!」
吐き出すように怒鳴るクライン。
クライン「そりゃあそうと、おめえら何だよさっきのは!?」
クラインの言葉に俺とデュオは顔を見合わせた後、苦笑して言った。
デュオ「やっぱ・・・」
キリト「・・・言わなきゃダメか?」
クライン「ったりめえだ!見たことねえぞあんなの!!」
気付くと、アスナとデュオ以外の全員が沈黙している。
キリト「・・・エクストラスキルだよ。【二刀流】。」
デュオ「同じく【スタイルチェンジ】。」
プレイヤー一同(アスナ&デュオ以外)『おお・・・!!』
クライン「二刀流やスタイルチェンジなんて、今まで来たこともねえ。ユニークスキルってやつだな。」
キリト「たぶん・・・」
デュオ「だろうな・・・」
クライン「ったく、水臭ぇな2人とも。そんなすげえ裏技黙ってるなんてよう。」
キリト「スキルの出し方さえ解ってりゃ、もう公開してる。」
デュオ「右に同じ。こんなレアスキル持ってるなんて事が知られたら、いろいろ面倒なことになるからな。」
クライン「ネットゲーマーは嫉妬深いからな。俺は人間ができてるからともかく、妬み嫉みはそりゃああるだろうな。それに・・・」
クラインはそこで言葉を切ると、アスナの事を見てにやりと笑う。
クライン「・・・まあ、苦労も修行のうちと思って頑張りたまえ、若者よ。」
キリト「勝手なことを・・・」
デュオ「まったくだ。何言ってんだよ。」
そんなやり取りをしていると、軍のメンバーの一人がこちらに近づいてきた。
隊員「あ、あの・・・ありがとうございました・・・」
クライン「お前たち、本部まで戻れるか?」
隊員「は、はい!」
まだ十代とおぼしき軍の隊員は、クラインの言葉に頷く。
クライン「よし。今日あったことを上にしっかり伝えるんだ。二度とこういう無謀な真似はしないようにな。」
隊員「はい。」
隊員は返事をすると、他の隊員たちのいる場所に戻った。
軍の連中は全員でこちらに頭を下げる。
軍一同『ありがとうございました。』
そして部屋の外に出ると、転移結晶で軍の本部がある、始まりの街に戻っていった。
クライン「俺たちはこのまま七十五層の転移門をアクティベートして行くけど、お前らはどうする。今日の立役者だし、どっちかがやるか?」
デュオ「俺はパス。もう疲れたし、家に戻る。」
クライン「そうか。キリトお前は?」
キリト「俺も遠慮しておくよ。」
クライン「そうか。・・・気をつけて帰れよ。」
クラインは最後にそれだけ言うと、仲間と一緒に先に進んで行ってしまった。
デュオ「さてと、俺も帰るか。」
デュオはそう言って立ち上がると、部屋の外まで歩いていき、転移結晶を取り出した。
デュオ「転移!コラル!」
デュオが叫ぶと、青いライトエフェクトが発生して、デュオは消えた。
デュオがいなくなると、ボス部屋には俺とアスナの二人っきりになった。
まだ俺の肩に頭を乗せたままのアスナに声をかける。
キリト「おい・・・アスナ・・・」
アスナ「・・・怖かった・・・キリト君が死んじゃったらどうしようかと思った・・・」
キリト「・・・何言ってんだ、先に突っ込んでいったのはそっちだろう。」
俺はそっとアスナの背に両腕を回した。
その途端、深い吐息を洩らしてアスナが俺に上体を預けてきた。
支えきれず、床に仰向けに倒れてしまう。
俺の上に乗る格好になったアスナは、そのまま全身を絡ませるように、しっかり抱きついてきた。
キリト「あんまり派手にやるとハラスメントフラグが立つぞ・・・」
アスナ「・・・いいよ。・・・そんなのどうでも・・・」
無論、それには大いに賛成だ。
俺たちは長い時間床の上で、お互いの体の感触を確かめ合った。
たとえ、データでできた擬似的な体だとしても、命の暖かさは本物だとそう思えた。
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キリトとアスナのふれあい。