No.499195

いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した

たかBさん

第七十六話 俺に対する愛情が見事なまでに正反対な親子だな、おい!

2012-10-22 21:09:05 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6870   閲覧ユーザー数:6173

 第七十六話 俺に対する愛情が見事なまでに正反対な親子だなおい!

 

 

 

 寒さもさらに増してきた一月の中旬に私はアースラ内に設置された仮想空間で模擬戦を行っていた。

 

 「紫電…一閃!」

 

 ズガァンッ!

 

 赤い火花を散らしながら、私はレヴァンティンを振り降ろす。

 その切っ先には黄色と黒の鎧を纏った獅子がいる。

 通常の斬撃による攻撃では彼に傷をつけることが出来ない。

 『傷だらけの獅子』にはなんという皮肉か。

 

 「ガァアアア!」

 

 それでもこのようにカートリッジを使えば傷をつけることが出来る。その上、距離も取れる。

 しかし、彼も黙っているはずがない。というよりも彼は突撃しかしてこない。

 使える武装が近接武装のみに設定されているせいか、突撃以外に彼が私と戦うすべがない。

 まあ、それも承知の上で私も彼と模擬戦をしているのだがな…。

 

 「チェインデカッター!」

 

 ギャアアアアアンッ。

 

 彼の両腕に持った電動ノコギリが私の体を掠めていく際に感じた風切音と稼働音がその攻撃力を物語っているが、当たらなければどうという事もない。

 

 「はっ!」

 

 ガァンッ。

 

 私はレヴァンティンの鞘で彼の膝の裏を叩き姿勢を崩す。

 姿勢を崩しているところに足でけり倒しながらも彼を地面に押し付ける。

 

「…ぐっ?!」

 

 彼は自分が倒されたという事に気が付き、立ち上がろうとする。

 力が強い彼に自分の足で押さえつけるとしても二秒も持たないだろう。だが!

 

 「貫け!隼!」

 

 [シュツルムファルケン!]

 

 超至近距離からの私の最大出力を受けても無事でいられるか!

 

 

 …ズズンッ。

 

 仮想空間に響く衝撃音が控室にいた私達の方にも感じられた。

 

 「…容赦ねえな。シグナム」

 

 「確かにやりすぎかとは思いますけど…。あれぐらいしないとガンレオンの装甲を打ち破れませんよ」

 

 「…にゃー、お兄ちゃん。また負けた~」

 

 控室に映し出された映像にはシグナムに背中を押さえつけられるように踏みつけられた高志がいた。

 ガンレオンもダメージが設定以上のものを受けた所為か解除されていた。

 

 「…これで、高志君は全戦全敗か」

 

 守護騎士。なのは、フェイト、クロノ、ユーノにアルフ。

 今まで戦ってきた皆と模擬戦をしてきた高志だが、誰一人に勝つこともなかった。

 アリシア。いや、スフィア無しというハンデもあるが、それは他の皆も同じ。

 飛行魔法を使わないという条件下で戦ったということ。

 

 「「………」」

 

 それを見ていたフェイトとリインフォースははやての言葉を聞いて肩を落としていた。

 彼は自分達を助けてくれた存在だ。だから…。誰か一人ぐらいには勝つんじゃないかと思っていた。

 

 「アサキムが言っていたことはこういう事だったのか。あいつが弱い。ってこと?」

 

 「『傷だらけの獅子』。弱いから傷つく。そして、傷つくからこそ強くなる」

 

 「…相手が彼女だからという事もあるけど、みんな何か忘れていない?」

 

 ヴィータとザフィーラの見解を後ろから付け加える人がいた。

 

 「あの子の魔力はCランク。ガンレオンがいくら高性能だからとはいっても彼は普通の人間に魔力とスフィアを足したような人間よ。貴方達と違って戦いの才能を持って生まれてきたわけじゃないの」

 

 プレシアはシグナムの背中に運ばれていく高志の映像を見ながら言葉をつなげる。

 

 「何かあれば、簡単に心は揺れる。大切なモノが傷つけば冷静でいなくなる。…心も体も本当に弱いわ」

 

 「母さんっ。…でも、高志は…」

 

 「そうだ、我々を救ってくれたんだ!私達を獅子の力を使って…」

 

 リインフォースとフェイトがプレシアの意見に反論するが、次の言葉が出なくなった。

 『獅子の力』。マグナモード。

 あの鈍重なガンレオンを超高速で飛行可能にし、さらに攻撃力を大幅に底上げする。

 超ブースト状態。それがあれば高志はここにいる誰にも負けないだろう。

 だが、無い状態だとご覧の様という訳だ。

 

 「…プレシア。あなたの言いたいことはわかる。だが、彼やリインフォースと同じスフィアリアクターに対抗するには高志の持つ力が必ず必要になる。『獅子の力』が」

 

 なのは達の傍で同じように観戦していたクロノが言う。

 

 「今日、グレアム提督と一緒に来られるカリム・グラシア。彼女は未来を見通すことの出来るレアスキル持ちだ。そして…。アサキムが協会に襲撃の際に予見した。そして、アサキム自身も言っていた『偽りの黒羊』の襲来。それについても新たな話があるんだ」

 

 「新たな脅威に怖気づいたの?管理局員さん。だからといって私はフェイトやあの子まで巻き込むという事には反対よ」

 

 「………」

 

 「…だが。同じスフィアリアクターにはスフィアリアクターでいった方がいい。もし、『偽りの黒羊』が現れるのなら」

 

 「あなた達だけであたって欲しいわね」

 

 「お母さん!私達で何とかできるのなら何とかしてあげようよ!」

 

 プレシアの冷たい態度にアリシアが怒り出すが、珍しくプレシアは冷静に言い返す。

 

 「私はもう、あの子やアリシアにスフィアの力を使わないで欲しいだけよ…」

 

 今から一週間前に管理局側から連絡を受けた彼女は少しだけ思い立ったことがある。

 それを確かめるために高志に全員と模擬戦をするように言った。

 一日に何人も相手を出来るのではないので一日に二人ずつやらせてみた。そして、わかった。

 もし、『偽りの黒羊』と会合することになれば高志はマグナモードを使わざるをえない。

 

 「…すまない。できることならタカには戦ってほしくない。彼が獅子の力を使えば使うほどアサキムに狙われる確率が上がるだろう。もしかしたらまだ表れていない他のスフィアリアクターにも」

 

 ただでさえ『揺れる天秤』を封印したとはいえ、高志は二つもスフィアを有している。

 その可能性は十分にあるのだ。

 

 「だったら!」

 

 「それでも!…それでも僕たちは高志に頼らないでスフィアリアクターに戦うほど強いくないんだ!」

 

 リインフォースは未だに闇の書事件以降、弱まりつつある。彼女に『悲しみの乙女』の力を使ってもらってもアサキムに勝てるかどうか…。

 

 「…お母さん。…心配してくれてありがとう。…でも、さ。結局は私とお兄ちゃんは狙われるならみんなと一緒に戦った方がいいよ」

 

 「…アリシア」

 

 プレシアはもう魔法が使えない。

 魔力の核たるリンカーコアを失っている。だからこそ、戦うことのできない自分が悔しいのである。自分が出来ることは高志やアリシアを守ってくれるガンレオンの整備しかないから…。

 

 「だ、大丈夫ですよ、プレシアさん。『偽りの黒羊』の人が来ても高志君みたいに戦うのが嫌な人かもしれないし…」

 

 「…悪いのだけれどなのはさん。今回に限って『偽りの黒羊』のリアクターに限ってそれはないと思うわ。そのスフィアを持つ人は『自分の本当のことを相手に伝えることが出来なくなる』という障害があるから…」

 

 「っ!」

 

 『偽りの黒羊の力』は一時的に本当を嘘に。嘘を本当に変える、荒唐無稽な力。

 その代償は自分の心が分からなくなる事。

 そして、スフィアリアクターであるからその力を使えばリインフォースや高志のように戦闘能力を一気に増大させる力を持つだろう。

 

 「相手が平和好きでも戦闘をしてしまう。本当のことを言えなくなってしまう。だから、戦いは避けられない、わ…」

 

 自分の意志とは逆の方向で行動してしまうかもしれない。言動をするかもしれない。何が本当で嘘なのかも…。

 

 「まったくっ、そんなにスフィアが欲しいなら欲しい者同士だけで!アサキムと戦い合えばいいのによ!」

 

 「…まだ決まったわけじゃないんだろうけどね」

 

 「…『偽りの黒羊』と戦う日は近いという事か、執務官殿?」

 

 ヴィータは毒づき、シャマルは出来る限りの好転を望みながらも諦めを滲ませ、ザフィーラはいずれ来るだろう戦いを確認するためにクロノに尋ねる。

 

 「それに関しての報告でもある。…グレアム提督が言うには、その予言者。君達守護騎士の新たな後継人が明日こちらにやってくる。その時にリインフォースと高志。そして、アリシアの事を相談したいんだ。勿論内密にだ。スフィアの力は管理局でも危険視されているからね」

 

 「…リインフォースは。私の家族達はどうなるんや?」

 

 「一応、彼女とグレアム提督の保護。という名目で君と一緒にいられるだろう。…ただ、スフィアに関しては何とも言えないな。高志のガンレオンのデータは渡して以降、あちらからの彼に関しての連絡が無いんだ。一応、母さ。いや、艦長に任せているようだけど…」

 

 「…そっか」

 

 (彼女に任せている間は平気みたいね。…でも、少し怪しいわね。リインフォースの事も把握しているなら彼女のスフィアも関知しているはず。それに高志の事も…。私の存在自体も関知しているのに何もしてこないのは逆に不気味ね)

 

 管理局に務めていたことがあるプレシアだからこそ、管理局の上層部の動きが無い事に不気味さを感じていた。

 

 「今、戻ったぞ」

 

 「…んあ?俺の意識が?」

 

 そんなことを考えているとシグナムに背負われた高志が控室にやって来た。

 扉を開けると同時に目が覚めたのか高志の方は未だにボーっとしている。

 

 「空中戦ではなく、地上で戦うのもいいな。体全体の力を地面を踏みしめながら使う。特に体捌きは必須だな」

 

 「…う~。…そっか、また負けたのか。…はぁ~」

 

 高志はシグナムの背中から降りながらもため息をついて備え付けのソファーに寄り掛かる。座るというよりももたれかかるという形で。

 

 「お疲れ、お兄ちゃん。口移しでスポーツドリンク飲ませてあげようか?…フェイトが」

 

 「て、私なの?!く、口移しなんかしないよ!…で、でも水は飲ませてあげるよ」

 

 アリシアの発言に顔を真っ赤にさせて慌てるフェイト。

 

 「無様だったわね」

 

 「俺に対する愛情が見事なまでに正反対な親子だな、おい!」

 

 プレシアのきつい一言に高志はツッコミを入れる。

 いつもの日常の風景を形成していく。

 だが、その水面下で少しずつ、だけど着実に戦いの日は迫っていた。

 

 

 おまけ。模擬戦前での出来事。

 

 「…それにしても。あのおみくじは本当によく当たる」

 

 「なんや、シグナム。そんなに高志君と戦えてうれしいんか?」

 

 「俺はここ一週間模擬戦続きなんだけど…。プレシア、何考えているの?」

 

 控室の中で早く到着したはやてとシグナムさん。そして俺の三人は控室で仮想空間の準備が出来るまで少しの間だが話し合いをしていた。

 

 「…おみくじ?そういえば、シグナムも大吉やったね」

 

 「はい。勝負運は最高とありました。テスタロッサやスクライア。高町のようにスピードやテクニック、砲撃など様々な相手と戦える。それが楽しくて仕方がありません」

 

 …シグナムさんはバトルマニアなのだろうか?

 でも、まあ分からないでもないかな。俺も新しいスパロボシリーズのソフトがあったら買うし…。似たようなもの?

 

 「うちは周りの皆と協力すれば吉。と書かれとったな。高志君は?」

 

 ほう?それを聞くかい若者よ?

 

 「主はやて。沢は確か…」

 

 「せや、凶。やったな。だけどあんなにツッコミだらけのおみくじや。さぞツッコミがいのあることが書かれていたに違いないで!」

 

 「…まあ、確かに書かれていたけどさ」

 

 「話したくなければ無理に言わせなくても…」

 

 シグナムさんは俺を気遣うようにはやてを諌めようとするがはやての方は一歩も引かない。

 確かにお前の読み通りツッコミ。いや、叫んじまうようなことが書いてあったよ。

 

 「…くだ」

 

 「ん?なんや小さくて聞こえへんのやけど?」

 

 「可は無く不可しかなくだ」

 

 「どこか変か?」

 

 「ん?可は無く不可しかしかなく?」

 

 そう。

 可もなく不可もなく。ではない。

 可が無い!でも不可はあるんだよ!

 ピュア不可能!可能性なんて混じりっけ無しだよ!

 

 「…なんというか、その」

 

 「あっはっは、晴れ男ならぬ不可能男やね♪」

 

 はやては笑いながら俺にサムスアップしてくる。

 

 「笑うなぁああああ!」

 

 ちくしょおおおっ!

 

 ずっと負け続きだけど今度は絶対に勝つ!不可能男なんて言わせない!

 さすが『傷だらけの獅子』だと言わせてやる!

 

 現『傷だらけの獅子』!

 沢高志はここにいるぜぇええええ!

 

 


 
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